にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 207回の改訂 最終更新: 2024.05.29

乳がんのホルモン療法②:薬剤の詳細解説

乳がん治療における内分泌療法(ホルモン療法)は、乳がんが女性ホルモンであるエストロゲンの影響により増殖することに着目した治療法です。 

ホルモン療法は、薬剤によりエストロゲンの産生を抑えたり、エストロゲンが作用する受容体を阻害することなどによって、乳がん細胞の増殖を抑える治療法です。ここでは乳がん治療における内分泌療法で使われる主な薬について解説します。

女性ホルモンのエストロゲンは乳がんを進行させる作用があります。エストロゲンはエストロゲン受容体に結合することでその作用を現します。抗エストロゲン薬はエストロゲン受容体への阻害作用によりエストロゲンの作用を抑えることで抗腫瘍効果を現す薬です。

タモキシフェン(商品名:ノルバデックス®など)は乳がん治療において広く使われている内服薬(飲み薬)で、閉経前・閉経後どちらの乳がんに対しても使える抗エストロゲン薬です。タモキシフェンは乳がん細胞のエストロゲン受容体に結合することで、抗エストロゲン作用を現します。タモキシフェンは閉経前のホルモン受容体陽性乳がん(エストロゲンの刺激によって増殖する乳がん)に対する術後ホルモン療法における5年間投与などの有用性が確認されています。

トレミフェン(商品名:フェアストン®など)も乳がんに対して使われることがある内服の抗エストロゲン薬で、タモキシフェン同様、エストロゲン受容体に結合することで抗エストロゲン作用を現します。トレミフェンは主に閉経後やホルモン療法後に再発した乳がんの選択肢になっています。

タモキシフェンやトレミフェンで注意すべき副作用は、血栓塞栓症や静脈炎、ほてり・発汗・体重変動などの更年期症状、不眠や抑うつ状態、子宮筋腫などです。副作用の多くはエストロゲンに関係するものと考えられます。タモキシフェンやトレミフェンは乳腺では抗エストロゲン作用をあらわしますが、子宮内膜や骨ではエストロゲンのような作用をあらわします。そのため乳がんに対して効果がある一方で子宮体がんなどへの影響を考慮する必要があります。
治療中に子宮体がん発症する確率は一般的に非常に低いとされていますが、治療期間が長期に渡る際には定期的な検診を行い、治療中に性器からの不正出血があった場合などは婦人科を受診するなど適切に対処することが大切です。
その他、無顆粒球症白血球減少や血小板減少、肝機能障害などにも注意が必要です。

フルベストラント(商品名:フェソロデックス®)はタモキシフェンやトレミフェンとは少し異なる仕組みで抗エストロゲン作用を現す薬剤です。この薬は乳がん細胞のエストロゲン受容体をダウンレギュレーション(主にエストロゲン受容体を分解)させることにより抗腫瘍効果を現します。またタモキシフェンとトレミフェンが内服薬(飲み薬)なのに対してフルベストラントは注射剤(筋肉内投与)である点も異なります。注射投与のスケジュールは通常、最初の1か月は2週ごと投与(初回・2週後・4週後投与)し、その後は4週ごとの投与を繰り返していきます。
注意すべき副作用はほてりなどの血管障害、血栓塞栓症、肝機能障害などです。またフルベストラントはその作用の仕組みなどからタモキシフェンやトレミフェンに比べ子宮内膜などへの影響は少ないとされる一方で注射部位反応(硬結、疼痛、出血など)などに注意が必要です。

女性ホルモンのエストロゲンは乳がんを進行・増悪(悪化)させます。エストロゲンが作られるしくみは、閉経後の女性では、男性ホルモンであるアンドロゲンを変換してエストロゲンにする過程が主となります。
この過程においてアンドロゲンをエストロゲンへ変換させるのがアロマターゼという酵素です。
アロマターゼ阻害薬はアンドロゲンからエストロゲンへの変換を抑え閉経後の乳がんの進行・増悪を抑える作用を現します。

アロマターゼ阻害薬は化学構造などの違いにより、非ステロイド性(アナストロゾール、レトロゾールなど)とステロイド性(エキセメスタン)に分かれ、病態などに合わせて選択されます。
閉経後ホルモン受容体陽性乳がん(エストロゲンの刺激によって増殖する乳がん)の術後ホルモン療法としてアロマターゼ阻害薬を5年投与する治療法や、抗エストロゲン薬のタモキシフェンを2年ほど投与したあとでアロマターゼ阻害薬へ変更し計5年投与する治療法などが行われています。

アロマターゼ阻害薬の注意すべき副作用として関節痛、骨粗鬆症、心血管系障害、血中コレステロール増加(脂質異常症)、肝機能障害などがあります。薬剤によっても頻度などが異なりますが、関節の痛みや体のこわばり感はないかなどを確認しつつ、症状に変化がある場合は医師や薬剤師などに相談することが大切です。
また骨粗鬆症に対しては骨を丈夫にする薬剤(カルシウム製剤ビタミンD製剤ビスホスホネート製剤など)が併用される場合もありますが、例えば日頃から定期的で適度な運動を行う、転倒(骨折)予防のため踵(かかと)の低い靴を選ぶなど日常生活を送る中での対策も大切です。

LH-RHアゴニストが乳がんに効く仕組みを説明するには、まずエストロゲンなどの性ホルモンがどのように分泌されているかを説明する必要があります。
脳の視床下部(ししょうかぶ)から放出されるホルモンの一つにGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)があります。GnRHは下垂体前葉(かすいたい・ぜんよう)のGnRH受容体と結合することで、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)といった性腺刺激ホルモンの分泌を促します。閉経前の女性ではFSHは卵巣へ作用し卵胞ホルモンであるエストロゲンの分泌を促します。

「アゴニスト」とは、「受容体と結合し、生体内物質と同様の細胞内情報伝達系を作動させる薬」という意味です。LH-RHアゴニスト(GnRHアゴニスト)はGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)と同様にGnRH受容体と結合することで作用を現します。

エストロゲンは乳がんを進行・増悪させます。一見するとLH-RHアゴニストはエストロゲンの分泌を促しかえって乳がんを悪化させるようにも考えられます。実際に初回投与の直後は性腺刺激ホルモンの分泌亢進(増加)により、一時的にエストロゲン分泌が亢進することも考えられますが、その後はエストロゲン分泌が抑制されます。これは持続的なLH-RHアゴニストの作用により、GnRH受容体がダウンレギュレーションされるからです。ダウンレギュレーションとは、GnRH受容体の脱感作(反応性の低下)や受容体数の減少を引き起こすことを指します。結果として卵巣からのエストロゲン分泌が抑えられることで治療効果が現れます。
乳がん治療におけるLH-RHアゴニストは主に閉経前乳がんにおける治療の選択肢となっています。

LH-RHアゴニスト製剤は持続時間の違いから3つのタイプに分かれます。

  • 1か月製剤(商品名:ゾラデックス®3.6mgデポ、リュープリン®注射用3.75mgなど)
  • 3か月製剤(商品名:ゾラデックス®LA10.8mgデポ、リュープリン®SR注射用キット11.25mg)
  • 6か月製剤(商品名:リュープリン®PRO注射用キット22.5mg)

製剤の選択は病態などによっても変わってきます。またLH-RHアゴニストの使用中は月経が止まりますが、中止すると多くの場合、月経が回復します。

LH-RHアゴニストの製剤は比較的高い安全性を持つ薬剤の一つとされていますが、間質性肺炎アナフィラキシー、肝機能障害、血栓塞栓症、エストロゲン低下作用に基づくうつ症状などに注意が必要です。子宮粘膜下筋腫がある状態などでは出血症状が悪化する場合も考えられます。またLH-RHアゴニストは注射剤ですので、疼痛(痛み)、硬結(皮膚が硬くなる)、発赤(赤み)などの注射部位反応が現れる場合があり、頻度はまれですが潰瘍(かいよう)などが形成されることもあります。注射部位に異常を感じた場合は医師や看護師などに連絡するなど適切に対処することが大切です。
他にも投与初期に一過性のエストロゲン上昇などが起こることで、骨疼痛の一過性悪化などがみられることもあり医師や薬剤師などから事前にしっかりと注意事項を聞いておくことも大切です。

LH-RHアゴニストは乳がんのほか、子宮内膜症子宮筋腫などの婦人科疾患の治療に使われる場合もあります。また男性への投与においては精巣からの男性ホルモンの分泌を抑える作用を現すため、前立腺がんの治療薬として使われる場合もあります。製剤の規格や病態などによっても異なりますが、男性女性どちらにも使われる可能性がある製剤です。

黄体ホルモンの高用量製剤で乳がんや子宮体がん治療の選択肢となっている薬です。
メドロキシプロゲステロン自体は女性ホルモンの作用を持つ合成黄体ホルモンであり、黄体ホルモンと類似した作用をあらわします。その他の作用として抗エストロゲン作用、抗ゴナドトロピン(抗性腺刺激ホルモン)作用などを併せ持つことから、ヨーロッパでは1960年頃から高用量製剤が乳がんや子宮体がんなどの治療に使われてきた経緯があります。
日本でもメドロキシプロゲステロンの高用量製剤(ヒスロン®200mgなど)は乳がんにおけるホルモン療法の治療薬として閉経前乳がん、疼痛を伴う骨転移症例などへ有効であること、また子宮体がん子宮内膜がん)へのホルモン療法における治療薬としても有用性が確認されています。
メドロキシプロゲステロン高用量製剤の詳しい作用の仕組みはハッキリと判明していませんが、アロマターゼ(エストロゲン生成に関わる酵素)の阻害作用、エストロゲンの代謝を促進する作用などが考えられていて、これらの作用により抗腫瘍効果などを現すとされています。
乳がん治療では通常、1日600-1200mg(200mg錠を1日3-6錠)を1日2-3回に分けて経口投与します。

注意すべき副作用として血栓塞栓症、ほてりや熱感、月経異常、満月様顔貌(顔が丸くなる)、浮腫むくみ)、血糖上昇などがあります。また主に黄体ホルモンとしての作用による体温上昇(微熱)や不正性器出血などにも注意が必要です。また食欲増進作用によって過食気味となり体重増加が現れることも考えられるため、食欲不振状態などでない場合は特に事前に医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておくことも大切です。

メドロキシプロゲステロンは黄体ホルモン製剤として月経周期異常や不妊症などの治療に使われています。ただしこれらの治療には主にヒスロン錠5mgやプロベラ錠2.5mgなどのようにメドロキシプロゲステロンを低用量含む製剤(低用量製剤)が使われていて、規格によって用途が異なる製剤となっています。