にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 163回の改訂 最終更新: 2021.03.31

乳がんのステージ:分類方法、治療法の選択、生存率(余命)など

がんステージは進行の度合いを示します。乳房でのがんの状態、リンパ節転移、離れた場所への転移の3点に着目して判定します。ステージを決めることで最適な治療法の選択などに役立ちます。 

乳がんのステージを定める方法としてTNM分類があります。TNM分類とは、乳房でのがんの状態(T分類)、リンパ節転移(N分類)、離れた場所への転移(M分類)の評価を総合してステージを決める方法です。

以下では用語を解説しながらTNM分類による乳がんのステージの決め方を説明します。

がんは周りの組織に入り込みながらだんだん外へ広がっていく性質があります。がんが隣り合った組織に入り込むことを浸潤(しんじゅん)と言います。がんが進行するほど、広い範囲に浸潤するようになります。そこで浸潤の程度によってがんの進行度を分類することができます。

がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管や血管などの壁を破壊しその中に侵入していきます。

リンパ管は体の至る所にあり、それぞれがどこかでつながっています。そして、リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。リンパ節が大きくなる原因にはがん以外にも感染症などがあります。

リンパ節転移は、がんがもともと発生した場所の近くから順に広がっていく特徴があります。最初にリンパ節転移が発生する場所のリンパ節を領域(りょういき)リンパ節と言います。乳がんでは腋窩(えきか;脇の下)のリンパ節が領域リンパ節となります。

乳房の領域リンパ節

領域リンパ節への転移は、次に説明する遠隔転移(えんかくてんい)とは区別されます。領域リンパ節転移があっても遠隔転移があるかないかで治療法や先の見通し(予後)は大きく違います。

領域リンパ節転移があっても遠隔転移がなければ、根治(体からすべてのがんを取り除くこと)を期待できる場合があります。

遠隔転移(えんかくてんい)とはがんが発生した臓器から離れた場所に移動して増殖することです。

乳房および領域リンパ節から離れた場所に転移があれば遠隔転移です。領域リンパ節への転移は遠隔転移ではありません。乳房から離れた場所のリンパ節に転移した場合は遠隔転移に含めます。単に「転移」と言った場合は遠隔転移を指すことが多く、領域リンパ節転移は除いていることがあります。

遠隔転移がある場合は、見つかった場所以外にも見えない小さな転移が全身にある可能性が高いと考えられます。このために狙った場所に対する治療ではなく、全身をカバーできる抗がん剤治療が理にかなっています。

がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。がんがもともとあった場所を原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍(げんぱつしゅよう)と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。

TNM分類は、原発巣の状態(T分類)、リンパ節転移(N分類)、遠隔転移(M分類)の3点の組み合わせによってがんの状態を分類する方法です。TNM分類を元にしてステージを決定します。TNM分類の基準を説明します。

参照:UICC TNM分類(第7版)

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。T分類は乳房にある原発巣の評価です。乳がんのT分類は、比較的早期のものに関しては大きさを重視します。進行しているものでは皮膚や胸壁(きょうへき)との関係により定められます。基準は以下のとおり精密に決められていますが、大まかには上で説明した内容です。

  • TX:原発腫瘍の評価が困難(摘出後など)
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:非浸潤がん
    • 非浸潤性乳管がん(DCIS)
    • 非浸潤性小葉がん(LCIS)
    • 浸潤がんのないPaget病
  • T1:腫瘍最大径2cn以下
    • T1mi:微小浸潤があり腫瘍の最大径が0.1cm以下
    • T1a:0.1cm<腫瘍最大径≦0.5cm
    • T1b:0.5cm<腫瘍最大径≦1.0cm
    • T1c:1.0cm<腫瘍最大径≦2.0cm
  • T2:2cm<腫瘍最大径≦5cm
  • T3:腫瘍最大径が5cmを超える
  • T4:腫瘍の大きさによらず、胸壁または皮膚に浸潤する(真皮のみへの進展はT4に該当しない)
    • T4a:胸壁に浸潤
    • T4b:乳房の皮膚の浮腫(Peau d’orangeを含む)、潰瘍または患側乳房に限局した皮膚衛生結節
    • T4c:T4aとT4bの両方
    • T4d:炎症性乳がん

N分類はリンパ節転移についての評価です。Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。

リンパ節転移は原発巣に近い場所から順に周りへ広がっていきます。がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することでがんを体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、全身薬物療法(抗がん剤ホルモン療法、分子標的薬)が検討されます。

治療前にリンパ節転移を評価するにはCTMRI検査が使われます。エコーでリンパ節転移が見られる場合は、そのリンパ節の穿刺細胞診が行われます。

乳がんのリンパ節転移の評価ではリンパ節の場所を重視します。正確な基準は以下のとおりです。

  • NX:領域リンパ節を評価できない
  • N0:領域リンパ節転移なし
  • N1:可動性のある同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移
  • N2a:可動性のない、または癒合した同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移
  • N2b:同側胸骨傍リンパ節転移のみで、明らかな腋窩リンパ節転移なし
  • N3a:同側鎖骨下リンパ節(レベルIII)転移
  • N3b:同側胸骨傍リンパ節転移+腋窩リンパ節転移
  • N3c:同側鎖骨上リンパ節転移

M分類は遠隔転移(えんかくてんい)の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。乳房から離れた臓器に乳房がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。

遠隔転移がある乳がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした薬物治療(ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的薬治療)を行います。

  • M0:遠隔転移なし
  • M1:遠隔転移あり


ステージとTNM分類は下の表で対応します。

  T分類 N分類 M分類
ステージ 0 Tis N0 M0
ステージ IA T1、T1mi N0 M0
ステージ IB T0、T1 N1mi M0
ステージ IIA T0、T1 N1 M0
T2 N0 M0
ステージ IIB T2 N1 M0
T3 N0 M0
ステージ IIIA T0-2 N2 M0
T3 N1、2 M0
ステージ IIIB T4 N0-2 M0
ステージ IIIC any T N3 M0
ステージ IV any T any N M1

乳がんの局所進行がんとはステージIIIB、IIICに分類されるものです。

ステージIIIBは以下に当てはまるものです。

  • がんの乳房での状況:腫瘍の大きさによらず胸壁または皮膚に浸潤する 
  •  リンパ節転移:以下のうちどれかに当てはまる
    • 領域リンパ節転移がない 
    • 同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移
    • 同側胸骨傍リンパ節転移のみで、明らかな腋窩リンパ節転移なし
  • 遠隔転移:なし

ステージIIICは以下に当てはまるものです。

  • がんの乳房での状況:問わない
  • リンパ節転移:以下のうちどれかに当てはまる
    • 同側鎖骨下(どうそくさこつか)リンパ節(レベルIII)転移 
    • 同側胸骨傍(どうそくきょうこつぼう)リンパ節転移+腋窩リンパ節転移 
    • 同側鎖骨上(どうそくさこつじょう)リンパ節転移
  • 遠隔転移:なし


局所進行がんは、手術だけでは取り切れないことが予想されます。手術に先立ちまず抗がん剤治療行い、がんを縮めておいてから手術を行います。

乳がんの生存率はステージごとに集計されています。乳がんのステージは大きくステージIからステージIVまでです。数字が少ないほど進行していないがんです。「がんの統計 '19」をもとに女性でのステージごとの生存率を示します。

ステージ 5年生存率
ステージI 97.7%
ステージII 93.3%
ステージIII 77.3%
ステージIV 38.9%


それぞれのステージがどのような状態かを説明します。ステージに該当する条件は専門的な内容なので、すでにステージの診断がついている人なら読み飛ばしても理解に差し障りはありません。
 

「がんの統計 '16」ではステージ0は集計対象から除いています。生存率についてはステージIより良いと考えられます。ステージ0は以下の状態です。

  • 乳房でのがんの状態:非浸潤がん 
  • リンパ節転移:なし
  • 遠隔転移:なし

ステージIは乳房に比較的小さな腫瘍があり、リンパ節転移はないか、あってもわずかな程度の状態です。

  • ステージI
    • 乳房でのがんの状態:乳房にとどまり大きさは2cm以下 
    • リンパ節転移:なし
    • 遠隔転移:なし

ステージIではまず手術を行い、放射線療法、薬物療法を組み合わせて再発を予防します。診断から5年以上生きられる可能性は大きいと言えます。

ステージIIは、ステージIIAとIIBの2つに分かれます。それぞれがさらに2つに分かれるのでステージIIは4つのパターンがあります。

  • ステージIIA (1)
    • 乳房でのがんの状態:乳房内にとどまり大きさは2cm以下 
    • リンパ節転移:可動性のある同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移
    • 遠隔転移:なし
  • ステージIIA (2)
    • 乳房でのがんの状態: 乳房内にとどまり2cmより大きく5cm以下
    • リンパ節転移:リンパ節転移なし
    • 遠隔転移:なし
  • ステージIIB(1)
    • 乳房でのがんの状態:  乳房内にとどまり2cmより大きく5cm以下
      • リンパ節転移:可動性のある同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移
    • 遠隔転移:なし 
  • ステージIIB(2)
    • 乳房でのがんの状態: 乳房内にとどまるが大きさは5cm以上
    • リンパ節転移:リンパ節転移なし
    • 遠隔転移:なし

ステージIIは、原発巣が比較的大きいもしくはもしくは目に見えてリンパ節転移がある状態です。

ステージIIでは手術を行い、その後放射線療法、薬物療法で再発予防を行います。ステージIIも比較的見通しの良い状態です。ステージIほどではないですが高い確率で診断後5年以上生きられます。

ステージIIIはIIIA、IIIB、IIICに分かれます。少しずつ違った状態なので分けて説明します。ステージIIIでも治療によって過半数の人が診断後5年以上生存できます。

  • ステージIIIA (1)
    • 乳房でのがんの状態: 乳房内にとどまり大きさは5cm以下
    • リンパ節転移:以下のいずれかの状態
      • 可動性のないまたは癒合した同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移
      • 同側胸骨傍リンパ節転移のみで、明らかな腋窩リンパ節転移なし
    • 遠隔転移:なし 
  • ステージIIIA (2)
    •  乳房でのがんの状態: 乳房内にとどまるが大きさは5cm以上
    • リンパ節転移:以下のいずれかの状態
      • 可動性のある同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移
      • 可動性のないまたは癒合した同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移 
      • 同側胸骨傍リンパ節転移のみで、明らかな腋窩リンパ節転移なし
    • 遠隔転移:なし 


ステージIIIAでも手術が治療の中心になります。ステージIIIAでは手術の前からリンパ節転移が明らかです。手術の際にリンパ節郭清(かくせい)も行います。リンパ節郭清とは、乳房の近くにある領域リンパ節をまとめて取り除くことです。リンパ節転移を見逃さず取り除き腋窩での再発を防ぐ狙いがあります。手術後には放射線療法と薬物治療によってさらに再発を予防します。

  • ステージIIIB
    •  乳房でのがんの状態:胸壁または皮膚に浸潤する(真皮のみへの浸潤は該当しない)
    • リンパ節転移:以下のいずれかの状態
      • リンパ節転移なし
      • 可動性のある同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移 
      • 可動性のないまたは癒合した同側腋窩レベルI、IIリンパ節転移 
      • 同側胸骨傍リンパ節転移のみで、明らかな腋窩リンパ節転移なし 
    • 遠隔転移:なし 


ステージIIIBは、胸壁または皮膚に乳がんが浸潤している状態です。すぐに手術しても切除が不十分になることが予想されます。ステージIIIBでは、まず薬物治療を行い乳がんを縮めておいて手術することを考慮します。

  • ステージIIIC
    • 乳房でのがんの状態:問わない
    • リンパ節転移:以下のいずれかの状態
      • 同側鎖骨下リンパ節(レベルIII) 
      • 同側胸骨傍リンパ節転移+腋窩リンパ節転移 
      • 同側鎖骨上リンパ節転移
    • 遠隔転移:なし

ステージIIICは炎症性乳がんという特殊な乳がんであることが多いです。炎症性乳がんはしこりなどで発見される前に皮膚の発赤(ほっせき;赤くなること)などの症状で見つかることが多く、進行が早いことが予想されます。まず抗がん剤治療を行いがんをしっかりと縮めたあとに手術を行います。手術後には再発予防を目的に放射線治療、抗がん剤治療を行います。

ステージIVは乳房から離れた場所に転移(遠隔転移)がある状態です。薬物療法が中心になります。

ステージIVでは5年生存率が50%を下回ります。厳しい数字に思えるかもしれませんが、まだチャンスはあります。毎年全国でステージIVの乳がんを診断される人は数千人いますが、そのうち1,000人以上は診断後5年以上生存できるという計算になります。

また、統計上の生存率は、診断時に遠隔転移があった人をすべて集めたときの平均的な数値です。ステージIVと言ってもその人その人で状況は大きく変わります。

数字はあくまでも数字に過ぎないので、深刻に考え過ぎるのはあまりいいことではありません。ご自身の状況と提示された治療法についてしっかりと考えていくことが重要です。

乳がんと診断されたあとでは、病気の状態を評価するために乳房以外の検査も行います。胸水の検査も必要に応じて行う場合があります。

肺の周りには胸腔(きょうくう)というスペースがあります。胸腔にたまった液体が胸水です。病気がない人では胸水はありません。胸水がたまると呼吸をしづらくなったり(呼吸困難)、咳などの症状が現れます。胸水がたまる原因としては、胸膜の炎症、心臓の病気やがんが胸膜に転移したりすることが挙げられます。

胸水は胸腔という肺の周りのスペースに水が溜まることです。胸水が溜まっているときは体の状態が悪化している可能性があるので、胸水の原因を明らかにする必要があります。

胸水の原因を調べるための検査の例を挙げます。

  • 画像検査
    • 胸部レントゲン
    • 胸部CT検査
  • 胸腔穿刺(きょうくうせんし):胸水を体の外に取り出して調べる

胸腔穿刺が特に重要な検査です。胸に針を刺して胸水を体の外に出し、胸水の色などを目で見て観察し、一部を検査に出します。検査では胸水の成分などがわかります。

胸水がたまる主な原因を挙げます。

  • 全身性の原因:漏出性胸水が発生する
    • 心臓の機能が低下する(心不全など)
    • 肺の血管がつまる(肺梗塞
    • 腎臓の機能が悪くなる(腎不全
    • 肝臓の機能が悪くなる(肝不全)
  • 局所(胸膜)の原因:滲出性胸水が発生する
    • がんが胸膜に転移する(がん性胸膜炎) 
    • 感染症(結核性、細菌性など)

漏出性胸水(ろうしゅつせいきょうすい)と滲出性胸水(しんしゅつせいきょうすい)は胸水の成分を調べることで区別できます。滲出性胸水があって感染の様子がない場合などで、がんが胸水の原因になっていることを考慮します。

がんが原因となっている場合は胸水の細胞診でがん細胞が見つかり原因の確定に至ることもあります。

乳がんが胸膜などに転移を起こすと胸水の原因になります。胸膜に転移したがんが胸水を作ったり、リンパ管を閉塞したりすることが原因と考えられています。また乳がんが進行すると栄養状態が悪化します。栄養状態が悪化した場合は、全身で水分の流れが悪くなり、胸水も出やすくなります。

骨シンチグラフィは、乳がんでは骨転移の有無を検査をするために行われます。

骨シンチグラフィは放射線を使って骨を撮影する画像検査です。99mTc(99mテクネチウム)という放射性同位体を体の中に入れます。放射性同位体を体に入れる検査を核医学検査とも言います。

骨転移がある場合は、骨の反応が活発化しています。骨シンチグラフィでは、骨の反応が活発な部分によく取り込まれる物質と99mTcを結合した薬剤を注射します。すると99mTcが骨転移に取り込まれます。99mTcは体の中から放射線を出すので、99mTcを感知できる撮影方法を使うことによって、骨転移の場所を見つけることができます。

骨シンチグラフィによって、全身の骨を評価し、小さな骨転移でも見つけることができます。ただし骨折や炎症とがんが紛らわしく見える場合があり、骨シンチグラフィのあとMRI検査やCT検査を行うこともあります。

乳がんの完治を目指す治療には手術が不可欠です。手術を行えるのはステージI、IIとIIIの一部の人です。手術について詳しくは「乳がんの手術とは?」で説明しています。

ステージが早い段階(早期の段階)で発見された人の方が5年生存率が高く、完治する可能性も高いと考えられます。

注意したいのはステージIでも5年生存率は100%ではない点です。早期の段階で手術を行ったから完治は間違いないとは必ずしも言えません。

乳がんの治療では、完治を目指す治療法はありますが、「完治した」と確かめる方法はありません。数年経って再発することもあるので、定期的に検査をして経過観察する必要があります。治療で完治を目指すということは、がんが見つからない状態が維持されるようにすることを意味します。

薬物療法も完治を目指すために重要な治療です。ステージIIIの一部(IIIB、IIIC)は皮膚などに浸潤していたり、広い範囲にリンパ節転移が発生しています。全身にがん細胞が散らばっている可能性も念頭において治療を行わなければなりません。そのため全身をカバーできる薬物療法を行います。その薬物療法の反応を見ながら手術を考慮します。薬物療法で効果が見られずがんが大きくなる場合は、薬物の種類を変更するなどして治療を継続します。しかし、手術前の抗がん剤治療で効果のあるものは決まっているので、その抗がん剤治療に効果が見られないときには手術が行えない場合があります。

ステージIVは、乳房から離れた場所に転移(遠隔転移)がある状態です。遠隔転移があれば、全身にがん細胞がすでに散らばっていると考えて治療を行います。他のステージとは異なり完治を目指すことは難しいと考えられています。ステージIVでは、薬物療法(抗がん剤治療、ホルモン療法、分子標的薬治療)でがんが増殖するのを抑えながら、がんと共存して余命を延ばし症状を抑えることを目的とした治療を行います。

ステージIVの5年生存率は、38.9%になります。3割以上の人が5年以上生存できる状態を「末期」と呼ぶのは当たっていません。

「がんの末期」には明確な定義はありません。ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況と考えて解説を行います。

乳がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移が現れ、緩和(かんわ)的な治療が主体になってきている段階です。乳がんの末期では肺、肝臓、骨への転移が起こりやすく、転移しているがんが体に影響を及ぼします。このような状況では悪液質(カヘキシア)と呼ばれる以下のような症状が目立ってきます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

対して乳がんのステージIVは、乳房から離れた場所に遠隔転移がある状態です。ステージIVの5年生存率は、33.8%です。ステージIVと診断された場合ホルモン療法(内分泌療法)はや抗がん剤による治療が中心になります。

がんが進行するのを治療によって上手に抑えて、症状などにもしっかりと対処を行うことで余命が延長することも期待できます。

ステージIVは末期がんと同じではありません。ステージIVという言葉はあまりにも深刻なイメージとともに語られがちなので、ステージIVだと告げられると動揺してしまう気持ちは理解できます。しかし繰り返しになりますが、ステージIVは末期がんであることを意味はしませんし、治療法も多く残されています。心を落ち着け自身の状況を把握し治療に向かうことが重要です。

乳がんはステージで治療方針が大きく異なってきます。ステージごとの治療法について解説します。

ステージ0は非浸潤性乳管(ひしんじゅんせいにゅうかん)がんを指します。英語のDuctal Carcinoma in situの略でDCISとも言います。DCISの治療は手術です。

  • 乳房部分切除術+放射線療法
  • 乳房切除術 

DCISは手術により根治がかなりの確率で期待できます。乳房部分切除術のあとは再発予防を目的とした放射線療法を行います。放射線療法では後述するステージIからステージIIIと同様に乳房全体に放射線を照射します。乳房切除術を行った場合は手術後に乳房の形を作り直す(再建する)ことができます。再建には自らの身体の一部分を使う方法と人工物を乳房に挿入する方法があります。

切除した乳がんの状態で放射線療法や薬物療法の適応を判断します。

ステージIとステージIIはまとめて言うと「がんが乳腺内にとどまっておりリンパ節転移も乳房の近くにとどまる」という状態です。治療の中心は手術療法になります。手術には大きく分けて2種類あります。

  • 乳房切除術(にゅうぼうせつじょじゅつ):乳房の全体を取り除く
  • 乳房部分切除術(にゅうぼうぶぶんせつじょじゅつ):乳房の一部を取り除く

手術の前後で、薬物療法(抗がん剤治療、分子標的薬治療、ホルモン療法)を行います。どの薬を使うかは、がんの組織を一部取り出して調べ、効きそうなものを選びます。
以下のような治療の組み合わせがあります。

  • 乳房部分切除術のあと放射線療法、続いて薬物療法
  • 乳房切除術のあと薬物療法
  • 薬物療法のあと乳房部分切除術、続いて放射線療法、さらに薬物療法 

どの治療を選ぶかは、病理結果や進行度に合わせて、主治医の判断と患者さんとの相談で決定します。

ステージIIIは皮膚、胸壁、鎖骨のリンパ節にがんが広がっているものです。特にステージIIIB、IIICは手術を最初に行うと取り切れない可能性が高いと考えられます。このために、まず薬物療法を行いがんを小さくすることを考えます。がんが小さくなったときには手術により切除します。手術の前に使用する薬剤を選ぶには、がんの組織を一部取り出して性質を調べます。

  • 乳房部分切除術のあと放射線療法、続いて薬物療法
  • 乳房切除術のあと薬物療法
  • 薬物療法のあと乳房切除術
  • 薬物療法のあと乳房部分切除術、続いて放射線療法

ただし、HER2が陽性の場合は、上記の治療に続いて分子標的薬(トラスツズマブ)の投与、ホルモン受容体が陽性の場合はホルモン療法が続いて行われることがあります。

ステージIVは乳房から離れた場所に乳がんの転移がある状態です。ステージIVの治療は体のすみずみまでカバーする全身治療が中心になります。薬物療法は全身に薬を届けることができるので全身治療となります。使用される薬は、ホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬です。

最初の薬の選択は大事です。がんの組織を一部取り出して調べます。がんの性質を見る検査項目として、ホルモン感受性、HER2タンパク過剰発現(かじょうはつげん)という点が重要です。ホルモン感受性があればホルモン療法の効果が期待できます。HER2タンパク過剰発現があれば、分子標的薬の効果が期待できます。

また遠隔転移の有無や程度が治療を選択する上では重要です。

ステージIVの治療選択でのポイントをまとめます。

  • ホルモン感受性の有無
  • HER2タンパク過剰発現の有無
  • 深刻な遠隔転移の有無

ホルモン療法、分子標的薬、抗がん剤のうちで、効果が見込めそうなものを選んで使います。深刻な遠隔転移がある場合は、ホルモン療法よりも抗がん剤が優先されます。

症状でステージを判断することはできません。乳がんのステージを決める基準に症状は使われていません。また、ステージと症状の関係も一対一にはなりません。

新しい症状が現れたからといって、ステージが進んだとは限りません。反対にステージがかなり進んでいてもほとんど症状を感じない場合もあります。

ステージと紛らわしい言葉に「クラス」があります。乳がんの検査では細胞診(さいぼうしん)という検査の結果を表す言葉です。

ステージとクラスは全く異なります。乳がんのステージはがんの進行度を表します。ステージは最適な治療法の選択などに役立ちます。

対してクラスは乳がんかどうかがまだ確定していないときに使う言葉です。細胞診の結果から乳がんの疑いがどれくらいあるかを表現しています。

細胞診は、乳がんが疑われるものから細胞を取ってきて、がんかどうかを判定する検査です。乳がんの疑いのある腫瘍(しゅよう)に対して行われる細胞診は穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)と分泌液細胞診(ぶんぴつえきさいぼうしん)の2つです。穿刺吸引細胞診は、腫瘍に針を刺しそこから細胞を吸引します。分泌物細胞診は、乳頭から分泌物が出ている場合に行います。

細胞診はクラス1-5で分けることが一般的です。数字が大きいほど乳がんの疑いが強いことを表します。クラス5は悪性腫瘍、つまり乳がんに間違いないと思われることを意味します。ステージには5ありません。クラス4でもさらに検査を進めると乳がんでないとわかることがあります。クラス4やクラス5という結果が出ても「末期がんに違いない」と思う必要はありません。

整理します。

  • ステージはがんの進行度を分けたもの 
  • クラスはがんかがんではないかの疑いの強さを分けたもの

ステージとクラスは全く異なるものです。色々な説明を聞いていくうちにどちらのことを指しているのかわからなくなる場合があると思います。そのときには、その都度聞きづらいかもしれませんが、受けている説明を一度止めて医師がどちらの話をしているのかをしっかり聞くことが重要です。