にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 163回の改訂 最終更新: 2021.03.31

乳がんの手術③:乳房を作り直す「乳房再建術」の方法と特徴

乳房の全部または一部を取り除いたあと、乳房を作り直す手術を乳房再建術(にゅうぼうさいけんじゅつ)といいます。乳房再建術は、人工物を使って再建する方法と、自分の体の一部を使って再建する方法に分類できます。 

乳房の全部または一部を取り除いたあと、乳房を作り直す手術を乳房再建術(にゅうぼうさいけんじゅつ)といいます。乳房再建術は、人工物を使って再建する方法と、自分の体の一部を使って再建する方法に分類できます。

  • 自分の体の組織を利用した再建
    • 遊離皮弁(ゆうりひべん)
      • 遊離腹直筋皮弁(ゆうりふくちょくきんひべん)
      • 深下腹壁動脈穿通枝皮弁(しんかふくへきどうみゃくせんつうしひべん)
    • 有茎皮弁(ゆうけいひべん)
      • 有茎広背筋皮弁(ゆうけいこうはいきんひべん)
      • 有茎腹直筋皮弁(ゆうけいふくちょくきんひべん)
  • 人工物を利用した再建

それぞれの方法について解説します。

ティッシュエキスパンダーを使用した乳房再建

乳房を再建する方法として、人工物を挿入する方法があります。体への負担が比較的小さいことが利点です。
再建する前の胸は、乳房を取り除いたあと、男性のような平らな状態になっています。乳房を切除するときに皮膚も取り除いて、平らになったときに皮膚が余らないようにします。
再建には乳房が再び膨らんだときにちょうどいいだけの皮膚が必要です。つまり、平らになった皮膚を伸ばす必要があります。
そこで、ティッシュエキスパンダーというものを胸の皮膚の下に植え込みます。ティッシュ(tissue)は組織、エキスパンダー(expander)は伸ばすものという意味の英語です。ここで言う組織とは皮膚を指します。
ティッシュ・エキスパンダーは液体を入れる袋です。皮下にティッシュ・エキスパンダーを挿入して少しずつ液体を注入することで皮膚を伸ばしていきます。ティッシュ・エキスパンダーの中に入れる液体は生理食塩水です。生理食塩水は、水に食塩(塩化ナトリウム)を溶かしたものです。人体には影響がありません。
皮膚から針を刺してティッシュ・エキスパンダーに生理食塩水を入れます。一定の期間をおいて少しずつ生理食塩水を注入し、皮膚を伸ばしていきます。
皮膚が十分に伸びたと判断された時点で、シリコンなどでできたインプラントをエキスパンダーと入れ替えて完成になります。
ティッシュ・エキスパンダーを挿入してから最終的にインプラントを挿入できるまでは3か月から6か月程度かかります(施設によって差異があります)。
気を付ける点として、インプラントから細菌が感染することがあります。一般に、体の中の人工物に細菌が定着すると、人工物には免疫が働かないので、人工物を中心に細菌が繁殖して根強い感染症を起こすことがあります。乳房のインプラントも人工物なので感染には注意が必要です。細菌が感染した場合には、摘出し、また後日に入れ替える必要が生じる場合もあります。

乳房を再建するために、自らの体の一部分を利用する方法があります。
お腹や背中から自分の組織(皮膚・脂肪・筋肉など)を移動させ、乳房の位置に固定して乳房の形を作ります。再建に用いる自分の組織を皮弁(ひべん)、皮弁を使う再建法を皮弁法といいます。皮弁法には、皮弁とする組織を取ってくる場所や、血管をつなぎ直す必要の有無などで数種類あります。

  • お腹の組織を使う主な方法
    • 有茎腹直筋皮弁(ゆうけいふくちょくきんひべん) 
    • 遊離腹直筋皮弁(ゆうりふくちょくきんひべん) 
    • 深下腹壁動脈穿通枝皮弁(しんかふくへきどうみゃくせんつうしひべん)
  • 背中の組織を使う方法
    • 有茎広背筋皮弁(ゆうけいこうはいきんひべん)

皮弁による乳房再建はかなり難しい手術です。担当する医師は病院により異なりますが、乳腺外科医ではなく形成外科医が行う場合が多いです。形成外科医は皮膚、筋肉などの体表の手術の専門家です。
それぞれの皮弁の方法について解説します。

有茎腹直筋皮弁

有茎腹直筋皮弁(ゆうけいふくちょくきんひべん)は、腹直筋という筋肉を使って乳房を再建する方法です。腹直筋とはいわゆる「腹筋」のことです。お腹の真ん中にあります。
皮弁(有茎皮弁)は体の一部を剥がすように切り出して、一部分だけ元の場所につながったままにすることで血液の流れが維持されるようにしたものです。腹直筋を皮弁とすることで乳房の位置まで移動させることができます。
腹直筋皮弁はお腹から胸へと向かいます。その途中も表面は皮膚で覆われていなければいけません。そこで、皮弁の道のりにあたる皮膚と脂肪の間を分けて、皮弁の通り道を作成します。皮膚の下にできた通り道に皮弁を通して、皮弁を胸の位置まで伸ばします。胸に届いた皮弁で乳房の形を作り、そこに縫い付けます。
有茎腹直筋皮弁は最も歴史のある乳房再建法です。手術自体は比較的簡単とされています。
気を付ける点としては、皮弁が比較的大きくなるために、皮弁の端の方の血流が悪くて皮膚が固くなったりすることがあります。また腹直筋を本来の場所から取り去るので、腹直筋がなくなった部分のお腹の壁が薄くなってしまい、腸の圧力でお腹の一部が飛び出してしまうことがあります。この後遺症を腹壁瘢痕ヘルニア(ふくへきはんこんヘルニア)と言います。

遊離腹直筋皮弁(ゆうりふくちょくきんひべん)と有茎腹直筋(ゆうけいふくちょくきんひべん)との違いは皮弁を一度体から切り離す点です。遊離腹直筋皮弁は腹直筋・皮下脂肪・筋肉・血管を一度切り離して皮弁とします。その後、皮弁の血管を移動させた先の血管とつなぎ直して皮弁に血液が流れるようにします。
有茎腹直筋皮弁に比べて血管をしっかりとつなぎ直す分、遊離腹直筋皮弁のほうが皮弁への血流がよいと考えられています。
遊離腹直筋皮弁のためにつなぎ直す血管は直径1.5-2mmとかなり細い血管です。このために、顕微鏡を使って血管をつなぎます。高い技術が要求されます。
後遺症として、有茎腹直筋皮弁と同様に腹壁瘢痕ヘルニア(ふくへきはんこんヘルニア)を起こす場合があります。つまり、皮弁に使った腹直筋が元の場所からなくなることにより、お腹の壁が薄くなって、内側からの圧力でお腹がポコッと押し出されます。

深下腹壁動脈穿通枝皮弁(しんかふくへきどうみゃくせんつうしひべん)は、一度体から切り離した皮弁を使う方法です。
遊離腹直筋皮弁と違う点は、皮弁として利用する組織に筋肉を含まないことです。

  遊離腹直筋皮弁 深下腹壁動脈穿通枝皮弁
皮弁の内容 皮膚・皮下脂肪・筋肉・血管 皮膚・皮下脂肪・血管

深下腹壁動脈穿通枝皮弁の手術は遊離腹直筋皮弁よりもさらに難しいと考えられています。それは穿通枝というかなり細い血管を使って皮弁の血流を確保するからです。細い血管は探しだすのが難しく、つなぎ合わせるのもまた難しいです。つなぐ血管が細いと血液の塊ができやすく血管が詰まってしまうこともあります。血管が詰まると皮弁の血流が足りなくなって皮弁が壊死(えし)することがあります。壊死した組織は生きて機能することができません。
深下腹壁動脈穿通枝皮弁は、腹直筋を移動させないので、腹壁瘢痕ヘルニアなど手術後の後遺症は少ないと考えられています。

有茎広背筋皮弁(ゆうけいこうはいきんひべん)は、背中の筋肉などを利用して乳房を再建します。広背筋は背中の筋肉の一つです。皮膚・皮下脂肪・筋肉(広背筋)を再建に利用するものとして切り取ります。「有茎」というのは、皮弁の一部を元の場所とつながったままにするという意味です。
背中で作った皮弁を乳房の場所にまで持っていく必要があります。背中から胸までの皮膚を下の脂肪と離して通り道を作ります。皮膚と脂肪の間に皮弁を通します。
有茎広背筋皮弁は、体から切り離していないので、血管をつなぎ合わせたりする必要はありません。有茎広背筋皮弁がお腹の組織を使う皮弁法と比べて有利なのは、お腹の筋肉を使わないのでお腹に傷がない点や、お腹の壁が薄くなることで生じる腹壁瘢痕ヘルニア(ふくへきはんこんヘルニア)などの後遺症がない点です。
不利な点はお腹の組織を利用した皮弁に比べると皮弁の量が少ないので、再現する乳房の容量が小さくなる点などです。

乳房再建は、乳房切除術と同時に開始する場合と、乳房切除術を終えてから日をおいて行う場合があります。同時に行う場合を一期再建、別々に行う場合を二期再建と言います。

  • 一期再建(いっきさいけん)
    • 乳がんの根治手術(乳房切除術)と同時に乳房再建を開始する
  • 二期再建(にきさいけん)
    • 乳がんの根治手術(乳房切除術)後に改めて乳房再建の手術を計画する

人工物を埋め込む方法の再建では、人工物を埋め込むスペースを作り出す必要があります。そのためにティッシュ・エキスパンダーを植え込みます。一期再建ではティッシュ・エキスパンダーを乳房切除と同時に挿入します。
二期再建とは、乳房切除術後、傷が癒えてから乳房再建に着手することです。例えば人工物による再建を考えている場合には、傷が癒えてからティッシュ・エキスパンダーを挿入し、インプラントを挿入できるスペースを確保していきます。

一期再建と二期再建の利点を表にまとめます。

再建時期 一期再建 二期再建
利点 ・手術の回数が減る
・経済的な負担の軽減
・乳房の喪失感が軽減
・再建法について検討する時間がある
・ティッシュ・エキスパンダーに関連した合併症が少ない
・病理診断の結果を見て再建法について検討できる

一期再建と二期再建は現在どちらも多くの患者さんに利用されています。施設によっても得手不得手があることが予想されます。どちらを選ぶかは主治医によく自分の考えを伝え、相談して決めてください。

乳房の再建の方法は、人工物を利用したものと自らの体を利用としたものがあります。それぞれに特徴があります。

再建方法 自分の体を使う再建 人工物を利用した再建
手術のための入院期間 約2-3週間 約1週間程度
手術の時間 6-8時間 30分-1時間
仕上がり後の手触り 自然 やや硬い
放射線治療後も可能か 可能 困難


自分の体を使う再建と人工物を利用した再建はともに保険診療として行うことができます。人工物による再建は、自分の体を使った再建に比べると、手術にかかる時間も短く負担が少ないと言えます。
再建の方法を選ぶうえでは、患者さん自身の考え方がもっとも重要なことになります。主治医や形成外科医に自分の考え方を伝えて相談することが大事です。

乳房再建は必ずしないといけないものではありません。
2014年に乳房再建術が保険適用になりました。以前に比べて乳房再建を考える人も増えてきていると予想されます。しかし、乳房再建をしないという意志を持つ人もいます。乳房再建をしたい人には以下のような理由があると思います。

  • 乳房を失った喪失感から開放されたい 
  • 乳房を再建することでその後の治療にも気持ちが前向きになる 
  • 温泉などで躊躇なく下着を外せる

一方で乳房再建を行わない考えの人もいます。乳房再建を行わない理由は以下のものが考えられます。

  • 手術による乳房の形への影響があまりなかった
  • 手術をもう受けたくない
  • 喪失感がそれほどなかった

これらの理由は一例です。他にも様々な理由があると思います。乳房再建を行うべきかどうかに客観的な答えはありません。それは、患者さんの人生観がその選択に最も大きく関わってくるからです。
乳房切除後にも手術前と生活が大きく変わらないと感じた人は、再建を行わなずに下着やパッドなど工夫をしながら日々を過ごすこともできます。
家族や主治医の意見も参考にして、自分の気持ちを確かめながら考えてください。

乳房再建を行わない場合は、多くの人が乳房を切除した側の下着の中にパッドなどを入れて過ごします。
パッドにはいくつか種類があります。軽いパッドや人体に近い質感を再現したシリコンパッドなどもあります。装着の仕方も、専用の下着のポケットに挿入するタイプや、体に直接接着するものなどがあります。
用途に分けて使い分けることができれば最善ですが、一人で選んでいくのは難しいと思います。医療機関によっては、乳房切除後の下着などを選ぶ際に専門的に担当してくれるスタッフ(看護師など)がいます。アドバイスを聞くことで最適な下着やパッドを選択できる可能性が高まります。

  • 自分が送っている生活について詳しく伝える 
  • 最も気になる点を明確にしておく
  • 好きな触感などを周りのもので代用して触ってみて想像しておく
  • 納得いくまで試してみる

乳房再建を行わない場合で乳房の形を保ちながら生活するにはパッドの使用は不可欠です。色々試しながら納得できるものを探し出すことが重要です。