にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 163回の改訂 最終更新: 2021.03.31

乳がんの種類:良性腫瘍と乳がんの違いは?

乳がんには、いくつかの種類があります。また乳がんと似たような症状が自覚されるけれどもがんではないものもあります。ここでは乳房の「しこり」の種類と、そのうち乳がんの種類について解説します。 

乳がんは自覚症状で発見されることが多いがんです。乳房にはがん以外にも触れるとわかる「しこり」ができることがあります。しこりとは「硬い塊」という意味です。

しこりを感じたときには乳腺外科などで診察を受けてください。自己判断はお勧めはしませんが、ここでは乳がん以外にもしこりがあることを解説します。

腫瘍(しゅよう)とは体の一部で細胞が無秩序に増殖している状態です。しこりと腫瘍は正確には同じ意味ではないのですが、乳房のしこりはまとめて「腫瘍」と呼ばれることが多いです。

腫瘍には良性腫瘍(りょうせいしゅよう)と悪性腫瘍(あくせいしゅよう)があります。悪性腫瘍とは「がん」のことです。良性腫瘍はがんではありません。

悪性腫瘍は浸潤(しんじゅん)や転移(てんい)をする特徴があります。浸潤とは周囲の臓器や組織に入り込みながら広がっていくことです。転移とは腫瘍が発生した場所から離れた場所に移動して増殖することです。

良性腫瘍は大きくなることはあっても浸潤や転移をすることはありません。

乳房のしこりは乳がんの場合もありますが、良性腫瘍の場合もあります。乳房の良性腫瘍は多くの場合治療の必要がありません。

嚢胞(のうほう)とは液体で満たされた袋状のものを指します。乳腺嚢胞(にゅうせんのうほう)とは乳腺に発生した嚢胞のことです。乳腺は乳房の中にある母乳を作る組織です。

乳腺嚢胞の症状は、主にしこりとして触れること、乳頭から出る分泌物などです。乳腺嚢胞の原因は正確にはわかっていません。乳腺症(にゅうせんしょう)などによって乳腺が固くなり、母乳の通り道の乳管(にゅうかん)が閉塞することが原因とも推測されています。

乳腺嚢胞は小さければほぼ無害です。すぐに治療はせず経過観察します。大きくて違和感などの症状がある場合には、針を刺して中の液体を抜く治療法があります。治療で出血をすることもあるため、治療を行うべきかは主治医と相談して決めることが大事です。

乳腺嚢胞は厳密には腫瘍ではありません。がんではないという意味で良性です。ただし注意すべき点として、嚢胞内乳がんという種類の乳がんと区別が必要です。嚢胞内乳がんは手術などの治療が必要です。乳腺嚢胞と嚢胞内乳がんを区別するためには、超音波検査などの画像検査や、嚢胞の中の腫瘍に対して穿刺組織診などの検査を行います。

乳腺線維腺腫(にゅうせんせんいせんしゅ)は乳房にできる良性腫瘍です。乳腺線維腺腫が乳がんになることはありません。しかし乳腺線維腺腫は後述する葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)や乳がんと紛らわしい場合があり、区別が重要です。

乳腺線維腺腫の触感はころころとしたしこりで、少し腫瘍を動かしてみるとその場所から少し移動する、いわゆる可動性があることを特徴とします。触った特徴が乳がんとは若干違っていますが、触っただけで診断はできません。

乳がんと区別するために、マンモグラフィや超音波検査、場合によっては針生検を行います。検査について詳しくは「乳がんの検査で何がわかる?」をご覧ください。

検査で乳腺線維腺腫と診断された場合には、通常は治療を必要としません。しかしながら、腫瘍が急速に大きくなる場合などは手術による切除を考慮します。

乳管(にゅうかん)は乳汁(母乳)が流れていく道です。乳管に発生するがんは乳がんですが、乳管内にできる良性の腫瘍もあり、乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)と呼ばれます。

乳管内乳頭腫の症状は乳がんと似ている部分があります。乳頭から血が混じった分泌物が出たり、しこりを自覚します。

乳管内乳頭腫は超音波検査やマンモグラフィなどの画像診断でも乳がんと区別しにくいため、生検で診断されます。主に針を刺して組織を取ってくる穿刺組織診が行われることが多いですが、穿刺組織診で乳管内乳頭腫と診断されても、慎重な経過観察が必要です。腫瘍の増大が見られる場合は切除を行います。

葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)は乳房に発生するまれな腫瘍です。葉状腫瘍は線維腺腫(せんいせんしゅ)に似た特徴があります。乳腺線維腺腫と異なる点は、葉状腫瘍は急速に大きくなることが多いことです。

葉状腫瘍のほとんどが良性腫瘍です。しかしまれに悪性の経過をたどる葉状腫瘍があります。つまり、葉状腫瘍はまれに転移などを起こします。

葉状腫瘍の治療は腫瘍をできるだけ広く切除することです。もし悪性だった場合、目に見える腫瘍の周りにも悪性の細胞が浸潤している可能性があります。腫瘍を切除しても周りの細胞を取り残してしまうと再発につながります。このため、悪性の可能性を無視できないときの手術では、腫瘍の周りに余白(マージン)をなるべく広く取って、大きく切除します。

葉状腫瘍は発見された時点で小さいほど手術によって切除する乳房は少なくて済みます。葉状腫瘍を疑ったときには生検を行います。つまり腫瘍に針を刺して腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で観察することで診断します。

乳房

乳房は乳腺(にゅうせん)とそれを覆い包む脂肪組織、血管、神経から構成されています。乳腺にできるがんを乳がんといいます。乳腺は母乳を分泌します。母乳は小葉(しょうよう)という場所で作られ乳管を通って乳頭から分泌されます。

乳がんのうち乳管に発生するがんを乳管がんと呼び乳がんのほとんどを占めます。少ないですが小葉にも乳がんが発生することがあり小葉がんと呼ばれます。

乳がんは、非浸潤(ひしんじゅん)がんと浸潤(しんじゅん)がんに分けることができます。

  • 非浸潤がん
  • 浸潤がん

乳管・小葉の内側に留まっているがんを非浸潤がん、基底膜(きていまく)という乳管の一番下の膜を破って浸潤しているものを浸潤がんと呼びます。

乳管にできる癌

乳がんが見つかって転移がない場合は、手術によって切除し、根治(すべてのがんを体から取り除くこと)を目指します。

非浸潤がんは、乳がんのうち乳管や小葉の中に留まっているもののことです。対して浸潤がんは基底膜という乳管の底の膜を破って浸潤したものです。非浸潤性乳がんは、英語でDuctal Carcinoma in situ、略してDCIS(ディーシーアイエス)と呼ばれることもあります。

非浸潤がんは基底膜を破って浸潤していないために、血管やリンパ管にがんが侵入して全身へ転移する可能性は小さいと考えられています。このために乳房の全部を取り除く乳房切除術で根治を望めます。乳房を温存する乳房部分切除術でも、手術のあとに放射線療法を行うことで根治を望めます。

非浸潤がんに対する治療は主に以下のものです。

  • 乳房切除術
  • 乳房部分切除術+放射線療法

非浸潤がんに対しては、手術後の再発予防を目的にした薬物治療を行わないことが多いです。薬物療法としては、乳房部分切除術を行った場合に、同側乳房内の新規乳がん発生の予防のためにホルモン剤の内服を行うことがあります。

浸潤(しんじゅん)がんとは乳管や小葉に発生した乳がんが乳管の底の膜である基底膜を破って間質に浸潤していることを指す言葉です。浸潤がんのほとんどは乳管から発生する乳管がんです。乳管がんは組織型(そしきけい)により3つに分類されます。

  • 乳頭腺管(にゅうとうせんかん)がん
  • 充実腺管(じゅうじつせんかん)がん
  • 硬(こう)がん

組織型の分類には病理検査が基準になります。病理検査とは、がんの組織を一部取ってきてそれを顕微鏡で観察することなどを行う検査です。

■乳頭腺管がん

乳頭とは乳首のような形という意味ですが、顕微鏡で見たときの組織の形を指しています。乳房の乳頭にできるという意味ではありません。乳頭腺管がんは乳管内に進展して、病変の中心が壊死(えし)する特徴があります。すべての乳がんのうち20%ほどが乳頭腺管がんです。

■充実腺管がん

充実というのは中身が詰まって空洞や袋状の構造などがないという意味です。充実腺管がんは周りを圧迫しながら増殖する特徴があります。すべての乳がんのうち20%を占めます。

■硬がん

がん細胞がばらばらに、もしくは小さな塊を作って間質(乳腺と乳腺の間の組織)に浸潤して広がります。マンモグラフィでは毛羽立ちのような形の影(スピキュラ)が写ることが特徴ともされています。

■浸潤がんの治療

浸潤がんは、基底膜を破って成長しているため、血管などに入り込んで小さな転移を起こしている可能性があります。このために浸潤がんの治療ではまず手術を行ったうえ、何らかの転移が隠れているものと考えて再発予防の薬物治療(ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的薬治療)を行います。

実際に浸潤がんが見つかった人の1-2割では診断時にすでに転移したものが見つかります。乳房から離れた臓器に転移(遠隔転移)があればステージIVです。ステージIVでは基本的に乳房に対する手術は行わず、全身をカバーする薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的薬治療)が中心になります。

浸潤がんに対する基本的な治療方針をまとめます。

  • 遠隔転移がない場合
    • 乳房の切除が可能ならば、手術+手術後の薬物療法
    • 乳房の切除が難しければ、手術前に薬物療法を行ったうえ手術を検討
  • 遠隔転移がある場合
    • 薬物療法

これは大まかな治療方針です。細かい場合分けとしてはたとえば、手術が可能で乳房温存を希望する場合には、薬物療法を先に行ってがんを小さくしておいてから手術を行うなどの方針も検討できます。手術について詳しくは「乳がんの手術とは?」で説明しています。

薬物療法では、がん細胞の性質(ホルモン受容体の有無、HER2タンパクの過剰発現、Ki67の発現の程度)などを参考に最も効果が高いと考えられるものを選択します。詳しくは「乳がんの薬物療法はどうする?」で説明しています。

乳房パジェット病は、特殊なタイプの乳がんです。乳がんが乳管を経て乳頭および乳輪の表皮(皮膚の表面の層)に進展したものとされています。「パジェット病」と呼ばれる病気は乳房以外にもあるのですが、ここでは「パジェット病」と言えば乳房パジェット病を指すことにします。

パジェット病は皮膚を中心として広がっています。パジェット病は乳がんの中でもまれなものです。初期には乳頭および乳輪に境界がくっきりとした赤い病変(発赤)が現れます。進行すると赤いところにブツブツした盛り上がりができて、かゆみを伴います。さらに進行すると病変の皮膚にただれ(びらん)、水ぶくれ(水疱)などの症状が出るようになります。

診断には病変からパジェット細胞を確認することが確実な方法になります。

治療法は、病変を切除することが重要です。

パジェット病の治療法は病変と領域リンパ節を手術により取り除くことです。乳がんの治療と同様に手術後に放射線治療をすることもあります。

パジェット病はリンパ節郭清をしなくてよい場合もあります。リンパ節郭清の必要があるかを検討するため、センチネルリンパ節生検という検査方法があります。詳しくは「乳がんの手術とは?」で説明しています。

炎症性(えんしょうせい)乳がんはまれな乳がんです。炎症性乳がんは次のような特徴があります。

  • 腫瘤(しゅりゅう;しこり)を触れない
  • 皮膚のびまん性発赤(広い範囲が赤くなる)
  • 浮腫(ふしゅ;むくみ
  • 硬結(こうけつ;表面が硬くなる)

炎症性乳がんの診断基準が以下のように決められています(専門的な内容です)。

  • 急速に発症した乳房皮膚の紅斑・浮腫であり、橙皮状皮膚や熱感を伴うことがあるが、触知可能な腫瘤を伴うかどうかは問わない 
  • 病悩期間は6ヵ月以内
  • 紅斑は乳房皮膚の少なくとも1/3を占める
  • 浸潤性乳管がんの病理診断

参照:Ann Oncol. 2011:22:515-23

専門的な内容になるので解説します。

炎症性乳がんはしこりに触れない状態でも急速に発症し皮膚に強い症状が出ることを特徴としています。紅斑(こうはん)とは皮膚が赤くなること、浮腫とはむくみのことです。

炎症性乳がんでは、手術を行う前に抗がん剤による治療を行います。

がんの組織を取り出して調べる検査(病理検査)でHER2タンパク過剰発現という検査項目が陽性ならば、分子標的薬の効果が期待できるため、分子標的薬を抗がん剤と同時に使います。

抗がん剤は、画像検査などで効果を評価しながら使います。抗がん剤の効果が出て手術が可能になれば乳房切除術を行います。

通常の乳がんならば、乳房全体を取り除く乳房切除術のほかに、乳房の一部だけを取り除く乳房部分切除術を選択できる場合もあります。しかし現在のところ炎症性乳がんに対する乳房部分切除術の安全性は検証されていません。

炎症性乳がんに対しては、乳房切除術のあとに再発予防を目的とした放射線療法を行います。手術後の薬物治療に関しては、どの薬に効果があるかはっきりとはしていません。病理検査でホルモン受容体が陽性の人に対してはホルモン療法を行い、HER2タンパクが陽性の人に対しては分子標的薬のトラスツズマブで治療することが推奨されています。

乳がんは病理検査で確定診断します。つまり、乳がんの一部を切り取ってきて顕微鏡で観察したときの特徴によって診断します。

顕微鏡で見た特徴によって乳がんの組織型(そしきけい)が分類されます。

ほとんどの組織型は乳管に発生している点が共通しています。乳管に発生した乳がんを乳管がんと言います。乳がんの中には、まれに乳管がん以外の変わった顔つきのがんもあります。特殊形と呼びます。
特殊形の中にも細かい分類があります。特殊形に含まれる組織型の例を挙げます。

  • 粘液(ねんえき)がん 
  • 管状(かんじょう)がん
  • 腺様嚢胞(せんようのうほう)がん
  • 髄様(ずいよう)がん
  • アポクリンがん
  • 浸潤性小葉(しんじゅんせいしょうよう)がん

それぞれ治療法は違います。

■粘液がん

粘液がんはまれながんです。手術と手術後の薬物療法で治療します。

粘液がんは、乳管がんと比較してホルモン受容体陽性であることが多いことが知られています。つまり、ホルモン療法が効く確率が高いと考えられます。ホルモン受容体が陽性であればホルモン療法が勧められます。腋窩リンパ節に転移がある場合や、ホルモン受容体が陰性の場合は、抗がん剤治療のほうが適していると考えられます。

■管状がん

管状がんは乳がんの中でもまれながんです。手術が有効です。

腋窩リンパ節転移があるかないかで治療方針が変わります。腋窩リンパ節転移がなければ手術後の薬物療法は必要ないと考えられています。

管状がんは、ホルモン受容体陽性・HER2タンパク陰性のものが多いとされています。

管状がんは手術でがんを摘出した後、腋窩のリンパ節に転移がない場合は、手術後の薬物治療を行わなくてもその後の経過は良好と考えられています。腋窩リンパ節に転移が見られた場合でホルモン受容体が陰性の場合は、乳管がんに従った抗がん剤治療が行われます。

■腺様嚢胞がん

腺様嚢胞がんは、きわめてまれな乳がんです。腺様嚢胞がんには「トリプルネガティブ」というタイプのものが多いとされています。

トリプルネガティブとは、ホルモン受容体陰性・HER2タンパクも陰性という意味です(ホルモン受容体にはエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体の2種類があり、両方が陰性の場合にホルモン受容体陰性とするので、HER2タンパク陰性とあわせて「トリプル」ネガティブと言います)。トリプルネガティブは、普通の乳管がんならば、悪性度が高いことを示唆します。しかし腺様嚢胞がんではトリプルネガティブだったとしても生存率が高いとされています。

■髄様がん

髄様がんはかなりまれな乳がんです。報告されている数が少ないので普通の乳管がんに準じた薬物療法を考慮します。

■アポクリンがん

アポクリンがんは浸潤がんであり、その後の経過は通常の浸潤性乳管がんとあまり変わらないとされています。手術後の薬物療法は、浸潤性乳管がんに準じて行います。

■浸潤性小葉がん

浸潤性小葉がんは、比較的まれですが、近年増加傾向にあると考えられています。腫瘍が乳房内の広範囲に広がる場合が多く、乳房全摘手術が必要になることがあります。

治療後時間が経ってから再発する場合があります。再発の場所として、がんがお腹の中に飛び散る腹膜播種(ふくまくはしゅ)を起こしやすいことが知られています。

手術後の薬物治療は、乳管がんに準じて選ぶことが推奨されています。