にゅうがん
乳がん
乳腺に発生する悪性腫瘍。女性に多いが、男性に発症することもある
14人の医師がチェック 199回の改訂 最終更新: 2023.12.20

乳がんの原因①:予防はできる?生活習慣などにも注目

乳がんの発症と関わりがあるいくつかの要素がわかっています。ここでは生活習慣や月経・出産・授乳などと乳がんの関係について解説していきます。

乳がんが発生しやすい年齢は40歳代から60歳代です。70歳以上で見つかることも決して少なくありません。40歳未満で乳がんが発生する人は少数ですが実際にいます。

乳がんはとても身近な病気で、日本の女性のうち11人に1人が生涯に一度は乳がんを経験します。40歳以上になった女性なら誰でも、乳がんがいつ発生してもおかしくないと言えます。

以下に当てはまる女性は、当てはまらない女性よりも乳がんが発生する確率が高いことが知られています。

  • 初経が早かった
  • 閉経が遅かった
  • 出産経験がない
  • 授乳経験がない
  • ホルモン補充療法の使用後
  • 喫煙
  • 飲酒
  • 肥満

いくつかに当てはまるからといって必ず乳がんになるわけではありません。反対に、どれにも当てはまらない女性でも乳がんになることはあります。「乳がんです」と言われるとショックを受けてしまうかもしれませんが、乳がんは成人女性なら誰がなってもおかしくない病気です。予防が足りなかったせいではありません。

初経(初潮)が早かった人は平均的な人に比べて乳がんが発生する危険性が高いことが知られています。初経は、月経(生理)が始まることです。平均的には10-15歳で月経が始まります。初経が早いほど乳がんが発生しやすいです。初潮が1年早いと乳がんが5%多いことが報告されています。

初経の年齢を変えることはできません。初経が早かったからといって過度に乳がんを恐れる必要はありません。大事なことは40歳を過ぎたらマンモグラフィ検査を受けるなど、効果がわかっている対策を取ることです。そしてもし、しこりなどに気付いたときには速やかに医療機関を受診して原因を明らかにしておくことが重要です。

参考:Lancet Oncol.2012;11:1141-1151

閉経が遅かった人は平均的な人よりも乳がんが発生する危険性が高いことが知られています。閉経とは、月経が終了することです。平均的には閉経を50歳前後で迎えるとされています。閉経が1年遅れるごとに乳がんが発生する危険性が2.9%増加するとされます。

初経と同様に閉経の年齢は生活習慣などで調整できるものではありません。閉経が遅いからといって乳がんを過剰に恐れる必要はありません。乳がんに対しては怖い気持ちがあるとは思います。いろいろな原因を耳にして悩むこともあると思いますが、変えられないものは変えられないものとして定期的な検診などでカバーすることが重要です。

参考:Lancet Oncol.2012;11:1141-1151
 

日本での大規模調査によると、出産歴のない女性は出産歴のある女性と比較して乳がんが発生する危険性が2.2倍でした。また別の研究では、初産の年齢が高いほど乳がんが発生する危険性が高いことも指摘されています。

日本は社会構造の変化とともに晩婚化が進み初産の年齢も上昇しています。乳がんが発症する人が増えている原因にはそれらも関わっていると考えられます。しかし、出産や初産年齢は乳がんのリスクのために変えられるものではありません。出産経験がないからといって必ず乳がんが発症するわけでもありません。大切なのは乳がん検診を定期的に受けることや、しこりなどを自覚したときには速やかに医療期間を受診することです。

参考:Cancer Cause Control.2010;21:235-145Eur J Cancer.2007;16:116-23Canser Sci.2005;96:57-62

授乳すると乳がんが発生する危険性が低下します。世界がん研究基金による報告も、授乳によって乳がんの危険性が減少するとの見解を示しています。

授乳期間が12か月長くなるごとに乳がんの発生リスクは4.3%減少し、分娩ごとに乳がん発生リスクが7%減少するという報告もあります。

授乳には乳がん以外にも子供とのスキンシップなど多くの良い面があります。授乳にあまり負担を感じない人であれば、積極的に授乳することをお勧めします。

しかし、体質や家庭環境によって授乳継続が難しい女性もいます。病気のため授乳ができない場合もあります。そもそも授乳は乳がん予防が目的ではありませんし、授乳しなかったからといって必ず乳がんになるわけではありません。無理のない範囲で授乳を考えてください。

参考:Lancet. 2002;360:187-195

更年期症状などに対するホルモン補充療法により、乳がん発生の危険性が増加します。

女性は年齢を重ねるとともに卵巣の機能が低下していきます。卵巣の機能が低下してくる時期を更年期といいます。卵巣の機能が消失して、月経が起こらなくなった状態が閉経です。閉経の前の更年期にはホルモンのバランスが崩れて様々な症状が現れます。

  • ほてり、のぼせ 
  • 体がだるい(倦怠感) 
  • イライラ感 

これらを更年期症状と言います。更年期症状を抑えるためにエストロゲン卵胞ホルモン)というホルモンを補充することで症状の改善が期待できます。ホルモン補充療法には2通りあります。

  • エストロゲン単独
  • エストロゲン+プロゲスチン(黄体ホルモン)

ホルモン補充療法は、更年期障害に対しては有効な治療ですが、その一方でホルモンに関連する乳がんや子宮内膜がん子宮体がん)への影響が懸念されます。

日本乳癌学会のガイドラインではホルモン療法に関して以下の見解が記されています。

  • 合成黄体ホルモンを用いたエストロゲン+黄体ホルモン併用療法では、長期投与により乳癌発症リスクを増加させることは確実である。
  • 5年未満のエストロゲン単独療法では乳癌発症リスクを増加させないことが示唆されているが、長期施行の影響については結論付けられない。

一方で、日本産婦人科学会のガイドラインでは、更年期障害の治療に対しては以下のような見解となっています。

  • ホルモン補充療法では、子宮摘出後であればエストロゲンのみを、子宮を有する場合にエストロゲンとプロゲスチンを用いる

ただしホルモン補充療法を行ってはいけない(禁忌)とされる人の条件として、現在治療中の乳がん患者や、乳がんの治療歴がある人の例が挙げられています。

エストロゲンと黄体ホルモン併用療法は日本乳癌学会、日本産婦人科学会ともに乳がんの発生リスクが上昇するという見解で一致しています。

研究結果では、ホルモン補充療法を行った人は行わなかった人に比べて乳がんを発症する危険性が1.26倍になったとするものがあります。

ホルモン補充療法は更年期障害の症状を緩和する有効な方法ですが、乳がんを発症する可能性をわずかながら上昇させます。更年期障害の治療は症状の緩和と乳がんへの影響などのバランスを理解したうえで行うことが重要です。

参考:乳癌診療ガイドライン産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2014JAMA. 2002;288:321-33

喫煙は多くのがんの発生に関係しています。肺がんとの関係については聞いたことがあるかもしれません。乳がんも喫煙によって発生しやすくなると考えられています。喫煙と乳がんの関係を観察したある研究では、喫煙者は非喫煙者に比べて乳がんを発生する危険性が1.7倍になっていました。さらに細かく調べると以下の関係も見つかりました。

  • 喫煙期間が長いほど危険性が上昇する
  • 一日に吸うたばこの本数が多いほど危険性が上昇する
  • 受動喫煙も乳がんの発生に関与している可能性がある

喫煙は乳がんの発生に関連しています。加えて喫煙は肺や心臓など多くの臓器に悪影響があります。乳がんだけでなく健康維持のためにも禁煙をお勧めします。

参考:http://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/787.html

世界がん研究基金(World Cancer Reserch Found)の見解では、飲酒は乳がんの発生に強く関連があるとされています。またアルコールの量が増えれば増えるほど乳がん発生の危険性が増加するとされています。

その一方で、日本人に対しての調査では飲酒と乳がんに関連がなかったとする報告もあります。しかしそのような研究の数は多くはなく、現時点では日本人だけが例外と考えるには証拠が不十分です。

そのため、世界がん研究基金の報告に基づいて、飲酒は乳がん発生の危険性を増加させると考えておくのが妥当だと考えられます。

お酒には生活を楽しくしたり人間関係を円滑にする効果もありますが、飲み過ぎは体に悪いです。乳がんの危険性という観点からも、お酒は飲み過ぎないことをお勧めします。

参考:Report Adds More Evidence to Link Between Breast Cancer Risk and Drinking Alcohol

肥満は乳がんの発生を増加させます。ただし、ここで言う「肥満」とはBMIが30以上という高度な肥満を指します。

BMIは体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]で計算されます。BMI30というのは、身長160cmであれば体重76.8kgに相当します。

肥満は多くの病気との関連があります。乳がんと肥満の関連性についても研究があります。日本人を対象とした研究の結果を紹介します。

この研究では、肥満と乳がんの関係は閉経の前後で分けて検討しています。閉経を境にしてホルモンのバランスが大きく変わり、乳がんの発生にも影響すると考えられるからです。研究結果は次のようなものでした。

  • 閉経前の女性のうちBMIが30以上の人では、普通体重(BMIが18.5以上25未満)の人に比べて乳がんが発生する危険性が2.41倍
  • 閉経後の女性のうちBMIが30以上の人では、普通体重の人に比べて乳がんが発生する危険性は6.24倍

この研究は閉経前後に関わらず肥満が乳がんの発生を増加させることを示唆しています。肥満は乳がんだけではなく、生活習慣病に代表されるようにさまざまな病気の発生に影響を与えます。該当する人は食事療法や運動療法によって、なるべく肥満を解消してみてください。

参考:Cancer Cause Contorol. 2013;24:1033-1044
 

乳がんには遺伝が関係しています。肉親に乳がんになった人がいる人は、肉親の誰も乳がんになっていない人よりも乳がんにかかる危険性が高いことがわかっています。乳がんの原因となるいくつかの遺伝子も明らかになっています。

乳がんのうち5-10%が、遺伝性乳がんと呼ばれるものです。遺伝性乳がんは、原因として明らかに関わる遺伝子変異が特定されています。ここでいう遺伝は乳がんの発生と関係が明らかな遺伝子変異が確かめられる場合を指します。それ以外の乳がんは、環境の要素や今は明らかではない遺伝子変異が強く関係していると考えられます。

乳がんの中でも遺伝性乳がんは多いとは言えません。近親者で乳がんになった人が複数いても遺伝性乳がんとは限りません。

乳がんの発症と関わりが強い遺伝子変異が自分にあるかを調べることはできます。しかし、遺伝子検査で得られる情報は、自分だけでなく親族にも関わる、とても繊細な情報です。遺伝子検査をするかどうかの判断には専門家とよく話し合うことが必要だと考えられます。

近親者に乳がん患者がいる場合の乳がん発生のリスク

親、姉妹、子供が乳がん 2.1倍
母親が乳がん 2.0倍
姉妹が乳がん 2.4倍
娘が乳がん 1.8倍
母親と姉妹が乳がん 3.6倍

参考:Int J Cancer.1997;71:800-9

乳がんの原因の一部は遺伝です。しかし、これは家族が乳がんになったら必ず自分も乳がんになるという意味ではありません。遺伝の影響によって乳がんが発生するかどうかは、あくまで確率の問題です。

遺伝性乳がんが心配な場合は、専門的な知識を持つ医師に相談してみることが重要です。遺伝性乳がんが疑われる場合には遺伝子検査を提案されるかもしれません。遺伝子を調べると、本人のみならず家族が将来発症する可能性のある病気が明らかになることがあります。

遺伝子検査を受けることは本人のみならず家族にとっても大きな決断になります。遺伝子検査を受けるにあたっては十分なカウンセリングを受ける必要があります。カウンセリングでは遺伝子検査の結果にどう対応するのかまでしっかりと聞いておくことが重要です。

乳がんと食事の関係については、様々な研究が行われています。いくつかの食品は乳がん予防になる可能性が報告されています。

以下で個別の例を解説しますが、前提として食事は日々の栄養バランスを保つことが第一です。食事と関係する病気は乳がんだけではありません。乳がんへの影響を気にするあまり栄養バランスを崩してしまっては本末転倒です。

また、食事が乳がんに影響する強さはわずかです。乳がんのリスクを下げる食事に長年努めることで、乳がんになる確率は下がるかもしれませんが、確率が下がってもゼロにはなりません。どんなに気を付けても乳がんになるときはなります。反対に、乳がんとの関係をまったく気にせず食べていたとしても、一生乳がんにならない人のほうが多数です。

以下の情報を実際の食生活に応用しようと思うときは、栄養、乳がんとの関係の弱さ、好きなものを食べられる楽しい生活とのバランスを考えて、個人や家族の価値観に基づいて判断してください。

大豆製品にはイソフラボンという物質が含まれています。イソフラボンは乳がんの発生を抑制する可能性が推測されています。

乳がんの発生にはエストロゲンが関与しています。イソフラボンはエストロゲンに似た化学構造を持つ物質です。イソフラボンが体内に取り込まれると、体の中でイソフラボンはエストロゲンと同じような働きをします。イソフラボンはエストロゲンと競合して働くので、エストロゲンの乳がん発症に関わる機序を抑えると考えられています。この作用の方法から大豆(イソフラボン)は乳がんを発症する危険性を下げるのではないかと推測されています。

参考:Asian Pac J Cancer Prev.2013;14:2407-2412

イソフラボンの効果についての研究は、主に大豆などの食品の摂取量に着目して行われています。イソフラボンのサプリメントを飲むことで乳がんを防ぐ効果は証明されていません。また、サプリメントの安全性も明確ではありません。イソフラボンを積極的に摂りたいと思うなら、通常の大豆食品から摂取することが良いと考えます。それでもイソフラボンサプリメントを試してみたいという人は、内閣府食品安全委員会が勧めるイソフラボンサプリメント等の摂取量が「1日あたり30㎎以下」であることを念頭において、サプリメントを生活に取り入れてみてください。

乳製品の摂取を多くすると乳がんの発生を抑制する可能性があります。

乳製品の摂取量と乳がんの発生について調べた研究があります。乳製品の摂取量が多い人と少ない人を比べたとき、乳製品の摂取が多い人のほうが乳がんの発生が少なかったという結果でした。

ただし、乳製品という言葉には多くの食品が含まれます。一口に乳製品と言っても種類も違えば製造の方法も違うので、どの種類のものをどれほどとればよいかは明らかではありません。また乳がんが発生する確率に差があるとしても、「乳製品を食べれば乳がんにならない」と言えるほどの差ではありません。少なくとも乳製品によって乳がんの発生が増えることはないと考えられます。

食事は日々の生活のための栄養バランスを保つことがまずは大切です。乳がんを恐れるがために食事のバランスを崩して体調不良の原因になっては本来の意味を失ってしまいます。乳製品の影響にこだわらず、バランスの良い食事を心がけることが重要です。

参孝:Breast Cancer Res Treat.2011;127:23-31