高齢者の肺炎には特徴はあるの?誤嚥性肺炎など
高齢者の肺炎にはどういった特徴があるでしょうか?考えていきましょう。
1. 高齢者の肺炎の特徴
高齢者の肺炎は通常の肺炎とは特徴が異なります。
どういった違いが考えられるでしょうか?
- 高齢者の肺炎では誤嚥性肺炎(飲み込む時にものが気管に落ちることが原因となる肺炎)が多い
- すでに肺や心臓に持病のあることが多い
- 体力が落ちているため肺炎になると重症になりやすい
- 原因となる微生物に偏りがなく多彩である
2. 誤嚥性肺炎について
誤嚥性肺炎という言葉はよく聞かれます。
しかし、どういったことが起こっている肺炎なのかを正確に言える人は多くないでしょう。
誤嚥性肺炎はどんな肺炎なのでしょうか?
誤嚥性肺炎とは?
ものを飲み込む動作を嚥下(えんげ)といい、この動作がなんらかの理由でうまくいかなくなることを嚥下障害といいます。
また、嚥下障害によりものが食道の方に行かずに気管に落ちてしまうことをを誤嚥(ごえん)といいます。
誤嚥性肺炎と聞いたら、ものを食べたときに食べ物が肺に落ちて肺炎になると思う方は多いでしょう。もちろんこれは正解なのですが、誤嚥性肺炎は食事をとったとき以外でも起こります。それはどういった時なのでしょうか?
高齢になって飲み込みが悪くなると、つばを飲み込んだときに胃にうまく流れなくて、つばが気管の方に落ちてしまうことがあります。実はこれも誤嚥性肺炎を起こします。
では、どんな場面があったら誤嚥性肺炎が要注意なのか考えてみましょう。
どんなときに誤嚥性肺炎は要注意?
食べ物やつばが気管の方に落ちるとむせて咳き込みます。こうしたむせるタイミングは非常に要注意になります。
しかし、意外に知られていないのがむせてない時にも誤嚥性肺炎は起こるということです。飲み込みの機能が落ちるとむせが多くなります。ただ、さらに飲み込みの機能が落ちると、ものが気管に落ちてきても反応することがむるかしくなることで、むせることすらできなくなるのです。
では一体どういった人は誤嚥性肺炎に注意しなくてはならないのでしょうか。
- 高齢者
- 早食いの人
- 脳梗塞を患ったことのある人
- 首や肺に
がん のある人 - 動脈瘤のある人
これらにあてはまる人は誤嚥性肺炎の危険性が高くなりますので、肺炎の症状(「肺炎の症状はどんなもの?大人と子供の症状に違いはあるの?」の項を参考にしてください。)が出てきた場合は医療機関にかかるようにしたほうが良いです。
3. 誤嚥性肺炎の治療
誤嚥性肺炎になった場合は治療が必要です。通常の肺炎と同じく
ただし、口の中の
誤嚥性肺炎の治療で実際に使われる抗生剤
嫌気性菌と呼ばれる細菌が口の中に多いため、これをカバーするためにアンピシリン・スルバクタム(スルバシリン®)やクリンダマイシン(ダラシン®)を使うことが多いです。
また、誤嚥性肺炎を繰り返すような人には、
誤嚥性肺炎の治療で心がけるべきこと
誤嚥性肺炎の場合は、抗菌薬治療だけでは不十分です。誤嚥が起こらないように努めないと遅かれ早かれまた誤嚥性肺炎が起こるので、これを予防する方法を考えることも重要になります。
次に、実際の予防策を述べていきます。
4. 誤嚥性肺炎にならないために
誤嚥性肺炎を予防するにはいろいろな方法が言われています。
- 早食いを改める
- 飲み込みやすい食べ物を摂るようにする
- 飲み込みのリハビリテーションを行う
- 薬で飲み込み機能を改善する
誤嚥性肺炎は高齢者に特に多く、再発を繰り返すため、予防が非常に重要になります。
誤嚥性肺炎の予防法としては、食後すぐに横にならずに2時間ほど座ったままでいたり、食後に歯を磨くなどして口内を清潔に保ったり、リハビリで飲み込み動作を改善したりするなどの方法があります。
飲み込みやすい食べ物とは、柔らかいもの・とろみの付いたもの・小さく刻んだものを指します。飲み込みやすくとろみを付けるための補助食品も販売されていますので、誤嚥を繰り返す人は利用すると良いでしょう。
次に飲み込み機能が改善することが期待されている薬について具体的に述べていきます。
誤嚥を予防することが期待されている薬
誤嚥の予防法では、薬も一つの選択肢になります。どういった薬が使われるのでしょうか?
専門的な話になります
- ACE(アンジオテンシン変換
酵素 )阻害薬
血圧を上げたり、心臓を酷使する原因となる体内物質のアンジオテンシンの働きを抑えることで、血圧を下げたり心不全などの治療薬として使われている薬です。
誤嚥は嚥下反射や咳反射が鈍ると起こりやすくなりますが、ACE阻害薬は咳の反射を司る
- シロスタゾール(商品名:プレタール®など)
血液を固まりにくくしたり、血管を広げることで
嚥下と咳の反射を司る主な神経伝達物質のドパミン合成を維持する働きもあります。また、サブスタンスPの産生を維持する働きもあらわすと考えられていて、誤嚥予防に有効とされています。
シロスタゾール製剤には
- アマンタジン(商品名:シンメトレル®など)
神経伝達物質のドパミンの働きを改善することで、パーキンソン病や脳梗塞の後遺症に伴う意欲低下などの治療に使われている薬です。
ドパミンは誤嚥予防効果も期待でき、特に脳血管障害(脳梗塞や脳出血)がある高齢者の肺炎予防に効果があるとされています。
- 漢方薬
漢方薬の中にも嚥下の改善や胃からの逆流防止などに効果が期待できるものもあります。
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)は喉が塞がる感じやつかえるような症状を改善する効果が期待できる漢方薬です。
胃の蠕動(ぜんどう)運動の不調などで吐き気や胃からの逆流が原因となっているような誤嚥には、六君子湯(リックンシトウ)や茯苓飲(ブクリョウイン)といった漢方薬が有用とされています。
その他にも、大建中湯(ダイケンチュウトウ)、十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)などの漢方薬が患者ごとの症状や体質などに合わせて誤嚥性肺炎予防に使われることがあります。
この他、胃からの逆流による誤嚥に効果が期待できるモサプリド(ガスモチン®など)、サブスタンスPなどを増やして咳を誘発することで誤嚥予防の効果が期待できる唐辛子成分のカプサイシン、嚥下や咳の反射を司るドパミンの合成に深く関わる
5. 高齢者の肺炎に多い微生物
通常の肺炎を起こしやすい微生物は
誤嚥性肺炎では、これらの菌に加えて口の中にいる常在菌(いつも存在する細菌のことで、病気でない健康な状態でも存在する。)も原因となります。
実は口の中の常在菌が肺炎に関わることで、通常の肺炎に効果があるはずの抗菌薬が無効であることがあります。そのため、抗菌薬は口の中の常在菌にも効果のあるものを選ぶ必要があります。
6. 高齢者の肺炎で気をつけるべき背景
高齢者はすでに肺に持病があることがあります。
上記のような肺の病気がすでに存在していた場合は、肺炎がなかなか治らないようなことがしばしば起こります。
肺に侵入した肺炎の原因となる細菌がうまく外に出せなかったり、肺の防御機構がすでに弱っていたりすることで、肺炎の治りが悪くなります。
肺の治りが悪いと、肺が化
そうなると数ヶ月単位で抗生剤が必要になることも多いので、肺に持病がある高齢者が肺炎になったら特に注意が必要です。
また、高齢者は症状を感じにくい場合があることも忘れてはいけません。実際に苦しさを感じにくいことに加えて我慢強い人も多いので、せきやたんのある高齢者が家族にいる場合は、いつもとくらべて元気があるのかないのかに注目するようにして下さい。