はいがん(げんぱつせいはいがん)
肺がん(原発性肺がん)
肺にできたがん。がんの中で、男性の死因の第1位
29人の医師がチェック 297回の改訂 最終更新: 2024.03.05

肺がんの原因は?

肺がんは色々な原因で起こります。タバコは非常に有名ですが、それ以外にも肺がんを起こしやすいものが多数言われています。実際どういったものがどのくらいのリスクなのか説明していきます。

1. 肺がんの現状

がんの早期発見および早期治療を目指して、多くの施設でがん検診が行われています。その効果や治療技術の進歩のおかげか、胃がん肝がんなどではがん死亡者数の低下が見られています。

その一方で肺がんの死亡者数は残念ながら上昇しています。

ただし、これにはがんによる影響だけでは語れない要素があります。例えば高齢化が進んでいることも1つの原因と考えられています。年齢の要素を省いた年齢調整死亡率では膵臓がん以外のがんで死亡率が下がっており、肺がんでも進歩が見えています。(がん情報サービスのデータによる)

とは言え、肺がんはがんの中でも死亡率が高いのが現状です。分子標的薬を中心に治療方法の進歩が見られていますので、今後のさらなる治療効果の向上が期待されています。

2. 肺がんの原因は喫煙?

タバコで肺がんになりやすくなることは非常に有名です。国際がん研究機関(IARC)でもタバコの煙は発がん物質と認定されています。また、タバコは吸っている自分だけでなく周囲の人にも悪影響を与えます。副流煙によって周囲の人の肺がんの発症率を増やすというデータが出ています。

タバコを吸うとどのくらい肺がんになりやすくなる?

タバコを吸うと何倍肺がんになりやすくなるのでしょう。なんとなく肺がんが増えることが分かっていても、正確に答えられる人は少ないでしょう。

実際に何倍肺がんになりやすいかをまとめたデータがありますので男女別に下の表で示します。なお、ここで用いているデータは肺腺がんや肺扁平上皮がんなどの全ての種類を足した数字になります。

【喫煙と全肺がんの関係(男性)】

肺がんのリスク

非喫煙者

1.0倍(基準)

喫煙者

4.5倍

禁煙者

2.2倍

【喫煙と全肺がんの関係(女性)】

肺がんのリスク

非喫煙者

1.0倍(基準)

喫煙者

4.2倍

禁煙者

3.7倍

肺がんの中でも、扁平上皮がんや小細胞がんというタイプの肺がんは喫煙の影響を受けやすいことが分かっています。扁平上皮がんと小細胞がんに限ったデータは以下になります。

【喫煙と肺がん(扁平上皮がん+小細胞がん)の関係(男性)】

肺がんのリスク

非喫煙者

1.0倍(基準)

喫煙者

12.7倍

禁煙者

5.1倍

【喫煙と肺がん(扁平上皮がん+小細胞がん)の関係(女性)】

肺がんのリスク

非喫煙者

1.0倍(基準)

喫煙者

17.5倍

禁煙者

10.9倍

明らかにタバコの肺がんに与える影響が見える結果になっています。

タールが少ないタバコでも肺がんになる?

タール1mgのタバコを吸っている人でも肺がんになります。しかし、タールの量と肺がんになりやすさに関しては、正確なデータがないというのが現状です。また、近年電子タバコを吸う人が増えています。電子タバコは通常のタバコより有害物質である一酸化炭素を減らすことがわかっていますが、実際肺がんをどのくらい減らすのかはまだ正確には分かっていません。

今分かっている範囲では、喫煙の本数と喫煙の年数が肺がんと関係していることです。タバコと肺がんの関係性について以下の表にまとめます。下の表では、肺腺がんや肺扁平上皮がんなどの全ての種類を足した数字を算出しています。

【喫煙年数と肺がんの関係】

喫煙期間

肺がんのリスク

24年以下

1.0倍(基準)

25年以上34年以下

1.9倍

35年以上44年以下

2.8倍

45年以上

4.0倍

【喫煙本数と肺がんの関係】

喫煙本数

肺がんのリスク

1日に19本以下

1.0倍(基準)

1日に20本以上29本以下

1.2倍

1日に30本以上39本以下

1.4倍

1日に40本以上

1.6倍

この表を見れば、タバコを吸う年数が長ければ長いほど、タバコを吸う本数が多ければ多いほど、肺がんになりやすくなる傾向が見えてきます。

禁煙で肺がんが予防できる?

禁煙で肺がんは予防できます。喫煙していても禁煙すれば肺がんのリスクが下がります。しかしその一方で、禁煙してからすぐに肺がんのリスクが元通りになるわけではありません。以下にその表を示します。

【禁煙期間と全肺がんのリスク】

禁煙期間

肺がんのリスク

非喫煙者

1.0倍(基準)

9年以下

3.0倍

10年以上19年以下

1.8倍

20年以上

1.0倍

喫煙によって肺がんになりやすい扁平上皮がんと小細胞がんのみについて見ても、禁煙の効果は顕著に見えます。

【禁煙期間と肺がん(扁平上皮がん+小細胞がん)のリスク】

禁煙期間

肺がんのリスク

非喫煙者

1.0倍(基準)

9年以下

8.0倍

10年以上19年以下

4.0倍

20年以上

1.0倍

禁煙が肺がんを予防する上で良いことは分かっていても、禁煙するには非常に心身の労力を要します。そこで、現在は禁煙補助薬(ニコチン製剤、バレニクリンなど)が充実してきています。是非、こういった薬を使って禁煙を達成しましょう。

タバコを吸わない女性が肺がんになるのはなぜ?

確かにタバコを吸うと肺がんになる確率を高めますが、タバコを吸わない人も肺がんになります。また、タバコを吸わない女性の肺がんのほとんどは肺腺がんです。

肺腺がんは以下の特徴があります。

  • タバコによる影響が比較的小さい

  • 女性ホルモンの影響を受けてがんになりやすい

そのためタバコを吸わない女性でも肺腺がんは生じやすいのです。

タバコを吸わないのに肺がんになってしまうと、やりきれない気持ちになります。しかしタバコを吸わない人は治療で少し有利になる場合があります。肺がんの治療にはEGFR-TKIやALK-TKIと呼ばれる分子標的薬が存在します。この薬はがん細胞に特殊な遺伝子があるときにしか使えないのですが、タバコを吸っていない人のほうがこれらの薬を使える確率が高いということが分かっています。

3. タバコ以外に肺がんの原因はある?

タバコは肺がんの大きな原因ですが、タバコ以外にも肺がんの原因はあります。以下に説明していきます。

ただし、これらの原因のどれがどの程度の割合で肺がんを起こしているのかは、正確には分かっていないものも多いです。

大気汚染物質

ディーゼルエンジンの排気ガスが問題となることがありましたが、最近では特にPM2.5が話題となっています。

PM2.5は非常に小さい粒子で、大気中に浮遊している2.5μm(マイクロメートル、1μmは1mmの千分の1)以下の小さな粒子のことを指します。大気を浮遊して人体への悪影響を与えうる微物質として、以前は10μm以下の粒子である浮遊粒子状物質が注目されていましたが、それよりも4分の1の小ささの物質になります。

PM2.5のどこが問題なのかと言うと、物質の大きさが非常に小さいことです。

  • 小さいため肺の奥深くまで入りやすい

  • 小さいためマスクなどで遮断しにくい

つまり有害物質が肺の奥まで入り込んでくるため、身体への悪影響が出やすくなります。

アスベスト

主に断熱材として壁などにアスベストが用いられていましたが、1975年に吹付けアスベストが国内で禁止となった経緯があります。ただ、それまでにアスベストのある環境で生活していた人では、肺がんや悪性中皮腫などの発症が多くなっています。

アスベストは国際がん研究機関(IARC)の発がん性物質分類でグループ1(発がん性物質である)に位置づけられており、できるだけ環境に置かないようにするべき物質です。しかし、1975年より前には禁止されていませんでした。1975年より前に建てられた建築物が近くで改装あるいは解体されている際には、マスクをしてできるだけ空気を直接吸わないように気をつけてください。

女性ホルモン

女性ホルモンによって肺腺がんが起こりやすくなります。近年、肺腺がんの発症に女性ホルモンが関与していると考えられています。

閉経の遅かった人や女性ホルモンのピルを飲んでいる人に肺腺がんが多いことが分かっています。閉経が遅いということは、体に女性ホルモンが多い期間が長いということです。ピルを飲んでいても女性ホルモンが多くなります。そこで、女性ホルモンと肺腺がんの関係が疑われています。

現在では少しずつ状況が解明されてきつつあり、特に女性ホルモンのエストロゲンが体内で作られるのに必要な遺伝子が関与しているのではないかと考えられています。

慢性肺疾患

慢性的な肺の病気を持っている人に肺がんは起こりやすいです。特に、慢性閉塞性肺疾患COPD)と呼ばれる病気は要注意です。

COPDはタバコやその他の有害物質を含んだ空気を吸うことで肺に慢性的な炎症が起こる病気です。肺の細胞が有害物質によって直接ダメージを受けるだけでなく、慢性的な炎症を抑えるときに生じる活性酸素も、正常な肺の細胞を傷つけてしまいます。傷ついた肺の細胞は修復されますが、何回も修復しているうちにいつしか化してしまうと考えられています。

肺結核

あまり知られていませんが、肺結核になると実は肺がんにもなりやすくなります。

肺結核になると肺の細胞に大きなダメージが与えられてしまいます。肺結核は自然に完治することは少なく、治療しても最低6ヶ月はかかるような治りにくい感染症です。つまり、持続的に肺の中で感染による炎症が起こるため、慢性的に肺の細胞が傷ついてしまいます。

肺結核と診断されてから2年以内では、肺がんになるリスクはおよそ5倍になると言われています。また、2年以上経って結核の影響が治まってからも、肺がんのリスクはおよそ1.5-3.3倍になっていると言われています。

食生活は肺がんの原因になる?

明らかに肺がんを起こすと考えられている食事はありません。ただし、国際がん研究機関 (IARC)が認めている発がん性物質は食べ物の中にも存在します。

基本的にカロテン類はがん予防に効果的ですが、フィンランドや米国の調査によると喫煙者にβ-カロテンを投与すると逆に肺がんのリスクが大きくなる、と報告されています。

しかし、その要因として「βカロテンの投与量が多すぎた(一般的な食事で摂取する量の10倍)ため、かえって有害になった」「喫煙という酸化ストレスのかかった状況では、βカロテンは酸化を抑制するのではなく、かえって促進する作用が生じた」等があげられ、現在でも議論が続けられています。

β-カロテンはがん予防に良いとされる野菜に含まれる成分であるため、摂取を控えることは難しいです。食事を過敏に警戒するよりも、サプリメントを大量に飲むなどして必要以上に摂取することに気をつければ良いのではないかと考えます。

エアコンは肺がんの原因になる?

エアコンをつけたほうが肺がんになりやすいという確かなデータはありません。むしろ部屋の中が暑いのを我慢して熱中症になったりしたら何をしているのか分かりません。肺がんを予防するためにエアコンを使わないようにする必要はありません。

エアコンが肺がんに影響を与えるとしたら、エアコンの中がカビやほこりなどで汚くなっているときです。エアコンの中が汚いと、その汚い物質が空気中に飛び出してきます。すると、呼吸するたびに肺に取り込まれてしまい、肺にアレルギーが起こることがあります。過敏性肺臓炎好酸球性肺炎といった病気が肺のアレルギーによって引き起こされて、エアコンが汚いままだとそのまま症状が持続します。

すると慢性的な肺の病気になってしまうため、上で述べていたように肺がんになりやすくなってしまう可能性があります。これは推論ですので実際に肺がんが増えているかは不明ですが、エアコンが汚いままだと肺の病気になりやすいのは事実です。エアコン内をこまめに掃除したり内部乾燥モードを使ってきれいにしておくことはおすすめできます。

ストレスは肺がんの原因になる?

ストレスの多い人が肺がんになりやすいといった明確なデータはありません。ストレスはがんになりやすいとか免疫力を下げやすいという話はありますし、なんとなく納得してしまいそうな話の流れなのですが、ストレスの感じ方は人それぞれですし、ストレスの全くない人はいないので厳密に比べようがありません。現段階で分かっていることから、ストレスが起こるとどういったことが起こるのか考えてみましょう。

ストレスがかかると交感神経が刺激されます。交感神経が高まると血圧が上がったり脈が早くなったりしますが、体内に活性酸素が多くなることも分かっています。この活性酸素は周囲にある細胞を攻撃してしまうため、体内の細胞がダメージを負ってしまいます。ダメージを負った細胞は修復されますが、何度も何度もダメージを負って修復される過程を繰り返していくうちに、がん細胞が生まれてしまう可能性があります。

ただ、上の説明はあくまで想像なので、このようにして本当にがん細胞が生まれるかどうかはわかりません。

ストレスは体に悪いものです。肺がんと関係あるかどうかは不明としても、できるだけストレスのない生活を送りたいものです。

4. 肺がんになる人の人数は?

肺がんを患っている人は国内におよそ13万人以上いると言われています。男女の内訳はおよそ男が9万人で女性が4万人です(国立がん研究センターのデータより)。これはがん全体のトップ3(大腸がん、肺がん、胃がん)に入ります。

また、肺がんによる死亡数を見ると、年間で7万7千人が肺がんで亡くなっています。これは全てのがんでトップです。つまり、肺がんが最も患者が亡くなっているがんになります。

最近の変化はどうでしょうか。

肺がんの患者数はここ30年ほど徐々に増えています。高齢化が進んでいますので、高齢者が増えている影響を受けているのは間違いありません。さらに、年齢の要素を抜いても肺がんの患者は増えています。

肺がんの年齢調整罹患率

また、肺がんの死亡者数も増えています。これも高齢化の影響が作用していますので、年齢の要素を抜いて考えなければなりません。

肺がんの死亡者数は年齢の要素を抜くと減っています。

肺がんの年齢調整死亡率のグラフ

つまり、年齢の要素を抜いた肺がんの状況は、患者数はわずかに増えているが死亡者数が減っていることがわかります。この原因には肺がん治療の進歩が考えられます。

5. 肺がんが増加している原因は?

肺がんの患者数は増えています。タバコが肺がんの大きな原因と言われていますが、喫煙率が下がっているのにもかかわらず肺がん患者が増えるのはおかしいと感じる方はいるかもしれません。

それは確かに一見正論です。実際に、年齢の影響を取り去った統計でも肺がんの患者数は僅かではありますが増えてきています。男女別に見ると男性の肺がん患者数は横ばいですが、女性の肺がん患者数は僅かに増えつつあります。

どうしてなのでしょうか?

実は禁煙でもすぐには肺がんのリスクは下がりません。

禁煙期間と肺がんのリスクをまとめた表を下に示します。

【禁煙期間と全肺がんのリスク】

禁煙期間

肺がんのリスク

非喫煙者

1.0倍(基準)

9年以下

3.0倍

10年以上19年以下

1.8倍

20年以上

1.0倍

肺がんのリスクは禁煙の年数が長くなればなるほど下がってきますし、20年禁煙して初めて元通りになることがわかります。つまり喫煙率が減少してから数十年経ってからタバコが原因の肺がんが減ってくることになります。

我が国の喫煙率は年々下がっていますが、禁煙するには非常に心身の労力を要します。現在は禁煙補助薬(ニコチン製剤、バレニクリンなど)が充実してきています。是非、こういった薬を使って禁煙を達成してください。

また、肺腺がんには女性ホルモンが関与していることも、もしかしたら女性の肺がんが増えていることの一因かもしれません。食生活の欧米化や性生活などの環境変化によって女性ホルモンが刺激されている可能性はあります。

とは言え、肺がんの全体数はそこまで増えているわけではないので、このまま禁煙傾向が続けば、肺がんの死亡数はもちろん患者数も減ってくると予想されています。社会全体を考えて、喫煙者は分煙に協力してくださるようお願いします。

6. 肺がんで気をつけたい食生活

肺がんになると食事をとれなくなることがあります。肺がんで食べられないときはどういった食事を取れば良いのでしょうか。また、がんを予防する食事はあるのでしょうか。

肺がん患者の食生活

肺がん患者の食事は、体力維持や治療の効果を高めるためにとても大切です。栄養状態が低下してしまうと、治療の進行を妨げるだけでなく合併症にかかってしまう危険もあります。しかし、手術や抗がん剤放射線療法からくる副作用による様々な症状の影響で、きちんと食事を摂れない患者も少なくないです。

症状別に食事の取り方の工夫をまとめます。

■食欲不振

治療の副作用により食欲が落ちることがあります。食べにくいときは状態に合わせて消化しやすい食事をとると良いです。また、食べることが義務になってしまうとかえって苦痛に感じてしまうため、気分がいいときに食べたいものや好きなものを食べる心持ちが大切です。

◆食欲不振にオススメの食品

  • 餅、おはぎ:エネルギーになりやすく、消化に良い

  • 汁もの:手軽にたくさんの食品が摂れる

  • カレーライス、麺類、酢の物:香辛料や濃い味付けで食欲増進

  • プリン、茶碗蒸し、豆腐、山芋など:タンパク質が豊富でのどごしも良い

◆工夫のポイント

  • 食事は品数を多くし、少量ずつ小さな食器に盛り付ける

  • 味付けは好みに合わせて少し濃いめにし、主食は酢飯にしたり一口大のおにぎり等にする

  • 食べたいと思ったときにすぐに食べられるように、好きなものを手元に用意しておく

■吐き気・嘔吐

 栄養状態の低下や脱水症状を起こすことがあるため、症状に合せて少しでも食事ができるよう工夫が必要。

◆吐き気・嘔吐にオススメの食品

冷たいもの、あっさりとしたもの、口当たりが良く飲み込みやすいもの。

  • 水分の多い果物や野菜(スイカ、みかん、りんご、なし、トマトなど)

  • プリン

  • シャーベット

  • ゼリー

  • 卵豆腐

  • 冷や麦などの冷たい麺類

※脱水対策でスポーツドリンクの利用も良い。

◆工夫のポイント

  • 嘔吐のタイミングを把握して、食べられるときに少しずつ食べる

  • 生活環境のにおいに配慮する(タバコ、化粧品、汗など)

  • 食べられないときは水分だけでも補給する。スポーツドリンクも有用

口内炎

治療中の患者に口内炎ができると、食事が億劫になってしまいます。辛いものや酸味の強いもの、硬く乾燥しているものなど、刺激が強い食品は避けた方が良いです。

口内炎にオススメの食品

  • おかゆ

  • 牛乳

  • バナナ

  • アイスクリーム

  • 冷奴

  • プリン

  • ゼリー

◆工夫のポイント

(1)食事が摂れる場合

  • 熱いものは避け、人肌程度に冷ましてから食べると刺激が少なくなる

  • 塩分や酸味、香辛料を多く含む刺激の強い食べ物や、硬く乾燥しているものは控える。

  • 軟らかく煮込んだり、とろみをつけたり、裏ごしをするなどして口当たりを良くする

  • 味付けは薄くする

  • 食材は細かく刻んだりミキサーにかけるなどして噛みやすく、飲み込みやすくする

  • 流しこめる料理はストローを使用し、口の中に広がらないよう工夫する

(2)痛みであまり食事が摂れない場合

  • 荒れた口内にしみにくい濃厚流動食(バランス栄養飲料)や栄養補助食品を利用する

  • 点滴をしたり、経管栄養(胃や腸の中に管を挿入して栄養剤を注入し、栄養状態を保つ、あるいはよくするための方法)を利用する。※主治医や栄養士に要相談

■味覚障害

抗がん剤や放射線療法の影響で、何を食べても味がしなかったり、砂を食べているような感覚になったりして、味覚が変化することがあります。原因として、味を感じる味蕾(みらい)細胞の再生に不可欠な栄養素(亜鉛、鉄分、ビタミンB12)が吸収されにくくなり、味蕾細胞が減少してしまうことなどが考えられています。また、唾液が少なくなり口の中が乾いていると味を感じづらくなります。

◆味覚障害にオススメの食品

味蕾細胞の再生に必要な栄養素をしっかり摂ることが大切です

  • 亜鉛が多い食品:牡蠣、豚レバー、牛もも肉、豆腐、納豆、黒ごま、ひじき等

  • 鉄分が多い食品:小松菜、ほうれん草、豚レバー、しじみ、ひじき等

  • ビタミンB12が多い食品:さんま、しじみ、あさり、牛レバー等

肉類から金属味がするようになって食べられなくなった場合は、別の食品(チーズ、ヨーグルト、牛乳、大豆・大豆製品など)でタンパク質を摂るようにするのも大切です。

◆工夫のポイント

(1)味を強く感じる場合

  • 強く感じる味を避け、自分に合う味付けを試してみる

  • 食べる直前に自分で味付けできるようにする

  • 肉・魚等はアク抜き・臭み取りを行う

(2)味を感じにくい場合

  • 味付けをハッキリさせる(濃いめに付ける、香辛料・香味野菜を使う等)

  • 塩分を加えたり、だしを効かせたり、ごまやゆずなど香りを添える

  • 料理の温度を人肌程度にする

(3)食品の乾燥、ざらつきが気になる場合

  • あんかけにする、汁物と一緒に食べるなどをして食べ物に水分を補う

(4)苦味を強く感じやすい時

  • 金属製の食具(箸やスプーン等)は苦味を感じる場合があるため、プラスチック製や木製のものを利用する

※肺がんの患者が外科手術をする際に特に気をつけたいこと

肺がんの手術を受けると、長時間体を動かさないでいることで血行が悪くなり、血のかたまりが血管内にできやすくなります。特に動脈硬化が進んでいる人は血管が狭くなっています。動脈硬化が進んでいる人は血のかたまりがさらにできやすいため、脳梗塞心筋梗塞を起こしやすくなります。脳梗塞や肺梗塞心筋梗塞は起こることはまれですが、まれとは言え後遺症を残したり、命に関わることもある重大な合併症です。日頃より、脂質や糖質の多い食事や不規則な食生活を節制しましょう。そうすることで、手術の合併症が起こる確率は下がります。

食事でがんを予防する

がんの原因の35%は食事によるものかもしれないと言われています。普段より規則正しい食習慣を心がけることが大切です。35%というのは肺がん以外のがんも含まれた数字です。規則正しい食習慣を維持することで、発がんリスクを減らすことが期待されます。

【がんの発症予防が期待されている食事や飲酒】

  • 食事
    • 塩蔵食品、食塩の摂りすぎに注意をする
      • 日本人の1日塩分の摂取基準:男性 8.0g未満/女性 7.0g未満、1日の必要量は2.0g
    • 加工肉、赤肉(牛肉、豚肉、羊肉等)の摂りすぎは控える
    • 飲食物を熱すぎる状態で摂らない
    • 野菜や果物をきちんと摂る
      • 野菜の摂取量は1日350g以上を目標とする
  • 飲酒
    • 節度を持って飲酒をする
      • 1日の飲酒量は日本酒1合相当(ビール500ml/焼酎0.6合/ワイン180ml/ウイスキー60ml)が目安

【がんを予防することが期待されている栄養素や食品】

がんを発症させてしまう一因として、活性酸素が挙げられます。活性酸素は、ストレスや喫煙、排気ガスにより発生してしまうため、体内から完全に排除してしまうことはできません。しかし、体内に過剰に発生してしまうと遺伝子を傷つけて細胞をがん化させてしまいます。抗酸化作用のある栄養素を摂ることで活性酸素の害を抑えることが期待できます。

  • 抗酸化作用が期待されている栄養素
    • ビタミンE:モロヘイヤ、赤ピーマン、かぼちゃ、アーモンド等に多い
    • ビタミンC:菜の花、ブロッコリー、レモン、キウイフルーツ等に多い
    • カロテン類:にんじん、かぼちゃ、ほうれん草等の緑黄色野菜に多い
    • 含硫化合物(植物に含まれる香り成分):ニンニク、玉ねぎ、ねぎ、ニラ、キャベツに多い
    • ポリフェノール:ぶどう、緑茶、ごま、ココア、大豆等に多い
  • がん予防に効果が期待されている食品
    • ニンニク、キャベツ、大豆、しょうが、にんじん、セロリ等

これらの食品は抗酸化作用のある栄養素や食物繊維が豊富な食品です。摂取することによりがんのリスクを低下させる効果が期待されています。

もちろん、がんの原因はわかっていない部分が大きいので、どんなに食事に気を付けてもがんになることはあります。しかし、がんになる確率を少し下げる効果はあるかもしれません。

参照文献

Int J Cancer. 2002 May 10