たいじょうほうしん
帯状疱疹
水ぼうそうを起こすウイルスの感染が原因。身体の一部に、帯のように痛みのある赤いぶつぶつができる
22人の医師がチェック 205回の改訂 最終更新: 2024.10.25

耳の水ぶくれは帯状疱疹?痛み・顔の麻痺などラムゼイハント症候群の症状について

耳や顔、首に痛みと水ぶくれが出るラムゼイ・ハント症候群は帯状疱疹(たいじょうほうしん)の一種です。顔面神経麻痺やめまい・耳鳴り・難聴・飲み込みにくさを起こします。後遺症が残ることも多いので、症状に思い当たる人は急いで耳鼻咽喉科で診察を受けてください。

1. ラムゼイ・ハント症候群の症状は耳の水ぶくれ

ラムゼイハント症候群の症状として、痛みや水ぶくれが、顔面や耳に出ます。顔が麻痺して表情が左右で違うなどの症状も特徴です。

  • 顔・耳の痛み
  • 顔・耳のかゆみ
  • 顔・耳の赤い皮疹紅斑
  • 顔・耳の水ぶくれ
  • 顔・耳のかさぶた
  • 顔面の麻痺
  • 口の開きづらさ
  • 表情の左右差
  • めまい
  • 耳鳴り
  • 聞こえの悪さ(難聴
  • 目の見えづらさ
  • 食べ物をうまく飲み込めない状態(嚥下障害
  • 頭痛
  • 意識がもうろうとする、ぼんやりする状態(意識障害

ラムゼイ・ハント症候群の症状の特徴は?

ラムゼイ・ハント症候群の症状には、以下の特徴があります。

  • 症状は数週間のうちに痛み・かゆみ、赤み、水ぶくれ、かさぶたの順に変化する
  • 症状は顔の左右どちらか片側に出る
  • 症状は1か所の範囲に限って現れ、離れた2か所には出ることは珍しい

ただし、重症の場合では左右両側に症状が出たり、広い範囲に症状が出ることもあります。

ラムゼイ・ハント症候群は、水ぼうそうウイルスが原因で発生する帯状疱疹の一種です。左右片側だけの痛みと水ぶくれは一般的な帯状疱疹と同じ特徴です。

一般的な帯状疱疹の症状について詳しくは「帯状疱疹の画像:初期症状のかゆみ、赤み、水ぶくれとかさぶた」で説明しているので参考にしてください。

ラムゼイ・ハント症候群と普通の帯状疱疹の違いは?

ラムゼイ・ハント症候群には、一般的な帯状疱疹では見られることがほとんどない以下の症状もあります。

  • 顔面が麻痺する
  • 口が開きにくい
  • 表情が左右で違う
  • めまいがする
  • 耳鳴りがする
  • 聞こえが悪い(難聴
  • 目が見えづらい
  • 食べ物をうまく飲み込めない(嚥下障害

ごくまれにですが、ウイルスが脳にまで侵入して脳炎を起こし、意識障害などを起こすことがあります。

ラムゼイハント症候群が特に重要な理由は、帯状疱疹の中でもなかなか完治するのが難しいことです。治る見込み(予後)として、ラムゼイ・ハント症候群に罹患した人の約4割に後遺症が残ります。そのため、素早く原因を見極め、適切に治療してく必要があります。

関連記事:帯状疱疹のウイルスが脳に侵入!脳炎の症状が現れた人の例(参考文献:CMAJ. 2016 Mar 1

ラムゼイ・ハント症候群と間違えやすい「ベル麻痺」とは?

ラムゼイハント症候群と紛らわしい病気に、ベル麻痺特発性顔面神経麻痺)というものがあります。顔面が麻痺する症状は同じです。治療に使う薬が違います。

ラムゼイ・ハント症候群とベル麻痺の最も大きな違いは顔や耳の痛みと水ぶくれです。ベル麻痺では水ぶくれが見られることはほとんどありません。

しかし、ラムゼイ・ハント症候群では水ぶくれは麻痺の症状よりも遅れて出るため、顔面の麻痺の症状だけしか見られていないタイミングで、ベル麻痺なのかラムゼイハント症候群なのかを見分けるのは難しい場合があります。

ベル麻痺は予後が良い(治りやすい)病気です。ステロイド薬と抗ウイルス薬を使った治療で後遺症を減らすことができるという研究報告があります。

関連記事:目を閉じられない、味がわからない…「顔面神経麻痺」の研究、やり直したら違う結果に(参照文献:Cochrane Database Syst Rev. 2015 Nov 9

顔面神経麻痺は脳卒中とも紛らわしい

ラムゼイ・ハント症候群とベル麻痺に共通の症状である顔面の麻痺は、脳卒中脳梗塞脳出血など)でも出る症状であり、区別が大切です。脳卒中では言葉のしゃべりにくさや手足の動かしにくさを伴うことが多いので、顔面の麻痺に加えてどんな症状が一緒に見られているかが参考になります。

関連記事:子どもの脳卒中と間違えやすい病気とは?(参照文献:Neurology. 2016 Jun 7

ベル麻痺について協力医師からのメッセージ:

壮年の方が突然発症するので、脳卒中ではないかと驚かれますが本疾患であればステロイドを内服して経過を見ていれば治ることが多い予後良好な疾患です。最初は絶望的な顔をなさる方が多いですが、焦らずに薬を飲みながらリハビリをしましょう。

2015年3月28日 21:21:18

ラムゼイ・ハント症候群の後遺症とは?

ラムゼイハント症候群ではおよそ4割の人に何らかの後遺症があります。

一般的な帯状疱疹でも出やすい後遺症として、帯状疱疹後神経痛が代表的です。帯状疱疹後神経痛は水ぶくれが消えたあとも残る激痛で、治るまでに数か月から数年かかります。普通の痛み止めの薬が効きにくく、治療が難しいため、神経ブロックなどさまざまな治療法が試されています。詳しくは「イオントフォレーシスなど、帯状疱疹後神経痛の治療を解説」で説明しています。

水ぶくれがきれいに消えず、跡が残ってしまうこともあります。

ラムゼイ・ハント症候群に特有の後遺症として、顔の筋肉が麻痺して表情を作りにくくなったり、まれには失明につながります。また、顔面神経が麻痺することで、唾液が出ると一緒に涙が出てしまう「ワニの涙症候群」という症状もあります。

2. ラムゼイ・ハント症候群の原因は耳に水ぼうそうと同じ水痘帯状疱疹ウイルス

ラムゼイ・ハント症候群の原因はウイルス水痘帯状疱疹ウイルス)です。ラムゼイ・ハント症候群は帯状疱疹の一種なので、「帯状疱疹の原因:加齢・ストレス・疲労・癌でウイルスが再感染」で説明しているのと同じしくみで症状が現れます。

水ぼうそうのウイルスが耳で再び活動するとラムゼイ・ハント症候群に

水ぼうそうに罹患したことがある人の体身体には、水痘帯状疱疹ウイルスが住み着いています。加齢や極度のストレス疲労などで免疫が弱ったときにウイルスが再び活動を始め、症状が現れます。

顔面神経(顔面運動を支配している神経)や内耳神経(聴力や平衡感覚を支配している神経)でウイルスが感染を起こすことにより、顔面や耳の痛みと水ぶくれだけでなく、顔面の麻痺やめまい・耳鳴り・聞こえが悪くなるといったラムゼイ・ハント症候群特有の症状が現れます。

三叉神経の帯状疱疹でも顔の痛みが出る

正確にはラムゼイ・ハント症候群とは違う状態ですが、三叉神経(さんさしんけい)という神経に水痘帯状疱疹ウイルスが感染すると、ラムゼイハント症候群と同じような症状が出現します。顔の皮膚の感覚を伝える役目を担う三叉神経に炎症が起こることで、顔面の腫れと痛み耳たぶの痛みが出現します。人によっては頭痛を感じることもあります。

顔の帯状疱疹によって、目が腫れてものが見えづらくなる場合もあります(眼部帯状疱疹)。この状態になると、治療を行っても失明したり後遺症が残ったりする可能性があります。しかし、

まれな例として、目の帯状疱疹によって脳炎が起こったという報告もあります。

ラムゼイ・ハント症候群はうつる?

ラムゼイ・ハント症候群の原因である水痘帯状疱疹ウイルスは、近づいただけでうつる(空気感染)ことがあるウイルスです。症状があるうちは周りの人にうつさないために、水ぶくれがかさぶたになるまでを目安に、人と接触を避けてください。ただし、理論上は水ぶくれが破れていなければ感染は起こりません。また、ワクチンや感染によって抗体(この場合は水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫力)が十分にある人は感染を過度に心配する必要はありません。詳しくは「帯状疱疹がうつる期間はかさぶたになるまで:赤ちゃん、妊婦は特に注意!」で説明しています。

なお、水痘帯状疱疹ウイルスはヘルペスウイルス科に分類されます。ヘルペスウイルス科には、口唇ヘルペス性器ヘルペスの原因である単純ヘルペスウイルスがありますが、ラムゼイ・ハント症候群のウイルスと厳密には異なります。つまり、ラムゼイ・ハント症候群は口唇ヘルペス性器ヘルペスとは関係ありません

3. ラムゼイ・ハント症候群の治療は耳鼻科で

ラムゼイ・ハント症候群の治療は、原因となる水痘帯状疱疹ウイルスを狙った薬(抗ヘルペスウイルス薬)や痛みを軽くする薬(消炎鎮痛薬やステロイド薬など)が中心になります。適切に治療することで6割ほどの人が完治します

多くの部分は一般的な帯状疱疹の治療と同じです。原因であるウイルスに対する治療として抗ヘルペスウイルス薬を使います。痛みの症状の緩和目的に消炎鎮痛薬やステロイドなどを使います。詳しくは、「帯状疱疹の治療法は?生活での注意、薬の副作用、治療期間について」の項で説明しています。

ラムゼイハント症候群ではさらに、神経症状(痛みや麻痺)の改善を促す意味で、顔を動かしたり、飲み込みの練習をしたりするリハビリテーションが必要となります。手術治療も行われています。

ラムゼイ・ハント症候群に市販薬は効かない?

ラムゼイ・ハント症候群に対して市販薬が十分に有効となることはありません。間違った薬を使うとかえって悪化させてしまう可能性もあるので、薬局で買った薬を塗ったりしないで、早く病院に行ってください。

ラムゼイ・ハント症候群の病院は何科?

ラムゼイ・ハント症候群の治療には耳鼻咽喉科が適しています。早く治療を始めるため、顔や耳の痛みや水ぶくれが出たら、何の病気かわからなくてもまずは耳鼻咽喉科で相談してください。

ラムゼイ・ハント症候群の名医はどこにいる?

ラムゼイ・ハント症候群を耳鼻咽喉科で治療しても帯状疱疹後神経痛が残ってしまい、痛みが十分に取れないと思ったら、「ペインクリニックを紹介してください」と言ってみるのもひとつの方法です。

痛みの治療を専門とするペインクリニックでは、神経ブロックなどさまざまな治療法からひとりひとりに適したものを選んで受けることができます。

ラムゼイ・ハント症候群は再発する?

ラムゼイ・ハント症候群を含む帯状疱疹は、治ったあと4%ほどの人で再発します

ただし、再発が同じ場所とは限りません。再発したときの帯状疱疹は耳に水ぶくれが出るラムゼイ・ハント症候群ではなく、首から下の帯状疱疹であることもあります。

ラムゼイ・ハント症候群に診療ガイドラインはある?

ラムゼイ・ハント症候群の治療については、診療ガイドラインを評価し掲載している「Minds」に掲載されたガイドラインはありません。