たいじょうほうしん
帯状疱疹
水ぼうそうを起こすウイルスの感染が原因。身体の一部に、帯のように痛みのある赤いぶつぶつができる
22人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.05.27

イオントフォレーシスなど、帯状疱疹後神経痛の治療を解説

帯状疱疹の後遺症として特に多いのが帯状疱疹後神経痛です。数ヶ月から数年痛みが持続します。治療には神経に作用する薬があるほか、イオントフォレーシスなども試みられています。

1. 帯状疱疹後神経痛とは?

帯状疱疹後神経痛とは、帯状疱疹の水ぶくれ・かさぶたが消えたあとも痛みの症状が治らないことです。帯状疱疹後神経痛は英語のPostherpetic Neuralgiaを略してPHNとも言います。

帯状疱疹後神経痛の原因は?

帯状疱疹後神経痛の原因は、潜んでいた水痘帯状疱疹ウイルスの感染が激しくなることで、神経の細胞そのものが損傷してしまうからと考えられています。60歳以上の帯状疱疹患者では3分の1に帯状疱疹後神経痛が出現すると言われます。

帯状疱疹の原因について詳しくは「帯状疱疹の原因:加齢・ストレス・疲労・癌でウイルスが再感染」で説明しています。

帯状疱疹後神経痛の症状は?

帯状疱疹後神経痛では、帯状疱疹の痛みと同様に、ピリピリ・チクチクした痛みの症状があります。

神経の細胞は、通常の細胞よりも修復するのに時間がかかってしまうので、この痛みが治まるのに長い時間がかかってしまいます。また、神経の細胞が破壊される痛みは非常に強く、通常の痛み止めではなかなか治らない場合が多いです。

帯状疱疹後神経痛が出てしまうと、適切な治療をしてもしばらく痛みが続きます。症状がある期間は個人差が大きいですが、多くは数ヶ月から数年です。

帯状疱疹後神経痛以外に帯状疱疹の後遺症はある?

帯状疱疹後神経痛以外の後遺症としては、皮疹がきれいに消えずに跡が残ってしまうことがあります。帯状疱疹の自然な経過について詳しくは「帯状疱疹の画像:初期症状のかゆみ、赤み、水ぶくれとかさぶた」で説明しています。

後遺症を残しやすい帯状疱疹、「ラムゼイ・ハント症候群」とは

耳から顔の範囲に帯状疱疹ができる「ラムゼイ・ハント症候群」は特に後遺症が残りやすく、できるだけ早く治療を始めることが必要です。ラムゼイ・ハント症候群ではおよそ4割の人に帯状疱疹後神経痛など何らかの後遺症があります。

顔の筋肉が麻痺して表情を作りにくくなったり、まれには失明につながることもあります。また、顔面神経が麻痺することで、唾液が出ると一緒に涙が出てしまう「ワニの涙症候群」という状態になることがあります。

ラムゼイ・ハント症候群について詳しくは「顔、首、耳に痛い水ぶくれができる「ラムゼイ・ハント症候群」の原因と治療」で説明しています。

2. 帯状疱疹後神経痛を治療する薬の特徴、注意点、副作用

帯状疱疹後神経痛は、主に薬を使って治療されます。よく使われる薬を紹介します。

プレガバリン(商品名:リリカ®)

神経細胞の過剰な興奮を抑えることにより、帯状疱疹後神経痛のように神経の活動によって生じる痛み(神経性疼痛)を抑える薬です。線維筋痛症に伴う痛みなどにも使われます。副作用の眠気めまいなどには注意が必要です。

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名:ノイロトロピン®)

痛みを抑える体内の神経を助ける働きや痛みを引き起こす体内物質(ブラジキニン)を抑える作用などにより、鎮痛効果をあらわす薬です。代表的な鎮痛薬であるNSAIDsやオピオイドとは異なる作用です。

帯状疱疹発症後、6ヶ月以上経過した難治性の帯状疱疹後神経痛に対する改善効果も確認されています。

抗うつ薬

もともと精神神経科領域で使われている薬ですが、神経系への作用により神経性の痛みを和らげる作用も期待できる薬です。

例としてアミトリプチリン(主な商品名:トリプタノール®など)があります。アミトリプチリンは一般的に三環系抗うつ薬に分類される薬です。帯状疱疹後神経痛だけでなく片頭痛などの緩和効果も期待できます。

アミトリプチリンの他、SNRI、SSRIなどの精神神経系の治療薬が痛みを抑える目的で使われる場合があります。

オピオイド(非麻薬性オピオイド)

脳や神経の細胞に作用します。痛みなどに関わるオピオイド受容体に作用することで帯状疱疹後神経痛の緩和が期待できる薬です。

例:トラマドール(商品名:トラマール®、ワントラム®など)

通常の痛み止めで緩和が難しい疼痛に対して緩和が期待できる薬です。

帯状疱疹後神経痛では、電気が走ったような激しい痛みなどの症状があります。特に、神経の異常により痛みに敏感になることがあり、「アロディニア(異痛症)」と言います。トラマドールは神経障害性疼痛におけるアロディニアを抑える作用が確認されています。

トラマドールだけを有効成分とする製剤のほか、トラマドールとアセトアミノフェンを合わせた製剤がトラムセット®配合錠です。両方の薬剤による鎮痛効果が期待できる製剤です。

その他の薬

帯状疱疹後神経痛に対して、ガベパンチン(商品名:ガバペン)などの抗けいれん薬や、局所に貼る硝酸イソソルビドのテープなども使われています。

3. 帯状疱疹後神経痛に使う漢方薬の特徴、注意点、副作用

帯状疱疹後神経痛の治療には漢方薬も使われます。漢方では人が本来持っている自然治癒力を高めることを治療の目的とします。

漢方薬のいいところは?

帯状疱疹後神経痛の治療薬においては、例えばプレガバリン(商品名:リリカ®)など神経に作用する薬がありますが、眠気やふらつきなどの副作用もあります。また高齢や薬に対するアレルギーにより、普通の薬を使いにくいこともあります。このような場合には、一般的に体に穏やかに効果をあらわし副作用も少ないとされる漢方薬に有利な点があります。

葛根湯(カッコウントウ)

風邪のひきはじめや肩こりなどで使用する漢方薬ですが、帯状疱疹後神経痛に対する効果も期待できます。主に皮膚に熱候がみられる帯状疱疹発症後に用いられるます。場合によっては数ヶ月飲み続けることがあります。

桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)

冷えを伴う神経痛や関節痛に用いる漢方薬で、帯状疱疹後神経痛に対する効果も期待できます。帯状疱疹の早期や皮疹が消えた後に神経痛が残った場合にも使われる場合があります。

牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)

疲れやすく冷えを伴うような下肢の痛みや腰痛、目のかすみ、排尿障害などに使われる漢方薬です。腰周囲の神経領域に残る帯状疱疹後神経痛に対して改善効果が期待できます。

疎経活血湯(ソケイカッケットウ)

17種類の生薬を含む漢方薬。身体を温め、血の働きを助けることなどにより、帯状疱疹後神経痛の改善効果が期待できます。

抑肝散(ヨクカンサン)

神経症、不眠症、認知症(周辺症状)などへ使われている漢方薬です。神経活動の興奮抑制、神経細胞保護作用などにより疼痛抑制作用をあらわすとされ、帯状疱疹後神経痛にも適しています。

漢方薬にも副作用がある?

漢方薬には一般的に副作用が少ないと言われますが、副作用が全くないわけではありません。漢方薬に対してアレルギーがあらわれることも非常に稀ではありますが考えられます。

また症状や体質などに合わない漢方薬を使ってしまった場合、例えば、お腹が緩い人が下剤としての作用がある大黄(ダイオウ)などを使用した場合は、下痢などの可能性があります。

副作用としては、葛根湯に含まれる麻黄(マオウ)という生薬により、まれに不眠食欲不振といった症状があらわれます。

また多くの漢方薬に含まれる甘草(カンゾウ)は、過度に摂取することにより偽性アルドステロン症を起こし、しびれなどをあらわす可能性もあります。甘草に含まれるグリチルリチンという成分を含む薬(例:グリチロン®など)との飲み合わせには特に注意が必要です。

万が一副作用が出ても服薬を中止すれば問題ないとされています。

4. 帯状疱疹後神経痛を治療する神経ブロック(局所麻酔)とは?

帯状疱疹後神経痛では薬を使っても痛みが残ることが多く、痛み止めの薬のほかに神経ブロックなどの治療法が使われます。神経ブロックは痛みの信号が神経から脳に伝わってくるのを麻酔薬で止める治療です。

神経ブロックで帯状疱疹後神経痛が和らぐメカニズム

痛みの感覚は、体の傷付いた部分で生まれます。体が傷付いていることを感知した神経細胞は電気信号を作り出し、頭(大脳皮質体性感覚野)に向かって信号を送り出します。痛みの信号が大脳まで伝わることで、我々は痛みを認識します。

痛み刺激が脊髄・視床を通り大脳皮質体性感覚野に届く経路の模式図

つまり、痛み刺激は痛みの原因→脊髄→視床→大脳と流れて伝わっていくのです。帯状疱疹による痛みや帯状疱疹後神経痛に対する神経ブロックは、麻酔薬を用いて主に脊髄に伝わる手前で痛みが伝わるのを防ぎます。

帯状疱疹による痛みが出現した段階の早期から神経ブロックを行うことで、帯状疱疹後神経痛への移行を予防する効果も報告されています。

副作用として、注射を刺す部分の痛みや腫れが出ることがあります。鎮痛薬を全身投与するよりも副作用が出にくいことが利点です。神経ブロックは保険適応の治療になります。

5. 帯状疱疹後神経痛の新しい治療法、イオントフォレーシスとは?

イオントフォレーシスは、薬剤を浸透させたパッドを皮膚表面に張り付けて通電することによって、イオン化した薬剤を電流に乗せて深い部分へ浸透させます。ペインクリニックでは、イオントフォレーシスを鎮痛薬に用いて帯状疱疹後神経痛を治療していきます。

通常の貼り薬と比べて、深い部位でも薬剤をしっかりと到達させられるため、大きな効果が見込まれます。イオントフォレーシスはまだ新しい治療ですので保険適応外ですが、痛みを伴わないことと副作用が出にくいことがメリットになります。

6. 帯状疱疹後神経痛を治療する低出力レーザーとは?

帯状疱疹後神経痛に対するレーザー治療は、痛みのある部位にレーザーを当てて痛みを緩和するのが狙いです。

そのメリットは以下のように考えられています。

  • 知覚神経抑制作用:痛みを感じることを抑制する。
  • 交感神経興奮改善作用:痛みで高ぶった気持ちを落ち着かせてリラックスさせる。
  • 血行改善作用:血行を改善して、神経細胞が治るのを助ける。

低出力レーザー治療は保険適応外ですが、痛みの強い人の通常治療に追加する治療として注目され始めています。

7. 帯状疱疹後神経痛は何科?名医はどこに?

帯状疱疹後神経痛を治療するために、最初に行った病院・クリニックで痛みが十分に取れないと思ったら、「ペインクリニックを紹介してください」と言ってみるのもひとつの方法です。

痛みの治療を専門とするペインクリニックでは、神経ブロックなどさまざまな治療法からひとりひとりに適したものを選んで受けることができます。

帯状疱疹後神経痛の名医はいる?

なかなか治らない帯状疱疹後神経痛は、最先端の医学研究でもいまだに解決していない難問です。ペインクリニックなどで痛みの治療を専門とする医師に相談すれば、現時点の知見をもとに自分に合った治療法を選べる可能性は大きいでしょう。最初に行った病院で治療に満足できなかったときは、「痛みの治療に詳しい先生に紹介してください」と相談することができます。

しかし、帯状疱疹後神経痛を「確実に・すぐに」治せる名医は存在しません。

帯状疱疹後神経痛に鍼灸は効く?

医学研究では帯状疱疹後神経痛に対する鍼の効果は確かめられていません

ただし、針治療(鍼)は帯状疱疹など神経が原因の痛みに対して多くの研究で試みられています。対象とする病気によっては鍼が痛みを軽くしたとする研究結果もあり、有望と考える研究者もいる分野です。

参考文献:PLoS Med. 2005 Jul

帯状疱疹後神経痛は食事で治る?

編集部が調べた限りでは、帯状疱疹後神経痛に効果がありそうな食事は見つけることができませんでした。食べやすいものをバランスよく食べて体力をつけることが、ほかの病気にかからず帯状疱疹後神経痛の治療を続けるためには良いことと言えるでしょう。

帯状疱疹後神経痛の診療ガイドラインはある?

帯状疱疹後神経痛の治療についての質の高いガイドラインはないため、今後の知見の集積が期待されます。