にんちしょう
認知症
記憶障害や、物事を頭で処理する際の段取りや計画を行う能力の低下
10人の医師がチェック 161回の改訂 最終更新: 2024.02.16

認知症の検査:CT検査・MRI検査・心筋シンチグラフィーなど

認知症の原因は多くあり、それぞれで治療法が異なります。原因を調べることは治療法の決定のみならずその後の経過を予測するためにも大切です。ここでは認知症が疑われる際に用いられる診察や検査などを紹介します。

1. 問診:状況や背景の確認

問診は現状を把握することに役立ちます。ここでは問診の内容や流れの例と医師に説明するときの工夫について解説します。

問診の最初では患者さんや家族が、認知機能が低下したことを示唆するエピソードの内容を医師に話します。詳細な方が医師に情報を多く与えられるのでよいのですが、あまりにも詳細な内容ですと心配な症状がどのようなものかがかえって伝わりにくくなったりすることもあるので、まず心配な症状を一言で伝えてそれがどんな形であらわれたかを説明していくとよいでしょう。聞く医師の立場からすると症状については以下のことに注目しています。

  • 受診するきっかけになったのはどんな症状なのか?
    • 例)何度も同じ話をする
    • 例)ついさっき言われたことを忘れている
    • 例)料理の手順がわからなくなった
    • 例)スーパーで同じものばかり買ってしまう
    • 例)よく知っているはずの道で迷う
  • 症状はいつ現れたのか?
    • 急に現れたかそれとも徐々に現れたか
  • 症状がひどくなったり他の症状が現れてきていないか
    • 気持ちの落ち込み
    • 意欲の低下
    • 性格の変化
    • 転びやすくなった
  • 症状は1日のうち変化はあるか
    • 朝と夕では症状に差があるかなど

次に認知症の原因を絞り込むために医師から具体的な質問を受けることがあります。以下は認知症の原因を探るために用いる質問の例です。

  • 過去に治療した病気
    • 入院したことはあるか
    • 手術をしたことはあるか
  • 現在治療中の病気
    • 通院加療中の病気はあるか
  • 内服中の薬について
  • 最近頭を強く打つことはあったか
  • 飲酒はするか
    • 1日の大まかな飲酒量
    • 1週間に何日くらい飲酒するか
  • 喫煙はするか
    • 1日の喫煙本数
    • 喫煙期間
    • 喫煙をやめた場合には以前の喫煙の状況
  • どのような教育を受けてきたか
    • 過去に通った学校など
  • 家族が経験した病気について
    • 血縁の人に脳や神経の病気になった人はいるか

問診だけで認知症の原因を特定できる訳ではありませんが、正確な診断を行う上でとても大事です。例えば認知症の原因の中でも慢性硬膜下血腫という病気は頭を強く打つことで起こる病気です。認知症が現れる少し前に頭を強く打ったなどの出来事があれば慢性硬膜下血腫の疑いを強めることができます。全ての原因をこのように問診から直接的に結び付けられる訳ではないのですが、大きなヒントになることがあります。

問診は医師と話すという緊張感もあってか、診察後に「もっと伝えたいことがあった」と感じることがあると聞きます。確かに病気の可能性について問うているのですから緊張する気持ちはわかります。そんな消化不良な診察を避けるためには予め医師に対して聞いておきたいことや伝えたいことを紙などに書いてまとめておくと聞き漏らし伝え漏らしの予防ができるかもしれません。

問診について解説しましたが長くなったので要点をまとめます。

【問診を受ける上でのポイント】

  • 受診のきっかけになった症状をまず伝える
  • 症状についてはできるだけ具体的に伝える
  • 医師に聞いておくべきこと伝えるべきことはメモなどを利用して漏れなくする 
  • 認知症かもしれないと思った人は一人では診察をうけずにいつも身近にいる家族と受診する

以上のポイントを踏まえて受診する際に役立ててください。

2. 身体診察:状況の客観的評価

身体診察は、病気の状況やそれに影響を与えている身体の状況を客観的に評価します。認知症は様々な原因で起こるので身体診察により身体の中でどんなことが起こっているかを推測することができます。身体診察による客観的な評価は、後に行われる検査でどのようなものが適しているかを判断する材料になります。主な身体診察は以下のものになります。

  • バイタルサインの測定
  • 視診
  • 神経学的診察

以後はそれぞれの身体診察を個別に見ていきたいと思います。

バイタルサインの確認

医療者同士の会話で「バイタル」という言葉が用いられるのを聴いたことがあるかもしれません。「バイタル」はバイタルサイン(vital signs)の略で直訳すると生命徴候という意味の医学用語です。どんな病気の診察でもバイタルサインの測定は欠かすことができません。一般的にバイタルサインは以下の5つを指します。

  • 脈拍数
  • 呼吸数
  • 体温
  • 血圧
  • 意識状態

また身体に酸素が行き渡っているかを調べる酸素飽和度も同様に扱うことが多いです。認知症の診察においては全身状態を把握することに役立ちます。発熱や脱水が起きて身体に深刻な影響を及ぼすと認知症に似た症状が現れることがあります。発熱は体温を測ることで分かりますし脱水は脈の速さや血圧などから推測することができます。

発熱や脱水などが明らかな場合はそれらの影響を考えながらこの後の検査や治療を組み立てます。注射などにより水分を補うと認知症と思われた症状がよくなることも有り得ます。

視診

視診は患者さんの体の状態を観察して外見上の異常がないかを調べます。視診では表情や受け答えの反応なども観察しています。例えば認知症を起こす病気にパーキンソン病があります。パーキンソン病の人は表情に乏しかったり無表情(仮面様顔貌)であったりします。

視診によって得られる情報が病気の診断に大きなヒントを与えてくれることもあります。

神経学的診察

神経学的診察は、脳や神経の状態を医師が体に触れたりすることで調べていきます。認知症は体を動かしづらくなるなどの症状も現れる病気が原因になることがあり、神経学的診察によって神経や筋肉の状態を評価します。神経学的診察は多くの方法があるのでその様子をかいつまんで紹介します。

例えば体に力が入りにくい症状などがあると医師がかけた力に逆らってどの程度の力が加えられるかなどを判断材料にして評価します。徒手筋力テストという方法が最も用いられ、この方法では腕を曲げるようにという指示を出すとともに医師は曲げられないように適度な力を加えます。この医師がかけた力に対してどのくらいの力が発揮できるかを評価の対象にします。

体を動かす神経の評価には神経反射の有無を調べます。体の部分を専用の道具で叩いたり撫でたりして体の反応を観察します。神経の機能に異常が起きていると筋肉の反応がなくなったり逆に過剰な動きをすることがあります。

3. 質問式検査

質問式検査は、認知機能をより詳しく調べるための検査です。ここでは臨床現場でよく用いられる2つの検査方法について解説します。

改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)

長谷川式は質問形式により認知機能の程度を測る検査です。改訂長谷川式認知症スケールは満点30点で20点以下であれば認知症の疑いが強まると考えられています。一方で21点以上であっても認知症の疑いがある場合には続いて詳しい検査が行われることもあります。

ミニメンタルステート検査(MMSE:Mini-Mental State Examination)

ミニメンタルステート検査は、認知機能を簡便に評価できる検査として広く用いられており頭文字をとってMMSEということもあり、11項目からなる質問によって評価を行います。ミニメンタルステートメント検査は、30点満点で23点以下で認知機能に異常があると判断され認知症の原因を調べる検査を行います。

4. 血液検査

認知症の診断を血液検査だけで行うことは一般的ではありません。では認知症の検査では血液検査は必要なのかと疑問に思われるかもしれませんが、血液検査にも大切な役割があります。血液検査では以下の点に注目します。

  • 全身状態・臓器機能に異常はないか
  • ビタミンの欠乏はないか
  • 感染症の可能性はないか
  • ホルモンに異常はおきていないか

稀ですが認知症は腎臓や肝臓の機能が低下することで起こることがあります。腎臓や肝臓の機能がどの程度保たれているかは血液検査で知ることができます。

ビタミンの一部(B1、B12など)が不足すると認知症の原因になることが知られています。体の中にあるビタミンの量は血液検査を使って調べます。

感染症の中には認知症の原因になる病気があり、梅毒HIVなどがそれにあたります。梅毒やHIVは血液検査によって感染しているかを調べることができます。

ホルモンは、体をバランス良く働かせるための物質で脳や甲状腺、副甲状腺、副腎などから放出される物質です。これらのホルモンが体の中に過剰に分泌されたり極端に少なかったりすると認知症の原因になります。

認知症のときに用いる血液検査について解説しました。ここで説明した認知症の原因は、治療によって治る可能性があるものがほとんどです。認知症の原因を調べるときには治療によって治るものを見つけることが大切です。治療が可能な原因がないことをまず確認して、なければさらに専門的な原因を調べる検査に進みます。

5. 画像検査

認知症で画像検査を行う目的は、認知症を起こしている原因を調べるためです。認知症を起こす病気の中には治療をすることで症状が改善する病気があるので、見極めという意味でも重要な役割を果たします。

認知症の画像診断には主に以下のものを用います。

  • 頭部CT検査
  • 頭部MRI検査
  • SPECT検査
  • 心筋シンチグフィー

それぞれの検査について解説します。

頭部CT検査

CT検査は放射線を利用して身体の中を画像化する検査です。認知症では頭部をCT検査することで脳に異常が起きていないかを調べます。頭の中の出血の有無や脳の形、脳の隙間の脳室という部分の観察にCT検査は有効です。

脳の中に出血が見つかる病気の1つに慢性硬膜下血腫があり、これが原因で起こる認知症は手術で血の塊を抜き取ることでよくなります。手術で治る見込みがあると言う点で他の病気と異なるのでCT検査を用いて慢性硬膜下血腫が起きていないかを調べることは大切です。

頭部MRI検査

MRI検査は、磁気を利用した検査で身体の中を画像化することができます。MRIはMagnetic Resonance Imaging(核磁気共鳴画像法)の略です。MRI検査を脳を調べるために用いると頭の中を断面図として観察することができます。

MRI検査はCT検査と違って放射線を用いないので被曝の可能性がありません。一方で、磁気を使うので体の中に金属製の人工物を埋め込んでいる人には注意が必要です。今までに手術をしたりペースメーカーを埋め込んだりしている場合にはその旨を医師に伝えてください。MRI検査が出来ないことがあるためです。

MRI検査はCT検査と比べて検査に要する時間は長く10-20分程度かかります。狭い筒の中にじっとしていなければならないので閉所恐怖症の人も検査が難しいことがあります。MRI検査を行うと脳の萎縮した様子や脳梗塞を起こした様子、脳の間の脳室という部分が拡張した様子などが観察できます。

SPECT検査

SPECT検査は、脳の血流を評価する検査です。SPECTはSingle Photon Emission Computed Tomographyの略で単光子放射線コンピュータ断層撮影が日本語名です。SPECT検査では脳での血液の流れの良い部分と悪い部分を知ることができます。SPECT検査を行うと脳の部分に色が付いた画像で結果をしることができます。血流がよいと赤色に近くなり悪いと濃紺になります。中間の場合は黄色から緑色です。

認知症の代表的な原因には以下の4つがあり、SPECT検査でも特徴が現れます。やや専門的な内容になるのでこの検査の特徴は飛ばして読んでも理解に支障はありません。

【認知症の主な原因とSPECT検査】

専門的な内容ですので難しいかもしれません。知ってほしいことは認知症を起こす病気によって脳の血流が落ちる場所が違い特徴があることです。SPECT検査でそれぞれの病気に特徴的な結果が現れているかをみて診断に役立てます。

心筋シンチグラフィー(MIBGシンチグラフィー)

心筋シンチグラフィーは、心臓を働かせる交感神経の状態を調べる検査です。認知症は脳の病気を原因とすることが多いのになぜ心臓を調べる必要があるしょうか。

心筋シンチグラフィーはMIBGという物質を用います。MIBGという物質は、ノルアドレナリンという物質に類似しており同じように交感神経に貯められたり放出されたりします。MIBGをノルアドレナリンの代わりとして用いることで心臓での交感神経の様子を観察できます。

認知症の原因の1つにレビー小体型認知症というものがあり、心臓での自律神経(交感神経と副交感神経)に異常が起こります。症状などからレビー小体型認知症が疑われる際には心筋シンチグラフィーを行い診断に用います。

6. 髄液検査(脳脊髄液検査)

髄液検査は、文字通り髄液を調べる検査ですが、髄液とは何でしょうか。髄液は、脳脊髄液の略で、脳や脊髄の周りにある液体のことです。髄液の役割は外からの衝撃を吸収して脳や神経を保護したり脳や神経の細胞の浸透圧を保ったりすることなどです。認知症の原因になる脳や神経の病気が起こると髄液に異常が現れるので髄液を取り出して調べることは認知症の原因を特定するのに役立ちます。

参考:認知症疾患治療ガイドライン

認知症で髄液検査が必要な場合はどんなとき?

髄液検査は、認知症が疑われる人全てに行われる訳ではなく、認知症の原因の特定に必要と考えられる場面にのみ用いられます。認知症の原因の多くを占めるアルツハイマー型認知症レビー小体型認知症脳血管性認知症で行うことは稀です。髄液検査は髄膜炎や脳炎、多発性硬化症などが認知症の原因と疑わしい場合に用いられます。

髄液を取り出す方法:腰椎穿刺(ルンバール)

ではどのようにして髄液を身体の外に取り出すのでしょうか。髄液を取り出すには腰椎穿刺(ようついせんし)という方法を用います。腰椎穿刺は医療関係者の間ではルンバールと呼ばれます。

腰椎は背骨の一部で文字通り腰の辺りの部分の骨です。背骨はたくさんの骨が重なり合って出来ており、重なった骨と骨の間に針を通して刺すと髄液が詰まった場所に到達することができ髄液を取り出せます。

腰椎穿刺は、身体の側面を下にして横になった状態で行い、背中側から医師が針を刺します。腰椎穿刺の詳細な情報については「腰椎穿刺の目的、方法、合併症」を参考にして下さい。

髄液検査の結果

髄液は主に以下のような項目が調べられ診断に役立てられます。下の検査項目に関しては専門的な内容になるので、わからない部分は飛ばして下の解説を読んでください。

【髄液検査で調べる主な検査項目など】

  • 髄液圧
    • 正常:70-180mmH2O
    • 異常所見:200mmH2O以上
      • 考えられる主な原因
        • 頭蓋内圧亢進
  • 性状:見た目
    • 正常:水様透明
    • 異常所見:血性(赤い)、キサントクロミー(黄色)、混濁(濁っている)
      • 考えられる主な原因
        • 血性(赤い):くも膜下出血
        • キサントクロミー(黄色):古い出血、黄疸
        • 混濁(濁っている):髄膜炎
  • 細胞数
  • 蛋白(タンパク)
    • 正常:15-45mg/dL
    • 異常所見:増加

髄液検査の結果の特徴からいくつかの病気の可能性を薄くしたり逆に強めたりすることが可能です。しかしながら上のリストをみてもわかるように「この所見があるからこの病気」とは考えられないのもまた難しいところではあります。

上のリストにないものではTPHA法検査(梅毒が疑わしい場合)や、ミエリン塩基性タンパクやオリゴクローナルバンドの測定(多発性硬化症が疑われる場合)なども診断に有用です。