ばいどく
梅毒
梅毒トレポネーマという細菌による感染。ほとんどが性感染症
9人の医師がチェック 82回の改訂 最終更新: 2022.03.04

患者数が急増中の梅毒とはどんな病気か?症状、原因、検査、治療など

性病で有名な梅毒は過去の病気ではありません。近年梅毒患者数は明らかに増えており対策を講じなければなりません。多くの人が梅毒の特徴を知ることで、梅毒を増やさないように気をつけていく必要があります。

1. 梅毒とは?

梅毒は性行為でうつる病気(性病、性感染症)です。性病は知識がないと爆発的に流行することがあります。梅毒の歴史を見ても世界各国で流行した過去があります。

日本では20世紀後半に梅毒患者数は減少していましたが、梅毒患者数の増加が近年報告されています。梅毒はどうして再び流行しだしているのでしょうか。

梅毒の歴史

梅毒の再流行(再興)がなぜ起こっているのかについて考えるために、梅毒の歴史について少し説明を加えます。

梅毒は過去の日本では非常に一般的な流行病でした。昔の書物を見てもあちこちに梅毒は登場しています。史料からは梅毒が性行為でうつることも認知されていたことが伺えます。

世界的には1492年のコロンブスのアメリカ航海が梅毒の歴史的な転機と考えられています。この仮説が正しいかについて確定されてはいませんが、コロンブス一行の船員たちがアメリカの現地民と性交して感染し、母国に持ち帰ったという話です。コロンブス一行が帰国した後からスペインやイタリアで梅毒の流行が起こった事実があり、このことがコロンブスが母国に持ち帰ったという説を後押ししています。

ヨーロッパで梅毒が流行してから間もなくインドや中国や東南アジアでも梅毒が流行し、中国や沖縄(琉球)を介して日本にもわたってきたと考えられています。1512年には日本国内で梅毒発症の記載が確認されており、当時の戦国武将の中にも梅毒に悩む人が少なくなかったようです。

コロンブス一行が世界に広めた仮説が正しいとすると、わずか20年で梅毒は性行為を介して地球を駆け巡ったことになります。性病に限らず多くの感染症は、交通手段の進化にともなって大流行します。特に治療法が確立していない場合では、感染の流行を止めることは非常に困難になります。実際、梅毒に有効な治療薬であるペニシリン系抗菌薬が実用化するまで、人類は梅毒に苦しめられてきました。

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・History of Syphilis. Clinical infectious Diseases 2005;40(15):1454-63.

日本で流行中?梅毒の現状

一方で、日本の梅毒の状況はどうだったのでしょうか。

梅毒は16世紀に流行し始めてから日本国中で猛威を奮ったと考えられています。性行為でうつる病気ですので、特に芸者や遊女の業界(花柳界)に従事する人に流行していたため、当時は梅毒のことを花柳病と呼んでいました。当時は梅毒の治療薬がないため、梅毒の症状がどんどん進行してしまい、鼻が取れたり(ゴム腫)、「発狂」(神経梅毒の症状)したりしてしまう人がいたようです。

梅毒の日本到来から400年以上経って初めてペニシリン系抗菌薬という治療薬が登場します。それ以前に水銀を用いた治療やヒ素を用いた治療薬が登場したこともありますが、有効性は限られ副作用も強いものでした。ペニシリン系抗菌薬のおかげで梅毒は治る病気となったため、梅毒患者数は戦後から激減していきます。終戦直後には年間200,000-300,000人ほど梅毒にかかる患者がいましたが、21世紀になると新たな患者数は年間1,000人を下回る程度で推移していました。しかし、平成25年ごろから年々患者数が増えています。

【梅毒患者数の推移】

梅毒患者数の推移

参考資料:感染症発生動向調査

ごく最近までは男性のHIV感染者に梅毒が多かったのですが、女性の感染も急増してきているため、男女ともに十分注意が必要です。平成29年の梅毒患者数は1月1日から9月24日までで4,086人となっており、早急に対策することが求められています。

梅毒の対策には以下の2つが考えられます。

  • 梅毒にならないように対策する
  • 梅毒に早く気づくように対策する

梅毒にかかったことに気づくためには、梅毒の症状を知っておくことが役立ちます。次の章では梅毒になると出やすい症状について説明します。

2. こんな症状は梅毒かもしれない:梅毒で出やすい症状

梅毒の原因は梅毒トレポネーマという細菌に感染することです。詳細は後述しますが、梅毒トレポネーマに感染したらみんな梅毒という病気になるわけではありません。梅毒トレポネーマに感染した人は自分の免疫力によって自然治癒することも多いですが、一部は免疫システムによって対処しきれず梅毒になります。

梅毒になると全身に症状が出ます。しかし、感染が成立してから経過した時間によって出現する症状が異なることも分かっています。梅毒の時期を大まかに分けると以下のようになります。

  • 早期梅毒
    • 潜伏期間(症状なし)
    • 第1期梅毒(症状あり)
    • 第2期梅毒(症状あり)
    • 潜伏性梅毒(症状なし)
  • 晩期梅毒
    • 第3期梅毒(症状あり)
    • 第4期梅毒(症状あり)

梅毒は時期によって出現する症状が異なります。梅毒の進行とともに出現する症状が変わっていきます。皮膚・粘膜・脳神経などに梅毒の症状が出ることが多いです。詳しくは「梅毒の症状:痛み、かゆみ、ぶつぶつ、鼻の変形、熱など」で説明していますので参考にして下さい。ここでは代表的な症状について説明していきます。

皮膚や粘膜の症状

梅毒では皮疹が出ることが多いです。皮疹(ひしん)とは皮膚の見た目の症状の総称です。梅毒で出現する皮疹は多岐にわたります。梅毒で見られる代表的な皮疹について説明します。

■硬性下疳:第1期梅毒

梅毒に感染してから最初に出る症状は皮膚の硬結(皮膚が固くなること)です。これを硬性下疳(こうせいげかん)といいます。硬性下疳は最初に感染した部位で梅毒トレポネーマが増殖することで起こります。

多くの場合で、男性や女性の陰部に現れますが、ときに唇や口腔内、肛門などにも見つかります。

硬結は軟骨くらい固くなりますが、痛みや違和感などを自覚することはあまりありません。また、数週間で硬結は自然になくなるため、この時期の感染に気付かない人もいます。

■梅毒性バラ疹:第2期梅毒

数mmから1cm程度の大きさのピンクから赤の斑点(紅斑)が全身に出現します。皮疹がバラの色に似ているためバラ疹と呼ばれます。

バラ疹はたいてい数日から数週間で消えます。皮膚の色の変化以外には特に自覚症状がないため、気づかないこともあります。

丘疹性梅毒:第2期梅毒

ばら疹が消えてからしばらくすると、隆起を伴う数mmから1cm程度の大きさの皮疹が出現することがあります。色調は茶褐色に近く、手足を中心に出現します。これを丘疹性梅毒と言います。

■扁平コンジローマ:第2期梅毒

扁平(へんぺい)に隆起したイボが湿っぽくなり分泌液を出す状態になることがあります。この皮疹を扁平コンジローマと言います。分泌物は多くの梅毒トレポネーマを含み、周囲への感染性が高いため注意が必要です。

梅毒の際に出現する皮疹の中でも、扁平コンジローマは梅毒に特徴的です。扁平コンジローマかと思う皮疹が出た場合は梅毒の検査を必ず受けて下さい。

■梅毒性乾癬:第2期梅毒

乾癬は梅毒とは関係ない病気ですが、乾癬に似た皮疹が梅毒によってできることがあります。盛り上がった赤い皮疹が皮膚の粉(鱗屑、りんせつ)を伴うのが特徴です。梅毒性乾癬は手のひらや足の裏に現れることが多いです。

■梅毒性アンギーナ:第2期梅毒

梅毒によって、のどや口の中に口内炎のような粘膜潰瘍が出現することがあります。これを梅毒性アンギーナと言います。

■梅毒性脱毛:第2期梅毒

円形脱毛症のような脱毛が起こります。複数箇所で脱毛が起こり、脱毛した場所が大きくつながることもあります。梅毒の影響が毛包に及んだことによって脱毛が起こると考えられています。

■ゴム腫:第3期梅毒

梅毒が進行すると皮膚から深部に感染の影響が広がります。皮膚や筋肉や骨などにゴムのようなしこり(塊)ができることがあり、これをゴム腫と言います。ゴム腫のできた組織は潰瘍化してから治癒しますが、治癒してからも組織の変形を伴います。鼻の軟骨にゴム腫ができた場合には、鼻が落ちるような変化が起こることが有名です。

脳神経の症状

梅毒は脳神経の症状を引き起こすことがあります。梅毒の初期であっても脳神経を冒すことがあり、梅毒の症状が軽いからといって脳神経症状が出ないとは限りません。梅毒患者の経験する主な脳神経の症状は以下になります。

  • 頭痛
  • 頚部痛(首の痛み)
  • 複視(物が二重に見える、見えづらくなる)
  • 耳鳴り
  • めまい
  • 記憶障害
  • 感覚障害
  • 性格の変化
  • 錯乱

感覚障害や性格の変化、錯乱といった重い症状は梅毒が進行した場合に起こることが多いです。近年は梅毒の治療が確立されているので、よほどの長期間(数年以上)放置しなければこのような深刻な状態にはなりません。現在では梅毒による脳神経症状が出る人はほとんどいません。

全身の症状

リンパ節腫大

硬性下疳が出現したあと数日経ってから硬結周囲のリンパ節(所属リンパ節)が腫れることがあります。このリンパ節腫大は特に痛みを伴わないことが多いです。

また、第2期梅毒では梅毒トレポネーマが全身に広がるため、全身のリンパ節腫脹が起こります。

■発熱

特に第2期梅毒では発熱が起こります。感染による炎症が全身に広がる影響で発熱が起こりますが、発熱を起こす原因は梅毒以外にも多くあるので注意が必要です。例えば単なる風邪でも発熱は起こりますので、他に梅毒を疑うような症状が出ていないかを確認することが大切です。

■関節痛

特に第2期梅毒では関節痛が起こります。関節痛は梅毒以外の病気でも起こるので注意が必要です。例えば単なる風邪でも関節痛は起こりますので、他に梅毒を疑うような症状が出ていないかを確認することが大切です。

倦怠感

発熱や関節痛と同じく梅毒で倦怠感を覚えることがあります。感染による炎症が全身に広がる影響で倦怠感が起こります。しかし、単なる風邪でも倦怠感を感じることはありますので、他に梅毒を疑うような症状が出ていないかを確認することが大切です。

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition
・The Natural History of Syphilis: Implications for the Transmission Dynamics and Control of Infection. Sexually Transmitted Diseases, 1997;24(4):185–200.
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015

3. 梅毒は女性に多いのか、男性に多いのか

梅毒は女性よりも男性に多いです。近年は特に男性のHIV感染者に多く見つかっていました。しかし、最近は梅毒患者が増えている中で、女性患者の人数も決して見過ごせない規模になってきています。2006年には男性441人女性196人の新規患者が報告されていましたが、2016年には男性3,174人女性1,385人の新規患者が報告されました。流行の拡大が数字に表れています。

性行為でうつる病気は、社会全体が対策をとらないと流行を止めることは難しいです。性病について正しい知識を持つことが大切です。

4. 末期の梅毒はどんな状態?

梅毒の末期がどのような状態であるかについて明確な定義はありません。梅毒は感染初期(第1期梅毒、第2期梅毒)→無症状期→感染晩期(第3期梅毒、第4期梅毒)と進行していきますが、無症状期をはさんで出現する症状が変わります。特に第4期梅毒になると大動脈や脳神経に深刻な合併症が出現し、適切な治療をしても元通りに戻ることが難しくなります。この状態を梅毒の末期と考えるのが妥当かもしれません。

運悪く梅毒トレポネーマに感染しても梅毒が末期の状態になる前に治すことが大切です。抗菌薬が登場する前は末期の梅毒に苦しむ人も多い時代が続いていましたが、複数の治療法の確立した現代で末期の梅毒になることはほとんどありません。梅毒をもらうリスクが高いような性生活をしている人や、梅毒を疑うような症状のある人は、医療機関を受診するようにしてください。

5. 梅毒は死ぬ病気なのか?

梅毒を治療せずに放って置いた場合には死ぬことがあります。特に晩期の梅毒になると心臓や脳神経といった極めて重要な臓器に合併症を起こすため、場合によっては命に関わります。しかし、近年では梅毒が晩期に至る前に治療されることがほとんどですので、死に至ることもめったにありません。

梅毒はHIV感染症合併することが多いです。HIV感染症が背景にある梅毒は次の特徴があります。

  • 症状が出にくくなることがある
  • 症状が強く出ることがある
  • 治療になかなか反応しないことがある
  • 感染早期から神経梅毒になることがある
  • 血液検査で不正確な結果が出やすくなる

つまり、HIV感染者の梅毒は検査でなかなかわからない一方で、症状の進行が早く治療効果も乏しい場合があります。その場合は命に関わることがあるので、自分が梅毒かもしれないと思ったタイミングやパートナーが梅毒であることがわかったタイミングで必ず医療機関を受診して下さい。

6. 梅毒の原因は何なのか?

梅毒の原因菌は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)です。梅毒トレポネーマは細菌を分類するのによく行われるグラム染色に染まらない(グラム陰性の)細長いらせん状の細菌です。粘膜や皮膚のわずかな傷から体内に侵入して感染が起こります。その後、血液中やリンパ液中にも侵入し、次第に全身に感染が広がっていきます。

梅毒は性行為でうつるのか?

梅毒は感染者の体液や感染部位に触れることでうつるため、性行為でうつります。そのため、自分が梅毒になっていると気付かないでいると、セックスパートナーにも感染をうつしてしまいます。是非上に書いてある症状を参考にして、自分の症状が梅毒に当てはまるかどうかを確認して下さい。

梅毒の人と性的接触を行なっても必ず梅毒になるわけではありません。早期の梅毒(第1期梅毒、第2期梅毒)の人の体液や感染部位に接触すると、50-75%の人に梅毒トレポネーマの感染が起こると言われています。感染が起こると一部は自分の免疫で治癒しますが、治癒できなかった場合に梅毒となります。梅毒になるのは接触を持った人のおよそ30%と考えられています。

梅毒が疑わしい人と性行為を行ったら検査を受けることが重要です。

  • 梅毒が進行すると症状が重くなる
  • 梅毒が進行すると治療しても後遺症が残ることがある
  • 自分が梅毒になるとパートナーも梅毒になる
  • 梅毒に気づかずに妊娠すると胎児(お腹の子ども)も感染する可能性が高い

これらの理由から、梅毒が疑わしい人が検査を受ける必要性は高いです。検査は血液検査などで比較的簡単に済みますので、担当医に経緯を伝えて検査を受けて下さい。

梅毒を広めないためにはSafer Sex(より安全な性行為)を実践することが効果的です。具体的には以下の方法です。

  • コンドームを正しく使う
  • 不特定多数との性行為を避ける

また、梅毒が疑わしい症状が出たときには受診して検査を行うことも大切です。よほど進行していない限り梅毒は抗菌薬で治すことのできる病気です。梅毒と診断された場合はしっかりと治療しましょう。

治療にあたっては必ずパートナーも一緒に治療するようにして下さい。一緒に治療しないと、せっかく治ってもまたパートナーから感染してしまう可能性が高いです。パートナー同士のとても難しい問題になりますが、根本解決するためには一緒に治療することが必要です。

参考文献
・Update on Syphilis: Resurgence of an Old Problem. JAMA. 2003;290(11):1510-1514.

7. 梅毒を疑ったときに行う検査は?

梅毒の診断をつけるには適切な検査を行うことが必要です。主な検査は血液検査と細菌学的検査になります。各々の特徴を次に説明します。

血液検査:STS法とTP法

梅毒は症状が出ない時期もあり、症状を契機に診断するのが難しいことも多いです。そのため血液を用いて梅毒トレポネーマの感染が起こっているのかどうかを感知する検査を行います。

梅毒を診断する血液検査は2種類あります。非トレポネーマ抗原による検査とトレポネーマ抗原による検査です。難しい話になりますが、前者は梅毒トレポネーマそのものを見ているのではなく、梅毒トレポネーマの感染によって破壊された組織の反応を見ています。一方で、後者は梅毒トレポネーマに対する抗体を測定します。もう少し詳しく見ていきましょう。

■非トレポネーマ抗原による検査(STS法)

STS(Serologic Test for Syphilis)法と呼ばれる検査です。カルジオリピンと呼ばれる物質を用いて、梅毒トレポネーマに破壊された組織の産生する自己抗体を反応させます。

STS法と呼ばれる検査の中でもVDRLテスト(Venereal Disease Research Laboratory)やRPR(Rapid Plasma Reagin)カード法、ラテックス凝集法が有名です。

いずれの検査も測定にかかる時間は10-20分程度です。時間がかからないことが利点です。また、梅毒トレポネーマに感染した初期(数週間程度)から検査が陽性になり、梅毒による炎症がおさまると数値が下がるため、治療効果の判定にも用いることができます。

一方で、梅毒トレポネーマそのものを見ているわけではありませんので、梅毒ではないのに陽性(偽陽性)になる問題があります。特に妊娠や膠原病SLEなど)や肝障害、感染症(麻疹風疹、EBウイルス感染症など)で偽陽性が起こることが分かっています。

■トレポネーマ抗原による検査(TP法)

TP(Treponema pallidum)抗原法と呼ばれる検査です。梅毒トレポネーマに対する抗体の量を測定します。

TP抗原法にはいくつか方法がありますが、TPHA法(Treponema pallidum Hemagglutination)やFTA-ABS(Fluorescent Treponemal Antibody-absorption)法が有名です。

TP抗原法はSTS法よりも梅毒以外の原因で陽性になりにくいという点で、梅毒の診断を確定するのに優れています。しかし、TP抗原法はSTS法よりも梅毒トレポネーマに感染後に検査陽性となるのが遅いことと一度陽性となると治療後も陽性が続いてしまうことが弱点となります。

■血液検査の問題点

梅毒の診断で血液検査は非常に重要である一方で、問題点も抱えています。上で述べたように検査そのものに弱点があります。そのため双方の弱点を補うべく2種類の検査を同時に行うことが一般的です。

2種類の検査の結果が割れるといったことが起こることも少なくありません。そこで2種類の検査結果からどういった解釈をすればよいのかを説明します。

  TP法陽性 TP法陰性
STS法陽性

1)無治療で梅毒に感染している

2)梅毒を治療してから間もない

1)梅毒感染の初期(TP法が陽性になる前)

2)偽陽性(妊娠、膠原病、肝障害、感染症など)

STS法陰性

1)梅毒の治療後

2)梅毒を罹患してから長期間経つため活動性がない

3)ライム病

1)梅毒に感染していない

2)梅毒感染の極めて初期(STS法もTP法も陽性になる前)

上の表にあるように、2種類の血液検査結果における陽性/陰性によって解釈が異なります。血液検査の結果に加えて、患者さんの状態や生活背景から総合的に診断する必要があります。

参考文献
​​​​​​​・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・モダンメディア56巻第2号2010:8-11

細菌学的検査

梅毒患者の症状のある部分から分泌液を採取して、梅毒トレポネーマの存在を顕微鏡で確認する検査です。扁平コンジローマなどの皮疹から分泌液を採取します。

採取した分泌液を検査する方法はいくつかありますので、各々を説明します。

■暗視野顕微鏡検査

光学顕微鏡を用いて生きた梅毒トレポネーマそのものを見る検査です。細長いらせん状の細菌を見つけることができれば梅毒が非常に疑わしくなります。しかし、梅毒に似た形をしたスピロヘータと呼ばれる細菌(梅毒はスピロヘータの一種)と見分けがつかないことが弱点になります。

■塗抹検査

塗抹検査は、採取した分泌液をスライドガラスに塗って特殊な染色をした後に顕微鏡で観察する検査です。鍍銀染色やギムザ染色などがよく用いられます。暗視野顕微鏡検査と同じく、梅毒に似た形をしたスピロヘータと呼ばれる細菌と見分けがつかないことがあります。

■蛍光抗体法

梅毒トレポネーマに対する抗原抗体反応を用いた検査です。梅毒トレポネーマが存在すると蛍光色がつくため顕微鏡で観察すると梅毒トレポネーマかどうかを判定できます。

■遺伝子検査

PCR法という方法を用いて遺伝子を増幅することで、梅毒トレポネーマの遺伝子の存在を確認する検査です。

8. 梅毒と分かったらどんな治療をするのか?

梅毒は治療することのできる感染症です。梅毒の治療は抗菌薬(抗生物質、抗生剤)を用いて行います。主に用いられる抗菌薬は古典的なペニシリン系抗菌薬ですが、アレルギーなどの理由でペニシリン系抗菌薬を使用することのできない場合には、他の抗菌薬が用いられます。

抗菌薬治療について

梅毒の治療に用いられる主な抗菌薬はペニシリン系抗菌薬ですが、それ以外の抗菌薬も用いられます。主に以下の抗菌薬が梅毒の治療に用いられます。

  • ペニシリン系抗菌薬
  • テトラサイクリン系抗菌薬
  • セフェム系抗菌薬
  • マクロライド系抗菌薬

これらの治療薬は特徴が異なります。梅毒に用いられる抗菌薬の使い方について詳しく知りたい方は「梅毒の治療:抗菌薬(抗生物質、抗生剤)は要るのか?入院は必要か?」を参考にして下さい。

ここでは簡単に解説します。

ペニシリン系抗菌薬

ペニシリン系抗菌薬は1928年にアレクサンダー・フレミングによって発見されたことで有名です。古くから存在する古典的な抗菌薬ですが、いまだに重宝されています。

主なペニシリン系抗菌薬は以下になります。

  • ベンジルペニシリン(ペニシリンG)
  • ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン®G)
  • アンピシリン(ビクシリン®など)
  • アモキシシリン(サワシリン®など)
  • ピペラシリン(ペントシリン®など)

梅毒にはこれらの中でもベンジルペニシリンやアモキシシリンがしばしば用いられます。ペニシリンは梅毒に有効であるだけでなく、他にペニシリンが有効な細菌が少ないことから、体内の常在菌を殺さないというメリットもあります。そのため、梅毒の治療の選択肢として最上位に挙がる抗菌薬になります。

ペニシリン系抗菌薬は副作用が比較的少ないですが、使用してから胃腸症状(吐き気、下痢、食欲低下など)や皮膚症状(蕁麻疹、かゆみなど)、アナフィラキシーショック(重度のアレルギー)などが出現することがあります。特に症状が強い場合や息苦しさを感じる場合には医療機関を受診してください。

テトラサイクリン系抗菌薬

梅毒の治療にはテトラサイクリン系抗菌薬の中でもドキシサイクリン(ビブラマイシン®)が用いられます。梅毒の治療では基本的にペニシリン系抗菌薬が用いられますが、ペニシリンアレルギーなどで用いられない場合には、ドキシサイクリンが候補に挙がります。

テトラサイクリン系抗菌薬は梅毒に有効性を持っている一方で、さまざまな副作用が出現するため注意が必要です。

  • アナフィラキシーショック(命に関わることがあるので要注意):じんましん、顔やのどの腫れ、冷汗、手足のしびれ、血圧の低下、ゼーゼー息苦しい、ぼーっとする
  • SLE様症状:筋肉や関節の痛み、体や顔が赤くなる、熱が出る、リンパ節が腫れる
  • 皮膚・粘膜障害:発疹発赤、水ぶくれ、皮がむける、痛み・かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血
  • 血液成分の異常:皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向
  • 肝臓の症状:だるい、吐き気、食欲の低下、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色になる
  • 急性腎不全むくみ血尿、尿が少ない・出ない、だるい、吐き気、頭痛、血圧上昇
  • 間質性肺炎:痰の絡まない咳(空咳)、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱
  • 膵炎:吐き気、嘔吐、背中の痛み
  • 大腸炎:激しい腹痛、下痢、発熱、血液便
  • めまい、フワフワとした感じ、頭痛
  • 光線過敏症
  • 歯が黄色くなる(8歳未満の子ども)

歯が黄色くなる副作用に関しては、8歳未満の子どもはもちろん胎児への影響を考えて妊婦も使わないようにして下さい。

セフェム系抗菌薬

セフェム系抗菌薬はさまざまな細菌に有効なので、梅毒以外の病気でも大変良く使われる抗菌薬です。肺炎尿路感染症などの治療に用いられます。セフェム系抗菌薬の中でもセフトリアキソン(ロセフィン®など)が梅毒の治療にも用いられることがあります。セフトリアキソンを使うのはペニシリンが使用できない場合です。

セフェム系抗菌薬の副作用はあまり多くないですが、使用してから以下のことが出現した際には注意が必要です。

マクロライド系抗菌薬

マクロライド系抗菌薬は日本で非常に多く使われている抗菌薬です。マクロライド系抗菌薬の中でも、アジスロマイシン(商品名ジスロマック®など)は梅毒の治療に用いられます。ペニシリンアレルギーがあってペニシリン系抗菌薬が使用できない場合にアジスロマイシンは重宝されますが、マクロライド系抗菌薬の効かない梅毒トレポネーマの報告もあり、マクロライド耐性梅毒に注意する必要があります。

ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応とは?

梅毒治療を開始してから数時間後に高熱や皮疹、リンパ節腫脹の悪化が見られることがあります。これをJarisch-Herxheimer反応(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)と言います。この反応はペニシリン系抗菌薬で治療した場合に起こりやすいと言われています。

薬剤による副作用と判断が難しい場合がありますが、その場合は治療薬をペニシリン系抗菌薬からドキシサイクリンに変更して反応を確認すると良いです。

梅毒は治療すれば完治するのか?

梅毒は正しい量のペニシリンを正しい期間使用すれば完治します。梅毒が治らないときには以下のことを考えます。

  • 治療方法の問題
    • 正しい量の抗菌薬を用いていなかった
    • 正しい期間抗菌薬を用いていなかった
    • 梅毒に有効な抗菌薬を用いていなかった
  • 梅毒の問題
    • 梅毒が進行しているため臓器が不可逆的に破壊されていた

梅毒が治療によって良くなっているのかどうかに関しては、症状の改善である程度予測できます。しかし、ほとんど症状のない梅毒や不可逆的な合併症を伴う梅毒の場合は治療効果を実感することは難しいです。そのためSTS法の検査を行い、数値の変化を見ながら治療効果を判定します。

9. 梅毒診療にガイドラインはあるのか?

診療におけるガイドラインとは、過去のデータに基づいて成功率の高い治療を示唆するものです。実際病気に苦しむ患者さんの背景は各々で異なりますが、できるだけ個々の場面に対応できるようにパターン化されています。

梅毒の診療においてもガイドラインが存在します。

これは有名なガイドラインです。これらを参考に治療することで勝率の高い治療が行なえます。一方で、治療が必ずうまくいくとは限りません。治療を行ったあとには症状や検査を用いて治療効果を判定することが大切です。

10. 梅毒の届出は感染症法で決められている

梅毒は感染症法で第5類感染症に指定されている病気です。梅毒と診断がついた場合には、診断した医師が7日以内に保健所を通じて都道府県知事に届け出る必要があります。また、症状がない場合でも、STS法で16倍以上の抗体価があれば届け出る必要があります。

法律で決められたことですので遵守しなくてはなりません。

11. 梅毒にならないためにはどうすればいい?

梅毒は性病ですので性行為でうつります。また、梅毒のワクチンはありません。梅毒にならないためには、性行為に関して気をつけるべきことがあります。

  • コンドームを正しく使う
  • 不特定多数との性行為をしない

日常生活でこれらを実践することは有効です。また、梅毒が疑わしい症状が出た場合には、医療機関を受診して早期発見に努めて下さい。梅毒が早期に見つかれば後遺症が残ったり命を取られたりすることはほとんどありません。