[医師監修・作成]梅毒の治療:抗菌薬(抗生物質、抗生剤)は要るのか?入院は必要か? | MEDLEY(メドレー)
ばいどく
梅毒
梅毒トレポネーマという細菌による感染。ほとんどが性感染症
9人の医師がチェック 82回の改訂 最終更新: 2022.03.04

梅毒の治療:抗菌薬(抗生物質、抗生剤)は要るのか?入院は必要か?

以前は治療薬がなかった梅毒も、現在は抗生物質抗菌薬)を用いることで治る病気になりました。進行する前に抗菌薬治療すれば後遺症もないことがほとんどです。このページでは梅毒の治療について説明します。

1. 梅毒の治療薬:抗菌薬(抗生物質、抗生剤)

梅毒の治療の基本は抗菌薬です。梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマを抗菌薬で倒します。梅毒の進行の程度や合併症の有無によって使用する抗菌薬や投与期間が変わります。

梅毒の早期(第1期梅毒や第2期梅毒)で治療することができれば、後遺症が残ることも少ないです。

梅毒の治療に用いる主な抗菌薬は次の4種類です。

  • ペニシリン系抗菌薬
  • セフェム系抗菌薬
  • テトラサイクリン系抗菌薬
  • マクロライド系抗菌薬

次の章からはこれらの特徴について説明します。

2. ペニシリン系抗菌薬(ペニシリンG、サワシリン®など)

ペニシリン系抗菌薬は1928年にアレクサンダー・フレミングによって発見された抗生物質です。この発見によってフレミングはノーベル賞を受賞しました。ペニシリン系抗菌薬は細胞壁合成阻害薬に分類され、細菌の持つ細胞壁のペプチドグリカンに関する反応を阻害することで細胞が増殖できなくさせます。

現在使われているペニシリン系抗菌薬は以下の種類があります。

  • ベンジルペニシリン(ペニシリンG)
  • ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン®G)
  • アンピシリン(ビクシリン®など)
  • アモキシシリン(サワシリン®など)
  • ピペラシリン(ペントシリン®など)

ペニシリン系抗菌薬は梅毒によく効きます。また、抗菌薬は治療の標的とする起炎菌以外にも効いてしまうと、体内の常在菌を殺してしまうデメリットがありますが、ペニシリン系抗菌薬が有効な細菌はあまり多くありません。このためペニシリン系抗菌薬は梅毒の治療でよく用いられます。

海外ではベンジルペニシリンの筋肉注射がスタンダード治療になっています。特に早期梅毒では1回の注射で済むため非常に有用な治療法ですが、2017年10月現在日本国内ではベンジルペニシリンの筋肉注射製剤がないため使用できません。そのため、アモキシシリンの14日間の内服を行うことが多いです。アモキシシリンの血液中濃度を上昇させるために、プロベネシド(ベネシッド®)1gを併せて内服することが多いです。

ペニシリン系抗菌薬は副作用が比較的少ないですが、使用してから以下のことが出現した際には処方した医師などに相談してください。

3. セフェム系抗菌薬(ロセフィン®など)

セフェム系抗菌薬は非常によく使われる抗菌薬です。作用の仕組みから細胞壁合成阻害薬とも呼ばれます。セフェム系抗菌薬は、細菌の持つ細胞壁のペプチドグリカンに関する反応を阻害することで細胞を増殖できなくさせます。

セフェム系抗菌薬は第1世代から第4世代に分類されます。それぞれの世代にあたる薬剤の例は次のようになります。

  • 第1世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セファレキシン(ケフレックス®、ラリキシン®など)
    • セファゾリン(セファメジン®、ラセナゾリン®など)
  • 第2世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セファクロル(ケフラール®、ケフポリン®など)
    • セフォチアム(パンスポリン®、ハロスポア®など)
    • セフメタゾール*(セフメタゾン®、ピレタゾール®など)
  • 第3世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セフトリアキソン(ロセフィン®、セフィローム®など)
    • セフォタキシム(クラフォラン®、セフォタキシム)
  • 第4世代セフェム系抗菌薬の主な例
    • セフェピム(マキシピーム®、セフェピム)
    • セフォゾプラン(ファーストシン®)

*セフメタゾールはセファマイシンというグループの抗菌薬で他のものとは分子の構造が少し異なります。

これらのセフェム系抗菌薬の中でも、セフトリアキソンが梅毒に対する治療に用いられます。早期梅毒であればセフトリアキソン1日1回1gを14日間筋肉注射あるいは静脈注射することで治療します。また、罹患期間が1年を超えるような梅毒ではセフトリアキソン1日1回1gを28日間筋肉注射あるいは静脈注射することが治療の目安になります。

セフェム系抗菌薬の副作用はあまり多くないですが、使用してから以下のことが出現した際には処方した医師などに相談してください。

4. テトラサイクリン系抗菌薬(ミノマイシン®、ビブラマイシン®など)

テトラサイクリン系抗菌薬は、細菌が持つタンパク質を合成する器官(30Sリボソーム)の働きを抑えることで、細菌を増殖させないようにします。

主なテトラサイクリン系抗菌薬は以下のものです。

  • ミノサイクリン(ミノマイシン®など)
  • ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)

テトラサイクリン系抗菌薬は梅毒に対して有効です。ドキシサイクリンが梅毒の治療に用いられています。早期梅毒であればドキシサイクリン1日2回100mgを14日間内服することで治療します。また、晩期梅毒であればドキシサイクリン1日2回100mgを28日間内服することで治療します。

一方で、テトラサイクリン系抗菌薬には以下の副作用が出現しやすいことが分かっています。

  • アナフィラキシー(命に関わることがあるので要注意):じんま疹、顔やのどの腫れ、冷汗、手足のしびれ、血圧の低下、ゼーゼー息苦しい、ぼーっとする
  • SLE様症状:筋肉や関節の痛み、体や顔が赤くなる、熱が出る、リンパ節が腫れる
  • 皮膚・粘膜障害:発疹発赤、水ぶくれ、皮がむける、痛み・かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血
  • 血液成分の異常:皮下出血(血豆・青あざ)や鼻血・歯肉出血など出血傾向
  • 肝臓の症状:だるい、吐き気、食欲の低下、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色になる
  • 急性腎不全むくみ血尿、尿が少ない・出ない、だるい、吐き気、頭痛、血圧上昇
  • 間質性肺炎:痰の絡まない咳(空咳)、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱
  • 膵炎:吐き気、嘔吐、背中の痛み
  • 大腸炎:激しい腹痛、下痢、発熱、血液便
  • めまい、フワフワとした感じ、頭痛
  • 光線過敏症
  • 歯が黄色くなる(8歳未満の子ども)

歯が黄色くなる副作用に関しては、8歳未満の子どものみならず胎児への影響も考えて、妊婦はテトラサイクリン系抗菌薬を使わないようにしてください。

5. マクロライド系抗菌薬(クラリス®、ジスロマック®、エリスロシン®など)

マクロライド系抗菌薬は梅毒以外にもさまざまな細菌感染症に対して有効で、日本で非常に多く使われている抗菌薬です。細菌が持つタンパク質を合成する器官(50Sリボソーム)の働きを抑えることで、細菌を増殖させなくします。マクロライド系抗菌薬に分類される主な抗菌薬は以下になります。

  • クラリスロマイシン(クラリス®など)
  • アジスロマイシン(ジスロマック®など)
  • エリスロマイシン(エリスロシン®など)

梅毒の治療にはアジスロマイシンが用いられます。早期の梅毒に限ってアジスロマイシン2gを1回だけ内服することで治療できます。これはペニシリンアレルギーの人にも治療できるメリットや1回の外来治療で済むメリットがありますが、この方法では治療失敗することもあるため注意が必要です。治療後にSTS法の数値が低下しているかどうかを見て治療効果を確かめます。

マクロライド系抗菌薬で注意するべき主な副作用は以下になります。

  • 胃腸:吐き気、下痢、腹痛
  • 不整脈動悸頻脈(脈拍100/分以上)、徐脈(50/分以下)、胸苦しさ、めまい、立ちくらみ、気が遠くなる
  • 肝臓の障害:食欲不振、だるさ、皮膚が黄色くなる、白目が黄色くなる
  • 皮膚の障害:発赤、水ぶくれ、皮がむける、痛み、かゆみ、唇や口の中のただれ

内服したあとからこれらの症状が出てきた場合は副作用の可能性があるため、必ず処方した医者に内服を継続したほうが良いのかを確認して下さい。

6. 梅毒の抗菌薬治療で気をつけるべきこと:Jarisch-Herxheimer反応

梅毒の治療で抗菌薬を使用してから数時間で特殊な反応が出ることがあります。以下の症状が急速に出現します。

  • 高熱
  • 悪寒
  • 頭痛
  • 全身倦怠感
  • 皮疹
  • リンパ節腫脹

このような急性の症状をJarisch-Herxheimer反応(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)といいます。Jarisch-Herxheimer反応には以下の特徴があると報告されています。

  • 若い人に起こりやすい
  • 早期梅毒に起こりやすい
  • RPR(STS法)値が32倍以上だと起こりやすい
  • 過去に治療歴があると起こりにくい
  • ペニシリンで治療した場合に起こりやすい

この反応は抗菌薬治療が開始されて多くの梅毒トレポネーマが死ぬことが原因で起こると考えられています。病状が悪化したあるいは抗菌薬のアレルギーが出たようにも見えるため、抗菌薬の中止や変更の判断のための注意深い観察が必要です。また、治療を受けている人も、治療開始してから数時間でこうした反応が起こる可能性があることを知っておく必要があります。

参考文献
・Clin Infect Dis. 2010;51(8):976-9.
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition

7. 抗菌薬の投与量や投与期間について

梅毒治療における抗菌薬は、上に挙げた4種類以外を用いることはほとんどありません。しかし、海外で使われているものが国内で使えなかったり、日本人と海外の人の体重や肝臓の代謝機能が異なっていたり、細菌の耐性化事情が国内外で異なっていたりするため、抗菌薬の投与量や投与期間は未だ明確でない部分が含まれます。とはいえ、最適と考えられる治療を行うことは大事ですので、自分にあった治療は何かをお医者さんと相談してください。また、治療を始めてからは、今の治療が効果を出しているのかについても考える必要があります。

8. 梅毒が治ったかどうやって判断する?治療効果の判定

感染症は治療しても再発することがあります。最も治療成功率の高いものが治療方法として選ばれていますが、それでも一定確率で再発が起こります。

梅毒でも同様で、最も適した治療薬を選んでも再発することがあります。そのため、治療した後にうまくいっているのかについて確認が必要になります。

治療効果を判断するのに最も大切なもの:患者さんの状況

治療効果を確認する上で最も大切なのは、治療中の患者さんの状況です。症状や全身状態が改善しているのかについて、時間の流れとともに観察する必要があります。一方で、治療開始してから間もなくは、治療効果が症状に現れにくいことも多いので注意が必要です。治療してしばらくは治療効果が現れない場合や悪化する場合があることも考慮して、身体の状況を観察して下さい。

治療効果を客観的に判断するためのもの:血液検査

患者さんの状況は非常に重要な判断材料ですが、梅毒は特に症状もないことがあります。症状のない梅毒の場合は治療効果が判断できなくなるため、なにか他に客観的な指標が必要になります。そこでしばしば用いられているのが血液検査です。

梅毒の血液検査には大きく分けると2種類あります。非トレポネーマ抗原による検査(STS法)とトレポネーマ抗原による検査(TP法)です。「梅毒の検査:抗体検査(STS、TP、RPR、TPHAなど)、細菌学的検査、画像検査など」で詳しく説明していますが、STS法とTP法には得手と不得手があります。

【STS法とTP法の違い】

検査方法 良い点 悪い点
STS法(RPR、VDRLなど)

1)比較的早期(感染してから数週間)から検査が陽性となる

2)治療を反映して数値が低下するため、治療効果を推定できる

1)偽陽性が多い(妊娠、膠原病、肝障害、感染症など)

2)梅毒の初期には検査値が上昇しないことがある

TP法(TPHA、FTA-ABSなど)

1)偽陽性が少ない

1)一度検査が陽性となると治療しても陽性のままになる

2)感染してから検査が陽性になるまで時間がかかる

梅毒の治療効果を考える上で、一度検査陽性になるとしばらく陽性が持続するTP法は適していません。そのため治療効果を判定するにはSTS法の検査が用いられます。具体的には、RPR法やVDRL法の測定値を3ヶ月ごとに測定し、1年内以内に数値が4分の1になることを治癒の目安とすることが多いです。数値がしっかりと下がらない場合は治療の失敗や再感染を疑って、もう一度治療を行うことを考えなくてはなりません。

9. 梅毒の治療には入院が必要なのか?

梅毒を治療するためには入院が必要でないことが多いです。治療薬も飲み薬(内服薬)が多く、外来通院しながら治療することが可能です。しかし、Jarisch-Herxheimer反応や薬剤アレルギーなどの影響を受けて、治療してから体調が悪くなる場合があることは知っておく必要があります。

  • 高熱が続く
  • 飲水ができないくらい衰弱している
  • 意識がもうろうとする
  • 皮疹が水疱(水ぶくれ)になって全身や口の中がただれる

これらの状態になった場合は医療機関に連絡して下さい。入院を考慮しなくてはなりません。

神経梅毒や心血管梅毒といった合併症が生じた場合も原則入院治療を行います。なぜなら、治療に点滴薬のセフトリアキソンやベンジルペニシリンを用いることになるため、比較的症状が軽い場合でも外来治療は難しいからです。

梅毒の治療をする際には、自分がどういった状態でどんな治療が必要なのかを必ず確認して下さい。その上で、自分のライフスタイルと照らし合わせて、最も適した治療方法をお医者さんと相談することが望ましいです。