梅毒の検査:抗体検査(STS、TP、RPR、TPHAなど)、細菌学的検査、画像検査など
梅毒が疑われたときにはさまざまな検査を行います。特に血液検査と
1. 梅毒の検査は何がある?
梅毒を疑う
2. 血液検査
梅毒の検査で主に行われるのが血液検査です。梅毒を調べる上でほぼ全員が血液検査を受けることになります。血液検査には役割が2種類あります。
- 梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマの感染の有無を判定する
- 梅毒によって全身の状態がどうなっているかを判定する
前者は梅毒なのかどうかを判断する検査ですので特に重要です。次の段落で詳しく説明します。
梅毒トレポネーマの感染を判定する血液検査
梅毒は症状が出ない時期もあり、症状を契機に診断するのが難しいことも多いです。そのため、血液を用いて梅毒トレポネーマの感染が起こっているのかどうかを感知する検査は梅毒を診断する上で非常に重宝されます。
梅毒トレポネーマの感染があるかどうかを判定する血液検査は2種類あります。非トレポネーマ抗原による検査とトレポネーマ抗原による検査です。難しい話になりますが、前者は梅毒トレポネーマそのものを見ているのではなく、梅毒トレポネーマの感染によって破壊された組織の反応を見ています。一方で、後者は梅毒トレポネーマに対する
非トレポネーマ抗原による検査(STS法)
STS(Serologic Test for Syphilis)法と呼ばれる検査です。カルジオリピンと呼ばれる物質を用いて、梅毒トレポネーマに破壊された組織の産生する
STS法と呼ばれる検査の中でも、VDRLテスト(Venereal Disease Research Laboratory)やRPR(Rapid Plasma Reagin)カード法、ラテックス凝集法が有名です。
いずれの検査も測定には10-20分程度を要します。時間があまりかからないことが利点です。また、梅毒の早い段階(感染してから数週間程度)から検査が陽性になり、梅毒による
一方で、梅毒トレポネーマそのものを見ているわけではありませんので、梅毒ではないのに陽性(
トレポネーマ抗原による検査(TP法)
TP(Treponema pallidum)抗原法と呼ばれる検査です。梅毒トレポネーマに対する抗体の量を測定します。
TP抗原法にはいくつか方法がありますが、TPHA法(Treponema pallidum Hemagglutination)やFTA-ABS(Fluorescent Treponemal Antibody-absorption)法が有名です。
TP抗原法はSTS法よりも梅毒以外の原因で陽性になりにくいという点で、STS法よりも梅毒の診断を確定するのに優れています。しかし、TP抗原法はSTS法よりも梅毒トレポネーマに感染後に検査陽性となるのが遅いことと、一度陽性となると治療後も持続的に陽性となってしまうことが弱点となります。
感染を判定する上で血液検査の抱える弱点と解釈について
梅毒の診断で血液検査は非常に重要である一方で、いくつか問題点も抱えています。
検査方法 | 良い点 | 悪い点 |
STS法(RPR、VDRLなど) |
1)比較的早期(感染してから数週間)から検査が陽性となる 2)治療を反映して数値が低下するため、治療効果を推定できる |
1)偽陽性が多い(妊娠、膠原病、肝障害、感染症など) 2)梅毒の初期には検査値が上昇しないことがある |
TP法(TPHA、FTA-ABSなど) |
1)偽陽性が少ない |
1)一度検査が陽性となると治療しても陽性のままになる 2)感染してから検査が陽性になるまで時間がかかる |
双方の弱点を補うべく2種類の検査を同時に行うことが一般的です。しかし、2種類の検査の結果が割れるといったことが起こることも少なくありません。そこで2種類の検査結果からどういった解釈をすればよいのかを説明します。
TP法陽性 | TP法陰性 | |
STS法陽性 |
1)無治療で梅毒に感染している 2)梅毒を治療してから間もない |
1)梅毒感染の初期(TP法が陽性になる前) 2)偽陽性(妊娠、膠原病、肝障害、感染症など) |
STS法陰性 |
1)梅毒の治療後 2)梅毒にかかってから長期間経つため活動性がない 3)ライム病 |
1)梅毒に感染していない 2)梅毒感染の極めて初期(STS法もTP法も陽性になる前) |
上の表にあるように、2種類の血液検査結果における陽性/陰性によって解釈が異なります。血液検査の結果に加えて、患者さんの状態や生活背景から総合的に診断する必要があります。
全身状態を把握する血液検査
血液検査を行うと全身の状態を推測することができます。特に梅毒で合併症が見られる場合には全身状態を把握することは大切です。血液検査で調べられる主なものを以下に示します。
- 炎症の程度
- 心臓の機能
- 肝臓の機能
- 腎臓の機能
- 血の固まりやすさの程度
血液検査をすると多くの臓器の状態や身体のバランスを推測することができます。しかし、これらの検査の精度は完璧ではありません。異常値だからといって必ず異常があるわけではないですし、正常値だからといって必ず正常であるわけではありません。検査値は参考として考えて、他の検査や症状と合わせて総合的に考えることが大切です。
参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・モダンメディア56巻第2号2010:8-11
3. 細菌学的検査
梅毒患者の症状のある部分から分泌液を採取して、梅毒トレポネーマの存在を顕微鏡で確認することができます。検査に用いる分泌液は扁平コンジローマなどの
採取した分泌液を検査する方法はいくつかありますので、各々を説明します。
顕微鏡検査
顕微鏡を用いて梅毒トレポネーマの存在を確認します。梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマはもともと人体には住み着いていない菌なので、分泌液から検出された場合には梅毒にかかっていると考えます。
細菌感染を疑った場合には
■暗視野顕微鏡検査
暗視野顕微鏡は、光学顕微鏡を使って生きた梅毒トレポネーマの存在を確認する検査です。細菌の形や動きを観察します。細長いらせん状の細菌を見つけることができれば梅毒が非常に疑わしくなります。ただし、梅毒に似た形をした細菌もいます。梅毒トレポネーマの仲間にあたる、
■塗抹検査
塗抹(とまつ)というのは塗るという意味です。採取した分泌液をスライドガラスに塗って特殊な染色をした後に顕微鏡で観察する検査です。染色方法はいくつかありますが、鍍銀染色やギムザ染色などを用いることが多いです。塗抹検査も暗視野顕微鏡検査と同じく細菌の形を見る検査ですので、梅毒トレポネーマに似た形をしたスピロヘータは梅毒と見分けがつかないことがあります。
■蛍光抗体法
梅毒トレポネーマに対する抗原抗体反応(体内に侵入した異物に対して
遺伝子検査(PCR法)
梅毒の遺伝子検査は、PCR法という方法を用いて遺伝子を増幅して、梅毒トレポネーマの遺伝子の存在を確認する検査です。PCR法は遺伝子を増幅するのに時間がかかる一方で、菌が死んでいても検査で発見することができます。
髄液検査
梅毒の原因菌である梅毒トレポネーマは脳神経にも影響を起こします。これを神経梅毒といいます。神経梅毒が疑われる場合には
- 髄液中に含まれる細胞の数
- 髄液中に含まれるタンパク質の量
- 髄液の梅毒抗体検査や遺伝子検査
髄液検査を行うと梅毒が脳神経にどのくらい影響を及ぼしているかがわかりますが、神経梅毒の診断はそれでも簡単ではありません。そのため、髄液検査の結果(髄液中の細胞数が5/mm3以上・髄液中のタンパク質が40mg/dl以上・髄液のVDRL法検査が陽性など)に加えて、神経症状などから総合的に判断されます。
4. 画像検査
梅毒に感染しているかどうかを画像検査で判断することはできません。しかし、梅毒を調べるのに画像検査が用いられることはあります。特に神経梅毒の際には画像検査を行うことがあります。
CT検査
しかし、神経梅毒を疑って腰椎穿刺を行う場合には頭部CT検査を行うことがあります。頭の中の状態によっては腰椎穿刺ができないためです。
MRI検査
5. 梅毒を疑ったときに追加で調べるべき病気
梅毒は性病です。梅毒患者はHIV感染症を筆頭に梅毒以外の性病を
HIV感染症/AIDS(エイズ)
近年、梅毒患者がHIV感染症を合併していることが多いと報告されています。そのため、梅毒検査を行う上でHIV感染症の検査も合わせて行うことは大切です。
HIV(Human Immunodeficiency Virus、
HIVに感染した人の血液、精液、膣分泌液にはHIVが含まれていて、ほかの人の体の中に入ると感染させる可能性があります。性器や口や肛門などの粘膜を介して体の中に侵入して感染を起こす一方で、粘膜以外の皮膚にウイルスが接触した程度ではうつりません。
HIVは性行為でうつる感染症(性感染症、性病)です。特にコンドームを使わずに以下の行動をとるとHIVになりやすいことが分かっています。
- 不特定多数と性行為を行う
- 肛門性交を行う
- 同性間性交を行う
これらに心当たりのある人は注意が必要です。
HIVに感染して免疫力が低下した結果、特殊な病気が引き起こされた状態をエイズ(AIDS)と言います。エイズは英語のAcquired Immunodeficiency Syndromeの略で、日本語で言うと後天性免疫不全症候群です。
HIVによって引き起こされる病気(合併症)は、ほかの細菌やウイルスによる感染症に加えて、認知症を現すものや
合併症による症状は非常に多様なので、HIVに感染したとわかっている人は、どんな症状でも体の異変を感じたらすぐに検査を受けてください。
淋菌感染症(淋病、淋疾)
淋病(りんびょう)という言葉はひとつの病気ではなく、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)が感染して起こす尿道炎や子宮頸管炎などの総称です。
淋菌感染症(淋病)は、性器クラミジア感染症と並んで、かかる人の多い性病です。淋菌は伝染性が高く、1回の性行為をすると30%の確率で相手にうつしてしまうと考えられています。
淋菌が感染する場所によって、男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎や骨盤内炎症性疾患(PID)を主に起こします。尿道炎では症状が強く現れます。子宮頸管炎は症状がないことが多い一方で、不妊の原因にもなるので注意が必要です。
梅毒も淋菌感染症も性行為でうつる性病です。梅毒が疑わしい人は淋菌感染症にもかかっているリスクが高いため、一緒に検査するほうが望ましいです。
クラミジア感染症
クラミジア(Chlamydia trachomatis)という細菌は、主に尿道、子宮頸管(子宮の入り口)、眼の
尿道やその周囲の精巣上体、精巣、膣、子宮などにクラミジアが感染して症状を起こすことを性器クラミジア感染症といいます。性器クラミジア感染症の原因のほとんどは、性行為による感染です。
クラミジアによる感染症は、全ての性感染症のうちで最も多いです。気付きにくいことも大きな特徴です。
■性器クラミジア感染症は気づきにくい
性器クラミジア感染症の症状は、分泌物や痛みなどがありますが、症状が軽いことが多いため自覚症状から感染していることに気づきにくい特徴があります。
そのため、気が付かないまま感染が長期化して、知らないうちにほかの人にうつしてしまうことにもなりかねません。
梅毒もクラミジア感染症も性行為でうつる性病です。梅毒が疑わしい人はクラミジア感染症にかかっているリスクが高いため、一緒に検査するほうが望ましいです。
梅毒もHIVも淋病もクラミジア感染症もコンドームで防げる?セイファーセックスとは
性病はコンドームを着けないで性行為を行った場合にうつります。淋菌感染症では30%ほどの確率でうつると言われていますし、HIVでも1%ほどの確率でうつると言われています。
一方で、コンドームを着けて性行為をした場合には、性病をうつされる可能性はほとんどありません。性病を予防するためには、セイファー・セックス(Safer Sex)が効果的です。セイファーセックスとはより安全な性行為という意味で、コンドームを正しく使うことや不特定多数との性行為を避けることなどを指します。
6. 梅毒の検査は保健所でできるというのは本当か?
全国にある保健所で梅毒の検査を受けることができます。全ての保健所で行っているわけではありませんので、検査を受ける前に最寄りの保健所に電話で確認して下さい。どこに連絡すればよいか見当がつかない場合には、このような検索サイトがあるので参考にして下さい。また、当日いきなり行って検査を受けられるわけではありませんので、予約などの段取りについても前もって電話で確認するようにしてください。
多くの保健所では梅毒を含む性病の検査を受けることができます。受けられる主な検査は以下の感染症についてです。
保健所の性病検査は原則として「無料」かつ「匿名」で受けられます。検査結果は対面で告知されるため、電話で教えてもらうことはできません。足を運んで結果を教えて貰う必要があります。