2019.02.28 | コラム

今この時代に梅毒がなぜ流行る?

症状は出たり消えたりしながら全身に広がります
今この時代に梅毒がなぜ流行る?の写真
(c)Tatiana Shepeleva-Fotolia.com

日本で梅毒が流行しています。昔からあるこの病気はしばらく下火になっていましたが、2010年代前半から患者数が増える傾向にあり、2018年になっても未だに患者数は増え続けています。

古くは16世紀の書物に日本で流行の記載が残されているように、梅毒は500年ほど前から存在する感染症です。また、梅毒にはペニシリンという絶対的な治療薬があります。にもかかわらず、医療技術の進歩した現代で、どうして流行しているのでしょうか?梅毒の特徴から考えていきます。

1. 梅毒という病気について

梅毒という名前を知っている人は多いと思います。しかし、梅毒について詳しく知っている人はそこまで多くはないかもしれません。梅毒は性病(性感染症)です。つまり、性行為によって相手にうつることがある、クラミジアや淋菌HIV感染症と同じ類の病気です。

梅毒梅毒トレポネーマ(Treponema Pallidum)が皮膚や粘膜の傷から体内に侵入して感染が起こります。性行為の際にコンドームを使用すれば基本的に梅毒がうつることはありません。にもかかわらず近年その患者数は増えている状況です。

梅毒の患者数*国立感染症研究所「日本の梅毒症例の動向について」より作成

梅毒という病気はとても昔から知られており、江戸時代にはすでに流行り病としての認識あったことが分かっています。当時は治療薬もなく、多くの人が梅毒に苦しんでいたと思われますが、どうしてそんなにも流行したのでしょうか。その歴史とともにもう少し掘り下げてみます。

 

2. 人類が梅毒とともにたどってきた歴史

梅毒が流行した起源は諸説ありますが、1492年コロンブスのアメリカ大陸発見が引き金となり、世界的に流行しだしたと考えられています。コロンブス一行が帰国した時期からスペインやイタリアで梅毒が流行りだしたという事実があるため、彼らが現地民と性交した際に感染し、ヨーロッパに持ちこんだと考える説が有力です。

ヨーロッパで流行した梅毒は、インドや中国や東南アジアに伝わり、その後日本にも渡ってきたと考えられています。1512年には日本国内で梅毒発症の記載が確認されており、当時の戦国武将の中にも梅毒に悩む人が少なくなかったようです。

このように梅毒はわずか20年ほどで日本へ広まり、世界的に流行したことになります。

 

日本で梅毒はどう流行していったのか

江戸時代になると芸者や遊女の業界(花柳界)関係者の間で梅毒が流行していたため、花柳病と呼ばれていました。当時は梅毒に対する適切な治療薬はなく、一部の人では梅毒の症状がどんどん進行してしました。最終的には鼻が取れたり(ゴム腫)、発狂(神経梅毒の症状)したりすることも知られていました。当時の川柳に梅毒のことがたびたび登場することからも、日本人は長きにわたって梅毒と付き合っていたことがうかがえます。

梅毒の日本到来から400年以上経って初めてペニシリンという治療薬が登場します。ペニシリンは梅毒に対してとても有効であったため、梅毒治療はそれまでと激変します。それ以前に水銀やヒ素を用いた治療薬が登場したことがありましたが、副作用が強く、効果も不十分でした。ペニシリンの登場により、梅毒は治療できる病気になったのです。

ペニシリンの出現のおかげで梅毒患者数は激減していきます。終戦直後には年間200,000-300,000人ほど梅毒にかかる患者がいましたが、段々と患者数は減っていき、21世紀になると新たな患者数は年間1,000人を下回る程度で推移していました。それに伴い梅毒は昔の病気とされ、注目されることも少なくなってきました。しかし、2013年ごろから徐々に患者数が増え続け、2018年には新規発症患者が6900人を超えました。

 

3. 梅毒の症状は多彩である

梅毒の原因微生物である梅毒トレポネーマが皮膚や粘膜の傷から体内に侵入すると、血液やリンパ液を介して徐々に全身へ広がります。一方で、梅毒トレポネーマが侵入してきても、免疫の作用によって感染を免れることもあります。また、梅毒に感染しても、すぐに症状が出ないことがほとんどです。

 

最初に梅毒の人に訪れる症状とは

感染してから3週間ほど経つと、皮膚が固くなる変化(硬結)が陰部を中心に肛門や口などにも見られることがあります。これを「硬性下疳(こうせいげかん)」といいます。最初にこの症状に気づく人はいますが、痛みやかゆみがほとんどない上に、気付いたらいつの間にかこの変化は消えてしまいます。そのため、気のせいで済ませてしまう人も少なくありません。

また、皮膚の硬結が見られる部位の周囲にあるリンパ節が腫れることがあります。これを「リンパ節腫大」といいます。皮膚の表面に近いリンパ節が腫れている人は、皮膚を押すように触ることで数mmから数cm程度の丸いしこりのようなものが現れます。リンパ節腫大も特に痛みがないことが多く、気がつきにくい症状です。

このように、梅毒の初期症状は「皮膚が固くなる」「リンパ節が腫れる」といったものが多いです。これらは日常生活に支障が出るものではありませんが、数週間以内に性行為をした人で症状が出た場合には、医療機関を受診して検査を受けるようにしてください。

 

梅毒が進行すると感じるようになる症状とは

梅毒は治療しないと進行する病気で、進行の程度によって見られる症状が変わってきます。皮膚や全身に症状が出たりと、内容はさまざまです。次の表に主な症状をまとめているので参考にしてください。

 

梅毒が進行した人に見られやすい症状】

バラ疹 赤色や薄紅色の斑点(紅斑)。数mmから10mm程度の大きさで全身に見られる。
扁平コンジローマ 扁平に隆起したイボ。一部から感染性のある分泌液が出る。
丘疹梅毒 隆起を伴う数mmから10mm程度の皮疹。バラ疹のあとに見られることが多い。
発熱 全身炎症の影響を受けて発熱が起こる。
関節痛 全身炎症の影響を受けて関節痛が起こる。
リンパ節腫脹 全身炎症の影響を受けてリンパ節腫脹が起こる。
全身倦怠感 全身炎症の影響を受けて身体がだるくなる。

 

上にあげた症状の中には発熱や関節痛のように風邪などの一般的な病気でもみられるものがあり、これらは梅毒へ直接結びつけにくいものですが、扁平コンジローマは梅毒に特徴的です。自分の症状が扁平コンジローマに似ている場合には必ず医療機関を受診するようにしてください。

 

梅毒がさらに進行し、重症化すると、骨や神経にまで影響を及ぼします。有名な変化が「ゴム腫」と「神経梅毒」です。

皮膚や筋肉、骨にゴムのようなしこりができることをゴム腫といいます。ゴム腫によって鼻の軟骨が破壊され、陥没したりすることから、鼻が取れる(鼻が落ちる)ような変化が起こることがあります。

また、脳神経に感染の影響が及ぶと、神経梅毒という状態に至ります。頭痛や耳鳴り・めまいなどを覚えるようになり、徐々に進行していくと記憶障害や麻痺、錯乱などが見られるようになります。

 

現在の日本では梅毒を調べる検査や治療が確立しているため、ゴム腫や神経梅毒といった末期症状が出る前に完治することがほとんどです。一方で、明らかに疑わしい症状があるのにもかかわらず放置していると、梅毒がどんどん進行して、こうした末期症状を招く恐れがあります。さらに、梅毒は性行為でうつる病気ですので、パートナーにうつしてしまう危険性もあります。思い当たる節がある人は早めに検査してもらうようにしてください。

 

梅毒の落とし穴に注意

梅毒がこれだけ流行している原因の一つとして、自分が梅毒だと自覚しにくいことが考えられます。気づかないうちにうつしあって、感染を拡大しているという構図です。

特に病気の初期に自分が梅毒であることに気づける人はあまり多くありません。その理由として次のことが考えられます。

 

  • 症状が梅毒に特徴的でないものが多く、他の病気と判断がつきにくい
  • 初期の症状に気づいても、いつの間にか消えている

 

例えば梅毒と同じ性病であってもクラミジアや淋菌感染症の場合は、排尿時の違和感や尿道からがでるいった通常は経験しない症状が持続するため、発病した人が気づきやすいです。しかし、梅毒にかかって間もないうちは上記の理由から、見逃されやすく病気を疑うことが難しいです。

 

ここまで梅毒の症状の特徴を簡単に説明しました。梅毒の症状について詳しく知りたい人は、「梅毒の症状ページ」で写真付きで説明していますので、参考にしてください。

 

4. こんな人は要注意

花柳界で流行が見られた当時は男性にも女性にも梅毒罹患者が多かったようですが、戦後は男性に多いことが特徴でした。特に同性愛者に多かったのですが、上のグラフにもあるようにここ最近は女性の患者も増えています。なぜ女性に患者が多いのかがはっきりしているわけではありませんが、セックスライフの変化が関与している可能性は否定できません。

繰り返しますが、梅毒は性行為でうつる病気です。それは今も昔も同じですので、仮に自覚症状がなかったとしても、コンドームを適切に使うことがとても大切です。

 

どんなタイミングで梅毒を疑う

上で述べた「硬性下疳」と「扁平コンジローマ」は梅毒に特徴的な症状です。これらは症状が現れたり消えたりするので、自然に治ったと思われがちですが、疑われる症状が現れたときには梅毒の検査を受ける必要があります。できるだけはやく医療機関を受診するようにしてください。

一方で、それ以外の症状に関しては、一般的な病気でも見られる症状ですので、梅毒と診断するための有力な根拠とはなりません。例えば、発熱や関節痛は風邪でよく見られる症状でですし、紅斑(赤い皮疹)も丘疹(盛り上がった皮疹)は麻疹などのウイルス性疾患でよく見られます。

 

梅毒を疑って検査を受けるべき人のポイントを押さえておくと便利です。以下を参考にしてください。

 

  • 皮膚に固くなる変化(硬性下疳)がある
  • 皮膚に楕円形のイボ(扁平コンジローマ)がある
  • 原因に思い当たるふしがないのに皮疹やリンパ節腫脹がある
  • 数ヶ月以内にコンドームをつけないで新たなパートナーと性行為をしてから調子が悪い

 

一般的に、病気に特徴的な症状が見られた場合には診断の根拠になります。しかし、特徴的な症状が見られない場合には、生活や嗜好、内服薬などに手がかりがないかを確認します。

梅毒はコンドームを着用しないで性行為をするとうつります。性的な嗜好はプライバシーに関わるため、なかなか口に出しづらいものですが、上のリストに当てはまる人は医療機関で相談してください。

 

梅毒は早期発見早期治療すれば特に後遺症なく治る病気です。副作用が少ないペニシリンを2週間使用するだけでほとんどの場合完治します。このコラムに書いてある内容を参考にして、一度自分の状況を照らし合わせてみてください。

年々梅毒患者の数が増え、身近な感染症となっています。一人ひとりが知識を持ち、気をつけることで感染の拡大を食い止めることが期待できます。

執筆者

園田 唯

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。