肝硬変とはどんな病気か?症状・原因・検査・治療など
肝硬変は肝臓に
1. 肝臓が硬くなる肝硬変とはどんな病気か?
肝臓が硬くなる肝硬変とはどんな病気なのでしょうか。肝炎ウイルスの感染やアルコールの多飲などによって、肝臓に
肝臓はどんな臓器なのか
肝臓はお腹の臓器の中で最も大きく、成人の肝臓の重量は1kgにも及びます。おなかの右上にあり、周囲には胃や十二指腸、胆のうがあります。
肝臓には多くの血液が流れる血管が含まれています。
主な血管は以下の3つです。
- 門脈:腸と肝臓をつなぐ血管
- 肝動脈:心臓から出て肝臓に入る血管
- 肝静脈:肝臓から心臓へ戻る血管
この3本の血管は肝臓の中で複雑に枝分かれして、無数の
肝臓は多くの役割を持っていますが、主な機能は以下のものになります。
代謝 :エネルギーを作り出したり、エネルギーから物質をつくる- 解毒(分解):アルコールや薬物を無毒化する
- 胆汁の分泌:脂肪の吸収を助けたり
ビリルビン やコレステロール の排泄を促す
この3つの働きはとても重要で、生命を維持するために欠かせません。
余談ですが、「肝心要(かんじんかなめ)」という言葉があるように肝臓や心臓は身体の中でもとても大事な臓器だと古くから認識されていました。
肝硬変はどんな状態か
肝硬変とはそんな肝臓がどういった状態になることを指すのでしょうか。
肝臓はもともと再生能力が高い臓器です。少々のダメージを受けても肝臓は再生するため、肝機能は正常に保たれます。
しかし、その再生能力にも限界があります。肝炎ウイルスの感染やアルコールの多飲などによって持続的なダメージが肝臓に加わると、肝臓の再生する力が追いつかなくなります。すると、肝臓のダメージを受けた部分が線維質に置き換わる変化(線維化)が起きます。
線維化が起こった肝細胞は本来の機能を失います。線維化が肝臓の広い範囲で起きたのが肝硬変です。
肝硬変が起きると身体にどんな変化が起きるのか
肝硬変が起きると2つの変化が身体に起きます。
1つは肝臓の機能が低下することです。肝硬変で線維化が起きた部分は肝機能を失います。線維化の範囲が狭ければ肝臓の機能は大きくは低下しませんが、広い範囲で線維化が起こると肝機能が低下します。
肝臓の主な機能は代謝、解毒(分解)、胆汁の分泌の3つです。肝硬変になるとこれらの機能が低下してしまいます。
もう1つは門脈圧亢進という状態です。肝硬変が起きると肝臓の中の血管が細くなったりするなどの理由で肝臓に血液が流れ込みにくくなります。肝臓へ血液が流れ込みにくくなるとその手前の門脈という血管の圧力が上昇します。これを門脈圧亢進といいます。
門脈圧亢進が起きると本来は門脈に流れ込む血液が他の血管に流れてしまいます。本来の流れではない血流が生まれると様々な症状が現れます。
これらの変化によって生じる肝硬変の症状についてはこの後の「肝硬変の症状」で詳しく説明します。
2. 肝硬変の症状
肝硬変では肝臓の機能低下と門脈圧の亢進が起こります。この変化によって身体の中ではさまざまな症状が起こります。
肝臓の機能が低下することによる症状
上でも説明しましたが、肝臓の主な機能は以下の3つです。
- 代謝:エネルギーを作り出したり、エネルギーから物質をつくる
- 解毒:アルコールや薬物を無毒化する
- 胆汁の分泌:脂肪の吸収を助けたりビリルビンやコレステロールの排泄を促す
肝臓の機能が低下するというのは具体的にはこの3つの機能が低下することを意味し、多様な症状が現れます。
肝硬変の症状は主に以下のようなものです。
- 乳房が腫れてくる:女性化乳房
- クモのような形をした血管が浮き出てくる:くも状血管腫
- 掌が赤くなる:手掌
紅斑 - 息切れ、息苦しさ:
胸水 の貯留 - ぼっーとしたり、呼びかけに応じなくなる:肝性脳症
- 食欲の低下:食思不振
- 皮膚や白目が黄色くなる、身体がかゆくなる:
黄疸
肝臓には、
タンパク質を作り出すのも肝臓の機能の1つです。肝硬変が進むとアルブミンに代表されるタンパク質を十分に作れなくなり不足します。アルブミンには血管の中に水分をとどめておく働きがあるので、アルブミンが減少すると血管内の水分が外にしみ出していきます。肺の周りにしみ出した水分が溜まる状態(胸水)は肺を拡がりにくくして、息苦しさや胸痛などの症状を引き起こします。
肝臓には有害な物質を分解する役割もあります。このため肝臓の機能が低下すると有害な物質が蓄積して身体に悪影響を与えます。ビリルビンという
肝臓の機能が低下することによる症状は「肝硬変の症状」で解説しているので、より詳しく知りたい人は参考にして下さい。
門脈圧亢進を原因とする症状
門脈は腸から肝臓に流れ込む血管のことで、門脈の圧が異常に高くなった状態を門脈圧亢進と言います。門脈は肝臓の中に入ると細い血管に枝分かれして肝臓全体に張り巡らされます。肝硬変が起きると肝臓の中の細かく別れた門脈がつぶれたり細くなったりして、肝臓にうまく血液が流れ込めなくなります。その結果、門脈には正常範囲を超えた血液が溜まってしまい圧力が高まります。門脈圧亢進は以下の症状の原因になります。
- お腹に水が溜まって張ってくる:
腹水 ・腹部膨満 感 - お腹の血管がくっきり見える:腹壁静脈の怒張
- 息切れや疲れやすさを感じる:貧血
門脈圧亢進の状態になると本来は門脈を流れる血液の一部が他の血管に迂回して流れるようになります。迂回路になる血管は
脾臓には古くなった赤血球や
門脈圧亢進による症状は「肝硬変の症状」でも解説しているのでより詳しく知りたい人は参考にして下さい。
3. 肝硬変の原因
肝硬変を起こす原因は主に肝炎ウイルスの持続感染やアルコールの多飲などです。肝硬変の原因を見極めることはその後の治療などを行う際に重要です。以下が肝硬変を起こす可能性のある病気の例です。
- 慢性B型肝炎
- 慢性C型肝炎
- アルコール性肝炎
- NASH/NAFLD(非アルコール性脂肪肝炎/非アルコール性脂肪性肝疾患)
- 自己免疫性肝炎
- 原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎
- ヘモクロマトーシス
- ウィルソン病
- 糖原病
これらはいずれも肝硬変の原因になりえます。その中でも慢性B型肝炎と慢性C型肝炎、アルコール性肝炎が肝硬変の原因の大部分を占めています。近年はNASH/NAFLDというアルコールを摂取しない人に見られる脂肪肝も肝硬変の原因として注目されています。
肝硬変の原因については「肝硬変の原因」で詳しく解説しているので参考にして下さい。
4. 肝硬変の検査
症状などから肝硬変が疑われるときには、以下のような診察や検査を行ってさらに詳しく病状を調べていきます。
問診 - 身体診察
- 血液検査
- 画像検査
超音波検査 CT 検査MRI 検査
- 肝
生検
診察や検査の結果を総合して肝硬変かどうかを診断し、その程度を調べます。以下ではそれぞれの検査について簡単に説明します。さらに詳しく知りたい人は「肝硬変の検査」で解説しているので参考にしてください。
問診
問診は、身体に起きている状況や患者さんの背景(抱えている病気など)を確認するために重要です。症状や心配なことを医師に伝えたり、医師からの質問に答えたりします。
問診の結果をもとにして症状の原因となる病気が絞り込まれていきます。次に行う身体診察で注目するべき点を明確にしたり、その後にどんな検査を行うべきかについて判断する際の材料にもなります。
身体診察
問診では患者さんの主観的な症状が分かりますが、身体診察では体の状態について客観的な評価が行われます。具体的には、医師が患者さんの身体を観察したり触れたりして診察を行います。客観的な評価を行うことで、どのような病気が想定されるかが問診のときよりも明確になります。
血液検査
血液検査を受けることで肝硬変の程度を知ることができ、また肝硬変の原因となる病気が判明することがあります。
一つ例を挙げてみます。肝臓の機能が低下すると身体に必要なタンパク質を作る力が低下します。アルブミンというタンパク質の量を測定することで、肝臓の機能が推測できます。
血液検査の結果は1時間ほどで分かる場合が多いため、素早く肝機能を推測するのに優れています。
画像検査
肝硬変が疑われる場合には画像検査を用いて肝臓の状態を確認することがあります。画像検査では肝臓の大きさや形を知ることができるだけでなく、肝臓がんなどができていないかも調べることができます。肝硬変になると肝臓がんが発生する危険性が高いので画像検査で状況を把握することは大切です。
画像検査にはいくつかの種類があり、肝硬変で用いられる検査は以下のようなものです。
腹部超音波検査 - CT検査
- MRI検査
まず、多くの場合で腹部超音波検査を用いて肝臓が観察されます。超音波検査は放射線被曝の影響がなく簡単に繰り返して行うことができる点が優れています。また、腹水の有無なども調べられます。
超音波検査のあとに更に詳しく調べる場合にはCT検査が行われます。CT検査は放射線を利用した検査で、超音波検査よりも診断力が高いです。超音波検査で疑わしい部位があるときや肝臓がんを発生する危険性が高い場合には、1回だけでなく定期的に何回か検査をすることもあります。
さらに詳しい検査としてMRI検査があります。この検査では磁気を利用して身体の中の臓器を画像化します。CT検査とは異なり放射線を用いることはないので被曝の恐れはありません。肝臓がんと疑われる部位があるけれどもCT検査でははっきりとはしないときなどにMRI検査は用いられます。
肝生検:肝臓の一部を取り出して顕微鏡で調べる検査
生検は
肝生検の方法には針生検と
5. 肝硬変の治療
肝硬変の治療は病気の進行度や身体の状態に応じて適切な方法を選びます。肝硬変の進行度を大きく2つに分類すると、代償期と非代償期に分けられます。ここでは代償期と非代償期という肝臓の状態別に治療法を解説します。
代償期と非代償期とは?
代償期は肝硬変の初期の段階です。肝機能は正常よりもやや低下していますが、正常な働きが残っている肝臓が肝機能をカバーする(代償する)ことで目立った症状は現れません。実際に代償期肝硬変の人ではほとんど症状がありません。
肝硬変が進行すると代償機能が限界に達してしまい、肝臓の機能が低下してしまいます。この状態を非代償期といいます。肝臓が十分に働いていない非代償期では、栄養不良や腹水、肝性脳症といった様々な症状がみられるようになります。
肝臓の機能が軽度に低下した場合(代償期)の治療
代償期の治療の目的は、できるだけ肝臓の機能を維持して非代償期に進行するのを遅らせることです。肝硬変になっても代償期の状態であれば症状に悩まされることは少ないです。代償期の肝硬変の治療は以下の2点が行われます。
- 肝硬変を起こしている病気の治療(肝硬変の原因となっている病気の治療)
- 肝臓の機能を保護する薬物治療(肝臓の負担を軽くする治療)
肝硬変は、ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎などによって肝臓が持続的にダメージを受けることによって起こります。このため肝硬変を引き起こしている病気を治療すれば肝硬変の進行を遅らせられる可能性があります。例えば、ウイルス性肝炎に対しては抗ウイルス薬で治療を行ったり、アルコール性肝硬変に対しては禁酒治療を行ったりします。
併行して肝臓の機能を保護するための薬物治療を行います。主に用いられるのはウルソデオキシコール酸やグリチルリチン製剤などです。
代償期の肝硬変の治療は「肝硬変の治療」で詳しく解説しているので参考にしてください。
肝臓の機能が大きく低下している場合(非代償期)の治療
肝硬変が進行すると、代償機能によってかろうじて保たれていた肝臓の機能が大幅に低下するため、身体にさまざまな影響を及ぼし始めます。この状態を非代償期といいます。
非代償期では様々な症状が現れますが、特に問題となるのは以下の3つです。
- エネルギーが枯渇する・筋肉が少なくなりやせ細る:低栄養
- 意識状態が悪くなる:肝性脳症
- お腹の中に水が溜まる:腹水
それぞれの症状に対する治療について解説します。
■エネルギーが枯渇する・筋肉が少なくなりやせ細る:低栄養
肝硬変になるとエネルギーを蓄えたり作り出したりする力が低下します。この影響で非代償期の肝硬変では慢性的に低栄養状態になります。不足したエネルギーを補うために一部の筋肉(骨格筋)が分解されてエネルギーとして利用されるようになり、その結果筋肉がやせ細ってしまいます。
非代償期の肝硬変の栄養状態を改善するには夜食や分岐鎖
■意識状態が悪くなる:肝性脳症
肝臓の機能の1つにアンモニアなどの有害物質を分解する働きがあります。非代償期の肝硬変で分解能力が低下すると、アンモニアなどの有害物質が蓄積して意識状態が悪くなる肝性脳症という症状が起こります。肝性脳症が起こりやすくなるのは、タンパク質の摂取量が多いときや便秘のとき、脱水のときなどです。このため、食事のタンパク質の量を制限したり、便秘を解消すること、脱水を避けることが肝性脳症を予防するために重要です。便秘の解消にはラクツロースやラクチトールといった下剤を使うことも有効です。また、分岐鎖アミノ酸の内服や、リファキシミンなどの腸管非吸収性
■お腹のスペースに水が溜まる:腹水
腹水はお腹の中のスペースに水が溜まった状態です。腹水が大量に溜まると、お腹が張って苦しくなったり身体を動かしづらくなったりするなどの症状が現れます。軽症の腹水には塩分の制限や利尿剤、アルブミン製剤などの治療が有効です。腹水は肝硬変の進行とともに治療が難しくなり、軽症のときに有効であった治療の効果がなくなります。治療が難しくなった腹水に対してはお腹に針を刺して水を抜く治療や必要に応じて外科的治療(手術)を行うこともあります。
非代償期の肝硬変の治療については「肝硬変の治療」で詳しく解説しているので参考にしてください。
6. 肝硬変の人が日常生活で工夫や注意をすること
肝硬変の人は肝臓の機能が低下しているために様々な症状が現れます。肝硬変の影響を少なくするためには日常生活の中でも工夫や注意が必要です。肝硬変の人は次のようなことを日常生活で心がけて下さい。
- 食事の内容に気を配る
- 栄養をしっかりとる
- 塩分を控える
- 生魚を摂取しない
- 適度な運動を行う
- 禁酒する
- 手洗い・うがいを中心にした感染予防を実践する
- 怪我をした時には血が止まりにくいことに注意する
これらに気を配ることで肝臓の機能が低下した影響を最小限にし、体調面を整えることに役立ちます。
それぞれの工夫や注意点についてさらに詳しく知りたい人は「肝硬変の人が知っておきたいこと」で詳しく解説しているので参考にして下さい。
参考文献
・福井次矢 , 黒川 清/日本語監修, 「ハリソン内科学 第5版」, MEDSi, 2017
・矢﨑義雄/総編集, 「内科学 第11版」, 朝倉書店, 2017
・日本消化器病学会,「肝硬変