かんこうへん
肝硬変
肝臓の細胞の破壊と再生が繰り返されたことで、肝臓が線維化(肝細胞に炎症が繰り返される影響で組織が硬くなって機能を失うこと)した状態
12人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.06.20

肝硬変の検査:超音波検査・CT検査・肝生検など

肝硬変が疑われた場合には、医療機関で様々な検査が行われます。肝硬変の程度や原因を調べて最も適した治療につなげることが検査の目的です。肝硬変が疑われる場合に用いる検査などを中心に解説します。

1. 問診:状況の確認

問診は身体に起きている状況や患者さんの背景を確認するために大切です。問診は、症状や心配なことについて伝えたり質問に答えたりして進んでいきます。どんな病気を診断するにしても問診はとても重要です。以下は問診で使われる質問の例です。

  • どんな症状を自覚するのか
  • 心配なことはどういったことか
  • 症状が起きはじめた時間はいつか
  • 症状が強く出ている場所はあるか
  • 症状は軽くなったりひどくなったりするか
  • どの程度飲酒するのか
  • 喫煙はするかまたはしていたか
  • 現在治療中の病気はあるか
  • 今までにかかった病気はあるか
    • 入院をしたことはあるか
    • 定期的に受診している病気はあるか
    • 手術をしたことはあるか
    • 輸血をしたことがあるか
  • 定期的に飲んでいる薬はあるか
  • 血のつながった家族はどんな病気にかかったことがあるか

これらの質問を元にして症状の原因となる病気を絞り込んでいきます。特に肝硬変は様々な原因が考えられるので、問診による状況の把握がとても大切になります。

次に特に大事な問診内容について詳しく解説します。

飲酒はどの程度するか

肝硬変の原因の1つがアルコールの多飲です。アルコールをどれくらい飲んでいるかまたは過去に飲んでいたかを伝えてください。医師への伝え方は、できるだけ具体的なほうがよいです。例えば「30年間、週に5日、1日あたり缶ビール2本」などのような言い方をすると伝わりやすいです。

今までにかかった病気

肝硬変はB型肝炎C型肝炎といった肝炎ウイルスの持続感染が原因になることが多く、肝炎ウイルスに感染している場合にはいつ感染を指摘されたかなどを細かく伝えてください。

近年は輸血前のチェック精度が向上しているためあまり報告はありませんが、以前は輸血の中にウイルスが潜んでいることがありました。そのため、手術経験や輸血経験の有無もウイルス性肝炎の可能性を考える上で重要です。手術をしたことがあれば本人の記憶が不確かでも輸血をした可能性があります。

2. 身体診察

問診では身体にどんな症状が現れて困っているかを確認され、身体診察では問診で得られた情報を元にして身体の状態を客観的に評価されます。客観的な評価をふまえて症状の原因となっている病気がさらに絞り込まれます。

肝硬変が疑われる場合には、主に以下のような診察を行います。

  • バイタルサインの確認
  • 視診
  • 聴診
  • 打診
  • 触診

これらの方法にはそれぞれに特徴があり、調べられるものが異なります。以下ではそれぞれの方法について個別に解説していきます。

バイタルサインの確認

病院などで「バイタル」や「バイタルサイン」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。バイタルサインは英語で「vital signs」のことを指し、直訳すると生命徴候という意味です。バイタルサインを調べることで、生命に危険が迫っているかどうかを素早く判断できます。

一般的にバイタルサインは以下の5つを指すことが多いです。

  • 脈拍数
  • 呼吸数
  • 体温
  • 血圧
  • 意識状態

また、上の5つに加えて身体に酸素が行き渡っているかを調べる酸素飽和度もバイタルサインとして扱う場合もあります。

肝硬変の人はバイタルサインに異常がないことが多いのですが、それでも確認することに意味があります。

肝硬変は特発性細菌性腹膜炎食道静脈瘤の破裂などの重い病気を合併することがあります。これらの重い病気は症状からわかることもある一方で、自覚症状が乏しいこともあります。症状以外の手がかりとして、生命に危険が差し迫っているかを素早く客観的に判断できるバイタルサインは重要です。

視診

視診は身体の見た目をくまなく観察する診察です。肝硬変が疑われる場合やすでに肝硬変と診断がされている場合ではお腹を中心に観察します。肝硬変の場合にはお腹を中心に特徴的な変化が現れるので視診で確認することができます。

  • お腹が全体的に膨らんでいる:腹水
  • お腹の血管がくっきりと見える:腹壁静脈の怒張
  • 男性の乳房に膨らみがある:女性化乳房
  • クモのような形をした血管が浮き出ている:くも状血管腫
  • 掌が赤くなる:手掌紅斑
  • 皮膚や白目が黄色くなる:黄疸
  • 手足がむくむ:浮腫

これらは肝硬変が原因で現れる症状で、視診により確認できることがあります。それぞれの症状が現れるメカニズムは複雑なのでここでの解説は割愛します。症状が現れるメカニズムについて知りたい人は「肝硬変の症状」のページで詳しく解説しているので合わせて参考にしてください。

聴診

聴診器を用いて身体の中で起こる音を聞く診察です。対象となる音は胸やお腹などさまざまですが、肝硬変が疑われる場合の聴診では主に腸の動きを聞いています。腸の動きが活発になっていると腸の音は大きくなり、逆に腸の動きが弱くなっていると腸の音は小さくなります。聴診による音の大きさなどから腸の動きを推定することができます。肝硬変では腹膜炎という病気を引き起こすことがあり、腸の動きが悪くなる原因になることがあります。

打診

打診は、お腹などを軽く指で叩いてお腹の中で異常が起きているかを調べる診察方法です。

例えばお腹にガスが溜まっている場合にはお腹を叩くとまるで太鼓を叩いているかのような感触を得られます。肝硬変では腹水といってお腹の中に水が溜まることがあるのですが、その場合には太鼓を叩くような感触ではなく鈍く響く感触を得られます。

触診

触診は体の一部分を押したり念入りに触ったりする診察の方法です。お腹を少し強く抑えたりすることによって痛みの感じ方を調べたりお腹の中のしこりの有無などについて調べることができます。

触診で注意が必要なのは腹膜刺激症状という状態です。お腹を押さえたときより離したときに痛みが強くなると腹膜刺激症状が現れていると考えます。腹膜刺激症状は腹膜炎という状態になっている可能性を示唆します。腹膜炎は重い状態なので速やかに治療を進めなければなりません。腹膜炎に対する治療が遅れると生命に危険が及んでしまうこともあるので、特に腹膜刺激症状を見逃さないことなどに注意をしながら触診をします。その他では肝硬変の影響で大きくなった脾臓を上腹部に触れることもあります。

3. 血液検査

血液検査は肝臓や全身の状態を把握するのに役立ちます。例えば肝臓の機能が低下すると、肝臓で作られる物質が少なくなったり肝臓で分解される物質が増加したりします。血液検査を行って肝臓の機能を反映した物質を測定することで、肝臓の状態を読み取ることができます。

肝硬変が疑われる場合の血液検査の結果は以下のような点に注目しています。

  • 肝臓で作られる物質が少なくなっていないか
  • 肝臓で処理される物質が増えていないか
  • 肝臓が壊れて出る物質が増えていないか
  • 汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)が起きていないか

次の段落からは上に挙げた4つのポイントに注目して解説します。

肝臓で作られる物質が少なくなっていないか:アルブミン、コリンエステラーゼ、PT

肝臓では多くの物質が作られています。肝硬変によって肝臓の機能が低下すると、本来肝臓で作られるはずの物質が減少していきます。

■アルブミン(Alb)

アルブミンは肝臓で作られるタンパク質の一つです。血管の中に水分を保ったり、他の物質と結合して運搬をするなどの働きがあります。

血管は完全なパイプのように水を漏らさない訳ではなく、一部の水は血管の内外を行き来しています。アルブミンは血管の中に水分を保つ役割を担っていて、少なくなると血管から水分がしみだしやすくなります。(難しい話をすると浸透圧の原理と言います。)血管から水分がしみ出していくとお腹や胸に水が溜まります。胸やお腹に溜まる水の量が増えると、お腹が張ったり呼吸が苦しくなったりするようになります。

肝臓の機能を評価するときにChild-Pugh分類という方法が使われます。これはいくつかの項目から評価する方法ですが、そのうちの一つがアルブミンです。詳しいことはこのページ内の「肝硬変の重症度を測る基準:Child-Pugh分類」で解説しているので参考にして下さい。

■コリンエステラーゼ(ChE)

コリンエステラーゼという物質は主に肝臓で作られます。肝硬変によって肝臓の機能が低下すると肝臓でコリンエステラーゼを作ることが難しくなるため、血液中の濃度が低下します。

■プロトロンビン時間(PT)

プロトロンビンは肝臓で作られる血液を固める役割をもつ物質です。肝硬変になって肝臓が機能しなくなるとプロトロンビンは身体の中から少なくなります。プロトロンビンは出血を止める特に必要な物質ですので、出血が止まりにくくなることがあります。

また、プロトロンビンはアルブミンと同じく、Child-Pugh分類という肝臓の機能を評価する方法で用いられます。詳しくはこのページ内の「肝硬変の重症度を測る基準:Child-Pugh分類」で解説しているので参考にして下さい。

肝臓で処理される物質が増えていないか:ビリルビン、アンモニア

肝臓は身体にとって不要な物質を分解して身体の外に排泄する役割を担っています。不要になったビリルビンやアンモニアは肝臓で分解されるので、肝臓の機能が低下すると身体の中に蓄積してしまいます。

■ビリルビン(Bil)

ビリルビンは赤血球が壊れて出る物質です。ビリルビンが溜まると身体に悪影響が出るので、肝臓で処理して胆汁の一部になり最終的には便として排泄されます。肝臓の機能が低下しているとビリルビンは身体の中に溜まっていき、黄疸(皮膚が黄色くなったりかゆくなったりする)になります。黄疸については「肝硬変の症状」でも解説しているので参考にして下さい。

ビリルビンは肝臓の機能を推定するために用いるChild-Pugh分類で使う項目の一つです。このページ内の「肝硬変の重症度を測る基準:Child-Pugh分類」で解説しているので参考にして下さい。

■アンモニア(NH3)

アンモニアは、タンパク質が腸内細菌によって分解されることで発生し、肝臓で無毒化されて尿の中に排泄されます。身体の中にアンモニアが溜まると意識状態に影響を及ぼす状態が引き起こされます。これを肝性脳症と言います。肝硬変の人が意識状態の変化をきたしているときには、肝性脳症が発生していないかを調べるために血液検査でアンモニアの数値を確認します。

肝性脳症については「肝硬変の症状」でも解説しているので参考にして下さい。

肝臓が壊れることで現れる物質(肝細胞の酵素、肝逸脱酵素)が増えていないか:AST、ALT

肝臓を構成する肝細胞が壊れることで肝細胞内にある酵素(肝逸脱酵素)が血液中に増加します。肝逸脱酵素を調べることによって肝臓が受けたダメージを推測することができます。AST、ALTという2つの肝逸脱酵素について説明します。

■AST(GOT)

ASTは肝細胞に多く含まれる物質で、肝細胞が破壊されるとASTは血液中に放出されます。AST値の上昇の程度は肝臓の障害度を反映すると考えられています。つまり、ASTの値が高いほど肝臓の障害が大きいと推測することができます。

ASTの値を見る時に注意が必要なこともあります。ASTは肝臓の障害度の推測に役立つのですが、ASTは肝臓にだけあるかというとそうではなく心臓や筋肉、腎臓などの臓器にも存在しています。このため、AST値が上昇したからといって肝臓が破壊されていると直線的に考えることはできません。したがって、他の検査結果と照らし合わせて肝臓に問題が起きているかどうかを判断します。

■ALT(GPT)

ALTはASTと同様に肝臓に多くある物質で、ASTと同様に肝臓が壊れると血液中のALT値が上昇します。ALTの値はASTと同様に肝臓の障害度を反映すると考えられていますが、ASTと異なりALTはほとんどが肝臓にある物質です。ALT値の上昇がある場合は、肝臓に障害が起きていることがより強く疑われます。

汎血球減少が起きていないか:赤血球、白血球、血小板が全て減少する

汎血球減少という言葉は少し見慣れないかもしれません。赤血球、白血球血小板という3つの細胞全てが減少することを汎血球減少と言います。

肝硬変では肝臓が固くなり肝臓に流れ込む門脈という血管の圧がかなり高い状態(門脈圧亢進)になってしまいます。

門脈圧亢進が起こると肝臓に流れ込む血液の一部が脾臓に流れるようになり、脾臓への血流が増えます。脾臓では赤血球・白血球・血小板の破壊などが行われていて、血流が増加するとその働きが活発化して赤血球・白血球・血小板が減少します。こうして汎血球減少が起きると感染にかかりやすくなったり出血したときに血が止まりにくくなるなどの注意点が現れるので重要です。

もう少し詳しく説明します。

■赤血球(RBC)

赤血球が正常値を下回ることで貧血の状態になります。赤血球は身体中に酸素を届ける役割があるので、数が少なくなると身体に酸素が届きにくくなります。すると、ふらつきや疲れやすさ、動悸などの症状が現れます。

■白血球(WBC)

白血球は細菌や異物から身体を守るための役割を持っています。このため白血球が低下すると感染症にかかりやすくなります。医師から白血球が低下していると言われた場合には手洗いなどを中心とした感染予防が有効なので実践して下さい。

■血小板(PLT)

血小板は血液を固める役割をもっています。血小板が少なくなると血が止まりにくくなります。内出血などでも大きな血の固まり(血腫)をつくってしまうことや怪我をした部位から出血が止まらなくなってしまうことがあるので注意が必要です。

4. 画像検査

肝硬変が疑われる場合には、超音波検査CT検査、MRI検査などを用います。肝硬変の場合に画像検査を用いる目的は、肝硬変の診断と肝臓がんの有無の確認です。肝臓がんは肝硬変の状態から発生しやすいことが知られているので調べておかなければなりません。

腹部超音波検査(エコー検査)

超音波検査では身体の中を深部まで観察できます。超音波を利用してその反射の程度を把握することで体内を画像にします。超音波は空気や骨などに当たるとうまく画像にできないという弱点がありますが、お腹は空気や骨を気にしなくて良いので観察に適しています。

実際の方法としては、観察をする場所にジェルを塗ってプローブという超音波が出る機械を当てて検査をします。プローブの先にあるものが画像として写し出されます。

肝硬変が疑われる場合には、肝臓の形や凹凸の有無、お腹の中の水(腹水)の有無などが中心に調べられます。また、超音波検査はCT検査やMRI検査に比べると簡単に行うことができる点や放射線を用いなくても検査ができる点が優れています。

超音波検査で肝臓がんが疑われる場合には、より詳しく調べる造影剤を用いた超音波検査を行うことがあります。これを造影超音波検査といいます。造影超音波検査については、「肝臓がんの検査」で原理などについて詳細に解説しているので参考にして下さい。

CT検査

CT検査は、放射線を利用して身体の断面を画像にする検査です。肝硬変が疑われる場合、CT検査を用いると肝臓の形や大きさを調べることが出来ます。肝硬変でCT検査を用いる目的にはもう一つあり、それは肝臓がんの発生の有無を調べることです。超音波検査などで疑わしい部分があるときにはCT検査を用いてさらに詳しく調べます。

肝臓がんを調べる場合には、造影剤という薬を注射してからCT検査を行います。造影剤によってCT検査の画像では血管が白く色づくので、肝細胞とがんが疑われる部分との境界がよりはっきりとします。

肝臓がんのCT検査についてより詳しく知りたい人は「肝臓がんの検査」を参考にして下さい。

MRI検査

MRI検査は、磁気を利用して身体の断面を画像にする検査です。CT検査とは異なり放射線を用いないので被曝の恐れはありません。

MRI検査ではCT検査と同様に肝臓の形や大きさを観察することができます。しかし、MRI検査は肝硬変が疑われる全員に行われる訳ではありません。肝硬変の人に肝臓がんが疑われるもののCT検査や超音波検査でははっきりとは判断できない場合にMRI検査が行われます。

先で述べたCT検査と同じく造影剤を用いることで肝臓がんが発生しているかが詳しくわかります。肝臓がんのMRI検査についてより詳しく知りたい人は「肝臓がんの検査」を参考にして下さい。

5. 肝生検:肝臓の一部を取り出してくる検査

生検は病気が疑われる臓器の一部を取り出してくる検査のことです。肝硬変を診断する際に肝生検が行われることがあります。

肝臓の一部はどのようにして取り出されるのでしょうか。一般的に行われる肝生検は身体の外から肝臓に直接針を刺して肝臓の一部を取り出します。肝生検を実施する際の例を以下で紹介します。肝生検を受けることが決まっている人は検査当日のシミュレーションだと思って参考にして下さい。

【肝生検の流れ】

  1. 仰向けになります
  2. 超音波で肝臓で針を刺すべき位置や血管の様子などを観察します
  3. 針を刺す場所を決めて消毒します(少しひんやりします)
  4. 針を刺す場所の皮膚に麻酔をします
  5. 麻酔が効いているのを確認した後、超音波検査の画像を見ながら1-2mmの針を身体の外から刺して肝臓の一部を取り出します(必要な場合には何回か針を刺します)
  6. 針を抜いた後は肝臓からの出血を止めるため、針を刺した部位を圧迫します
  7. 検査当日はベッド上で安静にします
  8. 翌日、肝臓からの出血がないことを超音波を用いて確認し、問題なければ普段通りの生活に戻れます

肝生検は以上のような流れで行います。

取り出した肝臓の一部を顕微鏡で観察する(これを病理検査と言います。)と、肝硬変が起きているかどうかや肝硬変の程度を知ることができます。

また、特殊な状況として腹腔鏡という方法を用いて生検を行うこともあります。腹腔鏡を使って生検を行うのは、診断することが難しいと事前に判断された場合や一般的な生検を行ったものの診断できなかった場合などです。腹腔鏡は手術などで用いられる器具のことで内視鏡の一種です。腹腔鏡を用いた生検では、お腹に数か所の穴を開けて鉗子というお腹の中でものを掴んだり切り取ったりできる器具を用いて肝臓の一部を切り取ります。腹腔鏡を用いた生検のメリットは、肝臓を直接観察するので、肝臓の凹凸(でこぼこ)や萎縮した程度などを正確に把握できる点と、狙った場所から確実にたくさんの肝臓の組織を取り出せる点です。デメリットは、腹腔鏡を使うには全身麻酔が必要な点や、針生検に比べて入院期間が長くなることなどです。

症状や他の検査の状況から肝硬変が起きていることが明らかな場合は肝生検を行わない選択肢もあります。具体的には、肝炎ウイルスの持続感染など肝硬変の原因が明らかで、肝硬変による症状が現れている場合などでは身体に負担のかかる生検は行いません。その場合は画像検査(超音波検査やCT検査、MRI検査)で肝臓の状態を調べて肝硬変と診断します。

6. 肝硬変の重症度を測る基準:Child-Pugh分類

Child-Pugh分類は肝臓の機能を推定する方法です。

Child-Pugh分類は、1つの検査で決まるものではなく以下の5つの項目の検査結果の組み合わせで決まります。

  • ビリルビン 
  • アルブミン 
  • 腹水の量
  • 精神神経症状(昏睡度) 
  • プロトロンビン活性値(%)

ビリルビンやアルブミン、プロトロンビンはこのページの「血液検査」で解説しているので参考にして下さい。これらの検査結果の値と腹水の有無や量、精神神経症状を評価してChild-Pugh分類が決まり、A・B・Cの3段階で評価されます。点数と検査結果などが対応した表は下のものになります。

【Child-Pugh分類】

  1点 2点 3点
血清ビリルビン(mg/dl) 2.0未満 2.0-3.0 3.0超
血清アルブミン
(g/dl)
3.5超 2.8-3.5 2.8 未満
腹水     中等量
精神神経症状
(昏睡度)
ない 軽度 重症
プロトロンビン活性値(%) 70超 40-70 40未満
  • A(軽度):5-6点
  • B(中等度):7-9点
  • C(重度):10-15点

以上の5項目を評価して合計点数によって分類します。例えば7点だった場合Child-Pugh Bとします。肝硬変は進行していくので病気の状態が変わったときや定期的に検査をするのでその都度Child-Pugh分類を用いて肝硬変の状態を把握します。Child-Pugh分類によっては選択できない治療法などがあるからです。

Child-Pugh分類は肝硬変を治療する上でも大切なのですが、肝臓がんが出来た時にはさらに重要になります。それは、治療法を選ぶ際に、Child-Pugh分類が重要な判断材料の1つになるからです。肝臓がんの治療の方法の選択については「肝臓がんの詳細情報ページ」で詳しく説明しています。

7. 肝硬変の場合に検査で調べておくべき病気

肝硬変と診断された後には定期的に調べておくべき病気があります。それは肝臓がん食道静脈瘤という病気です。それぞれはどんな病気なのでしょうか。

肝臓がん

肝臓がんは肝細胞ががん化する病気で、ウイルス性肝硬変やアルコール性肝硬変などが原因となります。

肝硬変を治すことができれば肝臓がんにならなくてすむという考え方もありますが、現在のところ肝硬変を元の状態に戻す治療は確立されてはいません。そのため、特に肝硬変がある人は肝臓がんを早期に発見する検査(スクリーニング検査)が重要になります。スクリーニング検査は特に症状がない場合であっても対象になります。スクリーニング検査で異常が見つかった人は、さらに詳しく調べる検査(生検などの精密検査)を受けることになります。「肝癌診療ガイドライン」によると、肝硬変の人は原因や進行度によって以下のようなスクリーニング検査のスケジュールが勧められています。

  • B型・C型肝炎が原因の肝硬変の人
    • 3-4ヵ月に1回の腫瘍マーカーの測定と超音波検査
  • B型・C型肝炎以外が原因の肝硬変の人
    • 6ヵ月に1回の腫瘍マーカーの測定と超音波検査

この検査間隔を目安にして患者さんの年齢、性別、糖尿病の有無、BMIなどを総合的に評価して間隔を縮めたり延ばしたりします。スクリーニング検査で肝臓がんが疑わしい場合には造影CT検査や造影MRI検査や生検を行い肝臓がんかどうかの診断を行います。肝臓がんについてもっと詳しく知りたい人は「肝臓がんの詳細情報ページ」も参考にして下さい。

食道・胃静脈瘤

肝硬変が進むと門脈という血管の圧力が上昇する門脈圧亢進が起きます。門脈は腸で吸収した栄養を肝臓まで運ぶ血管です。門脈圧亢進が起きると門脈を流れるはずの血液が他の血管を迂回して流れるようになります。迂回路の1つである食道静脈に多くの血液が流れるようになると、食道静脈は太くなりミミズが何匹も食道の粘膜の下にあるように見えます。こうした食道の粘膜の下の血管が太くなった状態を食道静脈瘤と呼びます。

食道静脈瘤は脆(もろ)く破裂しやすい血管です。破裂すると口から大量の血を吐いて吐血します。吐血でたくさんの血を失った場合には生命に危険を及ぼすことも少なくはありません。食道静脈瘤を破裂する前に見つけることができれば、内視鏡などを用いて出血の危険性を下げる治療をすることができます。食事の通りにくさなどの症状を自覚する場合もあるので、思い当たるふしがある場合は医師に相談してみてください。

食道静脈瘤についてさらに詳しく知りたい人は「食道静脈瘤の基礎情報ページ」も参考にして下さい。

参考文献

日本臨床検査学会, 「付録:参考基準値表」(2018.3.26閲覧)
国立がん研究センター, 「臨床検査基準値一覧」(2018.3.26閲覧)
・福井次矢 , 黒川 清/日本語監修, 「ハリソン内科学 第5版」, MEDSi, 2017
・矢﨑義雄/総編集, 「内科学 第11版」, 朝倉書店, 2017
・河合 忠/著, 「異常値の出るメカニズム 第7版」, 医学書院, 2018