[医師監修・作成]肝硬変の治療:利尿薬(アルダクトン®、ラシックス®、サムスカ®)・分岐鎖アミノ酸製剤など | MEDLEY(メドレー)
かんこうへん
肝硬変
肝臓の細胞の破壊と再生が繰り返されたことで、肝臓が線維化(肝細胞に炎症が繰り返される影響で組織が硬くなって機能を失うこと)した状態
12人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.06.20

肝硬変の治療:利尿薬(アルダクトン®、ラシックス®、サムスカ®)・分岐鎖アミノ酸製剤など

肝硬変の治療は、肝臓の状態や現れている症状などをもとにして最適なものが選ばれます。このページでは肝硬変の進行度によってどういった治療が行われるのかについて詳しく解説します。

1. 肝硬変の治療は進行度によって違う:代償期と非代償期の治療について

肝硬変と診断された場合、自分の状況に適した治療法を探す必要があります。肝硬変の進行度や身体の状況によって適した治療法が異なります。

肝硬変の進行具合は代償期と非代償期の2つに大別できます。治療方法を選択する上で、自分の状況が代償期なのか非代償期なのかを判断することは大切です。

代償期と非代償期とは?

代償期は肝硬変の初期の段階です。肝臓の一部分の機能は低下しているのですが、それ以外の部分が補うことで機能は保たれてています。このように低下した機能を他が補うことを代償といいます。肝硬変の代償期では、肝臓全体でみるとその働きは保たれています。

一方で、肝硬変が進行すると代償機能では補いきれなくなってしまい、肝臓としての働きを保てなくなります。この状態を非代償期といいます。非代償期では栄養不良や腹水(お腹に水が溜まる)、肝性脳症(意識がもうろうとするなど)といった症状が現れます。

肝臓の機能が軽度に低下した場合(代償期)の治療

代償期は症状がほとんどないので、治療をしなくてもよいと思う人も多いかもしれません。代償機能によって症状は出ないですが、実際には肝臓には負担がかかっています。代償期の治療の目的は、肝臓の負担を軽くして非代償期に進行しないようにすることです。

代償期の肝硬変の治療は以下の2つがポイントになります。

  • 肝硬変を起こしている病気の治療(肝硬変の原因となっている病気の治療)
  • 肝臓の機能を保護する薬物治療(肝臓の負担を軽くする治療)

ウイルス感染やアルコールなどによって肝臓が慢性的にダメージを受けると肝硬変の原因になります。肝硬変の進行を遅らせるためには、肝硬変の原因となっている病気を治療することが大切です。例えば、アルコール性肝硬変であれば禁酒することで、肝硬変の進行を遅らせることが出来ます。肝硬変を起こしている原因の治療は、このページの「肝硬変を起こしている病気に対する治療」で個別に解説しているので参考にして下さい。

併行して肝臓の機能を保護するための薬物治療を行います。主に用いられるのはウルソデオキシコール酸(ウルソ®など)やグリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンシー®など)が中心になります。これらの薬は肝硬変が非代償期になっても継続して用いられることが多いです。肝臓の機能を保護する薬物治療は、「肝臓の負担を軽くする薬」で詳しく解説しているので参考にして下さい

また、生活習慣の見直しも大切です。アルコールをよく飲む人は、肝臓への負担軽減のためにアルコールを絶つことが望ましいですし、適度な運動やバランスが取れた食事をすることも大切なことです。肝硬変の人の日常生活における注意点や工夫は「肝硬変の人が知っておきたいこと」でも解説しているので参考にして下さい。

肝臓の機能が大きく低下している場合(非代償期)の治療

肝硬変が進行すると、代償機能によって持ちこたえていた肝臓の機能が大幅に低下して、身体に様々な影響を及ぼし始めます。低下した肝臓の機能を代償できなくなった状態を非代償期といいます。ほとんど症状がない代償期と異なり、非代償期では様々な症状が現れますが、特に問題となるのは以下の3つです。

  • エネルギーが枯渇する・筋肉が少なくなりやせ細る:低栄養
  • 意識状態が悪くなる:肝性脳症
  • お腹の中に水が溜まる:腹水

非代償期では、代償期で行っていた治療のほとんどがそのまま継続されます。さらに症状を和らげるための薬物治療や処置などが行われます。

以下ではそれぞれの治療の概要について解説します。

■エネルギーが枯渇する・筋肉が少なくなりやせ細る:低栄養

肝臓にはエネルギーを形を変えて蓄えたり、蓄えたものを再びエネルギーに変えたりする働きがあります。肝硬変になると肝臓の機能が低下するため、エネルギー源を変換する力が低下します。このため肝硬変の非代償期では、エネルギーが不足しがちです。また、低下した肝臓の機能を補うために、一部の筋肉をエネルギーとして利用されると、筋肉はやせ細っていきます。

栄養状態が悪化するとその後、治療経過にも悪影響が出るので、できるだけ低栄養の状態を改善する必要があります。夜食や分岐鎖アミノ酸製剤の摂取などが治療として有効です。夜食やアミノ酸製剤についてはこのページの食事・栄養療法薬物療法でそれぞれ解説しています。

■意識状態が悪くなる:肝性脳症

肝臓の機能の1つにアンモニアなどの老廃物の分解があります。老廃物が身体に蓄積すると神経機能に障害をきたし、意識状態の低下を招きます。このように非代償期の肝硬変で意識状態が悪くなることを肝性脳症といいます。

肝性脳症は一度治っても再発することがあります。肝性脳症を起こさないようにするためには、血液中の老廃物(アンモニアなど)の濃度をできるだけ低くすることが有効です。アンモニアなどの老廃物は、主に腸内細菌によってタンパク質が分解されることによって生成されます。

老廃物が増えやすい条件としては次の様なものがあります。

  1. タンパク質の過剰な摂取
  2. 便秘

上の条件に対する治療についてもう少し詳しく説明します。

①タンパク質の過剰な摂取

タンパク質は肉や魚に多く含まれていて、身体を作るために必要な物質です。身体にとって大切なタンパク質ですが、肝硬変の人が摂取しすぎるとアンモニアが増えすぎてしまうことがあるので注意しなければなりません。肝性脳症を繰り返すような人ではタンパク質の制限が必要になる場合もあります。

ただ、「今日の食事の中には何gのタンパク質が含まれている」といったように、食事中のタンパク質量を厳密にコントロールするのは簡単ではありません。実際にどの食品にどの程度の栄養素が含まれているかを把握するのはかなり難しいものです。このような場合には、専門的な知識を持つ管理栄養士に相談して適切な食事内容を教えてもらうことが有用です。管理栄養士に栄養面について相談したい場合には主治医に相談して依頼してもらうとスムーズかもしれません。

便秘

便秘になると腸内細菌が食べ物の中のタンパク質を分解しやすい環境になり、タンパク質から作られるアンモニアが身体の中で増えます。肝硬変の人がアンモニア過剰になると肝性脳症になるので、できるだけ便秘にならないような工夫が必要です。便秘にならないためには、適量の飲水や繊維質の多い食事、下剤の使用などは効果が期待できます。詳しくはこのページの「薬物療法」で下剤について解説しているので参考にして下さい。

■お腹のスペースに水が溜まる:腹水

腹水はお腹の中のスペースに溜まった水のことです。腹水が溜まりすぎると、お腹が張って苦しくなったり身体を動かしづらくなったりします。肝硬変の人に起こる腹水の主な原因は、門脈圧亢進症(肝臓に流れ込む門脈という血管の圧力が上昇する)とアルブミンというタンパク質が少なくなっていることです。

腹水の程度によって、治療は以下のように変わります。

  • 軽症の腹水
    • 塩分制限
    • 利尿剤
    • アルブミン製剤
  • 治療が難しい腹水
    • 腹水穿刺:お腹に針を刺して腹水を抜く治療
    • 腹水濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy):腹水を抜いて濃縮して戻す治療
    • 手術

軽症の腹水に対しては、塩分の制限や利尿剤、アルブミン製剤などが有効です。肝硬変が進行すると腹水の治療が難しくなり、塩分の摂取や利尿剤などでは治療できなくなります。その場合には、腹水穿刺(お腹に針を刺して腹水を抜く治療)や腹水を一度抜いたものを濃縮して点滴する治療、手術などの治療が行われます。

以降では腹水に関するそれぞれの治療法についてもう少し詳しく解説します。

2. 食事・栄養療法

肝硬変の人が食事を工夫すると、症状が軽くなったり出にくくなったりします。この章では、寝ている間のエネルギー不足を解消する「夜食」と腹水を少なくするための「塩分の制限」について解説します。

夜食:就寝前エネルギー摂取(LES:Late Evening Snack)

肝硬変では肝臓の糖分を肝臓に貯め込む力が低下しているのでエネルギーが不足してしまうことがあります。

特に寝ている間は注意です。例えば、19時に夕食をとり翌日の朝食を7時にとる場合には、何も食べない時間が12時感空きます。本来ならばこの間には肝臓に蓄えているエネルギーなどを利用するのですが、肝硬変の人の場合は蓄えられているエネルギーが不十分であることが多いです。エネルギーを十分に使えない時間があると、身体のバランスが崩れて肝硬変がますます悪化してしまいます。

一回の食事量を増やして摂取エネルギーを増やせば良いように思えますが、なかなかそう単純にはいきません。エネルギーを増やすとその分、血糖値が高くなるなどの悪影響が身体に起こるためです。

夜食として就寝前にエネルギーを摂取すると、寝ている間にも適度なエネルギーを保つことができます。具体的には、200kcal程度の食事を夜食として摂り、夜食以外の食事の合計エネルギー量からは200kcalを差し引きます。例をあげると、1日1800kcalが適正なカロリーの人の場合は、200kcalを夜食でとりその他の食事の合計は1600kcalにします。夜食を摂るようになると夜間のエネルギー不足が解消されて、肝硬変の状態も改善することが期待されます。

とはいえ、注意しなくてはならない点があります。夜食には効果が期待できる一方で、正しく行わないと不利益が起きることがある点です。具体的に言うと、エネルギーが過剰な状態が続くと血糖値が上昇しやすくなりますし、食事の内容が適したものでなければ狙った効果が得られないことも有り得ます。

夜食は適切な方法で行うことが大切です。まず医師や管理栄養士に、どんな夜食を選ぶと良いのかや何時ころに食べると良いのかについて相談してみて下さい。

塩分の制限

肝臓の機能が大きく低下して腹水が増えると、身体を動かしにくくなったり苦しさを感じたりするようになります。腹水が増えるほど症状は強くなるので、その量を減らすと身体は楽になります。

腹水は塩分の摂取が影響して増えることが知られています。このため、食塩を減らすと腹水が少なくなることが期待できますが、制限しすぎると味付けを物足りなく感じて食事量が減ってしまいかねません。肝硬変の人の身体は、栄養が不足していることが多いので食事量が減るとさらに悪化する可能性もあり、塩分量と食事量のバランスを保つことがとても重要です。

「肝硬変診療ガイドライン2020」では、塩分の摂取量を1日量にして5-7gにすることが提案されています。

塩分を減らした味付けが合わなくて食事の量が減ってしまった場合には、塩以外で味付けの工夫や栄養剤などを用いて不足している食事量を補ったりするなどの工夫も必要です。塩分の摂取量を調節したうえ適正なエネルギーを確保するには専門的な知識が必要になるので、まず医師や管理栄養士に相談して始めるのがよいです。

3. 薬物療法

肝硬変によって現れる症状は薬物治療により和らげることができるので薬物治療が中心になります。肝硬変で用いる主な薬は以下のようなものです。

  • 肝臓の負担を軽くする薬:肝庇護薬(かんひごやく)
    • ウルソデオキシコール酸(ウルソ®など)
    • グリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンシー®など)
    • 小柴胡湯
  • 尿量を増やす薬:利尿薬
    • アルドステロン薬(アルダクトン®など)
    • ループ利尿薬(ラシックス®など)
    • V2受容体拮抗薬(サムスカ®)
  • 抗菌薬(抗生剤、抗生物質
    • カナマイシン
    • ポリミキシンB
    • リファキシミン
  • 分岐鎖アミノ酸含有製剤(リーバクト®、アミノレバン®、ヘパンED®など)
  • 高アンモニア血症治療薬
    • ラクツロース(モニラック®など)
    • ラクチトール(ポルトラック®)

症状や身体の状態によってこれらの薬を使い分けていきます。以下ではそれぞれの治療薬について詳細に解説します。

肝臓の負担を軽くする薬:肝庇護薬

肝臓の負担を軽くする薬を肝庇護薬(かんひごやく)といいます。

その名前の通り、肝臓を庇護する(かばって守る)薬で肝臓の炎症線維化を抑えることで症状を和らげたり進展を抑えたりする効果が期待できるとされています。

肝庇護薬としてウルソデオキシコール酸(主な商品名:ウルソ®)やグリチルリチン製剤(主な商品名:強力ネオミノファーゲンシー®、グリチロン®)などが治療の選択肢となっています。

■ウルソデオキシコール酸(ウルソ®など)

ウルソデオキシコール酸は生薬の熊胆(ユウタン:「くまのい」とも呼び、動物であるクマの胆汁を乾燥させたもの)を起源に持ち、現在ではコール酸という原料から合成される薬剤成分で、肝機能の改善やコレステロール系胆石の溶解などが期待できます。

作用の仕組みを少し詳しくみていくと、胆汁分泌を促進する作用(利胆作用)肝細胞への障害を軽減する作用炎症を引き起こす物質(サイトカインなど)の産生抑制作用炎症細胞の浸潤抑制作用などにより、胆汁性の肝硬変やC型肝炎による肝機能を改善する効果が期待できます。また小腸切除後などの消化不良を改善する効果なども期待でき、特に消化器領域で有用となっている薬のひとつです。一般的に安全性も高いとされている薬ですが、下痢などの消化器症状などには注意が必要です。

■グリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンシー®)

生薬の甘草(カンゾウ)に含まれる成分であるグリチルリチン(グリチルリチン酸)は主に抗炎症作用をあらわし、これはグリチルリチン酸が持つ細胞障害の抑制作用、細胞膜の保護作用、抗酸化ストレス作用、副腎皮質ホルモンへ関わる作用(グルココルチコイドやミネラルコルチコイドの代謝に関わる酵素を阻害する作用)などに起因するとされています。

病態などによっては肝硬変などの肝疾患の治療選択肢になることも考えられる他にも、皮膚疾患などに対しても使われることもあります。多くのグリチルリチン製剤にはグリチルリチン酸に加えグリシンなどのアミノ酸成分が配合されていて、これらのアミノ酸は主成分であるグリチルリチン酸によっておこる尿量やナトリウム排泄量の減少を軽減するなどの役割を果たしています。

グリチルリチン製剤には注射剤(主な商品名:強力ネオミノファーゲンシー®)や内服薬(主な商品名:グリチロン®配合錠)があり、一般的に内服薬よりも注射剤の方が肝機能の改善効果などが高いとされています。

一般的な安全性は高いとされる薬ですが、体内でグリチルリチン酸が過剰になることによって偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)という副作用があらわれる場合があります。副腎皮質ホルモンのひとつであるアルドステロンが過剰ではないのに、グリチルリチン酸の作用により、あたかもアルドステロンが過剰であるような状態になることを指します。低カリウム血症、血圧上昇、脱力感、浮腫などの症状があらわれることがあります。通常、これらが起こる頻度は稀とされますが、なんらかの治療で甘草を含む漢方薬を服用している場合などにはグリチルリチン酸の摂取量が過剰となることも考えられるため、より注意が必要です。

■肝機能の改善が期待できる漢方薬(小柴胡湯:ショウサイコトウ)について

漢方薬の小柴胡湯(ショウサイコトウ)も肝庇護作用をあらわす薬で肝硬変などへの有用性も考えられている薬です。しかし、頻度は非常にまれながら小柴胡湯などの漢方薬によって間質性肺炎(初期症状として息苦しさ、空咳、発熱など)が引き起こされる危険性が報告されてからからは、肝庇護目的で小柴胡湯が使用されるケースはかなり少なくなりました。

また、肝炎治療薬のひとつであるインターフェロンによる治療中に小柴胡湯を併用すると間質性肺炎の危険性が高くなると考えられていてこの報告以後、両剤の併用は禁忌(禁止)となっていることからも肝硬変などの治療で小柴胡湯が選択されるケースはかなり限られると考えられます。

◎漢方薬と間質性肺炎

間質性肺炎への懸念がある漢方薬は小柴胡湯に限ったことではなく、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)などの柴胡剤、三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)などの瀉心湯類といった漢方方剤においても間質性肺炎への注意は必要とされています。これら間質性肺炎への懸念がある漢方方剤には生薬の黄芩(オウゴン)を含むものが多く、間質性肺炎が引き起こされる頻度は稀とされていますが注意すべき副作用のひとつになっています。

一般的に安全性が高いとされている漢方薬も「薬」のひとつであり、症状や体質などに合わない場合などには時に重篤な副作用があらわれる可能性も少なくありません。服薬中になにかしらの体調変化があった場合には医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処することが大切です。

間質性肺炎についてさらに詳しく知りたい人は「間質性肺炎の詳細情報ページ」を参考にして下さい。

尿量を増やす薬:利尿薬

肝硬変になると門脈圧亢進症(肝臓に流れ込む門脈という血圧が上がる)の影響を受けたり身体の中からアルブミンという物質が減少したりするため、腹水(お腹の中のスペースに溜まる水)が増えます。腹水が増えると苦しさを感じたり身体を動かしにくくなったりするので治療が必要です。尿量を増やす薬(利尿剤)に腹水を減らす効果が期待できます。

以下では腹水に対して用いられる薬を紹介します。

■抗アルドステロン薬(スピロノラクトンなど)

スピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®A)やカンレノ酸カリウム(主な商品名:ソルダクトン®)などは抗アルドステロン薬(アルドステロン拮抗薬)とも呼ばれ、主にアルドステロンというホルモンの働きを抑えることによって利尿作用などをあらわす薬です。

腎臓の中にある遠位尿細管という場所では、尿中のナトリウムや水分を血液中へ戻す作用(再吸収)が働いています。ここでの再吸収に関わっている主な物質がアルドステロンです。

スピロノラクトンなどの抗アルドステロン薬はこのアルドステロンの作用を抑えることによって、ナトリウムや水分の再吸収を抑え結果的に尿としてナトリウムや水分を排泄させることで利尿作用(尿の量を増やす作用)をあらわします。また、この結果カリウムの排泄を緩やかに抑える作用もあらわすため、カリウムが排泄されやすくなる傾向があるフロセミド(主な商品名:ラシックス®)などのループ利尿薬と一緒に使うことによって、低カリウム血症をおこりにくくするメリットなども考えられます。

肝硬変などによる腹水に対してはスピロノラクトンなどの抗アルドステロン薬を(利尿薬として)単独で使ったり、フロセミドなどの他の利尿薬と併用する治療などが行われています。

注意すべき副作用としては高カリウム血症発疹などの皮膚症状、低血圧、めまいや頭痛などの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状などがあります。

また、スピロノラクトンによる治療中には女性化乳房や乳房の腫脹などの症状があらわれる場合があります。これは本剤によって血液中の男性ホルモンテストステロン)濃度が減少することなどが要因として考えられています。一般的に頻度はまれとされていますが、胸の周囲に張りがあるなどの症状があらわれた場合には医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。

ループ利尿薬

利尿薬の種類のひとつで、その分類名は主に腎尿細管のヘンレループと呼ばれる部分において、電解質や水分の再吸収を抑え利尿作用をあらわすことに由来します。

治療の現場(臨床現場)ではフロセミド(主な商品名:ラシックス®)、アゾセミド(主な商品名:ダイアート®)、トラセミド(主な商品名:ルプラック®)などの薬剤が使われています。

中でもフロセミドは臨床現場において最も一般的とも言えるループ利尿薬で、小児(子供)から高齢者に至るまで幅広く使われている薬でもあります。フロセミドには内服薬(錠剤、細粒剤)以外に注射剤もあり急性期の治療などにおいても有用となっています。

肝硬変による腹水に対しては先ほどの抗アルドステロン薬であるスピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®A)とフロセミドの併用療法などが治療の選択肢となっています。

フロセミドなどのループ利尿薬の主な副作用としては低カリウム血症低ナトリウム血症などの電解質異常があります。肝硬変による腹水治療ではカリウムの排泄を緩やかに抑える作用を持つスピロノラクトンと併用されることが多く、低カリウム血症への懸念は比較的少ないともいえますが、使用する薬剤の用量や病態などによっても異なるため注意は必要です。

他に血小板減少などの血液障害、血圧低下、めまいや頭痛、耳鳴りなどの精神神経系症状、口渇や吐き気などの消化器症状、発疹などの皮膚症状、頻尿、腎障害、肝機能障害などがあります。

■V2受容体拮抗薬

その他の利尿薬としてはトルバプタン(商品名:サムスカ®)などが治療の選択肢となることも考えられます。

トルバプタンは抗利尿ホルモンであるバソプレシンの働きを抑えることで利尿作用などをあらわす薬です。

詳しくは割愛しますが、トルバプタンはスピロノラクトンやフロセミドなどの一般的な利尿薬の作用の仕組みとは異なり、バソプレシンによる水の再吸収を阻害することで、一般的な利尿薬に比べ電解質異常などを起こしにくいというメリットが考えられます。

純粋な水利尿を促進することで低カリウム血症などへの懸念が少ない一方で、急な水分排泄などによる脱水症状や高ナトリウム血症(本剤の利尿作用により血液濃縮を来すことで血液中のナトリウム濃度が過度に高くなる可能性がある)に対しては注意が必要です。

他にも腎障害、血栓塞栓症、頭痛やめまいなどの精神神経系症状、口渇や便秘などの消化器症状、血圧変動などの循環器症状などに注意が必要とされています。

トルバプタンは海外では主に低ナトリウム血症などの治療薬として使われている薬ですが、日本では主に心不全や肝硬変における体液貯留の治療などに使われています。

特にループ利尿薬などの他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における腹水や下肢の浮腫などに対してトルバプタンを併用する治療法などが有用とされ、治療の選択肢となっています。

抗菌薬(抗生剤、抗生物質)

抗菌薬は肝性脳症の治療に用いられます。

肝性脳症は食事などから摂取したタンパク質が腸内細菌によって分解されて生じるアンモニアが脳に対して悪影響を与えることが主な原因とされています。

通常(肝機能が正常な状態)であれば、アンモニアは主に肝臓で代謝(分解)されますが、肝硬変などで肝機能が低下している状態ではこの代謝が不十分になり、血液中のアンモニア濃度が上昇し、脳にダメージを与えることで様々な精神神経系症状が引き起こされます。

通常、内服薬(飲み薬)は服用(投与)後に消化管(主に小腸)で吸収され門脈から肝臓を経て全身循環(全身の血流)に移行し作用をあらわします。内服薬の多くはこのようなかたちで全身循環に広がっていきますが、一部の薬は小腸などの腸管からあまり吸収されない性質(難吸収性)を持っています。腸管から吸収されない分の薬の成分は、腸管内に留まることになります。

難吸収性の抗菌薬を投与した場合、腸管内に薬の成分が留まることで腸内細菌の働きを抑え、腸内細菌によって分解されているアンモニアの産生を抑えることが期待できることになります。

カナマイシン(カナマイシン一硫酸塩)は経口投与した場合、消化管でほとんど吸収されない性質を持ち、大腸菌や赤痢菌などの感染性腸炎に承認されている薬ですが、肝性脳症による高アンモニア血症を改善する薬としても使われてきました。ポリミキシンB(ポリミキシンB硫酸塩)もカナマイシンと同様に経口投与した場合、ほとんど消化管から吸収されずに腸内を殺菌する効果が期待でき、高アンモニア血症に対しても有用となっています。

2016年には難吸収性の抗菌薬であるリファキシミン(商品名:リフキシマ®)が保険承認されました。リファキシミンは肝性脳症による高アンモニア血症の改善薬として日本で初めて効能・効果が承認された薬でもあり、肝性脳症治療における新たな選択肢となっています。

カナマイシン、ポリミキシンB、リファキシミンといった薬はいずれも細菌の増殖を抑える抗菌薬です。腸内細菌は主に善玉菌、悪玉菌、日和見菌によって構成されていますが、抗菌薬が腸管内に留まることでこれら細菌のバランスが崩れ、下痢や吐き気などの消化器症状があらわれることが考えられます。その他の副作用として発疹などの過敏症などにも注意が必要です。またカナマイシンによる腎障害や聴力障害などの様に個々の薬剤によっては特徴的な副作用があらわれる可能性もあり、服用中の注意点などを事前に医師や薬剤師からしっかりと聞いておくことも大切です。

分岐鎖アミノ酸(BCAA)含有製剤

肝硬変などなんらかの原因によって肝機能が低下すると、肝臓のタンパク質の合成機能が低下します。タンパク質のひとつで栄養状態に深く関わるアルブミンが不足したり、肝機能の低下によって栄養が貯蔵できなくなるため、体内のエネルギーが不足します。そこで機能が低下した肝臓に代わって筋肉がアルブミンやエネルギーなどを作り出しますが、この時にバリン、ロイシン、イソロイシンといった分岐鎖アミノ酸(BCAA)と呼ばれる物質が使われることでBCAAが不足する事態が起こります。また、肝機能が低下すると本来肝臓で代謝されるアンモニアが増加し神経を障害することで肝性脳症を引き起こします。このアンモニアに対しても肝臓での代わりに筋肉がアンモニアを解毒しようとしますが、この時にもBCAAが治療薬として使われます。

BCAAという必須アミノ酸は体内で作り出すことができません。そのため、食事などから摂取する必要があります。肝硬変などの肝機能が低下している状態ではBCAAの不足が顕著となるため、食事以外に薬剤によってBCAAを補うと効果的です。

BCAAを含む製剤としてはリーバクト®、アミノレバン®、ヘパンED®などがあります。

■リーバクト®

リーバクト®はバリン、ロイシン、イソロイシンのBCAAを含む製剤で主に食事摂取量がある程度十分であっても低アルブミン状態が起きている肝硬変などに使われる薬です。主にBCAAを補う製剤ですので顆粒剤(リーバクト®配合顆粒)の1包あたり総エネルギーは約16kcalです。

リーバクト®にはゼリー剤(リーバクト®配合経口ゼリー)もあり粉(顆粒剤)が飲みにくいという場合などに対しても剤形(剤型)の選択が可能です。ゼリー剤の1個あたりの総エネルギー量は約17kcalです。

■アミノレバン®

アミノレバン®はBCAAだけでなく、その他のアミノ酸、ビタミン、ミネラル、エネルギーなどを含む製剤です。こちらは主に肝性脳症の改善や肝硬変などの栄養状態の改善などに対して使われます。注射剤の剤形もありますが、継続的に投与していく場合は主に散剤(アミノレバン®EN配合散)が使われます。先ほど述べたリーバクト®との違いのひとつにエネルギー(カロリー)を多く含む点があり、アミノレバン®EN配合散の1包には約200kcalが含まれています。

肝硬変などの肝機能が低下している人では夜間にエネルギーの不足が起こることで、体のむくみやだるさ、こむら返りなどの症状があらわれることがあります。肝硬変の治療を受けている人が仮に夕食を夜の7時(19時)に、朝食を朝の7時に摂ったとすると、夜から朝までの約12時間に渡り栄養を摂ってない状態になります。病気の進行具合などによっても異なりますが、肝硬変のある人にとってのこの状態は、健康な状態の人が数日間絶食している状態とほぼ等しいとも考えられています。そのため1日の総摂取エネルギー量はそのままで、そのうちの幾分かを寝る前に摂取する方法(夜食療法)がとられる場合もあります。

アミノレバン®EN配合散は通常、食事に合わせて1日3回服用の指示が出されることが一般的ですが、場合によっては寝る前に1包(約200kcl)程度を摂取することで夜間のエネルギー不足を改善する服用方法が指示されることもあります。

アミノレバン®EN配合散は通常、粉(散剤)を水やお湯(熱すぎない50℃前後の温度)に溶いてからその溶液を服用します。以前は味などが気になり飲みにくいという場合に対して果実の風味などを添加できる専用のフレーバーがありましたが、2017年12月に製剤自体に味(フルーツ味、コーヒー味)が添加されたフレーバー配合製品が発売になり、今後はこちらが使われていく予定です。この他、服薬補助のために溶液をゼリー状に固める「ゼリーの素」もあり必要に応じて医療機関を介して提供される場合もあります。

■ヘパンED®

ヘパンED®(ヘパンED®配合内用剤)もアミノレバン®と同じく、BCAA、BCAA以外のアミノ酸、ビタミン、ミネラルなどに加えエネルギーを含む製剤で、1包(80g)あたり約310kcalを含みます。ヘパンED®も主に肝性脳症を伴う慢性的な肝機能低下における栄養状態の改善に使われ、薬剤(散剤)自体の量や水(またはお湯)の量などの違いはありますが、アミノレバン®EN配合散と同じく散剤(粉)を水(またはお湯)に溶いてその溶液を投与する製剤です。

ヘパンED®にも服薬補助のため、風味を添加できるフレーバー(ドリンクミックス)、液体をゼリー状に固める「ゼリーミックス」、とろみをつける「ムースベース」があります。また包装で袋入り(80g)の製剤に加え溶液調製がより簡便に行えるなどのメリットが考えられるプラスチック容器入り(80g)の製剤もあります。

その他、肝性脳症に効果が期待できる薬:カルニチン・亜鉛など

肝性脳症の中でもカルニチンや亜鉛が不足している場合には、カルニチンや亜鉛が治療薬として使われることがあります。

■カルニチン

肝硬変などによる肝性脳症ではカルニチンという体内物質が不足することがあります。カルニチンは筋肉細胞におけるエネルギー産生などに関与する物質で、体内でカルニチンが不足すると、筋肉の障害、脂肪肝、脳の障害などを引き起こします。また、重度のカルニチン欠乏になると低血糖などを引き起こし、場合によっては全身臓器に障害が出る可能性も考えられます。

カルニチン(レボカルニチン)製剤であるエルカルチン®は体内にカルニチンを補うことで生体に有害な影響を与える物質(アシル化合物)の代謝を促進させ、筋肉細胞におけるミトコンドリア機能を保護することなどによってエネルギー代謝を改善する作用をあらわし、カルニチンの不足を伴う肝性脳症などに対しての有用性が考えられます。

■亜鉛

味覚と関わる金属としても知られる亜鉛はタンパク質・脂質・糖・骨などの代謝、傷(創傷)治癒や抗酸化作用にも関わる物質とされ、体内で必要な量は微量ながらも不足することで少なからず様々な影響があらわれることが考えられます。肝硬変などによる肝機能低下時にはアンモニアの代謝が低下し肝性脳症の要因ともなりますが、アンモニアを代謝する肝臓の尿素回路における酵素のひとつ(オルニチントランスカルバミラーゼ)が亜鉛欠乏によってその機能が低下するなど、亜鉛を補充することで肝性脳症などの症状改善の有用性が示唆されています。酢酸亜鉛水和物(主な商品名:ノベルジン®)などの亜鉛製剤が治療の選択肢となることも考えられます。

高アンモニア血症治療薬:ラクツロース、ラクチトール

ラクツロース(主な商品名:モニラック®)やラクチトール(商品名:ポルトラック®)

は人工的に合成された糖(二糖類)で、そのほとんどが分解・吸収されずに大腸に到達します。ラクツロースやラクチトールは大腸に到達した後に、腸内細菌(乳酸菌など)によって酸(乳酸、酢酸など)に分解されます。この酸ができることで腸管内のアンモニアの産生や腸管でのアンモニア吸収が抑えられ、血液中のアンモニアが低下する作用があらわれると考えられています。

また、ラクツロースやラクチトールは糖による浸透圧作用によって緩下作用(緩やかにお腹を下す作用)をあらわしたり、分解された乳酸や酪酸などが腸管運動を亢進させることで、排便を促す効果も期待できます。実際にモニラック®などのラクツロース製剤は便秘などに対して排便促進の目的で使われることもあります。一方で、過度にお腹が下り過ぎる懸念もあり下痢などの消化器症状には注意が必要です。

■食品としてのラクツロースやラクチトールなどの糖類

ラクツロースやラクチトールなどの糖類は医薬品としてだけでなく食品としても活用されています。

例えば、ラクチトールそのもの(還元乳糖)やラクチトールを甘味料として含むチョコレートなどの食品が販売されています。またラクツロース(ラクチュロース)も食品に使われ「毎日爽快(森永乳業)」などの特定保健用食品(いわゆる「トクホ」)としても発売されています。このように食品としても活用されているラクツロースやラクチトールですが、もちろん医薬品としての製剤を服用している場合には仮にこれら食品を合わせて摂取すると下痢などの症状があらわれる懸念もあり注意が必要です。

この他、食品として使われている糖の中で三糖類に含まれるラフィノースという糖にも血液中のアンモニアを低下させる可能性が示唆されていて、二糖類で起こりやすい下痢などの副作用の軽減も期待できるとされています。

4. 血液製剤

血液製剤は、人の血液から作られた医薬品のことです。肝硬変の人には腹水の治療にアルブミン製剤が用いられることがあります。

アルブミン製剤

アルブミンは血漿(血液から血球を除いたもの)成分の中でも重要なタンパク質のひとつです。血管の中に水分を保つ働きやいろいろな物質の運搬などを行っています。

通常であれば、アルブミンはアミノ酸を原料にして肝臓で作られ血液中に入りますが、肝硬変などの肝機能が低下した状態ではアルブミンをつくることができなくなり不足します。血液中のアルブミンが低下すると、血液の成分が血管外へしみ出しやすくなり浮腫や腹水を引き起こします。

肝硬変による腹水に対する薬物治療では、スピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®A)やフロセミド(主な商品名:ラシックス®)などの利尿薬が使われます。しかし、血液中のアルブミンがかなり低下している状態(高度の低アルブミン血症)などでは、利尿薬を増量しても治療効果があがらないこともあります。

このような場合にアルブミン製剤(主に高張アルブミン製剤)を利尿薬と併用することで、浸透圧を維持できたり利尿薬の効果を増強する(アルブミンがフロセミドなどの利尿薬を血液中から腎臓へ運び尿細管での利尿薬の効果を高める)効果などが期待できます。これにより肝硬変による腹水を改善させるばかりでなく、腹水の再発を抑える効果なども期待できるとされています。

また、呼吸困難や強い腹部膨満を訴えるような腹水(難治性腹水)への腹水穿刺排液時は、循環血漿量減少における腎障害や低ナトリウム血症などが起こりやすくなります。4Lを超えるような大量の腹水穿刺では特に大きな懸念となります。このような場合では、アルブミン製剤は循環血漿量を増やすので有用とされています。

5. お腹に針を刺して腹水を抜く治療:腹腔穿刺

腹腔穿刺は、体外からお腹に針を刺して溜まった腹水を外に出す治療です。お腹に針を刺すというと恐怖心を覚える人も多いますが、治療自体はあまり大掛かりではないため外来でも行うことができます。

腹腔穿刺で腹水を抜くとお腹の張りなどの症状を一時的に和らげることが出来ます。一方で、しばらくするとまた腹水が溜まることが多いので注意が必要です。

また、腹水の中にはアルブミンなどの貴重なタンパク質も含まれているので、腹水を抜きすぎると栄養状態が悪化してしまうことがあります。また、治療中や治療後に血圧が下がってしまうこともあります。このように腹腔穿刺にはデメリットもありますので、治療中に血圧が大きく下がるなどの重篤な副作用が予想される場合には行うことができません。行うかどうかは身体の状態と腹水による悪影響の程度を鑑みて判断します。

6. 腹水を抜いて濃縮して戻す治療:腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)

腹腔穿刺で身体の中から抜き出した腹水を濃縮して、点滴で身体の中に戻す治療法を腹水濾過濃縮再静注法といいます。日本語が長いのでCell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapyを略してCART(カート)と呼ばれることもあります。塩分・水分の制限や利尿剤の投与などをおこなってもコントロールができない重症の腹水に対してCARTが検討されます。

CARTの方法について説明します。

腹腔穿刺と同じく、体外から針を刺して腹水を抜き出します。腹腔穿刺と違うのは、腹水中の不要な物質を濾過して取り除いた後に、アルブミンなど身体にとって栄養になる物質を濃縮して身体に戻すところです。また、自分のアルブミンを利用するため、過剰な免疫反応などの副作用が起こりにくい点が優れています。

一方、CARTで気を付けなければならない点もあります。濃縮した腹水が影響して、発熱や悪寒、頭痛、血圧低下などの副作用が起こることがあるので注意が必要です。また、取り出した腹水に細菌などが感染している場合にはCARTを行うことができません。CARTにおいて腹水を濾過する工程はどの医療機関でも行えるわけではないため、CARTを受けたい場合には、治療可能な施設を探す必要があります。

7. 外科的治療(手術)

肝硬変の外科的治療の主な目的は、腹水を治療することです。代表的な手術である経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)という方法を紹介します。

経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS:Transjugular intrahepatic portosystemic shunt)

経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(以下TIPS:Transjugular intrahepatic portosystemic shunt)は、一般的な治療ではコントロールが難しい重症の腹水に対して行われます。

門脈圧亢進症と腹水の関係を知っておくことは手術を理解する上で重要ですので、少し説明を加えます。

肝硬変が進行するとそれに続いて門脈圧亢進症という状態が引き起こされます。腸で吸収した栄養を肝臓に届けるための血管(門脈)の圧力が高まると、腹水が溜まりやすくなります。

門脈圧亢進症によって腹水が発生するのは以下のようなメカニズムのためです。

【門脈圧亢進による腹水】

  1. 肝硬変が進むと門脈中の血液が肝臓に流れ込みにくくなり、門脈の圧力が高くなる
  2. 門脈圧亢進が続くと門脈の手前の血管(脾静脈や上腸間膜静脈)にも血液の渋滞が起きる
  3. 脾静脈や上腸間膜静脈に渋滞が起きると、その血管に流れ込む毛細血管にも渋滞を起こす
  4. 毛細血管中の圧力が上がる
  5. 毛細血管の壁から外に水分が染み出しやすくなる
  6. 染み出した水分がお腹に溜まることで腹水になる

軽症の腹水に対して利尿剤や塩分制限の治療をすると、腹水量が減少しお腹の張りなどが和らぐことがあります。しかし肝硬変が進行してくると、その効果も徐々に乏しくなります。治療が難しくなった腹水を減らす効果的な方法は少ないのですが、TIPSは効果の期待できる治療法の1つとして考えられています。

ここでは便宜上外科的治療として説明していますが、厳密に言うとTIPSはカテーテル治療の1つです。カテーテルとは医療用の細い管のことです。カテーテル治療は血管の中に管を挿入してその中にさらに細い管や針金(ガイドワイヤー)などを通して行います。TIPSの目的は、本来は別々の血管である門脈と肝静脈をつなぐことです。門脈と肝静脈をつなぐことで、門脈内の血液の流れがスムーズになります。方法はやや複雑なので具体的な内容についてここでは説明しませんが、TIPSが成功すると以下のような効果が現れます。

【TIPSの効果】

  1. 門脈と肝静脈を繋ぐ穴を介して門脈の血液が肝静脈に流れ込むようになる
  2. 門脈にうっ滞していた血液が少なくなり圧力も下がる
  3. 門脈の圧が低下するとその手前の毛細血管の流れも良くなる
  4. 毛細血管の中の圧力が下がる
  5. 圧力が下がった毛細血管からは水分の染み出しが少なくなる
  6. 腹水が減少する

TIPSは腹水の根本的な原因となっている門脈圧を下げることができるので、他の治療法ではコントロールが難しい腹水にも有効なことが多いです。一方で、TIPSを実施する上ではデメリットもあります。

1つ目の問題は、TIPSによって溜まっていた水分が血管の中に戻ってくる影響で、心不全が起きたり肝臓や腎臓の機能が低下したりすることです。そのため、心臓や肝臓、腎臓の機能などを鑑みてTIPSを行えないと判断されることもあります。

もう1つの問題は、TIPS自体が技術的に難しい治療なのでどの病院でも簡単に行える訳ではないことです。TIPSを希望するけれども通院中の病院で出来ない場合は、主治医に相談して実施可能な医療機関へ紹介してもらうなどの手はずをとってください。

8. 肝移植

肝移植は肝臓を全て取り除いて代わりに他の人の肝臓を移植する治療です。移植される肝臓は正常な肝臓ですので、移植がうまくいくと肝硬変になって低下していた肝臓の機能は大きく改善されます。

肝移植はどれくらいの人が受けているのか?

移植のためには肝臓を提供する人(ドナー)が必要です。肝移植には生きた人から肝臓を分けてもらう生体肝移植のほかに、脳死判定された人から肝臓をもらう脳死肝移植があります。日本では生体肝移植がほとんどを占めています。「肝移植症例登録報告」によると2016年は生体肝移植を受けた人は381人であったのに対して脳死肝移植を受けた人は57人でした。肝移植を受けた人のうち87%が生体肝移植で行われています。

肝移植によるメリット

肝移植によるメリットは肝臓の機能の回復が期待できるところです。重度の肝硬変になると肝臓の再生能力はほとんどなくなっているので、肝臓の機能を十分に回復させることはできません。肝機能が著しく低下した場合には、肝臓の機能を回復する手段は肝移植しかないのが現状です。

肝移植によるデメリット

一方で、肝移植にはデメリットもあります。まず1つ目は、肝移植の手術自体が難しい手術なので、手術後に合併症が起きる可能性が高い点です。特に肝臓が機能しなくなる肝不全は重い合併症の一つで、命に危険がおよぶこともあります。

また、肝移植後は拒絶反応を抑えるために免疫抑制薬を生涯に渡って飲み続けなければならない点にも注意が必要です。免疫抑制薬を飲むと易感染性(感染症にかかりやすい)や血圧上昇、腎障害、肝障害などの副作用が起こります。また、生涯にわたって毎日薬を飲み続けるのは想像以上に大変なことです。

また、忘れてはいけないのは肝臓を提供する人の負担です。肝臓を提供するには手術で肝臓の一部を切り取る必要がありますが、肝臓を切り取る手術は身体への負担が大きく簡単な手術ではありません。また、健康な状態と言えども手術をすることには変わりがないので麻酔などによる合併症が起きる可能性も念頭におかなかればなりません。

まとめ

肝移植は肝臓の機能を回復できるというメリットがある一方で、手術は負担が大きく生涯に渡って免疫抑制薬の内服が必要でそれに伴う副作用にも注意が必要になるというデメリットもあります。また、肝移植は臓器提供を受ける人だけではなく肝臓を提供してくれる人も手術が必要です。

肝移植について検討する場合は、必ず専門的な知識を持つ医師に相談して下さい。治療によって得られる効果やそれにともなう副作用などを十分に理解した上で判断することが大切です。肝移植を検討していて実施できる施設をお探しの方は、「日本臓器移植ネットワーク」のウェブサイトも参考にして下さい。

参考文献

日本肝移植研究会, 肝移植症例登録報告,  移植, 52巻 (2017) 2-3 号

9. 肝硬変を起こしている病気に対する治療

肝硬変は肝炎ウイルスの持続感染やアルコールの多飲などさまざまな原因によって引き起こされます。肝硬変の原因に対して治療すると肝硬変の進行を遅らせることに期待ができます。ここでは肝硬変を起こす原因に対する治療について解説します。

B型肝炎の根本的治療

B型肝炎B型肝炎ウイルスの持続感染によって起こるので、抗ウイルス薬を用いて治療します。B型肝炎の治療に用いる抗ウイルス薬は以下のものがあります。

  • エンテカビル(バラクルード®)
  • テノホビルジソプロキシルフマル酸塩(テノゼット®)
  • テノホビルアラフェナミドフマル酸塩(ベムリディ®)

B型肝炎の治療で抗ウイルス薬を用いると、ウイルスの量を減らしたり場合によってはウイルスを排除することができます。ウイルスを抑制することで肝炎を沈静化させ、結果的に肝硬変の進行を止めたり遅らせたりする効果が期待できます。B型肝炎に対して治療の中心となっている薬は2018年3月現在で3種類あり、患者さんの状態などを鑑みてこのうちから1つが選ばれます。また、抗ウイルス薬とともに肝庇護薬(肝臓の負担を減らす薬)も用いられます。

治療の効果については血液検査でHBV DNA(B型肝炎ウイルスのDNAの量)やALT(肝細胞障害の指標の1つ)などを測定して判断します。ウイルスの中には抗ウイルス薬に対して耐性を獲得するケースがあり、その際には抗ウイルス薬を変更して治療を継続します。

B型肝炎で用いる抗ウイルス薬については「B型肝炎ウイルス治療薬(内服薬)の解説」も参考にして下さい。

参考文献

・日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会/編, 「B型肝炎治療ガイドライン 第3.4版」, 2021

C型肝炎の根本的治療

C型肝炎C型肝炎ウイルスの持続感染によって起こるので、抗ウイルス薬を用いて治療します。C型肝炎ウイルスにはゲノタイプというものがあり治療薬を選択する際に参考にされます。治療薬は以下のようになります。

  • ゲノタイプ1型
    • ソホスブビル/レジパスビル(ハーボニー配合錠®)
    • エルバスビル(エレルサ®)+グラゾプレビル(グラジナ®)
    • グレピカビル/ピブレンタスビル(マヴィレット®配合錠)
  • ゲノタイプ2型
    • ソホスブビル/レジパスビル(ハーボニー配合錠®)
    • ソホスブビル(ソバルディ®)+リバビリン(レベトール®、コペガス®)
    • グレピカビル/ピブレンタスビル(マヴィレット®配合錠)

C型肝炎に対して抗ウイルス薬を用いて治療を行う目的は、肝硬変の進行を止めたりまたはゆるやかにしてできるだけ肝臓の機能を維持したりすることです。どの治療薬を選ぶかは患者さんの全身状態などを鑑みて選ばれます。

C型肝炎の根治治療を行えるのは軽度に肝臓の機能が低下している代償期だけです。肝臓の機能が低下して腹水などの症状が現れている非代償期では薬の使用による安全性が確認されておらず治療の対象にはなりません。

C型肝炎で用いる抗ウイルス薬については「C型肝炎ウイルス治療薬(内服薬)の解説」も参考にして下さい。

参考文献

・日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会/編, 「C型肝炎治療ガイドライン 第8版」

アルコール性肝硬変の治療

アルコール性肝硬変では原因であるアルコールをやめるとその後の経過が良くなると考えられています。とはいえ禁酒を自分一人の力だけで達成するのは難しいので、家族などの周囲の人の協力や精神科などを利用して禁酒に取り組むなどの工夫もしてみて下さい。

NAFLD/NASHの治療

脂肪肝の原因がアルコール以外の場合をNAFLD(ナッフルディー)といい、その中でも肝臓に炎症が起きているものをNASHと言います。NAFLD/NASHは栄養の摂りすぎが主な原因だと考えられています。このために、食事などから得るエネルギーを減らしたり、運動して消費カロリーを増やしたりすることが治療になります。

また、NAFLD/NASHはいわゆる生活習慣病を抱えていることが多く、具体的には高血圧症脂質異常症糖尿病などの病気がある場合にはそれらの治療をしっかりと行うこともまた大切です。それぞれの病気の治療法については、「高血圧症の基礎情報ページ」、「脂質異常症の基礎情報ページ」、「糖尿病の詳細情報ページ」を参考にして下さい。

参考文献

・日本消化器学会, 「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020」

胆汁の流れが悪くなる病気の治療

胆汁の流れが悪くなることが原因で肝硬変になることがあります。代表的な病気は原発性胆汁性胆管炎原発性硬化性胆管炎です。

原発性胆汁性胆管炎原発性胆汁性肝硬変)

原発性胆汁性胆管炎は肝臓の中の胆管に炎症が起きて細くなる病気です。胆管は胆汁という物質が流れる管のことで、胆汁は脂肪を吸収するのに重要な役割を担っています。胆汁は肝臓でつくられて肝内胆管(肝臓の内部の胆管)を流れます。細い肝内胆管は合流を繰り返して1本の胆管になります。

原発性胆汁性胆管炎は肝内胆管に炎症が起きて狭窄します。肝内胆管が狭窄することによって胆汁の流れが悪くなり時間の経過とともに肝臓の線維化が起きます。炎症が起きる原因については完全には分かってはいないのですが、自己抗体(自分の身体を攻撃する物質)の関与が考えられています。

原発性胆汁性肝硬変を根本的に治す治療は現在のところ確立されていません。このために肝臓の機能が低下するのを遅らせるためにウルソデオキシコール酸などの肝臓の機能を保護する作用の薬を使って治療します。肝臓の機能がかなり低下してしまった場合には肝移植などが検討されます。

原発性胆汁性肝硬変についてさらに詳しく知りたい人は「原発性胆汁性胆管炎の基礎情報ページ」も参考にして下さい。

ウルソデオキシコール酸などの薬による治療と肝臓移植についてはこのページの「肝臓の負担を軽くする薬」と「肝移植」で解説しています。

原発性硬化性胆管炎

原発性硬化性胆管炎は肝臓内外の胆管が狭くなる病気です。肝臓の内外の胆管に炎症が起こることが原因です。、原発性胆汁性胆管炎と同じく、胆汁の流れが悪くなります。原発性胆汁性胆管炎と異なる点は、胆道が狭くなる場所です。原発性胆汁性胆管炎原発性硬化性胆管炎の違いについては、「肝硬変の原因」のページで解説しているので参考にして下さい。

原発性硬化性胆管炎原発性胆汁性胆管炎と同様に根本的に治す治療は確立されていません。このため治療は、ウルソデオキシコール酸などの肝臓の機能を保つ薬を使ったり、肝臓の機能が著しく低下したときには肝臓移植を検討します。

ウルソデオキシコール酸などの薬による治療と肝臓移植についてはこのページの「肝臓の負担を軽くする薬」と「肝移植」で解説しています。

免疫が関連した病気の治療:自己免疫性肝炎

免疫は細菌やウイルスなどの外敵が入ると排除しようとするシステムのことです。免疫は通常は外敵だけを攻撃して自分の身体は攻撃しないように制限されています。しかしながら、自己免疫性肝炎では免疫の制御ができなくなり自分の肝臓を攻撃してしまいます。

自己免疫性肝炎の治療ではステロイド薬という免疫を抑える薬を用います。過剰な働きをしている免疫を抑えることが治療の目的です。薬の効果を血液検査などで確認しながら、薬を増やしたり減らしたりして調整します。病気の状態が安定すると、少しずつステロイド薬を減量していき、免疫を抑えるのに最低限の量が決まればその量を維持して長期間に渡って内服をします。ステロイド薬の他には、ウルソデオキシコール酸などの肝庇護薬(肝臓の負担を軽くする薬)も用います。

ステロイド薬の代表的な製剤というとプレドニゾロン(商品名:プレドニン®など)がよく用いられ、その他にもメチルプレドニゾロン(商品名:メドロール®など)、ベタメタゾン(商品名:リンデロン®など)などがあります。

ステロイド薬を使用することで、肝臓の機能の低下を抑える効果が期待できます。一方で、ステロイド薬には副作用があるため、内服中は注意しなければなりません。ステロイド薬の副作用については「ステロイド内服薬の副作用とは」を参考にして下さい。

参考文献

・福井次矢 , 黒川 清/日本語監修, 「ハリソン内科学 第5版」, MEDSi, 2017
・矢﨑義雄/総編集, 「内科学 第11版」, 朝倉書店, 2017
・日本消化器病学会,「肝硬変診療ガイドライン2020」