かんこうへん
肝硬変
肝臓の細胞の破壊と再生が繰り返されたことで、肝臓が線維化(肝細胞に炎症が繰り返される影響で組織が硬くなって機能を失うこと)した状態
12人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.06.20

肝硬変の症状について:腹水・黄疸とはどんな症状なのか?

肝臓は多くの役割を担っています。肝硬変になってその機能が低下すると様々な症状が現れます。この章では肝臓の機能低下と門脈圧亢進という2つの状態を中心に肝硬変の症状を説明します。

1. 肝硬変が起こると身体の中でどんなことが起きているのか?

肝硬変が起こると身体にはどのような変化が起きるのでしょうか。肝硬変になると肝臓の機能が低下して様々な症状を引き起こしますが、そのメカニズムは複雑です。肝硬変の症状を理解するには、肝臓という臓器がどのような役割をしているかを知ることが大切です。

説明していきましょう。

肝臓の機能には何がある?

肝臓

肝臓はお腹の臓器で最も大きく、大人の場合はその重量は1kgほどです。右の上腹部(みぞおちの右側のあたり)にあり、周囲には胃や十二指腸、胆のうがあります。

肝臓には常に多くの血液が流れている臓器で、以下の3つの大きな血管が含まれています。

  • 門脈:腸で吸収した栄養を肝臓に届ける血管
  • 肝動脈:肝臓に酸素などを送り届ける血管
  • 肝静脈:肝臓で作られた物質を全身に届ける血管

肝臓の中ではこの3種類の血管が複雑に枝分かれして無数の毛細血管になって肝臓全体に張り巡らされています。肝臓に血管が多いのは、肝臓の役割と関係しています。

肝臓には多くの役割があり複雑な働きをしています。主な役割は以下の3つです。

  • 代謝
  • 解毒
  • 消化酵素や肝臓で解毒された物質の排泄

難しい言葉が出てきました。あまり聞き慣れない人も多いと思いますので、それぞれについてもう少し詳しく解説します。

■代謝

身体に取り入れた物質をエネルギーに変えたり、反対にエネルギーを物質に作り変えたりする働きのことを代謝と言います。肝臓では腸から送られた栄養源を他の物質に変換したり、肝臓に貯蔵していた物質を栄養源に変換したりしています。。

代謝は身体のエネルギーバランスに関わる大事な働きです。代謝の力が落ちると、エネルギー不足に陥ったり身体に必要な物質が不足したりします。

■解毒(げどく)

普通の生活をしていても、栄養と一緒にいろいろな物質が体内に入ってきます。中にはそのまま身体の中に溜まると毒になるようなものもあります。

有害な物質を害のないものに変える働きのことを解毒と言います。例えばアルコールや薬も身体に多く蓄積すると害を及ぼすことがあります。そこで、肝臓の解毒の力が働いて無毒化されます。アルコールを飲みすぎると肝臓の異常を指摘されるのは、解毒する肝臓に負担がかかっているためです。

■消化酵素や肝臓で解毒された物質の排泄

肝臓は小腸で脂肪を身体の中に吸収するのを助ける物質(消化酵素)を出したり、肝臓で代謝されたコレステロールビリルビンという物質を身体の外に出したりします。これらの物質は胆汁と呼ばれる液体に含まれて排泄されます。

胆汁が出ないと、脂肪の吸収が不十分になることで下痢になったり、ビリルビンが体内に増えてしまうことで黄疸(皮膚が黄色くなる・かゆみが起こる)という状態になったりします。

黄疸という新しい言葉が出てきましたが、これについては後で詳しく解説します。

肝硬変とはどのような状態か

肝臓の3つの大きな働きについて説明しました。「肝心要(かんじんかなめ)」という言葉もあるように、肝臓は生命を維持するためにとても大切な役割を担っています。そんな肝臓が変化して固くなってしまうことを肝硬変と言います。

肝硬変が起きると肝臓はどのような状態になってしまうのでしょうか。肝臓は再生力が高いので、薬やアルコールなどによって少々のダメージを受けても自力で回復することができます。しかし、肝炎ウイルスの感染やアルコールの多飲などによって長い時間にわたるダメージが肝臓に加わると、肝臓の修復する力が追いつかなくなります。すると、ダメージを受けた肝臓の一部分が再生されることなく線維質に置き換わってしまう変化(線維化)が起きます。肝硬変ではこの線維化が肝臓全体に起きています。

肝硬変は身体にどんな影響をもたらすか

線維化した肝臓は機能を失っているので、肝臓の広い部分に線維化が起こると肝機能は落ち込みます。肝臓で行われていたことが出来なくなるため、身体にとって有害な物質を処理できなくなり、吐き気などの症状が引き起こされることもあります。

肝硬変になると肝臓の機能が落ちること以外にも影響が現れます。それは門脈圧亢進症という状態です。門脈は腸から肝臓に流れこむ血管のことで、肝硬変によってこの血管の圧力が高くなることがあります。門脈圧亢進症も様々な症状の原因になりますが、詳しくは後ほど説明します。

肝硬変の症状には様々なものがありますが、「主に肝臓の機能が低下したことが原因で起こるもの」と「主に門脈圧亢進症が原因で起こるもの」の2つに別けることができます。次の章から肝臓の機能の低下と門脈圧亢進の2つに注目して肝硬変の症状を解説します。

2. 肝臓の機能が低下することによる症状

肝硬変になると肝臓の機能は低下しています。肝臓の機能が低下することでどんな症状が現れるかを説明する前にまず肝臓の機能について復習します。肝臓の主な機能は以下の3つです。

  • 代謝
  • 解毒
  • 消化酵素や肝臓で解毒された物質の排泄

肝臓の機能が低下するというのはこの3つの機能が低下することを意味します。この3つの機能のうち1つの機能が落ちるだけでも様々な症状が現れます。

ここからは肝臓の機能が低下することによる症状を説明していいきます。どの機能の低下が症状を引き起こしているかなどについて注目することで理解がより深まりますので、この3つの機能を頭に入れた上で読むようにして下さい。

身体がだるくなる:倦怠感

肝硬変が進むとだるさを感じるようになります。肝硬変になり肝臓の機能が低下すると、身体にとって有害な物質を処理する力が低下して蓄積するようになります。有害な物質が蓄積すると身体がだるく感じたりします。

食欲が低下する:食思不振

肝硬変になると、身体に有害なものが溜まることやお腹の中に水が溜まることなどが影響して食欲が低下しやすくなります。

食欲の低下を改善するのは簡単ではないのですが、食欲が増すように工夫したり栄養剤を使用したりして、栄養不足にならないように気をつけてください。食欲が増す工夫として、調味料や香辛料を使ったり、口当たりの良い調理の方法を取り入れたりすることが挙げられます。色々と試しながら自分の好みにあうものを探してみて下さい。

肝硬変の人は栄養状態が悪いことが多いので、できるだけ栄養はとった方が良いのですが、摂取の仕方にポイントがあります。好きなものばかり食べてしまうと身体に悪影響が起きることがあります。特に肝臓の機能がかなり低下している状況で、タンパク質を多く含む肉や魚の摂取量が多いと、肝性脳症を引き起こすことがあるので注意が必要です。食事の内容は、肝臓の機能を考えて調整が必要なこともあります。医師や管理栄養士に相談して、栄養のバランスもとれるようなメニュー作りを考えてみて下さい。

皮膚や白目が黄色くなる、身体がかゆくなる:黄疸

肝臓の機能が低下するとビリルビンという物質が排泄できなくなり、血液中の濃度が高くなります。ビリルビンが高くなると皮膚や眼球結膜(白目の部分)が黄色くなる黄疸という状態を引き起こします。黄疸が起こると以下の症状も現れます。

  • 身体のかゆみ
  • だるさ
  • 微熱
  • 濃い色の尿

黄疸が起きるメカニズムはやや複雑です。以下ではメカニズムについて説明しますが、飛ばして先に進んでも問題はありません。

黄疸を起こすビリルビンは赤血球が壊れたときに放出される物質です。ビリルビンは肝臓で処理されて身体の外に出ます。肝臓はビリルビンにグルクロン酸という物質とくっつます。これをグルクロン酸抱合(ほうごう)と言います。グルクロン酸抱合によって、ビリルビンは水に溶けやすい状態になり、排泄の効率が良くなります。

一方で、肝臓の機能が低下している場合には、グルクロン酸抱合が十分に出来なくなっているので、ビリルビンの処理が追い付かず血液中にビリルビンが溜まってしまい黄疸が起きます。

黄疸の症状で問題になるのがかゆみです。かゆみは日常生活を工夫することで症状を軽くすることができます。黄疸の症状を和らげる工夫については「肝硬変の人が知っておきたいこと」で説明しているので参考にしてください。

呼びかけへの反応が悪くなる:肝性脳症

肝臓の機能が低下すると意識状態が悪くなることがあります。ボーっとして呼びかけへの反応が悪くなるなどが主な症状です。これは肝性脳症と呼ばれる状態で、アンモニアという物質が身体の中で溜まることが原因だと考えられています。肝性脳症では羽ばたき振戦という特徴的な症状も現れます。羽ばたき振戦は、腕を伸ばしてその姿勢を保つように指示すると手首の関節や手の指が激しく揺れてあたかも羽ばたいているかのように見えます。

肝性脳症で意識状態が悪くなっても、治療によって回復することが多いです。一方で肝性脳症は再発が起こりやすいので、肝性脳症を起こした後には再発する可能性を考えておかなければいけません。便秘の改善やタンパク質の摂取制限などには肝性脳症を予防する効果が期待できます。

乳房が大きくなる:女性化乳房

肝硬変の男性では乳房が女性のように変化することがあります。これはエストロゲンという女性ホルモンの影響です。エストロゲンは男性でも身体の中にあり、肝臓で分解されて身体の中で一定の濃度に保たれています。肝臓の機能が低下するとエストロゲンの血液中の濃度が高まり女性化乳房などの症状が現れます。女性化乳房は外見上の変化だけで痛みなどはほとんどありません。

クモのような形をした血管が浮き出てくる:くも状血管腫

クモ状血管腫は、エストロゲンが身体の中で増加したときに現れる症状の1つです。見た目がクモが長い足を広げたような様子なのでくも状血管腫という名前がついています。クモ状血管腫は外見上の変化で、痛みやかゆみなどを感じることはほとんどありません。

掌(てのひら)が赤くなる:手掌紅斑

エストロゲンが身体の中で増加すると掌(てのひら)に赤い斑点ができます。これを手掌紅斑(しゅしょうこうはん)といいます。実際には、掌全体が赤くなるのではなく指の付け根や掌の外周の部分が赤くなることが多いです。赤く変色すること以外には特に症状はありません。

息が切れる、息苦しい:胸水の貯留

肝臓の機能が低下すると身体に必要な物質を作る力が低下します。身体に必要な物質にアルブミンというものがあります。アルブミンは水分を血管の中に留めておく力があるので、少なくなると血管の中から水分がしみ出していき肺の周りに水の溜まりを作ることがあります。これを胸水と言います。胸水が溜まると肺が広がりにくくなるため、息切れや息苦しさなどが現れます。胸水が溜まって呼吸に影響が出ている場合には針を刺して胸水を抜くと一時的に症状は良くなります。しかし胸水の中にはアルブミンなどの栄養が含まれているので抜きすぎると身体から栄養が失われてしまいます。このため胸水を抜くかどうかは、症状の程度と身体の状態をみて処置をするかを判断します。

3. 門脈圧亢進を原因とする症状

門脈は、腸からの血管(上腸間膜静脈)と脾臓からの血管(脾静脈)などが合流して作られる血管のことです。門脈には腸で吸収した栄養を肝臓に届ける役割を担っています。

門脈の血圧が高くなることを門脈圧亢進症といいます。門脈圧亢進とはどのような状態なのでしょうか。

肝硬変は門脈圧亢進症の原因の一つです。なぜ肝硬変になると門脈圧上がってしまうのかを考える前に、肝硬変の状態をもう一度説明します。

肝硬変が進むと肝臓の線維化が進み(固くなり)ます。肝臓の線維化は肝臓の中の血管を細くしたり血管の数を減らしたりします。

この変化は何を起こすのでしょうか。わかりやすくするために門脈を道路に例えてみます。肝臓に流れ込む太い門脈が大きな道で、それが分岐していった道が肝臓の中の門脈とします。肝硬変では、分岐した道である肝臓の中の門脈の流れが悪くなります。分岐した道が渋滞するとその手前の大きな道も渋滞が起きてしまいます。つまり、肝硬変によって肝臓の中の門脈の流れが悪くなるとその手前の太い門脈にも血液の渋滞が起きます。

日常生活で使う道で渋滞が起きると他の道を使って迂回するようになります。これと同じことが門脈にも起きます。つまり、門脈の中の血液の一部が迂回して他の血管を流れるようになります。

門脈圧亢進が起きると門脈の血流に変化が起こるため様々な症状が現れます。以下では門脈圧亢進によって引き起こされる症状について解説します。

お腹に水が溜まって張ってくる:腹水・腹部膨満感

門脈圧亢進はお腹に水が溜まる原因にもなります。

門脈圧が高くなると門脈に流れ込む血管の圧力も高くなります。門脈は脾静脈(脾臓からの静脈)と上腸間膜静脈(腸からの静脈)が合流した血管です。脾静脈や上腸間膜静脈はさらに細い血管が集まったもので、一番細いものは毛細血管という呼ばれる血管です。

血管は水をもらさない完全なパイプのようなものではなく、一部の水分は出たり入ったりできるような構造をしており、血管の圧力が高まると周りに水分がしみ出しやすくなります。水分がたくさん染み出すとお腹の中に水の溜まりをつくり、これを腹水といいます。腹水がたくさん溜まるととお腹が張るなどの症状が現れます。

肝臓で作るアルブミンという物質が少なくなることも腹水の原因になります。アルブミンは血管の中に水分を留める働きがあるのでアルブミンが少なくなると、血管から水分がしみだしやすくなり腹水が増えてしまいます。

腹水に対しては薬を内服したり、身体の外から針を刺して溜まった水を抜くなどの治療を行います。腹水の治療は「肝硬変の治療」で詳しく説明しているので参考にして下さい。

お腹の血管がくっきりと見える:腹壁静脈の怒張

門脈圧亢進が起きると、本来は門脈を通って肝臓に流れ込むべき血液の一部が、他の血管へ迂回するようになります。お腹の壁の静脈(腹壁静脈)は迂回路の1つです。門脈圧亢進が続くと腹壁静脈の血流が増えるため、皮膚の上からでも青い血管が透けて見えるようになります。

左上腹部にしこりを感じる:脾腫

左の上腹部には脾臓という臓器があります。脾臓から出ていく静脈(脾静脈)は腸からの静脈(上腸間膜静脈)と合流して門脈になります。門脈の血圧が高くなると、脾臓の血液がうまく流れ出なくなります。そのため、脾臓は通常より多くの血液がある状態になり、少しずつ大きくなります。これを脾腫(脾臓の腫大)といいます。脾腫の程度が重いと身体の外からでもしこりを感じることができます。

息が切れる、疲れやすくなる:貧血

門脈圧亢進によって血液が脾臓にたくさん流れ込むようになると脾臓の機能が異常な状態になります。脾臓の機能の1つが、赤血球や血小板を破壊することです。赤血球には全身に酸素を届ける働きがあるので、脾腫が起きて赤血球が減少すると十分な酸素を全身に届けられなくなります。

赤血球が正常よりも少なくなってしまうことを貧血といい、息切れや疲れやすさなどの症状が現れます。貧血の程度が重いときには輸血を検討することもありますが、根本的な治療ではないため、貧血の原因となっているもの(この場合は脾腫)に対する治療もあわせて行う必要があります。

4. 肝硬変の人が特に気を付けなければならない症状

肝硬変に引き続いて起こる症状の中には緊急で対応しなければならないものがあります。ここでは肝硬変の人が注意すべき緊急の症状を2つ紹介します。

食道から出血して血を吐く:吐血

肝硬変の人は食道の血管(静脈瘤)の破裂による吐血(口から血を吐くこと)に気をつけなければなりません。肝硬変に引き続いて門脈圧亢進が起きると門脈を流れていた血液の一部は他の血管を迂回して流れるようになります。迂回路はいくつかあるのですが、その1つが食道静脈です。食道静脈に通常よりも多くの血液が流れるようになると血管は太くなるため出血しやすくなります。この状態を食道静脈瘤と言います。

食道静脈瘤が破裂すると多くの血液が失われるため、速やかに止血し、場合によっては輸血を行う必要があります。もし肝硬変の治療中に口から血が出た場合は、食道静脈瘤の破裂による可能性があるので速やかに医療機関を受診して下さい。

食道静脈瘤内視鏡検査で見つかることが多いのですが、喉(のど)の違和感や食事のとおりにくさなどから見つかることもあります。気になる症状がある場合には、医師に相談してみて下さい。食道静脈瘤についてさらに詳しく知りたい人は「食道静脈瘤の基礎ページ」も参考にしてください。

お腹が痛い:発熱を伴う腹痛

肝硬変の人が注意をしなければいけない症状の1つに発熱を伴う腹痛があります。発熱を伴う腹痛が起きると特発性細菌性腹膜炎という病気の可能性を考えなければなりません。特発性細菌性腹膜炎とはどのような病気なのか説明します。

腹膜はお腹の中でも臓器のないスペース(腹腔)を覆う膜のことで、腹膜に炎症が起きる病気を腹膜炎といいます。腹膜炎の原因にはいくつかあり、細菌感染はその1つです。

お腹の細菌感染の原因になるのは、腸に穴が空いて腸の中の細菌が漏れ出てきて起きることが多いです。一方で特発性細菌性腹膜炎は腸に穴が空いていないにもかかわらず感染が起こる病気です。肝硬変のある人に起こりやすいことが知られています。特発性細菌性腹膜炎では、腹痛や発熱などの症状が現れます。腹痛や発熱などは他の病気が原因でも現れる症状なのですが、特発性細菌性腹膜炎だった場合には深刻な状態に陥る可能性もあるので、疑って詳しく調べなければなりません。腹痛や発熱など特発性腹膜炎が疑わしい症状が出現した場合には速やかに医療機関を受診することが大切です。

特発性細菌性腹膜炎についてさらに詳しく知りたい人は「特発性細菌性腹膜炎の基礎ページ」も参考にしてください。

参考文献

・福井次矢 , 黒川 清/日本語監修, 「ハリソン内科学 第5版」, MEDSi, 2017
・日本消化器病学会,「肝硬変診療ガイドライン2015」(2018.3.26閲覧)
・清水宏/著, 「あたらしい皮膚科学 第3版」, 中山書店, 2018