かんこうへん
肝硬変
肝臓の細胞の破壊と再生が繰り返されたことで、肝臓が線維化(肝細胞に炎症が繰り返される影響で組織が硬くなって機能を失うこと)した状態
12人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.06.20

Beta 肝硬変のQ&A

    肝硬変のメカニズムについて教えて下さい。

    肝硬変とは、様々な肝臓病の最終段階として訪れる、肝臓が機能の大半を失った状態のことです。

    肝臓は、ウイルス感染やアルコール、その他の原因によってダメージを受けてしまうことがあります。軽度のものであれば肝臓の自己再生力によって回復することができますが、肝細胞の破壊と再生が長年に渡り繰り返されると、肝臓が適切に再生し切れずに機能を失っていきます。こうして本来の肝細胞の数が減って、肝臓が硬くなり、表面がいびつな形になった状態が肝硬変です。

    肝硬変は一時的な状態ではなく、長い年月をかけて肝臓の細胞が線維芽細胞と呼ばれる機能しない細胞に置き換わった結果ですので、薬で完治することは、いまの医学では困難とされています(肝機能の一部が改善することはあります)。

    肝硬変は、どんな症状で発症するのですか?

    初期の肝硬変では、特に症状がない場合が多いです。肝硬変が進行し、残された少ない肝細胞だけでは肝臓の働き(体内の様々な物質を加工・処理する)をこなしきれなくなると、以下のような症状が出現します。

    • 食欲不振
    • だるさ、疲れやすさ、息切れ
    • 体重の変動(腹水による体重増加や、全体的な痩せなど)
    • 全身のむくみ
    • 手の震え
    • 黄疸
    • 腹水が溜まって下腹部が大きくなる
    • 皮膚表面の毛細血管が目立つようになる
    • 手のひらが赤くなる
    • 男性でも乳房が大きくなる
    • 睾丸が小さくなる
    • 意識がもうろうとする

    肝硬変が進行した場合の合併症については、次項で解説します。

    肝硬変は、どのように診断するのですか?

    肝硬変に至るまでには年単位での経過がかかりますので、定期的な健康診断を受けている場合には、その手前の慢性肝炎の段階で異常が指摘されることが多いです。全くそのような検査を受ける機会がない生活を送っている場合には、症状が出てから初めて病院を受診して、診断される場合があります。このような場合には、以下の検査が参考になります。

    • 腹部エコー、CT、MRI検査
      • いずれも肝臓の大きさや形のいびつさ、内部の質感などが肝硬変の診断に役立ちます。肝硬変と診断がついた場合、肝臓がんがないかどうかを確かめるためにも行われます。この中でもエコーは簡便に行えると同時に、上記の情報に加えて血流などの情報も得ることができるため、有用な検査です。
         
    • 腹腔鏡
      • 腹部内にカメラを挿入して、肝臓の表面を観察することができます。また、その状態から肝臓の一部を切り取って、顕微鏡で調べることで慢性肝炎と肝硬変の区別を行います(肝生検)。肝生検は、腹腔鏡を使わずに、腹部エコーを行いながら腹部の皮膚越しに表面から針を刺して行う手法もあります。

    血液検査については、次項で詳しく解説します。

    肝硬変の治療法について教えて下さい。

    肝硬変そのものを治療で完治させることは、手術による肝移植を除いて困難です。しかし、適切な対応をすることで少なくとも肝臓の機能の一部は時間をかけて回復すると考えられています。治療の詳細は以下のように分かれます。

    • 肝硬変の原因への対応
      • ウイルス性では抗ウイルス薬、自己免疫性ではステロイド薬を使用し、アルコール性では禁酒を行います。
    • 抗炎症療法
      • グリチルリチン製剤1)、ウルソデオキシコール酸2)といった薬剤の注射、内服を行います。肝臓の炎症を軽減させるための治療です。
    • 合併症に対する治療や対症療法
      • 肝性脳症や低タンパク状態に対してはアミノ酸製剤3)の注射、内服を行います。アミノ酸はタンパク質の原料になると同時に、適切な製剤を用いることで、体内のアミノ酸バランスを整えて肝性脳症などの症状を改善させる作用があります。
      • 腹水に対しては利尿薬で対応します。また食道静脈瘤に対しては内視鏡で観察と治療を行います。
    • 肝移植
      • 一定の基準を満たした肝硬変の場合には、肝移植手術を行う場合があります。しかし、肝移植自体が大きなリスクを伴う大手術であることと、移植元となる肝臓のドナー数が、肝硬変患者の数に対して不足していること、肝移植を行える施設数の問題などがあり、未だ多くの人が受けられる一般的な治療法ではありません。

    肝硬変の原因について教えて下さい。

    肝硬変の原因は多岐にわたりますが、例として以下のようなものがあります。

    • ウイルス性肝炎:C型肝炎(全体の60%)、B型肝炎(全体の10-15%)
    • アルコール(全体の10-15%)
    • 非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)
    • 自己免疫性肝炎
    • 胆道系の病気:原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎
    • 代謝性の病気:ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、アミロイドーシスなど
    • 薬物性:メトトレキサート、アミオダロン、メチルドパなどの薬によって肝障害が生じた状態を長期間放置した場合に発症することがあります。

    上記は原因の一部であり、検査をしても原因が特定できない場合もあります。

    肝硬変の血液検査では、どのようなことが分かるのですか?

    肝硬変の診断目的の検査と、肝硬変の重症度や原因を調べるための検査があります。

    • 血液生化学検査(AST、ALT、γGTP、ビリルビンなど)
      • これらは一般的な健康診断などでも測定されることが多い項目です。肝臓に異常があると上昇しやすいのですが、肝硬変の方では数値が大きく上昇していることと、そうでもないことがあります。そのため、これらの数値は参考にはなりますが、これのみで肝硬変と診断することはできません。
    • B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの検査
      • 肝硬変の原因となるウイルスに感染していないかどうかを確認します。
    • 血球細胞数の検査
      • 赤血球や白血球といった血液中の細胞数が減ることも、肝硬変の特徴の一つです。赤血球が減った状態とは貧血のことで、息切れなどの症状の原因になります。白血球が減ると免疫力が低下して、様々な感染症にかかりやすくなります。
    • 止血機能の検査
      • 肝硬変では、血小板や凝固因子といった、血液を固める物質が減少します。そのため、採血後や鼻血などの出血が止まるのに時間がかかったり、ちょっとした打ち身であざができやすくなったりします。
    • その他の血液検査
      • 肝機能が著しく低下すると、アンモニアの値が上昇して、意識障害を起こす原因となります。

    また、肝硬変は肝臓がんの原因となるため、AFP, PIVKA-IIといった腫瘍マーカーを測定し、画像検査と併せて肝臓がん診断の参考とします。これらの他、アルブミン、コリンエステラーゼ、コレステロール、γ(ガンマ)グロブリン、ヒアルロン酸など、様々な値を参考にしながら診断と治療を進めていきます。

    肝硬変で、胃カメラをするのはなぜですか?

    肝硬変の合併症の一つとして、食道静脈瘤があります。

    肝硬変によって血液の流れに変化が生じ、食道の静脈に多くの血液が集まるようになります。本来あるべき量よりも多い血液が集まりますので、静脈は張って膨らみ、ある瞬間に突然破裂して大出血の原因となることがあります。食道静脈瘤が破裂すると、吐血症状が起こり、出血多量で命に関わることがしばしばあります。

    これを確認するために上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は重要な検査です。

    肝硬変に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    肝硬変の方は、海産物に含まれる特定の菌(ビブリオ・バルニフィカス)への感染症に注意する必要があります。加熱していない海産物の生食(特に夏季)によってこの菌に感染し、皮膚の重症感染症(壊死性軟部組織感染症)を発症すると、致死率は50%を上回ると報告されています。

    その他の食事の目安については適切なタンパク摂取量や塩分制限など留意すべき内容がありますが、肝硬変の程度によって目安とすべき量が変わってきますので、医師や栄養士と相談の上で食事内容の調整を行うことが望ましいと言えます。

    肝硬変と肝炎の違いについて教えて下さい。

    肝臓に炎症が生じた状態を総称して、肝炎と呼びます。

    「炎症」はイメージのつきにくい医学用語の一つですが、そこに異常があって、体や免疫細胞がその異常に対応しようと頑張っているような状態のことを指します。肝炎の原因は、ウイルスやアルコールなど様々です。多くの場合炎症は一時的なもので治まるのですが、その後は100%元通りというわけではなく、わずかにダメージが蓄積された状態になります。このような、炎症と回復のプロセスを長年繰り返して、肝臓の機能がもはや不十分な水準まで低下してしまった状態が肝硬変です。

    また、肝臓に起きた急激な炎症のことを急性肝炎と呼び、小さな炎症がずっと繰り返したり続いたりしている長期的な状態のことを慢性肝炎と呼びます。

    まとめると、肝臓に炎症が続いている状態のことを慢性肝炎と呼び、慢性肝炎の結果徐々に肝機能が低下してきて肝硬変に至る、ということになります。慢性肝炎とは別に、ところどころで大きく急な炎症が生じた状態が急性肝炎です。

    肝硬変が進行すると、どうなるのですか?

    肝硬変が進行した場合の、重大な合併症が2つあります。

    • 肝臓がん(正確には肝細胞がん)
      • 肝硬変に至った肝臓では、高い確率で肝臓がんが発生します。C型、B型肝炎による肝硬変がある場合、肝臓がんの年間発生率はそれぞれ8%, 3%と報告されています。単純計算では10年の間にC型肝炎からの肝硬変では半数以上の方に、B型肝炎からの肝硬変では4人に1人以上の方に、肝臓がんが発生することとなります。肝硬変患者の死因の半分以上は、この肝臓がんによるものです。
         
    • 食道静脈瘤
      • 肝硬変によって血液の流れに変化が生じ、食道の静脈に多くの血液が集まるようになります。本来あるべき量よりも多い血液が集まりますので、静脈は張って膨らみ、ある瞬間に突然破裂して大出血の原因となることがあります。食道静脈瘤が破裂すると、吐血症状が起こり、出血多量で命に関わることがしばしばあります。