かんこうへん
肝硬変
肝臓の細胞の破壊と再生が繰り返されたことで、肝臓が線維化(肝細胞に炎症が繰り返される影響で組織が硬くなって機能を失うこと)した状態
12人の医師がチェック 195回の改訂 最終更新: 2022.06.20

肝硬変の人が知っておきたいこと:日常生活の注意点・余命など

肝硬変の人は肝臓の機能が低下した状態で日常生活を送らなければなりません。ここでは気をつけなければならない点や生活上の工夫について説明します。また、肝硬変によって引き起こされる病気の注意点についても解説します。

1. 日常生活の注意点と工夫

肝硬変になると肝臓の機能が低下するため、身体にさまざまな影響を感じるようになります。身体への影響を少なくするためにも日常生活から注意が必要です。

日常生活で注意するポイントは次のものです。

  • 食事の注意点や工夫
  • 運動
  • 禁酒
  • 感染対策
  • 怪我をした時の注意点
  • 黄疸によるかゆみへの工夫

以下の章ではそれぞれの内容について解説します。

食事の注意点や工夫

■栄養をしっかりとる

肝硬変になると身体の栄養は不足していることが多く、不足分を補うためにしっかりと栄養をとることが望まれます。そもそもなぜ肝硬変の人は栄養不足に陥りがちなのでしょうか。

まず考えられるのが食事の量が減ってしまうことです。肝硬変が進行するとお腹の中に水分が溜まります。これを腹水といいます。腹水があると、胃や腸を圧迫して満腹を感じやすくなり食事の量が減少します。

また、肝臓の機能が低下すると身体の中に老廃物がたまって食欲不振の原因にもなります。肝硬変になると食事量が減りがちになり栄養不足につながってしまいます。1回の食事量を増やそうとしても限界があるのですが、食事の回数を増やす工夫が有効なことがあります。また味付けなどを工夫することで食欲が増すことにも期待ができます。

次に考えられるのが、アンモニアという物質を分解する力が落ちることです。これも栄養不足に関係しています。

アンモニアは身体にとって有害な物質で、主に肝臓で処理されます。しかし、肝臓の機能が低下すると身体の筋肉(骨格筋)でも多く処理されるようになります。骨格筋で処理される場合には、分岐鎖アミノ酸という物質が同時に使われて、身体の中から減少してしまいます。分岐鎖アミノ酸はエネルギー源になる物質なので、分岐鎖アミノ酸が減少すると栄養が枯渇します。つれて肝臓の機能も低下していき、身体に必要なタンパク質などを作ることができなくなります。

分岐鎖アミノ酸は、牛肉や鶏肉、卵、大豆、まぐろなどに多く含まれています。不足しがちな分岐鎖アミノ酸を補うにはこれらの食品を積極的にとることが大切です。どうしても食欲がないときには、分岐鎖アミノ酸製剤という栄養剤を利用するのも良い方法です。分岐鎖アミノ酸製剤は食事より効率的に栄養を摂取することが期待できます。

■塩分を控える

肝硬変が進行するとお腹の中に水が溜まる(腹水)ようになります。腹水の量が多くなると常にお腹が張って苦しさを感じるようになるため、食欲が低下します。腹水の量は塩分の摂取量と関係しているので、塩分の摂取量を減らすこと(減塩)で腹水の量も減る効果が期待できます。

とはいえ、塩分を極端に減らしてしまうと味付が物足りなくなり食事の量が減ってしまうこともあり、栄養不足になりがちな肝硬変の人は避けるべきです。それらを踏まえて「肝硬変診療ガイドライン」では食事の味付けに支障が出ない範囲として、塩分の摂取量を1日量にして5-7gにすることが提案されています。塩分の摂取量を調節するのは専門的な知識が必要になるので、まず医師や管理栄養士に相談してみるのが良いです。

■生魚を食べない

肝硬変が進行すると細菌などから身を守る免疫力が低下します。免疫力の低下は様々な形で身体に影響を及ぼすのですが、その一つに食中毒が重症化しやすいというものがあります。食中毒の原因となる細菌はたくさんあるのですが、中でも生魚などから感染するビブリオ菌には特に注意が必要です。肝硬変によって免疫力が低下している状況でビブリオ菌による食中毒が起きると、敗血症という重い状態を引き起こして生命に危険を及ぼします。

ただ、生魚を避けるべき状況については明確な線引はないので医師に確認してください。生魚は避けた方がよいと言われた場合には、魚は加熱した調理法で食べることが勧められます。

運動

以前は肝硬変の人はできるだけ安静を保つような生活がよいと考えられていましたが、現在は適度な運動を生活に取り入れたほうがよいと考えられています。運動によって得られる効果は以下のようなものが挙げられます。

  • 筋肉量の維持
  • 便秘の解消
  • 精神衛生上の好影響

肝硬変になると全身の栄養状態が悪くなり、それにともない筋肉量も低下してしまうことが多いです。筋肉量が減少すると身の回りのことも一苦労になり、日常生活全般に支障をきたしてしまいます。適度な運動をすることは筋肉を維持するのに有利に働きます。

また、運動は腸の動きを良くするので便秘の解消に有効です。便秘になるとアンモニアという物質が多く作られてしまいます。アンモニアは身体にとって有害な物質で、肝臓で分解されて排泄されます。肝臓の機能が低下するとアンモニアが身体の中に蓄積してしまい、肝性脳症という状態が引き起こされてしまいます。肝性脳症を避ける意味でも便秘の解消は重要であり運動は有効な手立てになると考えられます。

運動は身体的な面だけでなく精神面にも良い影響を与えます。身体を動かすことで精神的に上向くと、治療を受けることができるようになります。また、自分らしい生活を実感できるようになることも大きな効果です。

禁酒

アルコールの多飲は肝硬変の主な原因として知られています。アルコール性肝硬変(アルコールが原因の肝硬変)は、アルコールをやめるとその後の経過が良くなることが知られています。アルコール性肝硬変と診断されてから禁酒をした人と飲酒を継続した人を比べると、禁酒をした人の方が生きている期間が長かったという報告が多数あります。

肝硬変の原因が肝炎ウイルス感染やNASHなどアルコール以外の場合でも、肝臓の機能は低下しています。できるだけ肝臓に負担をかけないためにも、アルコール以外が肝硬変の原因であっても禁酒をしたほうが望ましいと考えられます。

感染症への予防対策:手洗い、マスクの着用など

肝硬変になると細菌などの外敵から身体を守る役割を担う機能が低下することが知られています。免疫が上手く機能しなくなると感染症にかかりやすくなります。感染症への対策としてできることは、手洗いを中心とし予防を徹底することです。また、感染症になった場合には正常な人と比べて重症化しやすいということにも注意が必要です。咳、腹痛、発熱など感染症を疑わせる症状が現れた場合には、早めに医療機関を受診して症状の原因や治療の必要があるかどうかなどを調べてもらってください。

怪我をした時の注意点

肝硬変の人は怪我をしたときに注意が必要です。肝硬変になると血液を固める力が低下しているのでちょっとした怪我でもなかなか血が止まらないことがあるからです。肝硬変になると2つの理由で血液が固まりにくくなります。

  • 血液を固める細胞(血小板)の減少
  • 血液を固める物質(凝固因子)の減少

1つ目の理由は血小板という血液を固める細胞が減少することです。血小板は肝硬変によって起きる門脈圧亢進に伴って、脾臓の機能が活発化したために減少します。血小板が減少するメカニズムについてより詳しく知りたい人は「肝硬変の症状」を参考にして下さい。

もう1つは、血液を固める物質(凝固因子)が減少することです。止血には血小板だけではなく凝固因子という物質も関わっています。肝硬変になり肝臓の機能が低下すると凝固因子を作る肝臓の機能も低下してしまい、出血が止まりにくくなります。

血小板と凝固因子が身体の中から減少することで、肝硬変の人は出血すると血が止まりにくくなっています。切り傷や刺し傷などの外傷だけでなく、ちょっとした打ち身でひどい内出血を起こしてしまうことがあります。

肝硬変の方が強く身体を打ち付けたり切り傷を負った場合には、その後の様子を慎重に観察して下さい。だんだんと内出血が大きくなることがあります。また、押さえても血液が止まらない状況であれば医療機関を受診して処置を受けるようにしてください。

黄疸のかゆみへの対策

肝臓の機能が低下してビリルビンという物質が身体の中に溜まるようになると皮膚や白目が黄色くなる黄疸が現れます。黄疸は様々な症状を引き起こしますが、中でもかゆみが特に悩ましいです。かゆみが強いと生活の質(QOL)が下がってしまいます。かゆみを和らげる方法について説明します。

かゆみをひどくさせないためには、皮膚への刺激を少なくすることが大切です。皮膚がかゆいとどうしてもかいてしまいますが、皮ふをかくことでかゆみが増すという悪循環が起こります。

皮膚をひっかいてしまうとその物理的刺激でかゆみが強くなります。また、引っ掻いたことでできた傷口から感染が起こることもあります。黄疸のかゆみを薬で和らげるのは簡単ではないのですが、以下の方法には効果が期待できます。

  • 身体の水分を保つ(保湿)
    • ローションなどを使用する 
    • 適度な温度と湿度を保つ
  • たとえ皮膚をかいても皮膚へのダメージを少なくする
    • 爪を短くしておく
  • 皮膚への刺激が少ない服を選ぶ

皮膚に潤いがあるとかゆみはやわらぐので、ローションなどを利用すると効率的に皮膚を保湿できます。また、汗をかかない程度の室温にすることも大切です。室温が極端に高いと汗をかいて皮膚がむれてしまいますし、低いと乾燥しがちになります。適温には個人差もあるので調整しながら最適な温度を探して下さい。

皮膚をひっかくことはかゆみを増強してしまうのですが、生活する中でどうしてもかいてしまうことがあります。爪を短くしておくと引っかいた時のダメージが少なくてすむので、日頃から爪の手入れはこまめにしておくことをお勧めします。それでも引っかいてしまう場合は手袋を使うのもいい対策です。特に寝ているときなどはかゆいと皮膚を無意識にかいてしまいますので、手袋を使うと傷がつきにくくなります。

衣服にも気をつけることがあります。ウールや化学繊維は刺激が強いので、できるだけ綿などの刺激が少なくかつ柔らかいものを普段から選んで着るのがよいです。

2. 肝硬変によって起こる病気を見逃さない

肝硬変になるとそれに引き続いて起こる病気がいくつかあります。肝硬変に引き続いて起こる肝臓がん食道静脈瘤特発性細菌性腹膜炎の3つの病気について解説します。

肝臓がん

肝臓がんは、肝臓の主な細胞である肝細胞ががん化する病気です。肝硬変の状態から発生しやすいことがわかっているので肝硬変だと診断されている人は特に注意が必要です。

肝硬変の状態から肝臓がんの発生を予防する有効な方法はありません。そのため、がんが発生したのを早期に発見することが治療において重要です。

肝臓がんを早期に発見する方法としてスクリーニング検査というものがあります。スクリーニング検査は、特に症状がない人にも検査を行うことで病気を早期に発見することを目的にしています。「肝癌診療ガイドライン」によると肝硬変の人は原因によって以下のようなスクリーニング検査が勧められています。

  • B型・C型肝炎が原因の肝硬変の人
    • 3−4ヵ月に1回の腫瘍マーカーの測定と超音波検査
  • B型・C型肝炎以外が原因の肝硬変の人
    • 6ヵ月に1回の腫瘍マーカーの測定と超音波検査

この検査の間隔を目安にして、年齢、性別、糖尿病の有無、BMIなどを鑑みて検査の間隔を縮めたり伸ばしたりします。スクリーニング検査で肝臓がんが疑わしい場合には造影CT検査や造影MRI検査などを行い肝臓がんができているかどうかを調べます。肝臓がんと診断されれば治療を行い、肝臓がんではないと診断された場合には、スクリー二ング検査を継続します。肝臓がんについてもっと詳しく知りたい人は「肝臓がんの詳細情報ページ」も参考にして下さい。

食道静脈瘤

肝硬変が進行すると、肝臓が硬くなり周りにもさまざまな影響を与えます。その1つに門脈圧亢進があります。門脈は腸で吸収した栄養を肝臓に届ける血管で、門脈の圧力が高くなった状態が門脈圧亢進です。

門脈圧亢進が起きると、門脈を経て肝臓に流れ込むはずの血液の一部が門脈以外の血管に迂回して流れるようになります。迂回路の1つが食道静脈です。

食道静脈に多くの血液が流れるようになると食道静脈は多くの瘤(こぶ)を作ります。これを食道静脈瘤といいます。食道静脈瘤は、出血しやすく危険な状態で、出血すると吐血などの症状として現れます。食事のとおりにくさや違和感といった症状から発見されることもあるので、肝硬変の治療中に症状を感じたら医師に相談してみてください。食道静脈瘤が発見されれば破裂を予防する治療を検討することがあります。食道静脈瘤についてさらに詳しく知りたい人は「食道静脈瘤の基礎情報ページ」も参考にして下さい。

特発性細菌性腹膜炎

腹膜はお腹の中の空洞(腹腔)を覆う膜のことです。腹膜に炎症が起きたものが腹膜炎です。腹膜炎の原因にはいくつかあるのですが、細菌が原因になるのは腸に穴が空いて腸の中の細菌が漏れ出てきた場合が多いです。しかし、特発性細菌性腹膜炎は腸に穴が開くなどしていなくても細菌感染が腹膜に起きてしまいます。これは特殊な状況で、肝硬変の人に多いとされています。

特発性細菌性腹膜炎が起きると腹痛や発熱などの症状が現れます。肝硬変の人にこの2つの症状が現れると、特発性細菌性腹膜炎が起きていることも考えられるので注意が必要です。腹水中の白血球数や細菌の有無を調べ、診断が下れば抗菌薬を用いて治療されます。

特発性細菌性腹膜炎がもし起きた場合には素早く診断して治療を開始することが大切です。腹痛や発熱などの症状に注意して疑わしい場合には速やかに医療機関を受診してください。特発性細菌性腹膜炎についてさらに詳しく知りたい人は「特発性細菌性腹膜炎の基礎情報ページ」も参考にしてください。

3. 肝硬変の余命は?

肝硬変の余命を予測することは難しいです。

肝硬変は様々な原因によって肝臓の線維化が進み機能が低下した状態です。主な原因は肝炎ウイルスやアルコール、NASH非アルコール性脂肪肝炎)などです。原因によって治療方法はさまざまで、効果的な治療が残されている場合もあります。

アルコール性肝炎を例として考えてみます。アルコール性肝硬変は大量飲酒が原因なので、禁酒することでその後の経過が良くなることが知られています。禁酒によって肝硬変の進行を抑えることができれば長期間に渡って生存することも可能です。

一方で、肝硬変の人は肝臓がんが発生する危険性が高くなっています。肝臓がんが発生すると状況は大きく変わります。肝臓がんの状態が余命に強く影響してくるからです。肝硬変の原因や肝臓がんの有無を考えると肝硬変の余命について正確な数値を知ることは難しいことです。

肝硬変に限らず、余命のデータは鵜呑みにできない部分があります。というのも、余命は過去の治療実績に基づいたものであり、その人に訪れる未来を完全に予測したものではありません。また、一人ひとりの身体状況によって、余命は変わってきます。大切なことは余命という言葉に振り回されずに、自分の身体の状況と向き合い1日1日を大切に生きることです。

医師の説明をもう一度思い出してみて下さい。肝硬変に対してどのような治療があるのかや日常生活ではどんなことに気をつけるべきなのかなどを、振り返って整理することが役に立つと考えられます。もし詳細に思い出せない場合には、主治医に確認してみることも大切です。

参考文献

・福井次矢 , 黒川 清/日本語監修, 「ハリソン内科学 第5版」, MEDSi, 2017
・矢﨑義雄/総編集, 「内科学 第11版」, 朝倉書店, 2017
・日本消化器病学会,「肝硬変診療ガイドライン2020」