すいとう(みずぼうそう、みずぼうそう)
水痘(みずぼうそう、水疱瘡)
ウイルスが原因で、全身に分布する水ぶくれを主体とする発疹と発熱を来す疾患
10人の医師がチェック 121回の改訂 最終更新: 2021.11.26

水痘(みずぼうそう、水疱瘡)に関する気をつけるべき注意点

水疱瘡(みずぼうそう、水痘)に関して生活上気を付けるポイントについて説明します。妊婦、新生児、免疫不全のある人は、特に水疱瘡にかからないようにすることが大切です。

1. 水疱瘡はうつるのか?

水疱瘡は人から人にうつります。水痘帯状疱疹ウイルスによる感染症で、ウイルスを吸い込んだり触れたりすることでうつります。感染力が強く、水疱瘡に免疫がない人は近くに水疱瘡の人がいれば90%以上がうつってしまいます。潜伏期が長く、発疹が出る前から感染力があるので注意が必要です。

原因微生物について

水疱瘡の原因微生物は、水痘帯状疱疹ウイルスです。水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染すると水疱瘡になります。水疱瘡にかかった後ウイルスが神経の中に潜んでいて、免疫力が低下した時などにそのウイルスが再び感染力をもつようになると帯状疱疹になります。

水疱瘡には予防接種があります。水疱瘡の予防接種は2014年10月から定期接種の対象となりました。国が定めた全国3,000か所の小児科医療機関(定点医療機関)では、水疱瘡の患者を診察したら届け出をすることになっています。この届け出による定点あたり年間報告数が、定期接種開始前は70-80人前後であったのに対し、2014年の定期接種開始以降20人前後にまで減少しています。このことは、予防接種によって水疱瘡の発症を防ぐことができることを示しています。

感染経路について

水疱瘡の感染経路は、飛沫感染空気感染接触感染です。

感染者の口から飛ぶ飛沫(水滴)を吸い込んだり、感染者の身体に直接触れたりすることは避けるべきと考えられます。

家族内に水疱瘡にかかっている人がいる際には、マスクを着用し手洗いやうがいをすることと、患者(特に発疹部分)に直接触れないようにすることが、感染を防ぐための注意になります。

感染力について

水疱瘡の感染力は強く、水疱瘡にかかったことも予防接種を受けたこともない人は、家族内に水疱瘡の人がいれば90%以上が感染します。発疹が出る2日(48時間)前から全ての発疹が痂皮化する(かさぶたになる)まで感染力があります。潜伏期は2週間前後です。潜伏期とは、感染してから発症する(水疱瘡の症状が出る)までの時期のことです。潜伏期の間にも、他の人へうつす可能性があり、症状が出ている時期と同様に感染を防ぐための注意が必要です。

2. 水疱瘡になったら医療機関(病院、クリニック)に行った方が良い?

水疱瘡は主に問診と身体診察によって診断されます。感染力が強く学校の出席停止期間が定められている感染症でもあるので、周囲に感染を広げないためにも、水疱瘡が疑われたら診断確定のため小児科や皮膚科を受診しましょう。

12歳以下の健康な子どもであれば、水疱瘡は自然に治ります。13歳以上で水疱瘡の予防接種を打っていない人、アトピー性皮膚炎喘息など慢性的な皮膚や肺の病気でアスピリンやステロイドによる治療を行っている人、大人や妊婦、免疫不全のある人、水疱瘡の合併症がある人は、水疱瘡が重症化しやすいため抗ヘルペスウイルス薬で治療します。抗ヘルペスウイルス薬は、発疹が出始めてから1日(24時間)以内に開始すると効果があるので、このような人は特に早めに受診しましょう。

3. 水疱瘡になったら出席停止?学校や会社について

水疱瘡は学校保健安全法施行規則で出席停止期間が定められている感染症です。そのため学校は出席停止になります。大人でも同じように、感染を広げないためには会社などをお休みし、外出も控える必要があります。

どういった時期になると、外出を控え安静にしなくて良くなるのか?

水疱瘡と診断されたら、出席停止の期間は全ての発疹が痂皮化する(かさぶたになる)までと決められています。この基準は周囲への感染力があると考えられる期間を決めたものなので、会社を休む期間の目安にもなります。全ての発疹が痂皮化した(かさぶたになった)ことが確認されたら、通勤や外出をする日常生活に戻って構いません。

4. 妊婦の水疱瘡はどうしたらよい?

妊婦が水疱瘡にかかると重症化することやお腹の赤ちゃんに影響を及ぼすことがあります。特に妊娠中には水疱瘡にかからないようにすることが大切です。

お母さんが水疱瘡になったら子どもにうつるのか?

妊婦が水疱瘡になると胎盤を介してお腹の中の赤ちゃんに感染する可能性があります。

妊娠8-20週の妊婦が水疱瘡にかかると、妊娠中の水疱瘡の0.4~2%と頻度は低いですが、生まれてきた子どもに皮膚や目、手足の骨や筋肉、神経の障害を来たすことがあり、先天性水痘症候群と呼ばれます。

また妊娠中に水疱瘡にかかると、生まれてきた子どもが水疱瘡を発症することがあります。新生児の水疱瘡は重症になりやすく、特に出産5日前から2日後までの間に水疱瘡を発症した母親から産まれた新生児の水疱瘡では死亡率が高くなります。

先天性水痘症候群や新生児の水疱瘡を予防するためには、妊娠中に水疱瘡にかからないようにすることです。妊娠希望の女性で今までに水疱瘡にかかったことも予防接種を受けたこともない人は、妊娠前に予防接種を受けることで、妊娠中に水疱瘡にかからないようにすることができます。妊娠中は水疱瘡の予防接種を受けることはできず、接種後は2か月間の避妊が必要です。また妊婦の近くに水疱瘡を持ち込まないことも大切です。妊婦の周りの家族(夫や子どもなど)が予防接種を受けることで、妊娠中のお母さんとお腹の中の赤ちゃんを水疱瘡から守ることができます。

TORCH症候群について

妊婦が感染すると赤ちゃんに発疹や視覚障害などを起こしうる感染症を、その頭文字をとってTORCH症候群といいます。

O:その他(Others)の原因微生物には、水痘帯状疱疹ウイルス、梅毒トレポネーマ、エンテロウイルス、パルボウイルスB19、ジカウイルスなどが含まれます。つまり、水疱瘡の原因ウイルスである水痘帯状疱疹ウイルスもTORCH症候群の一因となります。

妊婦が水疱瘡になったらどう治療する?

妊娠すると水疱瘡にかかりやすくなるわけではありません。しかし妊婦が水疱瘡になると、重症化するリスクが高くなります。またお腹の中の赤ちゃんに感染する可能性もあります。

妊婦が水疱瘡になったら、妊婦の重症化と赤ちゃんへの感染をできるだけ防ぐために、抗ヘルペスウイルスによる治療を行います。アシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬を通常7日間内服します。発症から24時間以内に治療を開始することで、水疱瘡の症状を早く治すことができるため、妊婦が水疱瘡にかかったら早めに病院を受診してください。24時間以上経ってしまっても、合併症の評価や治療などのため病院を受診してください。

特に、出産5日前から2日後までの間に母親が水疱瘡を発症した場合は危険性が高いため、出生後に免疫グロブリン製剤という薬を使って水疱瘡の発症を予防します。新生児が水疱瘡を発症した場合にはアシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬の点滴で治療を行います。

妊婦はワクチンを打って良い?

水疱瘡のワクチンは生ワクチンで、ウイルスの病原性を弱めてワクチンにしたものです。ワクチンを打つと病原性を弱めた水疱瘡のウイルスが一旦体の中で増えます。このときに妊娠しているとお腹の中の赤ちゃんに感染する可能性があります。これを避けるため妊婦は水疱瘡のワクチンを打つことはできず、打った後2か月間は避妊が必要です。ただし妊娠していることに気づかずワクチンを受けてしまっても、実際にワクチンによって赤ちゃんに障害が生じた報告は今までにないので、妊娠を中断する必要はありません。

5. 水疱瘡になったらお風呂やシャワーはどうしたら良い?

水疱瘡になったときも、お風呂やシャワーは普段通りに入って構いません。お風呂のお湯を介して家族にうつることはないので、湯船のお湯を入れ替える必要もありません。むしろ皮膚を強く掻いて傷つけ発疹を悪化させるのを防ぐためにも、シャワーで汗などを洗い流し清潔にしておいた方がよいでしょう。ただし高い熱があるときは入浴で汗をかくと脱水になることや体力を消耗することがあるので控えた方が望ましいです。

家族の中に今まで水疱瘡にかかったことも予防接種を受けたこともない人がいる場合は、患者(特に発疹部分)に直接触れないようにします。またタオルを介して間接的に感染することも考えられるので、タオルの共用は控えましょう。

6. 水疱瘡になったら食事はどうしたら良い?

水疱瘡は基本的に自然治癒する病気です。しっかり食べて体力を回復させることが早く治すためにも大切です。水疱瘡のときに食べた方が良い食べ物や避けた方が良い食べ物は特にありません。発熱中など食欲が低下している時は、食べやすい物で構いません。

7. 水疱瘡の人と洗濯物は分けた方が良い?

水疱瘡の人の着た衣類から洗濯を介して他人へうつることはないので、洗濯物を分ける必要はありません。水ぶくれが破れて衣類に付いてしまった場合には、直接触れないようにして洗い流してから洗濯すれば問題ないです。

8. 水疱瘡に何度もかかることはある?

基本的には水疱瘡に何度もかかることはありません。水疱瘡にかかった後にウイルスが神経の中に潜んでいて免疫力が低下した時などに再び感染力をもつようになると帯状疱疹になります。

水疱瘡の獲得免疫について

水疱瘡は終生免疫といって一度かかるともうかからなくなる人が多いですが、免疫不全者などでまれに再感染する(水疱瘡に2回以上かかる)ことがあります。免疫不全については次の「水疱瘡が重症になりやすい人について」で説明します。

水疱瘡と帯状疱疹

水疱瘡と帯状疱疹は、どちらも水痘帯状疱疹ウイルスが原因です。水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染すると水疱瘡になります。水疱瘡にかかった後ウイルスが神経の中に潜んでいて、免疫力が低下した時などにそのウイルスが再び感染力をもつようになると帯状疱疹になります。帯状疱疹になると、ウイルスが潜んでいた神経の走行に沿って発疹が出ます。体の片側の一部に帯を巻くように、皮膚が赤くなり水ぶくれが出ます。帯状疱疹の発疹は痛みを伴うことが多いです。発疹が出てから2日(48時間)以内に抗ヘルペスウイルス薬による治療を行います。帯状疱疹の発疹は1週間前後でかさぶたになり治りますが、帯状疱疹の10%くらいでその後も痛みが残ることがあります。

水疱瘡にかかったことも予防接種を打ったこともない人は、帯状疱疹患者からの感染で水疱瘡を発症することがあります。

9. 水疱瘡が重症になりやすい人について

水疱瘡が重症になりやすいのは、生まれたての新生児や免疫不全のある人です。このような人は特に、水疱瘡にかからないようにすることが大切です。

生まれたての新生児

妊娠8-20週の妊婦が水疱瘡にかかると、妊娠中の水疱瘡の0.4~2%と頻度は低いですが、生まれてきた子どもに皮膚や目、手足の骨や筋肉、神経の障害を来たすことがあり、先天性水痘症候群と呼ばれます。

また妊娠中に母親が水疱瘡にかかった時や、出産2週間後までの間に水疱瘡のウイルスにさらされた時、新生児が水疱瘡になることがあります。新生児の水疱瘡は重症になりやすく死亡率は30%です。通常胎児は胎盤を介して母親から抗体をもらうことで、出生後に感染から守られています。ところが出産5日前から2日後までの間に母親が水疱瘡を発症すると、母親から十分な抗体をもらう前に産まれてくるので、新生児が水疱瘡を発症した場合特に死亡率が高くなります。このため、出生後に免疫グロブリン製剤という薬を使って水疱瘡の発症を予防します。新生児が水疱瘡を発症した場合にはアシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬の点滴で治療を行います。

先天性水痘症候群や新生児の水疱瘡を予防するためには、妊娠中に水疱瘡にかからないようにすることです。妊娠希望の女性で今までに水疱瘡にかかったことも予防接種を受けたこともない人は、妊娠前に予防接種を受けることで、妊娠中に水疱瘡にかからないようにすることができます。妊娠中は水疱瘡の予防接種を受けることはできず、接種後は2か月間の避妊が必要です。また妊婦の近くに水疱瘡を持ち込まないことも大切です。妊婦の周りの家族(夫や子どもなど)が予防接種を受けることで、妊娠中のお母さんとお腹の中の赤ちゃんを水疱瘡から守ることができます。

免疫不全のある人

がん患者、ステロイドや免疫抑制剤の使用者、HIV感染者、臓器移植を受けた人などは免疫が抑制されているため、水疱瘡が重症になりやすく、死亡率も高くなります。数週間以上かけて水疱瘡の症状が進行し、皮膚症状は広範囲に渡って出血しやすくなり、肺炎合併することもあり、また全身の血管に血栓ができやすくなります。

免疫不全のある人は水疱瘡にかからないようにすることが大切です。予防接種を受けることで水疱瘡にかかりにくくすることができます。ただし水疱瘡のワクチンは生ワクチンで、病原性を弱めたウイルスをワクチンにしたものです。重度の免疫不全のある人は予防接種を受けることができません。打っても良いかどうかは、普段病気を診てもらっている主治医に相談して下さい。免疫不全のある人自身が予防接種を受けることができない場合にも、できることがあります。周りの家族が予防接種を受け、水疱瘡を持ち込まないようにすることで、免疫不全のある人を水疱瘡から守ることができます。

10. 水疱瘡は後遺症が残ることがある?

水疱瘡は通常後遺症を残さずに治ります。まれに皮膚や脳神経に後遺症が残ることがあります。

皮膚のあと

水疱瘡の発疹はあとを残さずに治ります。しかし強く掻いたりとびひを合併したりすることで、あとに残ることがあります。あとに残さないためには強く掻かないようにすることです。水疱瘡にかかって強いかゆみがある時には、抗ヒスタミン薬を内服しかゆみを抑えることで、皮膚にあとを残さないようにすることができます。

脳神経へのダメージ

水疱瘡の合併症としてまれに脳炎を発症することがあります。脳炎の死亡率は10%で、生存者の15%に長期的な脳の後遺症が残ることがあります。

とは言っても水疱瘡にかかった人4,000人のうち脳炎になるのは1人くらいという非常にまれな合併症なので、過剰に心配する必要はありません。

水疱瘡による脳の後遺症を防ぐには、何もよりもまず水疱瘡にかからないようにすることです。今までに水疱瘡にかかったことも予防接種を受けたこともない人は、年齢に関わらず水疱瘡の予防接種を受けることで、水疱瘡にかからないようにすることができます。もし水疱瘡にかかったことも予防接種を受けたこともない人の周りに水疱瘡患者がいる場合には、直接触れないこと、できるだけ患者に近づかないこと、患者に接触してから3日(72時間)以内にワクチンを接種することで、水疱瘡の発症を防ぎ、脳炎からの脳の後遺症を防ぐことができます。

参考文献
・Clinical features of varicella-zoster virus infection: Chickenpox. UpToDate, 2017
・Treatment of varicella (chickenpox) infection. UpToDate, 2017
・Varicella-zoster infection in the newborn. UpToDate, 2017
・Varicella-zoster virus infection in pregnancy. UpToDate, 2017
・日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール
・日本小児科学会推奨の予防接種キャッチアップスケジュール
・日本小児科学会 学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説