慢性腎臓病の基礎知識
POINT 慢性腎臓病とは
腎臓の機能の低下が3か月以上続いている状態を指します。CKDとも呼ばれます。腎臓は両側の腰の辺りに左右1つずつある臓器で、握りこぶしほどの大きさをしています。腎臓の主な役割は血液を絶え間なくろ過して、老廃物を尿として体外に排出することです。その他では、体内の水分量や血圧の調整、ミネラルバランスの維持、血液を作るホルモンの分泌、骨を健康に保つなど多くの重要な働きがあります。慢性腎臓病になると、これらの機能が低下し、体への影響が現れます。 高齢者や、生活習慣病を持っている人、腎臓病の家族がいる人、喫煙者などはCKDになりやすいとされています。CKDの初期には症状はほとんど出ませんが、進行すると疲れやすくなったり、体がむくんだりします。採血検査や尿検査によって診断が行われ、必要に応じて超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査などの画像検査が追加されます。特殊な腎臓の病気が考えられる場合には、腎生検を行う場合もあります。慢性腎臓病が心配な方や治療したい方は内科を受診してください。内科の中では腎臓内科が特に専門としている病気です。
慢性腎臓病について
慢性腎臓病の症状
慢性腎臓病の検査・診断
- 血液検査:体の中の老廃物が、どの程度排泄されずに残っているかを調べる
- Cre(クレアチニン)やeGFRという値が主な指標になる
- 尿検査:尿成分を調べる
タンパク尿 や血尿 などが主な指標になる
- 場合によっては必要な検査:その他の様々な臓器に異常が及ぶことが多いので、総合的な検査を行うことがある。また、腎臓そのものに対して画像検査を行うことがある
心電図検査 :心臓の動きを支配している電気信号の状態を調べる胸部レントゲン (X線 )検査:心臓が大きくなっていないかなどを調べる心臓超音波 (エコー )検査:心臓の動きを調べる腹部超音波 (エコー)検査:腎臓の形態などを調べる腹部CT検査 :腎臓やその他の腹部臓器の形態を調べる腹部MRI 検査:腎臓やその他の腹部臓器の形態を調べる
腎生検 - 特殊な腎臓の病気が疑われる場合に行われる検査
- 背中から針を刺して腎臓を一部採取して、顕微鏡で観察する
- 入院で行われることが多い
慢性腎臓病の治療法
- 基本的な治療方針
- 病状を進行させないために、普段からの生活習慣に気をつけることが必要
- その他、原因となっている病気に対する治療も行われる
- 主な治療
- 末期腎不全(ESKD)に進行した場合:腎代替療法(
血液透析 、腹膜透析 、腎移植)を行うかどうかを検討するが、以下のプロセスを踏む- 治療方針を決定する時期であることを認識する
- 医療チームから腎代替療法とそれを行わない治療(
保存的 腎療法)について説明を受ける - 患者本人が価値観と意向を明確にし、患者・家族・医療チームとの共同で治療方針の意思決定を行う(共同意思決定)
- 腎代替療法を選択した場合は自分の考えにあった方法を選ぶ
- 保存的腎療法を選んだ場合は「透析見合わせ」(後述)と呼ばれる状態になるが、撤回することは可能
- 決定が困難な場合は期間限定で透析を行い、その後継続するかどうかを決める
- 「透析見合わせ」とは透析を差し控える、または、透析継続を中止するという意味ではなく、透析を一時的に実施せずに、病状の変化によっては透析を開始するという意味である
- 透析見合わせを検討する状態が生じるたびに患者・家族・医療チームで話し合いを行い、共同意思決定を行う
- 透析見合わせについて検討する状態
- 透析を安全に施行することが困難な状態であり、患者の命に影響を及ぼす危険性が高い場合
- 生命の維持が極めて難しいほど、心臓や肺などの機能が低下している場合や血圧低下が続き、透析を行うことがかえって命に危険を及ぼす状態
- 透析を行うたびに、器具による抑制および薬による鎮静がなければ透析が実施できない状態
- 患者の全身状態が極めて悪く、かつ透析の見合わせについて患者本人の意思が明確に示されている場合。または、家族などが患者の意思を推定できる場合
- 脳機能障害(脳血管障害や東部外傷の後遺症など)のために透析や療養生活に必要な理解ができない状態
がん などの悪性疾患が完治不能な状態にあり、死が迫っている状態- 口から食事を摂れず、人工的水分補給をによって生命を維持する状態から脱するのが長期的に難しい状態
- 透析を安全に施行することが困難な状態であり、患者の命に影響を及ぼす危険性が高い場合
- 長期的な経過
- 失われた腎機能が回復することはほとんどなく、悪化すると血液透析などの腎代替療法が必要になる
- 自分の腎不全がどこまで進行しているかを理解しておくことが必要
慢性腎臓病に関連する治療薬
活性型ビタミンD3製剤
- 小腸からのカルシウム吸収を促進させ、骨量の減少を抑え骨粗しょう症による骨折などの危険性を低下させる薬
- 骨粗しょう症では骨を壊す細胞と作る細胞のバランスが崩れ骨がもろくなってしまう
- ビタミンDは活性型ビタミンD3となると、小腸からのカルシウムの吸収を促進させ骨量の減少を抑える
- 本剤は体内で活性型ビタミンD3とほぼ同様の作用をあらわす
- 続発性(二次性)副甲状腺機能亢進症や副甲状腺機能低下症などに使用する薬剤もある
高リン血症治療薬(血中リン排泄促進薬)
- リンを吸着し、リン排泄を促すことで高リン血症を改善し、動脈硬化や骨折などを予防する薬
- 慢性腎臓病では腎臓の機能が低下することで体内にリンが蓄積し高リン血症がおこる
- 高リン血症では血管や関節などの石灰化により動脈硬化や関節痛などがおこりやすくなる
- 高リン血症では副甲状腺ホルモンの過剰分泌がおこり、これにより骨がもろくなる
- 本剤は消化管内でリンと結合し、この結合物質が体外へ排泄されることで結果として体内のリン量を減らす効果をあらわす
陽イオン交換樹脂製剤(血清カリウム抑制剤)
- 腸管内で薬剤のもつ陽イオンをカリウムイオンと交換し、カリウムイオンを体外へ排泄させて血液中のカリウム値を下げる薬
- 慢性腎臓病では腎臓の機能低下により血液中のカリウム値が高くなりやすくなる
- 血液中のカリウム値が高いままだと高カリウム血症がおこりやすくなる
- 本剤は腸管内でカリウムイオンを本剤のもつ陽イオンと交換し、体外へ排泄させる樹脂製剤
慢性腎臓病の経過と病院探しのポイント
慢性腎臓病が心配な方
慢性腎臓病は初期には無症状ですが、進行すると全身のだるさや、意識障害の原因となります。健康診断などで慢性腎臓病が見つかった場合には、検査結果をもって一度内科を受診されることをお勧めします。一般内科で構いませんが、あえて専門を絞るのであれば腎臓内科が専門の診療科になります。特に健康診断などを受けておらず、ご自身が慢性腎臓病でないかどうかを確かめたいといった場合には、血液検査と尿検査が受けられる内科のクリニックであればどこでも問題ありません。
診断がついたらそのまま治療に移れるというわけではなく、様々な合併症(慢性腎臓病が原因で引き起こされる病気や病状)がないかを確認する必要があるため、一度は総合病院で全身の検査(心電図、心エコー、頸動脈エコー、より詳しい血液検査や尿検査など)を受ける必要があります。その際には腎臓専門医のいる病院が望ましいでしょう。
慢性腎臓病でお困りの方
慢性腎臓病の治療は、食事療法、運動療法とともに慢性腎臓病の原因となっている病気の治療が基本となります。高血圧、糖尿病、腎炎、膠原病といった病気が慢性腎臓病を引き起こします。
それらを行っても慢性腎臓病が進行してしまい、腎臓の機能が極めて低下してしまった場合には、透析(血液透析、腹膜透析)と呼ばれる治療が必要となります。腎臓移植も選択肢の一つではありますが、他の方から腎臓の提供を受けなければならないため、現在の日本では多くの方が受けられる治療ではありません。
血液透析のためには、血管の手術を受ける必要があります。手術を行っている科は病院ごとに異なりますが、血管外科、泌尿器科、腎臓内科などが手術を行なっています。総合病院で、外科と腎臓内科が両方あるようなところでは、血管の手術を行えるところが多いでしょう。一部のクリニックでも日帰り手術で行っているところがあります。その上で、血液透析が行えるクリニックや病院に週3回(月水金、あるいは火木土)通院するというのが標準的な方法です。慢性腎臓病で低下した腎臓の機能は残念ながら回復が見込めないため、週3回、1回3-5時間ほどの通院を生涯続けることになります。したがって、通院先選びは極めて重要です。医療機関のスタッフ(医師や医師以外も)が信頼できることに加え、通いやすい立地にあるということも無視できません。午前午後の2枠で透析を行っているところや、朝昼晩の3枠で行っているところ、近所から送迎バスが出ているところなど様々な条件があります。ご自身の中で大切にしたい条件を考えた上で、いくつかの箇所を見学に行って決められるのが良いのではないかと思います。
腹膜透析の場合、手術を受けた上で、退院後はご自身で自宅で透析を行うことになります。正しい手順で行えないと体内に菌が入ったり、手術で挿入したカテーテル(体の内側と外側をつなぐ管)の交換が必要になってしまったりなどのリスクがあるため、身体的にも精神的にも、生活が自立している人でないと行うことができません。腎臓内科のある医療機関に入院の上で、手術を受けつつ、自宅での透析処理の方法や注意点をしっかりと習得した上で退院となります。腎臓専門医のいる病院を選択されるのが良いでしょう。中には腹膜透析に積極的に取り組んでいる病院もあります。