とうごうしっちょうしょう
統合失調症
幻覚・妄想・まとまりのない言葉や行動などを特徴とする病気。若い人に多く、全人口の1%近くが経験する。治療によって社会復帰できる場合も多い
16人の医師がチェック 192回の改訂 最終更新: 2024.02.19

統合失調症の薬物療法

統合失調症の治療に使われる薬は多種多様です。大きく分けて、第一世代と呼ばれる抗精神病薬と第二世代と呼ばれるものがありますが、使う順番が決まっているわけではなく、効果の出方や副作用を見ながら一人ひとりの患者さんに適したものが選ばれます。

このページでは、それぞれの治療薬について個別に説明します。

1. 統合失調症の治療で使われる「抗精神病薬」とは

統合失調症は感情や思考をまとめることが上手くできなくなってしまい、幻覚、妄想、会話や行動の障害、感情の障害、意欲の障害などの症状があらわれます。

幻覚や妄想などの症状を陽性症状と呼ぶことがありますが、この症状には神経伝達物質のドパミンが深く関わっているとされています。ドパミンが作用する受容体にはD1受容体やD2受容体など、いくつかのタイプ(種類)があります。特にD2受容体は統合失調症の病態に深く関係するとされ、抗精神病薬と呼ばれる薬の多くはこの受容体へ作用をあらわします。

統合失調症に使われる抗精神病薬は薬剤の開発時期により一般的に、「第一世代抗精神病薬(定型抗精神病薬)」と「第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)」に分けられます。

第一世代の抗精神病薬とは

第一世代(定型)の抗精神病薬は主に神経伝達物質ドパミンの働きを抑える薬で、ドパミンの関わりが深い陽性症状の顕著な改善が期待できます。その一方で、ドパミンの機能を過度に低下させる懸念があります。例えば、運動機能に関わるドパミン経路を抑えることで、手足がふるえるなどの錐体外路障害が生じたり、ホルモンバランスに関わるドパミン経路を抑えることで乳汁分泌や月経などに影響を及ぼすことが考えられます。

また統合失調症では、感情表現が乏しくなったり意欲の低下などの陰性症状と呼ばれる症状や記憶などの認知機能の障害があらわれる場合がありますが、これらは中脳皮質系ドパミン経路という部分の機能低下が深く関わっているとされています。定型抗精神病薬はこの部分のドパミンの機能をさらに低下させる懸念があり、陰性症状や認知機能障害を助長させる可能性もあります。

第二世代の抗精神病薬とは

第二世代(非定型)の抗精神病薬とは、一般的にドパミンへの作用だけでなく、神経伝達物質セロトニンへの作用などを併せもつ薬のことで、抗精神病薬で懸念となる錐体外路障害などの副作用の軽減や陰性症状や認知機能障害などへの効果も期待できるとされています。近年、いくつかのタイプの非定型抗精神病薬が登場し、病態にもよりますが特に初回治療などにおいては優先的に使われる薬になっています。

2. 初発や再発時に主な使う薬

初めて統合失調症と診断された人や、再発をした人には主に下記の薬が使われます。

初発や再発時に主な使う薬】

次に、これらの抗精神病薬に関して個々の特徴などを含めてみていきます。

第一世代抗精神病薬(定型抗精神病薬)について

従来型とも呼ばれ、主に神経伝達物質ドパミンの働きを抑えることで、統合失調症の陽性症状改善が期待できる薬です。ひとえに定型抗精神病薬といっても多くの薬剤があり、薬剤成分の化学構造の違いなどにより、フェノチアジン系、ブチロフェノン系、ベンズアミド系などといった種類に分けられます。

現在、統合失調症の治療においては、後述する第二世代(非定型)抗精神病薬が優先されることが多くなってきていますが、病態などによっては第一世代の薬が選択肢となることも考えられます。また薬剤によっては、例えば認知症の一部の症状改善に有用とされるなど、統合失調症以外の病態に使われることもあります。

1950年代に最初の抗精神病薬であるクロルプロマジン(主な商品名:ウインタミン®、コントミン®)が登場した後、1960年代に入り、フェノチアジン系薬剤のフルフェナジン(商品名:フルメジン®)、ブチロフェノン系薬剤のハロペリドール(主な商品名:セレネース®)などが登場し治療の選択肢が広がってきました。薬剤によっては、錠剤などの内服薬だけでなく注射剤の剤形(剤型)もあり、その中でも薬剤の効果が体内で持続するように造られた持効性注射剤(「Long acting injection」を略して「LAI(エルエーアイ)」などと呼ばれることもあります)が選択できる薬もあります。(持効性注射剤の例として、フルフェナジンにはフルデカシン®筋注、ハロペリドールにはネオペリドール®注があります)

◎第一世代抗精神病薬で注意すべき副作用とは

第一世代(定型)抗精神病薬の多くは、神経伝達物質ドパミンの働きをかなり抑えることができるため、ドパミンが深く関わるとされる陽性症状に対しては高い改善効果が期待できます。その一方で、ドパミンの機能が低下している中脳皮質系という部分にも抑制作用をあらわすことで、陰性症状の悪化や認知機能の障害などへの懸念が生じます。また、アカシジアや遅発性ジスキネジアなどの錐体外路障害、高熱や意識障害などの症状があらわれる悪性症候群、乳汁分泌の変動や月経障害、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群SIADH)、無顆粒球症などの副作用があらわれる可能性もあります。もちろん、個々の体質、薬剤の種類や用量などによっても副作用の頻度や度合いは異なってきますし、通常、これらを十分考慮した上で治療が行われますが、注意すべき副作用や使用方法などを事前に医師や薬剤師からしっかりと聞いておくことは非常に大切です。

◎色々な用途で使われる第一世代抗精神病薬

先ほども少しふれたように、現在、統合失調症の治療においては、その効果や副作用などの観点から第二世代(非定型)に分類される薬が一般的によく使われています。しかし、第一世代に分類される薬のいくつかは、統合失調症以外の病態でも有用となっています。

ハロペリドールやプロクロルペラジン(ノバミン®)などは「吐き気止め(制吐薬)」としても有用で、例えば、がん化学療法による吐き気を抑える薬として使われることも考えられます。スルピリド(主な商品名:ドグマチール®)は、統合失調症だけでなく胃・十二指腸潰瘍に対しても承認されている薬(ドグマチール®細粒など)で、消化器領域への有用性も考えられます。また、かなり限定的かもしれませんが、クロルプロマジンは、しゃっくり(吃逆)の治療に使われることも考えられます。しゃっくりに抗精神病薬?と思うかもしれませんが、しゃっくりを引き起こす中枢への抑制作用が期待できるとされ、実際に保険承認もされています。

その他、いくつかの抗精神病薬は認知症の症状改善に使われることもあります。特に認知症における興奮や幻覚などの過活動症状の改善には抗精神病薬が有用となることもあり、後述するクエチアピンなどの第二世代(非定型)の抗精神病薬も使われていますが、第一世代(定型)の中でもクロルプロマジンやプロペリシアジン(商品名:ニューレプチル®)などは治療の選択肢となることが考えられます。

第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)について

ドパミンだけでなくセロトニンなど統合失調症に関わるいくつかの神経伝達物質へ作用をあらわす薬で、一般的に第二世代抗精神病薬や非定型抗精神病薬と呼ばれています。ひとまとめに第二世代(非定型)といっても作用の仕組みなどによって様々なタイプがあります。

◎アゴニスト、アンタゴニストとは?

第二世代(非定型)抗精神病薬の解説では、「アゴニスト」や「アンタゴニスト」という薬の作用の仕方(種類)をあらわす言葉が出てきます。アゴニストとは、受容体に結合し生体内物質と同様の細胞内情報伝達を促す薬のことで「作動薬」や「刺激薬」などとも呼ばれます。一方、アンタゴニストとは受容体には結合するが、生体内物質と異なり生体反応はおこさず、またその結合によって本来結合すべき生体内物質と受容体の結合を阻害し生体応答反応を抑える薬のことで「阻害薬」、「遮断薬」、「拮抗薬」などとも呼ばれます。

第二世代抗精神病薬の詳細情報

■アリピプラゾール(主な商品名:エビリファイ®)

統合失調症の症状に深く関わる神経伝達物質ドパミンやセロトニンへの作用を併せ持つ薬です。ドパミン受容体部分アゴニスト(パーシャルアゴニスト)などと呼ばれることもあります。

「部分アゴニスト(部分作動薬)」とも呼ばれる理由は、ドパミンによる神経伝達が過剰な活動状態の場合にはドパミンによる神経伝達を遮断しますが、ドパミンによる神経伝達が低下している場合には部分的にドパミン受容体を活性させるという特徴をもつからです。

例えば、第一世代(定型)抗精神病薬の多くはドパミン受容体を不活性にすることで、仮に神経伝達の低下時であっても抑制がかかってしまうため、錐体外路障害などの副作用への懸念が大きくなります。一方、アリピプラゾールはドパミンによる神経伝達にブレーキをかけつつも完全には抑制せず、神経伝達の低下時では逆に適度にこの神経伝達を亢進させるため、副作用の軽減などが期待できます。

冒頭でも少しふれましたが、アリピプラゾールはドパミンのD2やD3受容体に対して部分アゴニストとして作用するだけでなく、陰性症状などに関わる神経伝達物質セロトニンの受容体への作用(5-HT1A部分アゴニスト作用、5-HT2A受容体アンタゴニスト作用)を併せもちます。セロトニンの作用のひとつに、ドパミンに対する抑制的な働きがありますが、アリピプラゾールはこのセロトニン神経系を調節することで、ドパミンの過度な抑制を防ぐような効果も期待できるとされています。また、セロトニンは、双極性障害やうつ(抑うつ)などの病態にも深く関わる神経伝達物質でもあり、アリピプラゾールはこれら疾患の治療に対しても有用とされています。実際に2012年に双極性障害、2013年にうつ病(うつ状態)に対して追加承認され、さらに2016年には「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」に対しても承認されています。

剤形(剤型)として錠剤(普通錠)の他、OD錠(口腔内崩壊錠)、散剤、液剤、注射剤があり、用途などにあわせた選択が可能です。このうち、注射剤(商品名:エビリファイ®持続性水懸筋注用)は薬剤の効果が体内で持続するように造られた製剤で、持効性注射剤を意味する「Long acting injection」を略して「LAI(エルエーアイ)」などと呼ばれることもあります。

アリピプラゾールで注意すべき副作用には不眠、神経過敏、不安、眠気などの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状、体重変動、肝機能障害などがあります。一般的に、ドパミンの過度な抑制による副作用へのリスクは定型抗精神病薬に比べれば少ないとされますが、アカシジア(じっとしていられない)やふるえなどの錐体外路症状、乳汁分泌ホルモンの分泌変動などに対しての注意は必要です。

また頻度はまれとはされますが、悪性症候群、遅発性ジスキネジアなどの抗精神病薬でほぼ共通するような副作用に対しても注意が必要です。

■ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ®)

日本では2018年に承認された薬で、アリピプラゾール(主な商品名:エビリファイ®)を含めた既存の抗精神病薬によりも安全性を高めるなどの目的で開発された経緯をもちます。

ブレクスピプラゾールの作用の仕組みはアリピプラゾールと類似点も多く、ドパミンD2受容体やセロトニン5-HT1A受容体への部分アゴニスト作用などをあらわします。

一般的にアリピプラゾールと比較した場合、本剤のほうがセロトニン系への作用が強められていて、ドパミンD2受容体への刺激作用は逆に弱められているという特徴があります。もちろん、薬剤の効果の度合いは個々の体質などによっても異なってくることがありますが、ブレクスピプラゾールはこの特徴により、統合失調症による陽性症状、陰性症状、認知機能障害の改善だけでなく、抗精神病薬を使う上での懸念となる体重増加、代謝障害(血糖変動など)、錐体外路症状(アカシジアなど)の軽減も期待できるとされています。

副作用の軽減が期待できるとはいえ、注意すべき副作用がゼロというわけではなく、不眠や眠気などの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状、アカシジアなどの錐体外路症状、高プロラクチン血症などの内分泌症状、悪性症候群、遅発性ジスキネジアなどアリピプラゾールやその他の抗精神病薬とほぼ共通するような副作用に対しての注意は必要です。

■オランザピン(主な商品名:ジプレキサ®)

日本では2001年に承認され、神経伝達物質ドパミンやセロトニンの受容体に作用することで統合失調症などの症状改善が期待できます。

非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)の多くは、ドパミンD2受容体やセロトニン5HT-2A受容体への作用により、陽性症状だけでなく陰性症状や認知機能障害に対しても改善が期待できますが、オランザピンはこの2つの受容体以外にも多くの受容体へ作用する薬です。具体的にはドパミンの受容体ではD2のほかD3やD4など、セロトニンの受容体では5-HT2Aのほか5-HT2B、5-HT2c、5-HT6などに対しての作用が考えられています。そのほかにもアドレナリンヒスタミンといった神経伝達物質への作用なども考えられていて、多くの受容体へ作用をあらわすため、MARTA(Multi-Acting

Receptor-Targeted Antipsychotic:多元受容体標的化抗精神病薬)という種類の薬に分類されることもあります。

オランザピンでは、大脳皮質前頭前野におけるドパミンやノルアドレナリンの遊離増加、グルタミン酸神経系の伝達障害の回復といった効果も期待できるとされ、これらはオランザピンの複数の受容体への相互作用によるものである可能性も示唆されています。またこれら複合的な作用をあらわすこともあり、オランザピンは統合失調症だけでなく、双極性障害における躁症状とうつ症状の双方に対して改善効果が期待できる薬にもなっています。

オランザピンで注意すべき副作用には、体重変動(主に体重増加)や倦怠感などの全身症状、眠気や不眠などの精神神経系症状、食欲亢進、便秘、口渇などの消化器症状などがあります。また頻度は比較的まれとされますが、代謝異常による脂質異常症や血糖変動(高血糖など)、肝機能障害、横紋筋融解症などへの注意も必要です。代謝異常の中でも血糖変動には特に注意が必要とされ、高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスなどへの懸念があるため、持病で糖尿病がある人にはオランザピンは原則として使用できません。このほか、アカシジアなどの錐体外路障害、悪性症候群などといった抗精神病薬で共通するような副作用に対しても注意が必要です。

オランザピンの剤形(剤型)には錠剤(普通錠)の他、ザイディス錠(口腔内崩壊錠)、散剤(細粒剤)、注射剤があり用途などに合わせた選択が可能です。

◎「吐き気止め」としても使われるオランザピン

オランザピンは「吐き気止め(制吐薬)」としても有用で、特に抗がん剤(抗悪性腫瘍剤)による吐き気を抑える目的で使われることがあります。詳しくは割愛しますが、抗がん剤に含まれる化学物質が脳の嘔吐中枢に刺激を与えることで、悪心(おしん:ムカムカ感)や嘔吐といった症状を引き起こすことがあり、このような消化器症状に対して抗不安薬や抗精神病薬などの精神神経系に作用する薬が有用となることがあります。オランザピンもそのひとつで、実際に2017年には「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)」に対しても追加承認されています。

■クエチアピン(主な商品名:セロクエル®)

クエチアピン(クエチアピンフマル酸塩)は、日本では2004年に承認された抗精神病薬で、ドパミンD2受容体やセロトニン5HT-2A受容体をはじめとし複数の受容体へ作用をあらわすため、MARTA(Multi-Acting

Receptor-Targeted Antipsychotic:多元受容体標的化抗精神病薬)という種類の薬に分類されることもあります。

ドパミンやセロトニンの受容体へ作用する他、ヒスタミンH1受容体やアドレナリンα1受容体などへの作用をあらわし、陽性症状・陰性症状の双方の改善効果が期待できるとされています。また、ドパミンD2受容体よりもセロトニン5-HT2A受容体へより作用しやすいなどの特徴から、多くの抗精神病薬で懸念となる錐体外路障害が比較的あらわれにくいとされています。

クエチアピンで注意すべき副作用には、眠気や不眠などの精神神経系症状、高血糖や低血糖などの代謝異常、便秘や食欲亢進などの消化器症状、白血球減少などの血液症状、肝機能障害などがあります。オランザピンと同様、高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスなどへのリスクから持病で糖尿病がある人には原則、使用できません。また、先ほど少しふれましたがアカシジアなどの錐体外路障害に対しては懸念が少ないとはいえ注意は必要です。この他、頻度は非常にまれとされていますが注意すべき副作用として悪性症候群、重度の皮膚症状(中毒性表皮皮膚壊死融解症など)、横紋筋融解症、痙攣などがあります。

クエチアピンには剤形(剤型)として、錠剤(普通錠)と散剤があります。また薬の成分が体内で徐々に効果をあらわすよう工夫を施し、「1日1回」の投与を目的とした徐放性製剤もあります。こちらの徐放性製剤(商品名:ビプレッソ®徐放錠)は「双極性障害におけるうつ症状の改善」の薬として2017年に承認されています。

認知症の症状改善などにも使われるクエチアピン

超高齢社会が現実のものになってきている日本において、認知症患者の増加は医療の分野だけに止まらず社会全体の大きな課題となってきています。認知症の症状には、記憶障害などの中核症状の他に、周辺症状(BPSD)という行動や心理の症状があります。周辺症状の中でも夜間せん妄、幻覚、妄想、不安、焦燥などの陽性症状(過活動性症状)は、しばしば本人だけでなく家族や医療・介護従事者などの介助負担の一因になります。

周辺症状に対しては心理的アプローチなどの非薬物療法も用いられますが、効果が不十分な場合にはクエチアピンをはじめ、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾールなどの抗精神病薬が使われることもあります。

認知症の周辺症状における、せん妄、幻覚、妄想などといった症状は、統合失調症の症状と類似点が多いことからも、抗精神病薬によってこれらの改善が期待できることが考えられます。中でもクエチアピンは鎮静・催眠効果なども期待できることから、主に就寝前(寝る前)などに服用することでBPSDや睡眠などの改善に用いられています。なお、認知症のBPSDに対してクエチアピンなどの抗精神病薬を使う場合には、治療対象の多くが高齢者であるのに加え錐体外路障害などの副作用へのリスクが高いことなどを十分考慮し、一般的に統合失調症で用いられる用量よりもかなり少ない用量で使われています。

■アセナピン(商品名:シクレスト®)

日本では2016年に承認された非定型抗精神病薬で、オランザピンやクエチアピンなどのように神経伝達物質のドパミンやセロトニンの多くの受容体へ作用をあらわす薬(MARTA:多元受容体標的化抗精神病薬)のひとつです。

作用の仕組みを少し詳しくみていくと、ドパミンD2受容体やセロトニン5-HT2A受容体への拮抗作用の他、他のドパミンの受容体(D1、D3)や他のセロトニンの受容体(5-HT1A、5-HT1B、5-HT2B、5-HT2C、5-HT6、5-HT7)、交感神経アドレナリン受容体(α1、α2)、ヒスタミン受容体(H1、H2)などへ作用をあらわすとされています。これら多様な作用により、統合失調症における妄想や幻覚などの陽性症状だけでなく、情動的引きこもり、情動の平板化、不安、うつ(抑うつ)などの症状の改善も期待できるとされています。また、日本では現在(2019年4月時点)、統合失調症の治療薬として保険承認されていますが、米国などの海外では双極性障害の治療薬としても認可されていて、双方の病態に対する有用性なども考えられています。

アセナピンで注意すべき副作用には、眠気やめまいなどの精神神経系症状、口の感覚の鈍磨や口腔内の不快感、便秘や吐き気などの消化器症状、高血糖や低血糖などの代謝異常、白血球減少などの血液症状、肝機能障害などがあります。またアカシジアや遅発性ジスキネジアなどの錐体外路障害、悪性症候群などといった抗精神病薬でほぼ共通するような副作用に対しても注意が必要です。

アセナピン製剤のシクレスト®は、通常の錠剤とは異なり薬剤成分が舌下(口腔粘膜)から吸収されるように造られている薬剤(舌下錠)です。これは普通に飲んだ際の薬剤成分の消化管からの吸収度合いや血液中への移行度合いが比較的低いなどといった特徴を考慮したもので、より効果的に成分が血液中に移行するように舌下の口腔粘膜から吸収させるという投与方法が採用されている製剤です。そのため、通常の錠剤のように飲み込まないようにする注意が必要であることに加え、水なしで投与(舌下投与)した後、10分間は飲食を避ける必要もあります。副作用だけでなく、服用方法(舌下投与)に関しての注意なども含めて事前に医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておくことがとても大切です。

■ペロスピロン(主な商品名:ルーラン®)

日本では2000年に承認された薬で、主にドパミンD2受容体への拮抗作用とセロトニン5-HT2受容体への拮抗作用により、統合失調症における陽性症状と陰性症状の両方に改善効果が期待できる薬です。

ペロスピロンの作用の仕組みを少し詳しくみていくと、D2受容体に対してはハロペリドールやリスペリドンなどに近い薬理作用をあらわすとされています。また5-HT2受容体への作用による陰性症状の改善効果が期待できることや、錐体外路系の副作用や中枢抑制作用が比較的緩徐でこれにより副作用の軽減が期待できることからも統合失調症治療への有用性が考えられます。

副作用の軽減が期待できるといっても注意は必要で、眠気や不眠などの精神神経系症状、便秘や吐き気などの消化器症状、血糖変動などの代謝異常、プロラクチン上昇や月経異常などの内分泌症状、頻脈などの循環器症状などがあります。また錐体外路系への懸念が比較的少ないながらも、アカシジアや遅発性ジスキネジアなどの錐体外路障害があらわれることは考えられ、悪性症候群などの抗精神病薬でほぼ共通となるような副作用と合わせて注意は必要です。

■ブロナンセリン(主な商品名:ロナセン®)

日本では2008年に承認された薬で、ドパミンD2受容体及びセロトニン5-HT2A受容体への拮抗作用をあらわしつつ、錐体外路障害などの副作用軽減を目指して開発された薬です。

ブロナンセリンはD2受容体と5-HT2A受容体以外の受容体への影響がかなり少ないという特徴があり、この二つ以外の受容体(アドレナリンα1、ヒスタミンH1など)へも比較的作用しやすいリスペリドンやオランザピンなどの抗精神病薬に比べると作用の仕組みはシンプルともいえます。

このような特徴もあって、リスペリドンなどに並ぶくらいの陽性症状改善効果に加え、陰性症状改善効果や認知機能障害の改善効果なども考えられる薬とされています。また個々の体質や薬の用量などにもよりますが、錐体外路障害や過鎮静、高プロラクチン血症、体重増加、起立性低血圧などの副作用軽減も期待できるとされています。もちろん、副作用の軽減が期待できるとはいえ注意は必要です。また比較的食事の影響を受けやすい薬剤でもあり、空腹時に服用すると、食後服用と比べて薬剤成分の吸収が低下する可能性があります。副作用だけでなく食事の有無と服用時の注意なども含め、事前に医師や薬剤師からしっかり説明を聞いておくことが大切です。
また、内服薬以外に貼り薬もあるので、食事摂取ができない人や、口から薬を飲むことができない人でも使えます。

■リスペリドン(主な商品名:リスパダール®)

主にドパミンD2受容体とセロトニン5-HT2受容体に対して拮抗作用をあらわす薬で、その作用の仕組みからセロトニン・ドパミン・アンタゴニスト(SDA)という種類に分類されています。

統合失調症における幻覚や妄想などの陽性症状だけでなく、引きこもりや情動鈍磨などの陰性症状の改善も期待できるとされています。薬剤成分の血液中への移行や効果発現が比較的はやいという特徴もあり、特によりはやく吸収されやすい傾向にある液剤(主な商品名:リスパダール内用液)は不穏時などに使う頓服薬としても有用です。

統合失調症だけでなく、他の抗精神病薬同様、認知症の周辺症状(BPSD)の改善に使われる場合もあります。また錠剤などの内服薬は、2016年には「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」の治療に対しても保険承認され、多くの病態で使われる薬になっています。

リスペリドンで注意すべき副作用には、不眠症、震え、眠気などの精神神経系症状、便秘や吐き気などの消化器症状、頻脈や血圧変動などの循環器症状、肝機能障害などがあります。

また、アカシジアや遅発性ジスキネジアなどの錐体外路障害、悪性症候群、高プロラクチン血症などといった抗精神病薬でほぼ共通するような副作用に対しても注意が必要です。

リスペリドンは剤形(剤型)として錠剤(普通錠)の他、口腔内崩壊錠(OD錠)、散剤(細粒剤)、液剤があり用途などに合わせた選択が可能です。

また、リスペリドンには注射剤(商品名:リスパダール コンスタ®筋注用)の剤形があり、こちらは通常、2週間に1回筋肉内へ投与するタイプ(持効性注射剤を意味する「Long acting injection」を略したLAI(エルエーアイ)やデポ剤などと呼ばれることもあります)で、病態などによっては選択が可能です。

■パリペリドン

パリペリドンは、日本では2010年に承認された薬で、その名称(成分名)からもわかるようにリスペリドンを元に開発された薬でもあります。作用の仕組みや特徴を少し詳しくみていくと、パリペリドン自体はリスペリドンが体内で代謝により変換される主要な活性代謝物(9- ヒドロキシリスペリドン)であり、ドパミンD2受容体への強い拮抗作用により統合失調症の陽性症状への改善効果に加え、セロトニン5-HT2A受容体への拮抗作用により陰性症状に対しても効果が期待できるとされています。

また、パリペリドン製剤であるインヴェガ®錠は、パリペリドン自体の効果の持続性に加え、24時間にわたり血中濃度が安定するように造られている製剤のため、1日1回の服用が可能です。

パリペリドンで注意すべき副作用は、血中プロラクチン増加(高プロラクチン血症)、体重変動、中性脂肪コレステロール値増加、血糖値の変動などの代謝異常、便秘や吐き気などの消化器症状、体重変動や倦怠感などの全身症状、肝機能障害などです。また、アカシジアや遅発性ジスキネジアなどの錐体外路障害、悪性症候群など抗精神病薬でほぼ共通するような副作用に対しても注意が必要です。

リスペリドン同様、パリペリドンにも持効性注射剤(LAIなどとも呼ばれる)(商品名:ゼプリオン®水懸筋注、ゼプリオン®TRI水懸筋注)の剤形があり、病態などによっては選択が可能です。

3. 治りづらい統合失調症に使う薬

上記の薬を使っても効果が十分に現れない時には次のような治療薬が使われます。

【治りづらい統合失調症に使う薬】

それぞれの治療薬について詳しく説明します。

■クロザピン(商品名:クロザリル®)

クロザピンは日本では2009年に統合失調症の治療薬として承認され、リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどと共に一般的には第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)に分類される薬のひとつです。

多くの抗精神病薬がドパミンD2受容体への抑制作用を主な作用としているのに対して、クロザピンはD2受容体へはほとんど関わらず、脳の中脳辺縁系への選択的抑制作用によって統合失調症における陽性症状を改善するとされています。またセロトニン5-HT2A受容体へは深く関わりこの受容体の阻害作用によって陰性症状の改善も期待できます。この他、ドパミンD4受容体、ムスカリンM1受容体、ヒスタミンH1受容体に対する作用も確認されています。

このような特徴などもあってクロザピンは、統合失調症の中でも、他の抗精神病薬で効果不十分となるような治療抵抗性の統合失調症に対する有用な選択肢となっています。

クロザピンで注意すべき副作用には、眠気やめまいなどの精神神経系症状、吐き気や便秘などの消化器症状、頻脈や心筋炎などの循環器症状、血糖変動や体重変動などの代謝異常、悪性症候群、肝機能障害などです。D2受容体への関わりがかなり少ないという特徴などもあり、多くの抗精神病薬で懸念となる錐体外路障害へのリスクは比較的少ないとされています。

一方で特に注意すべき副作用として、無顆粒球症や白血球減少症などの血液症状が引き起こされる可能性があります。無顆粒球症が引き起こされると、免疫機構に非常に重要な役割を果たしている好中球が著しく減少することで、細菌などに対する抵抗力が弱い状態となり、重篤な感染症などが引き起こされる場合も考えられます。通常、クロザピンを使用する場合には、その効果や副作用を十分考慮するだけでなく、定期的な血液検査(白血球数や好中球数など)の実施といった対策がとられたうえで治療が行われますが注意は必要です。突然の高熱、寒気、喉の痛みなどの症状は無顆粒球症などの初期症状であることが考えられるため、これらの症状があらわれた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処することがとても大切です。

■ラモトリギン(主な商品名:ラミクタール®)

ラモトリギンは、もともと抗てんかん薬として承認された薬で、てんかん発作の中でも主に部分発作や強直間代発作などの全般発作における治療の選択肢になっている他、幼児期から小児期に発症する難治性てんかんのひとつであるレノックスガストー(Lennox-Gastaut)症候群の治療に対しても保険承認されています。

ラモトリギンは、主に脳内で興奮性のシグナルとなるナトリウム(Na)イオンの通り道であるNaチャネルを阻害することなどによって神経膜を安定化させ、グルタミン酸などの興奮性の神経伝達物質の遊離を抑えることで抗けいれん作用などをあらわすと考えられています。

てんかんだけでなく双極性障害における過活動(躁状態)の抑制への有用性も考えられ、実際に日本では2011年に「双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制」に対して追加承認されています。また、脳内のグルタミン酸系の神経伝達は統合失調症の病態に関わっているという可能性も考えられていることから、他の治療で効果が不十分となるような治療抵抗性の統合失調症に対する有用性なども考えられています。

ラモトリギンで注意すべき副作用には、頭痛や眠気などの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状、複視(ものが二重に見える)などの眼症状、肝機能障害などがあります。また発疹などの皮膚症状があらわれる場合もあり、頻度は非常にまれとされていますが、重度な皮膚症状(中毒性皮膚壊死融解症や皮膚粘膜眼症候群など)を引き起こす可能性も考えられ注意が必要で、もしもなんらかの皮膚症状がみられた場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処することが大切です。

ラモトリギンは他のいくつかの薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要で、特にてんかん双極性障害などの治療薬として使われるバルプロ酸ナトリウム(主な商品名:デパケン®、セレニカ®)とラモトリギンを併用する場合には、用量・用法などの調節が必要になります。また、統合失調症治療薬のリスペリドン(主な商品名:リスパダール®)とラモトリギンを併用した際、それぞれを単独で使用した時に比べて眠気(傾眠)が多かったという報告もあり注意が必要です。