統合失調症の症状について
統合失調症の症状は時間の経過とともに変化するという特徴があります。幻覚や妄想で激しい症状が出る時期もあれば、感情や意欲を失ったように見える時期もあります。このページでは症状の変化や、一つひとつの症状について説明します。
目次
1. 統合失調症の症状は時間の経過とともに変化する
統合失調症の症状は時間の経過とともに変化することが多く、症状の程度も変わっていきます。症状の変化に注目することで、統合失調症は次の4つの段階に分けることができます。
【統合
- 前駆期
- 急性期
- 回復期
- 安定期
4つの段階に特徴的な症状を中心に説明していきます。
なお、「急性期」や「回復期」の説明で登場する陽性症状と陰性症状はこの後詳しく説明します。先に知りたい人は、「2.統合失調症の陽性症状について 」、「3. 統合失調症の陰性症状について」から読んでも構いません。
前駆期の症状
前駆期では「落ち着きのなさ」「気分の落ち込み」「不安」といった症状が現れます。これらは誰でも経験しうる症状であり、程度も軽微であるためか、前駆期で受診をする人は多くはありません。また、受診したとしても、症状の原因が統合失調症と特定されづらいです。前駆期は2年から3年に及ぶことが多く、その後急性期と呼ばれる段階に進行します。
急性期の症状
急性期では主に「幻覚」「妄想」「自我障害」などの陽性症状が現れます。前駆期と比べて症状が激しく、ピークに達するまでの時間が短いことが特徴です。急性期の人は、不安や恐怖を過度に感じて周りの人とのコミュニケーションがうまくとれないことが多いです。
回復期の症状
回復期を迎えると、陽性症状が薄れていき陰性症状が主体になります。幻覚や妄想も見られることがありますが、急性期とは異なり不安や恐怖などの感情反応をともなうことはほとんどありません。「感覚の鈍麻・平板化」「意欲の減退」「会話量の減少」といった陰性症状が主体になるので、穏やかに見える人もいます。回復期にあるということは病状が良くなっていることを示しますが、ちょっとした刺激で急性期に戻ってしまうので、治療は続ける必要があります。
安定期の症状
安定期は症状がほとんど目立たなくなっており、社会復帰できる一歩手前の状態です。回復期より可能性は低くなってはいるものの、急性期に逆戻りすることがあるので、ストレスを最小限にし状態の安定化を図ります。また、安定期は社会復帰に向けた準備を進める時期でもあります。薬物療法に加えて、精神科リハビリテーションによって、実際に社会に戻ったときを想定した訓練が行われます。
2. 統合失調症の陽性症状について:幻覚・妄想・自我障害
陽性症状は統合失調症の急性期に主にみられるものです。その症状は多様ですが、主に次のものがあります。
【主な陽性症状】
- 幻覚
- 妄想
- 自我障害
- 思考過程・会話の障害
- 意欲・行動の障害
それぞれの症状について説明します。
幻覚
現実には存在しないものをあるように感じることを幻覚といいます。幻覚には幻聴(存在しない音や声が聞こえる)、
妄想
誤った考えや意味づけに異常な確信をもち、訂正ができない状態を妄想と言います。周囲のささいな出来事や他人の身振り・言葉を自分と関係づけしてしまう「関係妄想」が統合失調症の人に特徴的です。具体的には、「自分の悪口を言っている」「見張られている」「だまされている」といったネガティブな内容が多いです。これらの妄想によって、強い不安や恐怖を感じコミュニケーションに支障が表れます。
自我障害
自分と外の世界との境界がはっきりしなくなり、自分の考えや行動が誰かに支配されているように感じます。具体的には、自分の考えが他人に伝わったり(思考伝播)、考えを抜きとられたりしている(思考奪取)ように感じます。また、他人に操られているような感覚(させられ体験)を覚えます。
思考過程・会話の障害
思考や会話のまとまりがなくなり、言っている内容が周りの人に伝わりにくくなります。次から次に話題が飛んだり、つじつまが合わないことを言ったりするようになります。症状がひどくなると、思考が支離滅裂になり、発言がただ言葉を羅列したもの(言葉のサラダ)となり、周りの人はまったく理解できなくなります。対照的に、思考の流れが突然止まってしまうこと(思考途絶)もあります。
意欲・行動の障害
興奮して大声で叫んだり、反対に周りからの刺激に対する反応がなくなること(緊張病症候群)があります。また、不必要に同じ姿勢を取り続けること(
3. 統合失調症の陰性症状について
統合失調症の陰性症状は主に回復期に見られるもので、具体的には次のものが含まれています。
【主な陰性症状】
- 感覚の鈍麻・平板化
- 意欲の減退
- 思考の貧困:会話の量が減る、会話の内容がない
専門的な用語も交じっているので個別に説明していきます。
感覚の鈍麻・平板化:感情表現が乏しくなること
生き生きとした感情が失われ、喜怒哀楽を適切に表現できなくなります。例えば、他人と視線を合わせなくなり、表情の動きや身ぶりからのその人の感情が伝わってこなくなり、外界への関心が失われます。このような状態を感覚鈍麻・平板化と言います。
意欲の減退
ものごとに対する意欲の低下のために、行動を始めたり、持続することができなくなります。具体的には、学校の勉強や仕事に対して意欲や気力がわかず、関心を示さなくなります。また、行えたとしても、集中力が低下しているために一度にたくさんのことに対処するのが困難になります。
思考の貧困化:会話の量が減る、会話の内容がない
考える力が低下し、会話の量が減ったり、会話の内容が希薄になります。話しかけられても、返事がそっけなかったり、ぶつ切れになります。症状がひどいときには答えること自体ができなくなります。
4. その他の統合失調症の症状について:認知機能障害、不眠(睡眠障害)
陽性症状と陰性症状は統合失調症の主な症状ですが、他にも見られる症状があります。ここでは、その他の症状として「認知機能障害」と「不眠症」について説明します。
認知機能障害
認知機能とは理解・判断・論理などの知的な活動を司る力のことを指します。認知機能に障害が起こると主に次のような症状が現れます。
【主な認知機能障害】
- 記憶障害:物忘れ
- 実行機能障害:道筋をたてて行動ができなくなる
- 見当識障害:場所や時間を把握できなくなる
統合失調症による認知機能障害は軽度であるとされますが、日常生活への影響が大きいので、どの程度の力が維持されているかが社会復帰の際には重要になります。認知機能の低下に対してはリハビリテーションが行われ、機能の維持と回復が図られます。認知機能障害についての詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。
睡眠障害(不眠症)
睡眠障害は主に急性期に見られますが、症状が落ち着いている時期(安定期)にも見られることがあります。具体的には次のような症状が現れます。
【主な睡眠障害】
- 寝付きが悪い:入眠障害
- 睡眠中に目が覚める:中途覚醒
- ぐっすりと眠った感じがしない:熟睡障害
統合失調症の治療薬である「
参考文献
・尾崎紀夫, 他 / 編, 「標準精神科医学」, 医学書院, 2018