狭心症が疑われたときに行われる検査
狭心症が疑われたときにはすぐさまいろいろな検査を行います。
目次
1. 狭心症の検査の目的
狭心症の検査には多くの種類があります。目的は大きく分けて次の2つです。
- 狭心症になっているのかどうか
- 狭心症の重症度はどの程度か
狭心症が疑われたとき、多くの場合で胸痛などの症状が出ています。一方で、胸痛が起こる病気は他にもたくさんあるので、胸痛が狭心症によるものか他の病気によるものかを検査で調べる必要があります。これは胸痛以外の症状でも同じです。
狭心症は進行すると心筋梗塞に至り致命的になります。そのため、狭心症がどの程度重症なのかを素早く調べて、最適な治療をできるだけ迅速に行わなければなりません。そこで次のような検査がしばしば行われます。
問診 - 身体診察
心電図検査 - 心臓エコー検査
- 画像検査
- 心臓カテーテル検査
- 血液検査
- 運動負荷試験
次に各検査について詳しく説明していきます。
2. 問診
問診とは身体状況や生活背景を聞かれることを指します。身体の診察を行う前に問診で尋ねられることが多いです。狭心症を診断する際には問診が重要になります。
具体的には次のようなことを聞かれます。
- 症状が出るまでにどういった生活をしていたか
- 症状が出るまでにどういった薬を飲んでいたか
- 喫煙をどの程度するか
- 飲酒をどの程度するか
- 何か持病はあるか
- 薬を飲んでいるか
- 家族に似たような症状の人はいるか
アレルギー はあるか- 初めての症状か
- 症状の特徴をどう表現するか
- 症状は一定か、よくなったり悪くなったりするか
- どういったタイミングで症状は変化するか
- 妊娠しているか
これらは狭心症の有無やその状況を探るうえで重要な判断材料です。また、問診は治療方針を決めるためにも役立ちます。持病のある人や妊娠している人は、注意しなくてはならない点や使用してはならない薬がありますので必ず医療者に伝えるようにして下さい。
持病の有無
狭心症に関連する病気はいくつか存在します。そのため以前から分かっている病気(持病)がある場合には必ず伝えてください。気をつけるべき病気の中で代表的なものを次に示します。
これらは心筋梗塞を起こしやすい病気です。しかし、これらの病気に該当するかどうかにかかわらず、持病がある場合には治療方針が変わることがあるので、申告するようにしてください。
常用薬の有無
常用薬の影響によって狭心症の治療法を調整しなければいけないことがあります。そのため常用薬がある場合には問診で答えるようにして下さい。
特に注意して欲しいのは以下の薬です。
- 降圧薬:硝酸薬(アイトロール®、ニトロール®など)
- 降圧薬:βブロッカー(インデラル®、テノーミン®など)
- 降圧薬:カルシウムチャネルブロッカー(ヘルベッサー®、ワソラン®)
- 降圧薬:アンギオテンシン変換
酵素 阻害薬(ACE阻害薬)(レニベース®など) - 降圧薬:アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)(アジルバ®、ブロプレス®など)
- 脂質異常改善薬:スタチン製剤(リピトール®、クレストール®など)
- 抗
血栓 剤:抗血小板薬 (バイアスピリン®、プラビックス®など) - 抗血栓剤:
抗凝固薬 (ワーファリン、エリキュース®など)
これらの薬を飲んでいる場合には必ず問診で教えてください。ただし、症状がつらかったり緊張したりして薬の内容を伝えるのが難しいこともあります。持病がある場合にはお薬手帳を常に携帯し、受診時に見せるようにしてください。
自覚症状の有無
症状から状況を推測することができるので、どんな症状を感じているのかはとても大事な情報です。狭心症では胸痛や胸部違和感が有名な症状ですが、他にその進行度などによってさまざまな症状が出現します。
- 胸痛
- 胸部の違和感
- 腕や肩の痛み
動悸 (どうき)倦怠感 - 食欲低下
- 四肢冷感(手足の冷え)
チアノーゼ (唇や皮膚が青くなること)- 息切れ、息苦しさ
浮腫 み(むくみ )- 意識もうろう
これらは狭心症で起こりうる代表的な症状です。一方で、狭心症が起こっても症状の自覚がないこともあります。いずれにせよ、問診時に自身の状況を必ず伝えてください。
症状の出現した時期と進行スピード
どんな症状がいつ出現して、その症状は悪化しているのかについて把握することはとても大切です。例えば「強い胸痛が出現するが数分で消える」とか「半年前から胸痛を自覚することはあるが、悪化はしていない」といった具合に、自分の症状を伝えるようにしてください。
3. 身体診察
身体診察は病気の状況やその影響を受けている身体の状況を客観的に評価する行為です。狭心症の影響がどの程度身体に出ているのかも調べることができます。
次のような行為が身体診察に含まれます。
バイタルサインのチェック
医療現場では「
- 意識の程度
- 脈拍数
- 血圧
- 呼吸数
- 酸素飽和度(血液中に含むことのできる酸素の最大量に対する実際に含まれている酸素の割合)
- 体温
例えば、脈拍数が増えていても、それが体温上昇によって起こっているのか、
このようにバイタルサインは一つの数字だけを見て判断するのではなく、さまざまな要素から総合的に判断します。
視診
視診とは身体の様子を見た目で判断するものです。明らかな変化のあるものは見ただけで判断することができます。
例えば、狭心症を疑う胸痛があったとしても、胸をよく見ると肋間に沿って
このように、視診は診断に直結することがあるためとても大切です。
聴診:心音
心臓は定期的に鼓動を打っているのでくり返し同じ動きをします。
聴診器を使うことで聞こえる心臓の音はⅠ音からⅣ音までの4種類に大別できます。Ⅲ音とⅣ音は過剰心音と言い、通常は聞かれないことがほとんどです。
心音の基本は次の2つです。
- Ⅰ音
- 心室の収縮が始まるタイミングに
僧帽弁 (左心室 と左心房 の間にある逆流防止弁)や三尖弁 (右心室 と右心房 の間にある逆流防止弁)が閉じることで起こる音
- 心室の収縮が始まるタイミングに
- Ⅱ音
- 心室の拡張が始まるタイミングに
大動脈 弁(左心室と大動脈の間にある逆流防止弁)や肺動脈 弁(右心室と肺動脈の間にある逆流防止弁)が閉じることで起こる音
- 心室の拡張が始まるタイミングに
また、特殊な状況になると次の2つの心音が聞かれるようになります。
- Ⅲ音
- 心室が拡張する初期に血液が充満することで起こる音
- Ⅳ音
- 心室が拡張する末期に、心房がさらに血液を心室に押し込むことで起こる音
狭心症が進行して急性心不全が起こると、Ⅲ音が聞かれます。通常であればⅢ音は聞かれませんが、心不全などになると馬の足音のようなⅢ音(ギャロップ音)が聞かれるようになります。
また、心雑音と呼ばれる特殊な音の有無を確認することも非常に重要です。心雑音は心臓が収縮するときに起こる雑音(Ⅰ音とⅡ音の間)と心臓が拡張するときに起こる雑音(Ⅱ音とⅠ音の間)の2種類に分けられます。心雑音は逆流防止弁の不具合(弁膜症)や心臓の壁の不具合(中隔欠損)などを表します。
狭心症が進行して心筋梗塞に至ると急に弁膜症を起こすことがあります。今まで心雑音の指摘を受けたことがない人に突然心雑音が現れたときは要注意です。
聴診:呼吸音
心筋梗塞によって急性心不全になると通常存在しない呼吸音が聞こえることがあります。ラッセル音(ラ音)と呼ばれる副雑音の中でも、水泡音(coarse crackle、コースクラックル)と笛音(wheeze、ウィーズ)が聞かれることが多いです。
狭心症でラ音が聞かれることはあまりありませんが、心不全や肺水腫などでしばしば聞かれます。したがって、胸痛が狭心症によるものなのかあるいは他の病気によるものなのかを判断するときに、呼吸音の聴診は有用です。
4. 心電図検査
全身に血液を送る心臓は、微細な電気信号によって規則正しく動いています。心電図検査ではこの電気信号の大きさや向きを調べます。
手足や胸に微細な電気をキャッチする装置を装着して検査を行います。電気を流すわけではないので全く痛みは発生しません。通常の心電図検査であれば横になって安静にしているだけで測定が完了します。その他に、身体に装着して日常生活を送るタイプ(
12誘導心電図
この測定方法を行うと、次の12通りの方向から心臓の電気信号が測定でき、その電気信号を波形にして表すことができます。
- 第Ⅰ誘導
- 左心室の横の壁(側壁)の方向から電気信号を確認する
- 第Ⅱ誘導
- 心臓の先端(心尖部)の方向から電気信号を確認する
- 第Ⅲ誘導
- 右心室の横の壁(側壁)や左心室の背中側の壁(後壁)の方向から電気信号を確認する
- aVR誘導
- 右肩の方向から心臓の電気信号を確認する
- aVL誘導
- 左肩の方向から心臓の電気信号を確認する
- aVF誘導
- 足の方向から心臓の電気信号を確認する
- V1誘導
- 右心室の前側やや側方から心臓の電気信号を確認する
- V2誘導
- 左心室や右心室の前側の壁(前壁)の方向から電気信号を確認する
- V3誘導
- 右心室と左心室の間の壁(心室中隔)の方向から電気信号を確認する
- V4誘導
- 右心室と左心室の間の壁(心室中隔)の方向から電気信号を確認する
- V5誘導
- 左心室の前壁や側壁の方向から電気信号を確認する
- V6誘導
- 左心室の側壁の方向から電気信号を確認する
これらをよく見ると心臓を上下左右のあらゆるポイントから観察していることがわかります。心臓をあらゆる方向から確認することで、心臓の電気信号の変化をチェックできます。
ここで、人体は個人個人で形や位置が多少異なる点に注意が必要です。そのため、少し心電図の波形がいつもと違っても、本当に病気があるのかそれとも個人差なのかについて考えなければなりません。病気の有無についての判断は医者が行いますが、心電図に異常があると言われた人は何が原因なのかについて質問して確認するようにしてください。
ホルター心電図
ホルター心電図とは24時間測定できる心電図のことです。心臓の電流を感知する装置を身体に貼ったまま生活します。腰につけたり肩にぶら下げたりしながら生活しなくてはならないので邪魔だと感じる人はいるでしょう。
一方で、24時間心臓を観察できるため大きなメリットがあります。常に胸の症状はないけれどまれに症状が起こるという人の心電図を24時間監視することができます。つまり、たまに症状を感じる人の原因を調べるのに適している検査になります。
特に一過性不整脈と呼ばれる、突然出現していつの間にか消失するタイプの不整脈には効果的です。数分間心電図を測定するくらいでは異常があっても気付けない場合もあります。自覚症状と12誘導心電図の結果が乖離している人にはホルター心電図が勧められます。
狭心症は運動などの心臓の負担がかかるタイミングで心電図に変化が起こることがあるため、12誘導心電図でわからないものがホルター心電図でわかるということがあります。そのため、狭心症が疑われた場合にホルター心電図を行うことがあります。
運動負荷心電図
運動負荷心電図は、運動(トレッドミル:ウォーキングマシン運動、エルゴメーター:自転車運動)をしながら測定する心電図検査です。狭心症や不整脈などは運動して心臓に負担がかかると出現することがあります。そうした病気が疑われるときに運動負荷心電図は行われます。
一方で、運動負荷を行うことで心臓の状態が一気に悪くなって倒れてしまうようなこともあるので注意が必要です。特に心筋梗塞が起こっている場合では心機能が低下しているので、運動負荷をかけると多くは状況が悪化します。そのため、よほど状況が許さない限り心筋梗塞が疑われている人に運動負荷心電図検査を行うことはありません。もし、行う場合は自分の病名が何なのかを主治医に聞いてみてください。検査中に気持ち悪くなったり意識が飛びそうになったりした場合には、近くにいる医療者に声をかけてください。
5. 心臓エコー検査
心臓は肺で酸素を取り入れた血液を全身に送るとても大事な役割を担っています。心臓の機能が破綻することなく定期的に動くことで全身の機能が保たれています。
心臓エコー検査では、
エコーを使ってどんなことをするのか
エコー検査を行う場合には特別な医療器具を用います。この器具は大きなものから小さなものまでありますが、基本的に持ち運びが可能です。また、超音波を出す小さな装置(探触子、プローブ)があり、これを胸の外からあてることで心臓を見ることができます。
心臓エコー検査で見ることができるのは具体的に次のことです。
- 心臓の動き
- 心臓の大きさや形
- 心臓にある弁
- 心臓内の異物
- 血液の流れ
心臓エコー検査の大きな利点は、これらがたった今どうなっているのかをタイムリーに観察できることです。また、痛みや事態への悪影響がないこともエコー検査の特徴です。
しかし、エコー検査にも弱点があります。骨などの密度の非常に高いものや空気のように密度の非常に低いものを観察しようとしても、うまく観察できません。また、こうした適していないものの後ろには超音波が届かないので、観察することができなくなります。したがって、次のような場面では観察の方法に注意が必要です。
- 肋骨が邪魔をする
- 肺が大きい
どうしても観察が難しい場合には、
心臓エコー検査では何をみているのか
心臓エコー検査では主に経時的な心臓の動きと血液の流れを観察します。心臓には4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)がありますが、そのいずれも観察することができます。また、心臓には4種類の血液逆流防止弁がありますが、それらの状態を観察することができます。
心臓エコー検査を行えば、心臓の動きが悪い部位や心臓の変形している部位が観察できます。心臓エコー検査で異常がみられた場合には、症状や身体診察と併せて心臓の状態を判断する材料になります。
心臓エコー検査には心臓の動きを客観的に数値化する重要な指標としてEF(Ejection Fraction)というものがあります。EFについてもう少し詳しく説明します。
EF(Ejection Fraction)とは
EFとは左心室(左室)の血液を駆出する量の割合を%で表示するものです。左室が最も広がった時の容積(左室拡張末期容量:LVEDV)と左室が最も収縮した時の容積(左室収縮末期容量:LVESV)からEFは計算されます。
EF(%)=(LVEDV-LVESV)/LVEDV✕100
上の式でLVEDV-LVESVは、左心室が最も膨らんだ状態の容積から最もしぼんだ状態の容積を引いたものです。つまり、心臓が一回に全身に送りだす血液量(一回拍出量)になります。一回拍出量を左心室の最大容量で割ることで導かれた数字は、心臓がどのくらい効率よく動いているかを反映します。つまり、心臓があまり収縮できない場合には、左室が収縮したあとの容積が小さくならないため、EFは小さな数字になります。
簡易的に心機能を評価できるEFですが、一つ問題があります。
左室が十分に拡張できないときには、一見EFが正常でも十分な血液量を全身に送れずに心不全になることがあります。これをEFが保たれている心不全(HFpEF: heart failure with preserved ejection fraction)と言い、拡張不全と言うこともあります。EFだけを見ているとこのタイプの心不全に気づくことができませんので、左室収縮末期容量や左室拡張末期容量の具体的な数字も併せて見る必要があります。
また、さらに難しい話になりますが、E波やA波、e'という指標もあるため、これらも含めて総合的に心機能は評価されます。
- E波:左心室の拡張早期に僧帽弁を通る血流の速度
- A波:左心室の拡張期に左心房が収縮することで生じる血流の速度
- e':左心室の拡張期に僧帽弁が移動する速度
心臓エコー検査では多くを調べることができます。特に身体の負担が大きいわけではないことを考えると、とても有用な検査であることがわかります。
また、エコー検査で心臓をうまく観察できない場合には経食道エコー検査が行われることがあります。これは胃カメラの要領で検査用の管を飲み込んで、食道に到達したところで心臓を観察するものです。通常のエコー検査だと肋骨に妨げられて観察が不十分になることが多いですが、食道から観察する場合にはその心配がなくなります。
6. 画像検査
心筋梗塞の診断に画像検査を用いることがあります。もちろん胸痛があって明らかな心電図変化がある場合には画像検査を行わなくても心筋梗塞と診断できる場合があります。一方で、診断が難しい場合には冠動脈の太さや心筋への血流を把握できる画像検査が活躍することがあります。主に行われる画像検査は次の3つです。
- CT検査
MRI 検査シンチグラフィー
次の段落では各々の検査についてもう少し詳しく説明します。
CT検査
CTは動くものを調べるのが得意ではありません。そのため、心臓の動きに同期して、より解像度を高める工夫がなされます。
MRI検査
MRI検査はCT検査よりも心臓を詳しく調べることができます。一方で、動くものを調べることが難しい検査であるため、しっかりと心臓の動きに同期する必要があります。場合によっては、薬剤を用いて心臓の動きをゆっくりにして解像度を高めます。
特に遅延造影MRIという方法を用いると、小さな
心筋シンチグラフィー
シンチグラフィーとは微量の放射線を放出する物質を血液中に入れて、どこにその物質が集まるかを測定する検査です。この検査では臓器の形だけでなく、臓器の性質を近似的に見ることができます。また、シンチグラフィーで得られるデータから断層図を見ることができる検査を
重度の狭心症や心筋梗塞が疑われた場合には、このSPECTを用いて異常が起こっている部位を特定します。つまり、心筋に栄養を届ける血流が不足している部位には放射性物質が到達しにくいので、放射性物質が足りていない部位を探します。
シンチグラフィーの中には心臓に負荷をかけて、心筋の問題部位をよりわかりやすくする方法があります。しかし狭心症が重度の場合には運動負荷をかけると状況が悪化してしまいますので、負荷をかけたほうが良いのかどうかは専門的な判断が必要です。
7. 心臓カテーテル検査
心臓カテーテル検査とはカテーテルという細い管を血管の中に入れて行う検査です。目的によって行う内容が異なります。主なものは次になります。
冠動脈造影検査 - 血管内エコー検査
- 右心
カテーテル検査 - 左室造影検査
ここではこれらの4つの検査について詳しく説明します。
冠動脈造影検査(CAG:coronary angiography)
心臓は栄養や酸素を含んだ血液を全身に送ります。一方で、心臓自身も栄養がないと動けなくなるので、全身に送る血液の一部を心臓の筋肉に送ります。この血管を冠動脈といい、右側に1本(右冠動脈)と左側に2本(左前下行枝、左回旋枝)存在します。この冠動脈の形や太さを調べるのが冠動脈造影検査です。
冠動脈造影検査は冠動脈性疾患(狭心症、心筋梗塞など)が疑われたときに行われます。冠動脈を造影することでどのくらい血管が細くなっているのかが分かります。
カテーテルという細い管を心臓の冠動脈の中に入れて造影剤を注入するのですが、直接心臓に管を刺すためには大きな手術が必要になります。そこで、主に手首の動脈(
冠動脈は細ければ細いほど心臓への血流が悪くなります。狭心症によって血流の低下した冠動脈はカテーテルを用いた治療によって血流を取り戻す必要があります。
また、冠動脈が徐々に狭くなった場合には、側副血行路と呼ばれる新たにできた血管が冠動脈の血流を保っていることがあります。冠動脈造影検査ではこれを調べることができ、側副血行路が発達している場合には、狭くなっている冠動脈の治療を行わないという判断になることもあります。
冠動脈造影検査は冠動脈の状態を調べるのに有用ですが、身体への負担が小さくないことが欠点になります。特に次に該当する人は検査における危険性が高いです。
これらに該当する場合には、よほどの理由がない限り他のやり方で検査することになります。
TIMI分類について
冠動脈造影検査を行うと、冠動脈狭窄(狭くなること)の状況のみならず冠動脈の血流の程度も調べることができます。この血流がどの程度あるのかについてはTIMI分類(Thrombolysis in Myocardial Infarction分類)というものがあります。これは造影剤を用いて検査した場合に、冠動脈がどううつるかによって分類されます。
【TIMI分類】
血流の阻害されている程度 |
造影剤を用いた時の様子 |
グレード0 |
完全閉塞しているため、 |
グレード1 |
明らかに造影の遅延があり、冠動脈の末梢には造影剤が届かない |
グレード2 |
造影の遅延はあるが、冠動脈の末梢まで造影剤が届く |
グレード3 |
問題なく造影される |
この分類は冠動脈内をどの程度血液が流れているのかがわかる重要な判断材料です。カテーテル治療後に再評価することで、治療効果を推測することもできます。
血管内エコー検査(IVUS:Intravascular Ultrasound)
心臓カテーテル検査中に血管内エコー検査(IVUS:Intravascular Ultrasound)を行うことがあります。この検査は冠動脈内にエコーを出せるカテーテルを入れて、血管内の状況をリアルタイムに確認することができます。具体的には、断面図が得られることで冠動脈の太さや動脈硬化や石灰化の程度を見ることができます。また、カテーテル治療の要否の判断や、治療に使う
光干渉断層画像(OCT:Optical Coherence Tomography)
光干渉断層画像(OCT:Optical Coherence Tomography)は近赤外線を用いて検査する方法です。この近赤外線を発する装置を冠動脈内に挿入して冠動脈内の観察を行うことができます。
行っていることはIVUSに似ていますが、IVUSよりも解像度が高い画像を手に入れることができます。特に柔らかい
一方で、血液中の脂質が高値の場合や血栓の主成分であるヘモジデリンがある場合には解像度が悪くなってしまいます。そのために判断が難しい場合にはIVUSを併用することがあります。
右心カテーテル検査
右心カテーテル検査とは肺動脈や右心室、右心房の圧力や
足の付け根の静脈(大腿静脈)や鎖骨の裏の静脈(鎖骨下静脈)、首の静脈(内頸静脈)からカテーテルを挿入して右心房・右心室・肺動脈に到達させます。肺動脈の最深部に到達したときの圧力を肺動脈楔入圧といい、これは左心房の圧力を反映します。
以下が右心カテーテル検査で測定する項目になります。
- 中心静脈圧
- 右心房圧
- 右心室圧
- 肺動脈圧
- 肺動脈楔入圧(ほぼ左心房圧に同じ)
また、圧力を測定する位置での採血を行って血液ガス分析を行うこともできます。
この検査は右室梗塞(右心室における心筋梗塞)の可能性が考えられる場合に、行われることがあります。
左室造影検査
左室造影検査では冠動脈造影検査と同じ要領で心臓までカテーテルを進めて、左心室に到達させます。左心室に造影剤を注入することでさまざまなことを調べられます。
- 左心室の形
- 左心室の大きさ
- 左心室の動き(動きの悪い部分の有無)
- 左心室内にある異物の存在の有無
- 左心室の壁の厚さ
- 拡張期および収縮期の左心室の容量
- 弁膜症(大動脈弁、僧帽弁)の有無と重症度
狭心症によって心機能が低下している可能性がある場合には左室造影検査を用いて詳しく調べられることがあります。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
8. 血液検査(トロポニンI、トロポニンT、クレアチンキナーゼ、血液ガス分析など)
血液検査は多くの病気の診断や状態の評価のために行われますが、狭心症の際にも血液検査を行うことがあります。よく行われる検査は次のものになります。
- 心臓の状態を見る検査
- トロポニンT
- トロポニンI
- CK-MB
BNP - NT-proBNP
- 全身の状態を見る検査
CRP - 血液ガス分析
- 肝逸脱酵素(AST、ALT)
これらには各々に得意分野がありますので、必要に応じて測定されます。次の段落でもう少し詳しく見ていきます。
心臓の状態を見る項目(バイオマーカー)
トロポニンTやトロポニンIは心筋にダメージを受けた際に高値となることが分かっています。つまり、トロポニンTやトロポニンIが上昇している場合には狭心症から心筋梗塞に至っている可能性があります。
また、同じくクレアチンキナーゼ(CK)も心筋に異常が起こると上昇しやすい酵素です。CKは筋肉に存在するので、筋肉が壊れると血液中に放出されます。そのため心臓以外の筋肉に異常が起こっても上昇してしまいます。CKの中でもCK-MBという種類はほとんどが心臓に存在するため、これを調べることで心臓の筋肉に問題が起こっているかどうかがわかります。
狭心症が重症になると心不全を起こすことがあります。心不全を診断する際に重要な検査項目はBNP(Brain Natriuretic Peptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)とNT-proBNPです。これらには心臓の負担を軽くする作用があります。そのため、心不全によって心臓に負担がかかった状態になると、心臓を楽にさせるために体内の量が増えるので、血液検査で高値になります。
一方で、NT-proBNPもBNPも腎臓の機能が悪いと体外に排泄されなくなるため
全身の状態を見る項目
CRPは
心筋の異常に反応してCRPが上昇することがあります。しかし、前述のようにCRPは様々な原因で上昇する検査項目ですので、CRPが高値だから心筋に異常があると考えるのは早計です。他の検査の結果や身体の状態から総合的に診断する必要があります。
血液ガス分析は血液中に含まれる成分やバランスを調べる検査です。調べることのできる主な項目は次のものになります。
- 酸素
- 二酸化炭素
- pH(水素イオン濃度)
- 重炭酸イオン(HCO3-)
- 塩基超過分(BE)
- 乳酸
- ナトリウム
- カリウム
これらを用いて身体のバランスがどうなっているのかを探ることができます。
狭心症が進行して心機能が低下すると血液のめぐりが悪くなることで身体のバランスが悪くなります。
- 肺の血液が
うっ滞 することで酸素と二酸化炭素の交換がうまくいかなくなる(特に酸素の交換) - 全身に血液をうまく送り出せなくなることによって全身の酸性・アルカリ性(pH)のバランスが乱れる
これらは比較的起こりやすい変化です。上記の2点は、狭心症になった人に対して血液ガス分析を行うときに大事なポイントとなります。
また、全身の血液が回らなくなると肝臓の血流がうっ滞して
9. 運動負荷試験
狭心症の中には安静にしていると症状が出ないタイプがあります。これを労作性狭心症と言い、このタイプは安静時に心電図検査を行っても狭心症であるかどうか判断がつきません。労作性狭心症の場合には自分の症状の原因を早く見つけて治療すること大切ですが、簡単には判断できないから難しいです。
こうした場合には、身体に運動負荷をかけた状態で心電図が変化するかどうかを調べることが有効です。運動することで全身の必要酸素量を増加させて、血液のバランスを一時的に悪化させることで、狭心症を目立たせるからくりです。
この試験は心電図を測定する装置を身体に装着しながら運動を行います。何かあった場合にもすぐに対応できるように、運動は医療機関内で行います。実際には次のような運動を行うことが多いです。
- ベルトコンベアの上を歩く
- 自転車をこぐ
- 階段で踏み台昇降をする
これらの検査は心臓に負担をかけるため、負担をかける程度について注意が必要です。ただでさえ心臓に余力のない状態であるのに、心臓にさらに負担をかけることで不整脈や心不全が起こってしまうことがあります。そのため、運動負荷による最大酸素摂取量から推測して、安全と思われる範囲の運動を行います。また、心電図以外にも脈拍、血圧、呼吸数などをチェックして、全身の状態を把握した上で運動が行われます。
運動負荷試験中に心電図の変化(特にST低下)が見られた場合には狭心症が疑わしくなります。こうした異常が見られた場合には、心臓カテーテル検査を行って冠動脈の狭窄(狭まり)の有無を確認することになります。
10. 狭心症の診断はどうやって行われる?
狭心症を疑う症状がある人の冠動脈が狭くなっていることを確認することで狭心症と診断されます。このページで述べてきたような検査が行われて、その結果から総合的に診断が下されます。
- 問診
- 身体診察
- 心電図検査
- 心臓エコー検査
- 画像検査
- 心臓カテーテル検査
- 血液検査
- 運動負荷試験
これらの検査が主に行われる検査ですが、中でも心臓カテーテル検査が重要です。この検査では冠動脈の狭くなった部位が可視化できる上に、そのままカテーテルを用いた治療を行うことができます。最近はできるだけ身体に負荷がかからないような工夫がされていたり、治療後に再狭窄が起こりにくいようなステントが開発されていたりと、その技術は日進月歩です。詳しくは「心臓カテーテル治療について」の説明を参考にして下さい。