狭心症の治療:心臓カテーテル治療、手術、薬物治療、心臓リハビリテーションなど
狭心症の治療として最もよく行われているのは
目次
1. 狭心症は治る病気なのか?
狭心症は治療することで治ります。治療方法のメインとなるのは心臓カテーテル治療ですが、他にも選択肢があります。
- 心臓カテーテル治療
- 手術(
CABG ) - 薬物療法
- 心臓リハビリテーション
これらの治療方法のどれが適切なのかは状況によって判断されます。次の章からは各々の治療法について詳しく説明します。
2. 心臓カテーテル治療(PTCA、PCI)
医療行為に用いられる細い管のことをカテーテルと言います。これを用いて行う治療をカテーテル治療と言い、心臓の治療でもカテーテル治療が行われます。
心臓と全身の血管はつながっています。血管に入れたカテーテルを心臓に到達させて行う心臓の治療を心臓カテーテル治療と言います。心臓カテーテル治療にはいくつか種類があります。この章では種類ごとに詳しく説明します。
カテーテル治療とはどんなことを行う治療なのか
心臓カテーテル検査と同じ要領で、手首の動脈(
カテーテル治療の代表的な方法としては、カテーテルやワイヤーを用いて冠動脈の細くなっている部分を内側から風船を使って拡げる治療(POBA:Plain Old Balloon Angioplasty、経皮的バルーン血管形成術)を行います。この際に
治療に用いるステントの種類に違いはあるのか
ステントは大きく2種類あります。
- BMS(Bare Metal Stent:薬剤のついていないステント)
- DES(Drug-Eluting Stent:薬物溶出性ステント)
元来BMSしかなかったのですが、ステントを留置したのに再び血管が狭くなる現象(再狭窄)が見られたためDESが開発されました。DESは薬剤溶出性ステントという名前の通り薬が塗ってあるステントです。
ステントを留置した場所で血管
【DES(薬剤溶出性ステント)の特徴】
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DES(薬剤のついているステント) |
長所 |
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短所 |
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そのため、血管の太さや年齢や内服継続が可能かどうかなどを踏まえて最も適した治療法を選択する必要があります。
カテーテル治療で気をつけなければならないこと
心臓カテーテル治療は手術で胸を開けなくても心臓の治療ができるという大きな利点があります。とはいえ、身体の負担は小さいものではなく誰もが受けられる治療という訳ではありません。特に次に該当する人は治療における危険性が高いです。
造影 剤アレルギー がある人- 冠動脈の狭窄の位置や数に問題がある場合
- 3本の冠動脈に
病変 がある場合 - 左冠動脈主幹部(LMT:Left Main Trunk)に病変がある場合
- 3本の冠動脈に
- 重症の高血圧がある人
- 重症の不整脈がある人
- 心不全が非常に重症な人
これらに該当する場合には、心臓カテーテル治療が可能かどうかについて慎重に判断する必要があります。左冠動脈主幹部に対する心臓カテーテル治療は、状況をよく考えて可否の判断をする必要があるため、自分の状況がどうなのかよく主治医に確認するようにしてください。
心臓カテーテル治療には
これらの合併症は頻度は高くはありませんが一定確率で起こります。そのため、心臓カテーテル治療を受ける場合には、どんなことが起こりうるのかについてと治療中にどんな症状を自覚したらすぐに伝えるべきなのかについてあらかじめ聞いておくようにして下さい。
また、カテーテル治療を行って血管を拡張させれば必ず血流が改善するとは限りません。冠動脈の血流はTIMI分類というもので分類されますが、治療前後でグレードが同じということがあります。
【TIMI分類】
血流の阻害されている程度 |
造影剤を用いた時の様子 |
グレード0 |
完全閉塞しているため、病変よりも末梢に造影剤が到達しない |
グレード1 |
明らかに造影の遅延があり、冠動脈の末梢には造影剤が届かない |
グレード2 |
造影の遅延はあるが、冠動脈の末梢まで造影剤が届く |
グレード3 |
問題なく造影される |
このように血流が改善しない状態をno-reflow現象といいます。万が一、カテーテル治療後にも症状が残る場合には他の治療を考えることがあります。
カテーテル治療では治療できない心筋梗塞はどうしたら良いのか
心筋梗塞に対してカテーテル治療が行えないことがあります。その場合には2つの治療法が選択肢に上がります。
- 薬物治療
- 冠動脈バイパス術
これらの治療の詳細に関しては下で説明していますので、参考にして下さい。
3. 狭心症に対する薬物治療とは?
狭心症の治療では様々な薬物を使用します。次に挙げる薬がその代表例です。
- 抗血小板薬
抗凝固薬 - 血管拡張薬
- β遮断薬
- 脂質
代謝 異常改善薬
この章ではこれらの薬について詳しく説明します。
抗血小板薬
抗血小板薬とは主に血液凝固に関わる
具体的な薬剤としてアスピリン(主な商品名:バファリン配合錠A81、バイアスピリン®錠100mg)、クロピドグレル(主な商品名:プラビックス®)などが使われています。
この章では狭心症や心筋梗塞の治療に対して効果が期待できる抗血小板薬をいくつか挙げて説明します。
・アスピリン
「バファリンA」などの名称で一般用医薬品(市販薬)における解熱鎮痛薬としても使われるアスピリン(アセチルサリチル酸)は抗血小板薬としても使われています。
抗血小板薬としてのアスピリン(主な商品名:バファリン配合錠A81、バイアスピリン®)は血小板内のCOX(シクロオキシゲナーゼ)を阻害することで血小板凝集を促進させるTXA2(トロンボキサン)という物質の産生を抑え、血小板凝集を阻害することが主な作用の仕組みです。
解熱鎮痛薬として使われるアスピリンは1回用量が成人で一般的に330〜500mg程ですが、抗血小板薬として初回負荷投与時などを除いて長期的に継続する場合の1日(1回)の用量としては75〜162mgが望ましいとされ解熱鎮痛薬として用いられる用量よりも低用量で使われます。これは出血性合併症や消化性
・クロピドグレル
ADP(アデノシン2リン酸)という血小板の活性化に関わる物質の働きを抑えることで抗血小板作用をあらわす薬です。
細胞内にあるADPなどの血小板凝集を引き起こす惹起物質は血小板外へ放出され、ADPにおいてはADP受容体に作用することでさらに多くの血小板を活性化させることで血小板が凝集し血小板血栓が形成されます。
クロピドグレルはADP受容体を阻害することでADPの働きを抑え血小板凝集を抑える作用(抗血小板作用)をあらわし血栓の形成を抑える薬になります。
クロピドグレルは治療や
・チクロピジン
先程のクロピドグレルと同様に主にADP(アデノシン2リン酸)の働きを抑えることで抗血小板作用をあらわす薬です。チエノピリジン骨格という化学構造を持つという点もクロピドグレルと共通であり、抗血小板作用をあらわす仕組みもほぼ同様であると考えられています。
チクロピジンは持続的な抗血小板作用(血小板凝集抑制作用)をあらわし長期投与においても
・プラスグレル
クロピドグレルなどと同様にチエノピリジン骨格という化学構造を持ち、血小板凝集を促進させるADP(アデノシン2リン酸)の働きを抑えることで抗血小板作用をあらわす薬です。
日本ではプラスグレル製剤のエフィエント®が2014年に発売され、抗血小板薬の中でも比較的新しく登場した薬剤とも言えます。
同系統の抗血小板であるクロピドグレルは体内(肝臓)で代謝を受けてからその薬効をあらわしますが、効果発現に対して腸管からの吸収や薬物代謝
一方、プラスグレルではクロピドグレルの主な薬物代謝酵素であるCYP2C19遺伝子多型の有無に関わらず一般的に安定した抗血小板作用をあらわすことなどが確認されていて、個人の体質の差による薬効の振り幅が小さい(個人差が比較的あらわれにくい)という特徴があります。また他の薬剤との相互作用(飲み合わせ)の懸念もプラスグレルの方が一般的に少ないという点などもメリットとして考えられます。
・シロスタゾール(主な商品名:プレタール®)
日本で開発された抗血小板薬でPDEIII(ホスホジエステラーゼIII)という酵素を阻害し、血小板内のcAMPという物質の濃度を増加させることで抗血小板作用をあらわす薬です。
脳卒中後の再発予防薬などとして使われることも多く抗血小板作用の他に、脳卒中後の後遺症としても多い嚥下障害(飲み込みの障害)の改善作用などが期待できるということからも臨床で広く使われている薬になっています。
心筋梗塞における二次予防の選択肢となることも考えられアスピリンとの併用による有用性などが確認されていますが、シロスタゾールにはPDEIII阻害という作用の仕組みによって心拍数を増加することが考えられるため心不全を持病でもつ場合などにおいては注意が必要です。
・その他の抗血小板薬
この他の抗血小板薬としてはトラピジル(主な商品名:ロコルナール®)、サルポグレラート(主な商品名:アンプラーグ®)、ジピリダモール(主な商品名:ペルサンチン®)などがあり場合によっては治療の選択肢となるケースも考えられます。
・抗血小板薬で注意すべき副作用とは?
薬剤ごとに作用の仕組みは少なからず異なりますが、血小板凝集を抑えることによって出血傾向となるためアザができやすいなどの懸念もあります。また出血のリスクを伴う外傷に対して日頃から注意したり、出血を伴う手術を行う際には必ず前もって抗血小板薬を服用していることを担当医へ伝える必要があります。出血リスクの度合いや行う手術の内容などによっても異なりますが、必要に応じて一時的な休薬が指示されるケースもあるため事前にしっかりと医師や薬剤師から説明を聞いておくことも大切です。
その他、例えばアスピリンでの消化性潰瘍、チクロピジンでの無顆粒球症や肝障害などそれぞれの薬剤による特徴的な副作用にも注意が必要です。チクロピジンより一般的に副作用の懸念が少ないと考えられる同系統薬のクロピドグレルやプラスグレルにおいても副作用が全くないわけではないため注意は必要となります。
またアスピリンでの消化性潰瘍へのリスクに対してPPI(プロトンポンプ阻害薬)などといったように副作用の予防・軽減を目的として併用薬が処方されることも考えられます。一見すると「血栓」とは関係ないような薬でも治療において非常に重要であったりするため、これら併用薬の役割などに関しても医師や薬剤師からしっかりと説明を聞いておくことが大切です。
抗凝固薬
名前にあるように血液が固まる働き(血液凝固)を抑えることで血栓(けっせん)をできにくくする薬です。臨床ではヘパリンなどの注射薬(注射剤)の他、
経口(飲み薬)の抗凝固薬としては長年、ワルファリンカリウム(主な商品名:ワーファリン)が治療薬の中心を担ってきましたが、近年新しく開発された経口の抗凝固薬(Direct Oral Anticoagulantsを略してDOACと呼称する場合もあります)が登場し、治療の選択肢が広がってきています。
この章では抗凝固薬について説明します。
・ヘパリン
ヘパリンは一般的に分子量5,000〜20,000(分子量が30,000を超えるものもある)のムコ多糖類と呼ばれる物質です。
肝臓などで産生されるアンチトロンビンと呼ばれる物質は体内で血液を固める凝固因子となるトロンビン、第Xa因子などと結合することでこれらの凝固因子に対して阻害作用をあらわします。ヘパリンは、アンチトロンビンによる抗凝固作用を大きく増強させることによって、抗凝固作用をあらわします。
ヘパリンで特に注意すべき副作用としてヘパリンの投与によって起こる血小板減少(ヘパリン起因性血小板減少症)があります。この副作用には投与後2〜3日後に
ヘパリンは大きく2種類に分類でき、未分画ヘパリンと、未分画ヘパリンを化学処置することによって得られる分子量が5,000前後の低分子ヘパリンがあります。低分子ヘパリンは分子量が大きいままのヘパリン(未分画ヘパリン)に比べて糖鎖が短いなどの理由からアンチトロンビンとは結合できる一方でトロンビンとは結合しにくい特徴があります。
これらの特徴から低分子ヘパリンは主に第Xa因子を選択的に阻害することで抗凝固作用をあらわします。低分子ヘパリンではヘパリン投与における懸念点となるヘパリン起因性血小板減少症のリスクが未分画ヘパリンに比べて一般的に低いとされ、メリットのひとつと考えられます。
・ダナパロイド(オルガラン®)
低分子量(平均分子量が約5,500)のヘパラン硫酸を主成分とするヘパリン類似物(ヘパリノイド)の注射剤です。
トロンビンよりも第Xa因子に対して選択的に抑制作用をあらわす(抗Xa/抗トロンビン活性比が22倍以上とされる)特徴があり、血小板に対する作用が少なく出血のリスクが非常に少ないなどのメリットが考えられます。日本におけるダナパロイド(オルガラン®)は汎発性血管内血液凝固症(DIC)へ承認されている薬ですが、海外ではII型のヘパリン起因性血小板減少症に対しての有用性なども考えられています。
・フォンダパリヌクス(アリクストラ®)
化学合成によって造られた血液凝固因子Xaの阻害薬(注射剤)です。
アンチトロンビン結合部位のペンタサッカロイドという物質を化学合成した抗凝固薬で、アンチトロンビンに選択的に結合し、そのトロンビン阻害作用に影響を及ぼさずに第Xa因子阻害作用だけを増強します。日本においては主に下肢整形外科手術や腹部手術といった手術を行うことによる
・アルガトロバン(主な商品名:スロンノン®、ノバスタン®)
血液凝固因子のひとつであるトロンビンの働きを抑えることで抗凝固作用をあらわす薬(抗トロンビン薬)で注射剤として使われています。
作用の仕組みをもう少し詳しくみていくと、薬剤成分がトロンビンの活性部位に結合することでトロンビンの働きを阻害し、トロンビンによるフィブリン生成や血小板凝集及び血管収縮の作用を抑えます。
アルガトロバンは脳梗塞の急性期などにおける治療の選択肢にもなる薬ですが、心筋梗塞などの虚血性心疾患の治療においてはヘパリン投与により引き起こされるヘパリン起因性血小板減少症(主にII型)におけるヘパリンの代替薬などとして使われています。
注意すべき副作用として出血などの血管障害、吐き気などの消化器症状、
・ワルファリンカリウム(主な商品名:ワーファリン)
経口(飲み薬)の抗凝固薬の一つで現在でも多くの人に使われている薬です。
ワルファリンは血液凝固因子(血液を固める要因となる体内物質)に関わる
ビタミンKは骨の形成などにも関わるビタミンですが、血液に対してはいくつかの凝固因子の生成を手助けする働きを持ちます。ビタミンKが関わる血液凝固因子はプロトロンビン(第II因子)、第VII因子、第IX因子、第X因子で、これらの生成を抑えることで抗凝固作用や抗血栓作用をあらわします。
ワルファリンを飲むにあたって最初に必ず説明される注意事項の一つに「ビタミンKを多く含む食品の摂取についての注意」があります。
先ほど説明したようにワルファリンは「ビタミンKに関わる凝固因子の生成を抑えることで抗凝固作用をあらわす薬」ですので、食事などからビタミンKを多く含む食品を過剰に摂ってしまうとせっかくのワルファリンの効果が減弱してしまいます。
もちろん食品によってもビタミンKが含まれている量はかなり違いますし、ビタミンKを含む食品を絶対に食べていけないかというとそうではありません。
ビタミンKはほうれん草や小松菜などの緑色の野菜に比較的多く含まれているビタミンです。しかし通常の食事で食べるくらいの量であれば多くの場合で問題ないとされています。大事なのは、偏った食事や暴飲・暴食を避けてバランスのとれた食事を摂ることです。
ただし、食材や健康食品の中には少量の中にも、かなり多くのビタミンKを含むものもあります。納豆やクロレラ、青汁などはその代表例でこれらの食品はワルファリンを服用している場合では原則として摂取を控えることになっています。
納豆自体は古来より日本人の食文化を支え健康食品としても注目されている食材なのですが、腸の中でビタミンKをかなり産生するため、ことワルファリンによる抗凝固療法においては薬の効果を下げるというマイナス要素が大きい食材になってしまいます。
ところで少し話は変わりますがよく「ビタミンK」と「カリウム(K)」について「同じであるか?」などの質問を受けることがあります。お互いに「K」という文字を持つため紛らわしいのですが「ビタミンKはビタミン」「カリウム(K)は
ビタミンKはフィトナジオンやメナテトレノンといったように違う名前で呼ばれることがあります。特にメナテトレノン製剤(主な商品名:グラケー®)は骨粗しょう症の治療薬として使われているため注意が必要です。ワルファリン服用中の食事内容などに関しては事前に処方医や薬剤師とよく相談しておくことも大切です。
ビタミンKの摂取など注意すべきことはありますが、現在でもワルファリンは血栓塞栓症の治療薬として有用な薬として多くの人に使われていて、治療にかかる薬のコストが比較的安価という面もメリットの一つです。
現在(2018年2月時点)、ワルファリン以降に開発された経口の抗凝固薬(DOAC)の1錠(1カプセル)の薬価は100円をゆうに超え、1日の治療コストとして薬価計算で500円を超える場合もあります。一方でワルファリンは1錠の薬価が10円ほどです。仮にワルファリンとして1日7mgや8mgなど比較的高用量を使ったとしても薬価として100円にも満たない金額です。この差は健康保険の一部負担金の支払い額としても、国の医療費を考慮したとしてもメリットと考えられます。もちろん薬剤は治療に対しての有効性が最も重要視されるところではありますが、臨床現場で長期に渡って使われてきた実績なども含め総合的に考えてみてもワルファリンは「高い治療効果が期待できコスト面でのメリットも高い薬」と言えます。
・ダビガトラン(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)(商品名:プラザキサ®)
ワルファリンに次ぐ経口の抗凝固薬として日本では「プラザキサ®」の名前で2011年3月から使われるようになった薬です。
血液凝固因子のひとつ、トロンビン(第IIa因子)を直接阻害することで抗凝固作用をあらわします。
この薬は通常「1日2回服用」する薬で、腎機能や併用する薬などに問題がなければ1回150mg(75mgのカプセルを2カプセル分)、1日で300mgの用量を服用します。
ダビガトランには1カプセルに110mgの薬剤が入った規格もあります。こちらは腎機能の低下がみられる場合や併用する他の薬がダビガトランの作用を過度に高めてしまう可能性がある場合などに使用が考慮され、1回110mgを1日2回、つまり1日220mgの低用量で服用するための調節用の規格になっています。
一般的に薬剤の規格が複数ある場合は、含有量が高い規格がそのまま高用量を使うための規格になることが多いのですが、ダビガトランは含有量が低い規格を複数(75mgを1回に2カプセル)使うことで高用量の薬の使用を実施するという薬になっています。
ダビガトランには抗凝固薬の服用に際し懸念のひとつである頭蓋内出血の発症が少なかったという臨床試験の結果などもあり有用性が高い薬とされています。ただし高度な腎機能障害を持つ場合などにおいて特に出血のリスクが懸念され注意すべき事項のひとつになっています。
服薬に関してのマイナス面をあえて挙げると「カプセル剤が大きい」という点でしょうか。プラザキサ®カプセルでは、小さい方の75mgカプセルでも「長さが約18mm・直径が約6mmほど」あります。DOAC製剤の中でも薬剤の大きさが小さいリバーロキサバン製剤のイグザレルト®錠が「直径6mm・厚さ2.8mmほど」で、実際に手に取って見てみると大きさの違いはかなり感じます。もちろん小さければ必ずしも良い・・・というわけではないですが、錠剤やカプセルの大きさが大きいと特に嚥下機能が低下した人にとっては飲みにくいことが予想されます。
また、プラザキサ®カプセルは吸湿性が高いため原則として「1包化調剤」に不向きな製剤になっています。「1包化調剤」とは、「朝」「夕」など服用時点ごとに複数の薬を一緒に1回ごとにパック(分包)する調剤方法です。同じタイミングで複数の薬を飲まなくてはいけない場合には適切な服薬や飲み間違い防止などの観点から非常に有用な手段となります。
もちろんダビガトランは治療に対しての有益性が高い薬ではありますが「カプセルが比較的大きい」「1包化調剤に不向き」という点は嚥下機能が低下している人や認知症を患っている人などにとってはデメリットと考えられる面があり、今後の日本の高齢化などを考えるとデメリット面を改善した製剤の開発が待たれるところでもあります。
・リバーロキサバン(商品名:イグザレルト®)
日本では2012年4月から使われるようになったDOACです。
リバーロキサバンは血液凝固因子の第Xa因子の活性を阻害することによって抗凝固作用をあらわします。臨床試験の結果からワルファリンに劣らない有用性が確認され、安全性においては特に頭蓋内出血の危険性が少ないと考えられています。
またリバーロキサバンは通常「1日1回の服用」で治療が可能な製剤で、飲み忘れ防止などの観点においても有用と言えます。またワルファリンや他のDOACに比べても錠剤の大きさが小型で、比較的喉に引っ掛かりにくいこともメリットと考えられます。リバーロキサバン製剤のイグザレルト®には錠剤をそのまま服用することが困難な場合などを考慮した剤形として細粒剤(イグザレルト®細粒分包)が2015年12月から発売されています。
・アピキサバン(商品名:エリキュース®)
日本では2013年2月から使われるようになったDOACです。
アピキサバンは血液凝固因子の第Xa因子を阻害することによって抗凝固作用をあらわします。
弁膜症を伴わない心房細動(NVAF)に対する臨床試験においてワルファリンよりも有用性が高かったという結果や、出血性合併症が少なく特に頭蓋内出血が少ないとされる点などもメリットと考えられています。
アピキサバンは通常「1日2回」の服用を必要とするため、こと服薬という面では「1日1回」で治療が可能な抗凝固薬に対してやや劣勢ではありますが、その効果や出血のリスクなどを考えると有用な薬の一つと言えます。
・エドキサバン(エドキサバントシル酸塩水和物)(商品名:リクシアナ®)
日本では2011年4月に登場したDOACです。
血液凝固因子の第Xa因子を阻害することによって抗凝固作用をあらわします。
発売当初は、主に膝関節や股関節の全置換術など下肢の整形外科手術を行った患者における静脈血栓塞栓症の発症を抑える目的で使われていた薬でした。
その後、臨床試験における結果から非弁膜症性の心房細動における脳卒中(
弁膜症を伴わない心房細動(NVAF)に対する臨床試験において大出血や頭蓋内出血が少ないとされていることや通常「1日1回の服用」で治療が可能な製剤となっていることもメリットと考えられます。またなんらかの理由によって嚥下(飲み込み)に問題があり通常の錠剤が飲みにくい状況などを考慮した剤形として
・抗凝固薬で注意することとは?
抗凝固薬は「血液を固まりにくくする薬」ですので、すべての抗凝固薬に共通して出血に対しては注意が必要になります。
例えばワルファリンではPT-INRという数値を検査で確認することで薬の効果がどのくらいあらわれているかを判断します。DOACについても一般的にそれぞれの薬に適した検査や腎機能の状態に合わせた調節などによって、薬の効果が安全に適切にあらわれるように治療が行われます。
それでも日常生活における出血への配慮は必要で、例えば以下のような事が挙げられます。
- けがをする可能性のある作業や運動には気をつける
打撲 や打ち身などをしやすい運動には気をつける- 歯をみがく際の歯ブラシは歯茎からの出血を考慮してなるべく柔らかいタイプを使う
- ヒゲを剃る時はなるべく出血の危険性が少ない電気カミソリを使う
- バイクなどの転倒する危険性がある乗り物の乗車時には気をつける
このように生活の中で注意しつつ、もし出血してしまったらあわてずにタオルなどでしっかりと患部を押さえるなどの対応が必要です。その際、通常(抗凝固薬を使用していない場合)よりも血液が止まるまで時間がかかることを念頭におく必要があります。
もちろんひどい怪我などによる出血やタオルなどで止血しても血が止まらない場合、
血管拡張薬
狭心症は冠動脈が狭くなる病気です。そのため、血管を拡張する作用がある薬を治療に用いることは理にかなっています。代用例としては通称「ニトロ」と呼ばれる硝酸薬です。狭心症では
この章では血管拡張薬について説明します。
◎硝酸薬(硝酸塩製剤)
心臓に酸素を送る血管である冠動脈や末梢血管を拡張する作用をあらわす薬です。
硝酸薬は体内で代謝され一酸化窒素(NO)を生成します。このNOが血管をひろげる主な物質となり、心臓への酸素供給などを改善したり、全身の血管がひろがることで血液を送る力が少なくてすむため心臓の負担を軽くすることなどの効果が期待できます。
硝酸薬は一般的に狭心症(冠動脈が狭くなることで胸の痛みや息苦しさなどがあらわれる)の治療薬や心不全などの治療薬として使われています。
硝酸塩を含む製剤としては硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、ニトロプルシドナトリウムなどがあります。薬剤によっては内服薬(飲み薬)の他、貼付剤(貼り薬)、注射薬など剤形の選択も可能で、発作などの症状を予防する薬と急性期(狭心症発作時、急性心不全など)に使う薬があります。主に急性期に使われる薬として舌下錠(主な商品名:ニトロペン®)や舌下に噴霧するタイプであるスプレー剤(主な商品名:ミオコール®スプレー)などもあり、これらの製剤の使い方や使用に際しての注意などを医師や薬剤師などから事前によく聞いておくことも大切です。
硝酸塩を含む製剤は血管をひろげる作用をあらわすため血圧低下によるめまいや立ちくらみなどには注意が必要です。他に頭痛、吐き気などの消化器症状、
またシルデナフィル(主な商品名:レバチオ®、バイアグラ®)などのホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)と呼ばれる種類の薬などは併用禁忌(併用しないこと)となっていて他の薬との相互作用(飲み合わせ)にも注意が必要です。
◎ニコランジル
一酸化窒素(NO)は体内で冠動脈や末梢血管を拡張する作用をあらわします。体内でNOを生成する製剤としてはニトログリセリンなどの硝酸塩製剤がありますが、ニコランジル(主な商品名:シグマート®)も体内で一酸化窒素(NO)を生成することで心臓への酸素供給などを改善することが期待できる薬です。
またニコランジルは血管平滑筋の弛緩に関わるカリウムイオンの通り道であるカリウムチャネルを開く作用による血管拡張作用をあらわすとされることからカリウムチャネル開口薬などと呼ばれることもあります。心不全の治療薬としても使われますが、心筋梗塞後の狭心症の症状改善や心筋虚血の改善などに対しても有用な薬になっています。内服薬(飲み薬)の他、注射薬の剤形があり注射薬は不安定狭心症や急性心不全に対して保険承認されています。
注意すべき副作用としては頭痛やめまい、吐き気などの消化器症状、
◎ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
アンジオテンシン(AT)という血圧上昇などに深く関わる体内物質の働きを抑える作用をあらわす薬のひとつです。
体内にはアンジオテンシノーゲンという物質からアンジオテンシンIを経てアンジオテンシンIIができる仕組みがあります。アンジオテンシンIIは自身が血管を収縮させ血圧を上昇させる作用に加え
ACE阻害薬はアンジオテンシンIIへの変換に関わる酵素(ACE:アンジオテンシン変換酵素)を阻害することよってATの働きを抑え、血圧を低下させる作用などをあらわします。
アンジオテンシンIIの働きによって分泌が促されるアルドステロンは血圧以外にも心臓の肥大や心臓及び血管の
そのためACE阻害薬は高血圧の治療以外に左心機能低下や心不全などの心疾患、腎疾患や糖尿病を合併した病態などの治療に対しても効果が期待できる薬とされています。
実際にエナラプリル(主な商品名:レニベース®)やリシノプリル(主な商品名:ロンゲス®、ゼストリル®)が慢性心不全へ保険承認されていたり、ペリンドプリル(主な商品名:コバシル®)では心臓の肥大を抑えたり血管への改善作用が期待できるとされるなど、高血圧治療以外でも有用な薬になっています。
注意すべき副作用としては、めまいや立ちくらみ、頭痛、腹痛や吐き気などの消化器症状などがあります。また頻度は稀とされていますが血管
副作用という面で同じくATに関わるARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)との違いは、ACE阻害薬では咳(空咳)が一般的にあらわれやすいという特徴があり、これは「ACEを阻害する」という作用の仕組みによるものが大きいとされています。ACEはアンジオテンシン以外にも関わる酵素で、ACEを阻害することで体内で咳などを引き起こすブラジキニンという物質が増える傾向になり咳(空咳)が生じやすくなると考えられていて、薬剤や体質などによっても咳(空咳)がおこる頻度は異なってきますが注意すべき副作用のひとつとなっています。
一方でこの咳(空咳)を誤嚥(ごえん)防止に利用する場合もあります。誤嚥とは食べ物が食道ではなく喉頭や気管に入ってしまうことです。脳卒中による後遺症など、なんらかの理由によって嚥下機能(飲み込む機能)が低下している状態では一般的に誤嚥が起こりやすくなり誤嚥性肺炎などのリスクが高くなると考えられていて、これを防ぐためにACE阻害薬による咳(空咳)は有用とされています。
もちろん激しく咳き込みが出る・・・などの場合では注意が必要ですが、ブラジキニンには咽頭反射を改善する働きも期待できると考えられているため、咳(空咳)の副作用が必ずしもデメリットとなるわけではないのです。
◎ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
ACE阻害薬と同様にアンジオテンシン(AT)という血圧上昇などに深く関わる体内物質の働きを抑える作用をあらわす薬のひとつです。
体内にはアンジオテンシノーゲンという物質からアンジオテンシンIを経てアンジオテンシンIIができる仕組みがあります。アンジオテンシンIIは自身が血管を収縮させ血圧を上昇させる作用に加えアルドステロンという副腎皮質ホルモンの分泌を促します。アルドステロンは腎臓でナトリウムや水分の血液中への再吸収を行っている主な物質となり、循環血液量の増加がおこり血圧が上昇します。アルドステロンは血圧以外にも心臓の肥大や心臓及び血管の線維化、腎障害などに関わる物質と考えられています。またアンジオテンシンIIは脳、血管、心臓、腎臓などに存在する自身の受容体に結合することで高血圧だけでなく脳卒中、心不全、腎不全などの因子となるとされています。そのためARBには心臓、腎臓、脳血管などの臓器保護作用が期待できると考えられています。
同じくATの働きを抑えるACE阻害薬との違いは作用の仕組みにあり、ACE阻害薬がアンジオテンシンIIへの変換に関わる酵素を阻害するのに対して、ARBはアンジオテンシンIIが作用する受容体を阻害することでATの働きを抑えるところにあります。
ARBも主に高血圧治療薬として開発された薬ですがACE阻害薬同様、降圧目的以外にも臨床応用されていて心疾患や腎疾患の治療薬として使われる場合もあります。実際、カンデサルタン(主な商品名:ブロプレス®)では高血圧症に加え慢性心不全の承認があり、ロサルタン(主な商品名:ニューロタン®)では高血圧症に加え糖尿病性腎症で承認されているなど、高血圧治療以外にも有用とされています。
心筋梗塞後の治療においてはACE阻害薬に不耐で心不全などがある病態などに対して使用が考慮されます。
ARBとしては他にバルサルタン(主な商品名:ディオバン®)、テルミサルタン(主な商品名:ミカルディス®)、イルベサルタン(商品名:アバプロ®、イルベタン®)、アジルサルタン(商品名:アジルバ®)といった薬が臨床で使われています。
ARBで注意すべき副作用にはめまいや立ちくらみ、頭痛、腹痛や吐き気などの消化器症状、などがあります。ARBでも咳(空咳)があらわれる可能性はありますが、作用の仕組みの違いなどの理由から一般的にACE阻害薬に比べてARBの方が起こりにくいとされています。
また頻度は非常に稀とされていますが血管浮腫、高カリウム血症、
◎エプレレノン(抗アルドステロン薬)(商品名:セララ®)
体内のアルドステロンの働きを抑える薬で、選択的アルドステロンブロッカーなどの名前で呼ばれることもあります。
アルドステロンは腎
エプレレノンはアルドステロンの鉱質コルチコイド受容体への結合をより選択的に阻害することによってアルドステロンの働きを抑える作用をあらわします。
元々は高血圧治療薬として承認された薬ですが、アルドステロン自体が心臓の肥大や心臓及び血管の線維化などへ深く関わることから心不全への有用性が考えられ、2016年12月に慢性心不全の治療に対しても追加承認されました。慢性心不全の治療においては通常、ACE阻害薬やARB、β遮断薬、利尿薬などとの併用によって使われています。
エプレレノンと同じようにアルドステロンの作用を抑える薬として一般的に利尿薬として使われるスピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®A)が多くの治療で使われている薬になっていますが、エプレレノンはスピロノラクトンに比べると
エプレレノンの注意すべき副作用としては高カリウム血症、低血圧、めまいや頭痛などの精神神経系症状、腎機能障害、消化器症状などがあります。
◎カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼムなど)
細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害する作用(カルシウム拮抗作用)により、血管拡張作用などをあらわす薬です。
血管平滑筋が収縮するためにはカルシウムイオン(Ca2+)の細胞内への流入が必要で、カルシウムチャネルという通り道からCa2+は細胞内へと流入します。カルシウム拮抗薬はカルシウムチャネルへ作用し平滑筋細胞へCa2+の流入を抑え血管収縮を抑制し、血管拡張作用などをあらわします。またカルシウム拮抗薬は心筋へのCa2+流入抑制などにより心拍数を減少させ心筋虚血時や高血圧時などにおける心臓の負担を軽減させる効果が期待できます。
カルシウム拮抗薬にはジヒドロピリジン系(アムロジピン、ニフェジピンなど)といって血管への選択性が高く高血圧治療薬として使われることが多い薬もありますが、ベラパミル(主な商品名:ワソラン®)やジルチアゼム(主な商品名:ヘルベッサー®)は一般的に非ジヒドロピリジン系に分類され、その作用における心臓への選択性などから
カルシウム拮抗薬による治療中にグレープフルーツを摂取すると薬の代謝が阻害されることで薬剤成分が血液中に残りやすくなり、過度に薬の効果があらわれる可能性などが考えられます。この相互作用の強弱は薬剤によっても異なり、例えばベラパミルでは過度でないにしろ薬剤成分の血中濃度が上昇した報告があります。同じ柑橘系でもみかん(温州みかん)に関しては問題ないとされているなど、日頃から柑橘系の食物を摂取する機会が多い場合は特に医師や薬剤師から事前に相互作用(飲み合わせ)の有無や注意事項などをよく聞いておくことも大切です。
β遮断薬
β遮断薬に分類される薬といっても個々の薬剤によってそれぞれ特徴をもっていて、用途や適応症などが異なってくる場合もあります。
プロプラノロールやランジオロールといったβ遮断薬には注射剤の剤形があり、急性期の治療などに対しても有用です。
またカルベジロール(主な商品名:アーチスト®)やビソプロロール(主な商品名:メインテート®)のようにβ遮断薬の中には慢性心不全の治療に使われる薬もあります。
その他、β遮断薬は薬剤によってはバセドウ病などの
β遮断薬が薬剤にとって特徴が異なる場合があることについては少し触れましたが、この特徴によって注意すべき副作用が異なってくる場合もありますし、いくつかの持病を持つ場合にも注意が必要になります。
高血圧治療薬としても使われるβ遮断薬には少なからず降圧作用があり、血圧低下によるふらつきや立ちくらみなどがあらわれる可能性もあるため注意が必要です。
また糖や脂質代謝などに影響を及ぼす場合もあり糖尿病や耐糖能異常などがある場合にはより注意が必要となります。
交感神経のβ受容体の中でβ2受容体は
一般的にそれぞれの病態や体質などに合わせた薬剤が選択されますが、β遮断薬により治療を行う場合には使用する薬剤がどのようなタイプでどういった特徴を持っているか、などを事前に医師や薬剤師からよく聞いておくことも大切です。
脂質異常改善薬
「
コレステロールなどを改善させる脂質低下療法を行うことでプラークのコレステロール蓄積を抑えるだけでなく、プラークを安定化させ破裂しにくくすることで、冠動脈疾患の発症を抑える効果が期待できるとされています。
◎HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬)
コレステロールの合成過程で必要となるHMG-CoA還元酵素という酵素を阻害することで脂質異常を改善する作用をあらわす薬で、一般的に「スタチン」や「スタチン系薬」などと呼ばれています。
コレステロールは主に肝臓で合成されていますが、この合成過程で必要な酵素のひとつにHMG-CoA還元酵素(3-Hydroxy-3-methylglutaryl coenzyme-A reductase)があり、スタチン系薬はこの酵素を阻害することで肝臓におけるコレステロール合成を抑え血液中のコレステロールを低下させる作用などをあらわします。
心筋梗塞など心疾患に深く関わる動脈硬化を引き起こす因子である血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させることで、動脈硬化や心筋梗塞などを予防する効果が期待できます。
スタチン系の薬は主にコレステロール低下の度合いによってスタンダードスタチンとストロングスタチンに分けられます。用量や体質などによっても異なりますがLDLコレステロール値の低下作用において一般的にスタンダードスタチンが15%前後、ストロングスタチンでは30%前後下げる効果が期待できるとされ通常、病態などに合わせて適切な薬が選択されます。
主なスタンダードスタチンにはプラバスタチン(主な商品名:メバロチン®)、シンバスタチン(主な商品名:リポバス®)、フルバスタチン(主な商品名:ローコール®)があり、
主なストロングスタチンにはアトルバスタチン(主な商品名・リピトール®)、ピタバスタチン(主な商品名:リバロ®)、ロスバスタチン(主な商品名:クレストール®)があります。
スタチン系の薬剤の注意すべき副作用としては消化器症状、しびれなどの末梢神経障害、肝機能障害、過敏症などがあります。また稀に横紋筋融解症という症状があらわれる場合があり注意が必要です。これはいくつかの種類の薬などが起因となり筋肉(骨格筋)の細胞に障害が生じることで筋肉の痛みや脱力感などがあらわれるものです。重篤な症状に至ることは非常にまれとされていますが、手足などの筋肉に痛みやしびれが出る、手足に力がはいりにくい、全身がだるい、尿の色が赤褐色になる、などの症状がみられた場合はこの副作用が生じている可能性があるため、放置しないで医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処することが必要です。
スタチン系薬は他の薬との相互作用(飲み合わせ)に注意が必要な場合もあります。相互作用の多少は薬剤によっても異なり、一般的に水溶性の性質をもつプラバスタチンなどは相互作用が少なく、脂溶性の性質をもつアトルバスタチンやシンバスタチンなどは比較的相互作用が多い傾向にあります。相互作用に特に注意すべき薬として一部の
スタチン系薬の中でアトルバスタチンには、高血圧などの治療薬として広く使われているカルシウム拮抗薬(アムロジピン)との配合製剤(主な商品名:カデュエット®配合錠)があり、心臓及び脳血管疾患を引き起こす因子となる高コレステロール血症と高血圧症をひとつの製剤で治療できるメリットなどが考えられる製剤になっています。
◎エゼチミブ(小腸コレステロールトランスポーター阻害薬)
エゼチミブ(商品名:ゼチーア®)はスタチン系薬などの従来の脂質異常を改善する治療薬とは異なる作用の仕組みによってコレステロールを下げる作用をあらわす薬で日本では2007年に承認され臨床で使われています。
食事(食物)や胆汁由来のコレステロールは主に小腸で吸収されますが、この吸収にはコレステロールを輸送する運び屋的な役割を担っている物質(NPC1L1:小腸コレステロールトランスポーター)が深く関わっています。エゼチミブは世界初の小腸コレステロールトランスポーターの阻害薬でNPC1L1のコレステロール輸送機能を阻害することで、小腸からの食事性及び胆汁性コレステロールの吸収を低下する作用をあらわします。
エゼチミブ以前に開発されたスタチン系薬などの肝臓でのコレステロール合成や分泌の過程に関わる薬とは異なる作用の仕組みを持つため、脂質異常症の治療の選択肢を広げるメリットなどが考えられます。脂質異常改善薬としてエゼチミブ単独で使われる場合もありますが、スタチン系薬など他の脂質異常改善薬と併用して使われることも多い薬です。
注意すべき副作用としては消化器症状、過敏症、横紋筋融解症、肝機能障害などがあります。重度な肝機能障害がある場合などでは同じく肝機能障害の副作用を生じる可能性があるスタチン系薬との併用ができない場合が考えられ特に注意が必要です。
◎フィブラート系薬
フィブラート系薬はLDLコレステロールを下げるというよりは主にTGを下げる薬といえ、脂質異常症の中でも
臨床ではクロフィブラートやクリノフィブラート(商品名:リポクリン®)といった比較的初期に開発された薬よりベザフィブラート(主な商品名:ベザトール®SR)やフェノフィブラート(主な商品名:トライコア®、リピディル®)といった第2世代に分類される薬が使われることが多くなっています。2017年には新規のフィブラート系薬であるペマフィブラート(商品名:パルモディア®)が承認され、今後薬価収載を経て発売予定になっています。
注意すべき副作用としては横紋筋融解症、肝機能障害、
◎その他の脂質異常改善薬
その他、陰イオン交換樹脂(コレスチミド、コレスチラミン)、プロブコール、ニコチン酸誘導体(トコフェロールニコチン酸エステル、ニセリトロールなど)、多価不飽和脂肪酸(イコサペント酸エチル、オメガ-3脂肪酸エチル)といった薬がコレステロールなどの体内の脂質を改善する薬として使われることがあります。
また近年ではPCSK9阻害薬(ヒト型抗PCSK9モノクローナル
4. 手術:冠動脈バイパス手術(CABG:Coronary Artery Bypass Grafting)
非常に状態が不安定な狭心症や心筋梗塞に対して手術(冠動脈バイパス術)を行うことがあります。上でも述べた通り、3本とも冠動脈が狭くなっていたり左冠動脈主幹部が狭くなっていたりするため心臓カテーテル治療を行えない場合にも、手術であれば治療することができます。
冠動脈バイパス手術ではどんなことを行うのか
心臓に栄養を送る動脈のことを冠動脈といいます。冠動脈は右側に1本(右冠動脈)と左側に2本(左前下行枝、左回旋枝)あり、心臓を取り巻くように存在します。
この冠動脈が細くなると、心臓は栄養が少ない中で動かなくてはならなくなります。冠動脈は多少細くなったくらいではあまり自覚症状は出てきませんが、非常に細くなると段々と症状が出てきます。最初は動いたときに胸痛や息切れを感じるようになり、さらに進行すると動かなくても胸痛や息切れが現れます。
近年の医療技術の進歩によって、開胸手術以外で治療することができるようになりました。血管に細い管を入れて行うカテーテル治療は身体への負担が手術よりもだいぶ軽く済むため、狭心症や心筋梗塞の治療における主流になりつつあります。
しかし、冠動脈バイパス術は廃れることのない有効な治療です。というのも、左冠動脈主幹部(左前下行枝と左回旋枝に分かれる前の根元の動脈)が狭い場合や3本の冠動脈の全てが狭い場合にはカテーテル治療を受けることができない可能性が高いです。そのため狭くなった冠動脈を助ける血管を作る手術(バイパス術)が必要になります。
冠動脈が狭くなるとその下流には血液が行き渡りにくくなります。冠動脈バイパス術では、血液の足りなくなっている下流に対して新しい血管(バイパス)を作って血液を補充します。このバイパスに主に用いられる血管は内胸動脈・大伏在静脈などです。
カテーテル治療に比べて身体の負担が大きく傷跡も残りますが、確実に血流を確保できることが利点になります。またカテーテル治療は留置したステントが詰まったり、治療後に抗血小板薬(血をサラサラにする薬)を飲まなければならなかったりするため、患者さんの状況によって治療法が選択されます。
冠動脈バイパス術と心臓カテーテル治療の違いについて
冠動脈バイパス術と心臓カテーテル治療は特徴が異なります。各々のメリットとデメリットを下の表に示します。
【冠動脈バイパス術と心臓カテーテル治療の違いまとめ】
|
冠動脈バイパス術 |
カテーテル治療 |
身体の負担 |
非常に大きい |
比較的小さい |
再狭窄 |
ない |
一定確率で起こる |
治療後の生活 |
内服は必須ではない |
抗血小板薬の内服が必要 |
例えば高齢で内服を欠かさずに行うことが難しければ、カテーテル治療を行ってもいずれまた冠動脈が詰まってしまう可能性が高くなります。患者の状況次第で最適な治療法を選択する必要があります。
5. 心臓リハビリテーションとは
狭心症が悪化して急性心不全に至ったときには安静が非常に重要になります。一方で、治療によって病状が落ち着いてからは心機能を回復させる目的の心臓リハビリテーションが重要になってきます。
また、できるだけ心機能を回復させることが心臓リハビリテーションの大きな目標になりますが、これ以外にも効果が期待できるとされています。
心臓リハビリテーションは何を目標にするのか
日本心臓リハビリテーション学会によると、心臓リハビリテーションとは「自分の病気のことを知ることから始まり、患者さんごとの運動指導、安全管理、
心臓リハビリテーションを行うと運動耐容能(身体が運動の負担に耐える能力)が改善するため、再入院率の低下や長期生命
心臓リハビリテーションは次のことを目標に行います。
- 早期離床(できるだけ早い段階から身体を動かすようにする)して、必要以上に安静にすることによる弊害(褥瘡、肺塞栓症、身体的および精神的なバランスの悪化など)を予防する
- 迅速かつ安全な退院と社会復帰へのプランを立案し実現する
- 運動耐容能の向上により
QOL (Quality of Life:生活の質)を改善させる - 包括的な患者教育と疾病管理により心不全の重症化や再入院を予防する
入院中だけでなく状態が落ち着いて退院してからもリハビリテーションを継続することでこれらの目標が達成しやすくなります。そのためには、本人の動機づけと成功体験は重要ですので、心臓リハビリテーションをチームで包括的に行う必要があります。また、生活環境の整備や家族の協力は大切な要素になります。
心臓リハビリテーションではどんなことを行うのか?理学療法や運動療法について
ベッドから離れない生活を送っていると、全身の筋肉が衰えて運動能力も下がってしまうため、ますますベッドから離れられなくなります。完全に寝たきりになるとどんどん心身の状態が落ちてしまうため、うつ病などの精神疾患になることも少なくありません。そこで心臓リハビリテーションは病気から回復するだけではなく、社会生活に復帰することを目標とします。
心臓は筋肉でできているため鍛えることが大切です。心筋が鍛えられると運動ができる範囲(運動耐容能)が広がります。しかし、鍛えるつもりでその人ができる範囲を超える運動負荷をかけると、かえって心臓の状態が悪くなってしまいます。
「自分ができる範囲」がどの程度なのかを医学的に推し量ることが最初のステップになります。「自分ができる範囲」がわかったところで、その範囲を超えない程度の運動メニューを専門のリハビリの先生に作ってもらいます。
次に、こうして作られたメニューを疲れすぎない範囲でこなします。こなしているうちに段々と強い負荷に耐えられるようになってくるので、やれる範囲の運動を根気よく行うことが大切です。
目安となる簡単な目標としては次のものがあります。
- ベッド上の運動(関節の運動など)
- 座った状態を保つ
- 立った状態を保つ
- 短距離を歩行する
- 長距離を歩行する
- 6分間歩行する
- 自転車こぎをする
- 軽いエアロビックスをする
これらをいきなり駆け上がることを目指すのではなく、段階的に達成することが大切です。そうすることで少しずつ状況が好転します。個人の状況によって目標は異なるので、自分の身体のしんどさやリハビリテーション終了後の目指したい生活について、医療者とよく相談するようにして下さい。
ただでさえ心機能が低下して苦しい状態なのに、運動するとさらに苦しさを伴います。しかし、運動療法によって得られる効果は大きいので、運動療法はよほど重症(NYHA4度程度:何もしなくても息が苦しくて生活が妨げられる)な状態でない限り行うべきです。自分の治療がどのくらいの効果があるのかを知らないで苦しいことを続けるのは非常に苦痛ですので、患者さん自身が運動療法の効果を知っておくことは大切です。以下が運動療法で得られる効果です。
- 運動耐容能の改善
- 心臓への効果
左心室 機能:安静時の左室駆出率不変または軽度改善、運動時の心拍出量増加反応の改善、拡張早期の左心室機能改善- 冠循環:冠動脈内皮機能改善、運動時心筋灌流改善、冠側副血行路増加
- 左心室リモデリングの抑制
- 末梢効果
- 骨格筋:筋量増加、筋力増加、有酸素条件下の代謝改善、抗酸化酵素の発現増加
- 呼吸筋の改善
- 血管内皮:内皮依存性血管拡張反応の改善、一酸化窒素合成酵素発現の増加
- 神経体液因子
自律神経 機能:交感神経の活性抑制、副交感神経 の活性亢進、心拍変動の改善- 呼吸:呼吸中枢CO2感受性改善による換気応答の改善
- 炎症マーカー:炎症性サイトカイン(TNFα等)低下、
CRP 低下
- QOL(生活の質)の改善
(『慢性心不全治療
非常に細かい内容ですので全てを把握する必要はありませんが、心臓リハビリテーションによって心機能・呼吸・神経などに良い効果があることは知っておくと良いでしょう。
精神的サポート
心機能が低下して入院が必要になり治療を受けるとき、さまざまな不安や恐怖が襲ってきます。突然現れた症状の苦痛や今後のことへの不安、究極的には死への恐怖などさまざまなプレッシャーを感じます。こうした不安や恐怖から一時的な錯乱(せん妄)状態になる人も多いです。また、精神的に落ち込んでしまい、うつ状態になる人も少なくありません。心機能が低下して心不全となった人で、重症度ごとにうつ状態が現れる割合のデータがあります。
【心不全のNYHA分類とうつ状態の関連】
心臓の重症度(NYHA分類) |
うつ状態の発症頻度 |
Ⅰ |
11% |
Ⅱ |
20% |
Ⅲ |
38% |
Ⅳ |
42% |
NYHA分類は心不全の重症度を表します。Ⅳが最も重症です。重症の心不全がある人ほど、うつ状態に陥る割合も高いことが読み取れます。
今までできていたことができなくなる不安や羞恥心も大きく、心不全患者に対する精神的なサポートは重要です。一方で、自宅においても精神的なサポートは重要です。リハビリテーションに対するモチベーションを保つのに一役買えるサポートです。
『急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)』では次のサポートが有効であると述べています。
- 早い時期から家族との面会時間を確保する
- 患者の訴えを遮らずに聞く
- 検査や処置の前にその目的や方法を説明し不安を取り除く
- 不安や疑問を訴えやすいように積極的に声をかける
- 睡眠時間を確保するように配慮する
- 活動制限や面会制限によってストレスが増大しないように気分転換できる活動を考慮する
- 検査や治療、リハビリの計画を説明することで、患者が自分の今後の予定をイメージしやすいようにする
- 落ち着きのなさや不眠が続く場合は
不穏 やCCU症候群を疑い、予防的対処を考える
心臓リハビリテーションに対して必要なサポートは個人個人で異なります。本人やその家族と医療者がよく話し合うことで、最適なサポートを目指します。
参考文献
・日本循環器学会ほか, 急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)
・日本循環器学会ほか, 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
・Depression in Heart Failure: A Meta-Analytic Review of Prevalence, Intervention Effects, and Associations With Clinical Outcomes. J Am Coll Cardiol 2006;48(8):1527-37
患者の知識向上のために必要なもの
入院中は医療者が患者さんの状態について細かく管理してくれます。治療はもちろん生活の状況や体調面などさまざまなことを見てくれます。
- 食事
- 内服薬
- 運動
- 体重
入院中はこれらをチェックしながら心不全の状態が管理されますが、退院した途端に医療者の管理がなくなります。通院や訪問看護などを行いながら定期的に状態が確認されますが、日常で心不全の状態を管理するメインプレーヤーは医療者から自分自身に変わります。そのため患者さん自身が病気を正しく把握して、生活を改善することはとても大事です。
退院後は次のことに気をつけると良いです。
- 毎日の体重測定と目標体重の比較
- 目標体重よりもだんだんと増えていくような場合には心不全の悪化を考える
- 心不全再発時の症状や身体の変化を知っておく
- 症状や身体の様子を毎日自己チェックし悪化の早期発見に務める
- 服薬を遵守し継続する
- お薬カレンダーなど飲み忘れがないための工夫
- 塩分摂取を制限する
- 過度のアルコール摂取を控える
- アルコール性心筋症の場合は完全な断酒が必要
- 禁煙する
- 適度な運動療法を継続する
- 身体への負荷が強すぎても良くない
- 心臓に関わる持病を適切に管理する
患者さんの知識向上は、運動耐容能の改善やQOLの向上のみならず再入院の予防にも重要です。知っておくポイントを医療者にあらかじめ聞いておくようにして下さい。