ふせいせいきしゅっけつ(ふせいしゅっけつ)
不正性器出血(不正出血)
生理(月経)の時以外に膣や子宮から出血すること
7人の医師がチェック 75回の改訂 最終更新: 2020.07.26

知っておくべき不正性器出血(不正出血)の注意点

思春期や更年期では不正性器出血が起こりやすく、特に更年期はそれまでの月経から周期や日数が変化して不安になる人が多いです。どのような時に注意すべきかについて見ていきます。妊娠中の出血はとても心配になると思います。すぐに受診した方が良い場合や妊娠時期による注意点などについて説明します。特に、がんや性感染症が性器出血から見つかることもあります。

1. 不正性器出血が起きやすい人はどんな人か?

不正性器出血はさまざまな年代で起こりますが、思春期や更年期には多く起こります。思春期や更年期では女性ホルモンの分泌が不安定になるからです。更年期になると今まで定期的に起こっていた月経の間隔や長さに変化が起こることで、不安になる場合もありますが、卵巣の変化に伴う正常な変化ですので、ほとんどの場合は心配はいりません。思春期と更年期の性器出血の特徴について説明します。

思春期

思春期は脳の月経周期を調整するメカニズムが未熟で不安定なため、機能性子宮出血を起こしやすい時期です。機能性子宮出血とは、原因となる病気がなく、女性ホルモンの分泌異常によって起こる不正性器出血のことです。脳からの月経周期の司令がうまくいかないため、卵巣からの女性ホルモンの分泌がうまくいかずに不正性器出血を起こします。機能性子宮出血の約20%は20歳未満に起こります。

思春期にはしばしば、通常の月経周期よりも短い周期の出血や、出血日数が長くて出血が多い月経様の出血が起こります。こうした出血があっても、身体の成熟とともに正常の月経周期に整うため、出血があまり気にならなければ経過観察で構いません。出血によって日常生活に不便を感じるようであれば、産婦人科に受診して他の原因がないかを調べたうえ、ホルモン剤を内服して月経周期を整える治療などを検討します。

更年期

更年期は卵巣機能の低下が起こるため、ホルモン分泌が不安定となることで機能性子宮出血が起こりやすくなります。機能性性器出血の約50%は45歳以上で起こります。卵子の数や質の低下により、卵巣ホルモン(エストロゲン)や黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が不安定になるため、月経様の出血が不定期に起こるようになります。具体的には下記のような場合があります。

  • 通常の月経周期よりも短い周期での出血を繰り返す場合
  • 一ヶ月の半分以上にわたって少量の出血が続く場合
  • 鮮血の出血が終わった後も、だらだら茶色いおりものが続く場合
  • 数ヶ月、月経がなかった後に大量の出血が起こる場合

いずれもホルモンの分泌異常に伴って起こる出血です。それまで定期的に起こっていた月経が上記のような状態をへて、出血の間隔が徐々に延長します。1年間月経がなければ閉経したと言えます。閉経に向かって徐々に出血がおさまるため、貧血の症状が強くない場合には経過観察で構いません。しかし、出血による貧血などの症状が強い場合にはホルモン療法などの治療もありますので産婦人科に相談してみてください。

更年期は機能性子宮出血が多い時期ではありますが、子宮体がんなども起こりやすい年齢ですので、定期的な子宮体がん検診を受けておくことも重要です。

2. 妊娠中の不正性器出血で注意すること

妊娠中には妊娠初期から妊娠後期までさまざまな時期で性器出血が起こることがあります。すぐには受診しなくても大丈夫な場合と、すぐに病院に受診したほうがいい場合にわけて説明します。

すぐに受診する必要のない妊娠中の性器出血

妊娠中の性器出血では妊娠経過に問題が起きている場合が多いのですが、下記の場合はすぐに医療機関を受診する必要はありません。

  • 正常な妊娠経過で起こる出血
    • 妊娠2-3週:着床時の出血
    • 妊娠37週以降:産徴(おしるし)
  • 正常ではない妊娠経過で起こる出血

正常経過の妊娠でも妊娠のごく初期と分娩前には性器出血が起こることがあります。

着床時の出血はないことのほうが多いですが、妊娠2-3週頃に起こります。出血量はほとんどの場合がティッシュにつく程度の出血ですが、まれに月経のような出血になることがあります。

産徴はおしるしと呼ばれるもので妊娠37週を過ぎて起こる性器出血です。500円玉1個から2個程度の出血が起こります。産徴はある人もない人もいます。産徴は分娩に備えて子宮の出入り口が軟化している証拠ですので、持続的な腹痛などがなければ問題はありません。破水もしくは陣痛が起きたらかかりつけの医療機関に連絡して受診してください。

正常ではない妊娠経過が考えられる場合でも、妊娠12週未満の場合にはすぐに医療機関に受診する必要はありません。妊娠12週未満の性器出血では流産切迫流産が考えられますが、安静が唯一の治療になるため、夜間や休日にすぐに受診する必要はありません。この時期の出血で強い腹痛がない場合には、まずは家で安静にして翌日または次回の妊婦検診日に医療機関に受診してください。

すぐに病院に受診した方が良い妊娠中の性器出血

妊娠37週前の性器出血では、上記のすぐに受診する必要がない場合を除いて、医療機関に連絡をして対応を問い合わせてください。特に下記の場合には早めに受診することをお勧めします。

  • 真っ赤な鮮血の性器出血
  • 大量の性器出血(ナプキンが1時間でいっぱいになるなど)
  • 持続的な下腹部の痛みや張りを伴う場合
  • 前置胎盤低置胎盤と診断されていた場合
  • 今まであった胎動が急激に減少した場合

妊娠中の性器出血では、妊娠の経過に何らかの異常が起きている可能性があります。妊娠中期から妊娠後期にかけては切迫早産、妊娠後期では割合が少ないものの常位胎盤早期剥離などの可能性もあります。適切な治療を行わないと赤ちゃんにも、お母さんにも悪い影響が出る可能性がありますので、性器出血が起こった場合には医療機関に問い合わせて早めに受診してください。

以下では妊娠の時期ごとに分けて、出血があった時に注意することを説明します。

妊娠初期の出血で注意すること

妊娠初期に出血が起こった場合で、激しい腹痛が伴うときは早めに医療機関に受診してください。妊娠初期の出血の多くは流産切迫流産が原因ですが、まれに異所性妊娠が原因となるからです。正常の妊娠では子宮内膜に受精卵が着床しますが、異所性妊娠では子宮内膜以外に受精卵が着床して妊娠します。子宮と違って赤ちゃんが育つスペースがないので、異所性妊娠を起こした部分が破裂することがあります。

異所性妊娠では激しい腹痛や性器出血が起こります。着床した場所が破裂すると、お腹の中で大出血を起こして緊急手術が必要になります。激しい腹痛を伴う性器出血がある場合には、異所性妊娠が考えられるため、医療機関に受診してください。

異所性妊娠のほか、妊娠初期の性器出血で最も多いのは流産(または切迫流産)です。妊娠12週までに起こる流産は赤ちゃんの染色体異常や遺伝子異常などで起こることがほとんどです。お母さんの仕事が忙しかったから、ストレスが多かったからなどの影響はほとんどありません。治療方法は安静にすることなので、強い腹痛がある場合をのぞいて、夜間や休日などに医療機関にすぐに受診する必要はありません。翌日もしくは指定されていた健診日に受診してください。

妊娠初期の流産を繰り返す場合には習慣性流産などの不育症と診断されます。不育症の場合には原因を調べて治療を行うことで、流産などを防いで妊娠出産ができるかもしれません。流産を繰り返している場合には産婦人科で相談してみてください。

妊娠中期の出血で注意すること

妊娠中期の出血は主に切迫早産を原因とした出血です。状況に応じて薬物治療などが必要になりますので、かかりつけの医療機関に問い合わせて対応について相談してください。切迫早産の原因には様々なものがありますが、特に前の出産時に早産であった場合、頸管無力症と診断された場合、早期の子宮頸がんに対する子宮頸部円錐切除を受けたことがある場合などは早産になりやすくなるので注意が必要です。以前にこのような診断を受けていた場合にはあらかじめ担当のお医者さんに伝えておいてください。

妊娠後期の出血で注意すること

妊娠後期では切迫早産の他に、胎盤の異常によって不正性器出血が起こります。胎盤ができた位置の異常が前置胎盤で、胎盤が分娩前に剥がれてしまう異常が常位胎盤早期剥離です。それぞれの注意点についてみていきましょう。

前置胎盤

前置胎盤の場合には妊娠28週以降で性器出血が起こりやすくなります。前置胎盤そのものを予防する方法はありませんが、出血の予防には激しい運動や性交渉は避けることをお勧めします。出血した場合にはかかりつけの医療機関に受診してください。

常位胎盤早期剥離

常位胎盤早期剥離は特にリスクがない順調な妊娠経過にも起こりうる病気です。妊娠32週以降に起こることが多いのですが、いつ起こるのかを予測することはできません。妊娠高血圧症候群や子宮内感染などがリスクとなって、常位胎盤早期剥離が起こりやすくなりますが、リスクがない場合にも起こりうる病気です。予測することが難しいため、起きた後に速やかに対応することが最も良い治療になります。

自分で気づくことができる症状には、性器出血と持続的な腹痛があります。症状が軽くて明らかな性器出血や強い腹痛として感じられない場合もあります。ほかにはお腹の張り、胎動がいつもより少ないなどの症状が起こります。軽い症状であっても多くの場合は、持続的に子宮が収縮するためお腹全体が硬く感じます。症状はより強い場合もあります。

常位胎盤早期剥離は命に関わることもあるので、軽い腹痛が続く場合や、胎動がいつもより少ない場合などにはかかりつけの医療機関に連絡して受診してください。

3. 不正性器出血の予防のためにできること

不正性器出血は様々な原因で起こります。不正性器出血を予防できる方法としては性感染症にかからないようにすることと、がん検診を受けることです。これらについて説明します。

性感染症(性病)の予防

性行為(セックス)で感染する感染症を性感染症とよびます。このうち淋菌などの細菌クラミジア子宮頸管炎子宮内膜炎を起こすことで、不正性器出血の原因になります。また、ヘルペスウイルス性器ヘルペスを起こして不正性器出血の原因になります。

これらの性感染症はコンドームを適切に使用することで感染の可能性を低くすることができます。経口避妊薬低用量ピル)を内服している場合には妊娠を防ぐことはできますが、感染症を防ぐことはできないため、コンドームを併用することが重要です。

不正性器出血の直接の原因にはなりませんが、性行為を介して感染する感染症は他にも下記のものがあります。

梅毒の感染は最近20歳代前半の女性、30-40歳代の男性に急激に広がっています。梅毒に感染すると3週間程度で、感染した部位の性器や口にできもの、しこり、ただれができますが、多くは自然に改善します。その後も手足に発疹ができますが、多くは自然に改善します。このように、初期梅毒は症状が自然に改善するため感染に気がつかない場合もあります。しかし、放置すると神経や心臓に感染が広がり、数年から数十年後に重大な異常を起こすため、少しでも症状に心当たりがある場合には、医療機関で相談してみてください。梅毒については「梅毒の詳細情報」でも説明しています。

B型肝炎は出産時に母親から感染する場合や、性行為で感染する場合があります。肝障害により発熱や倦怠感などの症状が起こります。急性期に重症の肝炎になる場合や、慢性的に感染して十数年を経て肝硬変肝細胞がんの原因になることがあります。

HIV感染症や膣トリコモナス症も性感染症です。子宮頸がん尖圭コンジローマの原因になるヒトパピローマウイルスも性行為で感染します。

性感染症の予防にはコンドームが有効です。特定のパートナーしかいない人でも、パートナーが過去に他の人との性行為があれば、過去のパートナーからこれらの感染症に感染している可能性があります。現時点で二人とも性感染症に感染していないことが確実で、お互いに他のセックスパートナーがいなければ性感染症にかかる可能性はほぼないと考えらます。それ以外の場合には感染症の予防を目的として、適切にコンドームを使用することで、性感染症のリスクを減らすことができます。

定期的ながん検診:子宮頸がん・子宮体がん

子宮頸がん子宮体がんは不正性器出血の原因になります。いずれも初期は無症状ですが病気が少し進行すると不正性器出血の症状が現れます。いずれのがんも早期発見できれば治ることができますが、進行した状況では治療が困難となるため早期発見が重要です。子宮頸がん検診は20歳以上で性交渉経験がある場合は定期的に受けることが推奨されています。子宮体がんの検査は不正性器出血などがあった場合に受けることが勧められます。

子宮頸がん検診

子宮頸がん検診は各自治体が行っています。自治体ごとに異なりますが、多くは20歳から40歳までは2歳きざみで検診を行っています。詳細に関しては各自治体のがん検診窓口で調べるか問い合わせてみてください。子宮頸がん検診として行われている検査は、子宮頸部の細胞を綿棒などでとる検査で、軽い痛みを伴います。検査後は数日間不正出血がおこります。がん細胞の有無だけでなく、原因となるヒトパピローマウイルスの感染を調べることができる方法もあります。

子宮体がん検診

子宮体がんの検診は子宮頸がんの検診と異なり定期的には行われません。子宮体がん子宮頸がんと異なりがんの検出が難しいことと、検査に伴う痛みや感染のリスクなどの負担が大きいため、不正性器出血のある場合によく調べるという方法が一般的です。

子宮体がんの患者数は50歳代が最も多いですが、30歳代でも診断される場合があります。30歳代以降で不正性器出血があり、次のような子宮体がんリスクがある場合には、一度よく調べてもらうことをお勧めします。

  • 肥満
  • 月経不順
  • 閉経が52歳以降だった場合
  • 出産経験がない場合
  • 抗エストロゲン製剤の使用

乳がんのホルモン治療などで抗エストロゲン製剤を使用していた場合には、使用を中止した後も子宮体がんのリスクはありますので、不正性器出血が起きた場合には必ず検査をうけてください。

子宮体がんの検査は子宮内膜の細胞や組織を採取する方法で、子宮内に器具を入れて行うため痛みが伴います。また、まれに膣から子宮内への感染を起こすことがあります。これらの検査で子宮体がんもしくは子宮内膜増殖症が疑われた場合には、子宮内膜全体を剥がして検査を行う子宮内膜全面搔爬術が行われます。

4. 不正性器出血を経験した人が注意すること

不正性器出血が再発しないように注意した方が良いことや再発時の注意点について説明します。

子宮などの感染症後の注意点

不正性器出血を起こす子宮頸管炎子宮内膜炎の多くの原因は淋菌などの細菌やクラミジアです。外陰部炎症を起こす性器ヘルペスも不正性器出血の原因になります。

これらは性感染症とよばれ性行為で感染します。性感染症と診断された場合には、治療が終了するまで性行為は避けることと、パートナーも合わせて治療を行うことが重要です。パートナーも感染していた場合には、再度パートナーから感染する可能性があるからです。

子宮内の感染を繰り返すと不妊や流産・早産の原因になるため、感染を予防することが重要です。経口避妊薬(低用量ピル)を内服している場合には妊娠を防ぐことはできますが、感染症を防ぐことはできません。コンドームを適切に使用することで感染症を防ぐことができます。

ヘルペスウイルス、クラミジア淋菌などをお母さんが持っている場合には、出産時に赤ちゃんに感染することがあります。そのため、出産の前に感染の有無を調べて出産方法を検討する必要があります。以前に感染したことがある場合には、必ず担当のお医者さんに伝えてください。

子宮体がんや子宮頸がんの治療後の注意点

子宮体がん子宮頸がんの治療後は定期的に外来に通院して、検査を受ける必要があります。決められた検査を受けて再発がないかを確認してもらってください。治療後に不正性器出血が再発した場合にはかかりつけの医療機関に相談してください。

出血の再発時の注意点

不正性器出血が再発した場合には、以前と同じ原因による出血かどうかを判断する必要があります。月経周期(生理周期)と異なる時期の出血や、月経の経血量(出血量)が多いなどの症状が再発した場合には医療機関に受診してください。受診時には以前にどのような診断を受けていたかを伝えてください。