ふせいせいきしゅっけつ(ふせいしゅっけつ)
不正性器出血(不正出血)
生理(月経)の時以外に膣や子宮から出血すること
7人の医師がチェック 75回の改訂 最終更新: 2020.07.26

不正性器出血(不正出血)の原因

不正性器出血の原因はさまざまで年代によっても異なります。主な原因はクラミジア淋菌の感染などによる炎症子宮筋腫などの良性腫瘍、子宮がんなど悪性腫瘍、出血しやすい全身の病気、薬剤、女性ホルモンの不安定な分泌、妊娠などがあります。小児期から老年期まで年代によってどの原因が多いかが異なります。ここでは不正性器出血の主な原因について見ていくとともに、年代別に多い原因についても説明します。

1. 妊娠に関連した不正出血

妊娠中はさまざまな原因で不正性器出血が起こります。妊娠に関連した不正性器出血では妊娠の時期によって考えられる原因が違います。時期ごとの主な原因は次の通りです。

妊娠中は初期から後期にかけて様々な原因で性器出血が起こります。妊娠初期の不正出血では妊娠に関連した出血だと気がつかずに、月経によるものだと間違うこともあります。妊娠に関連した出血を見逃さないためには、月経時期がずれて起きた性器出血はもちろん、いつもと同じ月経周期に起きた性器出血でも通常の月経と経血量や期間が異なる場合には妊娠を考える必要があります。妊娠中期の性器出血では切迫早産の可能性があります。妊娠後期では胎盤の異常による出血が起こります。

妊娠のごく初期に起きる着床時の出血をのぞいて、妊娠中に性器出血があった場合には医療機関への受診をしてください。特に異所性妊娠常位胎盤早期剥離では、激しい腹痛に性器出血が起こり、お腹の中への大量出血、全身への血栓傾向などで赤ちゃんのみではなく、お母さんの命に関わる場合があります。性器出血と強い下腹部痛があり、少しでもおかしいと感じた場合には医療機関に受診してください。それぞれの状態について説明します。

着床時の出血

受精卵が子宮内膜に着床する際の妊娠2週から3週ごろの、まだ妊娠に気づいていない時期に数日間出血が起こることがまれにあります。これは受精卵が子宮内膜に入り込む時に、子宮内膜の血管を傷つけてしまうために起こります。

出血量は個人差があり、多くはティッシュに付着する程度の少量の出血です。人によっては月経のような出血が起こることもあります。この着床時出血は妊娠の経過に問題ないことがほとんどです。着床時出血があってもなくても気を付けることなどは特にないので、着床時出血があるかを気にする必要はありません。

この着床時の出血はちょうど月経予定日の近くで起こるため、人によっては月経と勘違いしてしまうこともあります。普段から基礎体温表を付けておくことで、月経と着床時の出血を見分ける参考になります。妊娠時の出血の場合には高温期が続き、月経の場合には基礎体温が下がります。

しかし、高温期が続いてもすぐに医療機関で妊娠を判定することはできません。時期が早すぎて妊娠かどうか判断できないからです。月経開始予定日から1-2週間後に妊娠検査薬を使用して、陽性を確認した後に医療期間に受診してください。

流産・切迫流産

流産とは妊娠22週未満の時期に赤ちゃんがお腹の中で死んでしまった状態です。一方、切迫流産とは流産になりかかっている状態です。

妊娠12週未満に起こる流産を早期流産、妊娠12週以降22週未満の流産を後期流産とよびます。流産の8割が妊娠12週までに起こる早期流産です。この時期の流産の原因のほとんどは赤ちゃんの染色体異常などで、お母さんの仕事や運動が原因になることはほとんどありません。

妊娠初期に性器出血があった場合には、流産切迫流産が原因の場合があります。性器出血とともに、軽い下腹部痛も起こることがあります。

妊娠12週未満の切迫流産では有効な薬などがなく、安静で経過をみることになります。そのため、流産切迫流産が起き始めた時点で医療機関を受診しても有効な治療がありません。夜間や休日などに出血があった場合にすぐに受診する必要はなく、翌日に医療機関を受診するか、予定されている健診時に受診をしてください。

しかし、強い腹痛がある場合には異所性妊娠の可能性がありますので、翌日まで待たなくて良いので早めに医療期間を受診してください。

異所性妊娠(子宮外妊娠)

正常の妊娠では受精卵は子宮体部の子宮内膜に着床します。異所性妊娠とは子宮体部の子宮内膜以外の場所に受精卵が着床することをいいます。

尿検査の妊娠反応が陽性にもかかわらず、最終月経開始日から数えて6週以降で経膣超音波検査を行った時に子宮内に赤ちゃんの入った袋(胎嚢:たいのう)が見えない場合には異所性妊娠が強く疑われます。

異所性妊娠は無症状のこともありますが、腹痛や不正性器出血が起こることもあります。腹痛を伴う異所性妊娠はすでに流産がはじまっている状態と考えられます。異所性妊娠流産では通常の流産よりも強い腹痛が起こります。

異所性妊娠の場所によっては不正性器出血を伴いますが、お腹の中のみの出血で、性器出血はあまりないこともあります。

異所性妊娠では妊娠の継続はできません。無症状の場合には無治療で胎嚢が吸収されて治ることがありますが、腹痛や性器出血がある場合には治療が必要になります。治療は手術で胎嚢を取り出します。症状がある異所性妊娠で治療しない場合には病状によっては、お腹の中で大量の出血を起こして、ショック状態になりお母さんも危険な状態になります。適切に治療を行うためにも、妊娠初期に強い腹痛と性器出血が起きた場合には速やかに医療機関に受診してください。

絨毛膜下血腫

妊娠初期に出血を起こす病気として、絨毛膜下血腫(じゅうもうまくかけっしゅ)があります。受精卵が子宮内に着床すると妊娠15週にかけて胎盤ができますが、その過程で胎盤の中に血の塊(血腫)ができてしまうことがあります。絨毛膜下というのは血の塊ができる場所のことです。

絨毛膜下血腫は経膣超音波検査で診断されます。血腫の大きさによって不正性器出血の量が変わります。性器出血とともに下腹部痛が起こる場合もあります。

性器出血があっても赤ちゃんの心拍がきちんと確認できればほとんどの場合は問題ありません。しかし血腫が大きいと感染を起こして絨毛膜羊膜炎から流産になることもあります。

絨毛膜下血腫には根本的な治療法はないため、安静にして自然に血腫が吸収されるのを待ちます。妊娠早期の流産では有効な薬物治療などがありませんが、絨毛膜下血腫に伴う切迫流産でも安静が唯一の治療です。

切迫早産

妊娠22週をこえてからの性器出血では原因の一つに切迫早産があります。妊娠22週以降から37週未満で赤ちゃんが生まれた場合を早産とよびます。切迫早産とは早産になりかかっている状態をさします。性器出血とともに、月経痛と似た子宮が収縮する感覚、下腹痛、下腹部のはり、腰痛などが起こります。出血だけではなく水のようなおりものが増えることもあります。

切迫早産を起こしやすい要因には次のようなものがあります。

  • 母体側の要因
  • 赤ちゃん側の要因
    • 多胎妊娠(双子以上の妊娠)
    • 羊水過多

早産の原因は1/3が感染によるものです。ほかにも、前の出産時に早産であった場合や頸管無力症と診断された場合、早期の子宮頸がんで子宮頸部円錐切除を受けた場合などは早産になりやすくなるので注意が必要です。赤ちゃん側の要因として多胎妊娠や羊水の量が多い羊水過多の状態では早産のリスクがあります。

切迫早産の治療は安静や子宮収縮を抑える治療、病状に応じて感染の治療などが行われます。妊娠中期で性器出血があった場合には早産の可能性がありますので、かかりつけの医療機関に対応について問い合わせてください。

切迫早産については「切迫早産の詳細情報」でも説明しています。

胎盤の異常

妊娠後期には胎盤の異常による不正性器出血が起こりやすくなります。妊娠37週以前に性器出血が起きた場合にはかかりつけの病院に連絡してください。出血の原因になる胎盤の異常は下記の通りです。

前置胎盤低置胎盤常位胎盤早期剥離はいずれも妊娠後期に不正性器出血を起こす病気です。これらの病気が原因となる性器出血の症状の違いは腹痛の有無です。前置胎盤低置胎盤は腹痛がなく、常位胎盤早期剥離は腹痛が起こります。

前置胎盤低置胎盤

前置胎盤低置胎盤は胎盤の位置異常です。出産時に赤ちゃんが子宮から出てくる出口を子宮口と呼びます。胎盤が子宮口を覆っている場合を前置胎盤、子宮口近くにある場合を低置胎盤とよびます。性器出血が起きてからこれらの胎盤の位置異常が診断されることはまれで、多くは妊婦健診の経膣超音波検査で診断されます。前置胎盤低置胎盤では妊娠28週以降に性器出血を起こしやすくなります。性器出血が起きた場合には、入院での治療が必要なのでかかりつけの医療機関に受診してください。

常位胎盤早期剥離

常位胎盤早期剥離は妊娠32週以降に多く起こる、胎盤が分娩前に子宮から剥がれてしまうことです。妊娠経過に問題がない場合でも突然起こります。一旦発症すると赤ちゃんのみならず、お母さんの命にも関わる重い病気です。

常位胎盤早期剥離は、胎盤に血液を送る血管が細くなることや血の塊で詰まることで起こります。胎盤が子宮から剥がれる時の出血により、胎盤と子宮の間に血腫(血の塊)ができます。胎盤と子宮の間に血腫ができる時、血液を固める物質が大量に使われることなどで、お母さんの全身の血液が固まりにくくなる症状が起こります。

常位胎盤早期剥離のリスクとなるものは下記のようなものです。

上記のリスクがあると常位胎盤早期剥離が起こりやすくなりますが、上記のリスクがない場合にも起こりうる病気です。さらに、いつ起こるのかを予測することが難しいため、起きた後に速やかに対応することが重要です。

そのためには症状をあらかじめ知っておく必要があります。主な症状は性器出血と腹痛です。胎盤が子宮のどの部分から剥離したかで、性器出血が起こる場合と、子宮内でのみ出血が起きて外には出血が起こらない場合があります。子宮内のみに出血した場合は性器出血はなく腹痛のみが症状になります。子宮が持続的に収縮するために、お腹を触ると子宮を硬く触れます。腰痛、胎動の減少や消失なども起こります。

症状が強い場合には激しい腹痛や、大量の性器出血が起こるのでわかりやすいのですが、症状が軽い場合には、軽い腹痛と胎動の減少などのみで気づきにくいです。

常位胎盤早期剥離はお母さん、赤ちゃん両方の命に関わる病気であるため、妊娠後期に持続的な腹痛を伴う性器出血がある場合や、軽い腹痛に伴って胎動が減っている場合などの、気になる症状がある場合には、かかりつけの医療機関に連絡をして、対応を聞いてみてください。

2. 子宮・膣などの炎症

子宮や膣に炎症を起こすと不正性器出血の原因になります。

炎症はさまざまな原因で起こりますが、細菌などの病原体が原因の場合には、膣や外陰部の感染から子宮頸部や子宮体部に感染が広がります。クラミジア感染などでは、さらに卵管、卵巣、腹腔内へ炎症が広がり、不妊や流産、早産などの原因になります。診断された時にパートナーを含めて治療を受けることが重要です。

子宮体部、子宮頸部、膣や外陰部にわけて、炎症の原因などについて説明します。

子宮体部の炎症:子宮内膜炎など

子宮体部の炎症の多くは子宮内膜炎で、子宮の内膜に炎症をおこした状態です。子宮内膜炎からさらに周囲に炎症が広がると、子宮の筋層の炎症が起こる子宮筋層炎が起こり、さらに広がると子宮のまわりに炎症が起こる子宮周囲炎になります。

子宮体部の炎症は子宮体部に何らかの原因で病原体が入り、子宮内膜に感染して起こります。多くは膣からの感染が子宮に広がります。原因となる病原体は淋菌などの細菌や、クラミジアなどです。

子宮体部に感染が起きやすい状況としては次のような場合があります。

  • 子宮内に妊娠に関連した組織が残っている場合
    • 流産
    • 人工妊娠中絶後
    • 分娩後
  • 子宮内を触る処置や手術を受けた場合

子宮内に組織が残っている場合には、その組織に感染して炎症が起こります。流産や人工妊娠中絶後に組織が残った場合、分娩後に胎盤などが残存した場合に感染の原因になります。子宮内に傷がつく処置を受けた後は、その傷から感染を起こすことがあります。子宮内避妊器具を使用している場合には、傷がつくことや子宮内に異物が入っていることが感染の原因になります。流産後の場合には、子宮内に組織が残っていることや、子宮内容除去術による子宮内の処置が感染の原因になります。まれですが子宮体がんの検査後にも感染が起こることがあります。

月経が起こると感染していた子宮内膜が剥がれ落ちます。月経がない場合には、感染した粘膜が剥がれ落ちる機会がなく、子宮体部の炎症が持続的に起こりやすい状態になります。

子宮内膜炎の症状は下腹部の痛み、不正性器出血、悪臭のあるの混じったおりものや、褐色のおりものです。治療は原因の病原体に合わせて抗菌薬を使用します。

子宮頸部の炎症:子宮頸管炎(淋菌・クラミジア感染)など

子宮頸部に病原体の感染による炎症が起こると、子宮頸部は子宮頸部びらんと呼ばれる粘膜が弱い状態になります。弱くなった粘膜は通常では出血が起こらないような刺激で出血を起こすことがあります。

子宮頸部に感染を起こしやすい病原体はクラミジア淋菌です。症状がないこともありますが、おりものが増えることや、性器出血を起こすことがあります。分泌物の検査を受けると感染の有無が確認できます。クラミジア感染では子宮頸部から子宮体部に感染が進み、卵巣や肝臓周囲の腹腔内に感染を起こして、不妊や流産、早産の原因になります。検査で感染が確認された場合には必ず治療を行います。この時、パートナーも一緒に治療を受けることが重要です。女性だけが治療を受けた場合には、再度パートナーから感染する可能性があるからです。

膣や外陰部の炎症:萎縮性膣炎、性器ヘルペスなど

膣や外陰部の炎症はつぎのような原因があります。

萎縮性膣炎は卵巣から分泌される卵胞ホルモンエストロゲン)が減少することでおこる膣の炎症です。エストロゲンが減少すると膣の壁が薄くなり、出血しやすくなります。閉経後、産後(産褥期)、エストロゲンを抑える薬(抗エストロゲン薬)の使用中、両側卵巣の摘出後などに起こります。症状は少量の性器出血、痛みなどが起こります。

性器ヘルペスヘルペスウイルスが外陰部に感染して起こります。外陰部に赤い発疹や、水ぶくれ、潰瘍がたくさんできます。ひりひりした痛みや、灼熱感が起こるとともに、性器出血が起こることもあります。

膣カンジダ症は膣にカンジダという真菌(カビの仲間)が感染して起こります。症状は、外陰部のかゆみ、酒かす様のおりもの、膣のひりつき感などがありますが、性器出血はあまり起こりません。

3. 子宮・膣などの腫瘍

子宮体部、子宮頸部、膣、外陰部の腫瘍はいずれも不正性器出血の原因になります。不正性器出血の症状には経血量が多くなる過多月経を起こす場合と、月経でない時に出血が起こる場合があります。子宮体部の良性腫瘍である子宮筋腫子宮腺筋症では過多月経が起こります。悪性腫瘍である子宮体がん子宮頸がん外陰がんなどでは月経以外の時に出血がよく起こります。不正性器出血の原因となる腫瘍について、子宮体部、子宮頸部、膣・外陰部にわけて説明します。

子宮体部の腫瘍:子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮体がんなど

子宮体部の腫瘍は不正性器出血の原因になりますが、年代によってどの腫瘍になりやすいかは異なります。性成熟期には子宮筋腫子宮腺筋症子宮内膜症などの割合が多いです。一方、がんになる一歩手前の子宮内膜増殖症や、悪性腫瘍である子宮体がんの多くは閉経後の50歳代に多く起こります。子宮体がんは近年、若年化が進んでおり30歳代の発症もあります。

子宮筋腫

子宮の筋肉の層(筋層)にできた良性の腫瘍です。子宮筋腫は40歳以上の女性に多く起こります。性成熟期の女性では2-5割が子宮筋腫を持っていると言われています。子宮筋腫は筋層のどの部分にできるかで分類され、漿膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫の3種類があります。

不正性器出血のパターンとしては過多月経が多く起こります。過多月経を起こしやすいものは、粘膜下筋腫や、筋層内筋腫で子宮の内側に近い部分にできたものです。その他に月経時の腹痛が強いこと(月経困難症)、下腹部の圧迫感、不妊などの症状がありますが、約半数では無症状です。

診断は子宮内の診察や、経膣超音波検査、腹部MRI検査などで行います。子宮筋腫を原因とする過多月経貧血の程度が強い場合には鉄剤の内服、ホルモン治療、手術治療などが行われます。

子宮筋腫については「子宮筋腫の詳細情報」でも説明しています。

子宮腺筋症

子宮内膜が子宮の筋肉の層に入り込んでしまう病気です。以前は閉経間近の女性に多い病気でしたが、最近では初潮の若年化や初産の高年齢化が影響して、30歳代で診断される場合も多いです。

子宮内膜は通常は子宮の内部を覆っていますが、子宮線筋症では子宮内膜に似た組織が子宮の筋層内に入り込みます。筋層内にある子宮内膜に似た組織はエストロゲンに反応して、通常の子宮内膜と同じように増殖して月経時には剥がれ落ちます。月経時に筋層内の子宮内膜組織が分厚くなることや出血を起こすことで、子宮が正常の場合よりも強く収縮するため月経の症状が強く起こります。最も多い症状は過多月経や不正性器出血です。その他に、月経時の腹痛(月経困難症)、骨盤周囲の痛み、不妊などがあります。

子宮内膜症

子宮内膜の組織が子宮以外の場所にできた病気です。子宮腺筋症は子宮内膜が子宮筋層に入り込むものですが、子宮内膜症は子宮外にできたものです。子宮内膜症は子宮のまわりに起こりやすく、卵巣にできて内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)と呼ばれる状態になることもあります。症状は月経時の腹痛(月経困難症)が多く、不正性器出血は少ないです。

卵巣にできた内膜症性嚢胞はまれに卵巣がんになることがありますので、定期的な検査を行い、担当のお医者さんと治療方針の相談をしてください。

子宮内膜症については「子宮内膜症の詳細情報」でも説明しています。

◎子宮内膜ポリープ

子宮内膜ポリープは子宮内膜の細胞が一部増えて、子宮の内側に飛び出した良性の腫瘍です。症状は無症状のこともありますが、過多月経や不正性器出血を起こすこともあります。

子宮内膜増殖症

子宮内膜増殖症は子宮の内膜が異常に増殖した状態です。過多月経や月経以外の時期の不正性器出血の原因になります。子宮内膜増殖症の中には子宮体がんになるものもあるので、詳しい検査が必要です。

顕微鏡で観察すると、細胞が正常な見た目をしている場合と、がんになりそうな見た目をしている場合があります。細胞ががんになりそうな見た目をしている場合には全身麻酔で子宮内膜を全て摘出する子宮内膜全面搔爬術を行い、子宮体がんのがん細胞がないかどうかを調べます。その後の治療は妊娠出産の希望などを総合的に判断して行います。子宮内膜症と名前が似ていますが異なる病気です。

子宮体がん

子宮体がんは子宮の内側を覆っている子宮内膜からできるがんです。閉経後の女性によく起こります。最も多い症状は不正性器出血です。閉経後に不正性器出血が続く場合には、早めに婦人科に受診をして、検査をしてもらってください。その他の症状としては、おりもの、排尿痛、性交中の痛み、下腹部の痛みなどがあります。

検査では子宮体部の細胞や組織を一部採取して、がん細胞がいないかを調べます。画像検査では経膣超音波検査、腹部CT検査、腹部MRI検査などを行ってがんの広がりを調べます。検査の結果によって治療方法を検討します。

子宮頸部の腫瘍:子宮頸管ポリープ、子宮頸がんなど

子宮頸部の腫瘍では良性腫瘍の子宮頸管ポリープと、悪性腫瘍の子宮頸がんが不正性器出血の原因になります。子宮頸部の腫瘍があると、性行為での刺激で出血が起こりやすいです。

子宮頸管ポリープ

子宮頸部の粘膜が一部隆起してできた良性の腫瘍です。主な症状はおりものに血が混じることや、運動や性行為による不正性器出血です。

子宮頸がん

子宮頸部にできるがんです。早期には症状がありませんが、進行するとおりものに血が混じることや、不正性器出血が起こります。不正性器出血は何もしていない時にも起こりますが、性行為に関連して起こることもあります。

子宮頸がんの原因はヒトパピローマウイルスHPV)で、性行為を介して感染します。HPVは大きく2種類に分けられ、がんを引き起こす高危険群と尖形コンジローマなどを引き起こす低危険群があります。性行為を経験したことがある女性の5-8割は生涯で一度はHPVへの感染の機会があると推定されています。HPVに感染した場合でも、約90%の人は一時的な感染のみでHPVは2年以内に体内からいなくなります。しかし10%で何らかの原因で感染が持続します。HPVが持続感染している人のうち10%弱は前がん病変になります。前がん病変は細胞の形態や並び方ががんに近くなった状態のことを言います。前がん病変から実際のがん(浸潤がん)になる人は更に少なくなります。HPVが持続感染した場合に浸潤がんになる割合は1%程度です。

子宮頸がんは30代後半の女性に多いがんでしたが、最近では20歳代にも起こります。年間4000人近い女性が子宮頸がんで命を落としています。

性行為によってヒトパピローマウイルスが感染するため、一度でも性行為を行った女性は子宮頸がんのリスクがあります。早めに診断、治療を行うことで、治療後も妊娠が可能となるので、2年に1回の子宮頸がん検診を受けて下さい。

膣や外陰部の腫瘍

膣や外陰部の腫瘍も出血の原因になります。しかし、子宮頸がん子宮体がんに比べてまれな病気です。外陰がんは女性性器に発生するがんの4%で、膣がんは1-2%です。いずれも刺激などを受けやすい部位のため、不正性器出血やおりものに血が混じる原因になります。ここでは外陰がんについて説明します。

外陰がん

外陰部にできる皮膚がんです。子宮頸がん子宮体がんより高齢の70歳代の女性に多いがんです。ただし、比較的若い女性にもまれに、ヒトパピローマウイルスに関係した外陰がんが起こります。主な症状はしつこく続くかゆみ、外陰部のしこりですが、不正性器出血が現れる場合やおりものに血が混じる場合もあります。

外陰がんにかかりやすい人は下記の人です。

  • ヒトパピローマウイルスに感染したことがある人
  • 尖形コンジローマにかかったことがある人
  • 多くのセックスパートナーのいる人
  • 最初の性交が若年であった人

ヒトパピローマウイルス感染は最近では子宮頸がん検診の時に自費ですが調べることができます。尖圭コンジローマは外陰部にいぼ(疣贅)ができる性感染症です。ヒトパピローマウイルスによって起こります。ヒトパピローマウイルスには多くのタイプがあり、子宮や外陰部のがんと関連する高危険群と、尖圭コンジローマを起こす低危険群があります。

外陰がんは外陰部に症状があることから、腫瘤に気がついても恥ずかしさなどで、受診をためらってしまう人が多いようです。しかし、受診が遅くなってしまうと病状が進行してしまうことがあります。気になる症状がある場合で、上記にあてはまる場合は早めに婦人科に受診してください。

4. 子宮・膣などの損傷:けがや手術操作など

怪我や検査、子宮や膣の手術などの操作で子宮や膣に傷がついて出血することがあります。また、子宮内避妊器具は、子宮内膜に損傷を起こして不正性器出血の原因になります。医療機関で受ける治療が原因になることが多いため、事前に出血時の対応をお医者さんに確認しておくと安心です。

人工妊娠中絶、流産などの子宮内容除去術後

人工妊娠中絶、流産、分娩後に胎盤や卵膜などが残った場合には、子宮内容を取り出す子宮内容除去術を行います。子宮内を器具で触るため、手術後は出血が起こることがあります。出血を抑えるために子宮収縮薬などを使いますが、手術後にじわじわと遅れて出血が起こることがあります。通常は日帰りで手術を行いますが、帰宅後に出血する場合や、子宮内膜炎などを起こして血液まじりのおりものが出る場合もあります。月経2日目くらいの量以上の出血が起こった場合や、気になる症状がある場合には手術をした医療機関に問い合わせてください。

子宮内避妊器具

子宮内避妊器具は子宮内にいれて妊娠を防ぐ小さな器具です。入れた後の数日間は出血や下腹部痛などの月経に似た症状が現れることがあります。

子宮内避妊器具のうち、プロゲステロン(黄体ホルモン)に似た物質が長期間放出されるように工夫されているものがあります。この種類の器具を入れていると、常に黄体ホルモンが子宮に作用しているため、子宮内膜が分厚くなりません。分厚くない子宮内膜は弱く、最初の1ヶ月から半年は毎日不正性器出血が起こることがあります。個人差があり、不定期に出血する場合も、毎日出血する場合もあります。

また子宮内に異物が入っていることで、まれに子宮内の感染を起こして不正性器出血の原因になることがあります。

5. 出血しやすい全身の病気:出血性素因

出血しやすい状況を出血傾向や出血性素因があると呼びます。出血傾向を起こしやすい病気や出血性素因をもつ場合には、不正性器出血をおこすことがあります。通常は出血傾向がある場合は性器出血のみではなく、全身に出血に伴う症状が起こります。出血傾向を疑う症状は下記の通りです。

  • 皮膚の紫色の点状出血や斑状出血
  • 歯茎などからの出血
  • 関節内出血による関節腫脹

出血傾向がある場合には皮膚に紫色の点状や斑状の出血が現れます。この点状や斑状の出血は紫斑とよばれ、指でその部分を押しても色が変わらないのが特徴です。色々なところにぶつけやすい四肢ではなく、お腹などに紫斑がある場合は重症の出血傾向と考えられるので病院に受診してください。

歯みがきなどをした時に、今までは出血しなかった力で出血する場合は、出血傾向の可能性があります。関節内に出血を起こすと関節が腫れることがあります。

出血傾向を起こす病気で、過多月経を起こす主な病気は下記のようなものがあります。

あまり聞き慣れない病気が多いと思います。つぎの項で詳しく説明します。

von Willebrand病は生まれつき出血傾向のある病気ですが、急性白血病再生不良性貧血特発性血小板減少性紫斑病はいずれも生まれてから発症する病気です。子どもでも高齢者でもこれらの病気になる可能性があります。診断が遅れると治療に難渋することがあります。不正性器出血だけではなく、紫斑の症状や歯茎の出血がある場合には、早めに受診してください。

von Willebrand病(フォンヴィレブランド病)

von Willebrand病(フォンヴィレブランド病フォンウィルブランド病)では止血に関連したフォンヴィレブランド因子(フォンウィルブランド因子)が遺伝性に不足または機能が低下することで起こります。遺伝性に起こる病気なので生まれつき出血傾向がありますが、血友病などに比べると出血傾向が軽度であるため、幼少期には気づかず、大人になってから診断される場合がほとんどです。診断のきっかけとなる症状として過多月経があります。

急性白血病

急性白血病は血液細胞の元となる細胞が血液細胞へ成熟する過程でがん化する病気です。急性白血病では数日から数週単位で病状が悪化します。白血病細胞が増えることで、正常な血液細胞が減少して、出血が止まりにくくなります。その他にも、感染症にかかりやすくなることや貧血になることもあります。

再生不良性貧血

再生不良性貧血は血液細胞の元となる細胞(造血幹細胞)が減少する病気です。血を固める血小板も減ることで、出血をしやすくなります。

特発性血小板減少性紫斑病

血を固める機能を持つ血小板が減少する病気です。免疫の異常が原因になり、脾臓で血小板が壊されます。免疫性血小板減少症とも言います。血小板が減るため出血しやすく、止まりにくくなります。

6. 薬の影響:薬剤性出血

薬剤による不正性器出血は大きくわけると下記の薬が原因になります。

  • 抗凝固薬
  • エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンに関連した薬
    • 経口避妊薬低用量ピル
    • 黄体ホルモン製剤
    • 抗エストロゲン薬
  • 高プロラクチン血症を起こす薬
    • 抗精神病薬
    • 抗うつ薬
    • 抗潰瘍薬

それぞれ不正性器出血を起こす仕組みは異なります。

抗凝固薬は心臓や脳の病気で内服する薬で、血を固まりにくくする作用があるため、全身的に出血傾向になり不正性器出血を起こします。

エストロゲンや黄体ホルモンを含んだ経口避妊薬や、乳がんなどの治療に使われる抗エストロゲン薬は子宮内膜に影響して不正性器出血を起こします。

プロラクチンは脳の下垂体から分泌されるホルモンです。妊娠中に排卵をおさえて妊娠を維持する働きや、授乳期に乳汁を分泌する働きがあります。プロラクチンが体内で多いと、排卵が抑制されて月経不順や不正性器出血の原因になります。プロラクチンが増加する原因は、病気や薬物の副作用があります。

それぞれについて次の項で詳しく説明します。

抗凝固薬

抗凝固薬は血液を固まりにくくする作用があります。心房細動慢性心不全、心臓の弁の手術後、脳梗塞などで使われます。全身の血液を固まりにくくする効果があるため、不正性器出血を起こすことがあります。下記のような薬が抗凝固薬です。

いずれも血液を固まりにくくするため出血傾向になり、不正性器出血だけではなく歯茎からの出血や鼻血などが起こることがあります。これらの症状がある場合には薬の効果が強すぎる可能性がありますので、薬をもらっている医療機関に受診して、薬の量が適正か相談してみてください。

経口避妊薬(低用量ピル)

経口避妊薬としても使われる低用量ピルは定期的に月経様の性器出血を起こしますが、それとは別に多くの場合は内服開始直後から2-3ヶ月は不正性器出血が起こります。最近低用量ピルを内服しはじめた人で不正性器出血がある場合には薬の影響が考えられます。

現在、低用量ピルとして使われている薬は下記のようなものがあります。

後発品を含めて、いろいろな種類がありますが、いずれも高い避妊効果を現します。

これらの低用量ピルを内服している場合に起こる出血では、下記のような状況が考えられます。

  • 低用量ピルで起こる定期的な月経様の出血
  • 内服開始後数ヶ月以内に起こる不正性器出血
  • 内服開始後数ヶ月以上たってから起こる不正性器出血

それぞれの場合について説明します。自分の状況にあう部分を参考にしてください。

◎低用量ピルで起こる定期的な月経様の出血

低用量ピルは女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)が含まれる薬です。子宮内膜が分厚くなるのを防いで、妊娠を防ぐ効果や子宮内膜症を改善する効果があります。一度の月経周期に服用する全ての錠剤で配合されている女性ホルモンの配合量が同じ場合と、日によって配合されているホルモンの割合を変えているものがあります。このため、飲む順番を間違えないようにする必要があります。内服方法は4週間を1サイクルとして、3週間は女性ホルモンが含まれた薬を1日1回内服して、あとの1週間は何も内服しない方法と、有効成分が含まれない偽薬を内服する方法があります。

女性ホルモンが含まれている薬を3週間飲み終わると月経様の出血が起こります。人によっては内服を継続していくうちに、月経様の出血は起きなくなります。月経様の出血がなくなると妊娠したかもしれないと不安になることがあるかもしれませんが、内服を定期的にしている場合には特に心配はいりません。

◎内服開始後数ヶ月以内に起こる不正性器出血

低用量ピルを内服開始後、数ヶ月以内に起こる不正性器出血は、ピルで最もよく見られる副作用の一つです。最初の1ヶ月では10-30%の人に出血が起こりますが、3ヶ月目には10%未満に減ります。出血があっても避妊効果には影響はなく、内服を継続していくうちに不正性器出血は減るので、心配せずに内服を継続してください。

◎内服開始後数ヶ月以上たってから起こる不正性器出血

内服開始3ヶ月以降で、定期的な月経様の出血の時期以外に不正性器出血がある場合には、妊娠の可能性やクラミジア感染の可能性があります。まずは飲み忘れがなかったかを確認した後、かかりつけの産婦人科に受診して診察を受けてください。

黄体ホルモン製剤

黄体ホルモンのみが含まれた薬では、子宮内膜の変化に伴って多くの人に不正性器出血が起こります。黄体ホルモン製剤は主に子宮内膜症の治療に使われます。

黄体ホルモンの作用で子宮内膜の増殖が起きずに薄いままであるため、出血を起こすことがあります。出血量はほとんどの場合は月経と同程度かそれより少ない量です。内服開始後2ヶ月では90%に性器出血が起きますが、1年後には60%程度に減少して、出血量も少なくなります。出血が続く日数は1週間程度です。

黄体ホルモン製剤を内服中に不正性器出血が多く治療が必要と思われた場合には、他の薬で出血を抑える方法を使える場合がありますので、かかりつけの産婦人科で相談して、自分にあった治療方法を見つけてください。

抗エストロゲン薬

乳がんの治療に使われる抗エストロゲン薬は子宮にも作用するため、副作用として不正性器出血を起こします。乳がんは卵胞ホルモン(エストロゲン)によって増殖するため、ホルモン療法としてエストロゲンを抑える薬が使われることがあります。主な薬はつぎの薬です。

これらの薬のエストロゲンを抑える効果は臓器によって異なります。乳腺に対してはエストロゲンを抑える働きがありますが、子宮内膜に対してはエストロゲンの効果を強める働きがあります。そのため、これらの薬を使うと子宮内膜が分厚くなります。分厚くなった子宮内膜は体内のエストロゲン量の少しの変化で剥がれ落ちやすく、不正性器出血の原因になります。

さらに抗エストロゲン薬を使っている場合は子宮体がんになりやすくなります。子宮体がんの最も多い症状は不正性器出血です。ホルモン療法中や、ホルモン療法が終了した後も不正性器出血が起きた場合には、産婦人科でよく調べてもらってください。

定期的な子宮体がん検診は現時点では勧められていません。特に閉経前であれば子宮体がんになる可能性は低く、検診に伴う痛みや感染などの負担の方が大きいと考えられています。不正出血があった場合によく調べてもらうようにしてください。

抗精神病薬や抗うつ薬

一部の抗精神病薬や抗うつ薬は、副作用として無月経や不正性器出血が起こります。統合失調症、不安神経症、うつ病双極性障害躁うつ病)などに使われる薬で、これらの副作用がある薬の一部を下記にあげます。

これらの薬はプロラクチンという脳から分泌されるホルモンを増やす働きがあります。プロラクチンは妊娠期、産褥期、授乳期に増加するホルモンですが、過剰になると乳汁分泌や月経異常、不正性器出血を起こします。これらの症状がある場合には、産婦人科を受診するとともに、薬を処方してもらっているお医者さんにも合わせて相談してください。

抗潰瘍薬

吐き気止めとして使われる薬や、胃潰瘍逆流性食道炎の治療に使われる下記の薬にも不正性器出血の副作用があります。

これらの薬は高プロラクチン血症を起こします。高プロラクチン血症では乳汁分泌や月経異常が起こります。プロラクチンは妊娠期、産褥期、授乳期に増加するホルモンですが、過剰になると乳汁分泌や月経異常、不正性器出血を起こします。これらの薬剤を服用していても、多くの人では何も副作用は起きませんが、月経異常や不正性器出血がおきた場合には、産婦人科を受診するとともに、薬を処方をしてもらっているお医者さんにも合わせて相談してください。

7. ホルモンの影響で起こる出血:機能性子宮出血

機能性子宮出血はホルモンの分泌の変動によって起こる出血です。女性ホルモンの分泌が安定しない思春期や更年期によく起こります。性成熟期に起こる機能性子宮出血には、排卵の時期に起こる中間期出血(排卵期出血)があります。その他に、月経前に少量の出血が持続する黄体機能不全や、排卵を伴わない子宮出血なども機能性子宮出血のひとつです。

機能性子宮出血の仕組みを知るには月経周期に関連するホルモンの働きを知ると、理解がしやすくなります。つぎに月経周期と女性ホルモンについて説明しますが難しいと感じた場合には「排卵時の出血(中間期出血)」まで読み飛ばしてください。

月経周期と女性ホルモンの働き

月経周期に応じて子宮内膜には卵巣から分泌される下記の2種類の女性ホルモンが働きます。

  • 卵胞ホルモン(エストロゲン):エストラジオールなど
  • 黄体ホルモン(プロゲストーゲン):プロゲステロンなど

エストロゲンやプロゲステロンという言葉は聞いたことがある人も多いと思います。それらのホルモンの名前について説明した後に、月経周期とホルモンの関係について説明します。

◎女性ホルモンの名前について

エストロゲンやプロゲステロンという名前を聞いたことがあるかもしれません。そのホルモンの名前を説明します。少し難しいのですがホルモンの名前には作用を表す言葉と、物質を表す言葉があります。

卵胞ホルモンやエストロゲンという名前はホルモンの作用を表す言葉です。エストロゲンの作用を持つ物質として、体内では主にエストラジオールが働いています。黄体ホルモンやプロゲストーゲン、ゲスターゲンも作用を表す言葉です。よく聞くプロゲステロンというのはプロゲストーゲンの一種です。体内でプロゲストーゲンとして働く物質のほとんどがプロゲステロンです。

薬として使われる黄体ホルモンの多くは人工的に合成された物質です(天然の黄体ホルモンを薬として使う場合もあります)。合成黄体ホルモンはまとめてプロゲスチンと呼ばれます。物質名でいうと、レボノルゲストレルやメドロキシプロゲステロンなど様々なものがあります。

◎月経周期と女性ホルモンの働きについて

女性ホルモンの分泌は脳の視床下部と下垂体、卵巣で調整されます。視床下部から分泌された性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)によって、下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌されます。FSHの働きで卵巣内の1個の卵胞が大きくなります。卵胞が大きくなると卵胞から卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されて、子宮内膜を厚く変化させます。卵胞が20mmくらいまで大きく成長して、エストロゲンの分泌量が十分な量になると、下垂体から黄体形成ホルモン(LH)が分泌されて、卵胞から1個の卵子が排卵されます。排卵は毎月1回、片方の卵巣から起こります。

排卵した卵胞の抜け殻は、黄体と呼ばれるものに変化します。黄体から黄体ホルモン(プロゲストーゲン)が分泌されて、子宮内膜を変化させて妊娠に備えます。

受精卵が子宮内膜に着床し、妊娠が成立するとプロゲストーゲンがしばらく分泌され続けます。一方、妊娠しなかった場合には黄体は2週間程度でしぼんで、プロゲストーゲンの分泌が減少します。プロゲストーゲンが減少すると分厚くなっていた子宮内膜が剥がれおちて月経がおこります。

女性ホルモンの分泌が安定しない思春期や更年期には、この仕組みがうまく働きません。プロゲストーゲンの分泌が起こらずに、エストロゲンによって分厚くなった子宮内膜が、エストロゲンの低下によって出血を起こします。そのため月経でないところで出血を起こす場合や、月経の間隔が短期間で起こる場合、短い月経が何回も続く場合などがあります。

次に機能性子宮出血を起こす具体的な原因について説明します。

排卵時の出血:中間期(排卵期)出血

月経と月経の中間くらいに起こる排卵の時期に起こる出血を中間期出血もしくは、排卵期出血と呼びます。

正常の月経周期では、前の月経が終了した後、脳からのホルモンで卵巣内の卵胞が成長して排卵を起こします。排卵後は約14日間の黄体期を経て次の月経が起こります。つまり排卵日は次の月経の14日ほど前にあたります。月経周期が28日の場合は、前回の月経開始日の14日後がだいたいの排卵日ですが、ストレスの影響などでずれることもあります。

排卵日の前後に少量の不正性器出血が起こることがあります。排卵前にエストロゲンが体内で増えて子宮内膜が分厚くなる影響で出血が起こる場合と、排卵後に急激にエストロゲンが減少したことにより子宮内膜が一部剥がれ落ちて出血が起こる場合があります。排卵の時期が終われば出血が止まります。

排卵日前後には性器出血だけではなく、下腹部の痛みを伴う場合もあります。全く痛みを感じない人から月経痛以上に痛む人まで個人差があります。

排卵日前後の性器出血や腹痛は、正常範囲のもので多くは心配ありません。しかし出血が1週間程度続く場合や、強い腹痛がある場合には、病気が原因でないか一度産婦人科で診察してもらってください。

黄体ホルモンの分泌異常:黄体機能不全

黄体ホルモンは子宮内膜を分厚くして、受精卵の着床をしやすくさせるホルモンです。このホルモンの分泌が減少すると、子宮内膜が分厚くならずに、子宮内膜が剥がれやすく不正性器出血を起こします。卵子は卵胞と呼ばれる袋に包まれていて、排卵で卵子が出た後に残った卵胞は黄体になります。黄色く見えるので黄体と呼ばれます。黄体からは黄体ホルモン(プロゲステロンなど)が分泌されて子宮内膜を厚く維持し、受精卵が着床しやすい状態に維持します。

黄体機能不全では黄体から十分な黄体ホルモン(プロゲステロンなど)が分泌されず、不妊や不育症の原因になります。

黄体機能不全では基礎体温を測ると、排卵後の高温期が12日未満になります。この高温期の間に不安定な子宮内膜が剥がれて不正性器出血が起こります。月経前にダラダラと少量の出血が起こって気づくこともあります。

黄体機能不全の原因には糖尿病甲状腺機能異常、ストレスなどが関与するとされています。妊娠を希望しない場合には、黄体機能不全があっても不正性器出血が起こる程度で問題はありませんが、妊娠を希望する場合には不妊や不育症の原因になります。月経前にいつも少量の出血がある場合には産婦人科に相談してみてください。

排卵を伴わない子宮出血:無排卵性出血

卵胞ホルモン(エストロゲン)が分泌されて、子宮内膜が分厚くなるものの、排卵がおきずに卵胞ホルモンの量が変動することによって起こる出血を、無排卵性出血と呼びます。

卵巣に卵胞を成長させるための指示がはいって、卵胞が大きくなってエストロゲンが分泌されるものの、排卵がおこりません。通常では排卵が起きて黄体ホルモン(プロゲステロンなど)が増加し、受精卵が着床しない場合には黄体ホルモンが急激に低下して、分厚くなった子宮内膜が剥がれて月経が起こります。無排卵性出血では黄体ホルモンが分泌されないため、増加した卵胞ホルモンが減ることで出血が起こります。

この無排卵性出血は思春期や更年期に多く起こります。

思春期では、視床下部や脳下垂体のホルモン調整が未熟であり、排卵が起こらないことがあります。卵胞が大きくなるようにホルモンの分泌が起こり、卵胞が成長して卵胞ホルモンが分泌されますが、排卵は起こらずに卵胞ホルモンの変動によって出血を起こします。

更年期では卵子の質の低下により、排卵されない場合が多くなります。この場合でも卵胞が大きくなるようにホルモンの分泌が起こるので、卵胞が成長して卵胞ホルモンが分泌されますが、卵子の質の低下によって排卵には至らず、卵胞ホルモンの変動によって出血が起こります。

無排卵性出血の原因には思春期や更年期の他、ストレス、多嚢胞卵巣症候群高プロラクチン血症、甲状腺機能異常などがあります。

8. 年代別の不正性器出血で考えられる原因

不正性器出血の原因として考えられる病気は年代ごとに異なります。例えば、思春期から更年期までの不正性器出血は、妊娠の可能性が常に考えられます。一方、初経前の小児期や閉経後の老年期では妊娠による出血はほとんど考えられません。この他にも年代によって罹りやすい病気が異なりますので、それぞれのライフステージで考えられる病気について説明します。

小児期

初経前の小児期では、母親が異常に気がついて、病院に受診することが多いと思います。はじめに小児科に受診し、専門的な診察や検査が必要と判断された場合には産婦人科へ紹介されます。初経前の小児期の不正性器出血では下記の原因が考えられます。

  • 炎症
    • 細菌性膣炎
    • 膣内異物の感染
  • 外傷
    • 外陰部の打撲
    • 性的虐待
  • ホルモンの分泌異常
    • 思春期早発
    • ホルモン産生腫瘍

初経前の子どもは女性ホルモンのエストロゲンの分泌が不十分であり、膣内が未成熟のため炎症を起こしやすい状態です。膣炎の症状はおりものの増加や血液が混じることです。大腸菌などの感染によるものが主ですが、まれに膣内に異物を入れていることもあります。母親も知らない間に異物を入れていて、異物についた微生物が膣内に感染をして出血を起こします。おりものに対して小児科などで抗菌薬での治療を行っても治らない場合には、産婦人科の受診を勧められます。産婦人科で診察を受けたところ膣内に異物があったということもあります。

外陰部の打撲などによる外傷も出血を起こします。性的虐待による出血も場合によっては考慮する必要があります。

思春期早発とは思春期が通常よりも早く来ることです。この場合には思春期早発の原因として女性ホルモンを過剰に作るホルモン産生腫瘍がないかどうかを調べて、治療を検討します。

性交渉を経験前の小児に対する産婦人科での診察の際は、内診は奥までは観察せず、超音波検査が必要な場合はお腹の上もしくは、直腸から行います。

思春期

思春期とは8歳から18歳頃をさします。思春期以降の不正性器出血では妊娠の可能性もありますが、最も多い原因は女性ホルモンの不安定な分泌で起こる機能性子宮出血です。思春期で考えられるその他の不正性器出血の原因は下記です。

思春期に起こる不正性器出血の原因で最も多い機能性子宮出血とは、明らかな腫瘍などの原因がなく、女性ホルモンの分泌異常で起こる出血です。思春期では女性ホルモンを分泌する脳からの指示系統が十分に発達しておらず、排卵周期が確立されていません。そのため、排卵がない状態で子宮内膜の出血を起こします。排卵後の黄体ホルモン(プロゲステロン)が増加する黄体期を経ずに出血するため、通常の月経周期より短期間で月経が起こります。

性交渉を経験した後では妊娠に関連した出血や、クラミジア淋菌による性感染症からの出血の可能性もあります。

子宮頸部にできた子宮頸管ポリープや早期の子宮頸がんからの出血の可能性もあります。この頃になると過多月経の原因を調べる過程で、血液が固まりにくいvon Willebrand病(フォンヴィレブランド病)などと診断される場合もあります。

性成熟期

性成熟期は18歳から45歳です。18歳から37歳までの前期と、37歳から45歳までの後期に分けられます。前期は妊娠や出産を経験することが多い時期です。後期は子宮の病気などが増えてくる時期です。性成熟期に不正性器出血の原因となりやすいものごとは次の通りです。

前期の性成熟期では妊娠に関連した出血が多く見られます。後期の性成熟期では腫瘍によるものが増えてきます。子宮筋腫などの良性腫瘍や子宮頸がんなどの悪性腫瘍も原因になります。性感染症による出血や、経口避妊薬(低用量ピル)などの薬剤に伴う出血も起こります。排卵時期に起こる排卵出血もあります。後半になるとホルモンの分泌異常で機能性子宮出血を起こします。

更年期

更年期は閉経前後の5年間を合わせた10年間を指し、45歳から55歳ごろにあたります。更年期には卵巣機能の低下に伴ってホルモンは不安定に分泌されるようになり、機能性子宮出血が多くなります。その他のものを含めて、更年期の不正性器出血で考えられる原因は次のとおりです。

更年期では卵巣機能の低下に伴って機能性子宮出血が多く見られるようになります。この時期は子宮体がんにかかる人が増える時期でもあります。更年期には定期的な月経周期が乱れて不定期の出血となりますが、不正性器出血を通常の月経の乱れだと思い込むと、がんに気がつかずに進行してしまうことがあります。少しでも気になる症状がある場合には一度、医療機関に受診して調べてもらうと、早期発見につながることがあります。

閉経後

閉経後の不正出血はホルモン減少に伴う膣炎か、腫瘍が原因になることがほとんどです。老年期の不正性器出血では下記の原因を考えます。

閉経後の女性に最も多い不正性器出血の原因は萎縮性膣炎です。閉経後はエストロゲンが低下するため、膣粘膜が脆弱になり出血をしやすくなります。

子宮体がんは子宮にできるがんで、閉経後の50歳代から60歳代に多いがんです。閉経後の不正性器出血は10%以上が子宮体がんからです。閉経後で月経様の不正性器出血があった場合には、放置せずに医療機関に受診してがんなどの病気がないかをよく調べてもらってください。

子宮体がんより高齢の70歳代の女性で多いがんに外陰がんがあります。外陰がんも不正性器出血の原因になります。自覚症状は外陰部の腫瘤(かたまり)です。外陰部の症状を病院で見せるのにはためらいを感じてしまうかもしれませんが、腫瘤に気がついたらすぐに受診することが早期発見につながります。異常を感じた場合には早めに受診するようにしてください。