こうとうがん
喉頭がん
のどの奥の、のどぼとけのあたりの位置(喉頭)にできるがん
11人の医師がチェック 94回の改訂 最終更新: 2022.03.07

喉頭がんとはどんな病気?症状・原因・検査・治療など

喉頭がんを診断される人は年間5,000人前後と推定されます。喉頭がんでは声がれがでますが、症状が軽く発見が遅れることもあります。進行がんの治療では喉頭を摘出することがあります。喉頭がんのあらましについて説明します。

1. 喉頭がんになりやすい年齢・性別・特徴はある?

1年間に人口10万人あたり、8.5人の人が喉頭がんを発病すると言われています。喉頭がんは、男性に多く、90%が喫煙者です。その他の原因には、飲酒やアスベストなどが知られています。さまざまな要因が重なって喉頭がんは発生します。

男女差

喉頭がんの特徴として、男女差が大きいことがあります。2017年の日本の統計では、人口10万人あたり男性は7.9人、女性は0.6人が、新たに喉頭がんと診断されています。この統計では10倍以上も違いがあります。男女差の原因の中で重要と思われるのが喫煙習慣です。女性の喫煙者もいますが、女性より男性のほうが喫煙者が多いため、男性の罹患率が高いと考えられています。
罹患率を反映して、死亡率も男女差があります。2019年の統計では1年間に人口10万にあたり男性で1.3人、女性で0.1人死亡します。

参照文献
・国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

喫煙

喫煙は喉頭がんの最大のリスクであり、患者の90%が喫煙者です。現在吸っていなくても、昔に喫煙習慣があれば、喉頭がんのリスクは高まります。喫煙者が喉頭がんになるリスクは、非喫煙者に比較して5.5倍です。

喉頭がんによる死亡の原因の割合を推計した研究では、男性では73%が喫煙が原因で発病するとした報告があります。(女性では不明)喫煙者が禁煙をすると、喉頭がんになるリスクが低下します。禁煙1-4年後には喉頭がんの発症リスクが低下しはじめるという報告があります。

禁煙は難しいものです。禁煙外来などを利用したりして上手に禁煙に取り組んでみて下さい。禁煙外来はこちらの医療機関で行っていますので参考にして下さい。

参考文献
・J Epidemiol 2008; 18(6) 251-264.
・Int J Epidemiol. 2010 Feb;39(1):182-96.

飲酒

飲酒は食道がん咽頭がん肝硬変などさまざまな病気のリスクとして知られていますが、喉頭がんの発病リスクも高めます。喉頭がんのうちでも特に声門上がんの発病に関与しています。

飲酒をしない人や、付き合いでたまに飲酒をする人に比べて、アルコール量で1日50g以上飲酒するような人を含むグループでは、喉頭がんのリスクが2.65倍だったとする報告があります。ちなみに、アルコール50gは日本酒に換算して2.5合に相当します。

断酒することで飲酒による喉頭がんの発がんリスクは減少することも知られています。発がんリスクは、断酒で年2%減少し、飲酒を全くしない人と同程度の発がんリスクになるには36年かかるという報告もあります。

断酒は難しく一人だけの力で達成するのが難しいです。どうしても難しい人は周りの人の力を借りたり精神科や心療内科を受診してサポートを受けることもできます。上手に断酒に取り組んでみて下さい。

参考文献
British Journal of Cancer (2015) 112, 580–593.
PLoS One. 2013;8(3):e58158.

アスベスト

悪性中皮腫などの原因として知られるアスベスト(石綿)は喉頭がんのリスクにもなります。世界保健機関(WHO)に属する国際がん研究機関(IARC)の報告では、アスベストにまったく触れていない人に比べて、アスベストが多くある環境で長時間過ごした経験がある人の喉頭がんのリスクは1.6-2.5倍とされます。

建築現場などでアスベストを扱う職業についていた場合は、喉頭がんのリスクが高まる可能性があります。アスベストは肺がんと悪性中皮腫の2種類で労災補償や救済の対象になっていますが、残念ながら喉頭がんでは対象とはなっていません。

参考文献
・Lancet Oncol. 2009 May;10(5):453-454

加齢

喉頭がんは50歳から急激に増加します。男性では年齢とともに罹患率が上昇し80-84歳にピークがあります。女性も男性同様50歳から増加しますが、年齢による罹患率*の増加は男性ほど顕著ではありません。持病を抱えていることが多い高齢者の場合はがんの状態に加えて、身体の状態も考慮して治療法が検討されます。

*罹患率(りかんりつ)とは一定期間に新たに診断される人の割合のことです。

喉頭がんの年齢階級別罹患率・全国推計値(2015)

2. 喉頭がんはどこにできる?

喉頭(こうとう)はのどぼとけのあたりにあり、いわゆる「のど」の一部分です。のどは食べ物や空気の通り道である咽頭(いんとう)と、空気のみが通る喉頭からできています。

図:喉頭の解剖。喉頭は舌根と輪状軟骨下端の間。

喉頭と呼ばれる範囲は下記の構造物で囲まれた範囲です。

  • 上方:舌根(ぜっこん)=舌の付け根
  • 下方:輪状軟骨(りんじょうなんこつ)=気管の入り口
  • 前方:甲状軟骨(こうじょうなんこつ)=のどぼとけの軟骨
  • 後方:下咽頭(かいんとう)=食道の入り口

喉頭は全体が粘膜でおおわれています。その粘膜は扁平上皮細胞(へんぺいじょうひさいぼう)という細胞で成り立っています。喉頭は部分によって大きく3つにわけられます。声をだす構造物である声帯(せいたい)を中心とし、上下にわけています。

  • 声門上(せいもんじょう):舌根部から仮声帯(かせいたい)
  • 声門(せいもん):声帯
  • 声門下(せいもんか):声帯の下から輪状軟骨下端

このうち重要な働きがある構造物について説明します。

■声帯(せいたい)

帯状の構造物で、空気を吸う時は開いて、声を出す時、息む時、ものを飲み込む時などは閉じています。声帯に腫瘤(かたまり)ができたり、声帯の動きが悪くなって、うまく閉じなくなると、声がかすれたり、がらがらした声になります。

■喉頭蓋(こうとうがい)

舌の付け根にある薄い蓋のような構造物です。食べ物を飲み込む時に倒れて、声帯を覆う蓋のような働きをします。喉頭蓋が蓋のように声帯を覆うことで、食べ物が気管に入ること(誤嚥:ごえん)を防ぎます。

喉頭は何をしているところなのか?

喉頭は声を出す働きがあります。他にも2つ大切な機能があるので、発声とともに説明します。

■声を出す

喉頭にある声帯が動いて声をだします。帯状の構造物が、肺から吐き出された空気で振動して声がでます。声帯の振動が上手くいかなくなると、声がかすれます(嗄声:させい)。

誤嚥を予防する

喉頭は空気の通り道と食べ物の通り道を分ける部分に位置します。食べ物を飲み込むときに、喉頭蓋が蓋のように倒れることと、声帯が閉まることで、食べ物が気管の中に入ること(誤嚥)を防止します。

■空気を通す

喉頭は鼻や口から吸った空気を肺に送り込み、肺からでてきた空気を吐き出す時の通り道という働きもあります。

声門がん・声門上がん・声門下がんの違い

喉頭は、部位によって大きく3つに分けられます。がんのできる頻度や、転移の頻度、がんができたときの症状は部位によって異なります。

喉頭の3つの部位は、声をだす構造物である声帯(せいたい)を中心とし、上下に分けられています。

  • 声門上(せいもんじょう):舌根部から仮声帯(かせいたい)
  • 声門(せいもん):声帯の高さ
  • 声門下(せいもんか):声帯の下から輪状軟骨下端

がんはいずれの場所にもできますが、できやすさが異なります。声門がんが最も多く60-65%を占めます。声門上がんは30-35%で、声門下がんはまれです。

図:喉頭がんの場所による分類。声門上がん、声門がん、声門下がんに分ける。

■転移のしやすさの違い

がんの転移しやすさも発生した部位によって異なります。
まず転移について説明します。がんの転移はリンパ管または血管にがん細胞が入り込んで他の場所に移動することによって起こります。リンパ管というのは血管のように全身に分布している細い管で、組織から流れ出てきたリンパ液が流れています。がんは広がりながらリンパ管の壁を破って中に入り込んでいきます。がんの周りにたくさんのリンパ管がたくさんあると、がんが広がったときには入り込むリンパ管が多いので転移を起こしやすくなります。

声門の周囲はリンパ管があまりないため、声門がんは転移を起こしにくいです。一方、声門上がんや、声門下がんは、周りにリンパ管がたくさんあるので転移をしやすいです。

■症状の違い

部位によって現れる症状が異なります。
声帯にできる声門がんでは、声がれ(嗄声:させい)の症状が早い時期から現れます。症状が早期からでるため、発見も早いです。声門上がんや声門下がんは、早期にはほとんど症状がでないため、進行してから発見されることが多いです。

声帯に影響が出るのか?

声帯という臓器が震えることによって声は出ます。喉頭がんは声帯の周囲にできるので声に影響が出ます。がんができる場所によって声帯への影響は異なります。声帯にがんができる声門がんでは、早期から声がれ(嗄声)がでます。声門上がんや声門下がんでは初期には声がれは出ませんが、周囲にがんが広がると声がれの症状がでます。

3. 喉頭がんの症状は?

喉頭がんは位置によって声門がん、声帯上がん、声帯下がんの3つに分けることができます。それぞれの部位によって症状は異なるのでそれぞれについて個別に説明します。

声門がん

声門がんは声がれ(嗄声(させい))が現れやすいので、早期に発見されることが多いです。早期に発見できるので治療によって根治(病気を身体から取り除くこと)も期待できます。
声門がんの症状は以下のものです。

  • 嗄声(させい):声がれ、声のかすれ
  • のどの違和感
  • 息苦しさ
  • 血痰(けったん)

声門がんは声帯にできるがんです。声帯は発声に大きく関わっている臓器なので、がんができて機能に影響を及ぼすと声がれや声のかすれ(嗄声)が起こります。声がれや声のかすれの具合は、一人ひとりで少しずつ異なり、ガラガラした声、息が漏れるような声などさまざまです。がんが進行すると、声がれがひどくなります。声帯から外にがんがひろがると、声帯自体の動きも悪くなって、声がれがさらに目立つようになります。

喫煙者は声帯に炎症が起こりやすく、もともと少し低めの声であったりする人が多いですが、1ヶ月以上にわたって声の変化が起きている場合は、一度、耳鼻咽喉科に受診して検査をしてもらうと安心です。

がんが進行して大きくなると、気道(空気の通り道)が狭くなって息苦しさや咳払いの際に痰に血液が交じる血痰(けったん)などの症状が現れます。

声門上がん

声門上がんは声門がんの次に多い喉頭がんです。声門上がんの症状の特徴には以下のものがあります。

  • のどの違和感
  • のどのイガイガ感
  • 食べ物を飲み込んだ時の痛み
  • 嗄声(させい):声のかすれ、声がれ
  • 血痰
  • 首のしこり

声門上がんができる部位は、舌の付け根から喉頭蓋を含め、声帯以外の声帯周囲の構造も含みます。がんができる場所によって症状は異なります。

がんが小さい時の主な症状は、のどの違和感やイガイガ感です。また、食事をすると痛みを伴ったり、引っかかる感じがすることもあります。がんが進行すると、声帯が動きにくくなり、声がれを起こします。また、がんが刺激になって、咳がでたり、咳の時にこすれて出血して痰に血が混じることがあります。

首のしこりが現れることもあります。声門上がんは進行すると首のリンパ節に転移をしやすく、転移が起きるとリンパ節は大きく硬くなります。転移してリンパ節は大きくなると皮膚の上からでも触れるようになります。ただし、首にしこりがあるとがんが転移したと考えるのは早計です。がん以外の病気でも首にしこりを作ることはあります。

声門下がん

声門下がんは声帯より下方にできるため、声や飲み込みにくさへの影響が少ないので進行するまで症状は現れにくいです。このため、がんがかなり進行してから症状が現れます。

  • のどの違和感
  • 嗄声(させい):声がれ、声のかすれ
  • 息苦しさ
  • 血痰
  • 首のしこり

声門がんや声門上がんと違って声門下がんは、最初にのどの違和感が現れることが多いです。腫瘍が大きくなると声帯の動きに影響をするので他のがんと同様に声がれや声のかすれが現れます。
かなり進行すると空気の通り道に影響を及ぼして息苦しさや血痰(痰に血が混じる)が出るようになります。また首のリンパ節に転移をした場合には首にしこりを触れるようにもなります。

4. 喉頭がんと咽頭がんはどう違うのか?

喉頭がん(こうとうがん)と咽頭がん(いんとうがん)は呼び名が似ているので、混同しやすいのですが、別のがんです。部位・症状・原因・生存率に注目してそれぞれを比較します。

喉頭がんと咽頭がんの違い:部位

図:咽頭と喉頭の位置関係。

喉頭は舌の付け根から気管の入り口までの範囲(上の図では青い色の範囲)です。一方、咽頭の範囲は鼻の奥から、食道の入り口までの範囲(上の図では赤い色の範囲)です。

咽頭は更に、3つの部位に分かれます。

  • 上咽頭:鼻の一番奥のあたり
  • 中咽頭:口の奥の辺りから、舌の付け根の範囲
  • 下咽頭:食道の入り口

役割がそれぞれで異なります。

  • 上咽頭:呼吸や耳の圧の調整
  • 中咽頭:呼吸や発音、飲み込み
  • 下咽頭:飲み込み

場所による役割の違いはがんが出来た際の症状にも違いとなって現れます。次に喉頭がんと咽頭がんの症状の違いについて説明します。

症状の違い

喉頭は発声に大きく関わっています。このため、がんができた場合には、声に影響が出て声がれなどの症状が現れます。ただし、喉頭がんの中でも声門上がんや声門下がんでは症状が非常に出にくく、のどの違和感などの症状が現れます。

上咽頭がんは鼻の奥の腫瘤が原因となって、鼻水や鼻血難聴などの症状がでることがあります。中咽頭がん下咽頭がんでは、のどの腫瘤によって、のどの違和感のみの症状のことがあります。また、喉頭に近い場所にできる下咽頭がんは喉頭がんと似た症状が現れます。

原因の違い

喉頭がんの原因は、主なものとして喫煙である、その他に飲酒やアスベストなどです。

咽頭がんは飲酒や喫煙が原因になることが共通していますが、部位によってはウイルスが原因になることがあり喉頭がんとは異なります。上咽頭がんはEBウィルス中咽頭がんヒトパピローマウィルスとの関連が知られています。

なお、喉頭がんでも咽頭がんでも必ず原因がある訳ではありませんし、飲酒・喫煙・ウイルス感染などの知られた原因がまったくない人でも喉頭がんや咽頭がんができることもあります。

喉頭がんの原因についてはこのページの「喉頭がんになりやすい年齢・性別・特徴はある?」でも詳しく説明しているので参考にして下さい。

生存率の違い

喉頭がんに比べて咽頭がんは生存率が低いとされています。
その理由としては、咽頭がんは喉頭がんより自覚症状に乏しいので、「早期に発見されることが少ないこと」や「リンパ節に転移が起こりやすいこと」などが考えられています。また、咽頭がんは上咽頭、中咽頭、下咽頭によって生存率が異なります。この中でも下咽頭がんは進行するまで自覚症状が出にくいため、最も生存率が低くなります。

喉頭がんと咽頭がんの中で最も生存率が低い下咽頭がんの5年相対生存率で比較してみます。2006年から2010年までに診断された患者さんを対象にした調査結果です。

下咽頭がん病期別生存率

病期 症例数(件) 5年相対生存率(%)
I 50 67.1
II 123 65.6
III 120 55.4
IV 541 35.9

喉頭がんの病期別生存率

病期 症例数(件) 5年相対生存率(%)
I 736 97.3
II 569 84.4
III 391 74.2
IV 559 45.8

喉頭がんはステージ3までは70-90%台と良好な生存率で、ステージ4の5年相対生存率は40%台です。一方、下咽頭がんの5年相対生存率は、ステージ2で65%、ステージ3で55%、ステージ4で40%弱です。

ただし、生存率はあくまで統計上の数値です。一人ひとりの経過には大きな個人差があります。下咽頭がんがステージ4で見つかっても、3割ほどの人が実際に5年以上生存しているのも事実です。数字はあくまで目安と考えて、自分のいまの状況でできることは何かを主治医とよく話し合うことが大切です。

参考文献
・全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2019年11月集計)

5. 喉頭がんの人は何科を受診すれば良いのか?

喉頭がんの診断や治療は耳鼻咽喉科や頭頸部外科で行います。心配な症状がある場合には耳鼻咽喉科や頭頸部外科を受診して下さい。また、どの規模の医療機関を受診するのがよいか迷うこともあると思いますが、最初の受診先は近くのクリニックでも問題はありません。必要に応じて大きな病院にも紹介してもらえます。

6. 喉頭がんを調べる検査は何がある?

声がれやのどの痛みなどが長く続いた場合、医療機関を受診すると原因を調べることができます。検査は、喉頭ファイバースコープなどを用いた視診を行います。視診でがんが疑われた場合は、喉頭がんかどうか診断するために「がんの組織検査」を行います。「がんの組織検査」はがんと確定診断するためのもので、がんの一部を切り取って顕微鏡で調べます。喉頭がんと診断した後には、がんの広がりを調べる検査を行います。

視診

視診は身体の見た目をくまなく観察する診察のことですが、喉頭は口の奥にあるので身体の外からは観察ができません。そのため、間接喉頭鏡や喉頭ファイバースコープを用いて視診を行います。
馴染みのない言葉として間接喉頭鏡検査と喉頭ファイバー検査が登場しました。この2つについて少し詳しく説明します。

■間接喉頭鏡検査

間接喉頭鏡という小さな丸い鏡のついた道具を口の中に入れて、喉頭を鏡にうつしだして様子をみます。マスなどを必要としないので簡便に行えるという利点があります。一方で、がんが小さい時ははっきりとしない場合もあります。その場合は、次に説明する喉頭ファイバー検査でより詳しく観察します。

■喉頭ファイバースコープ検査

喉頭ファイバースコープは胃カメラと似ていて、先端にカメラとライトがついた細いチューブのような形をしています。太さは2.5-5mm程度で胃カメラより細いので鼻から入れることができます。鼻に局所麻酔薬のスプレーや局所麻酔薬のついた綿棒で麻酔をかけた後に、鼻からカメラを挿入して喉頭を観察します。間接喉頭鏡に比べて拡大して見ることができる点が優れています。
喉頭ファイバースコープで粘膜の隆起や潰瘍を認めた場合はがんを強く疑います。しかし、粘膜の発赤のみであった場合、がんと炎症の区別は簡単ではありません。そのため、次で説明する病理組織診断が重要になります。

生検・病理組織検査

がんと疑われる所から一部を切り取ってくることを生検といい、取ってきたものを顕微鏡で詳しく見る検査を病理組織検査といいます。生検・病理組織検査は視診や画像検査でがんが疑われた場合の次の検査として行われ、がんが見つかれば診断が確定されます。
生検は主に麻酔の方法によって2つに別れます。それぞれについて説明します。

■局所麻酔を用いた生検

のどを刺激が加わるとにオエッとえずく反射が起こります。このえずく反射を予防する目的で局所麻酔を行います。局所麻酔を用いた生検は意識があるまますることができ、外来でも簡単に行うことができます。検査後はのどの違和感がありますが、1時間程度で麻酔の効果がなくなり、飲食も検査日から可能です。

全身麻酔での生検

のどの反射が強い場合や生検中にじっとしていられない場合は、全身麻酔をかけて生検を行います。全身麻酔をかけると眠った状態になるので、のどの反射や身体の動きなどを気にすることなく生検を行えます。ただし、全身麻酔をかけた生検は入院して行うことが多いです。

■病理組織検査を受ける前にかならず医師に伝えてほしいこと

病気の部分を一部取ってくるときには出血のリスクがあります。血を固まりにくくする抗血小板薬(バイアスピリン®、プラビックス®など)や、抗凝固薬(ワーファリン®、エリキュース®など)を服用している場合は特に注意が必要です。血液を固まりにくくする薬を飲んでいる場合は医師にそのことを必ず伝えるようにして下さい。

画像検査:CT検査・MRI検査・超音波検査・PET-CT検査

がんが疑われる部分がある場合は画像検査を行い、がんの広がりなどが調べられます。画像検査には以下のものがあります。

  • CT検査
  • MRI検査
  • 超音波検査
  • PET-CT検査

これらの検査を組み合わせてがんの状態が詳しく調べられます。画像検査の結果を参考にして後述するステージが決まります。以降ではそれぞれの検査について説明します。

■CT検査

CT検査は放射線を使って体の断面を画像化します。がんの広がりやリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無を評価します。さらに詳しく調べるために、造影剤という薬を注射して検査をすることがあり、これを造影CT検査といいます。まれに、造影剤に対してアレルギー反応が起きることがあり、造影剤を点滴にした後に体調が悪くなることがあります。特に、皮膚のかゆみや意識が遠のく感じといった症状は重い状態になる可能性があるのですぐに医師や看護師に身体の不調を伝えてください。

■MRI検査

MRI検査は磁気を使って身体の断面を画像化します。CT検査と同じように、がんの広がりやリンパ節転移の有無、遠隔転移の有無を評価します。がんの広がりはCT検査より正確に評価できるので、CT検査では判断が難しい場合に用いられます。MRI検査でもCT検査と同様に造影剤を用いて検査をすることがあります。
MRI検査は狭い筒の中に入って数十分間じっとしていなければなりません。このため、閉所恐怖症の人は検査ができないことがあるので、当てはまる場合には医師にその旨を伝えてください。

■超音波検査(頸部)

超音波検査(エコー検査)は超音波を利用して体の中を観察する画像検査です。頸部リンパ節への転移の有無を調べます。観察したい部位にジェルを塗って、プローブという機械を当てると、プローブの先にある部分が画面に移ります。簡便にでき、かつ放射線を用いないことが利点です。

PET検査/PET-CT検査

PET(ペット)検査はブドウ糖に似たFDG(フルオロデオキシグルコース)という物質を点滴で体内に入れてどこに集まるかを調べる検査です。FDGは放射線を放出するので、放射線を測定するとどこにFDGが集まっているかがわかります。がん細胞は糖分が集める特徴があるので、糖分に似たFDGもがん細胞に集まっています。FDGから放出される放射線を検出することによってがん細胞の場所を調べることができます。PET検査はリンパ節への転移の有無や遠隔転移の有無を調べる際に用いられることがあります。またPET検査とCT検査を併用した検査をPET-CT検査といいより詳しく身体の中を調べることができます。

がん細胞に糖分が取り込まれることを調べるFDGはかなり精度が高そうな検査だと感じるかもしませんが、そうとは限らない場合があります。がん細胞の中には糖分の取り込みが活発化していないタイプもあり、その場合はPET検査で調べることは難しいです。さらに、がんではない感染症膠原病などでもFDGの取り込みが活発化していることがあります。このため、FDGの取り込みが活発化しているとがんがあるとは直線的には考えられないケースもあります。

7. 喉頭がんのステージとは?

ステージはがんの進行具合を評価する方法です。「喉頭でのがん広がり」、「リンパ節転移の程度」、「遠隔転移の有無」の3つを組み合わせて評価されます。

喉頭がんの病期別の5年実測生存率(2006年-2010年)

病期 症例数(件) 5年実測生存率(%)
I 736 86.6
II 569 75.4
III 391 65.4
IV 559 40.9

参考文献:全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2016年2月集計)

ステージは0から4の5つに分けられます。以下ではそれぞれのステージの状態について説明します。

ステージ0の喉頭がん

ステージ0の喉頭がんは上皮内にがんがとどまっている状態のことで、最も進行していないので転移がある確率は極めて低いです。
手術の前に上皮内がんと診断されていることは少なく、手術後に摘出したものを詳しく調べて上皮内がんと診断されることが多いです。具体的には、喉頭の良性腫瘍声帯ポリープや喉頭肉芽腫など)や、声帯白板症の診断で手術を行い、手術後に上皮内がんと診断される場合などです。

ステージ1の喉頭がん

ステージ1の喉頭がんは、がんが声帯、声門上、声門下のいち部分にとどまっているもので、その時点では転移がないものです。
声門がんの場合は、声がれの症状で早期に医療機関に受診する人が多いため、早期に発見されます。声門がんはステージ1で診断される人の割合が、声門下がんや声門上がんに比較して高いです。声門上がんや声門下がんでは、自覚症状が少ないことと、リンパ節転移を起こしやすいため、ステージ1で発見されることは少ないです。

治療方法は放射線治療や、がんの部分を切除する手術などの選択肢があります。

ステージ2の喉頭がん

ステージ2の喉頭がんでは、がんが最初にできた部位の周囲に少しひろがった状態です。この時点では転移がありません。声門がんの場合は、声がれの症状で早期に医療機関に受診する人が多いため、早期に発見されます。声門がんはステージ2で診断される頻度が、他部位に比較して高いです。

声門上がんや声門下がんでは、自覚症状が少なく早期に受診する人があまりいません。リンパ節転移を起こしやすいため、T分類でT2にあてはまる大きさでも、頸部リンパ節転移を起こし、ステージ3以上で診断される頻度が多いです。

治療方法は放射線治療やがんの部分を切除する手術があります。ステージ1より進行しているため、放射線治療には化学療法の併用をすることが推奨されます。

ステージ3の喉頭がん

ステージ3の喉頭がんは、がんが喉頭の外に広がっている場合や、がんがある側の首にリンパ節転移が1つある場合です。ステージ1や2より、がんが周囲に広がっている状態です。ステージ3になると、がんと同じ側の声帯は動かないことがあります。がん自体が大きくなくても、首に3cm以下のリンパ節転移が1つある場合も、ステージ3に該当します。

治療は化学療法を併用した放射線治療や、がんの切除を行う手術を行います。ステージ3では手術の時点では首に腫れているリンパ節転移がなくても、頸部リンパ節への転移がその後に出てくることがあります。そのため、手術を行う場合は頸部リンパ節手術(頸部郭清術:けいぶかくせいじゅつ)の併用を検討します。

ステージ4の喉頭がん

ステージ4は、更にステージ4A、4B、4Cの3段階に分かれています。ステージ4Aより4Cは、がんが進行した状態です。

最初にがんができた場所から広範囲に周囲へ拡がっている場合、頸部リンパ節に多くの転移や大きい転移がある場合、遠くの臓器まで転移している場合が該当します。

ステージ4と聞くと末期がんを想像するかもしれませんが、必ずしも末期状態ではありません。がんの進行具合で、治療を検討します。

がん自体が広範囲に周囲へ拡がっている場合でも、頸動脈を取り囲んでいない場合は手術を行うこともあります。頸動脈の半周以上をがんが取り囲んでいる場合は手術での切除は難しいため、希望に応じて化学療法(抗がん剤治療)を併用した放射線治療を行います。

遠くの臓器まで転移がある場合はステージ4Cに分類します。ステージ4Cでは放射線治療や手術で根治することは難しく、化学療法でがんの進行を遅らせる治療を検討します。

ステージはどうやって決めている?

ステージを決めるには、TNM分類という方法が使われます。TNM分類とは、がんの大きさ(T)、所属リンパ節転移(N)、遠隔転移(M)をそれぞれ段階に分けて評価をします。

下にTNM分類分類とステージの対応を説明します。やや専門的になるので、自分には関係ないと思う部分は読み飛ばしてください。

喉頭がんのT分類は声門がん、声門上がん、声門下がんの3つの部位ごとに基準が違います。

【喉頭がんのT分類】

T分類はがんの大きさで評価します。もともと発生した場所にあるがんのことを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。原発腫瘍という呼びかたは、転移によってできたがん(転移巣)と区別する意味合いがあります。

  • TX:原発腫瘍の評価が不可能
  • T0:原発腫瘍を認めない
  • Tis:上皮内がん

■声門がんのT分類

  • T1:声帯の動きが正常で、声帯にとどまっている腫瘍
    • T1a:がんが片側の声帯にとどまっている
    • T1b:がんが両側の声帯に広がっている
  • T2:声門上部、および/または、声門下部に広がっているもの、および/または、声帯の動きに制限がある
  • T3:声帯が固定していて、がんが喉頭内に広がる、および/または、声帯の横の隙間(傍声帯間隙:ぼうせいたかんげき)や甲状軟骨の内側に広がる
  • T4a:甲状軟骨の外側を破って周囲に広がる、および/または、舌深層の筋肉や外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)などの周囲の軟部組織、前頸部の筋肉(前頸筋群)、甲状腺、気管、食道に広がる
  • T4b:喉頭の外側の組織を越えて、背骨の前の隙間(椎前間隙)、縦隔大動脈などがある部分)に広がる、および/または頸動脈を全周性に取り囲む

■声門上がんのT分類

  • T1:声帯の動きが正常で、声門上部の一部分(ひとつの亜部位)にとどまる
  • T2:声門を含む声門上部の外側(例えば舌根粘膜,喉頭蓋谷,梨状陥凹の内壁など)まで広がる、または声門上部の広い範囲に広がる
  • T3:声帯の動きが悪く、がんが喉頭内に広がる、または周囲の隙間(喉頭蓋前間隙や傍声帯間隙)に広がったり、甲状軟骨の内側に広がる
  • T4a:甲状軟骨の外側を破って周囲に広がる、および/または、舌深層の筋肉や外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)などの周囲の軟部組織、前頸部の筋肉(前頸筋群)、甲状腺、気管、食道に広がる
  • T4b:喉頭の外側の組織を越えて、背骨の前の隙間(椎前間隙)、縦隔(大動脈などがある部分)に広がる、および/または頸動脈を全周性に取り囲む

■声門下がんのT分類

  • T1:声門下部にとどまっている
  • T2:声帯に広がるが、声帯の動きは問わない(正常でも悪くてもT2)
  • T3:声帯の動きが悪く、がんが喉頭内にとどまっている
  • T4a:輪状軟骨や甲状軟骨の外側を破って周囲にひろがる、および/または、舌深層の筋肉や外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)などの周囲の軟部組織、前頸部の筋肉(前頸筋群)、甲状腺、気管、食道にひろがっている
  • T4b:喉頭の外側の組織を越えて、背骨の前の隙間(椎前間隙)、縦隔(大動脈などがある部分)にひろがっている、および/または頸動脈を全周性に取り囲む

【喉頭がんのN分類】

N分類は所属リンパ節で評価されますが、喉頭がんの所属リンパ節は頸部リンパ節です。

  • NX:リンパ節転移の評価が不可能
  • N0:リンパ節転移がない
  • N1:がんと同じ側のリンパ節に3cm以下の転移が1つ
  • N2a:がんと同じ側のリンパ節に3cmを超えるが、6cm以下の転移が1つ
  • N2b:がんと同じ側のリンパ節に6cm以下の転移が2つ以上
  • N2c:両側あるいは、がんと反対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下
  • N3:最大径が6cmを超えるリンパ節転移

【喉頭がんのM分類】

  • M0:遠隔転移なし
  • M1:遠隔転移あり

【喉頭がんの病期】

  N0 N1 N2a N2b N2c N3 M1
Tis 0 - - - - - -
T1 I III IVA IVA IVA IVB IVC
T2 II III IVA IVA IVA IVB IVC
T3 III III IVA IVA IVA IVB IVC
T4a IVA IVA IVA IVA IVA IVB IVC
T4b IVB IVB IVB IVB IVB IVB IVC

8. 喉頭がんの治療はどんなことをする?

喉頭がんの治療では、がんを治すことと、声を出す機能を温存すること(喉頭温存:こうとうおんぞん)が重要視されます。「喉頭がんの治療はどんなことをする?手術、化学療法、放射線治療など」とあわせてご覧ください。

喉頭がんを治す目的で行う根治治療の選択肢は、放射線治療、手術治療のどちらかです。化学療法は、放射線治療に組み合わせて行うことがあります。化学療法のみでは根治治療にはなりません。遠くの臓器に転移がある進行がんにおいて、がんの進行を遅らせる目的で、化学療法のみを行うことがあります。

1)放射線治療

放射線治療は、がんのある部位に、体の外から放射線をあてる治療です。一般的には土日祝日を除いて、毎日同じ部位に、同じ量の放射線を当てます。治療期間は6-7週間になります。

有害事象として、皮膚のやけど(放射線性皮膚炎)、口からのどの粘膜のやけど(粘膜炎)が必発です。放射線治療の終盤では、のどの粘膜炎の痛みのために、食事がとれなくなることがあります。放射線治療の効果は終了後1ヶ月程度持続するため、徐々に皮膚炎や粘膜炎も改善します。

放射線治療が行われるのは、声門がんや声門上がんの早期がんです。進行がんの場合で、喉頭温存を希望した場合には、放射線治療に化学療法を併用します。放射線のみの治療に比較して、化学療法を併用すると、照射中の有害事象は多くなりますが、生存期間が長くなることが知られています。

2)手術

喉頭がんに対する手術は、喉頭温存が可能な手術と、喉頭温存が不可能な喉頭全摘術に分けられます。喉頭温存が可能な手術は喉頭微細手術や、喉頭部分切除術などがあります。がんが進行して周囲まで拡がっている場合は、喉頭温存が不可能であり、喉頭全摘術を行います。

声門がんの早期がんに対する喉頭温存手術の治療成績は放射線治療と同等です。

声門下がんの場合は放射線治療の効果が乏しいため、手術が選択されることが多いです。

喉頭全摘術後は発声が困難となりますが、代替音声として、食道発声や、電子喉頭、シャント発声などがあり、練習しだいで会話は可能です。

手術の際は、ステージに応じて、頸部リンパ節の手術である、頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)を同時に行います。

3)化学療法

喉頭がんで化学療法(抗がん剤治療)を使うのは、主に下記の場合です。

  • 導入化学療法
  • 放射線治療との同時併用(化学放射線療法
  • 他臓器への転移がある進行がんや、再発した場合に対する治療

放射線治療と同時に化学療法を行うことで、放射線の効果が増強します。抗がん剤のうち白金製剤や、分子標的薬が用いられます。

進行がんや再発例における、延命や症状緩和目的の場合は、数種類の抗がん剤を組み合わせて使います。

9. 喉頭がんの予後・生存率は?

喉頭がんのステージ別の5年実測生存率は下記です。

ステージ 5年実測生存率(%)
ステージ1 86.6
ステージ2 75.4
ステージ3 65.4
ステージ4 40.9

全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査 KapWeb(2019年11月集計)による(2006年-2010年に診断された人を対象)

2005年から2007年の間に喉頭がんの診断や治療を受けた人の生存率です。治療については、放射線治療、手術治療、化学療法など何らかの治療をうけています。

統計データから一人ひとりの経過を正確には予測できません。同じステージに分類される人でも、がんの状態や、全身の元気さは一人ひとり違ってきます。同じ治療をした場合も、その後の経過は大きく個人差があります。