こうとうがん
喉頭がん
のどの奥の、のどぼとけのあたりの位置(喉頭)にできるがん
11人の医師がチェック 94回の改訂 最終更新: 2022.03.07

喉頭がんの手術(外科的治療)はどんな治療?

喉頭がんの根治治療は手術と放射線治療です。手術治療ときくと不安に思いますね。それぞれの治療に利点と欠点があります。自分にあう治療方法を担当医とともに検討するために、手術治療について詳しくみていきましょう。

1. 喉頭がんを手術するのはどんな時?

図:喉頭がんの分類。声門上がん、声門がん、声門下がんに分ける。

喉頭がんに対する手術は、喉頭温存が可能な手術と、喉頭温存が不可能な手術に分けられます。喉頭温存が可能な手術は経口的切除術、や、喉頭部分切除術などがあります。がんが進行して周囲まで拡がっている場合は、喉頭温存が不可能であり、喉頭全摘術咽喉食摘術を行います。

喉頭全摘術や、咽頭喉頭食道摘出後は発声が困難となりますが、代替音声として、食道発声や、電子喉頭、シャント発声などがあり、練習をすれば会話は可能です。

手術の際は、ステージに応じて、頸部リンパ節の手術である、頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)を同時に行います。

喉頭がんで手術をしたら補助が出る?

喉頭全摘術や咽喉食摘術で、喉頭を摘出した場合は身体障害者3級の取得が可能です。電子喉頭などの補助がでる自治体もあります。認定には申請後2ヶ月程度かかりますので、術後は早めに申請しましょう。

詳しくは「喉頭がんと生活習慣は関係ある?喉頭がんになったら日常生活はどうする?」のページで説明しています。

2. 経口的切除術

経口的切除術は頸部に傷をつけずに、口から道具を入れて手術の操作を行って、がんを切除する方法です。がんとその周囲の組織の切除のみですむため、身体への負担が少なく、気管切開などが不要で、術後の嚥下機能も良好であるという利点があります。

経口的手術にはいくつかの方法があります。手術用顕微鏡とレーザーを用いる方法、硬性内視鏡を用いる方法、消化器内視鏡を用いる方法などがあります。

手術用顕微鏡とレーザーを用いる手術方法が最も代表的です。声門がんに多く行われ、全身麻酔下で直達喉頭鏡という道具を口の中からいれて、喉頭を観察し、がんの部分を切り取ります。声帯を大きく切り取るため、術後は嗄声(させい;声がれ)が起こります。

近年、手術機器の進歩があり、硬性内視鏡や消化器内視鏡の補助下にがんを切除する方法もあります。

喉頭がんで経口的切除術が検討できるかどうかは、がんの位置や広がりで決まります。進行度の分類で言うとT1、T2、一部のT3の声門上がん、声門がんが対象になります。分類については「喉頭がんのステージとは?」で解説しています。

3. 喉頭部分切除術

喉頭部分切除術は、喉頭温存が可能で、術後も発声が可能です。喉頭がんが喉頭の一部に留まっている場合が対象となります。喉頭部分切除術には、経口的に行う方法もありますが、この項では、外切開をおく手術方法について説明します。

声門に対する喉頭垂直部分切除術、声門上がんに対する喉頭水平部分切除術などがあります。部分切除術では、術後は声を出す機能は温存されますが、切除部位によっては、嚥下(飲み込み)機能の低下を起こします。むせて食事がしにくかったり、誤嚥(食べ物が肺に入ること)を起こしやすくなります。手術後に嚥下機能を改善するためのリハビリを行ったり、食べ物の工夫が必要になります。

術後は一時的に気管切開を行う必要があります。喉頭周囲がむくんで、呼吸ができなくなるためと、縫い合わせた喉頭に圧がかからないようにするためです。喉頭の浮腫や嚥下機能の改善の具合を確かめたうえで、気管切開を閉鎖します。

4. 喉頭亜全摘術

喉頭亜全摘術は、両側の声帯を含む甲状軟骨(のど仏の軟骨)を取り除く手術です。声門がんに主に行われますが、声門上がんでも一部行われます。

術後は声帯がなくなり、ガラガラ声にはなりますが、発声は可能で、社会復帰はしやすい手術方法です。嚥下機能の低下は必発で、喉頭部分切除術よりも、さらに嚥下リハビリには時間がかかります。食形態を通常の食事に戻せるかどうかは、リハビリ次第です。

術後は一時的に気管切開を行う必要があります。喉頭周囲がむくんで、呼吸ができなくなるためと、縫い合わせた喉頭に圧がかからないようにするためです。

5. 喉頭全摘術

がんが広い範囲にある場合は、喉頭を全部摘出する喉頭全摘術を行います。喉頭を全てとるため、声が出せなくなります(喉頭温存ができません)。

喉頭全摘術ではがんのある部位を大きく、取り除いた後に、新しい食べ物の通り道を縫って作ります。縫い合わせた新しい食べ物の通り道がくっつくまで、10日前後は口から飲水などができません。術後10日前後で、造影剤を飲み込む検査を行い、縫合部分がくっついていることを確認して、食事を再開します。

食事が口からとれない間は、鼻から胃まで細い管(胃管:いかん)をいれて、栄養(経管栄養:けいかんえいよう)します。経管栄養では、お腹に大量の液体が入るため、吐き気や腹痛、下痢などが起こることがあります。なかでも嘔吐をすると、縫合した粘膜が胃酸にさらされて、くっつきにくくなります。経管栄養中に吐き気などがあれば速やかに担当医や看護師に伝えてください。10日前後は唾液も飲み込まないようにする方が良いとされ、唾液はなるべく口から出して捨てるか、持続して吸引します。

図:胃管のイメージ。

喉頭全摘術の合併症

喉頭全摘術の合併症は、出血や感染などもありますが、最大の合併症は咽頭(いんとうろう)です。咽頭瘻は縫合した粘膜がうまくくっつかず、唾液や食べたものが咽頭の外の皮膚の下に漏れ出て、たまってしまう状態です。唾液や食べ物が皮膚の下にたまると、その部分に感染を起こします。持続する発熱や頸部の赤み、痛みで気づくことや、術後10日前後の飲み込みの検査時に漏れが発覚することもあります。

咽頭瘻が見つかった場合は、瘻孔部位を大きく切り開いて周りの皮膚と縫いつけます(咽頭皮膚瘻:いんとうひふろう)。炎症や感染が落ちつくのを待って塞ぎます。咽頭瘻が起きた場合は、合併症なく経過した場合に比較して、入院期間が1ヶ月以上延長することが多いです。

特に放射線治療後の喉頭全摘術では咽頭瘻のリスクが高くなります。放射線治療で喉頭周囲の血流が低下するため、縫合した場所がくっつきにくくなるためです。

喉頭がんで甲状腺を摘出することがある?

甲状腺は喉頭の前下方にあります。喉頭がんは前方に広がった場合は、甲状腺に浸潤(しんじゅん)することがあります。つまり甲状腺の中にがん細胞が入り込みます。がんが甲状腺の近くにある場合は、手術時に甲状腺を一部、もしくは全部摘出します。甲状腺を全摘した場合は甲状腺ホルモンを内服する必要があります。

術後の呼吸はどうするの?

鼻や口にかわる新しい気道は、左右の鎖骨の間に作る永久気管孔です。呼吸は永久気管孔を介して行われ、口や鼻に空気が通らなくなります。術後は気道(空気の通り道)と食道(食べ物の通り道)が別々になります。気道と食道が分離するため、むせることはありません。鼻をかんだり、においをかぐことができません。永久気管孔から水が入ると、肺に水が入って溺れてしまうため、首まで湯船につかることができません。

永久気管孔になった場合にできないことは下記のことになります。

  • 声を出すこと
  • においをかぐこと
  • 鼻をすすること
  • 鼻をかむこと
  • 麺類をすすること
  • 肩まで入浴すること
  • 排便時に息むこと

永久気管孔では、生活で気をつける点があります。「喉頭がんで永久気管孔になった時の注意点は?」に詳しく記載してありますので、参考にしてください。

6. 咽頭喉頭食道摘出術+遊離皮弁再建

がんが喉頭をこえて広がっている場合には、もっと大きく喉頭を摘出する必要があります。喉頭全摘術では、がんを取り除いて残った粘膜を縫合して、新しい食べ物の通り道を作ります。がんが大きかった場合は、粘膜の切除部分が大きく、縫合する粘膜が足りなくなります。その時は、腸や筋肉などの組織を移植して、新しく食べ物の通り道をつくります。遊離皮弁(ゆうりひべん)とは、体の組織を血管とともに切り取ったものです。組織を縫い合わせただけでは、血流がなくて組織が死んでしまうため、移植した先の血管に、持ってきた組織の血管を縫合します。遊離皮弁の移植では血流の維持が重要です。術後に血流が悪化した場合は、皮弁が壊死(えし)してしまうため、再手術が必要になることがあります。

喉頭全摘術同様、気道は鎖骨の間に新しい気管孔ができます。

7. 頸部郭清術

頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)では耳の後ろから鎖骨の上までの範囲にある脂肪を摘出します。頸部郭清術は頸部リンパ節転移を取り除くための手術です。

声門上がんや声門下がんでは、リンパ節転移が高率に起こります。リンパ節転移は喉頭がんのある部分から、リンパ管を通って転移をおこします。そのため、転移したリンパ節のみを摘出するのみでは不十分で、リンパ管も一緒に摘出する必要があります。リンパ管は頸部の脂肪の中に埋まっているため、脂肪ごと摘出します。

脂肪の中には重要な血管や神経もあるため、それらを傷つけないように摘出します。リンパ節転移が大きく、血管や神経に巻きついている場合は、血管や神経を切断せざるを得ないことがあります。

手術前の検査で頸部リンパ節転移がない場合も、がんが大きい場合は、がんがある側の頸部郭清術を行います。肉眼的にリンパ節転移がなくても、微小な転移が隠れている可能性があるからです。がんが大きくて、もともとがんができた側の反対側まで広がるような場合は、両側の頸部郭清術を行います。

頸部郭清術の合併症

頸部郭清術で起こりうる血管損傷や神経損傷の合併症は下記のものがあります。合併症が起こる頻度には差があります。損傷した場合の症状を記載します。

  • 血管損傷
    • 内頸静脈:顔面の浮腫(むくみ)、頭痛
    • 総頸動脈:半身麻痺
  • 運動神経損傷
    • 副神経:手が上がりにくい(外転90度以上)
    • 顔面神経下顎縁枝:口角の下垂、口角からの息漏れ
    • 舌下神経:舌の運動低下
    • 横隔神経:横隔膜が上がる(自覚しないことが多い)
    • 迷走神経:食事のむせ、嗄声(声がれ)
    • 腕神経叢:手が動かない
  • 感覚神経損傷
    • 頸神経:頸部全体の締めつけ感、頸部の感覚低下
    • 後頭神経:後頭部の感覚低下
    • 耳介神経:耳たぶの感覚低下