かんしつせいはいえん
間質性肺炎
肺の中の空気の通り道ではなく、肺の支持組織(間質)に炎症が起きた状態
17人の医師がチェック 229回の改訂 最終更新: 2022.10.01

原因不明の間質性肺炎(特発性間質性肺炎)とは?

間質性肺炎には大きく分けて2種類あり、原因が分かっているものと分からないものがあります。原因不明のものは特発性間質性肺炎と呼ばれます。ここでは特発性間質性肺炎のさらに細かい分類やそれぞれの特徴に関して説明します。

図:肺の構造。右肺は上葉・中葉・下葉、左肺は上葉と下葉に分かれる。肺の最小単位は肺胞。

1. 特発性間質性肺炎(IIPs)の種類

原因不明の間質性肺炎は特発性間質性肺炎と呼ばれます。特発性間質性肺炎は英語でidiopathic interstitial pneumoniasというので、頭文字をとってIIPsと略記されることもあります。「特発性」というのは原因不明で発症する病気に使う用語であり、他の病気でもよく使われます。突然発症するという意味の「突発性」と混同しないように注意してください。

IIPsは原因の分からない間質性肺炎ですが、原因が分からないなりに、IIPsの中でも特徴や治療法が異なる種類があり、さらに細かく分類されています。CT画像の特徴や気管支鏡検査の結果、外科的肺生検・病理検査の結果などによって以下のように分類されます。

  • 特発性肺線維症(IPF: idiopathic pulmonary fibrosis)
  • 非特異性間質性肺炎(NSIP: non-specific interstitial pneumonia)
  • 特発性器質化肺炎(COP: cryptogenic organizing pneumonia)
  • 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD: respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease)
  • 剥離性間質性肺炎(DIP: desquamative interstitial pneumonia)
  • 急性間質性肺炎(AIP: acute interstitial pneumonia)
  • リンパ球性間質性肺炎(LIP: lymphocytic interstitial pneumonia)
  • 特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE: idiopathic pleuroparenchymal fibroelastosis)
  • 分類不能な特発性間質性肺炎(unclassifiable IIPs)

かなりややこしい分類で、しかもまだ研究が進んでいる最中の疾患なので枠組みや名称も変更されることがしばしばあります。

患者さんの数が多いのはIPF、NSIP、COPの3つです。特にIPFはIIPsのうち約半数を占めると考えられており、患者さんの数が多い疾患です。患者さんはひとまずご自身に関係のあるところだけ見ていただければ十分と思います。

また、IPF、NSIP、COP、RB-ILD、DIP、AIPを主要なIIPs(major IIPs)、LIPやiPPFEを稀なIIPs(minor IIPs)と呼ぶこともあります。間質性肺炎は喫煙が関与しているものがかなり多いのですが、DIPとRB-ILDは特に喫煙との関連が強いため喫煙関連IIPs(SR-ILD: smoking-related interstitial lung disease)と呼ばれることもあります。喫煙が原因ならば「原因の分かる間質性肺炎」ということでIIPsに含めるべきでは無いのではないか、という意見もありますが現状では上記のような分類になっています。

「特発性」間質性肺炎というのはあくまで、「診断時点で原因が不明の」間質性肺炎という意味なので、例えばある時点でIPFだとか特発性のNSIPだとか診断されても、数年後に実は膠原病が原因の間質性肺炎だった、という診断に変更になるようなケースもよくあります。それは最初の問診や検査が不十分だったからではなく、時間が経って特徴がはっきりしてこないと、何らかの病気が原因の間質性肺炎であったと分からないからです。

2. 特発性肺線維症(IPF/UIP)とは

原因の分からない間質性肺炎、すなわち特発性間質性肺炎(IIPs)のうち最も多くを占めるのが特発性肺線維症(IPF: idiopathic pulmonary fibrosis アイピーエフ)と言われています。典型的には、外科的肺生検などで採取した肺を顕微鏡で見てみると、通常型間質性肺炎(UIP: usual interstitial pneumonia ユーアイピー)というようなパターンの変化が見られ、CTでの肺の見た目もUIPパターンと呼ばれる変化を示します。

ここで重要なこととして、IPFであれば顕微鏡やCTで見える様子が典型的にはUIPパターンですが、顕微鏡やCTでUIPパターンが見えたからといってIPFであるとは言えません。というのも、UIPパターンは顕微鏡やCTでの見た目の問題ですが、IPFと診断する際には「特発性」であること、つまり原因が明らかでないことが条件となるからです。薬剤性肺炎や膠原病、なんらかの物質の吸入などでもUIPパターンの肺障害を来すことはしばしばあるので、そのような場合にはUIPパターンの間質性肺炎であってもIPFとは診断しません。

IIPsの中でIPFは最も多いため、IPF疑いの患者さん全員で外科的肺生検を行うのは患者さんの負担が大きいということもあり、IPFに関してはCT所見がUIPパターンであり、かつ明らかな原因の指摘できないものであれば、外科的肺生検・病理診断なしでIPFと確定診断して良いことになっています。

特発性肺線維症(IPF/UIP)の症状

  • 乾いたしつこい咳
  • 運動時の息切れ

この2つが間質性肺炎の最も典型的な症状です。息切れに関しては、病気が進行してくるとごく軽い運動、例えばベッドからの起き上がりや着替えなどでも、出現するようになります。これらの症状はIPFで特徴的というわけではなく、間質性肺炎であればどのようなタイプでも咳や息切れが出現してくることがあります。また、症状が全く無いからといって安心することはできません。全く症状の無い人でもCTを撮ってみると軽度の間質性肺炎があるという状況にはしばしば出会います。

ちなみに、症状ではありませんが、間質性肺炎の患者さんの呼吸の音を聴診器で聴いてみると「バチバチ」というような音が聴かれることがよくあります。典型的には、息を吸う時に背中側、肺の下の方で聴こえることが多いです。これを専門的には捻髪音(ねんぱつおん)やベルクロ・ラ音、英語でfine crackles(ファインクラックルズ)と呼び、重要な特徴であると考えられます。

他にも、間質性肺炎が進行して体に酸素が足りない状況が続くと、「ばち指」といって手指で爪の付け根の部分が盛り上がってくることがあります。ばち指はCOPDなど、体が酸素不足になるような他の病気でもしばしば現れる徴候です。

特発性肺線維症(IPF/UIP)の診断

IPFは最も患者数が多いと考えられる特発性間質性肺炎(IIPs)ではありますが、確定診断に至るのは決して容易でありません。

診断に際しては、まずは間質性肺炎の存在を見つけるところから始まります。間質性肺炎を疑うきっかけとしては、息切れや乾いた咳などの症状、捻髪音などの聴診所見、胸部レントゲン胸部CTなど画像検査、と様々なきっかけがありますが、最も高精度なのは胸部CTと考えられます。間質性肺炎を疑われたら胸部CTがほぼ必須の検査になるでしょう。

間質性肺炎があることが分かったら、次に原因が明らかな間質性肺炎ではないかどうか、詳細な問診、診察や採血検査などで調べていきます。それらで明らかな原因が指摘されなければ特発性間質性肺炎(IIPs)ということになります。「特発性」間質性肺炎というのはあくまで、「診断時点で原因が不明の」間質性肺炎という意味なので、ある時点で例えばIPFと診断されても、数年後に実は膠原病が原因の間質性肺炎だった、という診断に変更になるようなケースもよくあります。それは最初の問診や検査が不十分だったからではなく、時間が経って特徴がはっきりしてこないと、何らかの病気が原因の間質性肺炎であったと分からないからです。

さて、IIPsに含まれる間質性肺炎と診断した後ですが、まず胸部CTでの見た目が典型的なUIPパターンであれば、IPFと診断することができます。本来であれば、外科的肺生検を行って、肺を顕微鏡でよく見たほうがより情報が増えて望ましいのですが、患者さんの負担も考慮して、最も多いIIPsであるIPFの場合には、画像と経過だけからIPFと診断してよいことになっています。

問題は、CT所見がUIPパターンに近いが典型的なUIPパターンではない場合、あるいは明らかにUIPパターンではない場合です。そのような場合には、診断のために気管支鏡検査や外科的肺生検および病理検査を行って情報を増やす必要があります。その結果をもとに、呼吸器内科医などの臨床医、主に顕微鏡を見る病理医、CTなど画像を見る放射線科医が総合的に議論して最終的な診断をつけます。このような場合には、CT所見がUIPパターンとは言えないけれども、総合的に判断してIPF、という診断に至るケースもあります。このあたりが間質性肺炎診断の難しいところであります。

また、診断のためにはUIPパターンと言い切れないIIPsに関しては全例で気管支鏡検査や外科的肺生検および病理検査を行った方がよいのでしょうが、実際には患者さんが高齢で検査ができないケース、間質性肺炎が既にかなり進行していて検査が危険なケース、患者さんが検査を受けたくないケース、間質性肺炎の進行が非常に遅くて確定診断をつける必要性が高くないケース、などもあり、実際の診療においては全員が気管支鏡検査や外科的肺生検を受けているわけではありません。

特発性肺線維症(IPF/UIP)の治療

IPFの発症と進行には喫煙との深い関わりが指摘されているので、もしタバコを吸っている場合にはまず禁煙すること、そして受動喫煙(副流煙)も避けることが重要です。

薬物治療としては、IPFにはステロイド免疫抑制薬は有効ではないことが示されており、使用は推奨されていません。急性増悪した場合、あるいはIPF以外の間質性肺炎の可能性も否定できない場合などはステロイドや免疫抑制薬が使われることはありますが、原則的にはIPFでの薬物治療の柱は抗線維化薬と呼ばれるタイプの薬剤になります。薬剤の例として日本で開発された世界初の抗線維化薬であるピルフェニドン(ピレスパ®)や、2015年7月に認可されたニンテダニブ(オフェブ®)が用いられます。いずれにおいても肺活量の低下抑制効果、すなわち間質性肺炎の進行抑制効果や、生存期間の延長効果が示唆されています。ニンテダニブ(オフェブ®)では急性増悪を抑制する効果も示されています。これらの薬剤の副作用としては、ピルフェニドン(ピレスパ®)では食思不振や光線過敏症が、ニンテダニブ(オフェブ®)では下痢が有名です。その他の治療薬としてはあまりデータは豊富でないのですが、N-アセチルシステイン(NAC: N-acetylcysteine)という物質を吸入する方法も行われることがあります。

薬物治療以外では、病状が進行して酸素が不足するようになった患者さんには在宅酸素療法(HOT: home oxygen therapy)があります。不要な二酸化炭素ガスを吐き出す力が無くなってきてしまった場合には人工呼吸器による呼吸補助療法、若い方では肺移植などの治療が行われることもあります。呼吸リハビリテーションもしばしば有効であると考えられます。

参考文献
・特発性肺線維症の治療ガイドライン 2017. 日呼吸会誌 44 (5), 2006. 359-367.

特発性肺線維症(IPF/UIP)の予後

IPFは70歳前後で発症することが多い病気ですが、進行の早さや予後・余命に関しては非常に個人差が大きい病気です。診断はされたもののほとんど進行することなく経過するケースや、急激に進行して亡くなってしまうケースまで様々です。過去のデータとしては、平均的には診断後の余命は3年程度という報告が多いのが現状であり、危険な病気であることは間違いありません。

死因に関しては急性増悪といって、ある時点から急激に週単位で呼吸状態が悪化するタイプが最多となっています。また、肺がんで亡くなる方も多くいます。IPFでは肺がん合併率が5%から30%ほどと非常に高いことが分かっており、合併した場合には治療に難渋することも多いです。急性増悪や肺がんを発症しなくても、ゆっくりと呼吸状態が悪化していって亡くなる方も多いと言われています。

進行が早い患者さん、遅い患者さんをあらかじめ見分けるのは困難です。実際に経過を見てみるまではわかりません。ただ、肺活量が急激に減っていく患者さん、高齢者、男性、肺高血圧症の合併、CT所見での肺線維化の程度、採血でのKL-6やSP-A/ SP-Dの上がり方、などからある程度予想できるという報告もあります。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016

3. 非特異性間質性肺炎(NSIP)とは

非特異性間質性肺炎(NSIP: non-specific interstitial pneumonia エヌエスアイピー)は、最も多いIIPsのパターンであるUIPパターンとは異なり、肺が全体的に均一に線維化してくるタイプの間質性肺炎として1994年に提唱された概念です。CT所見や顕微鏡での所見でNSIPパターンの変化をきたす間質性肺炎は、膠原病肺や薬剤性肺炎などのように原因が分かっている間質性肺炎、すなわちIIPsではない間質性肺炎が多いとされますが、原因の明らかではないNSIPパターンをきたす間質性肺炎を特発性NSIPとしてIIPsに含める呼びかたが21世紀になって定着してきました。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016

非特異性間質性肺炎(NSIP)の症状

  • 乾いたしつこい咳
  • 運動時の息切れ

この2つが間質性肺炎の最も典型的な症状です。息切れに関しては、病気が進行してくるとごく軽い運動、例えばベッドからの起き上がりや着替えなどでも、出現するようになります。これらの症状はNSIPで特徴的というわけではなく、間質性肺炎であればどのようなタイプでも咳や息切れが出現してくることがあります。また、症状が全く無いからといって安心することはできません。全く症状の無い方でもCTを撮ってみると軽度の間質性肺炎があるという状況はしばしばあります。

ほかに、症状ではありませんが、間質性肺炎の患者さんの呼吸の音を聴診器で聴いてみると「バチバチ」というような音が聴かれることがよくあります。典型的には、息を吸う時に背中側、肺の下の方で聴こえることが多いです。これを専門的には捻髪音(ねんぱつおん)やベルクロ・ラ音、英語でfine crackles(ファインクラックルズ)と呼び、重要な特徴であると考えられます。

他にも、間質性肺炎が進行して体に酸素が足りない状況が続くと、「ばち指」といって手指で爪の付け根の部分が盛り上がってくることがあります。ばち指はCOPDなど、体が酸素不足になるような他の病気でもしばしば現れます。なお、ばち指が現れる割合はIPFの方がNSIPよりも多いとされています。

NSIPそのものの症状ではありませんが、NSIPには膠原病(こうげんびょう)の要素が隠れていることも少なくなく、膠原病関連の症状として関節が痛い、関節が腫れる、皮疹がでる、筋肉痛を繰り返す、寒さなどに反応して手足の指が青白くあるいは紫色になる(レイノー現象)、などの症状が出ることもあります。こういった肺以外の症状も、膠原病の診断に至るための非常に重要な情報なので、担当医にその旨を伝えるようにしてください。

非特異性間質性肺炎(NSIP)の診断

NSIPパターンの間質性肺炎はよくあるタイプの間質性肺炎ですが、何か原因が背景にあるタイプのNSIPなのか、原因不明の(つまり特発性)NSIPなのかの区別も難しく、そもそもNSIPパターンとしてよいかどうかなど、診断は容易でありません。

診断に際しては、まずは間質性肺炎の存在を見つけるところから始まります。間質性肺炎を疑うきっかけとしては、息切れや乾いた咳などの症状、捻髪音などの聴診所見、胸部レントゲン・胸部CTなど画像検査、と様々なきっかけがありますが、最も高精度なのは胸部CTと考えられます。間質性肺炎を疑われたら胸部CTがほぼ必須の検査になるでしょう。

間質性肺炎があることが分かったら、次に原因が明らかな間質性肺炎ではないかどうか、詳細な問診、診察や採血検査などで調べていきます。それらで明らかな原因が指摘されなければ特発性間質性肺炎(IIPs)ということになります。

「特発性」間質性肺炎というのはあくまで、「診断時点で原因が不明の」間質性肺炎という意味なので、ある時点で例えば特発性NSIPと診断されても、数年後に実は膠原病が原因のNSIPだった、という診断に変更になるようなケースもよくあります。それは最初の問診や検査が不十分だったからではなく、時間が経って所見が顕在化してこないと、何らかの病気が原因の間質性肺炎であったと分からないからです。特にNSIPパターンの間質性肺炎では、当初は特発性NSIPと診断されても、後に実は膠原病に伴うNSIPであったと分かった症例が3%から17%ほどあったという報告があり、膠原病などの他疾患との関わりが深いと考えられています。

さて、IIPsに含まれる間質性肺炎と診断した後ですが、NSIPパターンの場合では、胸部CTの所見だけからでは確定診断に至らず、診断のため気管支鏡検査や外科的肺生検および病理検査を行って情報を増やす必要があります。その結果をもとに、呼吸器内科医などの臨床医、主に顕微鏡を見る病理医、CTなど画像を見る放射線科医が総合的に議論して最終的な診断をつけます。このような場合には、CT所見がNSIPパターンとは言い切れなくても、臨床医からみた経過や病理検査も加味して総合的に判断してNSIPという診断に至るケースもあります。このあたりが間質性肺炎診断の難しいところです。

また、特発性間質性肺炎でCTにNSIPパターンが現れているものに関しては全例で気管支鏡検査や外科的肺生検および病理検査を行った方が診断の為にはよいのでしょうが、実際には患者さんが高齢で検査ができないケース、間質性肺炎が既にかなり進行していて検査が危険なケース、患者さんが検査を受けたくないケース、間質性肺炎の進行が非常に遅くて確定診断をつける必要性が高くないケース、などもあり実際の診療においては全員が気管支鏡検査や外科的肺生検を受けているわけではありません。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016

非特異性間質性肺炎(NSIP)の治療

NSIPといっても何らかの原因があって発症していることがハッキリしているNSIPの場合には、その原病の治療方針に従って治療を行っていきます。原因が明らかではないNSIP、つまり特発性NSIPの場合にはステロイド治療がまず行われており、多くの患者さんで有効とされています。

特発性NSIPもさらに細かく分けると、どれくらい肺で炎症が起きているか、線維化が進んでいるかによって細胞浸潤性非特異性間質性肺炎(cellular NSIP)と線維化性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)に分かれ、多くはfibrotic NSIPに分類されるのですが、cellular NSIPの場合にはfibrotic NSIPよりもさらにステロイドが効きやすいことが知られています。cellular NSIPの場合にはステロイドの治療で基本的には上手くいき、亡くなるほどの重症になる方は少ないと考えてよいでしょう。

問題はfibrotic NSIPに関してです。ステロイドが効くことが多いですが、あまり効かない場合や、最初は効いていても再び悪化してしまうことがあります。このような場合には、あるいはfibrotic NSIPの場合には、最初からシクロスポリン(ネオーラル®)、タクロリムス(プログラフ®、グラセプター®)、アザチオプリン(アザニン®、イムラン®)、シクロホスファミド(エンドキサン®)などの免疫抑制薬と呼ばれる系統の治療薬をステロイドと併用することがあります。

ステロイドや免疫抑制薬は効果が期待できますが、やはり様々な副作用が気になるところではあります。そのため、治療を始めて長期にステロイドや免疫抑制薬を使用する場合には、主治医もメリット・デメリットを考慮して慎重に投薬を開始しています。NSIPの場合には長く飲むことになることが多い薬ですから、内服を始める際には医師・薬剤師から薬の副作用や副作用対策に関しても十分に話を聞いておくことで、何かあった時に適切な対処ができます。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016

非特異性間質性肺炎(NSIP)の予後

それほど豊富にデータがあるわけではありませんが、原因不明のNSIP、すなわち特発性NSIPでは5年生存率が70%から80%台ほど、10年生存率が70%前後とする報告が多く、IPFと比較するとかなり良好と言えるでしょう。

また、特発性NSIPもさらに細かく分けると、どれくらい肺で炎症が起きているか、線維化が進んでいるかによって細胞浸潤性非特異性間質性肺炎(cellular NSIP)と線維化性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)に分かれ、多くはfibrotic NSIPに分類されるのですが、cellular NSIPの場合にはfibrotic NSIPよりもさらにステロイドが効きやすいことが知られています。cellular NSIPでステロイド治療を行った場合には、間質性肺炎で亡くなるケースは少ないと言って良いでしょう。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016

4. 特発性器質化肺炎(COP)とは

特発性器質化肺炎(COP: cryptogenic organizing pneumonia シーオーピー、コップ)は数日から数週間くらいの経過で肺が「器質化」と呼ばれるタイプの変化をきたしてくる間質性肺炎です。2002年頃まではBOOP(bronchiolitis obliterans organizing pneumonia)と呼ばれていましたが、近年はCOPという名称が広く使われています。

胸部CTでの見た目としてはIPFやNSIPとは大きく異なり、むしろ一般細菌の感染による肺炎が画像の見た目から疑われるケースが多いです。細菌性肺炎として抗菌薬で治療したが、肺の影がなかなか良くならないので詳しく調べた結果COPという診断になった、というケースがよくあります。これは初期の検査が足りなかったわけではなく、抗菌薬での治療が効かないということを確かめるための必要なステップであるケースが多いので、抗菌薬を使って治療することもムダとは言えないでしょう。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016

特発性器質化肺炎(COP)の症状

  • 息切れ
  • 発熱
  • だるさ
  • 疲労感
  • 体重減少

COPで特徴的な症状というものは特にありませんが、上記に挙げたような症状が見られることがあります。一般的に間質性肺炎の症状というと、数ヶ月から数年単位で息切れや乾いた咳が出てくるのが典型的なので、数日から数週間単位で進行して風邪をひいたような自覚症状になる間質性肺炎という点でCOPは特徴的なタイプの間質性肺炎と言えるでしょう。COPを発症する平均年齢は50歳代であり、男女差はなく、タバコを吸っていない人にむしろ多いとされています。一般的な間質性肺炎では、呼吸の音を聴いてみると「捻髪音」という特徴的な音が聴こえることが多いのですが、COPで捻髪音があることはまれです。

特発性器質化肺炎(COP)の診断

COPなどの呼吸器疾患が疑われた場合には、胸部レントゲンや胸部CTで肺の影の様子を見ることになります。COPにおける胸部CTでの見た目としてはIPFやNSIPとは異なり、むしろ一般細菌の感染による肺炎が画像の見た目から疑われるケースが多いです。そのため、まずは一般細菌による肺炎の可能性を考えて抗菌薬による治療が行われることがしばしばあります。そして、肺の影がなかなか良くならない場合などにCOPが疑われるケースが典型的です。病気の経過としても、症状としても、胸部CTの見た目としても、他の特発性間質性肺炎(IIPs)の特徴とは異なる点が多いので、他のIIPsとの区別が比較的あっさりつく場合もしばしばあります。

診断を確定させるには、まずは気管支鏡検査が行われることが一般的です。気管支肺胞洗浄(BAL)の結果や、経気管支肺生検(TBLB)の結果から確定診断を行います。それでも確定が難しいようなケースでは外科的肺生検まで行われるケースもあります。COPの診断に際してはNSIPやAIP/DADとの区別が問題になることがあるので、気管支鏡検査の所見なども参考に判断します。なお、気管支鏡検査の施行が何らかの理由で難しい場合には、見切りで治療を開始してしまうケースも珍しくありません。

また、COPはあくまで「特発性」つまり原因の分からない間質性肺炎であることが前提なので、薬剤の使用に伴って発症したケース、放射線治療に伴って発症したケース、膠原病に伴うケースなどは、器質化肺炎(OP)とは診断できても特発性器質化肺炎(COP)とは診断できない点に注意が必要です。また、画像の見た目が似ていることがある好酸球性肺炎多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)なども細菌性肺炎と同様COPとの区別を慎重に行う必要があります。

特発性器質化肺炎(COP)の治療

COPは自然に良くなることはあまりありませんが、ステロイド治療で多くの方が改善を認めます。治療開始から数週間から数ヶ月ほどで改善してくるので、改善後にステロイドを少しずつ減らしていきます。ステロイドはよく効くことが多いですが、ステロイドを減らしていく過程でCOPが再発することもしばしばあります。その際には再度ステロイドを使用することで再び改善が得られることが多いです。

このようにステロイド治療を繰り返すことでうまくいくことが多いですが、一部の患者さんはステロイドの効きが悪くて免疫抑制剤の追加が必要になることもあります。そのような場合にはシクロスポリン(ネオーラル®)、タクロリムス(プログラフ®、グラセプター®)、アザチオプリン(アザニン®、イムラン®)、シクロホスファミド(エンドキサン®)などの薬剤が用いられます。

特発性器質化肺炎(COP)の予後(見通し)

それほど多くのデータがあるわけではありませんが、COPの多くはステロイド治療によく反応するため、再発は多いものの亡くなるケースはIPFやNSIPなど他の特発性間質性肺炎に比べれば少ないと考えられています。

一部の患者さんはステロイドの反応性が悪い、あるいはNSIPへと病型が変化していくなどして免疫抑制薬が必要と場合があります。そのようなケースでは間質性肺炎により亡くなることも想定しなくてはなりませんが、そうではなく、ステロイドがよく効く一般的なタイプのCOPであれば、COPそのものにより亡くなることはそれほど心配しなくてよいでしょう。

5. その他の特発性間質性肺炎(IIPs)にはどんなものがあるか

ここまでIIPsのうち最も患者数が多いと考えられるIPF、それに次いで多い特発性NSIPやCOPに関して説明しました。以下ではもう少し患者さんの数が少ないIIPsに関してそれぞれ説明していきます。

呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)とは

呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD: respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease)は喫煙と関連して起こる間質性肺炎であり、40歳代から50歳代くらいの男性に起こることが多いとされています。男性にRB-ILDが多いのは、男性のほうが喫煙者が多いことも関係していると考えられます。

症状としては一般的な間質性肺炎と同様に、乾いた咳や、運動時の息切れが現れることが多いです。他には痰が出たり、血痰になったり、胸の不快感を感じる人もいます。

画像の見た目から強くRB-ILDが疑われて、それ以上の検査はされない場合もありますが、診断を確定するためには外科的肺生検が行われます。

治療としては、喫煙に強く関連した間質性肺炎なので、まずは禁煙が必須です。禁煙だけで改善する方も多くいらっしゃるので、最初は禁煙だけで様子を見ることが多いです。禁煙していても間質性肺炎の悪化が止まらない場合や、重症の場合にはステロイド治療を行います。禁煙やステロイド治療により改善が得られることが多いので、RB-ILDそのものにより亡くなる人はまれとされています。

剥離性間質性肺炎(DIP)とは

剥離性間質性肺炎(DIP: desquamative interstitial pneumonia)もRB-ILDと同様に喫煙と関連して起こる間質性肺炎であり、30歳代から40歳代くらいの男性に起こることが多いとされています。男性にRB-ILDが多いのは、男性の方が喫煙者が多いことも関係していると考えられます。ただし、喫煙以外にも粉塵、膠原病(こうげんびょう)、ウイルス感染などにより発症するケースも多く報告されています。

症状としては同じ喫煙関連間質性肺炎であるRB-ILDよりも強いことが多く、数週間から数ヶ月の経過で咳や呼吸困難が悪化してきて呼吸がうまく出来なくなることがあります。

DIPは特発性間質性肺炎の一種ですが、人数としては全体の3%未満とされており、診断や治療に関して多くのデータがあるわけではありません。診断に際してはIIPsの中ではIPF、NSIP、RB-ILDなど、原因の特定できる間質性肺炎の中では塵肺症、薬剤性肺炎好酸球性肺炎ランゲルハンス細胞組織球症などとの区別が特に重要になります。区別が難しい場合には気管支鏡検査や外科的肺生検が行われることがあります。

治療としては、多くのケースで喫煙に関連している間質性肺炎なので、まずは禁煙が必須です。禁煙とともにステロイド治療も開始することが多いです。10年生存率は70%ほどと報告されており、一部では治療の反応性が悪く亡くなる方もいらっしゃいます。

急性間質性肺炎(AIP/DAD)とは

急性間質性肺炎(AIP: acute interstitial pneumonia)は極めて進行が早いタイプの間質性肺炎です。数日から数週間単位で急激に息切れが進行します。以前はHamman-Rich症候群(ハンマン・リッチ症候群、ハーマン・リッチ症候群)などとも呼ばれていました。

症状としては風邪症状から始まり、数日から数週間単位で急激に乾いた咳、息切れが進行するのが典型的です。ほぼ全てのケースで入院が必要になりますが、入院時点で発熱、筋肉痛、関節痛、全身のだるさなどの症状を伴っていることが多いです。

AIPの診断としては、あくまで「特発性」間質性肺炎なので、何か間質性肺炎の原因となるものが検査でわからないかどうか調べることが重要です。急性呼吸促迫症候群(ARDS: acute respiratory distress syndrome)、何らかの他の間質性肺炎の急性増悪、ニューモシスチス肺炎などの感染症心不全などとの区別が大事になります。

確定診断のためには外科的肺生検が必要ですが、AIPは急激に呼吸状態が悪化していく病気なので、手術をしている時間的・体力的余裕がないことが多く、実際に外科的肺生検が行われることはまれです。外科的肺生検を行った場合、その肺を顕微鏡で見てみるとびまん性肺胞障害(DAD: diffuse alveolar damage)と呼ばれるような見た目の状態になっています。ただし、DADはARDSなど他の病気でも見られる状態なので、顕微鏡でDADが認められても、AIPと診断するためにはやはり他の病気による間質性肺炎でないことの確認は必要になります。

治療としてはステロイドパルス療法などのステロイド大量投与療法、必要に応じて人工呼吸器を使用しての治療などが行われますが、治療は確立していないのが現状です。急激に病状が悪化する病気であり、以前は60%から90%ほどが死亡するとされていました。最近では発症して初回の入院では80%以上が生存して退院できるという報告も出てきていますが、やはり間質性肺炎の中でもトップクラスに急激な進行であり、命の危険が高いタイプであることには変わりないでしょう。入院を乗り切った場合にはそのまま完全回復するケースもありますが、再発したり、ゆっくりと進むタイプの間質性肺炎になっていくケースもあります。

参考文献
Suh GY, et al. Early intervention can improve clinical outcome of acute interstitial pneumonia. Chest 2006 ; 129 : 753-761.

リンパ球性間質性肺炎(LIP)とは

リンパ球性間質性肺炎(LIP: lymphocytic interstitial pneumonia)はリンパ球という白血球のの一種が肺に多く集まってくるタイプの間質性肺炎です。LIPの多くは何らかの病気に伴って起こります。特発性間質性肺炎(IIPs)の範疇に含まれるLIP、つまり特発性LIPは非常にまれであると考えられています。そのため、特発性LIPはまれなIIPs(rare IIPs)というように分類されることもあります。

LIPの症状としては数年単位で徐々に進行する息苦しさや乾いた咳が見られることが多いです。ときに発熱や体重減少、胸が痛い、関節が痛い、などの症状も見られます。

診断としては気管支鏡検査や外科的肺生検が行われ、NSIP、悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患、膠原病、過敏性肺炎、薬剤性肺炎、ウイルス性肺炎HIV感染症IgG4関連疾患、多中心性キャッスルマン病などとの区別が行われます。特に悪性リンパ腫との区別は重要とされます。

治療や見通しに関しては、珍しい病気なのであまりデータがないのが現状ですが、治療としてまずステロイド薬が使われることが多いです。ステロイド治療は半数くらいの患者さんで有効とされます。見通しとしては5年間で33%から50%ほどが亡くなるという報告があり、亡くなる原因としては感染症、肺の線維化が進行した結果の呼吸不全などがありました。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016

胸膜肺実質線維弾性症(PPFE、網谷病)とは

PPFE(pleuroparenchymal fibroelastosis)は両側の肺の上の縁のあたりが次第に硬くなって潰れてきてしまうタイプの間質性肺炎です。広く注目されるようになったのが比較的最近の病気なので、胸膜肺実質線維弾性症などと呼ばれたりもしますが、正式な日本語での病名はまだ定まっていません。PPFEにも感染症や何らかの吸入等に伴うPPFEと、原因の分かっていないPPFEすなわち特発性PPFE(iPPFE)があります。このうちiPPFEは日本では網谷良一らが1992年に報告したこと(呼吸 11, 693-699, 1992)から網谷病(あみたにびょう)と呼ばれることもあります。現在ではiPPFEはまれな特発性間質性肺炎(rare IIPs)としてIIPsの枠組みの中で考えられています。

PPFEの症状としては、ゆっくりと年単位で進行する乾いた咳や息苦しさが特徴とされます。肺の縁の方が壊れてしまう病気なので、肺が空気漏れを起こして「気胸」という状態になりやすく、気胸になると胸の痛みがでることが多いです。初めて気付く症状がこの胸の痛みであることもあります。また、PPFEの患者さんは痩せていることが多く、病気の進行に伴いさらに痩せていきます。

診断としてはまずは胸部CTからPPFEが疑われますが、確定診断のためには外科的肺生検が行われます。慢性過敏性肺炎、塵肺、膠原病、非結核性抗酸菌症などの違う病気ではないことを確かめることが重要と考えられます。

治療に関しては現時点で一定の見解がありません。見通しとして非常にゆっくり進行するタイプから急激に進行するタイプまで様々であり、個人差が非常に大きいとされます。

分類不能な特発性間質性肺炎とは

ここまで様々なタイプの間質性肺炎に関して解説してきましたが、明確にどのタイプの特発性間質性肺炎かを見分けられないこともしばしばあります。その原因として最多なのは、外科的肺生検のリスクが高いなどの理由で生検が施行できずに情報が不十分となってしまったケースです。

ところで、患者さんが直接会うことは滅多に無いのでイメージが湧きづらいかと思いますが、病院には細胞検査士という検査技師、病理医という医師がいて、臨床医が採取してきた細胞や組織の診断をつけています。医療機関によっては院内ではなく、院外に検査の依頼をしていることもあります。間質性肺炎がどのような原因で起きているか、という診断は非常に難しく、専門家によって意見が分かれることも非常に多いので、「多分野合議(MDD: multidisciplinary discussion)」といって、実際に患者さんを診る呼吸器内科医、CTなど画像を専門に診る放射線科医、採られてきた肺を顕微鏡などで診る病理医の意見を総合して診断をつけることが推奨されています。このMDDの結果、それぞれの専門家から見た間質性肺炎の分類が明らかに食い違う場合なども、分類不能型特発性間質性肺炎という診断になります。

分類不能型特発性間質性肺炎は、実際には様々なタイプの間質性肺炎の寄せ集めになってしまうので、治療方法や経過に関してはほとんどデータがありません。ただし、明らかなIPFよりは良いだろうという報告もあります。現実的には、分類不能なりに、どのような間質性肺炎に性質が近そうかを想定して治療を行っていきます。

参考文献
Cottin V, Wells A. Unclassified or unclassifiable interstitial lung disease: confusing or helpful disease category? Eur Respir J 2013 ; 42 : 576-579.