かんしつせいはいえん
間質性肺炎
肺の中の空気の通り道ではなく、肺の支持組織(間質)に炎症が起きた状態
17人の医師がチェック 229回の改訂 最終更新: 2022.10.01

間質性肺炎の治療法について:治療薬は?漢方薬は効く?

間質性肺炎は一般的な菌による肺炎とは異なり、原因は様々で難治性のことが多い病気です。間質性肺炎のタイプによって症状も経過も治療も大きく異なります。ここでは間質性肺炎の治療に関して詳細に説明します。

1. 間質性肺炎にガイドラインはあるのか?

診療ガイドラインとは、治療にあたり妥当な選択肢を示すことや、治療成績と安全性の向上などを目的に作成されているもので、多くの医師が診療に際して参考にしているものです。最近では患者さん向けの記載があるガイドラインも出てきています。

間質性肺炎は多くの種類の病気の総称です。全てのタイプの間質性肺炎に関してガイドラインがあるわけではありませんが、代表的なものとして以下のようなものがあります。

  • 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き(日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会)
  • 特発性肺線維症の治療ガイドライン(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究」班 特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会)
  • 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き(日本呼吸器学会薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会)
  • ARDS診療ガイドライン(日本呼吸器学会 ARDS診療のためのガイドライン作成委員会)
  • 過敏性肺炎診療指針(日本呼吸器学会 過敏性肺炎診療指針作成委員会)

患者さんやご家族が読めるように作られている部分もありますが、基本的には医師向けの記載が多いので、内容は全体としてかなり難しいと思います。このサイトでの病気や治療の説明に関しては各種ガイドラインの記載に沿って、患者さんやご家族向けに書いていますので、ガイドラインの代わりとして患者さんやご家族の方には読んで頂ければ幸いです。

2. 安定期の間質性肺炎はどう治療する?

間質性肺炎にも様々なタイプがあります。完治するものもあれば、数日・数週間単位で急激に進んでいくものもあります。なので、治療方針に関してはどのような間質性肺炎であるか、タイプに依って全く異なると言わざるをえません。また、進むのが非常にゆっくりなものであれば、特に治療はせずに様子を見続けるだけでよいケースもあります。

代表的な間質性肺炎に関しては「原因不明の間質性肺炎(特発性間質性肺炎)とは?」と「原因の分かる間質性肺炎とは?:膠原病?薬剤?アレルギー?放射線?」で疾患ごとに治療方針を説明しています。ここでは実際の治療に使われる薬剤に関して個別に解説していきます。

抗線維化薬(ピレスパ/ピルフェニドン、オフェブ/ニンテダニブ)

線維化薬は、原因が不明の間質性肺炎すなわち特発性間質性肺炎のうち最も多くを占める特発性肺線維症(IPF)に対して主に使用されるタイプの薬剤です。

ピルフェニドン(商品名ピレスパ®)は2008年に日本で承認された世界初の抗線維化薬です。IPFは肺が硬く小さくなって、次第に肺活量が落ちていってしまう病気です。ピルフェニドンの使用によって肺活量の低下速度がゆっくりになることや、IPFに関連して亡くなってしまうケースが減少することなどが示されています。一度壊れてしまった肺を元に戻すような力はありません。またピルフェニドンの効果はある程度長期間持続すると考えられています。そのため、IPF患者さんは病気の早い段階で抗線維化薬を飲み始めるのが良いだろうという考え方が主流です。

副作用としては光線過敏症が約半数の人に現れます。ほかに20%から30%くらいの方で食欲が無くなるなどのお腹に関係した症状が出てきます。

ピルフェニドンは比較的高価な薬です。薬の値段にあたる薬価は最大用量(1,800mg/日)で使用すると毎月13万円以上の計算になります。薬価がそのまま自己負担になるわけではありませんが、長く使う薬でもあるのでお金の問題は無視できません。ただし、2022年現在は後発品も出てきて5-6万円/月ほどの薬価まで下がってきています。

実際の患者さんでは、症状が殆ど無いくらい初期のIPFでピルフェニドンを飲み始めるのは躊躇されるケースも多々あります。

なお、ピルフェニドンを開始する際は、1錠200mgなのですが1日3回、1回1錠つまり600mg/日から内服を開始して、副作用の様子をみつつ数週間ごとくらいで内服量を増量していくことが一般的です。副作用が強そうな人や、小柄な人では最大用量である1,800mg/日まで増やさないことも多いです。また、光線過敏症の副作用に関しては、日焼け止めを使用することをお勧めします。PA値+++、SPF値50+などの強力な日焼け止めが適しています。食欲が無くなるなどの副作用は、空腹時に内服すると強く出やすいとされているので、内服は必ず食後にしてください。

ニンテダニブ(商品名オフェブ®)は2015年8月に発売された新しい抗線維化薬です。ピルフェニドンと同様に肺活量の低下をゆっくりにする効果や、IPFに関連して亡くなってしまうケースが減少することなどが示されています。さらに、ニンテダニブは間質性肺炎が数日から数週間単位で一気に進行してしまう危険な状態、「急性増悪」の発生数を減らせることも示されています。また、2019年から2020年にかけて適応が拡大され、強皮症に伴う間質性肺炎や、IPF以外の線維化が進行していく間質性肺炎でも使えるようになりました。

副作用としては、半数以上の患者さんで下痢が出るとされており、適宜下痢止めなどを使いながらニンテダニブの内服を継続していきます。

ニンテダニブはピルフェニドン以上に高価な薬剤です。通常用量で使用すると1ヶ月の薬価は35万円ほどになります。

いつから抗線維化薬の内服を開始するかは難しいところです。なお、経済的負担に関しては高額療養費制度を使用することで月数万円の自己負担に抑えることが可能です。またIPFの難病対策事業における医療費助成を受けていると、特に重症の患者さんでは経済的負担がかなり軽くなります。

ピルフェニドンとニンテダニブのどちらが優れた薬かは結論が出ていません。副作用の違いなどに応じて患者さんごとに適したほうを選んでいくというのが現状です。

またピルフェニドンとニンテダニブの併用を試した研究報告も出ています。まだデータは十分でなく、原則的には行われない治療ですが、今後行われるようになるかもしれません。

参考文献
・Pooled Data Analysis from ASCEND and CAPACITY. ERS 2015.Abstract number:852820.
Costabel U, et al. Efficacy of Nintedanib in Idiopathic Pulmonary Fibrosis across Prespecified Subgroups in INPULSIS. Am J Respir Crit Care Med. 2016; 193: 178-85.
Vancheri C, et al. Nintedanib with Add-on Pirfenidone in Idiopathic Pulmonary Fibrosis. Results of the INJOURNEY Trial. Am J Respir Crit Care Med . 2018 Feb 1;197(3):356-363.

ステロイド薬(プレドニン/プレドニゾロン、メドロールなど)

ステロイド薬は多くの種類の間質性肺炎に対して有効と考えられている薬剤です。間質性肺炎に対しては主に内服薬として使用します。間質性肺炎が数日から数週間単位で一気に進行してしまう危険な状態、「急性増悪」で入院する場合などは点滴で多くの量のステロイド薬を使用することもあります。ステロイドに分類される薬剤としてはプレドニゾロン(商品名プレドニン®など)、メチルプレドニゾロン(商品名メドロール®など)などがよく使われます。

ステロイドと聞くと副作用が怖いというイメージを持たれる方も多いかもしれません。実際に月単位・年単位でステロイドを内服していくと、高血圧、糖尿病骨粗鬆症白内障緑内障肥満うつ病、不眠、感染症胃潰瘍など多くの副作用が出てくる危険性が高まるのは事実です。しかし、命に関わる病気である間質性肺炎の病勢を抑えるためにはやむなくステロイドを使用する必要があり、担当医はステロイドのデメリットも十分に考慮したうえで処方しています。また、副作用予防策としても処方などに工夫を凝らしています。それぞれの副作用および副作用対策を知り、ステロイドの必要性を十分に納得したうえで飲んでください。説明がわからない点や納得いかない点があれば担当医とよく話し合ってください。

月単位・年単位で使用していたステロイドを急に中止すると、ステロイドの離脱症状で数日単位で命に関わる状態になることもあるので、副作用が怖くなって内服を自己判断で中止してしまった、飲み忘れてしまった、などが決して無いようにしてください。

免疫抑制薬(ネオーラル、プログラフ・グラセプター、アザニン・イムランなど)

免疫抑制薬とは名前の通り、自分自身の免疫反応を抑えるタイプの薬です。

間質性肺炎に対する内服薬としてよく使用される免疫抑制薬には以下のものなどがあります。

  • シクロスポリン(ネオーラル®、サンディミュン®など)
  • タクロリムス(プログラフ®、グラセプター®など)
  • アザチオプリン(アザニン®、イムラン®)
  • シクロホスファミド(エンドキサン®)

多くのケースで、免疫抑制薬をステロイドと併用して内服することで、多くの量のステロイドを長期間使わないで済むような手助けとしての役割を果たします。

また、膠原病(こうげんびょう)という系統の病気に伴う間質性肺炎や、膠原病の要素が隠れていそうな間質性肺炎では特に免疫抑制薬は頻繁に用いられる傾向があります。膠原病というのは一言で説明するのは非常に難しい概念なのですが、自分の免疫反応が自分自身を攻撃してしまうなどして、全身の関節や皮膚、血管、筋肉など多臓器にダメージを与えるような病気の総称です。したがって、そのような異常な免疫反応を抑えるために免疫抑制薬が使用されるケースが多くなります。

喀痰調整薬(ムコダイン/カルボシステイン、ムコソルバンなど)

喀痰調整薬(かくたんちょうせいやく)または去痰薬(きょたんやく)、というと難しく聞こえますが、痰切り、痰止めの薬のことです。痰の量を減らす薬、サラサラにして排出しやすくする薬、など特徴があり、医師は厳密には使い分けていることも多いですが、いずれの薬もまとめて喀痰調整薬と呼んでいます。

喀痰調整薬の例として以下のような薬があります。

  • アンブロキソール(ムコソルバン®)
  • カルボシステイン(ムコダイン®)
  • アセチルシステイン(ムコフィリン®)
  • ブロムヘキシン(ビソルボン®)
  • エチルシステイン(チスタニン®)
  • メチルシステイン(ペクタイト®)
  • フドステイン(スペリア®)

間質性肺炎ではどちらかと言えば痰のあまり絡まない乾いた咳が出ることが特徴ではありますが、中には痰が絡んで困る方もいらっしゃいます。また、痰の量自体はさほど多くなくても、そもそもの肺機能が悪いので、多少の痰でも苦しく感じてしまう方も多いです。よく処方される代表的なものに関してはもう少し詳しく解説しておきましょう。

カルボシステイン(ムコダイン®)は間質性肺炎に対しては1錠250mgまたは500mgの錠剤で用いることが多く、最大量としては500mgを1日3回(1,500mg/日)使用します。主にサラサラした痰が多く出て困るような方で有効と言われています。やや錠剤が大きくて飲みにくい方もいると思いますので、飲みにくくて困る場合には担当医に相談してみましょう。他の薬剤や、ムコダインの他の剤形(細粒やシロップ)を提案してくれると思います。

アンブロキソール(ムコソルバン®)は1錠15mgを1日3回(45mg/日)、あるいはムコソルバンL®という徐放製剤1錠45mgを1日1回内服して用いることが多いです。徐放製剤とは内服後に少しずつ溶けて体に吸収されていくようなタイプの特殊な加工がしてある薬のことです。主に痰のキレが悪くて、なかなか出しにくいという方で有効と言われています。

N-アセチルシステイン(NAC)吸入療法

N-アセチルシステインはシステイン系去痰薬と呼ばれる薬剤の一種です。英語での綴りを略してNAC(ナック)と呼ばれることも多い薬です。商品名としては、ムコフィリン®があります。

海外ではNACは内服薬として使用されていることが多いのですが、日本ではネブライザーという霧状にして薬剤を吸い込む装置を使ってNACを使用するのが一般的です。

直接的なNACの効果としては、ネバネバした痰を柔らかくする作用があります。ネブライザーで吸い込む時に硫化水素臭(温泉や火山の匂いです)がするので、やや臭い薬であるという点は否めません。

海外ではそもそもNACのネブライザー吸入をあまり行わないのでデータが乏しいのですが、日本人で抗線維化薬であるピルフェニドン(ピレスパ®)とNACを併用すると、特発性肺線維症(IPF)というタイプの間質性肺炎においては肺活量が悪化するスピードを抑制できた、などの効果が報告されています。NACは全ての患者さんに推奨できる治療では決してありませんが、間質性肺炎の治療薬として時々使用されます。

参考文献
Sakamoto S, et al. Effectiveness of combined therapy with pirfenidone and inhaled N-acetylcysteine for advanced idiopathic pulmonary fibrosis: a case-control study. Respirology. 2015; 20: 445-52.

肺高血圧治療薬(オプスミット、トラクリア、レバチオなど)

間質性肺炎の患者さんは「肺高血圧症」という合併症があるケースがしばしばあります。肺高血圧症とは、心臓から肺に送り出す血管(肺動脈)において高血圧になってしまう状態を指します。間質性肺炎そのものの影響でも肺高血圧症は起こりえます。ほかに膠原病(こうげんびょう)といって自分の免疫反応が自分自身を攻撃してしまうなどして全身の関節や皮膚、血管、筋肉など多臓器にダメージを与えるような病気の影響で、間質性肺炎と肺高血圧がそれぞれ関連しあって起きていることもあります。肺高血圧症は進行してくると呼吸と血液の循環がうまくいかなくなるので、間質性肺炎とはまた別の話として息切れが出るようになってきます。したがって、肺高血圧症の有無や程度をチェックしつつ、必要があれば適宜治療を行っていきます。間質性肺炎そのものに伴う肺高血圧症に対して、薬剤による治療が行われるケースは決して多くありませんが、具体的な治療薬としては以下のようなものがあります。

  • プロスタサイクリン製剤
    • ベラプロスト(ドルナー®、プロサイリン®、ケアロードLA®、ベラサスLA®など)
    • セレキシバグ(ウプトラビ®)
    • エポプロステノール(フローラン®など)
    • トレプロスチニル(トレプロスト®)
  • エンドセリン受容体拮抗薬
    • ボセンタン(トラクリア®)
    • アンブリセンタン(ヴォリブリス®)
    • マシテンタン(オプスミット®)
  • ホスホジエステラーゼ-5阻害薬
    • シルデナフィル(レバチオ®)
    • タダラフィル(アドシルカ®)
  • 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬
    • リオシグアト(アデムパス®)

通常の「高血圧症」とは異なり、肺高血圧症はそれほど多い病気ではなく、上記の治療薬もそれほど頻繁に使われるようなものではありません。特殊な副作用や、処方の際の注意点も多くあります。このような薬を始めていくか、変更するか、などの判断は、これらの薬をよく処方している循環器科医、アレルギー・膠原病科医、呼吸器科医などにしてもらうのが安心だと思います。

胃薬(タケキャブ、ネキシウムなど)

さほど多くのデータがあるわけでは無いのですが、間質性肺炎の方では胃酸が逆流してこみ上げてくるという病気、すなわち胃食道逆流症逆流性食道炎)も持っている患者さんが多いと言われています。胃酸が逆流して肺の方に行ってしまう影響で、間質性肺炎が悪くなっているのではないか、などの推測もありますが定かではありません。

胃食道逆流症の治療薬は間質性肺炎の患者さんのみなさんが使うべき薬では決して無いのですが、以下のようなタイプの胃薬が処方されるケースがあります。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI: proton-pump inhibitor)
    • ボノプラザン(タケキャブ®)
    • エソメプラゾール(ネキシウム®)
    • ラベプラゾール(パリエット®)
    • ランソプラゾール(タケプロン®)
    • オメプラゾール(オメプラール®、オメプラゾン®)
    • その他
  • ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)
    • ファモチジン(ガスター®)
    • シメチジン(タガメット®)
    • ニザチジン(アシノン®)
    • ラフチジン(プロテカジン®)
    • ラニチジン(ザンタック®)
    • ロキサチジン(アルタット®)
    • その他

参考文献
Lee JS, et al. Anti-acid treatment and disease progression in idiopathic pulmonary fibrosis: an analysis of data from three randomised controlled trials.Lancet Respir Med. 2013 Jul; 1(5): 369-76.

漢方薬(清肺湯、柴苓湯、桂枝茯苓丸など)

間質性肺炎の治療には様々な薬が使用されますが、西洋薬は副作用が気になる、漢方薬の方が体に優しい気がする、などの理由で漢方薬を好まれる患者さんもいらっしゃいます。間質性肺炎の場合には、清肺湯(セイハイトウ)、柴苓湯(サイレイトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)などを飲まれている方が多いように思います。

しかし、漢方薬も決して100%安全な薬剤ではなく、むしろ漢方薬の影響で新規に間質性肺炎を発症したと考えられる報告もあります。間質性肺炎の副作用が報告されている漢方薬の例として次のようなものがあります。

  • 小柴胡湯(ショウサイコトウ)
  • 柴朴湯(サイボクトウ)
  • 柴苓湯(サイレイトウ)
  • 柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
  • 辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)
  • 清肺湯(セイハイトウ)
  • 大柴胡湯(ダイサイコトウ)
  • 半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)

1996年に小柴胡湯が原因と考えられる間質性肺炎により10人の死亡例があったと当時の厚生省から発表され社会問題になったのは有名な話です。ただし、小柴胡湯は非常によく使われていた漢方薬なので、10人が間質性肺炎で死亡とは言っても、割合で言えばべらぼうに高いわけではありません。

決して全ての漢方薬が間質性肺炎に関して悪さをする訳ではありませんし、全ての患者さんで内服をお奨めしない訳ではありませんが、内服に関しては慎重にならざるをえないケースが多いのも事実です。少なくとも個人の判断で漢方薬の内服を行うのはリスクが高いと言えます。担当医に相談したうえで使用を検討してください。

参考文献
伊東友好ら, 柴苓湯による薬剤性肺炎の1例. 日呼吸会誌 44 (11). 2006. 833-7.
・日本呼吸器学会, 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き

在宅酸素療法(HOT、ホット)

間質性肺炎が月単位・年単位で進行してしまって肺が十分な酸素を取り込めなくなると、体に必要な酸素濃度を維持するために酸素療法が必要となります。家で出来る酸素療法のことを在宅酸素療法といいます。英語でのHome Oxygen Therapyの頭文字をとってHOT(ホット)などとも呼ばれます。どんな患者さんがHOTを行うべきか、間質性肺炎の患者さんがHOTを行うことによってより長く生きられるのか、というのは実はまだ十分なデータがある状況では無いのですが、普段から体の中に酸素が足りていないと判断されるような状況ではHOTの開始を推奨されることが一般的です。

家に酸素の機械を持って帰るというのはそれなりに負担のある治療になるので、一般的な治療薬や呼吸リハビリテーションなど、間質性肺炎に対してできる他の治療を一通りした上で低酸素状態の改善が無い場合、というのがHOT導入の前提になります。また、動いた時にだけ低酸素になる患者さんの場合には、それに応じて動くときだけHOTが必要になります。

HOTは家に設置されていきなり使えるようなものでは無いので、使い始める場合には入院して、適切な流量を入院中に決めてもらい、患者さん自身も使い方をマスターしていく、というふうにすることが多いです。

HOTを導入するとなると、費用が気になる方も多いかもしれません。基本的には3割負担であれば1ヶ月あたり2万円から2万5千円くらい、1割負担であれば1ヶ月あたり7千円から8千円くらいになります。

ただしHOTを導入するくらい重症の間質性肺炎の方であれば身体障害者手帳でHOTの費用が公費負担になることもあります。また間質性肺炎に対して、難病対策事業における医療費助成を受けていれば、特に重症の患者さんでは経済的負担が軽くなります。

ほかにもHOTを使うほどの重症間質性肺炎であれば高額な治療薬が必要になるケースもあります。そういった場合には患者さんの収入にもよりますが、高額療養費制度が利用できることがあります。

このように、HOTを導入するくらいの複雑な状況になってくると医療費の計算は容易でないので、結論としては医療機関で個別に尋ねるのが正確でしょう。

街角で酸素ボンベを引きながら、あるいは背負いながら歩く患者さんを多くの方は見たことがあると思います。やはり病人に見えてしまうので、HOTを始めるとなると拒否感が強い方もいらっしゃいますが、息苦しくて外出を控えてしまう生活よりは、しっかり酸素を吸いながら活動的に暮らせる生活の方が良い、とプラス思考で考えることもできます。HOTをしながら旅行もできます。事前の申請は必要ですが飛行機や船に乗ることもできますし、酸素ボンベを宿泊先まで届けてくれるサービスなどもあります。液体酸素を持ち運ぶことで、大きな酸素ボンベを持ち運ばないで済むような使い方も患者さんによっては可能です。国内であればほとんどの地域で心配なく旅行できますし、海外でもサポートが得られる地域もあります。

ただし、HOTでは酸素に引火してしまうと非常に危険です。自宅でも出先でも火気には十分注意してください。また、外出に際しては酸素ボンベの残量には十分注意が必要です。

肺移植

まだまだ発展途上の治療であり、決して頻繁に行われるような治療ではありませんが、間質性肺炎に対する治療として肺移植が候補に挙がることが稀にあります。肺移植は日本では1998年に初めて施行されました。以降は日本全体で年に10件前後という施行数でしたが、2010年7月に臓器移植法が改正され、本人の臓器提供意思が不明の場合にも家族の承諾があれば臓器提供が可能になったという背景があり、2013年には日本で年間60件の肺移植が行われています。

肺移植には脳死肺移植と生体肺移植があります。脳死肺移植の場合には、脳死となられた方から肺を頂き、生体肺移植の場合には原則として2名の親族の方から肺の一部をそれぞれ分けて頂くこととなります。臓器移植法の改正以降は脳死肺移植が増えてきていますが、他国と比べると日本は生体肺移植が盛んな傾向にあります。また、脳死肺移植の提供者が出現するまでに、肺移植の候補者として患者さんが登録してから2年ほど平均して時間がかかるので、進行した間質性肺炎の患者さんの場合はその待機期間に残念ながら亡くなってしまうケースも多く、脳死肺移植を待ちきれないという背景もあります。

脳死肺移植にしても生体肺移植にしても、臓器提供者の面や、患者さんの年齢制限の面(原則として55歳から60歳以下)で条件が多く、実際に移植手術を受けることは容易ではありません。また、仮に肺移植を受けられたとしても、拒絶反応や感染症の問題があり、決して長生きできる可能性が高いとは言えないのが現状です。肺移植は現時点では決して夢のような治療ではないのです。

それでも詳しい話を聞いてみたい、可能性があればぜひ肺移植を検討してみたい、という患者さんはまずはご自身の担当医に相談してみましょう。ただ、肺移植が珍しい治療であることは現時点で間違いありませんから、担当医も肺移植に関しては詳しくないことが通常だと思います。2022年7月現在、日本で肺移植を行っている医療機関は11施設あります。

  • 岡山大学病院
  • 京都大学医学部附属病院
  • 大阪大学医学部附属病院
  • 東北大学病院
  • 国立循環器病研究センター(心肺同時移植のみ)
  • 獨協医科大学病院
  • 福岡大学病院
  • 長崎大学病院
  • 千葉大学医学部附属病院
  • 東京大学医学部附属病院
  • 藤田医科大学病院

真剣に肺移植を考慮されるならば、まずはこれらの病院に紹介してもらい、外来で話を聞いてみてください。肺移植を受けられる可能性がありそうならば、これらの病院に入院をして、本当に肺移植を受けるのにふさわしいかどうかを詳しく検査していくことになります。

3. 間質性肺炎の急性増悪はどう治療する?

間質性肺炎の急性増悪(きゅうせいぞうあく)とは、間質性肺炎が1ヶ月以内くらいの単位で急激に悪化して呼吸がうまく出来なくなる危険な状態です。まず入院が必要となりますが、ここでは入院中に行われる治療に関して詳しく説明していきます。

参考文献:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版

ステロイド薬、ステロイドパルス療法など

間質性肺炎の急性増悪で入院した場合には、メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール®、ソル・メルコート®など)というステロイド薬を点滴で大量に使用することが一般的です。メチルプレドニゾロンを1,000mgほど大量に使用する治療を「ステロイドパルス療法」と呼ぶことが多いです。ステロイドパルス療法が間質性肺炎の急性増悪に対してどのくらい有効かというのは実は十分に検討されていないのですが、おそらく有効であろうと考えられており、実際には間質性肺炎急性増悪で入院された方の非常に多くがステロイド大量療法を受けています。

免疫抑制薬(エンドキサンパルス療法など)

上記のステロイド大量療法に加えて、間質性肺炎急性増悪の治療として免疫抑制薬を併用することがあります。免疫抑制薬は自分自身の異常な免疫を抑えることで間質性肺炎の勢いを抑えようという意図で使われます。免疫抑制薬を間質性肺炎急性増悪に対して使用することの是非に関して、あまりハッキリとしたデータは無いのが現状です。

行われる場合には、シクロホスファミド(エンドキサン®)パルス療法という、シクロホスファミドを1週間から2週間ごとに点滴で大量に使用する治療などが行われることが多いです。シクロスポリン(ネオーラル®、サンディミュン®)、タクロリムス(プログラフ®、グラセプター®)、アザチオプリン(アザニン®、イムラン®)など、その他の免疫抑制薬を内服で使用することもあります。

抗菌薬

間質性肺炎の急性増悪で入院した場合、ステロイド大量療法などに加えて抗菌薬も併用されることがしばしばあります。間質性肺炎が急性増悪すると、胸部CTで見たときに両方の肺が白く写ることが多いですが、これが菌の影響で白く写っているのか(細菌性肺炎)、間質性肺炎が悪くなって白く写っているのか、判断が難しい場合がしばしばあるからです。また、そもそも両方の要素があり、細菌性肺炎炎症が引き金となって間質性肺炎が急性増悪しているケースもあるからです。

抗凝固療法(ヘパリン、フラグミン、リコモジュリンなど)

血液を固まりにくくする目的で使われるヘパリン、低分子ヘパリン(フラグミン®など)も使う場合があります。どのように働いているかというのは難しいところですが、間質性肺炎の急性増悪に対して点滴で使用することで死亡率を下げることが出来たという報告があります。しかし、決して多くのデータがあるわけではなく、現時点で全ての患者さんで奨められるような治療ではありません。

同様にリコンビナントトロンボモジュリン(リコモジュリン®)という薬も、血液を固まりにくくしつつ炎症や肺の線維化を抑える作用があるとされており、間質性肺炎急性増悪における死亡率を低下させたとする報告があります。しかしやはり決して多くのデータがあるわけではなく、現時点で全ての患者さんで奨められるような治療ではありません。

好中球エラスターゼ阻害薬(エラスポール/シベレスタット)

好中球エラスターゼという物質は、間質性肺炎の患者さんの体内で、特に急性増悪時に作られるもので、肺にダメージを与えると考えられています。この物質の働きを妨害する薬がシベレスタット(エラスポール®)です。この薬による大きな副作用はあまり見られないこと、使用することによって肺の酸素の取り込みが良くなったなども報告があることから、急性増悪時に使われることがあります。しかし、この薬のおかげで生存率が改善したというデータは乏しく、現時点で全ての患者さんで奨められるような治療ではありません。

血液浄化療法(PMX-DHP)など

体内から血液を取り出し、ポリミキシンB固定化線維という物質が入った特殊な筒に血液を通すことで、血液中のエンドトキシンという毒素などを除去し、その後に血液を体内に戻すという治療です。これによって肺の酸素の取り込みが良くなった、生存期間が延長した、などの報告があります。しかし、他の薬物による治療と比べてかなり大掛かりで患者さんにとっても負担のある治療であること、それほど多くのしっかりしたデータがあるわけでは無いことなどから、現時点で全ての患者さんで奨められるような治療ではありません。

人工呼吸器が必要と言われたら

間質性肺炎が急性増悪すると肺が十分に酸素を取り込めなくなります。そうなったときには鼻から、あるいはマスクで酸素を吸入する治療を行いますが、それでも体が酸素不足に陥っている場合には人工呼吸器を使用するかどうか、という状況になってきます。人工呼吸器を使うかどうか、使うならどの種類にするかはきわめて重大な判断です。間質性肺炎は一見落ち着いているように見えても、何らかのきっかけで数日から数週間単位で一気に命の危険がある状態まで悪化(急性増悪)しうる病気です。安定している状況でそこまで深く考えておくのは難しいことではありますが、いざという時に人工呼吸器を使うかどうかという点は、あらかじめ家族やかかりつけ医と相談しておくべき点です。

間質性肺炎の急性増悪に対しては、いわゆる「ステロイドパルス療法」を行ったり、酸素投与を行ったりします。しかし、通常の酸素投与では血液中の酸素濃度が十分に維持できない場合や、不要なガスである二酸化炭素の貯留が多い場合などは、患者さんの呼吸状態を総合的に判断して人工呼吸器の装着を検討することになります。

人工呼吸器の種類としては大きく分けて2種類あります。マスク型の人工呼吸器(NPPV: Non-invasive Positive Pressure Ventilation)と、空気の通り道である気管に口から管を入れて、つまり気管挿管して行うタイプの人工呼吸器(IPPV: Invasive Positive Pressure Ventilation)があります。

NPPVのメリットとしては、装着がIPPVに比べて簡単で、なんとか会話や飲水ができ、状況に応じて中止しやすいなどの点があります。また、NPPVは施設にもよりますが、集中治療室(ICU)でなく一般病棟で使えることもあります。しかしデメリットとして、患者さんが苦しくて自分でマスクを外そうとしてしまう場合などは使えません。またIPPVよりも看護師や医師が痰を吸引するのが難しいので痰詰まりになりやすい点もあります。マスク脇からの空気漏れの問題などもあります。

IPPVのメリットとしては、確実に空気の通り道が確保できて痰詰まりの危険がNPPVよりも減ります。また、自分でマスクを外してしまうといった心配もありません。しばしば鎮静薬も併用して、NPPVよりも安定した状態で装着し、呼吸を補助します。しかしデメリットとして、鎮静薬を使うことになるので意思疎通がやや困難になりますし、気管挿管中は水を飲んだり食事は出来なくなります。集中治療室への入室も必要になります。気管挿管が長期に及ぶ場合(目安としては2週間程度)には、首の正面を数cmほど切開して、その穴から直接人工呼吸器を接続する小手術(気管切開)が必要になります。気管切開をすることで、口の中を清潔にできますし、患者さんの苦痛が減るからです。患者さんの状態がそれなりに良ければ、気管切開後には口から食事を摂ることもできます。

このようにメリットやデメリットをそれぞれの患者さんの状況に合わせて考慮し、人工呼吸器を選びます。

気を付けてほしいのは、人工呼吸器をどう使うかで、生命の終わりの迎えかたが決まってしまう可能性があるという点です。人工呼吸器をつけるかつけないかはきわめて重大な判断です。

前提として、IPPVが必要なほど重症の間質性肺炎急性増悪は生死の瀬戸際であり、非常に危険な状態です。危険さの参考として2件の報告を例にとってみます。どちらも間質性肺炎の代表格である特発性肺線維症の急性増悪に対して、集中治療室に入って人工呼吸器を要するような場合の集計です。1件では23人の患者のうち22人が人工呼吸器から離脱することなく60日以内に亡くなったとしています。もう1件では15人のうち11人が集中治療室にいる間に、残りのうち2人は退院後まもなく亡くなったとしています(Chest 2001 ; 120 : 213-219. Chest 2001 ; 120 : 209-212.)。また、仮に生存して退院できても元の生活に戻れるとは限りません。急性増悪をきっかけに、人工呼吸器を使い続けないと呼吸が維持できない状態になってしまうこともあります。「もう生きていても辛い。人工呼吸器を外してほしい」、とご家族や患者さん自身が医師に頼むような状況は、とても辛いことですが実際にあります。そうした場合、日本の医療の現状では、一度装着した人工呼吸器は患者さんの病状が回復して人工呼吸器が不要にならない限り外すことは難しいです。

もちろん、人工呼吸器を一時的に使うことで回復し、人工呼吸器から離脱して退院できる望みはあります。しかし希望と隣り合わせに、患者さんが苦しむだけの結果に終わってしまう可能性もしばしばあることは重要です。どちらになるかはやってみなければわからない要素が大きいのです。

では人工呼吸器をつける以外にどんな選択がありえるのでしょうか。それは人工呼吸器をつけないということです。もちろん人工呼吸器を検討されている状況ですので、人工呼吸器を使わないと決めることは、もし状態が改善しなければそれ以上の苦痛を与える治療はせず看取るという判断を意味します。こちらも楽に選べることではありませんが、「人工呼吸器を使って最後まで治療を続ける」と決めない限りは、いつかこの決断を迫られることになります。

間質性肺炎の急性増悪で緊急入院するという緊迫した状況で、人工呼吸器をつけるかつけないかという重大な判断をすぐにするのは難しいと思います。間質性肺炎の患者さんは、いざ人工呼吸器が必要となったらどうするか、普段から家族やかかりつけ医と相談しておくべきでしょう。アメリカ、ヨーロッパ、日本、ラテンアメリカの呼吸器学会の合同声明では、最も代表的といえる特発性肺線維症(IPF)における急性増悪の場合には、「人工呼吸は過半数の患者に対しては勧められないが、一部では行ってもよい」としており、基本的には人工呼吸器は推奨されないことが多いが、それぞれの患者さんや家族の考え方や状況を踏まえたうえで判断するようになっています。NPPVは行うがIPPVは行わない、などの選択をされる方もいらっしゃいます。

重症の経過の中では予想しなかったこともしばしば起こります。あるとき「人工呼吸器はつけない」と決めて治療を続けていたとしても、状況が変われば気持ちが変わるかもしれません。もちろん逆もありえます。医師に一度伝えた希望をあとで変えることはできます。決断の根拠になるのは、最後には患者さん本人や家族の価値観です。気持ちが変わったときにはもう一度話し合うこともできるでしょう。できるだけ現在の状況で納得できる選択を考えてください。

参考文献
・日本呼吸器学会, 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 改訂第3版, 南江堂, 2016
Stern JB, et al. Prognosis of Patients With Advanced Idiopathic Pulmonary Fibrosis Requiring Mechanical Ventilation for Acute Respiratory Failure. Chest 2001 ; 120 : 213-219.
Blivet S, et al. Outcome of Patients With Idiopathic Pulmonary Fibrosis Admitted to the ICU for Respiratory Failure. Chest 2001 ; 120 : 209-212.

4. 気胸、縦隔気腫があると言われたら

間質性肺炎の患者さんでは、気胸(ききょう)や縦隔気腫(じゅうかくきしゅ)と呼ばれる合併症がしばしば起こります。間質性肺炎の場合には、もろくなってしまった肺の一部が破れて空気漏れを起こしている状態になることが多いです。空気漏れが肋骨(ろっこつ)などで作られる胸の壁と肺の間に起きてしまう場合は気胸、両肺の間の心臓などがあるスペースに起きてしまう場合を縦隔気腫と言います。

気胸のイラスト。空気漏れによって肺がしぼんでいる。

空気漏れを起こしていても直ちに何か悪いことがあるわけではないので、気胸縦隔気腫によって呼吸の状態が明らかに悪くなっているわけでなければ様子をみるだけの対応になることが一般的です。空気漏れが多すぎる場合には、漏れた空気が肺や心臓など、胸の中にある臓器を圧迫して危険な状態になることがあります。そのような場合には、漏れた分の空気を体外に逃がすために、肋骨と肋骨の間を通して体外からチューブを入れることになります。チューブを入れることによって、漏れた空気による臓器圧迫が起きている状況を逃れる間に、破れた肺の穴が自然に塞がってくれることに期待します。しかし、自然に穴が塞がってくれない場合には、肋骨と肋骨の間を通して体外から入れたチューブから接着剤のようなものを流し込んだり(胸膜癒着術)、手術をして穴を塞ぐ治療法があります。

ただし、これらの接着剤を使う治療や手術自体が患者さんにとって大きな負担になりえます。また治療による刺激が引き金となって間質性肺炎が急性増悪することもしばしばあります。そのため胸膜癒着術や外科治療は行うべきかどうか、患者さんや家族も一緒に十分考える必要がある治療だと思います。

なお、気胸縦隔気腫は、間質性肺炎の治療薬であるステロイドの使用中に起こりやすいことが分かっています。ステロイドの副作用として、傷口が治るスピードが遅くなる、というものがあるためと考えられます。気胸縦隔気腫に対しては、ステロイドの使用量を減量した方が有利ですが、急激にステロイドの使用量を減らすと間質性肺炎が悪化する可能性があるので、気胸縦隔気腫がある場合にはステロイドを通常よりも早めに、かつ慎重に減量することが多いです。

5. 肺がんかもしれないと言われたら

間質性肺炎の患者さんのうち少なくとも一部は肺がんになりやすいと言われています。間質性肺炎といっても多くの種類の原因がありますので一概には言えません。しかし全ての種類ごとにそれぞれ肺がんのかかりやすさを調べたデータがあるわけではありません。

原因不明の間質性肺炎(特発性間質性肺炎:IIPs)では高い割合で肺がんを発症することが分かっています。特にIIPsの中で最も多いと考えられる特発性肺線維症(IPF)においては5%から30%ほどの患者さんが肺がんにかかるとされ、間質性肺炎の無い人よりも7倍から14倍ほど肺がんにかかりやすいと言われています。IPFの患者さんにおいて死因の1位は急性増悪、2位はゆっくりと呼吸不全になっていくことですが、3位は肺がんといわれており死因の10%ほどを占めています。

このように間質性肺炎の患者さんは肺がんに注意する必要があるため、定期的に画像検査をして間質性肺炎の進行を評価するのと同時に、肺がんの有無に関してもみていくことが多いです。

間質性肺炎に合併した肺がんは治療に関しても苦心するケースが多いことが知られています。肺がんの主な治療は手術、放射線治療化学療法抗がん剤)です。いずれを使う際も急性増悪の引き金になる可能性を常に考えながら治療していく必要があります。具体的には、手術後に肺がんはうまく切除できたけれども急性増悪をしてしまうケースはしばしばあります。また放射線治療や抗がん剤も使用後に急性増悪を起こすことがあります。手術や放射線治療をする場合にはリスクを覚悟で行う、抗がん剤を使用する場合には急性増悪を起こしにくいタイプの抗がん剤を慎重に選んで使用していく、ということになるでしょう。実際には、明らかに目立つ間質性肺炎がある場合には、肺に対する放射線治療は避けられることが多いです。

参考文献
Ozawa Y, et al. Cumulative incidence of and predictive factors for lung cancer in IPF. Respirology 2009 ; 14 : 723-728.
American Thoracic Society; European Respiratory Society, American Thoracic Society/European Respiratory Society International Multidisciplinary Consensus Classification of the Idiopathic Interstitial Pneumonias. Am J Respir Crit Care Med 2002 ; 165 : 277-304.
Natsuizaka M. et al.Epidemiologic survey of Japanese patients with idiopathic pulmonary fibrosis and investigation of ethnic differences. Am J Respir Crit Care Med 2014 ; 190 : 773-779.

6. 間質性肺炎の治療効果はどう判定する?

間質性肺炎に対して抗線維化薬(ピレスパ®、オフェブ®など)やステロイド(プレドニン®、メドロール®など)などの治療薬を使用していても、息切れや咳などの症状が出て、薬が効いているのかどうか、患者さん自身では分からないことも多いと思います。実際に、間質性肺炎が進行して硬くなりきってしまった肺は元には戻らないので、薬を使用して呼吸がラクになったというケースは多くありません。

そこで、薬が効いているかどうか客観的に判断するために様々な検査をする必要があります。多く行われるのは胸部レントゲン胸部X線)検査や胸部CT検査といった画像検査です。間質性肺炎は肺が硬く、小さくなっていく病気なので、どれくらい肺が縮んでいるかとか、胸部CTで写っている影がどのように変化しているかを見ることで視覚的に治療効果を判定することが出来ます。他に行われる検査として、呼吸機能検査スパイロメトリースパイログラム)や6分間歩行試験も一般的です。間質性肺炎では肺が縮むことによって肺活量が低下し、運動能力が下がっていきます。呼吸機能検査では肺活量がどれくらい下がっているとか、6分間歩行試験では6分間で何メートルくらい歩くことが出来た、など数字で治療効果を推し量ることが出来ます。

7. 間質性肺炎があっても手術は受けられる?

間質性肺炎の治療中に、ほかの病気やけがで手術が必要になることもあります。

局所麻酔で済むような簡単な手術であれば、基本的には肺の機能はあまり関係なく手術は受けられると考えて良いでしょう。しかし、大きめの手術では全身麻酔が必要になります。全身麻酔では意識がなくなり、自前の呼吸も止まってしまうので、手術中は人工呼吸器につながれることになります。間質性肺炎の患者さんに対して人工呼吸器を使う場合には、使っても大丈夫かどうか慎重に判断する必要がありますし、手術前には麻酔科や呼吸器内科の医師による検討が行われることが多くなります。

間質性肺炎の患者さんに人工呼吸器を使用した場合に起きうるトラブルとしては、肺炎になってしまう、間質性肺炎の病状が急に悪くなる(急性増悪)、人工呼吸器をなかなか外せない(抜管困難)などがあります。特に肺の手術をする場合には間質性肺炎の急性増悪も起こりやすいので注意が必要です。ただ、どんなに注意して手術を行っても一定頻度で上記に挙げたようなトラブルは起こりうるので、間質性肺炎のある患者さんが手術を受けられる場合には、どれくらい危ないのか、手術を受けるメリットがどれくらいあるのか、などを十分に担当医と相談しておきましょう。手術のリスクは間質性肺炎の種類や進行具合、年齢などで全く異なるので、実際に患者さんを診たうえでの判断でないと適切なコメントは難しいと思います。

8. 間質性肺炎は治療費の補助が受けられる?

間質性肺炎の患者さんの場合には、難病の方へ向けた医療費助成制度をはじめとして、様々な治療費補助が受けられる可能性があります。以下では難病の方へ向けた医療費助成制度や、それ以外の公的支援制度に関して解説していきます。

難病指定とは?

難病の方へ向けた医療費助成制度とは、「難病の患者に対する医療等に関する法律」という法律に基づく制度で、まだ治療法が確立していない難病患者さんのデータ収集を効率的に行って治療研究を推進すること、効果的な治療法が確立されるまでの間、経済的な負担が大きい患者さんを支援すること、を目的とします。したがって、既にある程度のデータが集まっていて治療法がそれなりに確立されているような病気では、たとえ難治性の病気であってもこの制度の対象とならないものも多いです。2018年3月現在で、330疾患が指定されています。

間質性肺炎に関しては、間質性肺炎を起こしている原因が分かっているようなタイプのものについては難病指定されていません。例えば、放射線や薬剤による間質性肺炎、膠原病(こうげんびょう)による間質性肺炎、何らかの物質の吸入により起きている間質性肺炎などは原因が分かっているので医療費助成制度の対象ではありません。一方で、原因のよく分からない間質性肺炎、すなわち特発性間質性肺炎(IIPs)は難病指定されています。IIPsの患者さんは、まずはご自身の病気がこの難病指定に該当するのかどうか、主治医に確認してみると良いでしょう。注意点としては、診断はIIPsであってもそれなりに病気が進行した重症の方でないと難病指定は受けられず、この制度による直接の恩恵は乏しいということが挙げられます。例としては、あまり正確な表現ではありませんが、普段の生活の中でも酸素を持続的に使わないといけないような患者さん、つまり在宅酸素療法(HOT: home oxygen therapy)が必要なくらいの重症度が難病指定対象の目安となります。

実際に難病指定を申請する場合、つまり特定医療費受給者証の交付を申請する場合には、担当医に確認した上で都道府県のホームページまたは保健所か自治体に行き「臨床調査個人票」を入手します。その後、「難病指定医」に臨床調査個人票を記入してもらってから、お住いの市区町村窓口へ提出することで申請が完了します。ここでの注意点としては、難病指定医の資格を持った医師はどの病院にでも居るわけではありません。かかりつけの病院に難病指定医が居るかどうかを確認しておきましょう。仮にいない際、臨床調査個人票を書いてもらう場合には、難病指定医が居る病院へと紹介してもらう必要があるでしょう。また他の注意点として、申請しても必ずしも審査が通るとは限らないこと、認定の結果が出るまで数ヶ月かかることもあるということが挙げられます。

難病指定により受けられる公的支援

どの程度の補助が受けられるかは世帯の所得によっても変わってきます。しかし、一般的には認定を受けている病気、およびその病気に付随して起きている病気に関する医療費や一部の介護サービス等に関して大きな補助を受けることができます。たとえば医療費がもともと3割負担の場合には2割負担になります。また月の医療費上限が定められます。つまり所得や助成を受けている期間、人工呼吸器装着の有無などに応じて月々の支払い上限が1,000円から30,000円の範囲内で定められます。上の例に当てはまるかどうかなど詳細は個々人によるので、実際に給付を受けられる場合には、受給者証を発行する都道府県の窓口や保健所でお尋ねください。

以下に例として、認定を受けた病気、およびその病気に付随して起きている病気に対するサービスで、助成対象となる内容を列挙します。

  • 訪問看護
  • 訪問リハビリテーション
  • 居宅療養管理指導
  • 介護療養施設サービス
  • 介護予防訪問看護
  • 介護予防訪問リハビリテーション
  • 介護予防居宅療養管理指導

助成対象とはならない費用の例を次に挙げます。

  • 認定外の病気やケガによる医療費
  • 保険診療外の治療費
  • 入院時のベッド差額代・個室料
  • 入院時の食費
  • 介護保険での訪問介護の費用
  • 医療機関までの交通費
  • 補装具の作成費用
  • はり・きゅう・あんま・マッサージの費用
  • 認定申請時等に提出する診断書の作成費用
  • 療養証明書の証明作成費用

難病医療費助成制度以外の補助は受けられる?

間質性肺炎の患者さんにとって、難病医療費助成制度は仮に認定されれば非常に大きな経済的補助となるでしょう。しかし、特発性ではない、すなわち原因が分かっている間質性肺炎の患者さんは認定が受けられず、特発性間質性肺炎(IIPs)でもある程度以上病気が進行しないと認定が受けられないのが現状です。

その一方で間質性肺炎も新薬が続々と出てきており、治療に使われる抗線維化薬や免疫抑制薬は高価なものが増えてきています。例えば2015年8月に承認されたニンテダニブ(商品名:オフェブ®)は特発性肺線維症(IPF)の進行抑制や急性増悪予防に優れた成績を示していますが、単純に1ヶ月の薬価を計算すると通常用量で35万円ほどになります。そこで、難病医療費助成制度以外で間質性肺炎の患者さんに有益と思われる制度の例を挙げてみます。

■高額療養費制度

同一月に高額の治療費を支払った場合に、所得に応じて自己負担の上限が決められている制度です。自己負担限度額を超える支払い分に関しては払い戻しがあります。所得の少ない方や、オフェブ®、ピレスパ®、ネオーラル®、プログラフ®、オプスミット®、などといった高額な治療薬を使用している方、入院治療をした方などは、対象となるか医療機関の窓口などで相談してみましょう。
高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

■生活保護制度

医療費の自己負担なく治療を受けることができます。

■介護保険制度

要介護度の認定は、間質性肺炎がどの程度重症であるかとは関係なく、どのくらい介護に手がかかるかをみて判断されるので、間質性肺炎は軽症だけれどもご高齢などの理由で介護が必要な方には特に申請をお勧めしたいと思います。65歳以上の患者さんでは介護が必要になるほどの状態であれば申請してみましょう。

■身体障害者福祉関係制度

ある程度進行した間質性肺炎の患者さんでは身体障害者福祉手帳(身障者手帳)が給付されることがあります。認定される等級によってもサービスは異なりますが、身障者手帳があれば保険医療費の免除、医療機器の貸与、障害手当などの給付、免税や減税、交通費の割引、NHK放送受信料の減免、市町村障害者生活支援事業・身体障害者ホームヘルプサービス事業を受けられる、公営住宅の優先入居、など様々なサービスが利用できます。

適切なサポートを受けるためにも、認定されそうな間質性肺炎患者さんにはぜひ身障者手帳の給付申請をお勧めします。ご自身が認定されそうかどうか、かかりつけ医に一度聞いてみるとよいでしょう。認定されそうならば、役所の障害者福祉担当窓口で「身体障害者診断書・意見書」の用紙を入手して、かかりつけ医療機関に提出して指定医師に記載してもらいます。ここでのポイントとして、指定医師でなければこの診断書・意見書は書けません。医師ならば誰でも書けるわけではないことに注意してください。かかりつけの医師が指定医師でない場合には、その病院で診断書を出してもらえる医師に書いてもらうか、障害福祉担当窓口で書いてくれる医師を教えてもらうことができます。

ちなみに間質性肺炎などの呼吸器疾患による身障者認定の級数は1級、3級、4級の3種類があります。どの級数になるかは総合的な判断になるので難しいところではありますが、客観的な評価として以下のような目安が重視されています。

  • 1級:スパイロメトリーでの%1秒量が20%以下、または動脈血液ガス分析でPaO2が50Torr以下。
  • 3級:スパイロメトリーでの%1秒量が20%を超えるが30%以下、または動脈血液ガス分析でPaO2が50Torrを超えるが60Torr以下。
  • 4級:スパイロメトリーでの%1秒量が30%を超えるが40%以下、または動脈血液ガス分析でPaO2が60Torrを超えるが70Torr以下。

スパイロメトリーや動脈血液ガス分析に関しては別項で詳細に説明していますが、大ざっぱにはスパイロメトリーは肺活量検査のこと、動脈血液ガス分析は血液中酸素濃度測定のことと思ってください。したがって、間質性肺炎のため身障者手帳の交付を申請する場合には、基本的にスパイロメトリー(肺機能検査)と動脈血液ガス検査が必要になります。上記の基準はなかなか厳しいものです。ご自身でスタスタと歩いて病院に通って来られるような患者さんでは基本的に4級の目安に当てはまることも少ないです。

■障害者基礎年金、障害者厚生年金制度

身障者認定の級数が1級または2級の方が、一定の条件を満たした場合に65歳未満でも年金を受け取ることが出来るようになる制度です。呼吸器疾患による身障者認定は1級、3級、4級しか無いので、間質性肺炎の場合には1級に認定された場合この給付が受けられる可能性があります。間質性肺炎と診断されるまでに年金を納めてきたか、診断されてからどのくらいの期間が経過しているか、在宅酸素療法を行っているかどうか、などによって受給資格も変わってくるので年金の申請窓口、病院の窓口でよく相談する必要があるでしょう。提出書類の数も多く、たびたび病院や年金窓口へ出向く必要も多くなりがちで面倒と感じてしまう方が多いですが、収入や財産に依らず受給資格が得られ、非高齢者が働きながらでも受給できる貴重な制度なので積極的に活用したいところです。

9. 間質性肺炎は完治するのか?

間質性肺炎が完治するものかどうか、というのは難しい問題です。間質性肺炎という病名は様々な病気をまとめてそう呼んでいるだけなので、少なくともどのようなタイプの間質性肺炎であるかが分からないと、完治するかどうかはお答えすることができません。

例えば薬剤が原因で起きた薬剤性の間質性肺炎であれば、その薬剤を中止すれば再発することは少ないですし、原因不明の間質性肺炎の代表格である特発性肺線維症では完治することは無いと言えるでしょう。ただ、完治しない間質性肺炎でも何十年もかけてゆっくり悪くなっていく、あるいは悪化はしないようなケースも多々あるので、「間質性肺炎」という言葉だけを聞いてどんどん悪くなっていくものだ、と決めつけて落胆する必要は無いと思います。

将来を見通すことは医師にとってもなかなか難しい部分はありますが、患者さんを自分で診察している主治医の意見が一番頼りになります。今の状態からわかることをよく説明してもらい、何ができるかをよく相談してください。