かんしつせいはいえん
間質性肺炎
肺の中の空気の通り道ではなく、肺の支持組織(間質)に炎症が起きた状態
17人の医師がチェック 229回の改訂 最終更新: 2022.10.01

原因の分かる間質性肺炎とは?:膠原病?薬剤?アレルギー?放射線?

間質性肺炎は、原因が明らかである間質性肺炎と、原因がハッキリしない、すなわち特発性間質性肺炎に分けられます。どんな間質性肺炎かで治療は大きく異なります。ここでは原因が明らかな間質性肺炎に関して解説していきます。

1. 薬剤性肺炎(薬剤性肺障害、DILD)とは

薬剤が原因で発症する間質性肺炎を総称して薬剤性肺炎、薬剤性肺障害、DILD(drug-induced lung disease)などと呼びます。国内で毎年1,000件以上が報告されており、決して珍しい病気ではありません。

間質性肺炎を起こすタイミングとしては、その薬剤を使ってから数分以内に発症するものから、数年を経て発症するものまで様々です。多くの場合は使い始めて数週間から数ヶ月程度で発症します。

薬剤性肺炎を起こすリスクが比較的高いとされている薬でも、使う人の5%程度にしか薬剤性肺炎は起きず、残りの95%の人は肺に問題を起こすことなく薬を使用できます。

このように個人差が非常に大きいのですが、なぜこのように個人差が大きいのかに関しては十分に解明されていません。ただし、欧米人に比べて日本人は薬剤性肺炎を起こす割合が非常に高いことが分かっています。また、高齢者、もともと間質性肺炎が指摘されている方、肺の手術後の方、呼吸機能が低い方、腎臓が悪い方などは薬剤性肺炎を起こしやすいことが分かっています。

参考文献
日本呼吸器学会, 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き, メディカルレビュー社, 2012

どんな薬で間質性肺炎になりやすいのか?

全ての薬剤は薬剤性肺炎を起こす可能性があります。この「全て」の中には、病院で処方される薬剤だけではなく、市販薬、生薬、漢方薬、サプリメント、違法薬物、麻薬なども含まれます。世の中には非常に多くの薬剤があるので、それらひとつひとつに関してここで間質性肺炎のリスクがどの程度なのかを説明することは出来ません。医師も代表的なもの以外は覚えていないので、必要があればその都度文献で調べています。

一般的には抗がん剤抗菌薬、漢方薬、インターフェロン、抗リウマチ薬などで特に注意を要する薬剤が多いです。特にリスクの高い薬剤が処方される場合には医師や薬剤師から説明があるかと思いますが、市販薬では漢方薬、特に黄芩(オウゴン)を含むものなどでリスクが高いことが報告されています。もともと間質性肺炎のある方は、このような漢方薬は避けるのが無難でしょう。間質性肺炎の無い方も、薬の効能とともに薬剤性肺炎のことも踏まえた上で使用することが必要になりますので、心配な方は薬剤師、医師に相談してみましょう。ただし、このような市販の漢方薬で間質性肺炎を発症するのは数万人に1人という報告もありますので、もともと間質性肺炎がある方でなければ過度に心配する必要はないでしょう。

漢方薬やサプリメントでも間質性肺炎になるのか?

全ての薬剤は間質性肺炎を起こすリスクがあります。「クスリはリスク」という言葉があります。病院で処方される薬剤以外の漢方薬やサプリメントでもやはり薬剤性肺炎を起こす可能性はあります。もともと間質性肺炎を指摘されている方は、たとえサプリメントでも、使用を開始する前に担当医に飲んでよいか確認しておくのが望ましいです。特に肺に関連した病気や治療歴が無い方であれば、さほど危険はなく漢方薬やサプリメントは使用できるケースが多いですが、例えば肝臓病の治療で使うインターフェロンと小柴胡湯(ショウサイコトウ)という漢方薬は併用すると薬剤性肺炎の危険が高まるので併用してはいけないことになっています。このように漢方薬やサプリメントでも注意すべき状況があるので、何か治療中の病気がある方はやはり主治医にこういった漢方薬やサプリメントの使用可否を確認しておくのが安心でしょう。

薬剤性肺炎の治療法

薬剤性肺炎が疑われた場合には、まず原因と疑われる薬剤を速やかに中止することが原則です。抗がん剤や免疫抑制薬に分類されるエベロリムス(アフィニトール®、サーティカン®)などのように、軽症の薬剤性肺炎であれば使用を継続してもよい薬剤もありますが、かなり例外的です。

ここで、複数の薬を使っていた場合、どの薬が原因かがわからないという問題が発生します。

薬剤性肺炎を特に起こしやすい薬剤を使用していれば見当がつくのですが、そうではない場合には複数種類の薬剤をまとめて中止してしまうこともしばしばあります。

薬剤性肺炎の程度が非常に軽い場合には、怪しいと考えられる薬剤を中止して様子見だけをするということもありますが、一般的にはステロイド剤による治療が行われます。

ステロイドによる治療の期間などははっきり決まっていません。頼りになるデータはあまり多くはありません。一般的には数週間ほどステロイドを使用して反応をみつつ、改善があれば数ヶ月かけてステロイドを減らしていって治療終了とすることが多いです。

このように治療がうまくいけば、その後は薬剤性肺炎の原因と疑われた薬剤を生涯にわたって避けることで再発なく生活できるケースも多いです。その一方で、残念ながらステロイド治療の効果が現れず呼吸不全で亡くなってしまう方、ステロイド治療は効いたけれども再発し生涯にわたって治療継続が必要になる方などもいます。原因薬剤をつきとめてそれを使用しなくなったからといって必ずしも安心できる病気ではありません。

治療費の補助は受けられる?医薬品副作用被害救済制度とは?

医薬品は正しく使用していても、副作用の発生を防げない場合があります。そこで、医薬品副作用被害救済制度というものが運用されています。

医薬品副作用被害救済制度は、処方薬でも市販薬でも、適正に使用したにもかかわらず副作用により入院治療が必要になるほどの重い健康被害が生じた場合に、医療費や年金などの給付を行う公的な制度です。この制度は独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA: Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)という機関が中心となって運営されています。

副作用による疾病の治療を受けた本人や、亡くなった場合には遺族の方による申請により、医療費、医療手当、障害年金、障害児養育年金、遺族年金、遺族一時金、葬祭料などが給付される場合があります。申請方法は医薬品副作用被害救済制度を説明したPMDAのウェブサイトに説明がありますが、ご不明な点に関しては救済制度相談窓口や病院の文書窓口で尋ねてみるとよいでしょう。

この制度の特に注意すべき点としては、抗がん剤などの特定の薬剤による副作用に関しては給付の対象とならない点が挙げられます。実際に申請をする前に、この制度が適用されそうかどうか、担当医に相談してから書類を準備するようにした方が良いでしょう。

2. 過敏性肺臓炎(過敏性肺炎、HP)とは

過敏性肺臓炎の原因

過敏性肺臓炎過敏性肺炎、HP: hypersensitivity pneumonitis)は有機物質や無機物質を反復して吸入することに対するアレルギー反応が関与した間質性肺炎とされています。こういった原因物質(抗原)を吸入してから数時間で発症する急性過敏性肺臓炎、抗原曝露(ばくろ、触れること)から数ヶ月ほどで発症する亜急性過敏性肺臓炎、年単位で進行していく慢性過敏性肺臓炎に分類されます。

急性型や亜急性型などの比較的に急激に起こってくるタイプは夏型過敏性肺臓炎と呼ばれるものが多く、古い木造の家屋で夏に増えるトリコスポロンというカビの一種が原因として有名です。夏型過敏性肺臓炎は7月頃をピークに6月から9月頃に多くの方が発症します。毎年夏になると咳が増えるなど調子が悪くなる方では、夏型過敏性肺臓炎が疑われることがあります。正確に診断をつけるのは難しいことも多いですが、自宅の居住環境を詳しく聞くことや、血液中のトリコスポロンに対する免疫反応を見る検査などから診断をつけていきます。

一方で慢性型のようにゆっくりと進んでくるタイプの過敏性肺臓炎は様々な原因があり、急性型、亜急性型よりもさらに診断が難しいケースが多いのですが、慢性過敏性肺臓炎の原因として最も多いのは鳥の飼育や羽毛布団などを抗原としたものとされています。その他、加湿器や空調設備、職業上の何らかの吸入物質なども原因となることがあります。慢性過敏性肺臓炎胸部CT画像の見た目は特発性肺線維症(IPF)に似ていることが多く、慢性過敏性肺臓炎とIPFのどちらかをどうしても見分けられないケースはよくあります。

まずは生活環境に関して詳細な問診が行われますが、診断をつけるための参考として、試しに入院して自宅を離れてみると呼吸に関連した症状や胸部CTの見た目が良くなるかどうか、その後に家に帰ったら症状が悪化するかどうか、などの試験を行うことがあります。それでも診断がつかず、より診断を突き詰める必要がある場合には外科的肺生検といって、手術をして肺の一部を採ってきて、より詳しく調べる検査を行うこともあります。

過敏性肺臓炎の治療法

夏型過敏性肺臓炎では、自宅でカビを繁殖させないようにすることで改善が期待できます。掃除のほか、木造の古い家なら腐った木材がないか調べて取り除く(腐木の除去)、防カビ剤の使用、改築、場合によっては転居も手段になります。たまに掃除をした際に大量に抗原を吸入してしまい、ひどく悪化して病院に来られる方もいるので、掃除は可能ならば他の方に依頼しましょう。依頼するのが難しい場合でも、少なくともマスクはしっかりとしてください。

慢性過敏性肺臓炎の場合には治療に難渋することも多いですが、まずは鳥の飼育や羽毛布団の使用など鳥関連の抗原曝露があれば可能な限り回避するようにします。夏型の治療と同様に、自宅の掃除、腐木の除去、防カビ剤の使用、改築、場合によっては転居することも考慮されます。それでも病状が進行してしまう場合などは、ステロイド薬、免疫抑制薬、抗線維化薬などの治療薬を開始することもあります。

3. 好酸球性肺炎(EP)とは

好酸球性肺炎(EP: eosinophilic pneumonia)は好酸球という細胞が肺に充満するようなタイプの間質性肺炎です。好酸球は白血球の一種で、アレルギーに関連しています。また寄生虫を攻撃する機能もあります。肺に好酸球が多く充満する原因として、寄生虫感染、薬剤性肺炎アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、アレルギー性肉芽腫血管炎、原因不明の好酸球増多症候群など、純粋な好酸球性肺炎とは異なる病気が隠れていることもあるので、まずはそれらの除外が必要になります。

好酸球性肺炎には急性と慢性がある?

好酸球性肺炎にも数日単位で急激に発症する急性好酸球性肺炎(AEP: acute EP)と、数週間から数ヶ月以上かけて発症する慢性好酸球性肺炎(CEP: chronic EP)があります。AEPからCEPに移行していくことは稀とされており、AEPとCEPは全く別の病気と考えられています。

好酸球性肺炎の原因

好酸球性肺炎の原因は正確には解明されていません。

急性好酸球性肺炎はタバコを初めて吸った直後に発症しやすいことが有名です。タバコを吸い始めて数日くらいの若い方が救急車で運ばれてくることがあります。このように、急性好酸球性肺炎は重症になりやすいのも特徴です。しかしタバコだけですべての急性好酸球性肺炎は説明できません。

慢性好酸球性肺炎喘息持ちの比較的若い女性に多い病気ですが、タバコとの関連は無いとされています。

好酸球性肺炎の治療法

急性好酸球性肺炎は重症になることも多いので、入院で治療が行われることが一般的です。ステロイド薬を使用すれば急激に良くなるケースが多く、禁煙していれば再発することは稀とされています。

慢性好酸球性肺炎は重症になることはさほど多くありません。ステロイド薬もよく効くことが多いです。ただし、ステロイド薬をやめると半数以上で再発すると報告されており、ステロイドは慎重に減量してからやめることになります。ステロイドを使う期間は合計で3ヶ月から6ヶ月ほどのことが多いです。再発する場合や、患者さんの背景によってはさらに長い期間ステロイドを使用することもしばしばあります。

参考文献
Oyama Y, et al. Efficacy of short-term prednisolone treatment in patients with chronic eosinophilic pneumonia. Eur Respir J. 2015 Jun ; 45(6) : 1624-31.

4. 放射線性肺臓炎(放射線肺障害、放射線肺炎、RILD)とは

どういった人が放射線性肺臓炎になりやすい?

放射線性肺臓炎放射線肺障害放射線肺炎)は、主にがんに対して、肺に放射線を使った治療を行った際に正常な肺もダメージを受けて間質性肺炎を起こしてしまうことを指します。英語でradiation-induced lung diseaseというのでRILDなどと略して使われることもあります。胸部に放射線治療を行った患者さんのうち13%から32%で症状を伴うような放射線性肺臓炎を起こし、1%から6%の患者さんが放射線性肺臓炎で亡くなったというデータがあります。多くの場合には放射線治療を行っても、放射線が当たった部位の肺のみが間質性肺炎を起こすだけで肺全体の機能としては問題を起こさないことが多いのですが、時に肺臓炎が肺全体に広がってしまい重症になることもあるわけです。

放射線性肺臓炎の症状としては放射線治療を行った後、1ヶ月から半年後くらいに咳や息苦しさを自覚することが多いです。発熱を伴う場合もあります。肺に放射線治療を行う場合には事前に説明があると思いますが、このような症状が出たら早めに担当医に相談しましょう。

どのような患者さんで放射線性肺臓炎になりやすいかですが、まずはもともと間質性肺炎がある方でリスクが非常に高いと言えます。そのため、間質性肺炎をもともと患っている患者さんの肺に放射線治療を行うことは原則として避けるのが実際です。その他の放射線性肺臓炎を起こす要因としては、多くの放射線量を使うこと、正常な肺に当たる線量が増えること、薬剤性肺炎合併すること、ご高齢、喫煙者、もともと全身状態が悪い、などが挙げられます。

治療を担当する医師は、できる限り少ない放射線量で、正常な肺になるべく照射されないように放射線治療を計画します。しかし、線量が少なすぎてもがんなどの治療としての効果が弱まってしまいますし、体外から放射線を当てるので正常肺への照射線量をゼロにすることは物理的に不可能です。なので、肺への放射線治療終了後はしばらくの間、胸部レントゲンなどを定期的にチェックすることが一般的です。

参考文献
・日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 2012,p1-38, 75-77.

放射線検査でも放射線性肺臓炎になるのか?

胸部レントゲン、胸部CT、PET検査マンモグラフィ心臓カテーテル検査、食道造影検査、など胸に放射線が当たる検査は多くあります。しかし、いずれも肺の放射線治療で使われる放射線量に比べれば桁違いに少ない線量なので、これらの検査が原因で放射線性肺臓炎になる可能性は考えなくてよいでしょう。もともと間質性肺炎をお持ちの患者さんでもこれらの検査は問題なく受けていただけます。むしろ間質性肺炎の患者さんでは、間質性肺炎の進行具合を確認したり、肺がんの合併がないかをチェックする目的で、健康な方よりも胸部レントゲンや胸部CTを撮る機会が多いと思いますが、それらの検査により間質性肺炎が悪化するというデータは無いのでしっかり検査を必要に応じて受けていただきたいと思います。

放射線性肺臓炎の治療法

放射線治療を肺に行った場合には、治療後数ヶ月目あたりで胸部CTを撮影するとほとんど全ての患者さんで照射部位のみでの狭い範囲の間質性肺炎、つまり放射線性肺臓炎が認められます。このような小さくて症状も乏しい放射線性肺臓炎は自然に治っていくので特に治療をせず放置して問題ないと考えられています。

はっきりした症状がある場合や、肺がダメージを受けて体が酸素不足になっているような検査データが認められる場合には、放射線性肺臓炎としてステロイド剤による治療が行われるのが一般的です。ステロイドによる治療の期間などははっきり決まっていません。頼りになるデータはあまり多くありません。一般的には数週間ほどステロイドを使用して反応をみつつ、改善があれば数ヶ月かけてステロイドを減らしていって治療終了とすることが多いです。治療がうまくいけば、その後は放射線性肺臓炎の再発なく生活できるケースも多いです。その一方で、残念ながらステロイド治療の効果が現れず呼吸不全で亡くなってしまう方、ステロイド治療が多少は効いたけれども生涯にわたって治療継続が必要になる方などもいます。

放射線治療後に咳が増える、息苦しいなどの症状があれば早めに担当医に訴えることで、放射線性肺臓炎の早期治療につながるかもしれませんので、肺の放射線治療後はご自身の呼吸の状態に少し敏感になってみるとよいでしょう。

5. 膠原病肺とは?

どんな膠原病が間質性肺炎になりやすい?皮膚筋炎、リウマチ?

膠原病(こうげんびょう)というのは一言で説明するのは非常に難しい概念なのですが、自分の免疫反応が自分自身を攻撃してしまうなどして、全身の関節や皮膚、血管、筋肉など多臓器にダメージを与えるような病気の総称で、若い女性に多いのが特徴です。病名の例としては関節リウマチ、全身性硬化症(強皮症)、多発性筋炎皮膚筋炎シェーグレン症候群全身性エリテマトーデスSLE)、混合性結合組織病MCTD)、などが挙げられます。これらの病気は全身の多くの臓器にダメージを与えますが、呼吸器系統にもしばしば異常を起こします。呼吸器系統に起こる異常としては間質性肺炎が最も代表的ですが、空気の通り道である気管支や、肺を覆う膜である胸膜などに異常をきたすこともしばしばあります。また、肺にはリウマチ結節という塊ができたり、感染を起こしやすくなったりします。

膠原病に伴う肺の病気すなわち膠原病肺は多彩な病気です。ここでは膠原病に関連した間質性肺炎に関して説明していきます。

間質性肺炎を来しやすい膠原病としては全身性硬化症(強皮症)が有名で、60%から70%ほどの患者さんに間質性肺炎がみられると報告されています。多発性筋炎皮膚筋炎でも40%から50%、関節リウマチで30%から40%、全身性エリテマトーデスシェーグレン症候群では20%から30%ほどで間質性肺炎をきたすとされます。このように間質性肺炎をきたす割合としては全身性硬化症(強皮症)が多いですが、患者さんの母数として関節リウマチが圧倒的に多いので、実際に病院に通っている患者さんの膠原病関連間質性肺炎の内訳としては関節リウマチが最多です。

参考文献
RadioGraphics, 32 : 33-50, 2012.
・日本呼吸器学会, 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療方針2020

非常に危険な膠原病肺ってあるの?

膠原病に関連した間質性肺炎は、原因のハッキリわからない間質性肺炎(特発性間質性肺炎)の中で最も代表的な特発性肺線維症と比較すれば一般的には進行もゆっくりですし、治療に対する反応性もよく、深刻な結果につながることは少ないとされています。しかし、他の間質性肺炎と同様に数日から数週間単位で一気に悪化して非常に重症の状態になる「急性増悪」を起こすことがあり、注意が必要なことに変わりありません。

また、近年は皮膚筋炎の中で筋肉に関係した症状が乏しい方の一部で非常に急激に進行して危険な間質性肺炎があることが分かっており、研究が進められています。このように膠原病肺としての間質性肺炎でも、進行が非常に急激な場合もあります。

膠原病肺の治療法

肺にはリウマチ結節という塊ができたり、感染を起こしやすくなったり、膠原病に伴う肺の病気すなわち膠原病肺は多彩な病気ですが、ここでは膠原病に関連した間質性肺炎に関して説明していきます。

原因のハッキリしない間質性肺炎、すなわち特発性間質性肺炎の場合には肺の様子をみて間質性肺炎の治療を決めていきます。しかし膠原病関連の間質性肺炎の場合には、全身の病気である膠原病の中のひとつの病変として肺を見ているだけなので、治療はそれぞれの膠原病の治療方針に準じます。例えば、関節リウマチならば関節リウマチとしての治療法が、全身性エリテマトーデスならば全身性エリテマトーデスとしての治療法がある程度決まっていますので、それにしたがった治療を行っていきます。

一般的には間質性肺炎の診療は呼吸器内科医が中心となりますが、膠原病関連の間質性肺炎の場合にはアレルギー内科・リウマチ内科・膠原病内科、などと呼ばれる科を専門とする医師が担うことが多いです。

自己免疫疾患の特徴を持った間質性肺炎(IPAF)とは?

膠原病は全身の多くの臓器がダメージを受ける病気であり、肺にもしばしば間質性肺炎を起こします。このような膠原病に関連した間質性肺炎の治療は、もともとの膠原病の治療に準じて行われることは前項でご説明しました。

ここでやっかいなこととして、膠原病というのはしばしば診断が難しいことが挙げられます。膠原病でよく見られる症状・徴候があったり、膠原病で特徴的な採血結果が出ていて、おそらく何らかの膠原病ではあるけれども、関節リウマチ全身性エリテマトーデスといった具体的な病気の診断基準には当てはまらないというケースが散見されます。そのような患者さんにおける間質性肺炎を「自己免疫疾患の特徴を持った間質性肺炎」とよび、どのような治療がベストなのか研究が進められています。英語でinterstitial pneumonia with autoimmune featuresというので頭文字をとってIPAF(アイパフ)と呼ばれることもよくあります。IPAF治療として現時点では、膠原病の診断基準は満たさず、他の原因もよくわからない間質性肺炎ということになるので、特発性間質性肺炎に準じて治療を行われることが多いです。

6. 気腫合併肺線維症(CPFE)とは

肺の「気腫」とは、主にタバコの影響で肺の構造が破壊され、スカスカの肺になってしまった状態を指します。専門的には使い分けられるべき用語ですが、「肺気腫」のことを「COPD慢性閉塞性肺疾患)」と正式には呼びます。気腫合併肺線維症とは一言でいうと肺気腫を伴った間質性肺炎のことです。英語でcombined pulmonary fibrosis and emphysemaというので、頭文字をとってCPFE(シーピーエフイー)と呼ばれることが多いです。

間質性肺炎、およびCOPDをそれぞれ説明すれば基本的にはCPFEはそれらの特徴を合わせたものということになるのですが、ここではCPFEで特に注意すべき点として何点かに絞って説明します。

参考文献
Cottin V, et al. Combined pulmonary fibrosis and emphysema: a distinct underrecognised entity. Eur Respir J 2005; 26: 586-93.

  • CPFEの初期では呼吸機能の検査をしても異常が現れにくく、間質性肺炎が見逃されてしまいやすくなる。
  • 肺胞拡散能検査での異常が目立ち、低酸素血症が目立つケースが多い。
  • 肺がんの合併率が単なる間質性肺炎やCOPDの患者さんに比べて高い。また、もともと肺の状態が悪いので、診断や治療も難しいケースがしばしばある。
  • 肺高血圧症の合併が目立つ。

上記のような特徴があります。間質性肺炎もCOPDも喫煙者に多い病気なので、どちらか一方を診断された場合には、これらが合併していないかどうか注意する必要があります。

7. 感染でも間質性肺炎になることがある?

肺の感染症で間質性肺炎になることがあるか?という問いの答えは厳密には「YES」なのですが、感染症と間質性肺炎は別物と考えておいたほうが分かりやすいでしょう。

そもそも間質性肺炎とは何かということに関して説明します。正常な肺は、木の枝のように何十回にもわたって細かく分かれる気管支と、枝の先にあたる位置にある袋状の肺胞(はいほう)から主にできています。1個1個の肺胞は目に見えない大きさですが、肺胞がブドウの房のように集まっていることで、正常な肺は微小な構造を持つ塊になっています。健康な状態では肺胞の中身は空気であり、肺胞の中身とそれに接する壁を合わせて肺実質と呼びますが、大雑把には肺実質のスキマを埋めている支持組織を肺の間質と呼んでいます。この肺の間質に炎症を起こす病気が間質性肺炎ということになります。

肺の構造のイラスト。気管支は木の枝のように分かれていく。

肺胞の構造のイラスト。

単に肺炎と言った場合には、ウイルス細菌によって気管支や肺胞に炎症を起こしている状態を指し、間質性肺炎とは違う病気を指していることが多いです。しかしウイルスや細菌による肺炎でも肺の間質に強く炎症を起こすものもあるので、そういった肺炎は厳密には広い意味での間質性肺炎に含めるべきなのでしょう。ただ、一般的に間質性肺炎と言った場合には、このような微生物が直接の原因となって起きるような肺炎は含まないことがほとんどです。

以下では間質に強い炎症を起こすことがある、微生物による肺炎の例をいくつか挙げて説明します。間質の炎症が中心の場合には胸部CTでの見た目が、いわゆる一般的な間質性肺炎と似ていることがあるため、診断をつける際に注意が必要になってきます。

ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)

ニューモシスチス肺炎はニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)という真菌(カビ)の感染によって起こる肺炎です。かつてはニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii)が原因と考えられていたのでカリニ肺炎と呼ばれていたこともありました。英語でニューモシスチス肺炎のことをPneumocystis carinii pneumoniaと呼んでいたので略してPCP(ピーシーピー)と医療関係者は呼ぶことが多いです。Pneumocystis jirovecii pneumoniaを略して近年はPJPと呼ばれることもあります。

ニューモシスチス肺炎は、ステロイドを長期間使用していて免疫が弱くなっている方や、エイズの患者さんでしばしば見られる肺炎です。ニューモシスチス・イロベチイはもともと多くの人間の肺に存在するような真菌(カビ)なのですが、免疫が正常な方の場合には発病せず、免疫が弱い方で肺炎を起こします。胸部CTで肺のあちこちがうっすらと白い影を呈するのが特徴的で、間質性肺炎との区別が問題になることがよくあります。

レジオネラ肺炎

温泉や循環式浴槽などに使われる水の中でレジオネラ菌が増殖して、それを吸い込むことで感染して肺炎を起こす病気です。公衆浴場などで繁殖した場合には集団感染を起こすこともあります。気管支や肺胞での炎症が主体であり、病気の経過からも一般的な間質性肺炎とは区別がつきやすいことが多いですが、稀に間質性肺炎とは区別のつきにくい胸部CTの見た目になることがあります。

ウイルス性肺炎

単に「肺炎」と言った場合には細菌による肺炎を指すことが一般的ですが、ウイルスも肺炎を起こすことがあります。細菌とウイルスの違いを意識することはあまり無いかもしれませんが、ウイルスは細胞を持たない微小な粒子であり、細菌とは性質が大きく異なります。治療を考えるうえでもウイルスに対しては、細菌を制御する薬である抗菌薬が効かないので、医学的には細菌とウイルスの違いはとても重要です。

肺炎を起こすウイルスとして、乳幼児や高齢者ではインフルエンザウイルス、乳幼児ではRSウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど、免疫抑制者ではサイトメガロウイルス、中東などの流行地ではMERSコロナウイルスなどが挙げられます。麻疹ウイルス(はしか)や水痘ウイルス(水ぼうそう)でも肺炎を起こすことがあります。

こういったウイルス性肺炎で治療が必要になるケースは稀なのですが、胸部CTでの見た目が一般的な間質性肺炎と似ていることもしばしばあり、区別が問題になることもあります。

8. 塵肺と間質性肺炎は関連する?

塵肺(じんぱい)とは粉塵、微粒子を長期間にわたって吸い込み続けた結果として肺がダメージを受ける病気の総称です。肺がダメージを受けた結果として様々な肺の病気が出現し、例として肺癌、胸膜中皮腫、肺結核結核胸膜炎気管支拡張症慢性閉塞性肺疾患COPD)など様々なものがあります。間質性肺炎も塵肺の一病型として、とても重要です。塵肺の原因となる吸入物質としてはアスベスト(石綿)が一番有名かと思いますが、その他にも珪酸、酸化鉄、アルミニウム、ベリリウム、炭粉などがあります。間質性肺炎と診断された場合に、このような物質を吸入するような活動をしていた方は必ず担当医に申し出てください。職業上の活動でこのような物質の吸入をしていた場合には、一定の基準を満たせば労災として補償が受けられる場合があります。労災の申請は労働基準監督署に行いますが、まずは塵肺なのか、補償が受けられそうかどうか担当医に意見を聞いてみるとよいと思います。また労災が認められない場合でも、「石綿による健康被害救済法」などのような補助制度もあるので、塵肺と診断された場合には積極的に補償制度の活用を検討してください。