ぼうこうえん
膀胱炎
膀胱の炎症。若い女性では毎年数%の人に起こる。原因は大腸菌が80%程度
14人の医師がチェック 185回の改訂 最終更新: 2022.03.15

膀胱炎の原因:細菌感染、結石、腫瘍、薬剤、性行為など

様々な原因で膀胱炎は起こります。細菌感染や結石や腫瘍、薬剤などが原因となりうることが分かっています。それぞれの原因について詳しく説明していきます。

1. 細菌感染は膀胱炎の原因となるのか

膀胱炎(ぼうこうえん)の原因で最も一般的なのが細菌感染です。膀胱内で細菌感染が起こり、膀胱に炎症が発生します。しかし本来は膀胱内に細菌はいません。どうして細菌性膀胱炎が起こるのでしょうか。また、細菌性膀胱炎を全く経験したことがない人もいれば、しょっちゅう細菌性膀胱炎になってしまう人もいます。この違いはどこからくるのでしょうか。

細菌性膀胱炎にならないための身体の仕組み

人間の身体は細菌性膀胱炎に簡単にはならないようにできています。つまり細菌が膀胱内で感染を起こさないようにいろいろな仕組みが存在します。

  • 尿の性質
  • 排尿
  • 膀胱粘膜の防御機能
  • 炎症反応
  • 獲得免疫システム

これらの機能があることで幾重もの防御機構が形成されています。またこれらの機能のほとんどは生まれつき持っているものです。もう少し詳しく見ていきましょう。

  • 尿の性質
    • 浸透圧の原理や弱酸性のバランス(pH)によって、尿に細菌が侵入しても増殖しにくくできています。
  • 排尿
    • 腎臓(じんぞう)で作られた尿は膀胱で溜められています。排尿するときは勢いをつけて膀胱から体外に尿が出ていくため、膀胱内に細菌が存在しても尿と一緒に排除されます。
  • 膀胱粘膜の防御機能
    • 膀胱が尿と接する部分は粘膜という組織でできています。この膀胱粘膜は細菌が増殖しにくいしくみになっています。
  • 炎症反応
    • 膀胱で炎症が起こると、白血球や炎症性サイトカインなどの物質が働いて炎症を沈静化します。
  • 獲得免疫システム
    • 一般に、細胞性免疫や液性免疫と呼ばれるシステムを中心に、細菌の特性を記憶する働きがあります。膀胱炎でも、次に同じ細菌による感染が起こったときには、記憶した特性を用いて免疫システムの働きを効果的にすることができると考えらています。

これらの免疫システムが働くと、細菌が増殖することが非常に難しくなります。それにもかかわらず、どうして膀胱炎は起こるのでしょうか。

それでもどうして膀胱で細菌感染が起こる

腎臓で作られた尿が尿管(にょうかん)を通って膀胱に溜められています。ある程度膀胱に尿が溜まると人は尿意を覚えます。膀胱を収縮させることで尿は尿道(にょうどう)を通って体外に排泄されます。

尿路の解剖のイラスト。尿は腎臓から尿管を通って膀胱に送られ、尿道から排泄される

膀胱炎を起こす細菌が膀胱に侵入する場合に経路は3つ考えられています。

  1. 尿道口(陰部にある尿が体外に出る部位)から膀胱に侵入する
  2. 血液中に侵入した細菌が、血流に乗って腎臓に到達して尿と一緒に膀胱に至る
  3. リンパ液に侵入した細菌が、リンパ液の流れに乗って腎臓に到達して尿と一緒に膀胱に至る

この中でも尿道口から侵入してくるパターンが最も一般的です。尿道口から細菌が侵入して膀胱に到達してから、膀胱で細菌が定着して感染を起こすまでに上で述べた感染防護機構が働きます。

  • 細菌が尿道口から膀胱に至るまでに、排尿によって体外に尿とともに排出される
  • 尿の中に存在することで、尿の浸透圧やpHの影響を受ける
  • 膀胱の粘膜に定着して増殖しようとしても、粘膜の性質が増殖を妨げる
  • 膀胱内で細菌が増殖を開始しても、炎症反応や獲得免疫が働く

侵入した細菌がこれらの防御機構をかいくぐることができた場合に膀胱炎が起こります。侵入した細菌の量が多い場合や防御機構の機能が万全でない場合に膀胱炎が起こりやすいです。

性行為は膀胱炎の原因となるのか

膀胱炎を繰り返す人が医療機関を受診した際に性行為について医者から質問されることがあります。プライバシーに関わる質問ですが、性行為が原因で細菌性膀胱炎になることがあるため重要な質問です。

女性の膣と尿道は非常に近くに位置しているため、性行為の最中に膣や陰茎などの陰部に存在する細菌が尿道口に入り込むことがあります。尿道口から細菌が入ってくると、一部の人では膀胱炎が起こってしまいます。性行為の前後にシャワーを浴びたりして清潔な状況下で性行為を行うことは大切です。

膀胱炎になりやすい人の特徴

膀胱炎になりやすい人には特徴があります。統計的に病気と関連があるとされる特徴を危険因子と言います。危険因子があっても必ず病気になるわけではありませんが、危険因子がない人に比べると病気になる確率が高いと考えられます。ここでは男女別に述べていきます。

女性の膀胱炎の危険因子は次の表のようになります。

【女性の膀胱炎の危険因子】

年齢 危険因子
全年齢共通
  • 尿路感染症の既往(かかったことがある)
  • 泌尿器科的手術後
  • 尿道カテーテルの使用
  • 結石による尿路の閉塞
  • 神経因性膀胱
  • 腎移植
成人女性
  • 女性の親族に尿路感染症になりやすい人がいる
  • 性行為
  • 性行為後に排尿をしない
  • 新たなセックスパートナー
  • ペッサリー(避妊具)の使用
  • 妊娠
  • 糖尿病
高齢女性
  • 身体障害あるいは精神障害
  • エストロゲン分泌の低下
  • 膀胱脱

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition

この表を見ると、特に若い女性は性行為に気をつける必要があることがわかります。また、自分や親族に膀胱炎になりやすい人がいる場合は注意が必要です。一方で、男性の膀胱炎の危険因子は次の表のようになります。

【男性の膀胱炎の危険因子】

年齢 危険因子
全年齢共通
  • 包茎
  • 泌尿器科的手術後
  • 尿道カテーテルの使用
  • 結石による尿路の閉塞
  • 神経因性膀胱
  • 腎移植
成人男性
  • アナルセックス
  • パートナーの膣に大腸菌が定着
高齢男性
  • 身体障害あるいは精神障害
  • 前立腺肥大症
  • コンドームカテーテルの使用

参考文献
・Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th edition

男性の膀胱炎では包茎やアナルセックスなどの陰茎が不潔になりやすい状態が原因になります。

また、男女ともに、神経因性膀胱や泌尿器科の手術後、尿道カテーテルの使用といった原因は男女共通になります。

膀胱炎の原因菌にはどんなものがある:大腸菌、プロテウスなど

膀胱炎を起こしやすい細菌とそうででない細菌は分かっています。例えば肺炎であれば肺炎球菌が最も多く原因になりますが、膀胱炎でも感染を起こしやすい細菌はあります。

【膀胱炎の原因となることの多い細菌】

  • 大腸菌(E.coli
  • クレブシエラ桿菌(Klebsiella pneumoniae
  • 腸球菌(Enterococcus faecalis
  • プロテウス菌(Proteus mirabilis
  • 腐食ぶどう球菌(Staphylococcus saprophyticus

これらは膀胱炎を起こすことで有名な細菌ですが、単純性膀胱炎はほとんどが大腸菌によるものです。複雑性膀胱炎(高齢者、尿路や免疫に異常のある人の膀胱炎)や院内で感染した膀胱炎であれば、上に挙げた細菌に加えて他の細菌が感染を起こすこともあります。

【特殊な事情があるときに膀胱炎の原因となる細菌】

  • 緑膿菌Pseudomonas aeruginosa
  • セラチア(Serratia marcescens
  • シトロバクター属(Citrobacter spp.)
  • エンテロバクター属(Enterobacter spp.)

ここに挙げた細菌は膀胱炎に対して通常用いる抗菌薬が効かないことが多いです。また、大腸菌などの膀胱炎でよくみられる細菌であっても、本来効くはずの抗菌薬が効かない細菌(耐性菌)であることも多いので注意が必要です。膀胱炎では必ず尿の培養検査を行い起炎菌を調べて、抗菌薬の有効性を確かめる検査(薬剤感受性検査)も併せて行う必要があります。

2. 膀胱結石は膀胱炎の原因となるのか

膀胱結石があると膀胱を刺激します。そのため膀胱結石があることによって膀胱炎が起こることがあります。膀胱炎になると頻尿や排尿時痛、血尿などの症状が見られます。

また、膀胱や尿路に異常があることによって膀胱結石ができやすくなっていることがあります。そのため膀胱結石が存在する場合は、超音波検査エコー検査)やCT検査、膀胱鏡検査を用いて詳しく調べることが多いです。

膀胱に結石がある場合は自然と身体の外に出ることが多いため、多くの場合で特に治療をせずに様子を見ます。ある程度様子を見ても排石されない場合には、石の大きさなどを鑑みて膀胱鏡や開腹手術を行うこともあります。

3. 薬剤は膀胱炎の原因となるのか

薬剤の影響を受けて膀胱炎になることがあります。これを薬剤性膀胱炎といい、次のような特徴があります。

  • 全ての薬剤で起こる可能性がある
  • 中でも膀胱炎になりやすい薬剤は存在する
  • 同じ薬剤を使用しても膀胱炎を起こす場合と起こさない場合がある
  • 薬を飲んでも高頻度で膀胱炎になるわけではない

以上を踏まえますと、必要のない薬を使わないように日頃から気をつけることは大事です。また、膀胱炎の症状が出てきた場合には、細菌感染だけでなく薬の副作用も考えるようにして下さい。

どんな薬剤が膀胱炎を起こしやすい

膀胱炎を起こしやすい薬剤の例は以下です。

  • 抗がん剤
    • シクロホスファミド(エンドキサン®)
    • イホスファミド(イホマイド®)
    • ブスルファン(ブスルフェクス®)
  • 漢方薬
    • 柴苓湯(サイレイトウ)
    • 小柴胡湯(ショウサイコトウ)
    • 柴朴湯(サイボクトウ)
  • ペニシリン系抗菌薬
    • アモキシシリン(サワシリン®など)
    • アンピシリン(ビクシリン®など)
    • ピペラシリン(ペントシリン®など)
    • ベンジルペニシリン(ペニシリンG)
    • ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン®G)
  • アレルギー
    • トラニラスト(リザベン®)

※トラニラストはアレルギー疾患治療薬の他、ケロイド肥厚性瘢痕の治療薬としても使われる場合があります。

これらの薬剤を飲んでも必ず膀胱炎になるわけではありませんので、使ってはいけないということではありません。薬の必要度と照らし合わせて考える必要があります。薬剤性膀胱炎の治療は原因となる薬剤の使用を中止することです。

症状は一般的な頻尿・排尿時痛といった膀胱炎症状に加えて、膀胱の出血による明らかな血尿が現れることがあります。

また、抗精神病薬抗不安薬消化管潰瘍治療薬、制吐薬などは神経因性膀胱(膀胱の蓄尿する機能や排尿する機能が低下している状態)を引き起こすため。神経因性膀胱が原因となる細菌性膀胱炎にも注意しなくてはならないことがあります。薬剤によって膀胱炎が起こることは少なくないので、膀胱炎で医療機関を受診した場合に常用薬を報告することを忘れないようにして下さい。

4. 腫瘍は膀胱炎の原因となるのか

がんは時に炎症を伴います。膀胱がんは膀胱に炎症を起こします。がんの進行とともに炎症が大きくなるため、膀胱がんが初期の段階では膀胱炎を自覚することはありませんが、膀胱がんが進行すると膀胱炎症状も強くなります。

また、がんの炎症が臓器の中にとどまらず広範囲に影響することがあるため、膀胱周囲の臓器にがんがあっても膀胱炎の原因になりえます。子宮体がん子宮頸がん卵巣がん前立腺がんなどは膀胱炎を起こすことがあります。これらのがんを治療している際に膀胱炎のような症状を感じたらかかりつけ医に相談して下さい。