いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 326回の改訂 最終更新: 2024.11.08

胃がんのステージとは?ステージ分類、早期胃がんと進行胃がんの違い

胃がんのステージは、胃でのがんの深さ、リンパ節転移遠隔転移の有無の3つの点を評価します。ステージは最適な治療法を選ぶことなどの役に立ちます。ステージのほか組織型などの特徴も重要です。 

胃がんのステージは大きくは4つに分けられます。ステージはI(1)からIV(4)までです。数字が大きくなるほど進行していることを意味しています。ステージI、II、IIIはさらに細かく分かれます。
ステージは進行の度合いを表しますが、ステージだけで治療法は決められません。組織型などと合わせて考える必要があります。

胃がんの検査をするとお医者さんの説明の中で「グループ」という言葉を耳にすると思います。ステージとグループは全く異なるものです。
グループは胃にできた腫瘍病変から組織を取ってきてそれが悪性かどうかを判定する方法です。グループはグループI(1)からグループV(5)に分けることが一般的です。グループVは悪性腫瘍、つまり胃がんを意味します。ちなみにステージ5というものはありません。

  • ステージはがんの進行度をIからIVまでに分けたもの
  • グループはがんかそうでないかの可能性を5段階で分けたもの

胃がんのグループは次のように定義されています。

グループ X:生検組織診ができない不適切材料
グループ I:生検組織および非腫瘍性病変
グループ II:腫瘍(腺腫または)か非腫瘍性か判断か判断の困難な病変
グループ III:腺腫
グループ IV:腫瘍と判定される病変のうち、癌が疑われる病変
グループ V:癌

ステージとグループは全く異なるものです。色々な説明を聞いていくうちにどちらのことを指しているのかわからなくなるかもしれません。そのときには、その都度聞きづらいかもしれませんが、受けている説明を止めてどちらの話をしているのかを質問してください。

胃がんの分類ではステージのほかに組織型の分類も重要です。治療法はステージだけでなく組織型によっても変わります。
組織型とは、胃がんの組織を取り出して顕微鏡で観察したときの特徴のことです。胃がんを作っている1個ずつの細胞の見た目、細胞の配列の特徴などを観察します。
胃がんの組織型は次のように分類されます。

一般型 分化型癌 乳頭腺癌
管状腺癌
  • 高分化
  • 中分化
未分化型癌 低分化腺癌
  • 充実型
  • 非充実型
印環細胞癌
粘液癌
特殊型 カルチノイド腫瘍
内分泌細胞癌
リンパ球浸潤癌
肝様腺癌
腺扁平上皮癌
扁平上皮癌
未分化癌

最も多いのは管状腺癌です。胃がんの組織型は紹介したように多くありますが、一般型がほとんどです。一般型を分化型癌と未分化型癌に分けます。分化型癌は正常な胃に比較近い形をとります。未分化型癌は正常な胃と形がかなり異なります。進行が速いスキルス胃がんになる場合もあります(スキルス胃がんという名前は組織型とは別の考え方によります。詳しくは「スキルス胃がんとは?」で説明しています)。分化型癌と未分化型癌の区別は内視鏡治療ができるかどうかに関わります。

胃がんの生存率はステージごとに集計されています。「がんの統計 2022」を参考にして説明します。がんの治療では5年生存率(5年後に生存した人の割合)を目安にすることが多いです。「がんの統計 2022」にもステージごとの5年生存率が載っています。

ステージ 5年生存率(%)
ステージ I 96.0
ステージ II 69.2
ステージ III 41.9
ステージ IV 6.3

解説します。

5年生存率のデータを見ると、早いステージで診断された人のほうが生存率が高いといえます。ただし注意しなければならないのは、このデータが一人一人にどの程度当てはまるかは予測できないことです。診断時には高い5年生存率が予想されていても予想に反して早く亡くなってしまう人がいる一方で、ステージIVと診断されてから5年以上生存する人もいます。
がんと診断された場合には、どうしても生存率に目が行きがちです。しかし生存率のデータは、胃がんと診断された人を大きく4つに分類して統計をとっただけに過ぎません。人それぞれ顔が異なるようにがんの性質も異なります。生存率は一つの目安として考えても良いかもしれませんが、あくまでも目安です。自分の状態に向き合い行える治療について考え日々を大事に過ごしていくことが大事だと思います。

胃がんの治療後の再発率はステージ毎で異なると考えられます。再発に至るまでの過程はかなり多様なので互いに比較することが難しいこともあり、すべてのステージについて再発率を統一的に調べた統計は国内にはありません。しかし一般的には、早いステージで治療をしたほどその後の再発率は低いです。根治的治療後の再発率の統計をいくつか紹介します。

根治的治療とは体の中にあるすべてのがんを取り除く目的の治療です。胃がんでは手術または内視鏡治療が根治的治療にあたります。以下では再発率について解説しますが、数字についてはあくまでも目安として考えてください。

ステージIの治療は内視鏡治療もしくは手術です。

内視鏡治療ができる条件はリンパ節転移の可能性がかなり低いことです。
ある報告では、ESDで治療された患者342人と手術で治療された患者275人のうち同程度の状態と見られる人どうしを比較して、ESDで治療された患者では5年後まで再発なく生存していた人が95.1%、手術で治療された患者では98.0%と、ESDで治療された患者のほうががやや悪い経過をたどっていました。

ただし、この解析方法には、ESDが積極的に勧められるが手術は考えにくいような患者が解析に含まれにくいという理論的な問題があります。つまりESDにとって不利な事例が結果に強く反映されている可能性が想定できます。

手術で治療した場合については、内視鏡治療が一般的ではなかった時代の数字として、ある1施設での結果が報告されています。粘膜にとどまる胃がんがあった患者701人のうち、手術後に再発を経験した人は累計で0.29%でした。粘膜下層までの胃がんがあった患者884人のうちで再発を経験した人は累計で1.6%でした。

ほかの報告では、やはり内視鏡治療が一般的ではなかった時代に、ある1施設の結果と以前の研究論文の結果をもとに再発率が推計されています。早期胃がんの手術後の患者12,785人のうち247人(1.9%)に再発が確認され、経過を追跡しきれなかった患者については不明でした(残った胃に発生したがんを除く)。がんの状態ごとに分けて計算すると、がんが粘膜にとどまっていた場合の再発率が0.6%、がんが粘膜下層まで浸潤していた場合の再発率が3.6%、リンパ節転移があった場合の再発率が10.7%とされています。

これらの値はいずれも集計の基準や調査対象の施設などによって変わると考えられます。一人ひとりの再発の確率を正確に予言するのは困難です。統計は参考程度に考えてください。

参考:
Gastric Cancer. 2017
Cancer. 1993;72.3174-8
World J Surg. 1998;22:869-73

ステージIIの5年間再発なく経過した人は79.2%であったとする報告があります。この数字は手術後に再発予防で抗がん剤治療抗がん剤のS-1による治療)をした人の結果です。
ただし、この報告で使われているステージ分類の基準は現在のものと違っています。当時の基準ではステージIIIに分類されていた場合の一部が現在ではステージIIとされます。また、がんの深さがT1(粘膜下層まで)の場合は対象から除かれています。すなわちこの報告は現在の基準で言うステージIIのうち一部だけを対象としています。

ステージIIに対する治療は手術です。手術の結果、取り出した組織の中で筋層までがんが浸潤していてリンパ節にも転移があった場合は、その後抗がん剤治療で再発の予防をすることが推奨されます。この結果は臨床試験の結果です。臨床試験では身体の状態がよい人が参加しています。実際には状態が悪い人もいます。また、現在の基準で言うステージIIでも、比較的進行している人であれば、この報告より再発の確率が高いことも想定されます。

参考:J Clin Oncol.2011;29:4387-4393
 

ステージIIIの再発率について現在のところは正確な統計は出ていません。正確な統計が出ていない理由の一つは、最近ステージ分類の基準が変更され、以前の治療結果と対応しなくなったことです。

やや複雑な説明になりますが、旧分類と現行の分類では「ステージIII」が指す範囲が変わっています。旧分類ではステージIIIはIIIAとIIIBの2つに分類されていました。現在はステージIIIはIIIA、IIIB、IIICの3つに分類されます。旧分類のステージと現在のステージの対応は以下のようになります。

  • 旧分類のステージIIIBの一部、IVの一部→現行のステージIIIA
  • 旧分類のステージIIIAの一部、IIIBの一部、IVの一部→現行のステージIIIB
  • 旧分類のステージIVの一部→現行のステージIIIC

ステージの変更や手術後の再発予防の治療の進歩にともない、現在の状況を反映した正確な再発率はまだはっきりとしたデータが無いのが現状です。今後、現在標準と考えられている治療法の結果が明らかになると思います。

ステージに対応した特徴的な症状はないと考えられています。つまりこの症状があれば胃がんのステージのいくつだとは言えません。特に早期胃がんの段階では症状がない場合が多いです。

症状とステージは一致しません。症状がないまま検査でステージIVの状態で発見される場合もあります。

がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。

がんのステージを判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。原発巣の状態(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3点の組み合わせによってがんの状態を評価することでステージを決定します。

以下では基準として使われている専門用語をそのまま紹介しますが、続きを理解するには詳細にこだわる必要はありません。

参考:胃癌取扱い規約 第14版
 

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。胃でのがんの状態を表しています。がんがもともと発生した場所のことを原発巣(げんぱつそう)と言います。T因子は原発巣の評価です。胃がんのT因子は腫瘍の大きさではなく胃の壁に浸潤する深さで決定されます。粘膜下までの浸潤例はT1で早期がん、固有筋層より深い浸潤例は進行がんと定義されます。

  • TX:癌の浸潤の深さが不明なもの
  • T0:癌がない
  • T1:癌の局在が粘膜(M)または粘膜下組織(SM)にとどまるもの
    • T1a:癌が粘膜にとどまるもの
    • T1b:癌の浸潤が粘膜下組織にとどまるもの(SM)
  • T2:癌の浸潤が粘膜下組織を超えているが、固有筋層にとどまるもの(MP)
  • T3:癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
  • T4:癌の浸潤が漿膜表面に接しているかまたは露出、あるいは他臓器に及ぶもの
    • T4a:癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE)
    • T4b:癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI)

浸潤という言葉について説明します。がんは周りの組織に入り込んでいく性質を持っています。浸潤とはがん細胞が隣り合った正常組織を破壊しながら中に入り込んで広がっていくことです。胃がんでは深い範囲に浸潤を認めるほどに進行していると判断されます。

N因子はリンパ節転移についての評価です。Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。
がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。リンパ節が大きくなる原因にはがん以外にも感染症などがあります。がんのリンパ節転移は大きくなると1cmを超え、典型的には硬く押しても動かないなどの特徴があります。
がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することですべてのがんを体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、全身化学療法(抗がん剤)が検討されます。治療前にリンパ節転移を評価するにはCT検査が使われます。

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明
  • N0:領域リンパ節に転移を認めない
  • N1 : 領域リンパ節に1-2個の転移を認める 
  • N2 : 領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める
  • N3:領域リンパ節に7個以上の転移を認める
    • N3a:領域リンパ節に7-15個の転移を認める
    • N3b:領域リンパ節に16個以上の転移を認める

がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。臓器ごとに領域リンパ節の場所は決まっています。胃では胃に近い場所のリンパ節が領域リンパ節になります。

胃がんにおける領域リンパ節には以下の番号と名前がついています。名前を覚える必要はありませんが、リンパ節が場所によって細かく区別されている点に注意してください。

番号 名称
1 右噴門
2 左噴門
3a 小弯(左胃動脈に沿う)
3b 小弯(右胃動脈に沿う)
4sa 大弯左群(短胃動脈に沿う)
4sb 大弯左群(左胃大網動脈に沿う)
4d 大弯左群(右胃大網動脈に沿う)
5 幽門上
6

幽門下

7 左胃動脈幹

8a

総肝動脈幹前上部
8p 総肝動脈後部
9 腹腔動脈周囲
10 脾門
11p 脾動脈幹近位
11d 脾動脈幹遠位
12a 肝十二指腸間膜内(肝動脈に沿う)
12b 肝十二指腸間膜内(胆管に沿う)
12p 肝十二指腸間膜内(門脈に沿う)
14v 上腸間膜静脈に沿う

M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。胃から離れた臓器に胃がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。
遠隔転移がある胃がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした全身化学療法(抗がん剤治療)を行います。

  • MX:領域リンパ節以外の転移の有無が不明である
  • M0:領域リンパ節以外に転移を認めない
  • M1:領域リンパ節以外の転移を認める

T因子、N因子、M因子をそれぞれ評価したところで、下の表に従ってステージを定めます。

  N0 N1 N2 N3
T1a IA IB IIA IIB
T1b IA IB IIA IIB
T2 IB IIA IIB IIIA
T3 IIA IIB IIIA IIIB
T4a IIB IIIA IIIB IIIC
T4b IIIB IIIB IIIC IIIC
遠隔転移 IV     

上皮内がんは粘膜上皮にとどまるがんのことを指します。上皮内がんは早期胃がんに分類されます。上皮内がんと診断された場合は臨床病期のT因子ではT1aと表記します。

ステージが決まれば、次に行うことは治療法を決めることです。ステージごとに、がんを取り除いて再発させないことと身体への負担を考えて、最も利益が大きく負担が小さいと予想される治療を選びます。

  N0 N1 N2 N3
T1a IA IB IIA IIB
内視鏡的切除または縮小手術 定型手術 定型手術 定型手術
T1b IA IB IIA IIB
縮小手術 定型手術 定型手術 定型手術
T2 IB IIA IIB IIIA
定型手術 定型手術 定型手術 定型手術
  抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
T3 IIA IIB IIIA IIIB
定型手術 定型手術 定型手術 定型手術
  抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
T4a IIB IIIA IIIB IIIC
定型手術 定型手術 定型手術 定型手術
抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
T4b IIIB IIIB IIIC IIIC
定型手術+合併切除 定型手術+合併切除 定型手術+合併切除 定型手術+合併切除
抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
M1 IV
(抗がん剤治療、放射線療法、緩和手術、対症療法)

ステージIの治療は内視鏡治療もしくは手術です。内視鏡治療の対象は、リンパ節転移の可能性が低く、粘膜下層に及ばない場合です。内視鏡では治療が十分ではないと判断された場合は手術を行います。リンパ節転移の可能性が低く筋層までがんが及ばないときは定型手術よりリンパ節郭清の範囲が小さい縮小手術で治療が可能です。

ステージIIはほとんどは定型手術を行いその後抗がん剤治療によって再発を抑えます。定型手術は胃の3分の2以上を切除して胃の周りのリンパ節も切除する方法です。胃は全てを切除する幽門側胃切除もしくは、胃全摘除術で治療します。

ステージIIIはステージIIと同様に定型手術後に再発予防を行います。他の臓器に浸潤している場合はその臓器を合併切除します。合併切除する臓器は膵臓、脾臓、横行結腸(大腸の一部)などです。胃以外の臓器を切除するときには通常の胃のみ切除する場合より大掛かりな手術になります。

ステージIVの治療は抗がん剤を中心とした治療になります。手術で胃の切除を行うことは少ないです。ステージIVは胃から離れた場所に転移がある状態です。画像では捉えられない小さな転移が全身にあると考えられるので、全身をカバーできる抗がん剤治療を行うことのほうが理にかなっています。ステージIVから根治を目指すことはかなり難しく、抗がん剤治療の目的は余命を伸ばすことになります。

ステージIの中でも条件に合う場合に内視鏡治療が勧められます。がんが粘膜という一番浅い位置にとどまっていてリンパ節転移の可能性が低いことが条件です。この条件を満たすかどうかは、病理学的検査の結果(組織型)や内視鏡画像の特徴(潰瘍の有無や大きさなど)などによって総合的に判断がなされます。「胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)」では、下記のような病変への内視鏡治療が勧められています。

【粘膜内胃がんの内視鏡治療適応】

  • 組織型が分化型がんで、内視鏡で潰瘍が見当たらない(大きさは問わない)

  • 組織型が分化型がんで、内視鏡でみると潰瘍があって3cm以下

  • 組織型が未分化がんで、内視鏡で潰瘍が見当たらなくて2cm以下

ここで言う潰瘍とは粘膜の深い傷またはその傷痕のことです。傷が開いていればクレーターのように凹んだ形をしていることが多く、治癒して傷痕となると粘膜がひきつれて見えることが多いです。

上記の条件に当てはまらず、より進行した状態が疑われても、開腹手術や腹腔鏡手術に耐えられる体力がないときなどには、内視鏡治療が選択されることがあります。

胃がんの「初期」という言い方は厳密ではありません。「早期胃がん」という言葉には定義があります。初期も早期も同じではないかと思えるかもしれませんが、医学用語では1文字違うだけで意味がまったく変わることもあるので、細かい違いにも気を付けてください。

胃がん全体を早期胃がんと進行胃がんに分類することができます。

早期胃がんと進行胃がんは、胃がんが胃の壁に入り込んでいる深さで区別されます。

  • 早期胃がん:筋肉の層(筋層)にがんが届いていない 
  • 進行胃がん:筋肉の層(筋層)にがんが届いている

がんの進行度を言い表すにはステージがよく使われます。早期胃がんと進行胃がんの区別は、ステージと一致しません。早期胃がんが早期の胃がんで進行胃がんは進行した胃がんという意味ではありません。

ステージの分類には、胃がんの根深さのほかにもリンパ節転移と遠隔転移が基準とされます。早期胃がんと進行胃がんの区別にはリンパ節転移と遠隔転移が関係しません。

胃がんにだけ特徴的な症状はないと考えられています。特に初期の段階では症状を認めることは珍しいと考えていいと思います。

胃がんで現れることがある症状の例を挙げます。

  • 腹痛 
  • 体重減少 
  • 食思不振 
  • みぞおちのあたりの不快感 
  • お腹に塊を触れる(腹部腫瘤感(ふくぶしゅりゅうかん)) 
  • 体がだるい感じ(全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん))
  • 嘔吐
  • 血を吐く(吐血(とけつ))

胃がんの症状は多様です。胃がんの症状で多いのは腹痛ですが、これはがんによる痛みよりは同時に発生することがある胃炎や胃潰瘍などの症状とも考えられています。その他かなり進行した状態では吐血をきっかけに発見されることもあります。

以上はいずれもほかの原因でも起こる症状です。胃がんは特有の症状に乏しいと言えます。

早期胃がんを内視鏡で観察したときの見た目で分けると4つに分類されます。肉眼的分類と言います。内視鏡を通しているのに肉眼的というのは、顕微鏡やCTなどではなく、取り出せば目に見えるものを観察しているというぐらいの意味です。早期胃がんを0型といいいます。早期胃がんは粘膜内にとどまるがんのことを指します。

後述する進行胃がんの肉眼的分類と形が似ているものもありますが、筋層にがん細胞がないことがポイントです。潰瘍をつくっている早期胃がんに対しては内視鏡治療ができないことがあります。

以下では早期胃がんの分類の肉眼的な特徴の説明を行います。後述する進行胃がんの分類とは違う点に注意してください。表記では0-I型は早期胃がんのI型という意味です。1か所に2つの型の特徴がある場合があり、そのときにはIIc+IIIのように記載します。

早期がんのタイプ

明らかな盛り上がった腫瘤状の隆起が認められるもの。

明らかな隆起も陥凹(かんおう;へこみ)も認められないもので少しだけ膨らみがあるもの。

明らかな隆起も陥凹も認められないもので平坦なもの。

明らかな隆起も陥凹も認められないものだが、少しだけくぼんでいるもの。

明らかに深い陥凹が認められるもの。

進行胃がんを内視鏡で観察した時は4つに分類されます。
進行胃がん

明らかに盛り上がった形(隆起)をしており、正常な部分とがんの部分の境界がはっきりしたものです。

潰瘍を形成して、潰瘍をとりまく胃壁が肥厚して周堤(しゅうてい)という堤防のような形をつくります。正常な部分との境界は比較的はっきりとしています。

潰瘍を形成しますが、潰瘍をとりまく胃の壁が厚くなり正常な部分との境界がわかりづらいものです。

明らかな潰瘍や周堤はないが胃の壁が厚くなり・硬くなったもので、がんの部分と正常な部分の境界がわかりづらいものです。スキルス胃がんは4型であることが多いとされます。

1型-4型に当てはまらないものを5型とします。