いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 325回の改訂 最終更新: 2022.10.17

ピロリ菌は胃がんの原因か?胃がんとの関係や除菌などについて

ピロリ菌ヘリコバクター・ピロリ)は胃がんと強く関わりがあります。ピロリ菌によって胃がんが発生しやすい慢性胃炎の状態になります。ピロリ菌は除菌が可能なことも知られています。ピロリ菌について解説します。 

ピロリ菌は慢性胃炎の原因になります。慢性胃炎は胃がんが発生しやすい状態です。しかし、ピロリ菌に感染している人がみな胃がんになるわけではありません。つまりピロリ菌に感染している=胃がんではありません。

ピロリ菌に感染すると慢性胃炎の状態を経て腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)という状態に至ります。腸上皮化生は胃の粘膜が腸の粘膜と似た状態になることです。腸上皮化生は胃がん発生の前段階と考えられています。

ピロリ菌がいなくてもポリープができることはあります。

胃のポリープの原因の一つにピロリ菌の感染があります。ピロリ菌を除菌することでポリープが縮小したり消失することも知られています。しかし、ポリープの中でも胃底腺(いていせん)という部分が増殖してできるポリープはピロリ菌の感染率が低いことがわかっています。

ピロリ菌を除菌したあとにポリープができたり、ピロリ菌がいないのを確認したのにポリープができると不安に思うかもしれません。しかし、良性のポリープががんに変化することは少ないと考えられています。心配になりすぎる必要はありません。ポリープが見つかったら経過観察を行っていくことが大事です。

参照:Ann Intern Med.1998;129:712-715World J Gastroenterol. 2006;12:1770-1773

胃がんの発生の原因と関係がある要因が知られています。

  • ピロリ菌
  • 喫煙
  • 食塩の過剰摂取

胃がんに限らずがんは遺伝子に異常が起きることで発生します。つまり、胃の細胞ががん化する胃がんの場合は、ピロリ菌や食塩の過剰摂取によって遺伝子に異常が起きやすいことが、今までに胃がんを発生した人を調査した結果からわかっています。遺伝子の異常はいろいろな原因で起きます。年齢を重ねることなども原因の一つです。理論的には、ピロリ菌を除菌したり食塩の過剰摂取を避けることは胃がんの発生に対して予防の方向に働くと考えられます。しかし予防策をとれば決して胃がんにならないとは言えません。

ピロリ菌の感染経路はまだ解明されていません。

ピロリ菌はヒトからヒトへ、食べ物や飲み物を介して感染すると推測されています。乳幼児期の離乳食を親が噛み砕いて分け与える行為などによって感染するとも考えられています。その他の説としては不完全に処理された井戸水などが疑われています。

参考:日本消化器病学会

症状からピロリ菌がいるかいないかを予測することは難しいと言えます。

ピロリ菌が感染していると慢性胃炎の原因になります。慢性胃炎によってみぞおちの辺りが痛んだり、胃が膨らむような不快感、むかつきなどの症状が出ることがあります。しかしピロリ菌が感染したばかりであったり胃炎の程度が軽いと症状が出ないこともあります。

ピロリ菌の感染が心配な場合は消化器内科などを受診して検査を受けてみることが感染の有無を知るには確実です。

ただし、検査を受ける前に、もしピロリ菌が見つからなければどうするのか、ピロリ菌が見つかったら除菌をするのかどうか、除菌によって何を期待するか、期待する結果が得られる証拠はあるかなどをあらかじめ考えておき、わからない点は担当医に質問して確かめておくことをお勧めします。

口臭の原因は虫歯歯周病慢性副鼻腔炎蓄膿症)などの影響が大きいと考えられます。ピロリ菌が原因になる病気で口臭が出ることもありえますが、口臭の原因として第一に考えることとは言えません。

ピロリ菌の検査では吐く息を用いる方法があります。尿素呼気法(にょうそこきほう)といいます。尿素呼気法では尿素を内服してその後吐く息に含まれる二酸化炭素の濃度を測定します。二酸化炭素は無臭です。尿素呼気法では臭いでピロリ菌の存在を判定しているわけではありません。

ピロリ菌により慢性胃炎になり、消化不良などを起こしている場合には口臭の原因になることはありえるかもしれません。

口臭にはピロリ菌の影響もあるかもしれませんが、ほかの要因のほうが大きく影響します。口臭が気になる場合はピロリ菌よりもまず歯科、耳鼻咽喉科などを受診して原因について調べるといいでしょう。実際は人が気付くほどの口臭がないのに口臭を心配してしまう人もいます。

ピロリ菌の検査にはいくつか方法があります。

それぞれの特徴について解説します。

内視鏡による検査は胃の粘膜を一部つまみ取りその粘膜にピロリ菌がいるかどうかを判定します。判定の方法は、薬品を使うものが迅速ウレアーゼ試験、直接観察するものが鏡検法です。培養(ばいよう)というのは細菌が増殖しやすい環境や栄養を与えて増殖するかどうかを見る検査です。取り出した粘膜を培養してピロリ菌の塊(コロニー)ができれば粘膜にピロリ菌がいたことがわかります。

尿素呼気法では尿素を飲んでその後吐く息に含まれる二酸化炭素の濃度を測定します。ピロリ菌がいる場合には二酸化炭素の濃度が高くなります。

ピロリ菌に感染した場合は、人の体は菌に対抗するために抗体という物質を作ります。抗体を調べることでピロリ菌に感染しているかを判定します。抗体の測定は尿や血液を用いることでできます。

抗原とはピロリ菌の一部です。ピロリ菌の抗原は便中に排泄されます。便中の抗原を測定することでピロリ菌に感染しているかを判定することができます。

ピロリ菌の検査方法ごとの性能を表にまとめます。表中の数字は除菌前の数字です。

  感度 特異度
迅速ウレアーゼ活性 85-95% 95-100%
鏡検法(HE染色) 47-99% 72-100%
培養法 68-98% 100%
尿素呼気試験 95% 95%
ヘリコバクター・ピロリ抗体測定(血清) 91-100% 50-91%
便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定 96% 97%

参考:日本ヘリコバクター学会誌 2009,Vol 10 supplement

感度とは、ピロリ菌に感染している人のうち検査で正しく指摘できる割合です。感度の高い検査で陰性であった人は、ピロリ菌感染の可能性が低いと言えます。

特異度はピロリ菌に感染していない人のうち検査で正しく陰性と出る人の割合です。特異度の高い検査で陽性となった場合はピロリ菌感染の可能性が高いと言えます。

ピロリ菌の検査ができるとして、医療機関以外でも検査キットが売られている例があります。ピロリ菌の検査では結果によって精密検査や治療を受けられるようにする必要があるため、医療機関で検査することをお勧めします。

ピロリ菌の検査が保険適用となるには条件があります。内視鏡検査で胃炎が診断されたなどが条件となります。検査は本来の順序と違った使いかたをすると結果の意味も変わってしまいます。また、ピロリ菌が見つかった場合に除菌をするには医療機関に行く必要があります。はじめから除菌ができる医療機関で検査しておいたほうが一貫したケアが受けられます。

繰り返しになりますが、検査前にあらかじめ、ピロリ菌が見つかったら除菌をするのかどうか、除菌によって何を期待するか、期待する結果が得られる証拠はあるかなどについて十分理解したうえで自分の意志を決めておいてください。わからない点があれば医師などの専門家と相談しておいたほうがいいでしょう。検査だけではなく結果が出てからの行動とあわせて考えることが大事です。

胃がんに対して内視鏡治療を行った人がピロリ菌の除菌を行うとその後の胃がんの再発率が低下する可能性があります。ある研究では除菌を行った人々の再発率は3.3%だったのに対して除菌しなかった人々の再発率は8.8%で、ピロリ菌を除菌する有効性が確認されました。一方でピロリ菌を除菌しても胃がんの再発率は抑制できなかったという報告もあります。すでにピロリ菌によって胃がんが発生しやすい状態になっている場合では除菌をしても効果が低いことなどが原因として考えられます。胃がんの内視鏡治療後にピロリ菌を除菌しても必ずしも胃がんが発生しないわけではないことには注意が必要です。治療後にも内視鏡で経過観察をしていくことが大事です。

ほかの研究では胃がんがまだ発生していない人に対しても検討がなされました。症状はないもののピロリ菌に感染している人に対して除菌をすることで胃がんの発生を抑制することができるかを調べる研究が行われました。2年以上の観察期間でピロリ菌の除菌を行った人々から1.6%、行わなかった人々からは2.4%の人に胃がんが発生し、ピロリ菌の除菌によって胃がんが発生する危険性が抑制される可能性が確かめられました。

 

ピロリ菌は胃に感染すると慢性胃炎という状態を起こします。慢性胃炎の状態はやがて胃粘膜の萎縮や腸上皮化生を引き起こします。腸上皮化生の状態になると胃がんが発生する危険性が高くなります。ピロリ菌を除菌して胃の状態を改善することができれば胃がんを予防することができるかもしれませんが、すでに胃の状態が萎縮や腸上皮化生が進んでいると胃がんが発生することは有りうることです。つまりピロリ菌を除菌したからといって胃がんは完全には予防できません。

状況によっては、ピロリ菌を除菌することで胃がんが発生する確率を下げられる可能性があります。ピロリ菌に感染することと胃がんには関係がありますが、同じではありません。除菌をしようかどうかを考えるときは、除菌によって何が期待できるかを医師に相談してみてください。

参照:BMJ. 2014;348:3174Lancet. 2008;372:392Gut.2013;62:1425-32Gastrointest Endosc.2012;75:39-46

ピロリ菌の除菌方法は飲み薬です。胃酸を減らす薬と2種類の抗菌薬抗生物質、抗生剤)を同時に使って除菌します。治療期間は7日間で、使う薬には効果の確認されているものがいくつかあります。

ピロリ菌の除菌には2種類の抗菌薬と胃酸分泌抑制薬が使われます。副作用として以下のものがあります。

  • 消化器症状:下痢、吐き気など 
  • 皮膚症状:発疹、かゆみなど 
  • 肝機能障害倦怠感、食欲不振、身体が黄色くなる(黄疸)など 

副作用以外にも、抗菌薬のなかでもメトロニダゾールは妊婦や授乳婦に対しては安全性が確立していないので注意が必要です。

ピロリ菌に感染していることが分かり除菌を行った後には除菌ができているかを判定します。除菌できたかどうかの判定は、治療終了から4週間後以降に行います。そこで除菌ができていなければ抗菌薬や胃酸分泌抑制薬を変更してもう一度除菌する方法があります。2次除菌といいます。2次除菌後も除菌が達成できないことがあり、さらに抗菌薬や胃酸分泌抑制薬を変更して繰り返すこともできます。

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ピロリ菌の除菌は、健康保険が適用される場合とされない場合があります。保険適用によって費用はかなり違います。金額の目安を示します。 

  3割負担の保険が適用された場合の費用(自費での費用)
初診料 約840円(約2800円)
ピロリ菌に感染しているかどうかの検査費(尿素呼気試験法) 約1800円(6000円)
治療費(薬代) 約1800円(約6000円)
除菌の効果を判定する検査の費用 約1800円(約6000円)

検査の方法や薬の種類によっても費用は変わります。

保険が適用されるのは胃がん、胃・十二指腸潰瘍慢性胃炎などをすでに診断されている人です。保険の範囲内ならば、薬や検査に対応する金額が診療報酬として全国一律で決められています。小学校入学以後70歳未満の人なら医療費の3割が自己負担となります。

保険が適用されない場合、費用は施設によっても違います。また、全額自己負担となるため、保険が適用される場合よりもかなり高くなります。

ピロリ菌を除菌したいが費用が気になるという方は、除菌をしようとする施設にあらかじめ保険が適用されるかを含めて問い合わせてください。

ピロリ菌を除菌する時に、追加でヨーグルトを食べると、効果が上がり除菌率も高くなるという考えがあります。実際にいくつか検討が行われました。報告ではピロリ菌の除菌率を向上させるとするものもあれば関係しないとするものもあります。そのためヨーグルトの効果は確定的とは言えません。

ピロリ菌に感染していることが心配な場合は、ヨーグルトを食べるのではなくまずは医療機関を受診して検査を受けたほうがいいでしょう。またピロリ菌の除菌時にも無理にヨーグルトを食べようとする必要はありません。食べ物はどんなものでも適量を摂取することが大事です。

参照:Iran Red Crescent Med J. 2012;14:657-66J Gastroenterol Hepatol. 2011;26:44-48
Am J Clin Nutr. 2006;83:864-869