胃がんの精密検査で何がわかる?バリウム検査と内視鏡どちらがいい?
検診などで胃がんが疑われたときには精密検査が行われます。精密検査では胃がんかどうかの判断を行い、胃がんと判明したときには適切な治療を選択するために全身を調べます。
目次
1. 胃がんの精密検査は何科?
胃がんの精密検査は消化器内科で受けられます。病院によっては
2. 胃がん検査の前日に気を付けることは?
胃がんの検査の前日に気を付けることは主に食事や水に関することです。指定された時間以降には食べない、飲まないを徹底することが大事です。
胃がんの検査にはバリウム検査や内視鏡検査があります。どちらも胃の中身が空になっていなければ観察が不十分になり検査の意味をなさないことも考えられます。検査を実施する医療機関から説明があると思いますが、喫煙や飲酒も前日は控えるようにしてください。
3. 胃がんの血液検査とは?
血液検査で
胃がんの腫瘍マーカーとしていくつかの物質が知られています。胃がんの腫瘍マーカーはCEA、CA19−9、AFPなどです。腫瘍マーカーは必ずしも上昇するとは限りません。
4. レントゲン検査(上部消化管造影検査)とは?
胃がんの
5. 胃カメラ(上部消化管内視鏡)とは?
内視鏡の先には道具を送り込めるようになっています。鉗子(かんし)という道具を内視鏡の先から出すと胃の壁をつまむことができます。
内視鏡検査では胃がんの確定診断をすることも重要ですが、そのほかには胃がんの大きさや形を観察することも大事です。胃がんは条件を満たせば手術ではなく内視鏡でも治療が可能です。詳細は「胃がんの内視鏡治療とは?」で解説しています。
6. 胃がんと区別するべき病気は?
胃がんと区別するべき病気はいくつかあります。
内視鏡検査だけでは判断が難しい場合もあるので、病変の一部をつまみとってきて顕微鏡で観察し、胃がんかどうかを判断します。
それぞれの特徴や治療を説明します。
胃炎
胃炎の
胃炎とは胃の粘膜が
ピロリ菌を原因とした胃炎は、胃が
胃炎の治療として胃酸を減らす薬があります。ピロリ菌がいる場合は除菌で効果が現れる場合もあります。
胃潰瘍
胃潰瘍の症状はみぞおちの痛み、吐き気、
胃潰瘍は、胃の粘膜がクレーターのようにえぐれている状態です。正確には粘膜筋板よりも深いものを胃潰瘍、それより浅いものを
胃潰瘍は胃酸から粘膜を守る力が低下することが原因と考えられます。そのほとんどがピロリ菌の感染によるものです。胃潰瘍から胃がんに発展することはありませんが、進行すると胃に穴が開くことがあります。
胃潰瘍の診断には内視鏡検査や
胃酸を減らす薬やピロリ菌の除菌などで治療します。
胃悪性リンパ腫
胃の悪性リンパ腫はまれな病気です。
胃悪性リンパ腫に特有の症状はありません。一部の場合では、みぞおちのあたりが痛むなどの症状が出て見つかることもあります。
悪性リンパ腫はよく「血液のがん」と説明されます。専門用語で言うと、リンパ系組織から発生する
胃悪性リンパ腫は胃がんとは異なり手術によって治療することはありません。胃悪性リンパ腫はピロリ菌と関連があり、ピロリ菌を除菌すると
GIST(gastrointestinal stromal tumor:消化管間質腫瘍)
GISTは胃の壁の筋肉の層にある細胞(カハールの介在細胞に分化する細胞)から発生する
GISTは
7. 胃がんのステージとは?
ステージの決め方とは?
がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを
がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。原発巣の状態(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3点の組み合わせによってステージを決定します。
以下で基準として使われている専門用語をそのまま紹介しますが、続きを理解するには詳細にこだわる必要はありません。
参考:胃癌取扱い規約 第14版
T因子
TはTumor(腫瘍)の頭文字です。T因子は腫瘍の大きさではなく胃の壁に浸潤する深さで決定されます。粘膜下までの浸潤例はT1で早期がん、固有筋層より深い浸潤例は進行がんと定義されます。
- TX:
癌 の浸潤の深さが不明なもの - T0:癌がない
- T1:癌の局在が粘膜(M)または粘膜下組織(SM)にとどまるもの
- T1a:癌が粘膜にとどまるもの
- T1b:癌の浸潤が粘膜下組織にとどまるもの(SM)
- T2:癌の浸潤が粘膜下組織を超えているが、固有筋層にとどまるもの(MP)
- T3:癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
- T4:癌の浸潤が漿膜表面に接しているかまたは露出、あるいは他臓器に及ぶもの
- T4a:癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE)
- T4b:癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI)
浸潤という言葉について説明します。浸潤とはがん細胞が隣り合った正常組織を破壊しながら中に入り込んで広がっていくことです。胃がんでは深い範囲に浸潤しているほど進行していると判断されます。
N因子
N因子はリンパ節転移についての評価です。Nは
がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。リンパ節が大きくなる原因にはがん以外にも
がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。N因子は領域リンパ節への転移を評価します。領域リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移として別に扱います。
- NX:領域リンパ節転移の有無が不明
- N0:領域リンパ節に転移を認めない
- N1 : 領域リンパ節に1-2個の転移を認める
- N2 : 領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める
- N3:領域リンパ節に7個以上の転移を認める
- N3a:領域リンパ節に7-15個の転移を認める
- N3b:領域リンパ節に16個以上の転移を認める
領域リンパ節とは?
がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。臓器ごとに領域リンパ節の場所は決まっています。胃では胃に近い場所のリンパ節が領域リンパ節になります。
領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することで全てのがん細胞を体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、
治療前にリンパ節転移を評価するには
M因子
M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。胃から離れた臓器に胃がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。
遠隔転移がある胃がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした全身
- MX:領域リンパ節以外の転移の有無が不明である
- M0:領域リンパ節以外に転移を認めない
- M1:領域リンパ節以外の転移を認める
3つの因子とステージの対応
T因子、N因子、M因子をそれぞれ評価したところでステージを定めます。ステージの決め方を表に示します。
N0 | N1 | N2 | N3 | |
T1a | IA | IB | IIA | IIB |
T1b | IA | IB | IIA | IIB |
T2 | IB | IIA | IIB | IIIA |
T3 | IIA | IIB | IIIA | IIIB |
T4a | IIB | IIIA | IIIB | IIIC |
T4b | IIIB | IIIB | IIIC | IIIC |
遠隔転移 | IV |
ステージI、II、IIIはさらに細かく分かれています。遠隔転移がある(M1)ならばT因子・N因子に関わらずステージIVです。
分類の上ではステージIVが最も進行しているステージですが、ステージIVだからといって必ずしも「末期がん」とは限りません。ステージIVで発見された胃がんに対してできる治療もあります。
実は全然違う胃がんの「ステージ」と「グループ」とは?
ステージと紛らわしい「グループ」という言葉があります。ステージとグループの意味はまったく違います。
グループは胃にできた腫瘍から組織を取り出して生検したときに、見つかったものが悪性かどうかを記述する方法です。グループは1から5で分けることが一般的です。グループ5は悪性腫瘍、つまり胃がんを意味します。
グループX:生検
グループ I:正常組織および非腫瘍性病変
グループII :腫瘍(腺腫または癌)か非腫瘍性か判断が困難
グループIII:腺腫
グループIV:腫瘍と判定される病変のうち、がんが疑われる病変
グループV :がん
すなわち、検査結果がグループで表される段階では、まだ診断が胃がんかどうか確定していません。グループIVと言われても「末期がんに違いない」と思う必要はありません。
ステージとグループの違いをまとめます。
- ステージはがんの進行度を胃でのがんの状態、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無の3つの要素を加味してIからIVまでに分けたもの
- グループは生検などで組織診断を行ったときの悪性の可能性を5段階で分けたもの
ステージとグループは全く異なるものです。がんの疑いで検査を受けていると、色々な用語が出てくるので、説明を聞いていくうちにどちらのことを指しているのかわからなくなる場合があります。そのときには、その都度聞きづらいかもしれませんが、説明を止めてどちらの話をしているのかをしっかり聞くことが重要です。