いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 325回の改訂 最終更新: 2022.10.17

胃がんの精密検査で何がわかる?バリウム検査と内視鏡どちらがいい?

検診などで胃がんが疑われたときには精密検査が行われます。精密検査では胃がんかどうかの判断を行い、胃がんと判明したときには適切な治療を選択するために全身を調べます。 

胃がんの精密検査は消化器内科で受けられます。病院によっては消化管内科や内視鏡科などと呼ばれることもあります。それぞれの病院で胃がんの精密検査ができるかは病院のウェブサイトや電話などであらかじめ確認しておくといいでしょう。

胃がんの検査の前日に気を付けることは主に食事や水に関することです。指定された時間以降には食べない、飲まないを徹底することが大事です。
胃がんの検査にはバリウム検査や内視鏡検査があります。どちらも胃の中身が空になっていなければ観察が不十分になり検査の意味をなさないことも考えられます。検査を実施する医療機関から説明があると思いますが、喫煙や飲酒も前日は控えるようにしてください。

血液検査でがんに関係する項目として、腫瘍マーカーと総称されるものがあります。腫瘍マーカーというのはがんと関係する微量の物質です。がんがあると血液の中で腫瘍マーカーの量が多くなります。腫瘍マーカーを測定することで診断の助けになります。
胃がんの腫瘍マーカーとしていくつかの物質が知られています。胃がんの腫瘍マーカーはCEA、CA19−9、AFPなどです。腫瘍マーカーは必ずしも上昇するとは限りません。

胃がんのレントゲン検査はバリウムという物質を飲んで胃の形やしわを観察する検査です。放射線の一種であるX線を使います。いわゆるレントゲン写真と違い、動く映像として観察できる透視という撮影方法を使うことがあります。バリウムはX線を当てると白く写るので胃の壁が白く写り胃の壁のしわやへこみなどの観察ができます。バリウムを飲んだ後は横になり、胃の中をくまなくみるために検査中身体の姿勢を何度か変えます。

胃カメラ上部消化管内視鏡とも言います。内視鏡は先にレンズがついた細長い筒状のカメラです。内視鏡を口か鼻から入れて胃まで進め、胃の内部を観察します。内視鏡の先は外から操作できるので、胃をくまなく観察することが可能です。
内視鏡の先には道具を送り込めるようになっています。鉗子(かんし)という道具を内視鏡の先から出すと胃の壁をつまむことができます。病変があれば鉗子で病変の一部を取り出すことができます。これを生検といいます。生検でがんが検出されれば胃がんの確定診断になります。
内視鏡検査では胃がんの確定診断をすることも重要ですが、そのほかには胃がんの大きさや形を観察することも大事です。胃がんは条件を満たせば手術ではなく内視鏡でも治療が可能です。詳細は「胃がんの内視鏡治療とは?」で解説しています。

胃がんと区別するべき病気はいくつかあります。

内視鏡検査だけでは判断が難しい場合もあるので、病変の一部をつまみとってきて顕微鏡で観察し、胃がんかどうかを判断します。
それぞれの特徴や治療を説明します。

胃炎の症状はみぞおちのあたりが痛む、嘔吐、吐き気などです。症状だけでは胃がんと区別しにくいので内視鏡検査で見分けます。
胃炎とは胃の粘膜が炎症を起こすことです。原因はピロリ菌や痛み止めの薬(NSAIDs)です。
ピロリ菌を原因とした胃炎は、胃が萎縮する萎縮性胃炎の状態につながり、さらに胃がんを発生させる場合もあります。
胃炎の治療として胃酸を減らす薬があります。ピロリ菌がいる場合は除菌で効果が現れる場合もあります。

胃潰瘍の症状はみぞおちの痛み、吐き気、吐血などです。胃がんの症状と似ています。
胃潰瘍は、胃の粘膜がクレーターのようにえぐれている状態です。正確には粘膜筋板よりも深いものを胃潰瘍、それより浅いものをびらんといいます。
胃潰瘍は胃酸から粘膜を守る力が低下することが原因と考えられます。そのほとんどがピロリ菌の感染によるものです。胃潰瘍から胃がんに発展することはありませんが、進行すると胃に穴が開くことがあります。
胃潰瘍の診断には内視鏡検査や上部消化管造影検査を使います。
胃酸を減らす薬やピロリ菌の除菌などで治療します。

胃の悪性リンパ腫はまれな病気です。
悪性リンパ腫に特有の症状はありません。一部の場合では、みぞおちのあたりが痛むなどの症状が出て見つかることもあります。
悪性リンパ腫はよく「血液のがん」と説明されます。専門用語で言うと、リンパ系組織から発生する悪性腫瘍です。血液と言っても、悪性リンパ腫は目に見える大きさの塊を作ります。悪性リンパ腫が胃にできることがまれにあります。悪性リンパ腫にはいくつか種類があり、そのうち胃にできるものは「MALT(マルト)リンパ腫」、「B細胞非ホジキンリンパ腫」などが多いとされています。見た目の形で悪性リンパ腫を見分けるのは困難です。内視鏡で組織を取り出して診断します。
悪性リンパ腫は胃がんとは異なり手術によって治療することはありません。胃悪性リンパ腫はピロリ菌と関連があり、ピロリ菌を除菌すると治癒する場合があります。ピロリ菌の除菌だけで効果がない場合は抗がん剤や放射線で治療します。

GISTは胃の壁の筋肉の層にある細胞(カハールの介在細胞に分化する細胞)から発生する腫瘍です。カハールの介在細胞は広く消化管に分布して消化管を動かすことに関わっています。胃がんは胃の粘膜から発生する点が異なります。GISTは悪性腫瘍の一つである肉腫に分類されます。内視鏡検査などで診断します。
GIST転移などをすることがあるので、見つかった場合は手術により取り除きます。転移をしたり手術が難しい場合には抗がん剤で治療します。

ステージとはがんの進行度を指す言葉です。胃がんのステージはIからIVまでに分かれます。ステージは、治療法を選択する上で重要です。ステージを決める方法は、胃でのがんの根の深さ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無の3つを組み合わせて決めます。

がんの大きな特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが元あった場所とは違うところにも移動して増殖することです。元あった場所のがんを原発巣(げんぱつそう)または原発腫瘍と言います。転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。

がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。原発巣の状態(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3点の組み合わせによってステージを決定します。

以下で基準として使われている専門用語をそのまま紹介しますが、続きを理解するには詳細にこだわる必要はありません。

参考:胃癌取扱い規約 第14版

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。T因子は腫瘍の大きさではなく胃の壁に浸潤する深さで決定されます。粘膜下までの浸潤例はT1で早期がん、固有筋層より深い浸潤例は進行がんと定義されます。

  • TX:の浸潤の深さが不明なもの
  • T0:癌がない
  • T1:癌の局在が粘膜(M)または粘膜下組織(SM)にとどまるもの
    • T1a:癌が粘膜にとどまるもの
    • T1b:癌の浸潤が粘膜下組織にとどまるもの(SM)
  • T2:癌の浸潤が粘膜下組織を超えているが、固有筋層にとどまるもの(MP)
  • T3:癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
  • T4:癌の浸潤が漿膜表面に接しているかまたは露出、あるいは他臓器に及ぶもの
    • T4a:癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE)
    • T4b:癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI)

浸潤という言葉について説明します。浸潤とはがん細胞が隣り合った正常組織を破壊しながら中に入り込んで広がっていくことです。胃がんでは深い範囲に浸潤しているほど進行していると判断されます。

N因子はリンパ節転移についての評価です。Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。
がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。リンパ節が大きくなる原因にはがん以外にも感染症などがあります。がんのリンパ節転移は大きくなると1cmを超え、典型的には硬いなどの特徴があります。
がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。N因子は領域リンパ節への転移を評価します。領域リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移として別に扱います。

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明
  • N0:領域リンパ節に転移を認めない
  • N1 : 領域リンパ節に1-2個の転移を認める 
  • N2 : 領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める
  • N3:領域リンパ節に7個以上の転移を認める
    • N3a:領域リンパ節に7-15個の転移を認める
    • N3b:領域リンパ節に16個以上の転移を認める

がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。臓器ごとに領域リンパ節の場所は決まっています。胃では胃に近い場所のリンパ節が領域リンパ節になります。
領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することで全てのがん細胞を体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、抗がん剤治療が検討されます。
治療前にリンパ節転移を評価するにはCT検査が使われます。

M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。胃から離れた臓器に胃がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。
遠隔転移がある胃がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした全身化学療法(抗がん剤治療)を行います。

  • MX:領域リンパ節以外の転移の有無が不明である
  • M0:領域リンパ節以外に転移を認めない
  • M1:領域リンパ節以外の転移を認める

T因子、N因子、M因子をそれぞれ評価したところでステージを定めます。ステージの決め方を表に示します。

  N0 N1 N2 N3
T1a IA IB IIA IIB
T1b IA IB IIA IIB
T2 IB IIA IIB IIIA
T3 IIA IIB IIIA IIIB
T4a IIB IIIA IIIB IIIC
T4b IIIB IIIB IIIC IIIC
遠隔転移 IV     

ステージI、II、IIIはさらに細かく分かれています。遠隔転移がある(M1)ならばT因子・N因子に関わらずステージIVです。

分類の上ではステージIVが最も進行しているステージですが、ステージIVだからといって必ずしも「末期がん」とは限りません。ステージIVで発見された胃がんに対してできる治療もあります。

ステージと紛らわしい「グループ」という言葉があります。ステージとグループの意味はまったく違います。
グループは胃にできた腫瘍から組織を取り出して生検したときに、見つかったものが悪性かどうかを記述する方法です。グループは1から5で分けることが一般的です。グループ5は悪性腫瘍、つまり胃がんを意味します。

グループX:生検組織診断ができない不適切材料
グループ I:正常組織および非腫瘍性病変
グループII :腫瘍(腺腫または癌)か非腫瘍性か判断が困難
グループIII:腺腫
グループIV:腫瘍と判定される病変のうち、がんが疑われる病変
グループV :がん

すなわち、検査結果がグループで表される段階では、まだ診断が胃がんかどうか確定していません。グループIVと言われても「末期がんに違いない」と思う必要はありません。
ステージとグループの違いをまとめます。

  • ステージはがんの進行度を胃でのがんの状態、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無の3つの要素を加味してIからIVまでに分けたもの
  • グループは生検などで組織診断を行ったときの悪性の可能性を5段階で分けたもの

ステージとグループは全く異なるものです。がんの疑いで検査を受けていると、色々な用語が出てくるので、説明を聞いていくうちにどちらのことを指しているのかわからなくなる場合があります。そのときには、その都度聞きづらいかもしれませんが、説明を止めてどちらの話をしているのかをしっかり聞くことが重要です。