いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 325回の改訂 最終更新: 2022.10.17

胃がんに使う抗がん剤はどんな薬?薬の特徴、副作用などについて

胃がんの抗がん剤治療には多くの種類の抗がん剤を使い分けます。それぞれの薬の特徴や副作用を説明します。 

トラスツブマブ(商品名:ハーセプチン®)はがん細胞増殖に関わるHER2(ErbB2)という物質に結合する分子標的薬です。胃がんや乳がんなどにおいてはこのHER2の過剰発現が、がん細胞の増殖などに深く関わるとされています。

トラスツズマブはHER2に結合することで、がん細胞の増殖のシグナル伝達を抑える作用や免疫細胞(NK細胞や単球)によるがん細胞への障害作用(抗体依存性細胞障害作用:ADCC)により抗腫瘍効果をあらわします。

胃がん治療ではカペシタビン及びシスプラチンとの併用療法などがHER2の過剰発現がある胃がん(HER2陽性の進行・再発胃がん)に対する治療の選択肢となっています。

トラスツズマブは分子標的薬の中でも特定分子に結合するモノクローナル抗体という種類の薬です。
このモノクロナール抗体ではインフュージョンリアクションという過敏症があらわれる場合があります。インフュージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内にあらわれる症状(発熱、悪寒、吐き気・嘔吐、疼痛、頭痛、咳嗽、めまい、発疹など)の総称です。

その他、注意すべき副作用として消化器症状、心機能障害、間質性肺炎などの呼吸器障害、肝機能障害などがあります。

がん細胞が増殖するには、がんに栄養や酸素を送るため新しく血管をつくる必要があります。これを血管新生と言います。血管新生や血管内皮の増殖に関わる物質が血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor)です。

ラムシルマブ(商品名:サイラムザ®)は、がんの増殖因子となる血管内皮増殖因子(VEGF)に関わることで抗腫瘍効果を現す分子標的薬で、特定物質に結合するモノクローナル抗体という種類に分類されます。ラムシルマブは本来VEGFが結合する血管内皮増殖因子受容体(VEGFR-2)に結合することでVEGFR-2の活性化を阻害し、腫瘍組織の血管新生などを阻害します。

ラムシルマブは2014年に胃がんの抗がん剤として承認されました。また2016年の5月に大腸がん、同年の6月には肺がん(非小細胞肺がん)の抗がん剤としても承認されています。
胃がんに対する化学療法としては、治癒切除不能な進行・再発胃がん(主に2次治療)としてパクリタキセルとの併用療法などが行われています。

ラムシルマブなどのモノクローナル抗体では、インフュージョンリアクションという過敏症があらわれることがあります。インフュージョンリアクションとは薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内に現れる症状(発熱、悪寒、発疹、疼痛、頭痛、咳嗽、めまい、呼吸困難など)の総称です。

ラムシルマブの投与前にはインフュージョンリアクションの軽減目的のため、ジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン薬などの投与が考慮されます。

その他、好中球減少症消化管穿孔、下痢、口内炎などの消化器障害、血栓塞栓症、高血圧、出血などに注意が必要です。

S-1はテガフール、ギメラシル、オテラシルカリウムという3種類の成分からできている配合剤です。商品名としてはティーエスワン®などがあります。

中心となるのはテガフールです。テガフールは体内でフルオロウラシル(5-FU)という成分に徐々に変換され抗腫瘍効果をあらわします。テガフールのように体内で代謝を受けることで薬効をあらわす薬のことを一般的にプロドラッグと呼びます。

5-FUは細胞増殖に必要なDNAの合成を障害する作用やRNAの機能障害を引き起こすことでがん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させる代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬)という種類の抗がん剤です。
テガフール以外の2種類の成分はテガフールを補助する役割を果たします。

ギメラシルは5-FUを分解するDPD(dihydropyrimidine dehydrogenase)の活性を阻害することで5-FUの血中濃度を高めて抗腫瘍効果を増強する役割を果たします。オテラシルカリウムは5-FUの主な副作用である消化器症状(消化管粘膜障害)を軽減する作用をあらわします。
S-1は胃がんの抗がん剤として1999年に承認されました。その後、頭頸部がん、大腸がん肺がん(非小細胞肺がん)、乳がん膵がんといったがんに対しても追加承認されています。

胃がん治療ではS-1単独療法での治療(主に術後化学療法)が行われるほか、進行・再発の胃がんに対してシスプラチン(CDDP)との併用療法(CS療法またはSP療法)、オキサリプラチン(OX)との併用によるSOX療法、ドセタキセル(DTX)との併用療法などが治療の選択肢となっています。

S-1による治療は休薬期間を設ける場合も多く「28日間服用後、14日間休薬」であったり、CS療法における「(S-1を)21日間服用後、14日間休薬」などの服薬スケジュールが指示される場合があります。処方医や薬剤師から服薬方法などをしっかりと聞いておくことも大切です。

S-1の副作用として、オテラシルカリウムによって負担が軽減されているとはいえ食欲不振、吐き気、下痢、口内炎などの消化器症状には注意が必要です。他に骨髄抑制、肝機能障害、間質性肺炎などにも注意が必要です。

また、皮膚や爪などが黒くなる色素沈着や流涙(涙管が狭まり涙があふれ出る)といった症状があらわれる場合もあります。
S-1は内服薬(飲み薬)ですが、嚥下機能の状態などによりカプセル(ティーエスワン®配合カプセルなど)が飲み込みにくい場合には口腔内崩壊錠(ティーエスワン®配合OD錠)や顆粒剤(ティーエスワン®配合顆粒)といった剤形の変更も可能です。

フルオロウラシル(略号・商品名:5-FU)は、がん細胞の代謝を阻害しがん細胞を死滅させる代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬)という種類に分類されます。もう少し詳しく作用の仕組みをみていくと、細胞増殖に必要なDNAの合成を障害する作用やRNAの機能障害を引き起こすことでがん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導させます。

現在では単剤(抗がん剤として単独)で使うことは少なく、他の抗がん剤もしくは5-FUの効果を増強する薬剤(主に活性型葉酸製剤)との併用により使われます。

HER2陽性の治癒切除不能進行・再発の胃がんにおけるシスプラチン及びトラスツズマブとの併用療法などで使われています。
胃がん以外にも大腸がん(FOLFOX療法、FOLFIRI療法など)、乳がん(CEF療法など)、食道がん(FP療法など)など多くのがん化学療法のレジメンで使われている薬剤の一つです。

5-FUで注意すべき副作用は吐き気や下痢、食欲不振などの消化器症状、骨髄抑制、うっ血性心不全、口腔粘膜障害、手足症候群などです。他の抗がん剤との併用療法ではこれら5-FU自体の副作用に加え、併用する抗がん剤の副作用が加わることが考えられます。また5-FUは亜鉛の吸収を悪くするため味覚障害があらわれる場合があります。亜鉛不足は食欲不振と合わせて注意したい副作用です。

カペシタビン(商品名:ゼローダ®)は、S-1に配合されているテガフールなどと同じピリミジン拮抗薬に分類される抗がん剤です。

体内に吸収されたあと、肝臓や腫瘍組織で代謝されフルオロウラシル(5-FU)に変換されることで抗腫瘍効果をあらわします。5-FUの腫瘍内での濃度を高め、腫瘍組織以外での副作用を最小限に抑える目的で開発された経緯を持ち、最初に乳がんの抗がん剤として承認されその後、胃がんや大腸がんの抗がん剤としても承認されました。

胃がん治療では、進行・再発胃がんに対してオキサリプラチン(OX)との併用療法(XELOX療法)、シスプラチン及びトラスツズマブとの併用療法などが治療の選択肢となっています。
カペシタビンは「14日間服用後、7日間休薬」など、休薬期間を設ける場合が多い抗がん剤ですので、服用方法などに関して処方医からしっかりと説明を聞いておくことも大切です。

カペシタビンは骨髄などで活性体になりにくいため副作用は比較的軽減されているとも考えられますが、下痢などの消化器症状、手足症候群、肝機能障害、骨髄抑制などには注意が必要です。またXELOX療法においてはカペシタビンと併用するオキサリプラチンによる末梢神経障害が比較的高頻度であらわれるため注意が必要です。

シスプラチン(商品名:ランダ®、ブリプラチン®など)は、化学構造中にプラチナ(白金:Pt)を含むことからプラチナ製剤という種類に分類される抗がん剤です。細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合することでDNA複製を阻害し、がん細胞の分裂を止め、がん細胞の自滅(アポトーシス)を誘導することで抗腫瘍効果をあらわします。

胃がん治療でS-1(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)との併用によるCS療法(またはSP療法)、カペシタビン及びトラスツズマブとの併用療法、フルオロウラシル及びトラスツズマブとの併用療法などが行われています。
シスプラチンは多くのがん化学療法のレジメン(がん治療における薬剤の種類や量、期間、手順などの計画書)で使われる薬剤です。胃がん以外にも肺がん食道がん子宮頸がん乳がん膀胱がんなど色々ながん治療に対して承認されています。

シスプラチンの注意すべき副作用に腎障害(急性腎障害など)、過敏症、骨髄抑制、末梢神経障害、消化器障害、血栓塞栓症、低マグネシウム血症などがあります。その他、難聴・耳鳴り、しゃっくりなどがあらわれることもあります。
また治療中に水分を摂る量が減ると腎障害の悪化などがおこる可能性があります。医師から治療中の具体的な水分摂取量が指示された場合はしっかりと守ることも大切です。

オキサリプラチン(商品名:エルプラット®など)は、細胞増殖に必要な遺伝情報を持つDNAに結合し、DNAの複製及び転写を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす抗がん剤です。オキサリプラチンは化学構造の中にプラチナ(Pt)を含むことからプラチナ製剤と呼ばれる種類の薬に分類されます。

本剤は他のプラチナ製剤の薬剤(シスプラチンなど)とは異なる化学構造を持っていることなどから特に大腸がんの細胞に対して高い抗腫瘍活性を示す性質があり、2005年に大腸がんの抗がん剤として承認されました。その後、膵臓がんの抗がん剤としても承認され、2015年には胃がんの抗がん剤としても承認されました。

オキサリプラチンは主に他の抗がん剤との併用により使われ、胃がん治療においてもカペシタビン(商品名:ゼローダ®)との併用によるXELOX療法などが治療の選択肢となっています。

オキサリプラチンの注意すべき副作用は過敏症、骨髄抑制、間質性肺炎、視覚障害、消化器症状などです。また手足や口(口唇)周囲の感覚異常、咽頭絞扼感(喉がしめつけられる感覚)などの末梢神経障害があらわれる場合があります。冷たいものになるべく手を触れないなど日常生活の中での予防も大切です。

パクリタキセル(商品名:タキソール®など)は、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管を阻害することで、がん細胞の増殖を抑えやがて細胞死へ誘導させることで抗腫瘍効果をあらわす微小管阻害薬の一つです。

ドセタキセルと同じくイチイ科の植物(学名:Taxus baccata)の成分から開発された経緯により、微小管阻害薬の中でも、学名を由来としたタキサン系という種類に分類されます。

胃がん治療においてパクリタキセル単独療法で使われるほか、ラムシルマブとの併用療法などが治療の選択肢となっています。
また胃がん以外にも肺がん乳がん卵巣がん子宮体がん膀胱がんなどの多くのがん治療に使われることがある抗がん剤です。

パクリタキセルの注意すべき副作用に過敏症、骨髄抑制、関節や筋肉の痛み、しびれなどの末梢神経障害、脱毛などがあります。病態などにもよりますが脱毛は抗がん剤の中でも特に高頻度であらわれる薬で、眉毛などが抜ける場合も考えられます。必要に応じて帽子やウイッグなどを用意するなどの事前準備も大切です。

また製剤の添加物にエタノールを含むため、アルコール過敏の体質を持つ場合には注意が必要です。
ちなみにパクリタキセルを人血清アルブミンという物質と結合させることでエタノール(及びポリオキシエチレンヒマシ油)を含まないようにしたnabパクリタキセル(ナブパクリタキセル、商品名:アブラキサン®)という薬剤もあります。nabパクリタキセルはアルコール過敏の体質を持つ場合でも投与可能で、胃がん治療の選択肢となることもあります。

ドセタキセル(商品名:タキソテール®、ワンタキソテール®など)は、細胞分裂に重要な役割を果たす微小管を阻害することで、がん細胞の増殖を抑えやがて細胞死へ誘導させることで抗腫瘍効果をあらわす微小管阻害薬の一つです。

ドセタキセルはイチイ科の植物(学名:Taxus baccata)の成分から開発された経緯により、微小管阻害薬の中でも、学名を由来としたタキサン系という種類に分類されます。

主に進行・再発胃がんに対して同じタキサン系の薬剤であるパクリタキセルも使われていますが、ドセタキセル単独療法は主に進行・再発胃がんの2次治療以降の選択肢(パクリタキセルとラムシルマブの併用療法がなんらかの理由によって行うことが困難である場合などの選択肢)になっています。

胃がん以外にも非小細胞肺がん乳がん卵巣がん子宮体がん前立腺がんなど多くのがん治療に使われることがある抗がん剤です。

ドセタキセルの注意すべき副作用に過敏症、骨髄抑制、関節や筋肉の痛み、しびれなどの末梢神経障害、脱毛などがあります。病態などにもよりますが脱毛は抗がん剤の中でも高頻度であらわれる薬の一つで、眉毛などが抜ける場合も考えられます。必要に応じて帽子やウイッグなどを用意するなどの事前準備も大切です。

またドセタキセル製剤は添加物や添付溶解液にエタノールを含むため、アルコール過敏の体質を持つ場合には注意が必要です。

イリノテカン(商品名:カンプト®、トポテシン®など)は植物(喜樹:Camptotheca acuminata)由来の抗がん剤で、細胞分裂が進まないようにする作用により、がん細胞の増殖を阻止することで抗腫瘍効果をあらわすトポイソメラーゼ阻害薬という種類に分類される薬です。
がんを含めた細胞の増殖は細胞分裂によっておこります。細胞分裂に必要な酵素にトポイソメラーゼがあり、イリノテカンは主に「トポイソメラーゼI」のタイプを阻害する作用をあらわします。

胃がん治療では主に進行・再発胃がんの2次治療や3次治療などの選択肢になっています。また胃がん以外にも大腸がん(FOLFIRI療法など)、膵臓がん(FOLFIRINOX療法)、乳がん肺がん子宮頸がんなどの治療で使われることがあります。

イリノテカンは骨髄抑制、間質性肺炎などの他、特に下痢に対しての注意が必要です。イリノテカンの下痢は薬剤の投与中から直後にあらわれる早発性の下痢と投与から数日経ってあらわれる遅発性の下痢の2種類があります。それぞれ下痢に合わせた対処が必要となります。
例として遅発性の下痢に対するロペラミド(商品名:ロペミン®など)などの対処がありますが、最近では漢方薬による対処も選択肢になっています。特に半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)は速効性と持続性の両面の作用により、早発性と遅発性のどちらの下痢にも有用であるとされています。

11. ニボルマブ

ニボルマブ(オプジーボ®)はがん細胞が作り出しやすPD-1という物質の働きを妨げることによって効果を発揮する薬です。
身体には免疫機能があり、がん細胞などを異物として認識して攻撃します。しかし、がん細胞の中にはPD-1リガンドという物質を作り出して、免疫細胞が攻撃できないようにするものがあります。ニボルマブはPD-1リガンドの働きを妨げて、免疫機能によるがん細胞の攻撃を促します。
胃がんでは再発や転移をした人に対して、3次治療としてニボルマブを使うことができます。

ニボルマブの副作用は?

ニボルマブの副作用は間質性肺炎甲状腺機能低下症、下痢、1型糖尿病などがあります。
また、インフュージョンリアクションという過敏症が現れることがあります。薬剤投与による免疫反応などにより起こる有害事象で、薬剤の投与中及び投与後24時間以内に現れる症状(発熱、悪寒、発疹、疼痛、頭痛、咳嗽、めまい、呼吸困難など)の総称です。ニボルマブの投与前にはインフュージョンリアクションの軽減目的のため、ジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン薬などの投与が考慮されます。

12. ペムブロリズマブ

ニボルマブと同様にPD-1という物質の働きを妨げることによって、がん細胞を攻撃する薬です。作用は副作用はニボルマブと同様と考えられています。ペムブロリズマブは高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有するタイプの胃がんに効果があります。