いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 325回の改訂 最終更新: 2022.10.17

胃がんの手術とは?胃全摘、腹腔鏡手術などの方法から入院日数、食事について解説

胃がんの手術は胃の一部を切除する場合と胃の全てを切除する場合に分かれます。また内視鏡治療を手術と呼ぶ場合もありますが、ここでは内視鏡治療以外の手術を解説します。 

胃がんで手術を考えるのは、内視鏡治療でがんを取りきることが難しいと考えられた場合です。手術ができる条件は、胃から離れた場所(臓器・遠隔リンパ節)に転移がないことです。離れた場所への転移を遠隔転移といいます。胃の近くのリンパ節(領域リンパ節)への転移は遠隔転移と区別します。領域リンパ節に転移があっても遠隔転移がなければ手術はできます。
まとめると、胃がんで手術が勧められるのは次の2点を満たす場合です。

  • 内視鏡では取り切れないことが想定される
  • 遠隔転移がない

胃がんの根治を目指す治療法は手術と内視鏡治療です。内視鏡治療で取り切れないと想定される場合、手術せずに根治を目指す方法は知られていません。
胃がんは遠隔転移がない限り根治を目指すことができます。早期胃がんは内視鏡治療で、進行胃がんは手術で取り除くことができます。
胃がんに限らずがんの手術は誰しも躊躇(ちゅうちょ)する気持ちを感じると思います。確かに手術は体に負担をかける治療です。手術のあとに痛みが出たり、がんと一緒に臓器を切除することで影響が残ったりすることもあります。心配になるのは無理もないことです。
しかし、誰でも手術を受ける機会が得られるわけではありません。手術ができる状態で発見できたことは幸運と言えるかもしれません。医師の立場から見ると、根治の可能性を見送ることはもったいないことに感じます。

手術後に行う抗がん剤治療は再発を予防することが目的です。術後補助化学療法、術後化学療法と言われることもあります。
進行した胃がんでは、目に見えないがん細胞がすでに小さな転移を起こしていることも想定されます。そのため進行した胃がんでは再発の危険性も高まります。そこで抗がん剤による再発予防のための治療が効果的になります。いわば手術の効果を最大限に高めるための仕上げという意味合いがあります。
抗がん剤治療には副作用もありますが、最近は副作用に対する治療も発達し、副作用をできるだけ抑えながら抗がん剤治療が行われるようになっています。そのうえで副作用よりも治療効果の価値が大きいと判断されたときにだけ抗がん剤治療が勧められます。
手術後の抗がん剤治療について詳しくは「手術前後の抗がん剤治療では何をする?」で解説しています。

胃から離れた場所に転移がある場合は手術が勧められません。
離れた場所というのは胃以外の臓器や胃の領域リンパ節以外のリンパ節です。領域リンパ節とは、胃がんが最初に転移する位置のリンパ節を指します。がんがリンパ節に転移するときは、隣り合ったリンパ節へと順々に広がっていきます。そのため、領域リンパ節にだけ転移があっても、ほかの場所に転移がなければ、手術で胃と領域リンパ節を取り除くことにより根治(がんを体からなくすこと)が可能と考えられます。
領域リンパ節以外のリンパ節や他の臓器に遠隔転移がある場合は、全身に目には見えない小さながん細胞が散らばっていると考えられます。このため、遠隔転移があれば全身をカバーできる抗がん剤などを中心にした治療のほうが理にかなっていると考えられます。
手術は身体に対して大きな負担になります。手術を行わないのには理由があります。手術をしなかったとしても現在は抗がん剤治療などが進歩しているので、症状を和らげながらがんと共存し、余命の延長を図ることも可能です。
手術できないと言われると「もうだめかもしれない」と感じてしまうかもしれません。しかし、手術のほかにも治療によって得られるものはあります。大事なことは自分の状況をしっかりと把握して、目の前の治療にしっかりと取り組んでいくことです。

胃がんの手術は縮小手術、定型手術、拡大手術の3つに分けられます。

  • 縮小手術
    • 噴門側胃切除 
    • 幽門保存胃切除 
  • 定型手術
    • 幽門側胃切除 
    • 胃全摘 
  • 拡大手術

縮小手術は、胃の3分の2以上を残す手術法です。対して定型手術は胃の3分の2以上を切除する手術です。それぞれできた場所によって大きく2つの方法があります。それぞれの手術に関しては後述します。拡大手術は胃がんが広い範囲に浸潤している時に行います。拡大手術はがんを取りきるために浸潤している臓器を合併切除したり、状況によっては転移している部分を切除します。拡大切除で合併切除する臓器は膵臓、脾臓、横行結腸、肝臓などです。

手術の方法は胃がんのステージをもとに選びます。ステージはがんの進行の度合いを分類したものです。ステージは胃壁内のがんの深さ、リンパ節転移の有無(ある場合はその個数)、遠隔転移の有無により決められています。ステージの決めかたと対応する治療法は表のとおりです。詳しくは「胃がんのステージとは?」で説明しています。

  N0 N1 N2 N3
T1a IA IB IIA IIB
内視鏡的切除または縮小手術 定型手術 定型手術 定型手術
T1b IA IB IIA IIB
縮小手術 定型手術 定型手術 定型手術
T2 IB IIA IIB IIIA
定型手術 定型手術 定型手術 定型手術
  抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
T3 IIA IIB IIIA IIIB
定型手術 定型手術 定型手術 定型手術
  抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
T4a IIB IIIA IIIB IIIC
定型手術 定型手術 定型手術 定型手術
抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
T4b IIIB IIIB IIIC IIIC
定型手術+合併切除 定型手術+合併切除 定型手術+合併切除 定型手術+合併切除
抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後) 抗がん剤治療(術後)
遠隔転移 IV
(抗がん剤治療、放射線療法、緩和手術、対症療法

表の記号は以下の状態に対応します。

T因子

  • TX:の浸潤の深さが不明なもの
  • T0:癌がない
  • T1:癌の局在が粘膜(M)または粘膜下組織(SM)にとどまるもの
    • T1a:癌が粘膜にとどまるもの
    • T1b:癌の浸潤が粘膜下組織にとどまるもの(SM)
  • T2:癌の浸潤が粘膜下組織を超えているが、固有筋層にとどまるもの(MP)
  • T3:癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
  • T4:癌の浸潤が漿膜表面に接しているかまたは露出、あるいは他臓器に及ぶもの
    • T4a:癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE)
    • T4b:癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI)

N因子

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明
  • N0:領域リンパ節に転移を認めない
  • N1 : 領域リンパ節に1-2個の転移を認める 
  • N2 : 領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める
  • N3:領域リンパ節に7個以上の転移を認める
    • N3a:領域リンパ節に7-15個の転移を認める
    • N3b:領域リンパ節に16個以上の転移を認める

噴門側胃切除(ふんもんそくいせつじょ)は、胃の入り口である噴門側つまり胃の上のほうを3分の1から4分の1程度切除します。縮小手術のひとつです。
噴門側胃切除後は胃液が食道に逆流する逆流性食道炎が起きやすくなります。
胃を切り取ったあとには、食べ物の通り道を作り直さなければなりません。これを再建と言います。噴門側胃切除後の再建には、残った胃(残胃)と食道を繋ぐ方法(食道残胃吻合法)や、小腸の一部である空腸で食道と残胃を繋ぐ方法(空腸間置法)があります。逆流性食道炎は空腸間置法の方が少ないと考えられていますが、食道残胃吻合法に比べて手術が複雑です。

幽門保存胃切除(ゆうもんほぞんいせつじょじゅつ)は、胃の出口にあたる幽門部の一部を温存する手術です。縮小手術として行われることがあります。幽門部の一部を残すことができれば十二指腸へ食べ物が流れ込まないための予防になるので、後述するダンピング症候群などが少ないと考えられています。幽門保存胃切除を行ったあとは胃の残った部分を繋ぎ合わせて再建を行います。

幽門側胃切除

幽門(ゆうもん)は胃の出口です。幽門側胃切除は胃の下のほうを3分の2から5分の4を切除します。幽門側胃切除は胃がんの手術の中ではもっとも多く行われている手術方法です。幽門を切除してしまうので、食べ物が十二指腸に一度に流れ込むことで起こる「ダンピング症候群」という後遺症が起きることがあります。胃を切除したあとは、後述するルーワイ法かビルロートI法によって食べ物が流れる道を再建します。

胃全摘

胃全摘は、胃の全てを切除する手術です。胃の機能が全て失われるので、後述する胃切除後症候群が手術後の後遺症として起きることがあります。胃全摘後の食べ物の流れはルーワイ法という方法で再建されることが多いです。

図:胃空腸吻合のイラスト。幽門の通過障害が現れた場合の姑息手術。

胃がんにより食べ物が通過できなくなっていて、遠隔転移もある場合などに、姑息手術(こそくしゅじゅつ)が検討されることがあります。
姑息手術とは、がんを取り切る目的ではなく、がんによって起こっている症状を改善する目的で行われる手術のことです。
胃がんに対する姑息手術として消化管バイパスがあります。
バイパスとは本来の道とは別の迂回路(うかいろ)を形成することです。消化管バイパスは、食べ物が胃の一部を迂回して小腸に通過できるようにする手術です。
口から入った固形物や液体は消化管を通って肛門に向かいます。消化管とは口から胃・腸を通って肛門まで食べ物が通過していく通り道のことです。
胃の出口である幽門部にできたがんが大きくなると、食べ物は胃から十二指腸へ通過できなくなります。幽門部のがんを手術で取り除ければ改善しますが、遠隔転移があるなどの理由で、がんを取り除く手術ができない場合があります。その時は胃と空腸(小腸の一部)を繋ぎ合わせてバイパスを形成します。

進行した胃がんの手術では膵臓(すいぞう)を胃とともに切除することがあります。胃と膵臓は近い距離にあります。がんが胃の壁を突き抜けて進行し、近くの膵臓に浸潤(しんじゅん)することがあります。
胃がんが膵臓に広がっていても遠隔転移とは呼びません。胃の領域リンパ節以外に転移がなければ、胃とともに膵臓の一部を切除することで根治を狙える場合があります。

脾臓(ひぞう)は胃の左上にある臓器です。胃がんの手術で脾臓を同時に摘出(てきしゅつ)することがあります。
脾臓を摘出する例として次のような場合があります。

  • 胃がんが脾臓に浸潤している
  • 胃の大弯線(だいわんせん)上に進行胃がんがある
  • 脾臓の近くのリンパ節に転移がある

大弯線とは、胃の脾臓に近い側(向かって右側)の輪郭にあたる線のことです。脾臓に近い場所の胃がんは、脾臓の近くのリンパ節に転移している可能性が高いと考えられます。
脾臓やその近くに広がっている可能性が高い進行胃がんに対しては、胃全摘除術と脾臓摘出が行われます。胃の大弯に浸潤しない胃がんに関しては、脾臓の温存が可能です。
脾臓を摘出した場合は、肺炎球菌による重い感染症にかかる確率が上昇します。予防のために肺炎球菌ワクチンの予防接種が勧められます。

参照:Ann Surg.2017;265:277-283

胃がんのリンパ節転移を取り除く目的で、リンパ節の郭清(かくせい)を行います。
リンパ節の郭清とは、ある範囲のリンパ節をまとめて切除することです。隠れたリンパ節転移を逃さず取り除くことが目的です。むやみにリンパ節を取るのではなく、取るべき場所を決めて郭清します。
多くの臓器には領域リンパ節というものがあります。臓器から流れ出したリンパ液が最初にたどり着くリンパ節が領域リンパ節です。正常な臓器からも、リンパ液はリンパ管という管を通ってリンパ節に流れ出しています。

胃がんは胃のリンパ管を破壊してリンパ管の中に入り込みます。がんがリンパ管に入り込むことをリンパ管侵襲と言います。リンパ管の中に入ったがん細胞はリンパ液と一緒に流れていきます。リンパ節はいわばリンパ液の関所の役目を担っているので、がん細胞がリンパ液に乗って流れてくると、リンパ節で食い止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

リンパ節転移は隣り合ったリンパ節へと順々に広がっていく特徴があります。最初のリンパ節転移は領域リンパ節に発生します。領域リンパ節を郭清して調べ、どこにもリンパ節転移がなければ、離れた場所にリンパ節転移がある可能性は低いと言えます。手術前には領域リンパ節に目に見えないリンパ節転移が隠れている可能性が否定できませんが、領域リンパ節を郭清することで、隠れたリンパ節転移がもしあっても取り除けることになります。

胃の領域リンパ節はD1(1群)とD2(2群)に分けられます。D1は比較的胃に近いリンパ節でD2はD1より胃から離れた位置にあるリンパ節です。縮小手術ではD1またはD1とD2の一部、定型手術ではD2までの範囲のリンパ節を郭清します。

胃を切除したあとは食べ物の流れる道を新しく作り直す必要があります。作り直すことを再建といいます。胃切除後の再建法はいくつかありますが、ここでは代表的なビルロートI法とルーワイ法を紹介します。

ビルロートI法

ビルロートI法(ビルロートいっぽう)は幽門側胃切除で行われる再建の方法です。Billroth I法とも書きます。ビルロートI法は残った胃と十二指腸をつなぎ合わせる方法です。食事の流れは胃を切除する前と同じ流れになります。ただし、幽門が失われています。幽門には本来、食べ物をせき止めて胃の中にためておき、少しずつ十二指腸に流す機能があります。幽門側胃切除では幽門部を切除するので、食べ物が胃に入ったあと胃にたまることなく一度に十二指腸に流れ込みます。すると後述するダンピング症候群が起きることがあります。ビルロートI法のほかにビルロートII法(にほう)という再建法もありますが、ビルロートII法では残った胃にがんができる(残胃がん)頻度が高くなることが知られているので日本ではあまり行われません。

ルーワイ法

ルーワイ法は、胃全摘後もしくは幽門側胃切除後の再建方法です。ルーワイ法は、食道(または噴門側の残胃)と空腸(小腸の一部)を繋ぎあわせます。さらに、十二指腸を一度切り離した後に空腸と吻合(ふんごう)します。吻合とは繋ぎ合わせることです。
食べ物は食道から空腸へ流れます。十二指腸を吻合する理由は、胆汁や膵液が流れてくる道とするためです。胆汁・膵液は空腸に流れていって食べ物と合流します。
ルーワイ法のメリットは、手術後の縫合不全(ほうごうふぜん)が少ないこと、胆汁や膵液の逆流も少ないことが挙げられます。ルーワイ法のデメリットは、手術後に内視鏡で十二指腸を観察することが難しくなること、胆石などができた時には治療が難しいことなどが挙げられます。手術後に起こる問題については後述します。
なお「ルーワイ」という言葉はフランス語のRoux-en-Yに由来します。「Roux氏によるY字型の手術」という意味です。食べ物が通る道と胆汁・膵液が通る道がY字型に合流することから名付けられています。Roux-en-Yをフランス語式に発音すると「ルー・アン・イグレック」ですが、英語ではYを英語式に読んで「ルー・アン・ワイ」、日本語では縮めて「ルーワイ」と読まれていることが多いです。カルテなどでは「Roux-en-Y法」または「Roux-Y法」と書かれていることもあります。

図:腹腔の概念のイラスト。

腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)は、お腹にいくつかの穴を開け、そこから腹腔鏡と鉗子(かんし)と呼ばれる長い道具を挿入して行う手術です。お腹に穴をまずひとつ開け二酸化炭素を注入してお腹の中(腹腔)を膨らませます。お腹を膨らませることにより手術をする空間ができます。内視鏡を挿入してお腹の中を観察します。お腹の中の様子はテレビの画面に映しだされます。その後、お腹にいくつか鉗子を挿入するための穴をあけます。穴が全て空いたところで鉗子を挿入し、お腹のなかでの操作を開始します。鉗子の先はマジックハンドのようになっており胃やその周りのものを切ったり掴んだりできます。腹腔鏡手術は、お腹に持続的に二酸化炭素を送り込むのでお腹の中の圧が高い状態になります。

腹腔鏡手術ではお腹の中の映像を拡大して見ながら操作ができます。また、体の表面につける傷が小さいので、手術後に痛みが少なく、手術後に体を動かしたりすることに有利に働きます。

腹腔鏡手術と開腹手術のどちらがよいかは一概に決められません。両者ともにメリットとデメリットがあります。

  メリット デメリット
開腹手術
  • 長年行われているので、治療としての実績がある
  • 直接人の手で触れながら手術をするので緊急事態に対応しやすい
  • 腹腔鏡手術に比べて手術時間が短いことが多い
  • 皮膚やお腹の筋肉を大きく切るので傷の痛みが大きい
  • 腹腔鏡手術より回復に時間を必要とする
  • 手術の痕が残る
腹腔鏡手術
  • 傷が小さいので手術後の回復が早い
  • 出血量が少ない
  • 入院期間が短縮される
  • 開腹手術と比べて手術時間が長い
  • 長期の手術成績が完全には出ていない

参照:J Clin Oncol.2014;32:627-633
開腹手術と腹腔鏡手術のどちらを使うにしても、胃を切除する範囲やリンパ節郭清の内容は同じなので、長期成績も変わりがないとする意見もあります。
また、いつも開腹手術か腹腔鏡手術かを選べるとは限りません。かなり進行したがんでほかの臓器の合併切除を行う場合などには、現在のところ腹腔鏡手術は難しいとされています。

腹腔鏡や胸腔鏡(きょうくうきょう)などを使ってする手術を鏡視下手術(きょうしかしゅじゅつ)といいます。内視鏡外科技術認定医は鏡視下手術を安全に高いレベルで行える医師に対して学会が与えている資格です。消化器・一般外科を始めとして泌尿器科、産婦人科などの様々な分野で認定医がいます。内視鏡外科技術認定医しか鏡視下手術を行えないわけではありませんが、腹腔鏡手術を受けたいと考えていて手術をする医療機関を探している人には参考になるかもしれません。内視鏡外科技術認定医は日本内視鏡外科学会のウェブサイトで氏名や在籍する医療機関などを検索できます。

参照:日本内視鏡外科学会

図:肝臓と胆嚢の解剖イラスト。

胃がんの手術時に胆嚢(たんのう)を摘出することがあります。手術後の胆嚢炎などを防ぐ目的があります。

胆嚢は胆汁を一時的に溜めておく袋です。胃を切除すると胆嚢を収縮させる神経を同時に切除することがあるので胆汁の流れが悪くなることがあります。胆汁の流れが悪くなると胆石ができることがあります。胆石ができると胆嚢炎胆管炎の原因になるので、手術の前に胆嚢に結石がある場合は胃がんの手術のときに胆嚢を摘出することがあります。

胆嚢を摘出しても胆石ができることはあります。胆管炎も完全に予防できるわけではありません。胆嚢を摘出したからといって絶対に安全とは言えません。

胃がんの手術のあとに発熱を伴う腹痛などがあるときには胆管炎や胆嚢炎の可能性があるので、すみやかに医療機関を受診することが大事です。

一生のうちに、手術を受ける機会は何度もあることではありません。初めて手術を受けるという人も少なくないでしょう。手術に対するイメージをあらかじめ明確にすることで、医療スタッフからの説明も理解しやすくなり、それが手術に対する不安や恐怖を和らげると思います。
この章では、手術室看護師の経験がある筆者が、手術をより具体的にイメージできるよう、手術について少し詳しく解説したいと思います。
 

手術室の中の様子について紹介します。
手術室は基本的に、清潔な状態を保つために、外部から遮断された閉鎖的な空間になっています。施設の規模によって差はありますが、比較的大きな施設では手術部内にいくつかの手術室が併設されており、複数の手術を同時進行でできるようになっています。

手術室の中へ入るには、徒歩、車椅子、ストレッチャー(移動用の小さいベッド)、病室のベッドなどの入室方法があり、病状や身体状況に応じて選択されます。胃がんの手術の場合は自分の足で歩いて手術室へ入室することが多いと思います。

手術室の中はどのような様子なのでしょうか。

手術室に入ると、まず目に入ってくるのが手術台です。手術台とは手術専用のベッドです。手術台は意外にも小さいので驚かれるかもしれません。手術台の周りには手術に必要な医療機器が数多く置かれています。天井には無影灯(むえいとう)と呼ばれる手術専用のライトが備え付けられており、手術台に仰向けに寝ると視界に入ってきます。

室内では、手術に関わる複数人のスタッフが手術の準備を進めています。医師や看護師だけでなく、臨床工学技士や放射線技師など、手術に応じて必要な専門スタッフが携わります。人が思いのほか多くてびっくりするかもしれませんが、いきなり何かをされることはありません。必ず「…をしますね」と教えてもらえるので安心してください。

どのような医療スタッフが、それぞれどのような役割を担って手術チームが構成されているのでしょうか。

まず、手術に医師は不可欠です。医師は医師でも、執刀医(手術を行う医師)や、必要に応じて麻酔科医(麻酔をかける医師)など、各々専門的な役割を担います。執刀医以外にも、手術の助手として複数人の医師が手術に参加します。

続いて、手術には看護師も不可欠です。手術の規模や施設の規模にもよりますが、胃がんの手術の場合には2名以上の看護師が携わります。看護師には、主に2つの役割があります。

1つは直接介助、もう1つは間接介助という役割です。

直接介助は、「器械出し看護師」「手洗いナース」などと呼ばれることがあります。主な役割は、手術に必要な器械を準備し、医師に渡したりすることです。よく医療ドラマなどで見られる、手術シーンで「メス!」と執刀医に言われてメスを渡す人が直接介助の看護師です。医師と同様に清潔なガウンと手袋を装着し、医師の横で一緒に手術部位を見ながら介助します。

間接介助は「外回り看護師」などと呼ばれ、手術を周りからサポートします。患者さんの状態の観察や処置、手術の進行に合わせた必要物品の準備、麻酔の介助、出血量のチェックなど、多岐にわたるサポートを行っています。

直接介助も間接介助も、患者さんが安全安楽に手術を受けられ、手術の傷以外に傷をつけずに無事手術を終えるという目標に対し、それぞれ違った角度からサポートしています。
 

手術が安全に迅速に進められるために、事前準備は念入りに行われます。
手術では多種多様な道具が使われていますが、これらの道具は、手術開始までに器械出し看護師(直接介助)が準備をします。どのような道具を使って手術が行われるのか、ほんの一部ですが簡単に解説します。
 

  • メス、ハサミ:手術において、切るという作業は必要不可欠です。例えば皮膚や取り除く臓器を切る時に使われるのがメスやハサミです。それぞれ、様々な形状があり、必要に応じて使い分けられています。
     
  • ピンセット:ピンセットは、「つまむ、はさむ」という用途で使われます。例えて言うと、ステーキを切る時にナイフだけでは肉が動いてしまって切れません。肉を押さえるためにフォークを使います。ピンセットはいわばフォークのような役割を果たします。何かをする時にそれをつまんだりはさんだりして補助するための道具です。
     
  • 針、糸:多くの場合、切ったら縫う必要があります。縫うというとお裁縫を想像すると思いますが、要領は同じです。手術用に使いやすいように応用された針や糸を使い、お裁縫のように縫います。針も糸も、多種多様な素材や形状、大きさのものが使われています。
     
  • 電気メス:電気メスとは、その名の通り電気の力で切るメスです。電気メスは、体内のあらゆる組織に用いられます。手術中に組織を切る作業のほとんどが電気メスで行われます。電気メスは手術に欠かせません。電気メスには、「切開」と「凝固」という作用があります。

 
ここで解説した道具たちは一部にすぎません。もっと膨大な種類の道具が使い分けられて手術が行われています。
 

ここまで手術室内に関する解説をしてきましたが、手術室以外でも手術のサポートは行われます。そのうちの一つに、術前訪問があります。
術前訪問とは、手術に参加する看護師が手術の前に手術を受ける患者さんと面会して、事前に説明や確認を行うものです。主に以下のような内容についてお話しします。

  • 自己紹介
  • 当日の流れの説明
  • 必要事項(アレルギーの有無、喫煙の有無、皮膚のトラブルの有無など)の確認
  • 手術によって起こり得る事象(長時間の同じ体勢による床ずれの発生、関節痛の出現など)のリスクの説明

これらは、手術の内容や患者さんの身体状況などに応じて臨機応変に内容が追加されます。
上記以外に、施設によっては有線放送で音楽が聞けたり、CD等の持ち込みが可能な場合もあるため、患者さんに希望を聞くこともあります。
 

術前訪問で患者さんにお会いすると様々な質問を受けますが、ここでよくある質問とそれに対する回答をいくつかご紹介します。

Q1.手術はどのくらいの時間がかかりますか?
A1.手術時間は術式(手術の方法、手術内容)によって異なります。予定手術時間は事前に伝えられますが、状況により延長したり早く終わったりします。また、単純に手術時間だけでなく、手術前の麻酔をかける時間や手術の準備をする時間、また、術後の処置や麻酔から目が覚めるまでの時間などが必要なため、予定手術時間よりもおおよそ1時間前後、もしくはそれ以上必要になります。手術時間が長くなると手術がうまくいかなかったと心配されるかもしれませんがそうではありません。手術は体型によってやりやすい、やりにくいなどがあるので手術後に医師から手術時間が伸びた理由などの説明をしっかり聞いてください。


Q2.麻酔が効かないことってありますか?
A2.基本的にありません。麻酔に対する効きやすさなどに個人差はありますが、麻酔の効果が出ずに痛いまま手術を行うことは絶対にありません。途中で目がさめることもまずありませんので安心してください


Q3.全身麻酔での手術が終わったあと、目が覚めないことってありますか?
A3.基本的にありません。麻酔薬の使用を中止すれば、目が覚めて意識が戻ってきます。基本的には手術室の中で目が覚め、呼吸が安定したのが確認されてから手術室を退室します。ただし、手術内容や患者さんの状態などによっては、必要に応じてあえて麻酔が効いたまま手術室から退室し、集中治療室に移動することはあります。


Q4.終わったあと痛いですか?
A4.手術によりますが、基本的に痛みはあると思います。しかし、痛みを無理に我慢する必要はありません。鎮痛剤などを使用して痛みのコントロールをするので、痛みが辛い場合は医療スタッフに我慢せず教えてください。胃がんの手術の場合は、背中からの麻酔(硬膜外麻酔)が入っていることが多いのでこの効果が切れてくると傷みが出てくるかもしれません。
 

手術を受けるにあたって様々な事前準備が必要ですが、必要な準備とその理由について解説します。

■禁煙
喫煙者は、手術前後の禁煙をしてください。喫煙は手術中やその後の障害の原因になります。例えば、タバコの影響で痰の量が増え、全身麻酔の呼吸管理に支障を来たします最低でも手術が決まったその日から禁煙することが望ましく、可能な限り長く禁煙することが大事です。


■入れ歯を外す
入れ歯を使用している人は、必ず術前に外してください。入れ歯をつけたままだと、全身麻酔の気管内挿管(呼吸を助けるチューブを口から気管に入れる処置)に支障を来したり、入れ歯が落っこちて喉の奥に入ってしまうなどの恐れがあります。
スタッフから確認があると思いますが、自分でも気をつけておくことが大事です。


■爪の装飾をとる
 マニキュア、ジェルネイル、付け爪など、爪の装飾品は取りましょう。手術中は、体の状態を観察するために、血圧、心拍数など様々な項目のモニタリングをします。その中に、血中酸素飽和度(けっちゅうさんそほうわど)という項目があります。これは呼吸機能が正常に働いているかを観察する項目です。血中酸素飽和度のモニタリングは、爪に専用の器械を装着して爪部分の動脈をセンサーで透かして測定するため、爪に装飾が付いていると正常な数値が測定できない場合があります。


■アクセサリーを外す
アクセサリー類は外してください。例えば、指輪は電気メスの使用により指をやけどしてしまう可能性があるなど、様々な原因で患者さんを傷つける原因となり得るため、必ず外してください。どうしても指輪が外れないなどでお困りの場合には、事前に医療スタッフにご相談ください。
手術前に医療スタッフから受ける説明や注意点などは、安全にスムーズに手術を受けるためにとても重要です。疑問点は積極的に質問し、理解した上で準備するようにしましょう。

ここまで手術前に知っておくと良い項目をいくつか解説してきました。ここでは、手術を受ける患者さんの気持ちに注目したいと思います。
手術を受けることになり、一度は手術を受けようと決心しても、手術を実際に受けるまでの期間で様々な心の変化が起きます。

  • 本当に手術を受けるべきなのか?
  • 他に治療法があるのでは?
  • 手術中に何かあったらどうしよう?
  • 一度は決心したけど、やっぱり怖い。

様々な思いが出ては消え、不安定な心境が続くかもしれません。もしかしたら手術から逃げ出したくなってしまうことがあるかもしれません。
そんな時、ひとつ思い出して欲しいことがあります。

様々な職種の医療スタッフが患者さんと関わりますが、みな手術を受ける患者さんがより安心、安全、安楽に手術を受けることができ、無事手術が終わって回復することを願ってサポートしています。
もし患者さんが誰にも相談できずに人知れず悩み、苦しんでいるとしたら、医療スタッフにとってこんなに残念なことはありません。もちろん家族や友人などに相談するのも良いと思いますが、医療スタッフにもぜひ相談してください。

医療スタッフは専門的な知識を持ち、多くの事例を経験しているからこそ、話を聞くだけでなく必要に応じて説明を加えたり、誤解を解いたり、疑問や不安を取り除くサポートができます。忙しそうだから話しかけづらいなどと気を使わず、逃げたくなる原因や不安の要素がはっきりしなくても、気軽に話しかけてその思いを教えて下さい。

また、患者会などのコミュニティもありますので、それらを活用するのも良いかもしれません。少しでも不安が取り除かれた状態で手術に望めるよう願っています。

朝から手術が始まったとして、次に目覚めるともうとっくに昼は過ぎているかもしれません。手術室に入り麻酔がかかり、意識が遠のいたと思ったら次の瞬間には「手術が終わりましたよ」という声で目覚めることになると思います。

手術の当日の夜はなかなか眠れないと思います。時計を何度も見て、なかなか時間が過ぎていかないことに驚く方もいます。手術当日はとにかくじっとして体を休めることに専念します。
手術後、1日目には検査結果などから問題ないと判断され、立位(立ち上がる)など最低限の動きを許可されることもあります。無理せずに少しずつ体を動かすことが重要です。いきなりは体が言うことを聞いてくれないものです。病院によってはICUで何日か過ごしたあとに一般病棟に帰ることもあります。

一般病棟では少しずつできる範囲で身の回りのことをやっていくことが体を回復させる近道です。まだドレーンなどの管がつながったままなので、無理は禁物です。その後順調であれば、少しずつ体の調子が上向いてきて管も一つ一つ外れていきます。
この時期までくれば少しずつ回復が実感できてきて、自信も出てくるかもしれません。無理は禁物ですが、少し負荷がかかる程度には病棟の中を歩いたりしてみてもいいでしょう。食事が始まっていれば、ゆっくりと食べるようにしてください。食事をたくさんとったからといっていきなり体力が回復するわけではありません。食欲がないのに無理に食べる必要はありません。むしろ食欲がないことは体の異変を知らせるサインかも知れません。体調が少し変だなと思ったりした場合には、担当医に積極的に聞いて不安を解消してください。

退院が近づいてきたら、退院後に注意するべきことをしっかりと質問して確認しておくことをお勧めします。退院日が決まったらその後の治療(抗がん剤治療)などについても理解を進めておくと治療に入っていきやすいと思います。

手術によって引き起こされる望ましくないことを合併症(がっぺいしょう)と言います。
手術後の合併症は手術後の早い時期に起きるものとしばらく時間を経過して起こるものがあります。ここでの合併症は早い時期に起きるものをさすことにします。しばらく時間を経過してから起こるものはここでは後遺症と呼ぶことにします。後遺症についてはあとで詳しく説明します。
合併症は、手術が上手くいったとしても一定の確率で起きてしまうものです。手術への準備として合併症についても頭に入れておくことは大事なことです。

胃を切除するときには、胃に流入する血管を切ります。血管は手術用の糸やクリップで血が出ないようにしてから切ります。手術は出血がないことを確認して終了しますが、まれに手術後に止血をしているはずの血管から出血することがあります。術後出血といいます。
術後出血はお腹の中に入っている管(ドレーン)や鼻から入れている管(経鼻胃管)から血が出ることで見つかります。特に手術直後に多いので、医師は管の色などを注意して観察しています。術後の出血はそのまま経過観察ができる場合もあれば輸血が必要になる場合や再手術が必要な場合もあります。

胃がんの手術では胃の全てまたは大半を切除します。その後は胃と腸を縫合して新しい食べ物の通り道を作り直す必要があります。縫合不全とは、繋いだ部分がうまくくっつかないことです。縫合不全は糖尿病やもともとの栄養状態が悪い場合などで起こりやすくなります。縫合不全は発熱や造影検査をきっかけに発見されます。縫合不全になった場合はしばらく食事をやめて縫合した部分がくっつくことを待ったり手術をすることもあります。

膵液は膵液が身体の中に漏れ出すことです。膵臓は膵液という消化液を作り分泌します。膵液は食べ物の消化吸収を助ける役割を果たします。膵液瘻は膵臓の周りのリンパ節の切除をしたり、膵臓の一部分を胃とともに切除した時に起きます。膵液は周りの臓器を溶かすことがあり、血管の壁を溶かして出血の原因にもなります。膵液瘻は発熱や腹痛などの症状を起こします。

膵液瘻が発生した場合は、膵液を体に溜まり続けたままにしておくことは危険です。このために膵液を体の外に抜くための管を挿入することもあります。

膵液瘻は程度によりますが、治るまでに時間がかかることがあります。十分に治るまで管は体の中に入れておき徐々に短くするなどの方法をとります。

肺炎は肺に細菌が感染して発熱などを起こすことです。無気肺は痰(たん)などが気管支に詰まって肺の一部が働かなくなることです。全身麻酔で手術を行うと一定の割合で肺炎無気肺が起きます。肺炎無気肺は喫煙者に多い傾向にあるので手術が決まった日から禁煙することが大事です。また手術後は身体を積極的に動かしたり呼吸器リハビリテーションを行うことで肺炎無気肺にならないように努めます。手術後は痛みがあって身体が自由に動かないのに身体を動かすように言われて、つらい思いをするかも知れませんがそれには理由があるのです。

腹部の手術を行うと一定の確率で腸が動かなくなる腸閉塞という合併症が発生します。腸閉塞イレウスと呼ぶことがあります。腸閉塞にはいくつかの分類があります。

手術の後によく起こるのは麻痺性腸閉塞です。手術による影響が腸管に及び、腸が動きを止めてしまうことが原因になります。一番気を付けなければならない腸閉塞は絞扼性腸閉塞です。絞扼性腸閉塞とは腸が捻(ねじ)れて腸への血流がなくなり腸が壊死する危険な状態です。この2つの腸閉塞を手術後に見分けることが重要です。腸閉塞は早期に対応する必要があるので手術後、医師は腹部の診察を繰り返し行い適宜レントゲン撮影などを行います。腸閉塞で手術の必要がない場合は食事を一時中止して腸を休ませます。

腸閉塞(麻痺性、閉塞性)の治療として以下のことを行います。

  • 食事を止める  
  • 経鼻胃管、またはイレウスチューブの挿入
  • 脱水を予防するために点滴を行う
  • 消化管の動きを良くする薬の内服や点滴

麻痺性腸閉塞や閉塞性腸閉塞では、腸を安静にするために食事を一時中止します。飲水は許可されることもありますが、脱水になりやすいので十分な点滴を行い、後述する経鼻胃管やイレウスチューブを鼻から胃や腸まで挿入して腸液を身体の外に出して腸管の負担を軽減します。また消化管の動きをよくする漢方薬(大建中湯)などを飲んで腸の動きが良くなるのを待ちます。

経鼻胃管は細長いチューブです。鼻から入れて胃まで挿入し、胃液を抜くことを行います。経鼻胃管のことをNGチューブ(nasogastric tube)と呼ぶ施設もあります。
イレウスチューブは経鼻胃管より長いもので先端が胃の先の腸まで到達することができます。

胃がんや大腸がんなどの消化器の外科手術後に注意すべき症状の一つに術後の腸閉塞があります。漢方薬の大建中湯は消化管運動を改善する効果を期待して使われることがあります。

大建中湯は乾姜(カンキョウ:生姜の根茎を乾燥したもの)、人参(ニンジン)、山椒(サンショウ)という3種類の生薬から構成されます。3種類とも食品などとしても比較的身近なものです。大建中湯は、一般的には「お腹や手足が冷えて腹痛、吐き気、腹部膨満感などがある」ような状態に適するとされています。

大建中湯は腸管血流量の増加作用や抗炎症作用などをあらわし、術後の腸閉塞腸閉塞による腹痛、膨満感などの改善に対して有用とされています。また神経伝達物質セロトニン系への作用、消化管ホルモンであるモチリンの分泌促進作用、知覚神経への作用などによって腸管収縮などを促すことで胃などの切除後に生じる消化管運動障害を改善する効果が期待できるとされています。

急性胃拡張は残った胃の動きが悪くなり食事や胃液が胃の中に溜まってしまって異常に胃が広がってしまうことです。腹痛、吐き気、嘔吐などの症状の原因になります。一時的に食事を中止したり、胃にチューブ(経鼻胃管)を挿入することで改善が期待できます。

創部(そうぶ)とは手術で切った傷のことです。手術ではお腹を切開します。手術中から抗生物質を使用して感染の予防に努めていますが、それでも創部についた細菌が増殖して感染を起こすことがあります。

創部感染が起こると、傷を開放したりしてを体の外に出す必要があるので、早めに抜糸をすることがあります。創部感染があっても、手術後の経過で体調が回復して栄養状態が改善されれば傷口に肉芽が盛り上がってきて傷が閉じます。創部感染は、患者さんから見やすい場所で起きる合併症なので心配になることもあると思いますが、一日一日、少しずつよくなっていきます。

せん妄譫妄、せんもう)とは、軽度から中等度の意識混濁に幻覚、妄想、興奮などの様々な精神症状をともなうものとされます。たとえば話しかけても反応が通常より悪くなり、見えないものが見えたり、妄想をしていると思われる発言が繰り返されたり、異常に興奮したりしている状態です。

せん妄は高齢者に起こりやすく、電解質のバランスが崩れることなども原因の一つで、手術などで身体にストレスが加わり環境が大きく変わることなども原因として知られています。

せん妄に対しては抗精神病薬に効果があるので使用します。あまりにもせん妄の状態が重度で患者さんや身の回りの人の身体に危険が及ぶと判断されたときには、やむをえず身動きができないようにすることがあります。これは手術後でドレーンなどの管が身体に入っているのを抜いたりすることを予防するためです。

せん妄は一時的なことが多く、身体の回復に伴い改善することが多いですが、頻繁にせん妄状態に陥るときには精神科の医師によって専門的な治療を開始されることがあります。

全ての合併症を予防することは難しいですが、いくつかは予防が可能です。以前は手術後は安静を保って身体を動かさないのが良いと考えられていましたが、近年はできる範囲で身体を動かして行くことで肺炎腸閉塞などの予防ができると考えられています。
以下が手術後の過ごし方のポイントです。

  • 咳や痰をしっかり出す
  • できるだけ身体を動かすようにする
  • 腹式呼吸を行う

患者さんの中には頑張り過ぎてしまう人もいますが、無理のない範囲で少し負荷がかかる程度が目安になります。手術後は毎日身体が変化していき回復していきます。少し頑張って身体の回復を助けてあげてください。

胃がんの手術後、時間を経過しておきる後遺症の中で特に胃切除後症候群について説明します。主には食事や栄養に関連した後遺症です。後遺症について詳しい知識を持つことで日常生活の不安は軽減すると思います。
胃切除後症候群には以下のようなものがあります。

  • 手術後早い時期に起きるもの
  • 手術後、時間が経って起きるもの
    • 胃切除後胆石
    • カルシウム吸収障害

以下でそれぞれを解説します。

ダンピング症候群は、胃を切除したために食べ物が一気に小腸に流れ込むことが原因で起こる様々な症状を指します。
ダンピングとはダンプカーが積荷などを一気に投げ下ろすことを表す言葉です。ダンピング症候群は、食事後すぐに起きるものと時間が経って起きるものがあり、それぞれを早期ダンピング症候群、後期ダンピング症候群と呼びます。以下ではやや専門的な説明を行います。難しいと感じる人は症状と食事法に注目してください。

早期ダンピング症候群は、食事後の30分程度で現れます。胃は食事をゆっくりと消化して小腸へ少しずつ運んでいきます。胃を切除すると食べ物が一気に腸へ流れ込みます。本来は胃で消化されゆっくりと運ばれてくる食べ物が一気に腸に入ると腸に濃度の高いものが運ばれてしまうのでそれを薄める方向に水分が移動するので腸の液が多く出ます。体の水分が腸液の分泌に使われてしまうので脈が早くなったり冷や汗などの症状がでることがあります。

早期ダンピング症候群では以下のような症状が現れます。

  • 冷や汗 
  • 頻脈(脈が早くなる)
  • 動悸(どうき)
  • めまい
  • 吐き気

早期ダンピング症候群は食事回数を増やして1回の食事量を減らしたりする工夫で改善することがあります。食事量に気を付けることが大事です。
 
後期ダンピング症候群は、食後の2-3時間で見られることが多く、インスリンの過剰分泌が原因です。インスリンは血糖値を下げるホルモンです。小腸に多くの糖分が入ってくるとそれを抑えようとしてインスリンが大量に放出されます。すると一時的に血糖値が下がり過ぎること(低血糖)が起きてしまいます。

後期ダンピング症候群では低血糖の症状が出ます。

  • 冷や汗
  • しびれ
  • めまい
  • 吐き気

後期ダンピング症候群は糖分(炭水化物)の量を少なくしてたんぱく質などを多く摂る食事で改善することがあります。何回か低血糖発作を起こしたことがある人は身体の変化で発作が起きそうと感じることがあります。低血糖発作が起きそうだと思ったら飴などを舐めて発作を予防することも大事です。

食べ物が腸に一気に流れ込むと神経の反射が起きて腸の動きが活発になることで下痢になります。
下痢が続くと身体の栄養が低下していきます。栄養価の高い食事を一回量を減らして回数を多くして食べることで改善することがあります。水の様な下痢が続くときには主治医に相談して下痢止めを使ったり他に原因がないかの確認を行うことが大事です。

下痢といっても少し柔らかい程度の便は胃がんの手術後の患者さんではよくあることです。多少の軟便は腸閉塞などの心配も少ないのでむしろ良いと考えられています。診察を受けるときにはどの程度の硬さなのか、回数は何回くらいなのかなどを伝えれば、気にする必要があるのかどうかを医師が判断しやすくなるでしょう。

胃の切除後は貧血になることがあります。胃酸が減少すると鉄の還元不足が起きて鉄の吸収が低下して鉄欠乏性貧血の原因になります。胃を切除するとビタミンB12という物質の吸収が悪くなります。ビタミンB12は赤血球を作る過程で重要な役割を果たしています。貧血の症状は動悸、息切れ、めまいなどです。胃を切除したあとの通院では、貧血の有無の確認や、必要に応じて適宜ビタミンB12を補うことが重視されます。

逆流性食道炎は噴門部切除後などに起きる合併症です。噴門部は胃の入り口です。胃酸が出て胃が蠕動(ぜんどう)している間は噴門部が締まって胃酸が食道に逆流しないようにしています。噴門部がなくなると胃酸の逆流が食道に起きて逆流性食道炎の原因になります。逆流性食道炎の症状は、胸焼けやみぞおちのあたりの痛みです。
胃切除後の逆流性食道炎は食事のあとにすぐに横にならないことで軽減できる場合があります。

胃を切除したあとに乳製品を飲むと下痢をしたり腹痛を起こす人がいます。胃酸が出ないことや腸内細菌の変化が原因として考えられます。乳糖不耐症が現れても乳製品を避ければ症状を防げます。乳製品に含まれるたんぱく質などはほかの食品で補うことができます。

胃切除を行う際に、がんを取りきるために胆嚢を収縮させる神経を同時に切除することがあります。胆嚢が収縮しなくなると胆汁がうっ滞して胆石ができやすくなります。胃切除後に胆石ができる可能性が高いと考えられる時には胃とともに胆嚢を摘出することがあります。

胃を切除するとカルシウムの吸収が十分ではなくなる人がいます。カルシウムが足りなくなると骨粗鬆症などが起きます。またカルシウムとともに骨を作るのに大事な役割を果たしているビタミンDの吸収も悪くなることがあるので、骨粗鬆症には十分な注意が必要です。

胃がんの手術後は食事にかなり気を配る必要があります。それほど胃は食事生活で重要な役割を果たしています。以下では食事方法の工夫などの提案をします。

胃は食べ物を消化して腸に運ぶ働きをしています。胃切除後ではこの役割が弱くなるので補わないといけません。まず食べ物をよく噛んで小さくすることが大事です。胃の役割を咀嚼(そしゃく)で補います。

胃は消化された食事を一時溜めておく働きもしています。胃切除を行った後では、この役割を補うのは難しいので、1回の食事量を減らして食事回数を増やし、少しずつに分けて食事をすることで対応できます。

胃切除後は食生活などを大きく変えていかなければなりません。食事に気を配ることは全身の栄養状態を把握することにもつながります。ぜひ工夫して自分にあった食事スタイルを見つけてください。

手術後は3ヶ月を目安に消化の良いものを中心に少量ずつ増やしていくことで、食べられるものが増えていきます。食べてはいけないものはありませんが、注意したほうがいいものもあります。

胃切除後の食べ物の例

食べても安心な食品 少しずつ始める食品 気をつけたい食べ物 特に気をつけたい食べ物
おかゆ
柔らかいご飯
うどん
パン

白身魚、鶏肉
豆腐
野菜
果物
エビ、カ二
納豆
のり、とろろ
脂肪の多い肉
コーヒー
刺激物
たけのこ
ラーメン
赤飯
もち
いか、たこ
炭酸飲料


手術後は油を控えてできるだけ消化のよいものを選ぶといいでしょう。調理法ではゆでる、煮る、蒸すなどがよいと思います。食事の回数も3食のままでは1回の量が多いので、5-6回(朝昼晩の3食+おやつ2-3回)としてみることをお勧めします。最初は食べられるもの少ないので単調と感じるかもしれませんが盛り付けなどで食欲が湧く工夫をすることも大事です。

手術後は無理は禁物です。体力をつけようと頑張りすぎて食事量を多くしたりする人もいますが、それは逆効果になることがあります。無理をしないことが大事です。家族が頑張って作ってくれたからという理由で食事を完食したはいいものの、その後気持ちが悪くなってしまうという人もいます。手術後は自分に新しい臓器ができたと思って少しずつ育てていくような気持ちで取り組んでみてください。

ほかに参考になる情報として、国立がん研究センターによるがん情報サービス「手術後の食事(胃、大腸)」には、成分ごとに説明があります。

食事は人生の喜びの一つです。胃がんになったからといって食事の楽しみを放棄するのはもったいないことです。がんじがらめに「こうでなくてはいけない」と決めてしまうのではなく、「どうやって食べると腸にも優しくて美味しく食べられるかな」という発想を持つのも良いことだと思います。

胃がんの手術の内容は人によってかなり違います。そのため入院期間や費用も異なります。大まかな例を示します。

  • 自己負担額で45-60万円前後
  • 入院期間10-21日

胃の他の臓器を合併切除した場合、腹腔鏡手術を行った場合など、金額や入院期間を変える要素はいろいろあります。高額な費用となった場合は、後述する高額療養費制度を利用すれば、一定金額以上の金額に対しては払い戻しがあります。費用面の負担で不安がある場合は手術が決まったらがん相談支援センターなどの相談窓口を利用して相談しておくことをお勧めします。

高額療養費制度とは、家計に応じて医療費の自己負担額に上限を決めている制度です。
医療機関の窓口において医療費の自己負担額を一度支払ったあとに、月ごとの支払いが自己負担限度額を超えた部分について、払い戻しがあります。払い戻しを受け取るまでに数か月かかることがあります。

たとえば70歳未満で標準報酬月額が28万円から50万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(総医療費-267,000円)×1%と定められています。それを超える医療費は払い戻しの対象になります。
この人で医療費が1,000,000円かかったとします。窓口で払う自己負担額は300,000円になります。この場合の自己負担限度額は80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。

払い戻される金額は300,000-87,430=212,570円となります。所得によって自己負担最高額は35,400円から252,600円+(総医療費-842,000円)×1%まで幅があります。
高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

胃がんの手術後は5年目までは定期的に通院して再発がないかを確認します。ステージによって通院間隔が異なります。下の表は一般的な通院スケジュールです。

胃がんステージⅠの術後検査スケジュール

胃がんステージⅡ・Ⅲの術後検査スケジュールステージII、IIIはステージIに比べて進行しているので再発する可能性が高く検査などの頻度も多くなります。手術のあとは再発を予防するための抗がん剤治療を手術後1年程度継続することが多いので、治療期間はこの表と違い、治療のため必要な日に通院することになります。
通院スケジュールは施設により異なるので、この例通りとは限りません。手術をした病院で確認してみてください。

名医の明確な定義はありません。それは、医師と患者の関係も人間同士の関わりなので、出会った医師を名医と呼べるかどうかは患者さん自身の考え方も大きく影響するからです。つまり名医はその人によって異なると考えられます。ここでは具体的な病院や医師の名前を挙げることはしませんが、胃がんの名医に出会う方法を考えてみたいと思います。

胃がんの治療は内視鏡治療、開腹手術(腹腔鏡手術を含む)、抗がん剤治療を状況によって使い分けます。これら全ての治療を同じ医師が担当することはありません。しかし胃がんの名医は自分の手で治療を行わなくてもそれぞれの治療に精通している必要があります。たとえば手術を担当する医師でも抗がん剤や内視鏡治療などに精通している医師であれば別の医師に治療を頼むことがあっても連携がスムーズにいくことが予想されます。

とはいえ、そのような知識を持ち合わせているかは一見するとわからないものです。知識の幅広い医師にたどり着くには、内視鏡治療や手術の数を参考にすることは有効な方法だと考えられます。治療実績の多い病院では患者が多く集まり判断が難しいケースも多く経験していることが予想されます。治療実績が多いことが名医であることを必ずしも意味しないことは注意が必要ですが、良い参考になると思います。

また医師とのコミュニケーションも重要視してください。友人の勧めや評判をもとにして名医と言われる医師の診察を受けたものの気が合わなかったりすることはありえることです。がん治療は医師とのコミュニケーションも重要です。性格が合う、話しやすいといった面も重要視して医師を選んでください。

最後に、医師選びは重要ですが、あまり長い時間をかけるべきではありません。がんは刻一刻と進行していきます。どこで治療を行うかを早く決めて治療を受けたほうが治療の効果が高いと考えられます。自分にとって大事だと思う点を見極めて決断することが重要です。