いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 326回の改訂 最終更新: 2024.11.08

胃がんで抗がん剤は使う?抗がん剤を使うタイミングについての解説

胃がんには抗がん剤の治療がいくつかの場面で登場します。手術の効果を高めるために手術の前後で行ったり、再発や転移をした場合は治療の中心になります。その場面で抗がん剤のもつ意味は少しずつ異なります。 

胃がんで抗がん剤治療を行うのは、3つの場面があります。

  • 手術前 
  • 手術後 
  • 再発・転移した場合

手術の前には胃がんを小さくして手術でがんを取りきる可能性を高めることが目的です。手術後は再発予防が目的です。再発・転移した場合は余命の延長が主な目的です。抗がん剤の方法は経口投与や注射、また期間も外来で可能なものから入院で行う必要があるものまで様々です。

胃がんに対する抗がん剤の使い方はいくつかあります。
抗がん剤治療を行う際に「レジメン」という言葉を耳にするかもしれません。レジメンとは使用する抗がん剤の種類や投与する量、期間、手順などを時間の流れで表した計画表のことです。抗がん剤のレジメンは臨床試験を経て効果が確認されたものです。胃がんにもいくつかのレジメンがあります。

標準的なレジメンをいつでも厳守しないといけないわけではありません。副作用が出た場合など、患者さんの状態に合わせて調整しながら治療が続けられます。またレジメンは行うタイミングで異なることがあります。つまりあるレジメンは手術前に行った時の効果が確認されていても手術後や再発時には効果が認められていないといったことがあります。

抗がん剤治療を考えるときに基本となる、治療を評価する方法を説明します。少し難しい内容ですが、抗がん剤の説明を理解するには大事なことです。

良い治療とは、効果が高く、副作用は少ない治療のことです。抗がん剤で言えば、再発を予防することや、再発や転移が見つかってからの余命を延ばすことが効果です。多くの人は、できるだけ効果が高く副作用は少ない抗がん剤を選びたいと考えるでしょう。

しかし治療の効果や副作用は人によってかなり違います。同じ「胃がん患者」と言っても体質や全身の状態、がんの状態などが一人一人違っているからです。そのため抗がん剤を使って期待通りの効果が出るかどうか、副作用が出ないかどうかは使ってみなければわからない部分があります。

とはいえ、何も予測できないわけではありません。似た状態の患者さんが大勢試して平均的に良い結果が出ていれば、平均に近い結果が得られる確率は高いと予想できます。

治療の結果を予測するために、実際にその治療を使ったときの結果が証拠(エビデンス)として使われます。現代の医療では、患者さんが置かれた状況や個人の価値観、また医師の経験などを適切に治療に反映させるために、十分な証拠をもとに判断するという考え方が普及しています。根拠に基づく医療(EBM;Evidence-based Medicine)とも言われます。

治療についての証拠として、臨床試験(りんしょうしけん)の情報が重視されます。また、臨床試験などの証拠を積み上げた結果、その時点で多くの人にとって最善と思われた治療は標準治療と呼ばれます。

抗がん剤の治療を説明する上では、臨床試験と標準治療という2つの言葉が鍵となります。

抗がん剤を例にとって説明します。臨床試験は、抗がん剤の効果や副作用を、実際に患者さんの治療に使うことで確かめる試験です。新しい治療の効果が認められるには臨床試験が必要です。特に新しい薬の開発のために、まだ保険で承認されていない薬を試す臨床試験は治験(ちけん)とも言います。
古い治療と新しい治療のどちらを選ぶべきかにも臨床試験が役立ちます。実際に両方の治療を試してどちらかが優れた結果を出せば、そちらを優先して使うべきかもしれません。もちろん新しい治療が優れているとは限りません。

標準治療が選ばれるまでには多くの臨床試験による情報が参照されています。

臨床試験では多くの場合、評価したい治療をほかの治療(既存の治療または有効成分のない偽薬など)と比較します。どちらが良い結果になったか、あるいは同等だったかによって、以後の治療選択の根拠とすることができます。つまり、同等ならばどちらを選んでもよいと判断できますし、どちらかが良い結果を出していればそちらを選ぶことができます。たとえば「抗がん剤Aを使うと抗がん剤Bに比べて生存期間が3か月延長した」「AとBは生存期間がほとんど同じであった」といった結果が、効果や副作用の証拠として残ります。

ここで注意するべき点は、臨床試験の中でも一人一人の結果には差があるということです。「生存期間が延長した」と言っても、全員が同じように長く生きたという意味ではありません。あくまで平均的な数値を比べています。実際の治療に使うときも同じです。平均的には生存期間を延ばすと期待される薬を使っても、予想よりはるかに長く生きる人もいれば、早く亡くなってしまう人もいます。このように一人一人の結果は比較しにくいので、大勢の患者さんが臨床試験に参加して、統計的に結果を比較されます。

さらに、臨床試験の状況と実際の治療の状況はぴったり当てはまるとは限りません。患者さんの年齢、性別、病気の状態、全体的な体力などはもちろん、治療を行う人、その施設の環境、その施設がある地域の状況など、現実にはさまざまな要素が臨床試験とは違ってきます。
臨床試験の情報は大切ですが、それが実際の目の前の状況に当てはまっているかどうかはそのつど考えなければなりません。また、一人一人の結果は統計的な数値から離れる場合もあります。臨床試験はあくまで成功する確率を高めるための情報です。あまり細かい数値にまでこだわってしまうのは、情報の受け取りかたとして適切とは言えません。

標準治療とは、実際に多くの患者さんが治療を受けた結果に基づいて、効果があると判断された治療です。根拠とされる情報にはもちろん臨床試験も含まれますが、少数の事例の報告なども加味されます。
標準治療という名前からは「平凡な治療」ということを想像されるかもしれません。しかし決してそうではありません。標準治療とは、過去に知られた情報を積み重ねた結果に基づくものなので、最も確実で安全な治療と言い換えることもできます。

つまり標準治療でない治療は、標準治療よりも何かの点で効果と安全性の証拠が弱いと言えます。たとえば「最新治療」は「最も優れた治療」という意味ではありません。最新治療として始まった治療が多くの人に使われ、実際に効果と安全性を示し続けることによって、標準治療に取り込まれるかどうかが決まっていきます。「先進医療」という用語もありますが、先進医療も同様に、誰にでも勧められるものではありません。

胃がんの内視鏡治療とは?」「胃がんの手術はどんな手術?」のページでは、現在標準治療とみなされているものを取り上げて説明していきます。