いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 325回の改訂 最終更新: 2022.10.17

スキルス胃がんについて:症状や、生存率、治療法

スキルス胃がんは胃がんの一種です。胃の壁の中で広がるので進行すると胃が固くなって発見されることがあり、進行が早いなどの特徴があります。普通の胃がんと同じように手術で治療できます。 

スキルス(scirrhous)はギリシア語で硬いという意味です。スキルス胃がんの特徴のひとつは進行が早いことです。
スキルス胃がんの組織を顕微鏡で観察すると、未分化型がんや印環細胞がんという分類に当てはまります。未分化型がんや印環細胞がんは、細胞同士の接着が弱いという特徴があります。正常な胃の組織では、細胞同士は互いに強い力で接着して、一定の構造を維持しています。対して未分化型がんや印環細胞がんの細胞は元の場所からパラパラ離れて胃の壁の中で広がっていく性質をもっています。「染み出すように広がる」と例えられることもあります。
このような特徴をもつスキルス胃がんは胃の粘膜の下に隠れて広がることがあります。内視鏡では粘膜の表面しか見えないので、スキルス胃がんがあっても正常な粘膜や胃炎と区別が難しい場合があります。

スキルス胃がんの症状は、吐き気、食思不振、体重減少などです。
スキルス胃がんは胃の壁の中で広がっていきます。進行すると胃の壁の多くががんに侵されている状態になります。その状態では胃は固くなり、胃が広がらなくなったりします。そのため少ししか食べられなくなる場合があります。

スキルス胃がんの生存率は胃がんの中でも比較的低いと言われます。統計上は、スキルス胃がんになる人は少ないので、スキルス胃がんだけを集計した報告は多くはありませんが、研究結果を一つ紹介します。

  スキルス胃がん その他の胃がん
人数(人) 5年生存率(%) 人数 5年生存率(%)
ステージI 8 85.70% 59 88.20%
ステージII 25 30.40% 46 51.80%
ステージIII 51 6.30% 48 48.30%
ステージIV 98 4.90% 88 10.70%
合計 182 12.50% 241 67.30%

参照:Am J Surg.2004;188:327-332

これは過去の検討で、全員が手術をしています。ステージは数字が大きくなるほど進行していることを表します。スキルス胃がんのほうがその他の胃がんに比べて進行して発見されることが多く、生存率も高くない傾向があります。
この研究は2000年代前半の報告なので、抗がん剤や診断方法が進歩している現在では、この数値を上回っている可能性があります。スキルス胃がんと診断されると経過が厳しいことも予想されますが、ステージIVで見つかってもできることはあるので、お医者さんとしっかり相談してみてください。

胃がんのステージはIからIVの4つに大きく分類されます。ステージは「胃でのがんの深さ」、「リンパ節転移の有無・個数」、「遠隔転移の有無」の3つの因子の組み合わせで決定します。つまり、スキルス胃がんと普通の胃がんでステージの決め方が変わることはありません。
詳しくは「胃がんのステージとは?」で詳しく説明しているので参考にしてください。

スキルス胃がんの原因はわかっていません。胃がんの家族歴やピロリ菌の感染などの関連が推定されていますが、はっきりとはしていません。また、遺伝子などについても研究中です。

スキルス胃がんは顕微鏡で観察すると未分化型がんというもので構成されています。未分化型がんの全てがスキルス胃がんになるわけではありませんが、未分化型がんの一部がスキルス胃がんの原因になります。未分化型がんはピロリ菌が感染しているまたは過去に感染が合ったことを示すピロリ菌抗体価が高いほどその発生の危険性が高まることが報告されています。ピロリ菌に感染している人の全員がスキルス胃がんになるわけではありませんが、スキルス胃がんの原因となる未分化型がんとは強い関連がありそうです。
参考:Acta Oncol.2008;47:360-5

スキルス胃がんと遺伝子変異が関係しているとする研究が進んでいます。具体的には、CDH1という遺伝子の変異によってスキルス胃がんが発生しやすくなることがわかっています。しかし、親がスキルス胃がんになったから子どももなるというほどはっきりした遺伝はあ現在のところ確認されていません。

参考:JAMA Oncol 2015;1:23-32
 

スキルス胃がんは通常の検査ではスキルス胃がんは胃粘膜の下で広がるので胃の粘膜を観察する内視鏡検査ではわかりづらいことがあります。

レントゲンX線写真)はスキルス胃がんの検査でもあります。レントゲンだけでスキルス胃がんかどうかを正確に判断することはできませんが、さらに詳しい検査を進める上での手がかりとなる情報が得られます。
胃をレントゲンで撮影するには造影剤を使います。造影剤はレントゲンで白く写る物質です。造影剤を胃の中に入れておくことによって、レントゲンに胃の形が写ります。造影剤として、硫酸バリウムという物質をヨーグルトのような溶液に混ぜたものが使われます。造影剤を飲んで体を回転させるなどして胃の壁に造影剤を付着させたうえ撮影します。検査後に造影剤は便と一緒に排泄されます。
バリウムを含む造影剤を使うことから「バリウム検査」あるいは「上部消化管造影検査」とも呼ばれます。消化管とは口から肛門まで管状につながった食べ物の通り道のことで、上部消化管とは食道、胃、十二指腸を指します。
上部消化管造影検査では放射線の一種であるX線を体に当てます。特に透視をしている時間は持続して放射線を浴びることになります。透視とはX線によって体の中を連続した映像として写し出す検査方法です。レントゲンと同じような白黒の画像が動いて見えます。放射線被曝の危険性を最小限にとどめる観点から、透視の時間はなるべく短くします。
スキルス胃がんがある場合、レントゲンでは胃が通常より固くなっている様子や太いしわ(ひだ)などが見えることがあります。こうした特徴が見つかった時は、スキルス胃がんを念頭においてその後の検査を行うことになります。

超音波検査は放射線を使わずに簡単にできる検査なので、いろいろな場面で行われます。しかし、空気の多い場所は画像に写りにくいという弱点があります。胃の中は空気が入っているのでお腹から超音波検査で調べるには向いていません。
お腹から当てる超音波検査では胃がんの診断は難しいですが、腹水の有無や血管の位置関係などを把握するために使うことがあります。

胃カメラ上部消化管内視鏡)は胃がんの診断には欠かせない検査です。胃の組織を取り出して調べることもできます。
進行したスキルス胃がんがあると、胃が固くなり、胃カメラでしめ縄状に連続したひだが見られることがあります。しかし、スキルス胃がんは胃カメラで見つけにくい場合があります。
スキルス胃がんは胃の粘膜の下で進行していきます。粘膜には潰瘍などの変化を表さないことがあります。すると胃の粘膜を観察する内視鏡検査では一見正常な粘膜しか見えず、スキルス胃がんを診断できない場合があります。
しかし、スキルス胃がんが疑われる場合でも、胃カメラによって組織を取り出すことができる点は非常に重要です。次に説明します。

胃カメラの先は小さな器具を送り出して操作できるようにできています。胃の壁から組織を切り取ることもできます。体の組織を取り出して調べる検査を生体検査と言います。
生検では、組織を顕微鏡で観察して、正常な胃の組織と違った特徴がないかを調べます。生検は1個1個の細胞の特徴や細胞の並びかたなど多くの情報が得られ、最も信頼性の高い検査です。
生体検査で胃がんが見つかれば胃がんの診断が確定します。スキルス胃がんの診断にも生検は非常に重要です。

内視鏡の先に超音波を出す機械が取り付けられたものです。胃の中から超音波を当てることで、胃の中の空気に邪魔されず、胃の壁の中の様子を画像に写し出すことができます。胃がんの深さなどを判断するのに適しています。

CT検査は全身から転移を探すために行います。リンパ節転移や遠隔転移がないかを判断します。
CTは放射線を使って身体の中身を画像にすることができます。造影剤を注射することでよりはっきりと臓器を写し出せます。

PET(ペット)検査は画像検査で、放射線を使います。PET/CTはPETとCTを組み合わせた検査です。胃がんの検査としてはいずれも必須ではありません。
PET検査は、がん細胞が通常の細胞に比べて糖分を活発に取り込むことを利用した検査です。FDG(フルオロデオキシグルコース)という物質を使います。FDGは糖(グルコース)に似た物質です。FDGが取り込まれた場所では放射線が発生します。発生した放射線を利用して画像を撮影することができます。PET検査を行うときにはFDGを点滴で体の中に注入してから撮影します。FDGから出る放射線が多く検出される場所を陽性とします。
胃の中の病変を評価する目的でPETを使うことは少ないですが、離れた場所に転移が疑われるものがある場合にはその評価を目的としてPET検査が行われる場合があります。
PET検査の弱点として、画像で陽性のものが必ずしもがんとは限りません。炎症などでも陽性になります。

MRIは磁気を利用して体の中を撮影する検査です。放射線は使いません。体の中に金属製品(ペースメーカーなど)を植え込んでいる人にはできない場合があります。
胃がんが進行すると膵臓などに浸潤することがあります。MRI検査は膵臓などの周りの臓器への浸潤などを判断するのに適しています。MRI検査もCTと同じように造影剤を使うことがあります。

審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)はお腹の中(腹腔内)にがんの転移があるかを判断するための検査です。スキルス胃がんは通常の胃がんと比べて腹膜播種(ふくまくはしゅ)の危険性が高いと考えられているので審査腹腔鏡の効果が高いとも考えられます。
審査腹腔鏡を行うことで、腹膜播種の有無がよりはっきりと診断できます。腹膜播種や小さな肝臓転移はCTなどの画像検査と比較しても審査腹腔鏡のほうが診断能力が高いと考えられています。
腹膜播種がある場合は手術で胃を切除しても根治は難しいです。腹膜播種がある場合は全身にまだ見えない小さながんの転移があると考え、抗がん剤治療で全身をカバーするほうが理にかなっているので、基本的には胃を切除することはありません。
また、審査腹腔鏡で転移が認められなかったときは、後日に仕切り直して手術を行う場合と、その場で開腹手術に移行して治療を行う場合があります。

スキルス胃がんの治療は原則として普通の胃がんと同じです。領域リンパ節以外に転移がなければ、手術によって胃と周りのリンパ節を切除して、根治(がんを体からなくすこと)を目標に治療します。手術の方法は、胃を全て切除する胃全摘除術、もしくは幽門側胃切除術が検討されます。手術で切除したがんの状態を見て再発予防目的の抗がん剤治療を検討します。
胃がんの手術について詳しくは「胃がんの手術はどんな手術?」、抗がん剤治療については「手術前後の抗がん剤治療では何をする?」で説明しているので、参考にしてください。

スキルス胃がんの症状は通常の胃がんとほとんど変わりはありません。

【胃がんの治療】

  • 腹痛 
  • 体重減少 
  • 食思不振 
  • みぞおちのあたりの不快感 
  • お腹に塊を触れる(腹部腫瘤感(ふくぶしゅりゅうかん)) 
  • からだがだるい感じ(全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん))

通常の胃がんに比べて異なるのは、スキルス胃がんは症状が出にくい点です。これらの症状がひとつも表れないままスキルス胃がんが進行している場合もあります。もちろんこれらの症状の多くはほかの原因でもよく現れるものです。特に40歳未満の人では、腹部腫瘤感以外のいくつかに当てはまったとしても、最初に疑うべき原因はスキルス胃がんではありません。

スキルス胃がんも通常の胃がんと同様に初期の症状は乏しいです。また、スキルス胃がんは胃の粘膜の下で広がるので症状が出にくいと考えられます。
しかしながら、症状がないうちから検査をしてもスキルス胃がんの早期発見に結び付くとは言い難いのが現状です。ただ、スキルス胃がんは比較的まれな病気なので、知り合いなどがスキルス胃がんになって自分も心配になったとしても、将来スキルス胃がんになる確率は低いと言えます。

スキルス胃がんは胃の粘膜の下で広がり、進行すると胃が固くなることがあります。胃が固くなると、膨らみにくくなるので、食事の量が減少し、結果として体重が減少したりします。
また、スキルス胃がんがかなり進行して腹膜播種(ふくまくはしゅ)を起こす場合もあります。普通の胃がんでも腹膜播種はありますが、スキルス胃がんは特に腹膜播種を起こしやすいとされます。腹膜播種が起こると、腹水が溜まってお腹が張ります。

腹水とはお腹の中に液体が溜まった状態です。
お腹の中には腸などの隙間に腹腔(ふくくう)というスペースがあります。腹腔にがん細胞が散らばってしまうことを腹膜播種といいます。腹膜播種がおきると散らばったがん細胞が炎症を起こして液体を出します。この液体が腹水です。腹水が溜まっていくと動けないくらいにお腹が張ることもあります。
腹水は利尿剤などで症状が少し緩和されることもありますが効果には限界があります。腹水による症状が強くなれば針を刺すなどして腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。