いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 326回の改訂 最終更新: 2024.11.08

胃がんの内視鏡治療とは?治療の方法、入院期間、費用などの解説

早期胃がんは内視鏡での治療が可能です。内視鏡で治療を行うにはいくつかの条件がありますが、内視鏡治療は手術に比べて体への負担が小さいので利点も大きいです。胃がんの内視鏡治療について解説します。 

胃がんに対する内視鏡治療のメリット・デメリットについて解説します。
なお、ここでは口から入れる内視鏡を使った治療について説明します。腹腔鏡(ふくくうきょう)も広い意味では内視鏡の一種ですが、腹腔鏡手術はお腹に穴を開ける手術であり、このページで説明する内視鏡治療とはまったく違います。

内視鏡治療による体への負担は手術と比べ物にならないほど軽いと言えます。麻酔も点滴によるものだけで済むことが多いので、手術室よりも簡単な設備の処置室で行われる場合がほとんどです。短期間の入院で治療が完了することも魅力です。

内視鏡治療に特有の合併症としては、胃の壁に穴があく、出血などがあります。
合併症とは治療にともなって起こる問題のことです。治療が上手くいったとしても合併症はある程度の確率で起こります。

胃に穴があくことを穿孔(せんこう)と言います。実際に胃に穿孔が起きた場合は、ほとんどが内視鏡用に作られたクリップで塞いで対処できます。
内視鏡治療のあとに出血を起こすこともあります。
治療後に出血する人の割合は5%、穿孔は3%前後と報告されています。

合併症のほか、内視鏡治療後に追加の治療が必要になる場合があります。
内視鏡治療で切除したものは、病理検査に提出します。病理検査は、顕微鏡などを使って取り出した組織を観察する検査です。病理検査により、狙い通り十分に切除できているかを検討します。
病理検査で、切除が十分ではない、あるいは治療前の評価より進行しているといった結果が出ることがあります。この場合は、追加で内視鏡治療を行うか、手術を行う必要があると判断されることもあります。

胃がんの内視鏡治療はESDとEMRという2つの方法があります。ESDはendoscopic submucosal dissectionの略です。日本語では内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)と言います。EMRはendoscopic mucosal resectionの略です。日本語では内視鏡的粘膜切除術(ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ)といいます。

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

ESDは、胃の粘膜にとどまっているがんを取り除くため、粘膜の下にある粘膜下層の深さまで切り取る治療です。

内視鏡を入れて、まずがんの周りに針で印を付けます。次に粘膜下層に生理食塩水を注入して病変を隆起させます。がんの周囲に電気メスで切開を加えていきます。がんの周りを一周切開したところで粘膜下層を電気メスで剥がしていきます(剥離)。切開した範囲の全体を剥離してがんを切り取ります。
切り取った組織の中には、正常組織に包まれてがんがあります。実はこの時点では、切り取ったものが本当に胃がんだったのか、また切り取った範囲の外にがんが残っていないかは確実にはわかりません。

内視鏡で見てわかることには限界があります。正確に判断するには病理検査が必要です。切り取ったものを病理検査に提出し、十分な切除ができているかを確認します。

EMR(内視鏡的粘膜切除術)

EMRは、胃の粘膜にとどまっているがんを取り除くため、粘膜の深さで組織を切り取る治療です。ESDよりも浅い層で切り取ります。
粘膜下層に生理食水を注入してがんを隆起させます。浮き上がったがんの周りを円状のワイヤー(スネア)で挟み込み、がんを含む組織を締め上げて切除します。
切除した組織を病理検査に提出し十分に切除できているかを確認します。

胃の内視鏡治療の主流はESDです。ESDはEMRに比べて病変を完全に切除できる可能性が高いと考えられています。
内視鏡治療は現在強く勧められる対象(適応)よりも多くの場合に有効ではないかという考えがあります。実際に対象範囲を拡大する試みも施設によっては行われています。適応拡大にあたる場合はESDを行うことが「胃癌に対するESD/EMRガイドライン」でも勧められています。
参照:胃癌に対するESD/EMRガイドライン

内視鏡治療で切除した組織を顕微鏡で観察して追加治療が必要かを判断します。切除した組織を細かくスライスしてくまなく観察します。次のような点をチェックします。

  • リンパ管にがんが入り込んでいない
  • 血管にがんが入り込んでいない
  • 水平方向でがんが十分に取り切れている
  • 垂直方向でがんが十分に取り切れている

血管やリンパ管にがんが入り込んでいると、リンパ節や他の場所へ転移している可能性があるので、追加で内視鏡治療や手術が必要と判断されることがあります。
内視鏡治療後の外来では、追加治療が必要かどうかをしっかり聞くことが大事です。

ステージIの中でも条件に合う場合に内視鏡治療が勧められます。がんが粘膜という一番浅い位置にとどまっていてリンパ節転移の可能性が低いことが条件です。この条件を満たすかどうかは、病理学的検査の結果(組織型)や内視鏡検査での見た目(潰瘍の有無や大きさなど)などによって総合的に判断がなされます。「胃癌に対するESD/EMRガイドライン(第2版)」では、下記の特徴のある病変への内視鏡治療が勧められています。

【粘膜内胃がんの内視鏡治療適応】

  • 組織型が分化型がんで、内視鏡検査にて潰瘍が見当たらない(大きさは問わない)
  • 組織型が分化型がんで、内視鏡でみると潰瘍があって3cm以下

  • 組織型が未分化がんで、内視鏡で潰瘍が見当たらなくて大きさが2cm以下

ここで言う潰瘍とは粘膜の深い傷またはその傷痕のことです。傷が開いていれば、クレーターのように凹んだ形をしていることが多く、治癒して傷痕となると粘膜がひきつれて見えることが多いです。

上記の条件に当てはまらず、より進行した状態が疑われても、開腹手術や腹腔鏡手術に耐えられる体力がないときなどには、内視鏡治療が選択されることがあります

内視鏡治療のあとは、全身の状態が問題なければ治療した日からトイレに行ったり身の周りのことをするなどの動作ができます。2日目から食事を開始することが多いです。軽い違和感や痛みを感じることがあります。

治療後に気をつけたいのは、胃に穴が開いてしまったり(穿孔)、出血が起きることです。治療中には穿孔や出血がないことを確認して終了しますが、その後に穿孔や出血が起きることはあり得ることです。
穿孔や出血に自覚症状で気づく場合もあります。お腹が痛い、張った感じがする、発熱といった症状を感じたときは医療従事者に伝えてください。胃からの出血により便の色が黒くなることもあります。治療後は治療の影響で黒い便が出ることが多いですが、通常は元に戻ります。治療後しばらくしてから黒い便が現れた場合などには注意が必要です。

退院後の最初の外来で切除したがんの状態についての説明があります。切除した組織を病理検査で調べた結果が大事です。

病理検査でがんが切除できていると判断された場合には、経過観察を行うことになります。胃がんが違う場所に再発することがあるので年に1-2回は内視鏡検査を行います。内視鏡治療後に胃がんが治療した場所とは別の場所に発生することがあります。ピロリ菌に感染していることが確認された場合は再発を予防するために除菌が提案されます。ピロリ菌を除菌することで内視鏡治療後の胃がんの再発率が低下することが可能性が示唆されているためです。医師と相談して除菌をするかどうかを相談してみてください。ピロリ菌の除菌をすると必ず再発しない訳ではないので治療後も定期的な内視鏡検査を受けることが大事です。

病理検査の結果、がんの切除が不十分であったり、がんが治療前より進行しているとわかった場合は、再度ESDや手術を勧められることがあります。
参照:Lancet.2008;372:392-7

胃がんの内視鏡治療の費用は全額を負担した場合は40-50万円前後です。このうち3割の自己負担とすると、15万円前後が自己負担額になります。

支払った金額が一定の額を超えると返還される制度があります。高額療養費制度といいます。
胃がんの内視鏡治療の入院期間は1週間程度であることが多いです。入院期間は治療を受ける施設でも変わるので、治療を受ける前に聞いておくといいでしょう。もちろんどんな場合にも、治療後に状態が悪化するなどして入院が長引くことが絶対にないとは言えません。

高額療養費制度とは、家計に応じて医療費の自己負担額に上限を決めている制度です。
医療機関の窓口において医療費の自己負担額を一度支払ったあとに、月ごとの支払いが自己負担限度額を超える部分について払い戻しがあります。払い戻しを受け取るまでに数か月かかることがあります。

たとえば70歳未満で標準報酬月額が28万円から50万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(医療費-267,000円)×1%と定められています。それを超える医療費は払い戻しの対象になります。個室代などは対象となりません。

例として医療費が1,000,000円かかったとします。窓口で払う自己負担額は300,000円になります。この場合の自己負担限度額は80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。そこで、払い戻される金額は300,000-87,430=212,570円となります。

所得によって自己負担限度額は35,400円から252,600円+(医療費-842,000円)×1%まで幅があります。
高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

参照:高額療養費制度を利用される皆さまへ(厚生労働省)