胃がんの内視鏡治療とは?治療の方法、入院期間、費用などの解説
早期胃がんは
1. 内視鏡治療のメリット・デメリット
胃がんに対する内視鏡治療のメリット・デメリットについて解説します。
なお、ここでは口から入れる内視鏡を使った治療について説明します。
内視鏡治療のメリット
内視鏡治療による体への負担は手術と比べ物にならないほど軽いと言えます。麻酔も点滴によるものだけで済むことが多いので、手術室よりも簡単な設備の処置室で行われる場合がほとんどです。短期間の入院で治療が完了することも魅力です。
内視鏡治療のデメリット
内視鏡治療に特有の
合併症とは治療にともなって起こる問題のことです。治療が上手くいったとしても合併症はある程度の確率で起こります。
胃に穴があくことを
内視鏡治療のあとに出血を起こすこともあります。
治療後に出血する人の割合は5%、穿孔は3%前後と報告されています。
合併症のほか、内視鏡治療後に追加の治療が必要になる場合があります。
内視鏡治療で切除したものは、病理検査に提出します。病理検査は、顕微鏡などを使って取り出した組織を観察する検査です。病理検査により、狙い通り十分に切除できているかを検討します。
病理検査で、切除が十分ではない、あるいは治療前の評価より進行しているといった結果が出ることがあります。この場合は、追加で内視鏡治療を行うか、手術を行う必要があると判断されることもあります。
2. 胃がんの内視鏡治療はどんな治療?
胃がんの内視鏡治療はESDとEMRという2つの方法があります。ESDはendoscopic submucosal dissectionの略です。日本語では内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)と言います。EMRはendoscopic mucosal resectionの略です。日本語では内視鏡的粘膜切除術(ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ)といいます。
ESDとは?
ESDは、胃の粘膜にとどまっている
内視鏡を入れて、まずがんの周りに針で印を付けます。次に粘膜下層に生理食塩水を注入して
切り取った組織の中には、正常組織に包まれてがんがあります。実はこの時点では、切り取ったものが本当に胃がんだったのか、また切り取った範囲の外にがんが残っていないかは確実にはわかりません。
内視鏡で見てわかることには限界があります。正確に判断するには病理検査が必要です。切り取ったものを病理検査に提出し、十分な切除ができているかを確認します。
EMRとは?
EMRは、胃の粘膜にとどまっているがんを取り除くため、粘膜の深さで組織を切り取る治療です。ESDよりも浅い層で切り取ります。
粘膜下層に生理食水を注入してがんを隆起させます。浮き上がったがんの周りを円状のワイヤー(スネア)で挟み込み、がんを含む組織を締め上げて切除します。
切除した組織を病理検査に提出し十分に切除できているかを確認します。
ESDとEMRはどちらがいい?
胃の内視鏡治療の主流はESDです。ESDはEMRに比べて病変を完全に切除できる可能性が高いと考えられています。
内視鏡治療は現在強く勧められる対象(適応)よりも多くの場合に有効ではないかという考えがあります。実際に対象範囲を拡大する試みも施設によっては行われています。適応拡大にあたる場合はESDを行うことが「胃癌に対するESD/EMR
参照:胃癌に対するESD/EMRガイドライン
内視鏡治療でがんが取り切れたかはどうやってわかる?
内視鏡治療で切除した組織を顕微鏡で観察して追加治療が必要かを判断します。切除した組織を細かくスライスしてくまなく観察します。次のような点をチェックします。
- リンパ管にがんが入り込んでいない
- 血管にがんが入り込んでいない
- 水平方向でがんが十分に取り切れている
- 垂直方向でがんが十分に取り切れている
血管やリンパ管にがんが入り込んでいると、
内視鏡治療後の外来では、追加治療が必要かどうかをしっかり聞くことが大事です。
3. 内視鏡治療をするのはどんな時?
【粘膜内胃がんの内視鏡治療適応】
- 組織型が分化型がんで、内視鏡検査にて潰瘍が見当たらない(大きさは問わない)
-
組織型が分化型がんで、内視鏡でみると潰瘍があって3cm以下
-
組織型が未分化がんで、内視鏡で潰瘍が見当たらなくて大きさが2cm以下
ここで言う潰瘍とは粘膜の深い傷またはその傷痕のことです。傷が開いていれば、クレーターのように凹んだ形をしていることが多く、
上記の条件に当てはまらず、より進行した状態が疑われても、開腹手術や腹腔鏡手術に耐えられる体力がないときなどには、内視鏡治療が選択されることがあります。
4. 内視鏡治療の経過は?
内視鏡治療のあとは、全身の状態が問題なければ治療した日からトイレに行ったり身の周りのことをするなどの動作ができます。2日目から食事を開始することが多いです。軽い違和感や痛みを感じることがあります。
治療後に気をつけたいのは、胃に穴が開いてしまったり(穿孔)、出血が起きることです。治療中には穿孔や出血がないことを確認して終了しますが、その後に穿孔や出血が起きることはあり得ることです。
穿孔や出血に自覚
退院後の最初の外来で切除したがんの状態についての説明があります。切除した組織を病理検査で調べた結果が大事です。
病理検査でがんが切除できていると判断された場合には、
病理検査の結果、がんの切除が不十分であったり、がんが治療前より進行しているとわかった場合は、再度ESDや手術を勧められることがあります。
参照:Lancet.2008;372:392-7
5. 胃がんの内視鏡治療の費用と入院期間は?
胃がんの内視鏡治療の費用は全額を負担した場合は40-50万円前後です。このうち3割の自己負担とすると、15万円前後が自己負担額になります。
支払った金額が一定の額を超えると返還される制度があります。高額療養費制度といいます。
胃がんの内視鏡治療の入院期間は1週間程度であることが多いです。入院期間は治療を受ける施設でも変わるので、治療を受ける前に聞いておくといいでしょう。もちろんどんな場合にも、治療後に状態が悪化するなどして入院が長引くことが絶対にないとは言えません。
高額療養費制度とは?
高額療養費制度とは、家計に応じて医療費の自己負担額に上限を決めている制度です。
医療機関の窓口において医療費の自己負担額を一度支払ったあとに、月ごとの支払いが自己負担限度額を超える部分について払い戻しがあります。払い戻しを受け取るまでに数か月かかることがあります。
たとえば70歳未満で標準報酬月額が28万円から50万円の人では、1か月の自己負担限度額が80,100円+(医療費-267,000円)×1%と定められています。それを超える医療費は払い戻しの対象になります。個室代などは対象となりません。
例として医療費が1,000,000円かかったとします。窓口で払う自己負担額は300,000円になります。この場合の自己負担限度額は80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円となります。そこで、払い戻される金額は300,000-87,430=212,570円となります。
所得によって自己負担限度額は35,400円から252,600円+(医療費-842,000円)×1%まで幅があります。
高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。