胃がんの初期はどんな状態?早期胃がんの発見から治療までの流れ
胃がんに初期
目次
1. 胃がんに初期症状はある?
胃がんにだけ特徴的な症状はないと考えられています。つまりこの症状があれば胃がんが強く疑われるというものはありません。特に早期胃がんの段階では症状がない場合が多いです。
胃がんで出ることがある症状の例を挙げます。
- 腹痛
- 体重減少
- 食思不振
- みぞおちのあたりの不快感
- お腹に塊を触れる(腹部腫瘤感(ふくぶしゅりゅうかん))
- からだがだるい感じ(全身
倦怠感 (ぜんしんけんたいかん)) - 嘔吐
- 血を吐く(
吐血 (とけつ))
胃がんの症状は多様です。胃がんの症状で多いのは腹痛ですが、腹痛は
かなり進行した状態の胃がんが吐血をきっかけに発見されることもあります。
2. 内視鏡で初期の胃がんを発見できる?
3. 胃がんのステージとは?
胃がんの
4. ステージ分類の方法とは?
がんの大きな特徴のひとつが
がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。
胃がんのステージを決めるには、原発巣の状態(T因子)、リンパ節転移(N因子)、遠隔転移(M因子)の3点を評価します。3点の組み合わせによってがんの状態をステージに分類します。
以下では基準として使われている専門用語をそのまま紹介しますが、続きを理解するには詳細にこだわる必要はありません。
参考:胃癌取扱い規約 第14版
T因子
TはTumor(腫瘍)の頭文字です。T因子は胃壁でのがんの深さを表しています。がんがもともと発生した場所のことを原発巣(げんぱつそう)と言います。T因子は原発巣の評価です。
胃がんの多くは、胃の内側の粘膜の表面から発生して、胃の壁の中に深く潜り込むように成長します。がんが隣り合った組織に入り込みながら広がることを浸潤(しんじゅん)と言います。
胃がんのT因子はがんが胃の壁に浸潤する深さで決定されます。粘膜下組織までの浸潤例は早期がん、固有筋層より深い浸潤例は進行がんと定義されます。
- TX:
癌 の浸潤の深さが不明なもの - T0:癌がない
- T1:癌の局在が粘膜(M)または粘膜下組織(SM)にとどまるもの
- T1a:癌が粘膜にとどまるもの
- T1b:癌の浸潤が粘膜下組織にとどまるもの(SM)
- T2:癌の浸潤が粘膜下組織を超えているが、固有筋層にとどまるもの(MP)
- T3:癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
- T4:癌の浸潤が漿膜表面に接しているかまたは露出、あるいは他臓器に及ぶもの
- T4a:癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE)
- T4b:癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI)
N因子
N因子はリンパ節転移についての評価です。Nは
がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。リンパ節が大きくなる原因にはがん以外にも
がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することでがんを体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、全身
- NX:領域リンパ節転移の有無が不明
- N0:領域リンパ節に転移を認めない
- N1 : 領域リンパ節に1-2個の転移を認める
- N2 : 領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める
- N3:領域リンパ節に7個以上の転移を認める
- N3a:領域リンパ節に7-15個の転移を認める
- N3b:領域リンパ節に16個以上の転移を認める
領域リンパ節とは?
がん細胞が最初の段階でたどり着くリンパ節を領域リンパ節と呼びます。臓器ごとに領域リンパ節の場所は決まっています。胃では胃に近い場所のリンパ節が領域リンパ節です。
領域リンパ節のみの転移であれば領域リンパ節を切除することで全てのがん細胞を体から取り除く可能性が残されています。領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少なく、全身化学療法(抗がん剤)が検討されます。
治療前にリンパ節転移を評価するにはCT検査が使われます。
胃がんにおける領域リンパ節には以下の番号と名前がついています。名前を覚える必要はありませんが、リンパ節が場所によって細かく分類されていることの例として挙げておきます。
番号 | 名称 |
1 | 右噴門 |
2 | 左噴門 |
3a | 小弯(左胃動脈に沿う) |
3b | 小弯(右胃動脈に沿う) |
4sa | 大弯左群(短胃動脈に沿う) |
4sb | 大弯左群(左胃大網動脈に沿う) |
4d | 大弯左群(右胃大網動脈に沿う) |
5 | 幽門上 |
6 |
幽門下 |
7 | 左胃動脈幹 |
8a |
総肝動脈幹前上部 |
8p | 総肝動脈後部 |
9 | 腹腔動脈周囲 |
10 | 脾門 |
11p | 脾動脈幹近位 |
11d | 脾動脈幹遠位 |
12a | 肝十二指腸間膜内(肝動脈に沿う) |
12b | 肝十二指腸間膜内( |
12p | 肝十二指腸間膜内(門脈に沿う) |
14v | 上腸間膜静脈に沿う |
領域リンパ節転移があっても遠隔転移がなければ多くの場合は手術の効果が期待できます。領域リンパ節転移が手術前から見つかっているか、隠れている可能性が疑われる場合には、手術の際にリンパ節郭清(かくせい)を行います。
郭清とは、決まった範囲の領域リンパ節をまとめて取り除くことです。リンパ節郭清により、領域リンパ節の中に小さな転移が隠れていたとしても、一緒に取り除くことができます。
M因子
M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。胃から離れた臓器に胃がんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。
遠隔転移がある胃がんは、手術が勧められません。余命の延長を目的とした全身化学療法(
- Mx:領域リンパ節以外の転移の有無が不明である
- M0:領域リンパ節以外に転移を認めない
- M1:領域リンパ節以外の転移を認める
ステージの決め方
T因子、N因子、M因子をそれぞれ評価したところでステージを定めます。3つの因子とステージは下の表のように対応します。
N0 | N1 | N2 | N3 | M1 | |
T1a(M)、T1b(M) | IA | IB | IIA | IIB | IV |
T2(MP) | IB | IIA | IIB | IIIA | IV |
T3(SS) | IIA | IIB | IIIA | IIIB | IV |
T4a | IIB | IIIA | IIIB | IIIC | IV |
T4b | IIIB | IIIB | IIIC | IIIC | IV |
5. 早期胃がんの治療は?
早期胃がんの定義は、胃がんが粘膜下層にとどまる状態です。早期胃がんの全てに対して内視鏡治療が行えるわけではありません。早期胃がんでも状態によっては手術が必要になります。
もっとも早い段階は、粘膜にがんが留まっている状態です。そのなかでも、リンパ節転移の可能性が低いと判断される
【粘膜内胃がんの内視鏡治療適応】
-
組織型が分化型がんで、内視鏡検査にて潰瘍が見当たらない(大きさは問わない)
-
組織型が分化型がんで、内視鏡でみると潰瘍があって、3cm以下
-
組織型が未分化がんで、内視鏡で潰瘍が見当たらなくて大きさが2cm以下
ここで言う潰瘍とは、粘膜の深い傷またはその傷痕のことです。傷が開いていれば、クレーターのように凹んだ形をしていることが多く、
内視鏡治療は手術に比べて格段に身体を傷付けることが少ない治療です。切り取る範囲が非常に狭く済むのは、それで十分がんを取り切れることがわかっているからです。内視鏡では治療が十分ではないと判断された場合は手術を行います。リンパ節転移の可能性が低く筋層までがんが及ばないときは定型手術よりリンパ節郭清の範囲が小さい縮小手術で治療が可能です。
縮小手術の内容は、切除範囲が胃の3分の2未満でリンパ節郭清の範囲がD1またはD2の一部です。縮小手術は定型手術と比較すると胃を切除する範囲とリンパ節郭清の範囲が狭いです。広くがんを切除すれば治療の効果は高まると考えられますがその分身体への負担も大きくなります。早期胃がんの場合は、縮小手術と狭い範囲のリンパ節郭清で治療は十分だと考えられています。
6. 胃がんは初期で見つければ完治する?
胃がんと診断された患者さんの生存率はステージごとに集計されています。「がんの統計 2022」として公表されている資料を参考にして説明します。まず
ステージ | 5年生存率(%) |
ステージ I | 96.0 |
ステージ II | 69.2 |
ステージ III | 41.9 |
ステージ IV | 6.3 |
解説をします。
5年生存率とは、胃がんと診断されてから5年後に生存している人の割合を指します。この生存率は胃がんと診断された時点のステージ分類をもとに集計した結果です。
胃がんの初期には明確な定義はありませんが、ここではステージIを初期の段階として話を進めます。初期の段階での生存率は進行した場合に比べて高いといえますが100%ではありません。がんの治療には100%治ったと考えるケースはあまりありません。治療後、何年たっても再発の可能性はあります。それだけに治療後は定期的な通院が大切です。再発の確率はしだいに下がっていきますので、ある程度の年数が過ぎたところで主治医は「通院をやめてもいい」と判断するかもしれません。それは再発の確率が低いのでそれからは通院の負担を減らすほうが生活のために良いという判断です。
がんと診断された場合には、どうしても生存率に目が行きがちです。しかしそれは、胃がんと診断された人を大きく4つに分類して統計がとられただけに過ぎません。人それぞれ顔が異なるようにがんの性質も異なり、個性があります。生存率は一つの目安として考えても良いかもしれませんが、あくまでも目安です。自分の状態に向き合い行える治療について考え日々を大事に過ごしていくことが大事だと思います。