いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 325回の改訂 最終更新: 2022.10.17

胃がんのステージIIIはどんな状態?治療法、余命などについて解説

胃がんのステージIIIはかなり進行した状態です。しかし遠隔転移がないので、手術によってがんを切除することも可能です。ステージIIIといっても多くの状態があります。ステージIIIの治療などを解説します。

ステージは「胃でのがんの深さ」「リンパ節転移の有無や個数」「遠隔転移の有無」の3つの要素で決まりますが、ステージIIIはいずれも遠隔転移がありません。
ステージIIIはさらにIIIA、IIIB、IIICの3つに分かれます。それぞれについて詳しく説明します。

ステージIIIAにあてはまるのは以下の3つの状態です。

  • ステージIIIA(1)
    • 胃でのがんの深さ:の浸潤が粘膜下組織を超えてはいるが、固有筋層にとどまるもの(MP)
    • リンパ節転移:領域リンパ節に7個以上の転移を認める
    • 遠隔転移:なし
  • ステージIIIA(2)
    • 胃でのがんの深さ:癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
    • リンパ節転移:領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める
    • 遠隔転移:なし
  • ステージIIIA(3)
    • 胃でのがんの深さ:癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE)
    • リンパ節転移:領域リンパ節に1-2個の転移を認める
    • 遠隔転移:なし

上のとおり細かい基準が決められていますが、大まかには「がんが粘膜下組織よりも深く浸潤していて、いくつかの領域リンパ節転移がある」という状態がステージIIIAにあたります。

ステージIIIBにあてはまるのは以下の4つの状態です。

  • ステージIIIB(1) 
    • 胃でのがんの深さ :癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS) 
    • リンパ節転移:領域リンパ節に7個以上の転移を認める 
    • 遠隔転移  :なし
  • ステージIIIB(2)
    • 胃でのがんの深さ :癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE) 
    • リンパ節転移:領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める 
    • 遠隔転移  :なし
  • ステージIIIB(3)
    • 胃でのがんの深さ :癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI) 
    • リンパ節転移:なし 
    • 遠隔転移  :なし
  • ステージIIIB(4)
    • 胃でのがんの深さ :癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI) 
    • リンパ節転移:領域リンパ節に1-2個の転移を認める 
    • 遠隔転移  :なし

大まかにまとめると、「がんが固有筋層よりも深く浸潤していて、いくつかの領域リンパ節転移があ状態」もしくは「がんが浸潤して直接ほかの臓器にまで及んでいる状態」がステージIIIBです。

ステージIIICにあてはまるのは以下の3つの状態です。

  • ステージIIIC(1) 
    • 胃でのがんの深さ :癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE) 
    • リンパ節転移:領域リンパ節に7個以上の転移を認める 
    • 遠隔転移  :なし
  • ステージIIIC(2)
    • 胃でのがんの深さ :癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI) 
    • リンパ節転移:領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める 
    • 遠隔転移  :なし
  • ステージIIIC(3)
    • 胃でのがんの深さ :癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI) 
    • リンパ節転移:領域リンパ節に7個以上の転移を認める 
    • 遠隔転移  :なし

大まかには「がんが直接ほかの臓器まで浸潤していて領域リンパ節転移も3個以上ある状態」か「がんが直接ほかの臓器に浸潤してないものの、領域リンパ節転移が7個以上ある状態」がステージIIICです。

ここまでステージIIIの状態について説明してきましたが、他のステージの違いを説明します。
がんの特徴のひとつが転移を起こすことです。転移とは、がんが発生した場所とは違うところに移動して大きくなることです。発生した場所のがんを原発巣(げんぱつそう)と言い、転移によってできたがんを転移巣(てんいそう)と言います。
がんの進行度を判定するには、原発巣と転移巣の両方を考えに入れる必要があります。

ステージは「胃でのがんの深さ(T因子)」「リンパ節転移(N因子)」「遠隔転移(M因子)」の3つの組み合わせによってがんの進行度を評価したものです。
基準として使われている専門用語をそのまま紹介しますが、続きを理解するには詳細にこだわる必要はないので、読み飛ばしてください。

参考:
胃癌取扱い規約 第14版

TはTumor(腫瘍)の頭文字をとったものです。胃でのがんの深さを表しています。粘膜下までの浸潤例はT1で早期がん、固有筋層より深い浸潤例は進行がんと定義されます。

  • TX:癌の浸潤の深さが不明なもの
  • T0:癌がない
  • T1:癌の局在が粘膜(M)または粘膜下組織(SM)にとどまるもの
  • T1a:癌が粘膜にとどまるもの
  • T1b:癌の浸潤が粘膜下組織にとどまるもの(SM)
  • T2:癌の浸潤が粘膜下組織を超えてはいるが、固有筋層にとどまるもの(MP)
  • T3:癌の浸潤が固有筋層を超えているが、漿膜下組織にとどまるもの(SS)
  • T4:癌の浸潤が漿膜表面に接しているかまたは露出、あるいは他臓器に及ぶもの
    • T4a:癌の浸潤が漿膜表面に接しているか、またはこれを破って遊離腹腔内に露出しているもの(SE)
    • T4b:癌の浸潤が直接他臓器までおよぶもの(SI)

がんは周りの組織を破壊していく性質を持っています。浸潤とはがん細胞が隣り合った正常組織を破壊しながら中に入り込んで広がっていくことです。深い範囲に浸潤を認めるほど進行していると判断されます。

N因子はリンパ節転移についての評価です。Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。
がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管(リンパ液が流れる管)の壁を破壊し中に侵入します。リンパ管にはところどころにリンパ節という関所のような役割をするものがあります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。リンパ節転移があるとリンパ節は硬く大きくなります。
がん細胞が最初の段階でたどり着くことが多いリンパ節を、領域リンパ節と呼びます。領域リンパ節のみの転移であれば、領域リンパ節を切除すればがんを身体から取り除ける可能性があります。一方で領域リンパ節以外のリンパ節に転移をしている場合は、手術で取り切れる可能性は少ないので、抗がん剤治療が検討されます。

  • NX:領域リンパ節転移の有無が不明
  • N0:領域リンパ節に転移を認めない
  • N1 : 領域リンパ節に1-2個の転移を認める 
  • N2 : 領域リンパ節に3-6 個のリンパ節転移を認める
  • N3:領域リンパ節に7個以上の転移を認める
    • N3a:領域リンパ節に7-15個の転移を認める
    • N3b:領域リンパ節に16個以上の転移を認める

M因子は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。がんが発生した場所から領域リンパ節を除く場所に移動して、増殖することを遠隔転移と言います。ちなみに領域リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。遠隔転移がある胃がんは手術をしても効果が小さいので、勧められることはほとんどありません。治療は余命の延長を目的とした抗がん剤治療が検討されます。

  • Mx:領域リンパ節以外の転移の有無が不明である
  • M0:領域リンパ節以外に転移を認めない
  • M1:領域リンパ節以外の転移を認める

T因子、N因子、M因子をそれぞれ評価したところでステージを定めます。ステージの決め方は下の表のとおりです。ステージIIIAからステージIIICの3つがステージIIIです。

  N0    N1  N2 N3 M1
T1a(M)、T1b(M) IA IB IIA IIB IV
T2(MP) IB IIA IIB IIIA IV
T3(SS) IIA IIB IIIA IIIB IV
T4a IIB IIIA IIIB IIIC IV
T4b IIIB IIIB IIIC IIIC IV

胃がんのステージIIIの治療は一般的には手術と手術後の抗がん剤治療です。抗がん剤治療には手術後の再発を防ぐ目的があります。

胃がんのステージIIIで行われる手術は定型手術もしくは拡大手術と呼ばれるものです。定型手術は、胃の3分の2以上を切除してD2領域のリンパ節郭清する方法のことで、一方で拡大手術は、胃の3分の2以上を切除してD2領域より広い範囲のリンパ節を郭清し、がんが浸潤している臓器(脾臓、膵臓、大腸など)を合併切除する方法です。
胃がんのステージIIIはさらにIIIA、IIIB、IIICの3つに分類されますが、それぞれのステージと手術法の対応は以下のようになります。

  • ステージIIIA:定型手術
  • ステージIIIB:定型手術または拡大切除
  • ステージIIIC:拡大手術

ステージIIIBでは状態に応じて定型手術か拡大手術かが選ばれます。周囲の臓器に浸潤がなければ定型手術が行われることが多いです。拡大手術は浸潤している臓器によっても手術の方法が異なります。
手術について詳しくは「胃がんの手術はどんな手術?」で説明しているので、参考にしてください。

ステージIIIは再発が起こりやすいので、予防のために抗がん剤治療が行われます。抗がん剤治療により再発率が低下することが分かっています。抗がん剤治療については「手術前後の抗がん剤治療では何をする?」で説明しています。

「がんの統計 ’22」によると、ステージIIIの胃がんを診断された人の5年生存率は41.9%とのことです。5年生存率が41.9%と聞くと、低いと感じるかもしれません。「がんの統計 ’22」は2012-2013年に診断された人々の結果を集計したものです。当時と現在の間には、手術後の再発を予防する抗がん剤治療の進歩があるので、今は生存率が向上している可能性があります。
また、ここで示した数字はあくまでもステージIIIと診断された人全体の傾向を示しているものに過ぎません。数字の受け止めかたは人それぞれでことなりますが、ステージIIIと診断されたからといって、「5年は生きられないだろう」と思い詰めてしまうことはありません。実際に5年を超えて生存している人はいますし、余命の予測事態が困難なことです。生存率や余命が気になる気持ちは理解できますが、数字にとらわれすぎるのではなく、自分の状態や今後予定されている治療や検査などを前向きに取り組むようにしてください。

ステージIIIでも状況は多様であり、その後の経過を予想するのは簡単ではありません。完治の目安として5年生存率や5年無再発率を使って説明されることがあります。
「がんの統計 ’21」では、ステージIIIの胃がんで手術を受けた人々の5年生存率は51.0%でした。がんは治療後も常に再発の可能性がありますが、治療後5年を経過すれば完治に近いと考えられることが多いです。

高齢者であっても胃がんの治療方針は変わりません。ステージIIIといわれた場合の治療は手術が中心です。
ただし、高齢者はもともと身体機能が低下している場合や、ほかに持病がある場合もあります。手術を受けるにあたっては十分な注意が必要になります。

高齢者で問題になりやすい点の例を挙げます。

  • 心臓や肺の機能が年齢とともに低下している 
  • 筋力が低下している
  • 持病(併存症)を抱えていることが多い 
  • 免疫力が低下して感染症にかかりやすい

高齢者の中には高齢とは思えないほど身体の状態が良好な人もいますが、多くの人はなんらかの問題を抱えています。高齢者が手術を受けるにあたって注意をすべきことを考えます。

手術の前にするべきことは、医師の言うことをしっかりと聞いて理解し、ぬかりない準備を進めておくことです。具体的に言うと、喫煙者であれば禁煙するべきです。手術の前からリハビリを意識して、できる範囲で身体を動かしておくとよいです。
また、栄養を付けておくことも大事です、手術後はしばらく食事をとることができません。もし食事が進まないのであれば栄養価の高い飲み物を処方してもらえますので、相談してみてください。
手術前には身の回りの環境を整えておくようにしてください。退院後は家事や選択など身の周りのことを自分や家族がしなければなりません。自分や家族の力だけでは難しく、在宅支援が必要な人は手術前に準備をしておいください。

手術後は手術を受ける前のように身体が動きません。手術後は無理をせずできる範囲で、身体を動かして慣らしていくようにしてください。ベッドの上で過度に安静にすることは身体にとって良いことではありません。寝た状態が長く続くと、肺炎腸閉塞などの危険性が上昇すると考えられています。手術後は身体に管が数本入っています。無理に身体を動かして管が抜けるといけないので、慣れるまではスタッフに声をかけてから身体を動かしてください。