ステージIVは末期がんなのか?胃がんが転移した場合の症状、診断、治療
胃がんは進行すると
目次
1. 胃がんが転移するとどんな症状が出る?
胃がんの転移と一口に言っても、起こることは人によって大きく違います。離れた臓器に転移(
遠隔転移がある状態は
2. 胃がんで転移があったらどんな状態?
胃がんの転移は、2つに分けて考えます。それは領域
リンパ節転移とは?
がんは周囲の組織に侵入しながら増殖することを特徴としています。がん細胞がリンパ管の中に入ると、リンパ液の流れに乗って他の場所へ移動を始めます。リンパ管は胃の全体に分布していて、胃からリンパ液が出て行く通り道になっています。リンパ管にはリンパ節という関所のようなものがあります。がん細胞がリンパ節に定着して増殖したものがリンパ節転移です。
リンパ節は身体の至るところにあります。胃の周りのリンパ節を領域リンパ節といいます。領域リンパ節に転移があっても、離れた場所に転移がなければ、手術で切除することができます。
しかし、領域リンパ節以外の転移は、手術で摘出しても根治(がんを体からなくすこと)が望めません。それは、領域リンパ節以外に転移があるということは、ほかにもまだ目には見えない小さな転移が全身に散らばっている可能性が大きいからです。
この場合は全身をカバーできる治療を行うほうが理にかなっています。
遠隔転移とは?
がんが大きくなる過程で、血管やリンパ管の中に入りんで行き、発生した場所から遠くの臓器にたどり着くことがあります。遠くの場所で定着し増殖することを遠隔転移といいます。領域リンパ節への転移は遠隔転移ではありません。領域リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移です。領域リンパ節転移と遠隔転移は治療法が大きく違うので、病院などで「転移」と言われた時はどちらの意味かをよく確かめてください。
胃がんが肝臓に転移した場合には「胃がんの肝転移」といいます。この場合は肝臓がんとはいいません。がんがもともと発生した胃にあるがんを
転移にはリンパ管を介して遠くに行く場合と血管を介して遠くに行く場合があります。
遠隔転移がある場合には、原発巣の切除は原則として行いません。その理由は、転移がある時点で他の場所にも目に見えないがん細胞が存在している可能性が高いので、全身をカバーできる抗がん剤による治療のほうが理にかなっているという考え方のためです。抗がん剤を優先して考えれば、手術を行うと患者さんにとって大きな体の負担になり、回復するまで
ステージIVは「末期がん」か?
ステージIVは末期がんを意味する言葉ではありません。確かにステージIVはステージ分類では一番進行したものになります。しかし、ステージIVと診断されてから長く生きる人もいます。
実は、「末期がん」には厳密な定義はありません。ステージIVという診断が行われた場合、その言葉の重さから末期がんのイメージが浮かんでしまうかも知れませんが、それは幾分違うと思います。
胃がんにおけるステージIVとは領域リンパ節以外に転移がある状態のことを指します。胃の状態やリンパ節への転移の有無は問いません。ステージIVでは通常手術は行われず、抗がん剤により余命の延長を目的とした治療が行われます。症状があれば症状を緩和する治療を並行して行います。ステージIVからでもまだまだ治療としてできることはあり、それぞれに効果は期待できるのです。
では「末期がん」はどういう状態でしょうか。
最初に述べましたが末期がんには定義がありません。一般的なイメージを加味して考えてみることにします。末期というと余命がかなり限られていることが明らかな状態だと考えられます。そこで、ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。
胃がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移がある段階です。胃がんは肝臓、肺、骨などに転移し、転移しているがんが体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。
- 常に
倦怠感 につきまとわれる - 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
- 身体の
むくみ がひどくなる - 意識がうとうとする
悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。
末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ楽な雰囲気を作ることも大事です。
ステージIVも末期がんも、絶望を意味することはありません。言葉にとらわれることなく、そのときどきで自分にとって一番いいことは何かを考え続けることが大切です。
3. 胃がんの転移先はどこ?
胃がんの転移先として多いのはリンパ節、肝臓、腹膜です。胃は袋状の臓器なので、胃の壁の中を深く胃がんが浸潤していくと、いつか胃がんは壁を貫通して袋の外側に現れます。胃の周りには腹腔(ふくくう)という空間があります。胃がんが腹腔に入り込むと、腹腔に面したあちこちの場所に胃がんの細胞がばらまかれます。この状態を腹膜播種(ふくまくはしゅ)といいます。
転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)とは?
転移性脳腫瘍とは、脳以外にがんができてそれが脳に転移をした状態を指します。転移性脳腫瘍で多いのは肺がんや乳がんの脳転移です。胃がんの脳転移は多いとは言えません。胃がんの患者さん3320人中24人(0.7%)にのみ脳転移が見つかったとする報告があります。この報告でも胃がんの脳転移の割合は比較的低いと言えます。
胃がんの脳転移が見つかったときには他の臓器にも転移が見つかることがほとんどです。胃がんが脳転移したあとの余命は予測が困難です。脳転移の状況や身体の健康具合などが余命に関係すると考えられています。
胃がんの脳転移はまれなことなので、治療法も確立していないのが現状です。そのときそのときで最適な治療を検討していく必要があります。
参照:
Ann Surg Oncol.1999;6:771-776
日本消化器外科学会誌 2008;41:1921-1925
名前がついた転移の意味は?
胃がんの転移のうちいくつかの種類には人の名前がついています。代表的なウィルヒョウの転移、シュニッツラーの転移、クルッケンベルグ
■ウィルヒョウ(Virchow)の転移
左側の鎖骨の上のくぼみにあるリンパ節への転移のことをウィルヒョウの転移といいます。ウィルヒョウの転移は身体の外からリンパ節を触れることができます。
■シュニッツラー(Schnitzler)の転移
腹膜播種が起きて、直腸周囲へ転移したものを指します。
■クルッケンベルグ腫瘍(Krukenberg)
腹膜播種が起きて
これらの転移は進行した胃がんでよく見られる転移なので名前がついています。ウィルヒョウの転移は全身のリンパ節に転移があることを示唆します。シュニッツラーの転移やクルッケンベルグ腫瘍は腹膜播種の結果として起こります。これらの場所に転移が起きやすいのは胃がんが腹腔内に播種すると重力で足側に集まりやすいからだと考えられています。
腹膜播種があると手術の効果が期待できません。手術前に画像検査などで腹膜播種がないことを確かめますが、開腹して初めて腹膜播種が明らかになり手術中止となる場合も絶対にないとは言えません。万一の腹膜播種に備えるため、手術が始まると外科医はシュニッツラーの転移やクルッケンベルグ腫瘍がないかを確認します。
4. 胃がんの腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは?
腹膜播種とは胃がんの細胞が腹腔(ふくくう)という場所にばらまかれて増殖している状態です。腹腔というのは胃の周りにある、腸などの内臓の隙間にあたる場所です。
胃がんが進行すると胃の壁に深く入り込んでいきます。胃がんが進行すると胃の壁を破ってしまうことがあります。胃の壁を破るとがん細胞が腹腔にばらまかれます。するとがん細胞は胃や腸を覆う腹膜に定着します。これが腹膜播種です。
腹膜播種は腹水といって腹腔に水が溜まる状態の原因となります。
5. がん性腹膜炎とは?
胃がんが進行するとがん性腹膜炎を起こすことがあります。がん性腹膜炎はがんが進行してお腹の中にがん細胞が飛び散って(腹膜播種)、がん細胞が
がん性腹膜炎の症状
がん性腹膜炎の症状は、腹水によってお腹が張る、吐き気、腹痛、食思不振などです。
がん性腹膜炎が重症化すると、播種したがんが影響して
がん性腹膜炎の影響が腸に及ぶと腸の流れが悪くなり、腸閉塞の原因にもなります。腸閉塞では吐き気、嘔吐、腹痛などが症状としてみられます。
がん性腹膜炎の治療
がん性腹膜炎の根本的な治療はありません。症状を改善するための治療を行います。
たとえば尿管を閉塞して腎不全になった場合は、腎臓に直接針を刺して尿を腎臓から抜く治療法があります。これを腎
腸閉塞が起きてしまった場合には、
腹水が溜まると体を動かすことも大変になります。腹水は利尿剤を使うことで症状が少し良くなることもありますが、根本的な解決ではありません。腹水を抜くと症状は一時的に改善しますが、またすぐに腹水が溜まります。体に必要な物質も腹水の中に失われていきます。腹水を抜くのは身体の状態と症状のバランスを考えながら行います。
6. 腸閉塞(ちょうへいそく)とは?
腸閉塞は、何らかの原因で腸の動きが止まってしまうことを指します。
手術の後によく起こるのは麻痺性腸閉塞です。手術による影響が腸に及び、腸が動きを止めてしまうことが原因になります。
一番気を付けなければならない腸閉塞は絞扼性腸閉塞です。絞扼性腸閉塞とは腸が捻れて腸への血流がなくなり腸が
この2つの腸閉塞を手術後に見分けることが重要です。このために医師は術後に腹部の診察を繰り返し行い適宜
7. 胃がんの転移を調べる検査は何?
胃がんの転移で多いのは肝臓、腹膜(腹膜播種)、リンパ節などです。転移があるかどうかを調べることは治療方針を定めるのに大きく関わるので重要です。
CT検査
MRI検査
超音波検査
超音波内視鏡検査(EUS:endoscopic ultrasound)
PET/CT
PET(ペット)は画像検査で、放射線を使います。PET/CTはPETとCTを組み合わせた検査です。PETは、がん細胞が通常の細胞に比べて糖分を活発に取り込むことを利用した検査です。
FDG(フルオロデオキシ
胃がんがあるかどうかを診断する目的でPETが使用されることはまずありませんが、CTなどで胃がんの転移かどうか疑わしいものがあって判断がしにくい場合などにはPETが検討されることも考えられます。
PETの弱点として、画像で陽性のものが必ずしもがんとは限りません。炎症などでも陽性になります。胃がんでは必ず行う検査ではありません。
審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)
審査
転移がある場合は、手術で根治(すべてのがんを取り切ること)が期待できません。手術は体への負担が大きいため、根治が期待できない場合は行わないほうが体力を温存するという観点から望ましいと言えます。
審査腹腔鏡はお腹の中にがんが転移をしているか(腹膜播種)、肝臓に転移があるのかの判断がCTやMRIなどの画像検査のみでは難しい場合に行います。審査腹腔鏡は手術室で行われます。いくつかお腹に小さな穴をあけて内視鏡を挿入してお腹の中を観察します。審査腹腔鏡で転移が見つかれば手術はやめたほうがいいと判断することになります。
審査腹腔鏡で転移が認められなかったときは、後日に仕切り直して手術を行う場合と、その場で開腹手術に移行して治療を行う場合があります。
8. 胃がんが転移したら余命は?
胃がんが転移したときの余命は転移をした状況で変わります。胃がんの転移は2つに分けられます。領域リンパ節への転移とそれ以外の転移です。領域リンパ節への転移があっても手術によって根治(体からがんをなくすこと)の可能性があります。しかし領域リンパ節を超えた転移(遠隔転移)があると胃がんを切除しても根治は期待できません。
以下ではそれぞれに分けて解説します。
領域リンパ節転移の場合
領域リンパ節転移のある場合は、ステージII、もしくはIIIに分類されます。ステージII、IIIの人の
ステージ | 5年生存率(%) |
ステージII | 69.2 |
ステージIII | 41.9 |
ステージII、IIIではリンパ節に転移がない人も含まれているので、リンパ節転移がある人はこの数値とほぼ同じか少し下回ることが想定されます。
この5年生存率は2012-2013年に診断された人の治療結果をもとにされています。10年前に比べて現在は抗がん剤の種類も増えて効果の高いものが開発されています。この数字を上回ることは十分に可能です。
がんと診断されると生存率がどうしても気になってしまうと思います。しかし、数字はあくまでも平均的な結果であり、一人一人で必ずしも同じ結果が繰り返されるわけではありません。良い意味でも悪い意味でも、主治医の予想と大きく違った結果になることは珍しくありません。
大事なのは自分の状態にしっかりと向き合いながら日々の治療や生活を行っていくことです。
遠隔転移の場合
胃がんが遠隔転移した場合の余命はその状態により異なります。胃がんの転移といっても、胃がんが初めて見つかった時点ですでに転移がある場合と、手術後に新しく転移が現れた場合では状態が異なります。
遠隔転移がある胃がんはステージIVです。胃がんが見つかった時点でステージIVだった場合の5年生存率は8.9%とかなり低い数字です。
手術後に転移が現れた場合の正確なデータは有りません。状態としては診断時に転移がある場合よりは良いことが予想されます。
この数字を解釈する時にはいくつか注意することがあります。まずこの数値は2010-2011年に診断された人の結果です。今よりも10年以上前の治療の結果です。現在は10年前に比べて抗がん剤治療が格段に進歩しています。この数字を上回ることは十分に考えられます。
次にこの数字は、あくまでもステージIVという条件で集められた人々の結果です。ステージIVでも無症状の人もいればかなり状態が悪い人まで含まれています。
統計上の数字はある程度参考になるかもしれませんが、一人一人の余命は予想がつかないものです。大事なことは自分の状況を把握して目の前の治療に取り組んで行くことです。
9. 転移がある胃がんの治療は?
領域リンパ節転移だけがある場合と、遠隔転移がある場合とで治療は大きく違います。
領域リンパ節転移があったら治療は?
領域リンパ節に転移がある場合は、がんが全身に転移を始めようとする段階とも捉えられます。がんの転移の初期は非常に小さいので目では見えません。つまり手術後にリンパ節転移を確認することはできてもそこから先に転移があるかを知ることはできません。そのために、胃がんが深くかつリンパ節転移がある場合は、目に見えない小さな転移があると考えて抗がん剤で再発予防をします。
遠隔転移があったら治療は?
遠隔転移がある時は、目には見えないくらい小さながんが体中に散らばっていると考えます。この状態では手術で胃を取り除いても全身からがんをなくすことはできないと考えられます。無理に手術をしても身体に大きな負担を与え、抗がん剤による治療の開始も遅れてしまいます。
転移のあるがんに対しては抗がん剤治療で全身をカバーする方が理にかなっています。抗がん剤で治療していく過程で抗がん剤の効果がなくなり、転移が他の場所に出てきて痛みなどを生じることもあります。そのときには緩和ケアを行いながら抗がん剤治療を続けることも可能です。
転移といってもいろいろなケースがあります。転移があっても治療法は多く存在します。転移という言葉は強い衝撃を与えるかもしれませんが、ご自身の状況をしっかり把握して治療を行っていくことが大事です。
ステージIVの胃がんは完治する?
ステージIVの完治は難しいと考えられています。ステージIVでは、余命を延ばすとともに、苦痛を除くことが治療の目標になります。
ステージIVは領域リンパ節以外に転移がある状態です。この場合は、CT検査などの画像検査などで転移が明らかな場所以外にもすでに目に見えない小さな転移があると考えます。このため手術でがんを取り除いてもすぐに違う場所に転移が出てきてしまう恐れがあります。
ステージIVでは抗がん剤による治療を行います。抗がん剤では全身をカバーできるので全身に転移のある状態ではより適した治療になります。
ステージIVの胃がんと診断され、「完治はできません」と言われると落ち込んでしまうかもしれません。しかし完治ができないということは絶望ではありません。抗がん剤治療や緩和ケアをうまく使って苦痛を減らし、生活を維持することを目指すことができます。