いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 325回の改訂 最終更新: 2022.10.17

ステージIVは末期がんなのか?胃がんが転移した場合の症状、診断、治療

胃がんは進行すると転移をします。転移とは、がん細胞が胃以外の臓器に定着して増殖することです。胃がんが転移しやすい場所としては、リンパ節、肝臓、腹膜などがあります。転移がある胃がんの治療などを解説します。 

胃がんの転移と一口に言っても、起こることは人によって大きく違います。離れた臓器に転移(遠隔転移)があっても無症状の人もいます。転移による腹水黄疸が出たことで転移が見つかる人もいます。
遠隔転移がある状態はステージIVです。ステージIVに特有の症状はありません。症状からステージを見分けられないように、ステージによっても症状は一言では表せません。

胃がんの転移は、2つに分けて考えます。それは領域リンパ節転移と他の臓器への転移です。それぞれ解説します。

がんは周囲の組織に侵入しながら増殖することを特徴としています。がん細胞がリンパ管の中に入ると、リンパ液の流れに乗って他の場所へ移動を始めます。リンパ管は胃の全体に分布していて、胃からリンパ液が出て行く通り道になっています。リンパ管にはリンパ節という関所のようなものがあります。がん細胞がリンパ節に定着して増殖したものがリンパ節転移です。
リンパ節は身体の至るところにあります。胃の周りのリンパ節を領域リンパ節といいます。領域リンパ節に転移があっても、離れた場所に転移がなければ、手術で切除することができます。

しかし、領域リンパ節以外の転移は、手術で摘出しても根治(がんを体からなくすこと)が望めません。それは、領域リンパ節以外に転移があるということは、ほかにもまだ目には見えない小さな転移が全身に散らばっている可能性が大きいからです。
この場合は全身をカバーできる治療を行うほうが理にかなっています。抗がん剤は血液を介して全身をカバーすることができます。

がんが大きくなる過程で、血管やリンパ管の中に入りんで行き、発生した場所から遠くの臓器にたどり着くことがあります。遠くの場所で定着し増殖することを遠隔転移といいます。領域リンパ節への転移は遠隔転移ではありません。領域リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移です。領域リンパ節転移と遠隔転移は治療法が大きく違うので、病院などで「転移」と言われた時はどちらの意味かをよく確かめてください。
胃がんが肝臓に転移した場合には「胃がんの肝転移」といいます。この場合は肝臓がんとはいいません。がんがもともと発生した胃にあるがんを原発巣(げんぱつそう)、転移してできた肝臓のがんを転移巣(てんいそう)とも言います。
転移にはリンパ管を介して遠くに行く場合と血管を介して遠くに行く場合があります。
遠隔転移がある場合には、原発巣の切除は原則として行いません。その理由は、転移がある時点で他の場所にも目に見えないがん細胞が存在している可能性が高いので、全身をカバーできる抗がん剤による治療のほうが理にかなっているという考え方のためです。抗がん剤を優先して考えれば、手術を行うと患者さんにとって大きな体の負担になり、回復するまで抗がん剤治療を開始できないので、抗がん剤による治療が遅れることは望ましくないということになります。

ステージIVは末期がんを意味する言葉ではありません。確かにステージIVはステージ分類では一番進行したものになります。しかし、ステージIVと診断されてから長く生きる人もいます。
実は、「末期がん」には厳密な定義はありません。ステージIVという診断が行われた場合、その言葉の重さから末期がんのイメージが浮かんでしまうかも知れませんが、それは幾分違うと思います。

胃がんにおけるステージIVとは領域リンパ節以外に転移がある状態のことを指します。胃の状態やリンパ節への転移の有無は問いません。ステージIVでは通常手術は行われず、抗がん剤により余命の延長を目的とした治療が行われます。症状があれば症状を緩和する治療を並行して行います。ステージIVからでもまだまだ治療としてできることはあり、それぞれに効果は期待できるのです。

では「末期がん」はどういう状態でしょうか。
最初に述べましたが末期がんには定義がありません。一般的なイメージを加味して考えてみることにします。末期というと余命がかなり限られていることが明らかな状態だと考えられます。そこで、ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。
胃がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移がある段階です。胃がんは肝臓、肺、骨などに転移し、転移しているがんが体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。
末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ楽な雰囲気を作ることも大事です。

ステージIVも末期がんも、絶望を意味することはありません。言葉にとらわれることなく、そのときどきで自分にとって一番いいことは何かを考え続けることが大切です。

胃がんの転移先として多いのはリンパ節、肝臓、腹膜です。胃は袋状の臓器なので、胃の壁の中を深く胃がんが浸潤していくと、いつか胃がんは壁を貫通して袋の外側に現れます。胃の周りには腹腔(ふくくう)という空間があります。胃がんが腹腔に入り込むと、腹腔に面したあちこちの場所に胃がんの細胞がばらまかれます。この状態を腹膜播種(ふくまくはしゅ)といいます。

転移性脳腫瘍とは、脳以外にがんができてそれが脳に転移をした状態を指します。転移性脳腫瘍で多いのは肺がん乳がんの脳転移です。胃がんの脳転移は多いとは言えません。胃がんの患者さん3320人中24人(0.7%)にのみ脳転移が見つかったとする報告があります。この報告でも胃がんの脳転移の割合は比較的低いと言えます。
胃がんの脳転移が見つかったときには他の臓器にも転移が見つかることがほとんどです。胃がんが脳転移したあとの余命は予測が困難です。脳転移の状況や身体の健康具合などが余命に関係すると考えられています。
胃がんの脳転移はまれなことなので、治療法も確立していないのが現状です。そのときそのときで最適な治療を検討していく必要があります。

参照:
Ann Surg Oncol.1999;6:771-776
日本消化器外科学会誌 2008;41:1921-1925

胃がんの転移のうちいくつかの種類には人の名前がついています。代表的なウィルヒョウの転移、シュニッツラーの転移、クルッケンベルグ腫瘍について解説します。それぞれの転移は進行した胃がんに特徴的な転移の現れ方と考えられています。

■ウィルヒョウ(Virchow)の転移
左側の鎖骨の上のくぼみにあるリンパ節への転移のことをウィルヒョウの転移といいます。ウィルヒョウの転移は身体の外からリンパ節を触れることができます。

■シュニッツラー(Schnitzler)の転移
腹膜播種が起きて、直腸周囲へ転移したものを指します。

■クルッケンベルグ腫瘍(Krukenberg)
腹膜播種が起きて卵巣へ転移が起きた場合をクルッケンベルグ腫瘍といいます。

これらの転移は進行した胃がんでよく見られる転移なので名前がついています。ウィルヒョウの転移は全身のリンパ節に転移があることを示唆します。シュニッツラーの転移やクルッケンベルグ腫瘍は腹膜播種の結果として起こります。これらの場所に転移が起きやすいのは胃がんが腹腔内に播種すると重力で足側に集まりやすいからだと考えられています。

腹膜播種があると手術の効果が期待できません。手術前に画像検査などで腹膜播種がないことを確かめますが、開腹して初めて腹膜播種が明らかになり手術中止となる場合も絶対にないとは言えません。万一の腹膜播種に備えるため、手術が始まると外科医はシュニッツラーの転移やクルッケンベルグ腫瘍がないかを確認します。

腹膜播種とは胃がんの細胞が腹腔(ふくくう)という場所にばらまかれて増殖している状態です。腹腔というのは胃の周りにある、腸などの内臓の隙間にあたる場所です。
胃がんが進行すると胃の壁に深く入り込んでいきます。胃がんが進行すると胃の壁を破ってしまうことがあります。胃の壁を破るとがん細胞が腹腔にばらまかれます。するとがん細胞は胃や腸を覆う腹膜に定着します。これが腹膜播種です。
腹膜播種は腹水といって腹腔に水が溜まる状態の原因となります。

胃がんが進行するとがん性腹膜炎を起こすことがあります。がん性腹膜炎はがんが進行してお腹の中にがん細胞が飛び散って(腹膜播種)、がん細胞が炎症を起こしている状態です。がん性腹膜炎により腹腔に水が溜まることがあります。

がん性腹膜炎の症状は、腹水によってお腹が張る、吐き気、腹痛、食思不振などです。
がん性腹膜炎が重症化すると、播種したがんが影響して尿管(にょうかん)という管を圧迫することがあります。尿管は腎臓から膀胱へ尿を送り出す通り道です。尿管が塞がってしまうと尿がでなくなることの原因になることがあります。
がん性腹膜炎の影響が腸に及ぶと腸の流れが悪くなり、腸閉塞の原因にもなります。腸閉塞では吐き気、嘔吐、腹痛などが症状としてみられます。

がん性腹膜炎の根本的な治療はありません。症状を改善するための治療を行います。
たとえば尿管を閉塞して腎不全になった場合は、腎臓に直接針を刺して尿を腎臓から抜く治療法があります。これを腎(じんろう)といいます。
腸閉塞が起きてしまった場合には、消化管の流れを改善するように消化管バイパスを作る手術や人工肛門を作って食べ物や便の流れを良くすることを考えます。
腹水が溜まると体を動かすことも大変になります。腹水は利尿剤を使うことで症状が少し良くなることもありますが、根本的な解決ではありません。腹水を抜くと症状は一時的に改善しますが、またすぐに腹水が溜まります。体に必要な物質も腹水の中に失われていきます。腹水を抜くのは身体の状態と症状のバランスを考えながら行います。

腸閉塞は、何らかの原因で腸の動きが止まってしまうことを指します。

手術の後によく起こるのは麻痺性腸閉塞です。手術による影響が腸に及び、腸が動きを止めてしまうことが原因になります。
一番気を付けなければならない腸閉塞は絞扼性腸閉塞です。絞扼性腸閉塞とは腸が捻れて腸への血流がなくなり腸が壊死する危険性のある腸閉塞です。
この2つの腸閉塞を手術後に見分けることが重要です。このために医師は術後に腹部の診察を繰り返し行い適宜レントゲン撮影などを行います。

胃がんの転移で多いのは肝臓、腹膜(腹膜播種)、リンパ節などです。転移があるかどうかを調べることは治療方針を定めるのに大きく関わるので重要です。
 

CT検査は転移の有無を評価するのに優れた検査です。CT検査は放射線を使って身体中を輪切りにするイメージを作り出します。造影剤を使って検査を行うこともあります。造影剤を使用するとはっきりと写るのでリンパ節転移の有無の評価などに向いています。

MRI検査は、磁気を利用して行う画像検査です。放射線を使うことはありません。胃がんの診断にはMRIよりもCTがよく使われます。MRIはほかの臓器に転移や浸潤があるかの判断のために撮影する場合があります。

腹部超音波検査腹部エコー)は超音波を使う画像検査です。放射線は使いません。お腹にジェルを塗って、プローブという機械を当てると、プローブの先にある部分が画面に写ります。超音波検査で胃がんの診断を行うことはかなり難しいのですが、転移の有無やお腹のなかに水が溜まっているかなどの判断を行うには適しています。放射線を用いないので、変化を短時間で把握したい時に行われます。

EUS内視鏡の先端に超音波検査のプローブを取りつけたものを使う検査です。EUSは、胃の中から超音波検査を行います。EUSは胃がんの深さや膵臓への浸潤の有無を判断するために適しています。EUSでは口から内視鏡を挿入して先端のプローブを操作します。EUSで用いる内視鏡は通常の内視鏡より太いので、挿入するときなどにやや違和感が強いかもしれません。

PET(ペット)は画像検査で、放射線を使います。PET/CTはPETとCTを組み合わせた検査です。PETは、がん細胞が通常の細胞に比べて糖分を活発に取り込むことを利用した検査です。
FDG(フルオロデオキシグルコース)という物質を使います。FDGは糖(グルコース)に似た物質です。FDGが取り込まれた場所で放射線が発生します。発生した放射線を利用して画像を撮影することができます。FDGを点滴で体の中に注入してから撮影します。がんはFDGの集積が高くなる(陽性)と考えられています。
胃がんがあるかどうかを診断する目的でPETが使用されることはまずありませんが、CTなどで胃がんの転移かどうか疑わしいものがあって判断がしにくい場合などにはPETが検討されることも考えられます。
PETの弱点として、画像で陽性のものが必ずしもがんとは限りません。炎症などでも陽性になります。胃がんでは必ず行う検査ではありません。

審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう)はお腹の中(腹腔内)にがんの転移があるかを判断するための検査です。転移があるかどうかを見極めることは重要です。
転移がある場合は、手術で根治(すべてのがんを取り切ること)が期待できません。手術は体への負担が大きいため、根治が期待できない場合は行わないほうが体力を温存するという観点から望ましいと言えます。
審査腹腔鏡はお腹の中にがんが転移をしているか(腹膜播種)、肝臓に転移があるのかの判断がCTやMRIなどの画像検査のみでは難しい場合に行います。審査腹腔鏡は手術室で行われます。いくつかお腹に小さな穴をあけて内視鏡を挿入してお腹の中を観察します。審査腹腔鏡で転移が見つかれば手術はやめたほうがいいと判断することになります。
審査腹腔鏡で転移が認められなかったときは、後日に仕切り直して手術を行う場合と、その場で開腹手術に移行して治療を行う場合があります。

胃がんが転移したときの余命は転移をした状況で変わります。胃がんの転移は2つに分けられます。領域リンパ節への転移とそれ以外の転移です。領域リンパ節への転移があっても手術によって根治(体からがんをなくすこと)の可能性があります。しかし領域リンパ節を超えた転移(遠隔転移)があると胃がんを切除しても根治は期待できません。
以下ではそれぞれに分けて解説します。

領域リンパ節転移のある場合は、ステージII、もしくはIIIに分類されます。ステージII、IIIの人の5年生存率を下の表に示します。

ステージ 5年生存率(%)
ステージII 69.2
ステージIII 41.9

ステージII、IIIではリンパ節に転移がない人も含まれているので、リンパ節転移がある人はこの数値とほぼ同じか少し下回ることが想定されます。
この5年生存率は2012-2013年に診断された人の治療結果をもとにされています。10年前に比べて現在は抗がん剤の種類も増えて効果の高いものが開発されています。この数字を上回ることは十分に可能です。

がんと診断されると生存率がどうしても気になってしまうと思います。しかし、数字はあくまでも平均的な結果であり、一人一人で必ずしも同じ結果が繰り返されるわけではありません。良い意味でも悪い意味でも、主治医の予想と大きく違った結果になることは珍しくありません。
大事なのは自分の状態にしっかりと向き合いながら日々の治療や生活を行っていくことです。

胃がんが遠隔転移した場合の余命はその状態により異なります。胃がんの転移といっても、胃がんが初めて見つかった時点ですでに転移がある場合と、手術後に新しく転移が現れた場合では状態が異なります。

遠隔転移がある胃がんはステージIVです。胃がんが見つかった時点でステージIVだった場合の5年生存率は8.9%とかなり低い数字です。

手術後に転移が現れた場合の正確なデータは有りません。状態としては診断時に転移がある場合よりは良いことが予想されます。

この数字を解釈する時にはいくつか注意することがあります。まずこの数値は2010-2011年に診断された人の結果です。今よりも10年以上前の治療の結果です。現在は10年前に比べて抗がん剤治療が格段に進歩しています。この数字を上回ることは十分に考えられます。

次にこの数字は、あくまでもステージIVという条件で集められた人々の結果です。ステージIVでも無症状の人もいればかなり状態が悪い人まで含まれています。

統計上の数字はある程度参考になるかもしれませんが、一人一人の余命は予想がつかないものです。大事なことは自分の状況を把握して目の前の治療に取り組んで行くことです。

領域リンパ節転移だけがある場合と、遠隔転移がある場合とで治療は大きく違います。

領域リンパ節に転移がある場合は、がんが全身に転移を始めようとする段階とも捉えられます。がんの転移の初期は非常に小さいので目では見えません。つまり手術後にリンパ節転移を確認することはできてもそこから先に転移があるかを知ることはできません。そのために、胃がんが深くかつリンパ節転移がある場合は、目に見えない小さな転移があると考えて抗がん剤で再発予防をします。

遠隔転移がある時は、目には見えないくらい小さながんが体中に散らばっていると考えます。この状態では手術で胃を取り除いても全身からがんをなくすことはできないと考えられます。無理に手術をしても身体に大きな負担を与え、抗がん剤による治療の開始も遅れてしまいます。
転移のあるがんに対しては抗がん剤治療で全身をカバーする方が理にかなっています。抗がん剤で治療していく過程で抗がん剤の効果がなくなり、転移が他の場所に出てきて痛みなどを生じることもあります。そのときには緩和ケアを行いながら抗がん剤治療を続けることも可能です。
転移といってもいろいろなケースがあります。転移があっても治療法は多く存在します。転移という言葉は強い衝撃を与えるかもしれませんが、ご自身の状況をしっかり把握して治療を行っていくことが大事です。

ステージIVの完治は難しいと考えられています。ステージIVでは、余命を延ばすとともに、苦痛を除くことが治療の目標になります。
ステージIVは領域リンパ節以外に転移がある状態です。この場合は、CT検査などの画像検査などで転移が明らかな場所以外にもすでに目に見えない小さな転移があると考えます。このため手術でがんを取り除いてもすぐに違う場所に転移が出てきてしまう恐れがあります。
ステージIVでは抗がん剤による治療を行います。抗がん剤では全身をカバーできるので全身に転移のある状態ではより適した治療になります。
ステージIVの胃がんと診断され、「完治はできません」と言われると落ち込んでしまうかもしれません。しかし完治ができないということは絶望ではありません。抗がん剤治療や緩和ケアをうまく使って苦痛を減らし、生活を維持することを目指すことができます。