いがん
胃がん
胃の壁の粘膜にできたがんのこと。ピロリ菌への感染や喫煙、塩分の多い食事などでリスクが上がる
24人の医師がチェック 326回の改訂 最終更新: 2024.11.08

胃痛は胃がんと関係ある?胃がんの症状を初期症状から末期の症状まで

胃がんは初期症状はほとんど見られないことが多いですが、進行するとみぞおちの痛みなどの症状が現れます。また、胃がんに似た症状を起こす病気には胃炎や胃潰瘍があります。
胃がんの症状について説明します

胃がんの初期症状で「これがあれば胃がんに違いない」というものはありません。胃がんの症状として知られているものは、他の病気の症状としても現れることがあります。

  • 腹痛
  • 体重減少
  • 食思不振
  • みぞおちのあたりの不快感
  • お腹に塊を触れる(腹部腫瘤感(ふくぶしゅりゅうかん))
  • からだがだるい感じ(全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん))

胃がんの症状は多様です。胃がんの症状で多いのは腹痛ですが、これはがんによる痛みというよりは胃がんの原因の一つと考えられる胃炎や胃潰瘍などの症状でもあります。その他かなり進行した状態では吐血をきっかけに発見されることもあります。

腹痛から胃がんが発見されることはあります。しかし、腹痛やみぞおちの痛みは胃がんだけが原因で起きるわけではありません。「胃痛」という言葉はよく見かけますが、医学的には「胃のあたりが痛いから胃が痛んでいる」とは言えません。「心窩部痛(しんかぶつう)」という言葉が、胃のあたり・みぞおちの痛みを指します。みぞおちあたりが痛む病気の例をいくつか挙げます。

心窩部痛にはほかにもさまざまな原因が考えられます。痛みの場所だけで「胃の病気に違いない」と決めつけると、正しい診断から遠ざかってしまうこともあります。
胃のあたりの痛みが続くときは医療機関で原因を調べてください。痛みを説明するときはいきなり「胃が痛い」とは言わず、「お腹のこのあたりが痛い」と指さすなどすると会話がスムーズになるかもしれません。胃がんが心配なら「胃がんではないか心配です」と伝えれば説明してもらえるでしょう。

胃がんはかなり進行するまで症状がない場合があります。特に初期の段階では症状を認めることは珍しいと考えていいでしょう。
胃がんは症状がないので内視鏡検査などの検診が行われています。検診で症状がない人に胃がんが発見されることも珍しくはありません。

胃がんにだけ特徴的な症状はないと考えられています。つまりこの症状があれば胃がんの可能性が強いというものはほとんどありません。症状だけで原因を突き止めるのは難しいので、胃がんでもほかの病気でも、多くの場合は検査が必要になります。
腹痛を例に挙げてみます。腹痛の原因は胃がん以外にも胃炎、胃潰瘍逆流性食道炎、膵炎、膵臓がんなどがあります。腹痛だけでは見分けられません。胃がんでよく見られるほかの症状でも同じです。

  • 腹痛
  • 体重減少
  • 食思不振
  • みぞおちの辺りの不快感
  • お腹に塊をふれる(腹部腫瘤感(ふくぶしゅりゅうかん))
  • からだがだるい感じ(全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん))
  • 嘔吐
  • 血を吐く(吐血(とけつ))

どの症状も胃がん以外の原因が考えられます。また、胃がんがあっても上記の症状がひとつも現れない場合や、典型的ではない症状が現れる場合も考えられます。
このように症状だけでは診断はつけられません。消化器内科などを受診し、必要に応じて検査などを利用することで原因に近付くことができます。

タール便とは黒みが強い灰色で下痢のような便です。タール便はタールに似ていることからその名前が付いています。
タール便は、胃や十二指腸などからの出血を疑わせる症状として知られています。タール便の色は、血液に含まれるヘモグロビンという物質によるものです。
胃がんがタール便の原因となることはありますが、胃がん以外にもタール便が出る病気はあります。たとえば胃潰瘍、胃炎などが原因で出血を起こしてタール便が出ることがあります。タール便が出たときには何か治療を必要とする病気が隠れている可能性がかなり高いと考えられます。速やかに医療機関を受診することが重要です。

便秘で胃がんが発見されることは比較的少数です。便秘の原因として胃がんは最初に考えるものではありません。
胃がんで便秘が発生するケースを考えてみます。

胃がんは胃の内側で発生して胃の壁の外側に向かって浸潤(しんじゅん)していきます。つまり、胃の壁の中に潜り込むようにして、しだいに深く進んでいきます。かなり進行した状況では、胃の壁を突き破って腹腔(ふくくう)にがん細胞がばらまかれます。これを腹膜播種(ふくまくはしゅ)といいます。腹膜播種が起きると腹水が出てがん性腹膜炎を起こします。腹腔内が炎症を起こすので腸の動きが悪くなり便秘の原因になります。
医療用麻薬はがんの痛みに対して使われます。胃がんが進行して激しい痛みを起こす場合があります。一般的な痛み止めで効果が足りない時は医療用麻薬も使います。医療用麻薬の副作用の一つして便秘があります。便秘の改善には便を柔らかくする薬などを使用します。

胃がんが進行したときに出る症状に腹水があります。
腹水の原因はいくつかに別れます。

  • 腹膜播種
  • アルブミンが身体から失われる

胃がんが進行すると腹膜播種を起こすことがあります。すると飛び散ったがんが炎症を起こし腹水という水を出すようになります。腹水がお腹に溜まるとお腹が張った状態で少し動くのにもかなり苦しい状態になります。お腹の張りで胃や腸が圧迫されて食欲もなくなっていきます。食欲がなくなると栄養状態が悪化していきます。栄養状態が悪化すると体の中からアルブミンというたんぱく質の一種が減っていきます。アルブミンは血管内に水分を保つ働きがあります。アルブミンが減ってくると血管内から水分が腹水として出ていきます。腹水はこの悪循環で溜まり続けていきます。
腹腔は大きなスペースなので、ここに水が溜まっていきます。腹水を治すための有力な治療法はありません。利尿剤の投与などで症状が緩和されることもありますが効果は限界があります。腹水による症状が強くなればお腹に針を刺すなどして腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。

胃がんの末期の症状を説明する前に一般的ながんの末期について説明をしたいと思います。まず『がんの末期』には明確な定義はありません。
ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活の大半をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。
胃がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移があり、緩和的な治療が主体になってきている段階です。緩和医療に関しては「胃がんの緩和ケアとは?」で詳細に解説しています。
胃がんの末期では肝臓や腹膜などに転移し、転移しているがんが体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 倦怠感につきまとわれる
  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 腹水などで身体を動かせなくなる
  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。また胃がんの末期では腹膜播種や栄養不足による腹水などを認めることが多いです。腹水はお腹の張りが強くて満足に動くことができない状態になります。
これらの末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。
がんを治せなかったことはがんに屈したということではありません。がんは多くの人の人生の最後に訪れる自然な出来事です。
看病をする人は、患者さんの不安を少しでも取り除くために、できるだけ患者さんが過ごしやすい雰囲気を作ることも大事です。
ただそばに居てあげるだけでいいです。無理に話をする必要はないと思います。ただそばにいて「自分は一人ではない、安心だ」ということを感じさせてあげてください。

胃がんの症状が出るか出ないか、いつ出るかは人によって非常に多様です。症状から余命を読み取ることは非常に難しいです。
胃がんの余命を大まかに推定する方法として診断時のステージがあります。ステージは画像診断などによって判断されます。症状は各ステージに分類する際の材料にはなりません。
ステージ毎の5年生存率を表に示します。

ステージ 5年生存率(%)
ステージI 96.0
ステージII 69.2
ステージIII 41.9
ステージIV 6.3

(参考資料;がんの統計2022)

5年生存率とは、診断から5年後に生存している人の割合です。生存率はある程度余命の目安になりますが、人によってかなり幅があるため、数字にとらわれるべきではありません。
ひとりひとりの顔が異なるように症状の出方もそれぞれで異なります。極端な例では、全く症状がなくてある日偶然かなり進行した胃がんと診断されることもあります。反対に腹痛の症状で内視鏡検査を受けたところ、かなり早期の胃がんと診断されることもあります。つまりこんな症状やあんな症状があると進行していると一概に言うことはできません。
胃がんがすでに診断されていて、治療中に新たに症状が現れたとしても、必ずしもがんが進行したことを意味しません。実は薬の副作用による症状で、薬を替えれば症状がなくなるという可能性も考えられます。治療中には体調の変化を感じたらこまめに主治医に相談することが大切です。

胃がんが末期に近づくといろいろな症状が出現します。例えば腹水が溜まってお腹が膨れてきて身動きが辛くなったり、胸に水(胸水)が溜まって呼吸が苦しくなったりもします。腹水や胸水は、身体の中の栄養がかなり減っていることが原因の一部です。このため腹水や胸水が溜まる状態は一般的には良くない兆しです。
症状が重くなった時に大事なのは、正しい緩和ケアでできる限り症状を和らげることとともに、安心感のある環境を作ることです。看病をする人が無理のない範囲でできるだけ時間を共にすることも大切です。

がんを根治できない状態であればいつかは末期が訪れます。末期を迎えるにあたってやりたいことなどは人によって違うので唯一の答えはありません。考えの助けになるよういくつかの例を挙げます。

■会いたい人に会う、行きたい場所に行く
末期の状態になると身動きがとれなくなることが想定されます。身体が自由なうちに行きたい場所に行き会いたい人に会っておくことは有意義だと考えられます。「住み慣れた家が行きたい場所、いつも一緒にいる家族が会いたい人」という感じ方ももちろんあるでしょう。

■身の周りの整理など
体の自由が利かなくなる前に、少しずつでも自分の周りのことを整理しておくことは気持ちを楽にするかもしれません。自分の考えを周りの人に明確に伝えておくことは大切です。

■どのような場所で最期を過ごしたいかを決める
末期の状態では静養を行う場所についても考えておくといいと思います。その人の考えによってどのような場所で最期を迎えたいかは変わってくると思います。自宅で静養したいのであれば自宅での静養に向けて往診をしてくれる医師を探すなどの準備ができます。また病院での静養を希望する場合は、どのような病院が良いかをイメージして、足を運んで選ぶこともいいと思います。

末期に備えてしておいたほうがよいことの例を挙げました。これはあくまでも例です。ほかにも大事なことはたくさんあると思います。末期が近づいていると考えると精神的にもつらいものがあります。色々あれやこれやと考えるのも大変だと思うかもしれません。そんなときにはやらないといけないことを少し減らしてみてもいいと思います。その日その日を大切に過ごしてください。