こうしんへるぺす
口唇ヘルペス
成人で最もよくみられる単純ヘルペスの一種。
9人の医師がチェック 23回の改訂 最終更新: 2024.03.14

口唇ヘルペスの原因:ストレス、紫外線など

口唇ヘルペスの原因は単純ヘルペスウイルス1型の感染です。単純ヘルペスウイルスに一度感染するとウイルスは生涯体内に残るため、身体の抵抗力が低下したときにウイルスが体内で増えることで再発を繰り返します。口唇ヘルペスの再発を起こしやすい生活習慣や病気について説明するとともに、ヘルペスウイルスが起こすその他の病気についても説明します。

1. 口唇ヘルペスの原因

口唇ヘルペスの原因は単純ヘルペスウイルスの感染です。初めて単純ヘルペスウイルスに感染した人のうち9割は無症状で気がつきません。口唇ヘルペスの多くは単純ヘルペスウイルスの再活性化によって起こります。

再活性化の仕組みについて説明します。単純ヘルペスウイルスは一度感染すると神経の細胞が集まった神経節という場所にウイルスが留まって持続感染(潜伏感染)を起こします。身体が元気な時にはウイルスは神経節の中に留まっていますが、身体の抵抗力が低下するとウイルスが増殖(再活性化)して口唇ヘルペスなどの症状を引き起こします。再活性化によって症状を起こした状態を回帰発症と呼びます。簡単に言うと、体内に感染したウイルスが潜伏感染している状態は冬眠で、冬眠からさめて活発になった状態が再活性化です。

再活性化するのは身体の抵抗力が低下した時なので、疲れた時やストレスがかかった時などには口唇ヘルペスが繰り返しできます。

ヘルペスウイルスの再活性化による回帰発症は、ヘルペスウイルスに感染している人の20-40%に起こるとされています。再発の割合は個人差があり、5-23%は1ヶ月に1回、58-61%で4ヶ月に1回、19-61%が1年に2回とされています。かなりばらつきがありますが、再発を繰り返している場合には、再発を防ぐ生活習慣など心がけることで再発の回数を減らすことができます。

次からは口唇ヘルペスの再発(再活性化)に関係していると考えられている生活習慣や病気についてみていきましょう。

2. 再発に関係していると考えられる生活習慣

口唇ヘルペスの再発は身体の免疫が低下した時に起こります。初めての感染で神経節に残った単純ヘルペスウイルスは、身体の免疫がきちんと働いている間はウイルスが増えないように抑えられています。身体の疲労、ストレス、かぜなどの発熱で身体の抵抗力が弱まった場合、紫外線などで皮膚が刺激された場合などに再発します。

具体的な再発の誘因についてみていきます。

精神的ストレス

精神的ストレスによって免疫は低下すると言われています。ストレスを回避することはなかなか難しいかもしれませんが、ストレスは口唇ヘルペスのみではなくさまざまな病気の誘因になります。うまくストレスと付き合うことは心身の健康につながります。ストレスが多い時に簡単に息抜きできるようなことをいくつか準備しておくと良いかもしれません。

身体的ストレス:寝不足、疲れなど

精神的なストレスだけではなく身体的なストレスも身体の抵抗力を低下させるため、再発の誘引になります。なかなか難しいとは思いますが、疲れた時にはゆっくり休む、ゆっくりと眠るなどの生活を心がけてみてください。

月経前後

女性では月経前後にも口唇ヘルペスが再発しやすくなります。月経前は女性ホルモンの関係で精神的にも疲れることがあると思います。疲れすぎない生活などを少し心がけられると良いかもしれません。

紫外線(日光)

紫外線をあびると皮膚のバリア機能が破綻することで口唇ヘルペスが再燃しやすくなると言われています。日差しの強い日に外出する場合には帽子をかぶったり、UVカットのリップクリームなどを使用すると再燃の予防になります。

3. 再発に関係していると考えられる病気

身体に持続感染しているヘルペスウイルスが増殖しないようにするためには、免疫が正常に働いていることが必要です。免疫とは自分の身体とは異なるものを排除などして防御する仕組みです。免疫を低下させるような病気や、免疫を低下させるような薬を使用している場合は、ヘルペスウイルスが増殖して口唇ヘルペスが再発しやすくなります。どのような病気が再発しやすくなるのか説明します。

糖尿病

糖尿病高血糖が持続することによって免疫機能の低下を起こします。そのためさまざまな感染症にかかりやすく、感染症にかかった時には悪化しやすくなります。糖尿病は口唇ヘルペスの再活性化に関連した病気のひとつと考えられます。

HIV感染症

HIV感染症にかかると免疫機能が徐々に低下しさまざまな感染症にかかりやすくなります。細胞性免疫が低下して免疫不全となった状態をエイズと呼びます。HIV感染者に起こる口唇ヘルペスは他の人と大きな差はありませんが、短期間に何度も繰り返すことや治りにくいことが特徴です。

悪性腫瘍(がんなど)

体内に悪性腫瘍があると免疫が低下して口唇ヘルペスが起こりやすくなります。がんに対して抗がん剤での化学療法を行うと、免疫を担当する細胞が少なくなるため、さらに免疫が低下し口唇ヘルペスが起こりやすくなります。特に白血病悪性リンパ腫などで化学療法を行っている場合にはヘルペスウイルスによる感染症が起こりやすく重症になりやすいため、予防的に内服を行ったりします。

免疫抑制薬(ステロイドなど)で治療をしている場合

免疫抑制薬は体内の免疫反応を抑える効果をあらわす薬の総称です。ステロイドや従来の免疫抑制薬の他、最近は生物学的製剤なども含まれます。これらの薬は自己免疫疾患間質性肺炎などで使われます。自己免疫疾患とは体内の異常な免疫反応が自分の身体を攻撃してしまう病気です。自己免疫疾患には関節リウマチ全身性エリテマトーデス潰瘍性大腸炎などがあります。

免疫抑制薬での治療中はヘルペスウイルスをはじめとした異物を攻撃する作用が抑えられるため、ヘルペスウイルスが体内で増殖しやすくなり、口唇ヘルペスの再発がしやすくなります。

臓器移植を受けた場合

白血病などで造血幹細胞移植をうけた場合や、腎臓などの臓器移植をうけた場合には移植された臓器への拒絶反応を抑えるために、強力な免疫抑制治療が行われます。この場合は皮膚や口の中に起こるヘルペスの症状が強く起こります。皮膚や粘膜のみではなく、肺や肝臓、全身にヘルペスウイルスが広がって病気が起こることが知られています。そのため、現在では移植を受けた場合には一定期間、抗ウイルス薬の予防内服を行います。

4. ヘルペスウイルスが原因となる病気

口唇ヘルペスは単純ヘルペスウイルスが原因となって起こります。単純ヘルペスウイルスはヘルペスウイルス科の一つです。ヘルペスウイルス科のウイルスの特徴は、初めて感染(初感染)した後に体内に潜伏感染をし、抵抗力が低下したときに再活性化して症状を起こす(回帰発症)ことです。ヘルペスウイルスの種類によって初感染時と回帰発症のときに異なる病気を引き起こします。

人に感染して病気を起こす主なヘルペスウイルス科のウイルスと、初感染、回帰発症の主な症状は次の通りです。

【ヘルペスウイルスの種類と引き起こされる病気】

ウイルス名 略称 初感染 回帰発症
単純ヘルペスウイルス1型 HHV-1 ヘルペス性歯肉口内炎
ヘルペス性角膜炎 など
口唇ヘルペス
単純ヘルペスウイルス2型 HHV-2 性器ヘルペス 性器ヘルペス
水痘帯状疱疹ウイルス HHV-3 水痘水ぼうそう 帯状疱疹
Epstein-Barrウイルス HHV-4 伝染性単核球症 など  
サイトメガロウイルス HHV-5 サイトメガロウイルス性単核球症 など サイトメガロウイルス肺炎 など
ヒトヘルペスウイルス6型 HHV-6 突発性発疹 など  

ヘルペスウイルス科の代表的なウイルスは単純ヘルペスウイルスと水痘帯状疱疹ウイルスです。その他にも、伝染性単核球症を引き起こすEBウイルスや、突発性発疹を起こすウイルスもヘルペスウイルスの仲間です。

単純ヘルペスウイルス1型は主に口唇ヘルペスの原因となりますが、性器ヘルペスの原因にもなります。その他にもヘルペス性歯肉口内炎、カボジ水痘発疹なども引き起こします。水痘帯状疱疹ウイルスは初感染時に水痘水ぼうそう)を起こし、回帰発症時には帯状疱疹を起こします。

ここでは代表的な単純ヘルペスウイルスや水痘帯状疱疹ウイルスが原因となる病気について説明します。

ヘルペス性歯肉口内炎

初めて単純ヘルペスウイルス1型に感染した時に起こる病気です。単純ヘルペスウイルスに初感染にした人のうち9割は症状が起こらずに、気がつかないうちに感染を起こしています。しかし、子どもや免疫が低下している状態ではヘルペス性歯肉口内炎などの強い症状が起こります。

ヘルペス性歯肉口内炎では、唇だけではなく口の中の粘膜や舌、歯肉に水疱がたくさんできます。水疱は潰瘍となり、口内炎が多発したような状態になります。首のリンパ節が腫れて痛み、発熱や全身のだるさが数日間続きます。口の中の強い痛みで食事がとれなくなることがあります。

以前は、単純ヘルペスウイルス1型に初めて感染した子どもに多い病気でしたが、最近では大人でも起こります。なぜなら以前は多くの人が子どもの頃に無症状のうちに単純ヘルペスウイルスに感染していましたが、最近は単純ヘルペスウイルスの感染率が低下しており、大人になって初めて感染する人が多くなったからです。

カポジ水痘様発疹症

アトピー性皮膚炎湿疹などの皮膚の病気に単純ヘルペスウイルスが感染して起こる病気です。免疫が低下している場合はこの病気を繰り返すことがあります。ヘルペスウイルス1型や2型に初めて感染した場合や、再活性化した場合に起こります。皮膚に元々ある湿疹の部分に水ぶくれが多発して、そのうち癒合して大きなびらん(皮膚のただれ)になります。また、皮膚に出血が起きたり、細菌感染を起こしたりします。顔や上半身に多く起こりますが、小さな子どもでは全身に症状が起こることがあり、高熱を伴って全身のリンパ節が腫れます。発疹は4-5日程度でかさぶたになりますが、次々と新しい皮疹ができ、完全に治るまでは時間がかかります。

口唇ヘルペス

単純ヘルペスウイルス1型が感染して唇周囲に水ぶくれ(水疱:すいほう)を起こす病気です。多くは単純ヘルペスウイルス1型の再活性化によるものです。初感染時に口唇ヘルペスを起こすこともありますが、ごく稀です。感染した単純ヘルペスウイルス1型は体内の神経節に持続的に感染して、身体の免疫が低下した時にウイルス量が増えて再活性化し、症状を引き起こします。症状の経過は、まず唇周囲にピリピリやチクチクした違和感やかゆみが起こり、その後に水ぶくれができます。水ぶくれはんだり、ただれたりしながらかさぶたになり1週間程度で治ります。

性器ヘルペス

性器ヘルペスは主に性行為で感染する性行為感染症です。単純ヘルペスウイルス2型の感染によるものが大多数ですが、単純ヘルペスウイルス1型も性器ヘルペスを起こすことがあります。単純ヘルペスウイルス2型は腰のあたりの神経に持続感染をするという特徴があるため、性器や足に症状が起こりやすいです。具体的には腰仙髄神経節(ようせんずいしんけいせつ)とよばれる神経の細胞が集まった部位に潜伏します。潜伏感染とは、ウイルスの遺伝子が細胞の中にあるものの、ウイルスの粒子は作られていない状態です。

はじめて性器に単純ヘルペスウイルスが感染した場合には強い症状が起こります。外陰部のかゆみから始まり強い痛みに変化し、発熱、全身倦怠感、リンパ節の腫れなどを起こします。完全によくなるのに2〜4週間程度かかります。単純ヘルペスウイルス1型による性器ヘルペスは2型による症状より軽度のものが多いです。

初感染後に神経節に潜伏感染を起こしたヘルペスウイルスは、過労やストレスなどによって抵抗力が低下した時や、月経時、性行為の刺激があった時に再活性化し、神経にそって広がって皮膚や粘膜の症状を起こします。

再発時は初めての感染時よりも範囲が狭く、症状が軽く1週間以内で治ることがほとんどです。再発の回数は月に2-3回の人もいれば年に1-2回の人などさまざまです。年を経るにつれて再発の回数は減ります。単純ヘルペスウイルス1型の性器ヘルペスは再発は少なく、単純ヘルペスウイルス2型の性器ヘルペスは再発を繰り返しやすい特徴があります。

水痘(水ぼうそう)

水痘は、ヘルペスウイルスのうち水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染した場合に起こる病気です。水痘になると全身に赤い丘疹(小さな皮膚の盛り上がり)が出現します。頭皮や口の中にも水ぶくれができ、発熱や全身倦怠感が起こります。水痘の発疹は、最初は赤い発疹ですが、次第に水疱になりかさぶたに変化します。全部治るのには7-10日間かかります。

帯状疱疹

帯状疱疹はヘルペスウイルスのうち、水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化で起こる回帰発症の病気です。水痘に一度かかったことがある人が、加齢、悪性腫瘍、糖尿病などにより免疫が低下した時に、体内に留まっていたウイルスが増殖して起こります。神経の走っている領域に沿って痛みや違和感が前駆症状として起こり、その後に水疱ができます。

口の周りにできたときは口唇ヘルペスと区別がつきにくいですが、帯状疱疹の方が皮疹の範囲が広いことや、身体の左右どちらかに起こり皮疹が身体の真ん中を超えないことで区別が行われます。

【参考】

Spruance SL, Overall JC Jr, Kern ER, et. al. The natural history of recurrent herpes simplex labialis: implications for antiviral therapy. N Engl J Med. 1977 Jul 14;297(2):69-75.