口唇ヘルペスとは
口唇ヘルペスは単に「ヘルペス」とも呼ばれ、単純ヘルペス
目次
1. 口唇ヘルペスとは
口唇ヘルペスは多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。口唇ヘルペスの原因になる単純ヘルペスウイルス1型には世界の50歳未満の人のうち37億人(67%)が感染していると推定されています。
口唇ヘルペスのことを単に「ヘルペス」という言葉で知っている人もいるかもしれません。正確には口唇ヘルペスと呼ばれ、単純ヘルペスウイルスの感染により唇に痛みを伴う小さい水ぶくれができる病気です。口唇ヘルペスは疲れた時やストレスがかかった時などに繰り返しできることが少なくありません。なぜこのように繰り返し口唇ヘルペスになるかというと、単純ヘルペスウイルスは一度感染すると体内にウイルスが留まって持続感染(
【口唇ヘルペスの画像】
口唇ヘルペスを引き起こす単純ヘルペスウイルスについて、もう少し詳しく説明します。
単純ヘルペスウイルスとは
単純ヘルペスウイルスは人に感染して、皮膚や粘膜に痛みを伴う水ぶくれやただれを起こすウイルスです。単純ヘルペスウイルスには1型と2型があります。1型は主に口などに感染して口唇ヘルペスなどの原因になりますが、性器ヘルペスの原因にもなります。2型ヘルペスは主に性器ヘルペスの原因になります。
ほとんどの人は子どもの時に
ヘルペスウイルスの特徴は、一度感染するとウイルスの一部が体内に留まって持続的に感染を起こすことです。体内にウイルスが潜伏していても通常は特に症状はあらわれません。しかし、抵抗力が低下するとウイルスが再活性化して増殖し皮膚や粘膜に痛みを伴う水ぶくれを作ります。
単純ヘルペスウイルスは身体のどこにでも感染しますが、引き起こされる病気は口唇ヘルペスが最も多く、ついで性器ヘルペス、顔面ヘルペス、カポジ水痘様発疹症と続きます。
単純ヘルペスウイルスが起こす病気は次のようなものがあります。
口唇ヘルペス、顔面ヘルペス、性器ヘルペスはそれぞれ、口唇、顔面、性器にできたヘルペスです。ヘルペス性歯肉口内炎は単純ヘルペスウイルスの初感染時に起こりやすく、口腔内に口内炎がたくさんできて歯肉が赤く腫れ上がります。ヘルペス性ひょう疽は手指にできたヘルペスで、ヘルペスウイルスが手につきやすい医療従事者に多い病気です。
カポジ水痘様発疹症はアトピー性皮膚炎など皮膚のバリアが弱い人に起こりやすく、皮膚の病気がある部位にヘルペスウイルスによる水ぶくれが起きたり
2. 性器ヘルペスとは:口唇ヘルペスとの違いなど
性器ヘルペスは主に性行為で感染する性行為
口唇ヘルペスと性器ヘルペスとの違い
単純ヘルペスウイルスには1型と2型があり、口唇ヘルペスは主に単純ヘルペスウイルス1型が原因となり、性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス2型が原因になる点が両者の主な違いです。
単純ヘルペスウイルス2型は、腰のあたりにある腰仙髄神経節(ようせんずいしんけいせつ)とよばれる神経の細胞が集まった部位に持続感染を起こすため、性器や足に再発の症状を起こしやすいという特徴があります。潜伏感染とは、ウイルスの遺伝子が細胞の中にあるもののウイルスの粒子は作られていない状態です。
一方、口唇ヘルペスを起こす単純ヘルペスウイルス1型では顔に近い三叉神経節に潜伏感染を起こすため、口や顔などに再発を繰り返しやすいという特徴があります。しかし、口唇ヘルペスができている人の水ぶくれの内容物や皮膚、唾液を介して性器に感染することが知られており、オーラルセックスなどで単純ヘルペスウイルス1型の性器ヘルペスを起こすことがあります。単純ヘルペスウイルス1型の性器ヘルペスは2型に比べて再発回数が少なく、症状が軽いことが知られています。
性器ヘルペスの症状
初めて性器にヘルペスウイルスが感染した場合には強い症状が起こります。
症状が治ってもヘルペスウイルスは腰仙髄神経節に潜伏感染を起こすので、過労やストレスなどで抵抗力が下がった時や、月経時、性行為の刺激があった時などに再活性化し、再び神経にそって皮膚の症状を起こします。再発時は初めての感染時よりも範囲がせまく、症状が軽く、1週間以内で治ることがほとんどです。
再発の回数は月に2-3回の人もいれば年に1-2回の人などさまざまです。年を経るにつれて再発の回数は減ります。単純ヘルペスウイルス1型による性器ヘルペスでは再発が少なく、2型によるものは再発が多いとされています。
3. 口唇ヘルペスの感染経路
単純ヘルペスウイルスは主に
口唇ヘルペスが出ているときだけでなく、自覚症状や目に見える明らかな症状がない口唇および周囲の皮膚からも感染することがあります。自分の皮膚についただけでは感染はしませんが、皮膚の小さな傷や湿疹、粘膜部分に触れた場合には感染を起こします。また、症状がなくても唾液から持続的に排出されていることがあり、感染源となることがあります。
口唇ヘルペスがうつる時期
単純ヘルペスウイルスはいつでも感染する可能性があります。しかし、感染しやすさの程度は時期によって変わります。水ぶくれがある時や、皮膚がじゅくじゅくしている時は特に強い感染力があります。口唇ヘルペスの部分が完全にかさぶたになると感染力は落ち着きますが、なくなる訳ではありません。
また、ヘルペスウイルスの症状がなくとも、ウイルスが唾液や性器から排出されているため、この時期も感染する可能性があります。
ヘルペスをうつさない方法
口唇ヘルペスの症状が出ている時には、単純ヘルペスウイルスの
ヘルペスウイルスの予防接種はないため、感染を予防するためにはヘルペスの症状が出ている時は接触しないことが重要です。赤ちゃんや子どもにキスしたりしないこと、同じタオルや寝具を使用しないこと、同じ食器を使用しないことなどで感染を予防できます。
4. 口唇ヘルペスに感染した後の経過、潜伏期間
ヘルペスウイルスに初めて感染した時、ウイルスは免疫の働きで排除されますが、一部のウイルスは排除されずに神経節に残ります。その後になんらかの原因で免疫が低下した際に、このウイルスが増えて、神経を伝って皮膚や粘膜に症状を起こします。これが口唇ヘルペスを繰り返す仕組みです。もう少し詳しく説明します。
初感染のときの経過
単純ヘルペスウイルスは主に接触感染で感染します。
以前は思春期までにほとんどの人が単純ヘルペスウイルスに感染して
初感染を起こしても免疫が正常の人ではほとんど症状が起こりません。子どもや赤ちゃん、免疫が低下している人は初感染で症状が起こることがあります。主に口唇ヘルペスとヘルペス性歯肉口内炎が引き起こされます。
口唇ヘルペスが起こる場合には、前駆症状として皮膚のピリピリした違和感やかゆみが起こり、水ぶくれができます。水ぶくれは中央が凹んでいたり、周囲が赤くなっていたりします。水ぶくれは中身が水から膿に変化した後に、皮膚がじゅくじゅくして、ただれたようになり、その後かさぶたになって治ります。通常1週間程度で
初感染時にはヘルペス性歯肉口内炎になることもあります。ヘルペス性歯肉口内炎は、多くは5歳までの子どもが初感染した時に起こる病気ですが、最近は大人になって初めて感染して起こるケースが増えています。口の中の粘膜が荒れて、舌、歯茎、ほおの粘膜など口の中の全体に口内炎ができます。発熱や倦怠感も起こります。
単純ヘルペスウイルスに感染するとウイルスは免疫の働きで排除されますが、一部のウイルスは排除されずに神経節に残ります。これを持続感染または潜伏感染と呼びます。
潜伏感染
初感染で排除されなかったヘルペスウイルスは神経節の中に残って感染し続けます。具体的には神経細胞の核の中に遺伝子の形として残ります。身体の免疫がきちんと働いている場合にはウイルスが増えないように抑えられています。この間は基本的には無症状です。しかし、初感染後1年以内は、ヘルペスウイルスの症状がなくとも、ウイルスのみが唾液や性器から排出されていることがあります。
潜伏感染をしていたヘルペスウイルスは身体の抵抗力が弱まると、細胞内で増殖をはじめて神経を伝わって症状を引き起こします。これが次に説明する再活性化による再発です。
再活性化による再発をしたときの経過
口唇ヘルペスの再発は、身体の疲労、ストレス、発熱などの抵抗力を弱める状況や、紫外線などの皮膚への刺激が
再発時には初感染時と同じような
5. 口唇ヘルペスの症状
口唇ヘルペスは前駆症状として唇のまわりが痒くなったり、痛みを感じたりします。その後皮膚が赤くなり水ぶくれはできます。口唇ヘルペスの症状の変化は次の通りです。
- 前駆症状
- 皮膚のかゆみ
- 皮膚の痛み
- 前駆症状に続く症状
- 皮膚の赤み
- 水ぶくれ
- 皮膚のただれ
- かさぶた
まず前駆症状として皮膚のピリピリした違和感やかゆみ、痛みが起きます。その1-2日後に皮膚の赤みがおき、水ぶくれができます。水ぶくれは中身が水っぽいものから、膿のようなものに変化した後に、水ぶくれが破れて皮膚がじゅくじゅくして、ただれたようになり、その後かさぶたになって治ります。その他に症状が強いと発熱やリンパ節の腫れを起こすこともあります。
口唇ヘルペスが自然治癒するまでにかかる時間は通常1-2週間です。薬を使用すると治癒の期間が短縮したり、痛みが軽くすんだりしますが、何もしなくても1-2週間で改善します。
口唇ヘルペスの症状については「口唇ヘルペスの症状」に詳しく記載してありますので参考にしてください。
6. 口唇ヘルペスの原因と再発の誘因
口唇ヘルペスの原因は単純ヘルペスウイルスの感染です。口唇ヘルペスの多くは単純ヘルペスウイルスの再活性化によって起こります。
初めて単純ヘルペスウイルスに感染した場合にはほとんどが無症状で気がつきません。単純ヘルペスウイルスは一度感染すると神経の細胞が集まった神経節にウイルスが留まって持続感染(潜伏感染)を起こします。身体が元気な時にはウイルスは神経節の中に留まっていますが、身体の抵抗力が低下するとウイルスが増殖(再活性化)して口唇ヘルペスなどの症状を引き起こします。再活性化によって症状を起こした状態を回帰
再活性化に関連していると考えられているのは次のようなことです。
単純ヘルペスウイルスが再活性化する時は身体の抵抗力が低下した時です。精神的ストレスや、疲れ、睡眠不足などの身体的ストレスは身体の抵抗力を低下させます。風邪などを引いた場合でも抵抗力が低下して口唇ヘルペスが再発しやすくなります。女性では月経の前後に口唇ヘルペスが起こりやすいとされています。また、紫外線は皮膚に
その他に糖尿病、HIV感染症、悪性腫瘍にかかっている人や、病気の種類に関わらず治療で免疫抑制剤を使用している人、臓器移植後の人は、免疫力が低下しているため口唇ヘルペスを再発しやすいです。
詳しくは「口唇ヘルペスの原因」記載してありますので参考にしてください。
口唇ヘルペスを引き起こす単純ヘルペスウイルスは、口唇ヘルペスの他にも次のような病気の原因になります。
ヘルペス性歯肉口内炎は単純ヘルペスウイルスに初めて感染した時に起こる症状で口の中に口内炎が多発して高熱が出る病気です。カポジ水痘様発疹症はアトピー性皮膚炎などの人に起こる皮膚全体の
ヘルペスウイルスが引き起こす病気については「ヘルペスウイルスが原因となる病気」に詳しく記載してありますので参考にしてください。
7. 口唇ヘルペスの検査
口唇ヘルペスかどうかを診断するための検査は次の通りです。
問診 - 身体診察
- 血液検査
- ウイルスの検査
- Tzanck試験(ツァンク試験)
- ヘルペスウイルス抗原検査
細胞診
診断に必要な検査は主に問診と身体診察です。問診では病気の症状や経過について聞かれ、身体診察で水ぶくれや赤みのある部分の診察が行われます。状況に応じて血液検査やウイルス検査、細胞診が行われます。ほとんどの場合は問診と身体診察で診断が行われて、治療が決められます。
詳細は「口唇ヘルペスの検査」に記載してありますので参考にしてください。
8. 口唇ヘルペスの治療
口唇ヘルペスの治療は原因となっている単純ヘルペスウイルスを増殖させないようにすることと、痛みを抑えることです。主な治療は次のようなものがあります。
外用薬 内服薬 - 抗ウイルス薬
- 鎮痛薬
抗ヘルペスウイルス薬には内服薬、塗り薬などがあります。どの形態の薬を使用するかはヘルペスウイルスの感染が初感染か回帰発症かと、再発の場合には再発の頻度などによって決められます。
以前はヘルペスウイルスの薬は病院で処方される薬しかありませんでしたが、最近では口唇ヘルペスの再発に限り市販薬の軟膏を購入することができます。口唇ヘルペスの治療は症状が始まってすぐに治療を行う方が効果的であり、市販薬をうまく利用することも選択肢の一つです。
詳しくは「口唇ヘルペスの治療」を参考にしてください。
9. 口唇ヘルペスの注意点
口唇ヘルペスになると周りにうつしてしまうのではないかと不安になる人もいると思います。口唇ヘルペスは水ぶくれの内容物や周囲の皮膚、唾液などが感染源となって、周囲に感染します。また皮膚に何も症状が出ていないときでも唾液などにウイルスが含まれることがわかっています。少なくとも口唇ヘルペスが出ている状況は最も感染力が強いため、食器やタオルなどの共用は避けてください。
口唇ヘルペスを早く治す、あるいは再発を防ぐためには身体の抵抗力を下げないような生活が重要です。具体的には精神的、身体的なストレスとうまく付き合い、バランスの良い食事などを心がけます。
詳しくは「口唇ヘルペスの人が日常生活で気をつけること」を参考にしてください。
【参考】
「皮膚科Q&A」https://www.dermatol.or.jp/qa/qa5/q05.html
「Herpes simplex virus」http://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/herpes-simplex-virus