たんどうがん
胆道がん
胆道に発生する悪性腫瘍(胆管がん、胆のうがん、乳頭部がん)の総称
6人の医師がチェック 167回の改訂 最終更新: 2022.10.17

胆のうがんとは?症状・検査・ステージ・治療についての解説

胆嚢(たんのう)は肝臓で作られた胆汁を一時的に溜めておいたり、濃縮したりする働きがあります。胆のうは結石やポリープができるほか、がんが発生する場合もあります。胆のうの場所や胆のうがんの治療などを解説します。

1. 胆のうとは?胆のうの位置と場所は?

肝臓・胆嚢の正常解剖のイラスト

胆嚢の正常解剖のイラスト

胆のう(胆嚢、たんのう)は右の上腹部にあり、肝臓の下にあります。胆のうは洋梨のような形をしています。胆のうは袋状で、左側から胆のう管という管が出ています。胆のう管は肝臓から来る総肝管(そうかんかん)という管と合流して総胆管(そうたんかん)になります。総胆管は膵臓(すいぞう)の中を通って十二指腸までつながっています。

胆のうは「胆道」の一部とされます。胆道とは胆汁(たんじゅう)という消化液の通り道を指す言葉です。胆汁は肝臓で作られ、総肝管を通って出て行きます。胆のうと胆のう管はその途中にあり、胆汁を一時蓄え濃縮する役割を持っています。

胆のうの中で、胆汁の成分が固まって石のようになることがあります。これが胆のう結石です。

2. 胆のうがんの症状は?

ほかのがんと同様、小さい胆のうがんがあっても自覚症状はないことが多いです。

胆のうがんで最初に現れる症状は右上腹部痛が多いことで知られています。ほかの症状が出ることもあります。

  • 右上腹部痛
  • 黄疸
  • 悪心嘔吐
  • 体重減少
  • 食思不振

黄疸(おうだん)もよく見られる症状の一つです。黄疸とは、皮膚や眼球結膜(白目の部分)が黄色っぽくなるなどの症状です。黄疸で胆のうがんを発見される人は経過が厳しくなりやすいことも知られています。黄疸が起きるのは胆汁の流れが妨げられたときです。

胆のうは胆汁を一時的に溜めておく場所です。胆のうにがんができても大きくなるまでは胆汁の流れには影響は少ないです。胆のうがんで黄疸が出るときは胆のうがんがかなり進行した段階が多いと考えられます。

参照:胆道癌診療ガイドライン2013年版. Arch Surg.2009;144:441-7

3. 胆のうがんの原因は?

胆のうがんが発生する危険性が上がるものについてはいくつかの病気などが知られていあます。

膵胆管合流異常症は胆管と膵管(すいかん)が本来の場所とはことなる部位でつながることです。膵胆管合流異常症があると膵管を流れる膵液が胆管や胆のうに流れ込むことがあります。膵液が胆管や胆のうを流れると慢性的炎症が起きます。慢性的な炎症により細胞の破壊と再生が繰り返して起きるのでがんが発生しやすくなると考えられます。

喫煙や糖尿病胆のうがんが発生する危険性を上昇させることが知られています。

参照:胆道癌診療ガイドライン2013年版. Int J Cancer.2008;122:924-9. Br J Cancer.2012:103:115-9

4. 胆石症は胆のうがんと関係ある?

胆のうがんの人に胆石も見つかることはよくあります。胆石が胆のうがんを引き起こすかどうかははっきりしません。

胆のうにできる石を胆のう結石(または胆石)といいます。症状のない胆のう結石を無症状胆のう結石といいます。無症状胆のう結石はほかの病気の検査などで偶然見つかることがあります。無症状胆のう結石があっても、問題を起こす危険は小さいと予想されればすぐには治療せず経過観察する場合があります。

胆のうがん胆のう結石が同時に見られることはあります。胆のう結石胆のうがんの発生の危険性を上昇させるという報告と上昇させないという報告があります。無症状胆のう結石胆のうがんの発生する危険性を上昇させるかどうかについて、確かな証拠は現在のところありません。

参照:胆石症診療ガイドライン2016年版. J Hepatobiliary Pnacreat Surg.2008;15:15-24.

胆のうがんの予防目的で無症状胆のう結石を治療すべきか?

胆のうがんの予防目的で無症状の胆のう結石を治療することは勧められていません。無症状の胆のう結石がある人を経過観察したところ胆のうがんが発生する確率は年0.01-0.02%とかなり低いという報告があります。

手術では様々な危険があります。胆のうがんを予防するために胆のうを切除しても、得られる利益は手術を受ける不利益を下回ると考えられています。

胆のう摘出をしたらいいのはどんなとき? 

胆石症診療ガイドライン 2016年版」では、胆のう摘出をした方がよい人は胆のう結石によって何らかの症状がある人とされています。胆のう結石による症状は、右の脇腹が痛む・熱が出るなどがあります。

無症状の胆のう結石は基本的には経過観察が勧められています。無症状の胆のう結石がある人は年1回の超音波検査も勧められています。胆石の大きさなどを観察することが推奨されています。

5. 胆のうポリープと胆のうがんは関係ある?

ポリープは良性のできものです。がんとは異なります。しかし胆のうポリープの中には手術が勧められる場合があります。

胆のうポリープを摘出したほうがいい人は?

「胆道癌診療ガイドライン」では、胆のうポリープがある人で、以下のいずれかに当てはまれば胆のうを摘出する手術を勧めています。

  • 胆のうポリープが10mm以上でかつ画像上増大傾向を認める場合
  • 大きさに関わらず広基性の場合

胆のうポリープは超音波検査(エコー検査)やCT検査などの画像検査で診断されます。胃や大腸にできるポリープと違うのが、画像検査の比重が大きいことです。胃や大腸にできるポリープは内視鏡で見たうえポリープの一部を取り出して顕微鏡で観察します。顕微鏡で見る検査を病理検査といいます。病理検査は病気が疑われるものの性質を知るのにはもっとも信頼性の高い検査です。病理検査で良性と診断されると安心して経過観察ができます。しかし胆のうポリープの病理検査は胃や大腸の検査に比べて難しいので画像検査に重きをおいて判断することがあります。胆のうポリープの病理検査はなぜ難しいのでしょうか。

胆のうポリープの診断は難しい?

胆のうポリープの病理検査をするにはポリープの一部を取り出す必要があります。しかし胆のうからポリープの一部をとってくるのは難しいです。胆のうに内視鏡で到達するには胃、十二指腸、胆管を通過する必要があります。胆のうに到達するにはかなり距離が長いです。しかも胆管は胃などに比べるとかなり細いので内視鏡を操作するにも高い技術が必要になります。このために胆のうポリープの病理検査はあまり多くは行われていません。

画像検査は病理検査に比べて確実性に劣ります。そのために悪性が疑われる特徴が見られる場合は診断も兼ねて手術が勧められることがあります。

悪性を疑う特徴としてはいくつかあります。ポリープの大きさや形が良性と悪性を区別する目安に使われます。過去のいくつかの検討によると、ポリープの大きさが10mm以上でかつ大きくなる傾向が見られるものや腫瘍の茎が太いものなどは悪性の可能性を考えて手術が提案されることがあります。

参照:胆道癌診療ガイドライン

6. 胆のうがんの生存率は?

胆のうがんの生存率はステージごとに集計されています。ステージとはがんの進行度を分類したものです。胆のうがんはステージIからステージIVbまでに分けられます。

ステージごとの生存率として表の数値が報告されています。

  5年生存率
ステージI 87.5%
ステージII 68.7%
ステージIII 41.8%
ステージIVa 22.3%
ステージIVb 6.3%

このステージは今のステージの決め方の一つ前の決め方で定められたものなので参考程度にしてください。

また、手術をした人々の最終的なステージを基準にグループ分けしています。手術をするまでわからない点もステージ分類に関わる場合があるので、手術の前と最終的なステージは異なることがあります。そのため手術をしなかった場合の生存率は反映されていません。

参照:J Hepatobiliary Pancreat Surg.2009:16;1-7

7. 胆のうがんの検査は?

胆のうがんではいくつかの検査を用いて診断の確定やステージの分類をします。

胆道がんのステージを決めるための検査の順序

超音波検査

超音波検査(エコー検査)は超音波を利用してお腹の中などを画像化して観察する検査です。放射線を使用しません。お腹にプローブという機械を当てて体の中を観察します。

超音波検査では胆のうがんの形、大きさなどをみることができます。超音波検査は繰り返して検査ができ、その場で画像が見えるので手術後にも使うことがあります。超音波検査のみで診断を確定することはありませんが、診療の様々な場面で登場します。

CT検査

CT検査は放射線を使った検査です。胆のうがんでは胆のう内の腫瘍、リンパ節への転移や場合によっては拡張した胆管を確認できることがあります。CT検査の中でも造影剤を使ったダイナミックCT検査という方法が大事です。ダイナミックCT検査では腫瘍の特徴をつかむことができたり、胆のうと血管の位置関係の把握などに役立ちます。 

CT検査では他の臓器への転移の有無も確認することができます。

造影剤は腎臓の機能が低下している場合などで使用できないことがあります。その場合には他の検査の所見などを組み合わせて診断します。

MRI検査(MRCP)

MRI検査は、磁気を利用する画像検査です。放射線を使うことはありません。体の中にペースメーカーなどの金属製品が入っている人はMRI検査を使えない場合があります。

MRI検査の中でも胆道の流れを映し出すMRCPが胆のうがんの診断には有用です。胆のうがんが大きくなって胆管の流れの妨げになると胆管が拡張するなどの特徴が確認できることがあります。

ERC(内視鏡的逆行性胆管造影)

ERCは、胆管に造影剤を注入して胆管や胆のうの形をレントゲンX線)を利用して観察します。胆管や胆のうの形はMRCPでも確認できますがERCには内視鏡を使う利点があります。ERCでは胆汁などを内視鏡を使って体の外に取り出すことができます。胆汁にがん細胞が交ざっているかを確認することができます。

ERCは黄疸という状態がある場合に使われる検査です。黄疸は胆汁の流れががんにより妨げられて皮膚などが黄色くなることです。他の胆道がんに比べて胆のうがんは黄疸が少ないので検査をしない場合もあります。

PTC(経皮的肝胆道造影)

PTCは体の外から胆道に針を刺して胆道の形を観察する検査です。

PTCは皮膚から肝臓を貫いて肝内胆管に針を刺してそこからチューブを挿入します。チューブから造影剤を注入して胆管や胆のうの形を確認します。

黄疸に対する治療の際にもPTCをすることがあります。黄疸はがんによって胆道が閉塞して胆汁が体の外に出せない状況です。胆汁が滞ると皮膚が黄色くなるなどの黄疸の症状がでます。胆汁を体の外に出す目的でPTCで挿入したチューブを置いたままにしておくことがあります。これをPTBDといいます。

PTBDの方法については「胆道がんの症状は?皮膚が黄色くなる黄疸とは?」で解説しています。

POCS(経口胆道鏡)

胆道を内視鏡で観察します。胆道鏡という種類の内視鏡を使用します。POCSはあまり多く用いられる検査ではありませんが胆道の中から見た状況を確認できることが利点です。PCSを使うと病変の一部を取り出したりすることができます。

病理検査

病理検査は病変の一部などを顕微鏡で観察してがんがあるかどうかを判断します。体の一部をみるのでがんがあると判断された場合にはその信頼性はかなり高いです。胆のうがんでの病理検査は主に2つの方法があります。

病理検査の方法とは?

病理検査の方法の1つは内視鏡を利用して組織や細胞を取り出す方法です。たとえばERC(内視鏡的胆道造影)で胆管の造影をするときに胆汁を体の外に取り出すことができます。胆汁の中にもがんの細胞が含まれていることがあり、取り出した胆汁を観察することで悪性と判断することができます。

もう1つの方法は体の外から病変に針を刺して組織を取り出す方法です。

胆のうがんの診断には病理検査は絶対に必要ではありません。病理検査はいずれの方法を選んだとしても体への負担がつきものです。このために画像所見で胆のうがんと明らかな場合には病理検査をせずに診断することも多いです。

腫瘍マーカー

胆のうがん腫瘍マーカーにはCA19-9とCEAがあります。腫瘍マーカーは信頼性の高い検査ではありません。

CA19-9

基準値:37IU/ml以下

CA19-9(シーエー・ナインティーン・ナイン)は胆のうがんの腫瘍マーカーとして知られています。CA19-9は膵臓がん胃がん肺がんなどでも上昇することがあります。CA19-9はがん細胞だけから出される物質ではありません。がん以外の病気でも上昇します。膵炎、慢性胃炎、腎嚢胞(じんのうほう)などの良性の病気でもCA19-9が上昇することが知られています。

CEA

基準値:5.0ng/ml以下

CEA(シーイーエー)は胆のうがんの腫瘍マーカーとしても使われます。他のがんでは大腸がん胃がん肺がんなどでもCEAが上昇することがあります。CEAはがん細胞だけから出される物質ではありません。がん以外の病気でも上昇します。がん以外の病気では肝炎、肺炎糖尿病などの良性の病気でもCEAが上昇することが知られています。喫煙するだけでもCEAが上昇します。

8. 胆のうがんのステージは?

ステージとはがんの進行度を分類したものです。胆のうがんのステージはステージIからステージIVの4つに大きく分けられます。さらに細かくステージIIIはステージIIIAとIIIBに、ステージIVはIVAとIVBに分かれます。

ステージはT因子(胆のうでのがんの状態)、N因子(リンパ節転移の有無)、M因子(遠隔転移の有無)の3つの組み合わせから決められます。以下が対応した表になります。

  T因子 N因子 M因子
ステージ 0 Tis N0 M0
ステージ I T1 N0 M0
ステージ II T2 N0 M0
ステージ IIIA T3 N0 M0
ステージ IIIB T1、T2、T3 N1 M0
ステージ IVA T4 Any N M0
ステージ IVB Any T Any N M1

参照:胆道癌取扱規約 第6版

T因子

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。胆管でのがんの状態を示しています。胆のうがんのT因子は胆のうの壁や周りの臓器への浸潤(しんじゅん)の程度で決まります。浸潤とはがん細胞が隣り合った組織に入り込みながら広がっていくことです。

胆のうがんのT因子を調べるにはCT検査やMRI検査などの画像検査が重要です。

  • TX:腫瘍評価不能
  • T0:腫瘍が明らかではない
  • Tis:carcinoma in situ
  • T1a:粘膜固有層への浸潤
  • T1b:固有筋層への浸潤
  • T2:漿膜下層あるいは胆嚢床部筋層周囲の結合織に浸潤
  • T3a:漿膜浸潤、肝実質浸潤および/または一か所の周囲臓器浸潤(胃、十二指腸、大腸、膵臓、大網)
  • T3b:肝外胆管浸潤
  • T4a:肝臓以外の二カ所以上の周囲臓器浸潤(肝外胆管、胃、十二指腸、大腸、膵臓、大網)
  • T4b:門脈本幹あるいは総肝動脈・固有肝動脈浸潤

N因子

Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。N因子はリンパ節転移の程度を評価したものです。肝門部の近くのリンパ節を領域リンパ節といいます。ここでのリンパ節転移は領域リンパ節への転移をさします。領域リンパ節以外のリンパ節への転移は遠隔転移に入ります。

  • NX:評価不能
  • N0:領域リンパ節転移なし
  • N1:領域リンパ節あり

リンパ節転移とは?

がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管は全身で網の目のようなつながり(リンパ網)を作っています。

リンパ網にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

M因子

MはMetastasis(転移)の頭文字です。遠隔転移を評価します。胆のうから離れた臓器に胆のうがんが転移することを遠隔転移と言います。領域リンパ節転移は遠隔転移とはいいません。臨床現場において「転移」という言葉は、遠隔転移を指して領域リンパ節は除くという意味で使われている場合があります。

  • M0:遠隔転移なし
  • M1:遠隔転移あり

9. 胆のうがんの治療は?

胆のうがんを根治する目的の治療は手術です。根治とはがんを身体からすべて取り除くことです。抗がん剤治療では胆のうがんを根治することは難しいと考えられています。

胆道がんの治療の選びかた

胆のうがんは腹痛や黄疸(おうだん)などの症状をきっかけにして見つかることが多いです。黄疸はがんが大きくなって胆汁の流れが滞ることでおきます。黄疸は皮膚が黄色くなるなどの症状です。黄疸の状態を改善する治療を減黄術(げんおうじゅつ)といいます。減黄術には内視鏡を使う方法や体の外から針を刺す方法があります。黄疸の症状がないときには減黄術は必要ではありません。

  • 減黄術
    • 内視鏡を利用する方法
      • ENBD(Endoscopic nasobiliary drainage:内視鏡的経鼻胆道ドレナージ
      • ステント療法(Endoscopic biliary stenting:EBS)
    • 体の外から管を入れる方法
      • PTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage:経皮経肝胆道ドレナージ)
  • 根治を目的とした手術
    • 胆のう摘出
    • 拡大肝葉切除術+肝外胆管切除術
    • 胆のう摘出+肝切除術
    • 拡大肝葉切除術+膵頭十二指腸切除
  • 抗がん剤治療
  • 放射線治療

転移があったりがんの広がりが大きくて手術で取り除くことが難しい場合などには抗がん剤で治療されます。放射線治療は転移した部位に痛みなどの症状がある場合に使われることがあります。

10. 黄疸(おうだん)とは?

胆のうがんが大きくなり胆管を塞ぐと胆汁の流れが滞ります。胆汁の流れが滞ると黄疸が起きます。つまり、胆汁が排泄されないために皮膚や眼球結膜(白目の部分)が黄色くなったり皮膚がかゆくなったりします。

減黄術(げんおうじゅつ)とは?

黄疸を改善する治療を減黄術といいます。黄疸は胆汁の流れが悪い(うっ滞)ことが原因です。減黄術は黄疸の原因となっている胆汁を体の外に出したり流れを改善したりします。黄疸が現れてい症状がある場合はまず黄疸の治療をします。

減黄術には何がある?

減黄術は大きく分けて2種類があります。

  • 内視鏡を利用する方法
    • ENBD(Endoscopic nasobiliary drainage:内視鏡的経鼻胆道ドレナージ)
    • ステント療法(Endoscopic biliary stenting:EBS)
  • 体に針を刺して管を入れる方法
    • PTBD(percutaneous transhepatic biliary drainage:経皮経肝胆道ドレナージ)

多くの場合はまず内視鏡を利用した減黄術を選択します。内視鏡を用いた方法の中でもENBDが用いられることが多いです。

それぞれの方法については「胆道がんの症状は?皮膚が黄色くなる黄疸とは?」で解説しています。

11. 胆のうがんの手術とは?

胆のうがんの手術にはいくつか方法があります。手術の方法は画像検査などの結果を元にしてがんの広がりを判断して決められます。

  • 胆のう摘出
  • 拡大肝葉切除術+肝外胆管切除術
  • 胆のう摘出+肝切除術
  • 拡大肝葉切除術+膵頭十二指腸切除術

胆のうがんが進行している場合には胆のうとともに肝臓の一部や膵臓(すいぞう)の一部を切除することがあります。がんの広がりがかなり大きいときには肝臓と膵臓の一部ずつを同時に摘出することもあります。

胆のう摘出

胆のうがんの手術は、胆のうだけを切除するわけではありません。肝臓を胆のうに付着させて摘出します。胆のうは自然なとき(生理的)には肝臓に付着した状態で固定されています。

胆のうがんに対して行われる胆のう摘出は胆のうと肝臓をはがさずに肝臓の一部を胆のうに付着させて摘出します。肝臓も同時に切り取ることで胆のうがんを露出させずに胆のうを摘出することができます。

胆のうがんの手術は胆のう結石に対する手術の方法とは異なります。胆のう結石に対する手術は胆のうを肝臓から剥がして摘出します。

胆のうがんがかなり進行している場合には?

胆のうがんがかなり進行していて肝動脈や門脈という肝臓に流れ込む大事な血管まで広がっていることがあります。胆のうがんがかなり進行している場合には肝臓を大きく切除することもあります。

参考:胆道癌診療ガイドライン2013年版. Am J Clin Pathol.2011;135:637-642

肝外胆管切除術

肝外胆管は肝臓の中の胆管(肝内胆管)が集まり肝臓から外に出た後の胆管です。

胆のうがんの手術では、がんが肝外胆管まで浸潤している場合には肝外胆管を切除します。

肝外胆管には胆汁を腸に運ぶ通り道の役割があります。肝外胆管を切除した場合には残った肝外胆管と小腸をつなぎなおします。

肝切除術と拡大肝葉切除術

肝切除術は肝臓を切り取る手術のことです。肝臓の切り取り方にはいくつか方法があります。

肝切除の種類は?

肝切除にはいくつか種類があります。手術の方法は肝臓を切り取る範囲で決まります。切り取る範囲が狭い順に挙げます。

  • 部分切除 
  • 亜区域切除 
  • 区域切除 
  • 葉切除
  • 拡大肝葉切除術

胆のうがんで肝切除が必要になる場合は広範囲にがんが広がっていることがあるので葉切除(ようせつじょ)もしくは拡大肝葉切除が選ばれることが多いです。

拡大肝葉切除術

拡大肝葉切除術は、肝臓の半分を切除する葉切除からさらに範囲を広げて肝臓を切除します。範囲はがんの広がりを評価して決めます。さらに大きく肝臓の4分の3を切除する3区域切除も選ばれることがあります。

拡大肝葉切除術は肝臓を切除する範囲が広くなるので手術の後に肝臓が機能するかどうかが問題になります。肝臓の機能は大きさなどによって推定します。切除した後に残る肝臓の体積などをシュミレーションして手術を計画します。残る肝臓の大きさが小さく、肝臓の機能が十分に残らないと判断された場合は、PTPE(経皮経肝門脈塞栓術)という方法で残る肝臓を大きくしてから手術することもあります。

膵頭十二指腸切除術

胆のうがんが広範囲に広がっていたり胆管にも病変が飛び地のように広がっている場合(skip lesion)には広範囲の肝切除(拡大肝葉切除術)と膵臓の一部、十二指腸、胆のうなどを摘出する膵頭十二指腸切除術を同時に行う場合があります。

膵頭十二指腸切除で切除する臓器は?

膵頭十二指腸切除術では膵臓の一部の他にいくつかの臓器を切除します。

  • 膵頭部(十二指腸に接する膵臓の右側)
  • 胃の下半分(幽門側)
  • 十二指腸
  • 空腸の一部
  • 胆管

上の臓器に加えてがんができた場所(原発巣)である胆のうも摘出します。

さらに、胆道の周囲のリンパ節を切除するリンパ節郭清(かくせい)も同時に行います。リンパ節は血管の近くにあります。リンパ節郭清は血管の近くにあるリンパ節を全部まとめて切除することです。

膵頭十二指腸後の再建は?

膵頭十二指腸切除術の後には、再建という作業が必要となります。再建とは、臓器が再び機能するように作り直すことです。ここでは膵液の流れ、胆汁の流れ、消化された食べ物の流れの3つを作り直す必要があります。

再建の方法はいくつかありますが、目的は同じです。

流れが再びつながるように、臓器を移動させて縫合(ほうごう)します。つなぎ合わせることを吻合(ふんごう)と言います。最も重要な縫合部位は小腸(空腸)と膵臓(膵管)を繋いだ部分(膵管-空腸吻合)です。膵管-空腸吻合が上手くいかないと膵液(すいえきろう)という合併症を起こします。膵液瘻は腹腔内出血を起こす膵仮性動脈瘤の原因になることもある危険な合併症です。

また膵管が狭くなり過ぎてしまうことも問題になります。膵管には手術の後も管を入れておくことがあります。管は体の外から出す場合(外瘻化)と短い管を入れておく場合(内瘻)があります。

手術の後に栄養価の高い液体を腸に流し込めるように、お腹に穴を開けて経腸栄養チューブという細い管を体の外に出しておくこともあります。

12. 胆のうがんの手術の合併症は?

胆のうがんは胆管を含めた周りの臓器を摘出する手術です。多くの臓器を摘出するために注意しなければいけない合併症も多くなります。合併症とは治療に伴って現れる症状や病気のことです。

膵液瘻(すいえきろう)

胆のうがんの広がりが大きい場合の手術では膵臓(すいぞう)を切除することがあります。

膵臓は膵液という消化液を作り分泌します。膵液は食べ物の消化吸収を助ける役割を果たします。膵臓を取り除いた後には、膵液がちゃんと食べ物に混ざるように、膵管と小腸(空腸)をつなぎ合わせる必要があります。このため膵管と小腸を糸で縫い合わせます。

手術の後で、膵管と小腸を縫い合わせた部分のくっつきが悪く膵液が漏れ出ることがあります。これを膵液瘻(すいえきろう)と言います。膵液は体を溶かすことがあります。血管の壁を溶かして出血の原因にもなります。膵液瘻が発生した場合は、膵液を体に溜まり続けたままにしておくことは危険です。このために膵液を体の外に抜くための管を挿入することもあります。

膵液瘻は程度によりますが、治るまでに時間がかかることがあります。十分に治るまで管は体の中に入れておき徐々に短くするなどの方法をとります。

術後腹腔内出血(じゅつごふくくうないしゅっけつ)

膵液瘻(すいえきろう)や腹腔内に感染を起こした後に炎症の影響で血管が破れて出血することがあります。手術の後に数本管が入っているのはこのような出血を見逃さないためです。出血が激しい場合は緊急でカテーテル治療による止血術を行ったり、場合によっては開腹手術を行う必要があります。

創部感染(そうぶかんせん)

創部(そうぶ)とは手術で切った傷のことです。手術ではお腹を切開します。手術中から抗菌薬抗生物質)を使用して感染の予防に努めていますが、創部についた細菌が増殖して感染を起こすことがあります。

創部感染が起こると、傷を切り開いたりしてうみ)を体の外に出す必要があるので、早めに抜糸をすることがあります。創部感染があっても、手術後の経過で体調が回復して栄養状態が改善されれば傷口に肉芽(にくげ)が盛り上がってきて傷が閉じます。創部感染は、患者さんから見やすい場所で起きる合併症なので心配になることもあると思いますが、一日一日、少しずつよくなっていきます。

胆管炎(たんかんえん)

胆のうがんでは胆のうとともに胆管を切除します。胆管を切除した後に小腸(空腸)と胆管を繋ぎ合わせる必要があります。細菌が多く存在する腸液が胆管に逆流して胆管に炎症が発生することがあります。

胆汁漏(たんじゅうろう)

胆のうを摘出するときには胆管を同時に摘出します。胆管を小腸につなげる作業が必要になります。胆管と小腸をつないだときに胆管から胆汁が漏れることがあります。これを胆汁漏といいます。

胆汁は刺激性の強い物質なので強い腹痛の原因になります。胆汁漏が原因でおきる腹膜炎を胆汁性腹膜炎といいます。胆汁漏がわかったときにはまず胆汁を体の外に出す管を挿入し胆汁性腹膜炎を改善するようにします。

胃排泄遅延(いはいせつちえん)

胆のうがんがかなり広がっている場合には胆のう以外にも膵臓の一部を切除する必要があります。

膵臓の一部は膵頭十二指腸切除術という方法で切除します。膵頭十二指腸切除術では胃の一部を同時に切除します。手術の後には、胃の動きが悪くなり、胃液や食物が胃の中に長く留まってしまうことがあります。これを胃排泄遅延と言います。

胃の内容物が留まり続けると気分が悪くなったり嘔吐の原因になります。胃排泄遅延のはっきりとした原因はまだ不明な部分がありますが、下記のようなものが原因として考えられています。

  • 十二指腸切除に伴い胃の運動を促す消化管ホルモンが減少する 
  • 手術中にいくつか血管を切離しなければならないので、胃の血流が悪くなる
  • 胃を切除する際に同時に迷走神経を切離する
  • 胃の形が変わる

胃排泄遅延の程度がひどい場合は一度食事を止めて胃を休めることが必要になります。程度によっては入院が必要になることもあります。

縫合不全(ほうごうふぜん)

縫合不全とは、手術で縫い合わせたところが十分くっつかず、隙間ができてしまうことです。

胆のうがんで十二指腸や膵臓の一部とともに切除した後は小腸(空腸)と胆管、膵臓、残った胃をつなぎあわせることが必要になります。胃と空腸の縫合がうまくいかないと、食べたものや胃液などの消化液が繋ぎ合わせた場所からお腹の中に漏れ出ることがあります。

消化液などが漏れることで、腹膜炎という危険な状態に陥ることがあります。縫合不全が見つかった場合は消化液を体の外に出す(ドレナージする)ための管を挿入して自然に閉じるのを待ちます。

腸閉塞(ちょうへいそく)

腹部の手術を行うとある程度の確率で腸が動かなくなる腸閉塞という合併症が発生します。腸閉塞にはいくつかの分類があります。

手術の後に起こるのは麻痺性腸閉塞が多いです。手術による影響が腸管に及び、腸が動きを止めてしまうことが原因になります。一番危険な腸閉塞は絞扼性腸閉塞です。絞扼性腸閉塞とは腸がねじれて腸管への血流がなくなり腸が壊死(えし)する危険性のある腸閉塞です。この2つの腸閉塞を手術後に見分けることが重要です。このために医師は術後に腹部の診察を繰り返し行い適宜レントゲン撮影などを行うのです。

肝不全(かんふぜん)

肝不全は肝臓が機能しなくなることです。胆のうがんでもがんの広がりが大きいときには広範囲の肝臓を切除しなければならないこともあります。

手術の前には手術後の肝臓の機能を推定して臨みますが手術後に思ったより肝臓の機能が落ち込んでしまうことがあります。肝動脈に血の塊(血栓)ができてしまったりすることが原因のこともあります。肝臓の機能の落ち込みが大きい場合には黄疸、脳症(意識障害)、腹水などの症状が現れることがあります。このような状態を肝不全といいます。肝不全が起こることはまれと考えられていますが、命に影響を及ぼすことがあります。

門脈閉塞・門脈圧亢進とは?

門脈は腸で吸収した栄養を肝臓に運ぶための血管です。胆のうがんを取り除くために門脈をがんと共に切除することがあります。門脈の一部を切除した場合は切除した部分と部分を繋ぎ合わせて門脈に再び流れるようにしなければなりません。

門脈をつなぎ合わせた後に門脈が細くなることがあります。門脈が細くなると門脈の圧力が上昇したり、血の塊ができて門脈が詰まることがあります。門脈の圧が高い状態が続いたり門脈が閉塞すると肝臓の機能が低下したりすることもります。

門脈閉塞・門脈圧亢進症は経過観察することでよくなることもありますが、よくならない場合には血液を固まりにくくする薬を飲んだり再手術が必要になる場合があります。

胸水(きょうすい)

胸水胸腔(きょうくう)に水がたまることです。胸腔は肺を囲むスペースです。胸水は肝臓を切除した際に見られます。胆のうがんでもがんの広がりが大きいときには肝切除が必要になります。

肝臓は腹部の臓器では胸に近い位置にあります。肝臓の手術では肝臓の右側を手術のために剥がしてくる操作などが胸水の発生に影響していると考えられています。手術後の胸水は時間とともに少なくなっていきます。胸水が多い場合には呼吸に影響する可能性があるので胸に針を刺して胸水を抜く場合があります。

参照:日本消化器外科学会誌 1993;26:51-55

腹水(ふくすい)

手術後にお腹に水が溜まることがあります。お腹に溜まる水を腹水といいます。手術後の腹水は肝臓の機能が低下していることなどを原因として起こります。

胆のうがんが進行していると肝臓を同時に切除する必要があります。肝臓を切り取ると肝臓の機能が低下します。

腹水がたまるとお腹が張って苦しく感じるかもしれません。

腹水は手術後に体の状態がよくなるにしたがって減っていきます。溜まっている腹水を尿として出すために利尿剤を使用することもあります。腹水の量があまりにも多いときにはお腹に針を刺して腹水を直接抜いたりもします。

深部静脈血栓症、肺梗塞

深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)は、足などの静脈の中に血栓ができることです。血栓は血の塊のことです。

同じ姿勢で長時間過ごすと足などの血液の流れが滞り、血栓ができやすくなることが知られています。手術中や手術後は患者さんの姿勢が変わらないことが多いので血栓ができやすいです。飛行機などで同じ姿勢を継続することで血栓ができるエコノミークラス症候群も同じ現象です。

血栓ができるだけでは大きな問題にならないこともあります。しかし血液の塊が体を流れていくと、肺の血管に詰まる肺塞栓症(はいそくせんしょう)や肺梗塞(はいこうそく)を起こし、致死的な状態に陥ることがあります。深部静脈血栓症を予防するために施設によっては血液を固まりにくくする薬を使用したり、機械を使い足を持続的にマッサージすることもあります。手術後には許可の出ている範囲内で体を動かすことが大事です。

せん妄

せん妄譫妄、せんもう)とは、軽度から中等度の意識混濁に幻覚、妄想、興奮などの様々な精神症状を伴うものとされています。例として以下のような症状があります。

  • 話しかけても反応が通常より悪い
  • 見えないものが見えるとの発言がある
  • 妄想をしていると思われる発言が繰り返される
  • 異常に興奮している

せん妄は高齢者に起こりやすく、血液中の電解質のバランスが崩れることなども原因の一つです。環境の問題としては手術などで身体にストレスが加わり環境が大きく変わることなども原因の一つです。

せん妄には薬物療法に効果があります。あまりにもせん妄の状態が重度で患者さんや身の回りの人の身体に危険が及ぶと判断されたときには、やむをえず身動きができないようにすることがあります。これは手術後でドレーンなどの管が身体に入っているのを抜いたりすることを予防するためです。

せん妄は一時的なことが多く、身体の回復に伴い改善することが多いですが、頻繁にせん妄状態に陥るときには精神科の医師によって専門的な治療を開始されることがあります。

13. 胆のうがんの抗がん剤治療を使う時は?

胆のうがんが遠隔転移している場合や周りの大きく広がって手術ができない場合は抗がん剤で治療します。遠隔転移とは領域リンパ節以外のリンパ節への転移や他の臓器への転移のことです。

GC療法とは?

GC療法はゲムシタビン(Gemcitabine)とシスプラチン(Cisplatin)の2種類の抗がん剤を使う治療です。ゲムシタビンとシスプラチンの頭文字をとってGC療法と呼ばれることがあります。

GC療法の効果は?

GC療法の効果を試した研究を紹介します。

局所で進行したまたは遠隔転移のある胆道がんの人に対して、GC療法とゲムシタビン単独療法の効果が比較されました。対象となった人はランダムにGC療法、ゲムシタビン単独療法の2つのグループに分けて治療がされました。評価の項目は生存期間、進行までの期間、治療による副作用です。結果は表のとおりになりました。

  GC療法 ゲムシタビン単独療法
生存期間 11.7ヵ月 8.1ヵ月
進行までの期間 8.0ヵ月 5.0ヵ月

表の数字は中央値です。生存期間の中央値は該当者のうち半分が生存していた期間という意味です。

GC療法がゲムシタビン単独療法よりも生存期間、進行までの期間が長かったという結果でした。この結果から胆道がんに対する抗がん剤治療はGC療法が第一選択として考えられています。胆のうがんは胆道がんの一つです。胆のうがんでも、抗がん剤治療としてGC療法が用いられます。

参照:N Eng J Med.2010;362:1273-81

GC療法の方法は?

GC療法のスケジュールの例を示します。

1 8 21
ゲムシタビン 1000mg/m2      
シスプラチン 25mg/m2      

投与量は体表面積を基準にして決められます。体表面積は身長と体重から計算されます。

上記のスケジュールを3週間(21日)を1サイクルとして繰り返していきます。

この他に副作用対策として一般的に5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め)副腎皮質ホルモンなどが併用されます。また治療中は抗がん剤の効果、副作用、腎臓などの機能や骨髄機能などを確認します。

S-1単独療法とは?

S-1単独療法はS-1という薬の一剤による抗がん剤治療です。S-1は内服薬(飲み薬)です。成分名で言うとテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤です。S-1の一剤による抗がん剤治療で効果が確かめられています。S-1は胆道がんのほかにも膵臓がん大腸がんなどの治療で用いられることがあります。

S-1単独療法の効果は?

S-1単独療法の効果が確かめられた研究について紹介します。

ゲムシタビン単独療法で進行が見られた胆道がんに対してS-1療法の効果が試されました。胆のうがんは胆道がんの1つです。この研究に参加した人のうち35%が胆のうがんの人でした。

S-1療法で治療した結果、半分の人が13.5か月以上生存し、また病気が進行するまでの期間は半分の人で5.4か月以上でした。

重い副作用としては、好中球の減少(5%)、貧血(5%)が認められました。その他の副作用としては吐き気(27%)、食思不振(55%)、顔、爪などへの色素沈着(32%)が報告されました。

この研究の結果からS-1単独療法はGC療法などの抗がん剤治療に効果がなくなった場合の2つ目の治療として使われることがあります。

参考:Invest New Drugs.2012;30:708-13

S-1単独療法の方法は?

S-1は飲み薬です。通常「28日連日服用後、14日間休薬」を1サイクルとし、1サイクルを繰り返して使います。

1-28 29-42
S-1 80mg/m2 ◯(連日服用) 休薬

用量は通常、体表面積によって変更されます。体表面積1.25m2未満の人であれば80mg/日、1.25-1.5m2であれば100mg/日、1.5m2以上であれば120mg/日となります。全身の状態などによっても増減が考慮されます。副作用にはやや注意が必要で、下痢が多い人には特に注意するべきと考えられます。

GS療法とは?

GS療法はゲムシタビン(Gemcitabine)とS-1の2種類の抗がん剤を使う治療です。ゲムシタビンとS-1の頭文字をとってGS療法と言われることがあります。

GS療法の効果は?

局所で進行したまたは遠隔転移のある胆道がんの人に対してGS療法の効果が確かめられた研究があります。

遠隔転移は胆道から離れた場所に転移があるまたは領域リンパ節以外のリンパ節に転移がある場合のことです。胆のうがんは胆道がんの1つです。この研究に参加した人のうち約37%の人が胆のうがんでした。

GS療法の効果はゲムシタビン単独療法と比較されました。対象となった患者さんはランダムにそれぞれの治療法に分けられて治療が行われました。結果は表のようになりました。

  GS療法 ゲムシタビン単独療法
1年生存率 52.9% 40.0%
進行までの期間(中央値) 7.1ヵ月 4.2ヵ月

1年生存率、半分の人が進行するまでの期間はGS療法がよいという結果が得られました。入院が必要な副作用の頻度はGS療法の方が多かったと報告されています。副作用には白血球ヘモグロビン血小板の減少などがありました。

進行した胆道がんに対してはゲムシタビンとシスプラチンを併用するGC療法が最初に用いられる治療ですが、今後はGS療法との比較などが行われる可能性があります。

参照:Cancer Sci.2013;105:1211-6

GS療法の方法は?

ゲムシタビンは1日目と8日目に点滴で投与します。21日を1サイクルとして繰り返して行います。

S-1は内服薬(飲み薬)です。成分名で言うとテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤です。S-1の一剤による抗がん剤治療で効果が確かめられています。S-1は胆道がんのほかにも膵臓がん大腸がんなどの治療で用いられることがあります。

通常「14日連日服用後、7日間休薬」を1サイクルとし、1サイクルを繰り返して使います。

1 8 14 21
ゲムシタビン 1000mg/m2          
S-1 60mg/m2    

投与量は体表面積を基準にして決められます。体表面積は身長と体重から計算されます。体表面積1.25m2未満の人であれば60mg/日、1.25-1.5m2であれば80mg/日、1.5m2以上であれば100mg/日となります。

14. 胆のうがんの放射線治療は?

胆のうがん放射線療法を使う場面はいくつかあります。放射線治療の効果や副作用などを理解して選ぶことが大事です。

転移した場所に対する放射線治療

胆のうがんが進行すると転移をします。胆のうがんが転移しやすい場所は肺、肝臓、骨、リンパ節などです。転移をした場所で痛みなどの症状が現れる場合があります。痛みの症状がでやすいのが骨への転移です。骨転移による症状を緩和するには放射線治療が効果的です。

骨転移は背骨に起きることがあります。背骨の真ん中には神経が通っています。骨転移が大きくなると神経に影響することもあります。神経に影響すると麻痺などの症状がでることがあります。麻痺症状を防いだり緩和する目的でも放射線治療を使うことがあります。

手術ができない場合の一つの手段

胆のうがんを根治に導くには手術が唯一の方法だと考えられています。遠隔転移がない場合はまず手術ができるかを考えます。遠隔転移は領域リンパ節以外のリンパ節や他の臓器に転移していることです。遠隔転移がなくてもがんの広がりが大きな場合は手術ができないこともあります。

手術ができないからといってがんに手を加えないとがんが大きくなり黄疸などの様々な症状がでることがあります。そのときにはがんが周囲に与える影響を予防する目的で胆のうがんに放射線を照射して症状が出るのを予防します。

放射線治療以外には抗がん剤治療が選択肢になります。放射線治療によって期待できる効果や副作用、他の選択肢である抗がん剤治療などについてしっかりと説明を聞いた上で治療を選ぶことが大事です。

放射線治療はどうやるの?

放射線治療は、回数を分けて行われます。回数を分ける目的は正常な細胞への影響を抑えることがあります。

放射線治療の分量にはGy(グレイ)という単位が用いられます。Gyは吸収線量の単位です。吸収線量とは、放射線を照射された物質が単位質量あたりで吸収するエネルギー量を指します。2011年の原発事故以来、Sv(シーベルト)という単位がよく報道にも現れるようになりました。Svは線量当量・等価線量・実効線量などの単位です。1GyのX線は1Svに相当します。

骨への転移などに対しては1回3Gyを10回行うなどの方法が一般的です。転移のある場所や状況を踏まえて量や回数などを調整します。

一方で手術ができない場合に関しては1回2Gyの放射線を20-25回の回数で行うことが一般的です。骨と異なり腹部に放射線を照射する場合は気をつける副作用などが多いので慎重に行われるケースが多いです。

参照:Cancer.1985;55:1468-72

放射線治療の副作用は?

放射線治療の副作用はすぐに現れる早期障害と時間がたってから現れる晩期障害があります。

  • 早期障害
    • 吐き気 
    • 食思不振 
    • 胸やけ 
    • 皮膚が赤くなったり、軽い痛みが出る
  • 晩期障害
    • 皮膚が固くなる 
    • 胃や腸に潰瘍ができて出血することがある 
    • 胆管炎

放射線治療にもいくつか注意が必要な副作用があります。副作用かなと思ったら医師に相談してみてください。副作用がおきてはいない場合もありますが、不安を解消する意味でも大事なことです。