たんどうがん
胆道がん
胆道に発生する悪性腫瘍(胆管がん、胆のうがん、乳頭部がん)の総称
6人の医師がチェック 167回の改訂 最終更新: 2022.10.17

胆道がんの末期・ステージIV:末期の症状や生活で気を付けるべきこと

胆道がんは進行の早いがんの一つです。進行していたり転移がある状態で発見されることもあります。胆道がんが進行した場合の症状などについて解説します。

1. 胆道がんは転移する?

がんは大きくなる過程で、血管やリンパ管の中に入りこんで行きます。がんは血液やリンパ液の流れに乗り、もともと発生した場所から離れた位置で増殖することがあります。これを転移といいます。転移には種類があります。領域リンパ節転移遠隔転移です。

2. 領域リンパ節転移とは?

がんがリンパ節に転移することをリンパ節転移といいます。リンパ節は場所によって2種類に分けられます。領域リンパ節とそれ以外のリンパ節です。領域リンパ節転移は領域リンパ節への転移のことを指します。

リンパ節転移とは?

がん細胞がリンパ管の中に入ると、リンパ液の流れに乗って他の場所へ移動を始めます。リンパ管は胆道の周りに分布していて、胆道からリンパ液が出て行く通り道になっています。リンパ管がつながる先にはリンパ節という関所のようなものがあります。がん細胞がリンパ節に定着して増殖したものがリンパ節転移です。

領域リンパ節とは?

リンパ節は身体の至るところにあります。胆道の周りのリンパ節を領域リンパ節といいます。領域リンパ節に転移があっても、領域リンパ節以外のリンパ節や他の臓器に転移がなければ、手術により根治できる可能性があります。根治とは体からがんをなくすことです。

3. 遠隔転移とは?

がんが領域リンパ節以外のリンパ節や他の臓器に定着し増殖することを遠隔転移といいます。領域リンパ節への転移は遠隔転移ではありません。

領域リンパ節以外への転移は、手術で摘出しても根治を望むことは難しいです。それは、領域リンパ節以外に転移があると、ほかの場所にもまだ目には見えない小さな転移が全身に散らばっている可能性が大きいと考えられるからです。

この場合は全身をカバーできる治療を選ぶほうが理にかなっています。全身をカバーできる治療は抗がん剤治療です。抗がん剤は血液を介して全身に行き渡ります。

4. 胆道がんが転移しやすいのはどこ?

転移はがんのもつ特徴の一つです。がんの種類によって転移しやすい臓器は異なります。例えば乳がん前立腺がんは骨に転移をしやすいことが知られています。

胆道がんで転移がおきやすい臓器はリンパ節、肺、骨、肝臓、腹膜などとされています。

原発巣と転移巣とは?

胆道がんが肺に転移した場合には「胆道がんの肺転移」といいます。この場合は肺がんとはいいません。がんがもともと発生した胆道にあるがんを原発巣(げんぱつそう)、転移してできた肺のがんを転移巣(てんいそう)とも言います。

胆道がんの人で遠隔転移がある場合には、原発巣の切除は原則として考えません。遠隔転移がある時点で他の場所にも目に見えないがん細胞が存在している可能性が高いので、全身をカバーできる抗がん剤による治療のほうが理にかなっているという考え方のためです。

5. 胆道がんは肺に転移する?

肺は胆道がんが転移しやすい臓器の一つです。

肺に転移をしても転移したがんが小さなうちには症状はないことが多いです。

どんなときに肺転移が指摘されるのか?

肺転移を発見されるタイミングは主に2つあります。1つは胆道がんと診断された時点で肺に転移がある場合です。もう1つは胆道がんに対して手術をして、その後肺に新しく発生した転移が見つかる場合です。

肺転移に対する治療は?

胆道がんの肺転移に対する治療は、抗がん剤治療が中心になります。遠隔転移がある場合は全身にがん細胞が広がっていると考えて全身をカバーできる治療が優先されます。胆道がんで全身をカバーする治療は抗がん剤治療になります。

手術で肺転移を取り除くことは一般的ではありません。手術で摘出が可能な場合は考慮されることはありますが比較的まれです。

参考文献:片岡瑛子, 他, 異時性両側肺転移を切除した胆管癌の1例. 日本臨床外科学会誌 2014;75:3002-3005

肺転移が大きくなると症状は?

肺転移が大きくなると呼吸に影響を与えることがあります。

  • 痰(たん)
  • 息苦しさ

肺に転移したがんによる影響が出てきた時の治療としては、症状を和らげるために酸素を吸入したり呼吸をしやすくする薬を使う方法があります。

6. 胆道がんが骨に転移をしたら痛い?

胆道がんはしばしば骨に転移をすることがあります。

がんの骨転移は体幹(胴体)や体幹に近い太い骨に起こる傾向があります。骨転移の主な症状は痛みです。他には脊椎(せきつい;背骨)への転移があるとしだいに神経への影響が出てくることがあるため注意が必要です。

骨転移の痛みに対する治療は?

骨転移が原因の痛みに対しては、放射線治療が有効です。放射線治療を行い、痛みに応じて鎮痛剤を調整します。

放射線治療の効果として以下が確かめられています。

  • 痛みの緩和
  • 神経への影響の予防
  • 骨折の予防

放射線の他には骨を補強する薬(ビスフォスフォネート製剤など)を使うこともあります。

骨転移が神経に影響するとどうなる?

骨に転移したがんが進行して神経(脊髄)に影響を与えることがあります。神経への影響により現れる症状として以下があります。

  • 痺れ(しびれ)
  • 感覚が鈍くなる:知覚鈍麻(ちかくどんま)
  • 手による細かな作業ができなくなる:巧緻運動障害(こうちうんどうしょうがい)
  • 歩くのが困難になる:歩行障害
  • 便失禁、尿失禁、尿が出なくなる
  • 呼吸障害

上記の症状が全て出現するわけではありませんが、転移した場所により出現する症状の種類や程度が決まります。

神経への影響を抑えるための治療は?

がんが脊椎へ転移した場合は脊椎の中に走る神経に影響することがあります。

神経への影響を緩和するには放射線治療やステロイドの投与などが有効です。治療により症状の回避や緩和が期待できます。

7. 胆道がん末期の症状は?

「がんの末期」には明確な定義はありません。

ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活の大半をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。

胆道がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移があり、緩和的な治療が主体になってきている段階です。緩和医療に関しては肺がんの解説の中にある「緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?」で詳細に解説しています。

胆道がんの末期では肝臓や腹膜などに転移し、転移しているがんが体に影響を及ぼします。このような状況では、悪液質(あくえきしつ、カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

悪液質の症状は?

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。次のような症状が目立つようになります。

  • 常に倦怠感を感じる
  • 食欲がなくなる
  • 身体のむくみがひどくなる
  • 意識がうとうとする

胆道がんの末期では腹膜播種(ふくまくはしゅ)や栄養不足による腹水などが現れることが多いです。腹水が大量にたまると、お腹の張りが強くて満足に動くことができない状態になります。

これらの末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。

がんを治せなかったことはがんに屈したということではありません。がんは多くの人の人生の最後に訪れる自然な出来事です。

看病をする人は、患者さんの不安を少しでも取り除くために、できるだけ患者さんが過ごしやすい雰囲気を作ることも大事です。

ただそばに居てあげるだけでいいです。無理に話をする必要はないと思います。ただそばにいて「自分は一人ではない、安心だ」ということを感じさせてあげてください。

8. 胆道がんが進行すると腸閉塞が起きる?

腸閉塞は腸の中で食べ物が流れていかなくなることです。胆道がんでも進行した場合に起こることがあります。

腸閉塞とは?

腸閉塞には種類があります。

胆道がんが進行して現れる腸閉塞は、腹膜播種などで腸の中が細くなり食べ物の流れが悪くなることが原因のことが多いです。腹膜播種とは、お腹の中のスペースである腹腔にがん細胞が広がることです。

腸閉塞はどんな症状がでる?

腸閉塞では腹部を中心とした症状が現れます。

  • 吐き気
  • 嘔吐
  • お腹が張った感じ
  • 腹痛

腸閉塞の治療は?

腸閉塞の治療は重症度によって変わります。

  • 食事を一度やめてみる
  • 経鼻胃管、またはイレウスチューブの挿入
  • 脱水を予防するために点滴を行う
  • 消化管の動きを良くする薬の内服や点滴
  • 改善が期待できないときには消化管ステントもしくは手術

腸閉塞の症状や状態によりますが、食事や水分の摂取を一時やめることで症状がよくなることがあるのでまず試される治療です。消化液(胃液や腸液)は食事に関係なく溜まるので胃や腸にチューブを鼻から入れて消化液を体の外に出します。

腸ががんなどの影響で詰まってしまい改善が期待できないときには、手術で消化管の流れを作り変えたり、狭くなった腸を内側から広げる治療(ステント治療)をして、食事が流れるように治療します。

9. 胆道がんでは黄疸(おうだん)が起きる?

胆道がんで黄疸(おうだん)が出ることが多いです。胆道がんが発見されるきっかけが黄疸であることも珍しくはありません。

皮膚が黄色くなる黄疸とは?

黄疸とは皮膚や眼球結膜(白眼の部分)が黄色く染まる状態のことです。ビリルビンという物質が血液中で多くなることが原因です。見た目で黄疸と診断されるのはある程度ビリルビンが増加してからになります。軽度の黄疸は見た目では気付きにくいですが、尿の色が濃くなったりすることがあります。黄疸は他にも症状を伴います。

  • 皮膚や眼球結膜が黄色くなる
  • 体がだるく感じる(全身倦怠感、疲労感) 
  • 皮膚がかゆくなる 
  • 風邪のような症状 
  • 微熱
  • 尿の色が黄色くなる

黄疸の原因はやや複雑です。次に説明します。

黄疸の原因は?

黄疸を起こすビリルビンについてまず説明します。黄疸はビリルビンが血液中で多くなることで現れます。

ビリルビンは常に体内で生成されています。古くなり役目を終えた赤血球を破壊するときにビリルビンが発生します。

ビリルビンは肝臓に運ばれて体の外に出しやすいように処理されます。肝臓でビリルビンがグルクロン酸という物質とくっつく(抱合する)ことによって、体の外に排泄できる状態になります。

ビリルビンがグルクロン酸と抱合した後は、胆汁の中に入って胆道を流れていきます。胆汁は胆道を経て十二指腸に流れ、その後便として排泄されます。

肝臓や胆道に問題がない場合はビリルビンがうまく処理されるので、黄疸にはなりません。ビリルビンの処理がどこかでうまくいかないと、ビリルビンがたまり、黄疸になります。医学的には黄疸を原因によって分類します。

  • 胆汁の流れが悪いことによる黄疸:閉塞性黄疸
  • 赤血球が異常に多く破壊されることによる黄疸:溶血性黄疸
  • グルクロン酸抱合ができないことによる黄疸:肝細胞性黄疸

閉塞性黄疸(へいそくせいおうだん)

胆道にがんができて胆道の流れが悪くなったり塞がるなどすることもあります。胆汁が体の外に出せないのでビリルビンは血液の中にたまり、黄疸を生じます。これは閉塞性黄疸と言います。胆道がんでおきる黄疸の多くは閉塞性黄疸です。

溶血性黄疸(ようけつせいおうだん)

ある種の病気では溶血(ようけつ)という現象が起こり、古くなっていない赤血球が破壊されてしまいます。赤血球の破壊が多いと、ビリルビンが多く発生します。発生量が肝臓で処理できる範囲を超えてしまうと、血液中でのビリルビンの濃度が高まります。この状態が溶血性黄疸です。

肝細胞性黄疸(かんさいぼうせいおうだん)

肝臓の機能が低下している場合に、ビリルビンの処理が行なえず、血液中にビリルビンがたまってしまうことがあります。これを肝細胞性黄疸といいます。

黄疸が出たら胆道がん?

胆道がん以外にもさまざまな原因で黄疸が現れます。中には生まれつき黄疸が出る体質の人もいます。ジルベール症候群のように、黄疸が出ても治療は不要とされる場合もあります。

「黄疸が出たから胆道がんだろう」と単純に考えることはできません。胆道がんを診断された人で新たに黄疸が出た場合、がんが大きくなっている可能性もありますが、進行度と黄疸は必ずしも対応しません。

10. 黄疸が出たら余命は?

胆道がんによる黄疸が発生する場合は2つあります。

  • 胆道がんが大きくなり胆汁の流れを妨げる(閉塞性黄疸)
  • 胆道がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われる(肝細胞性黄疸)

この2つについてそれぞれ解説します。

胆道がんが大きくなり胆汁の流れを妨げた場合

胆道がんの多くは黄疸をきっかけにして見つかることが多いです。がんが大きくなり、胆汁の流れを妨げると黄疸が出現します。がんが原因で閉塞性黄疸を起こします。閉塞性黄疸は胆道がんがほかの臓器に転移していなくても起こります。

黄疸で発見されたからといって進行して手の施しようがないかというと必ずしもそうではありません。遠隔転移がなければ、胆道がんを手術によって切除することも可能です。遠隔転移とは領域リンパ節以外のリンパ節転移や胆道以外の臓器への転移のことです。

余命は手術によってがんを取り切れるかにかかってきます。手術後の余命を推測することは困難です。

閉塞性黄疸自体は緊急の対処を必要とします。黄疸で胆道がんが発見されると、落ち着いて考える暇もないことがあります。

直ちにいくつもの検査や黄疸に対する処置が行われたりして、状況を正確に把握するのが難しい所があると思います。しかしながら、黄疸は必ずしも手術できない状態を意味するわけではありません。まずご自身の状況を落ち着いてしっかりと把握することが大事です。

胆道がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われた場合

胆道がんが転移しやすい臓器の一つが肝臓です。黄疸は肝臓の機能が低下すると出現することがあります。胆道がんが肝臓に転移して肝臓の機能が大幅に失われ黄疸が出現した場合は、ステージIVのなかでも特に深刻な状態と考えられます。余命は予測しにくいものですが、楽観はできません。

肝臓の機能が低下していると抗がん剤による治療は制限されます。治療の目的は症状を少しでも軽くすることに重点が置かれます。

胆道がんにより肝臓の機能が低下しているときは、全身の状態がかなり落ち込んでいる可能性があります。生活時間のほとんどはベッド上で過ごしているような状態なら、看病している方から見ても憔悴しているかもしれません。黄疸によってかゆみなどの症状も強く出ているかもしれません。しかし、適切な緩和治療によって症状を和らげることができます。緩和治療は重要です。

11. 胆道がんでは腹膜播種が起きる?腹膜播種とは?

腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは胆道がんの細胞が腹腔(ふくくう)という場所にばらまかれて増殖している状態です。腹腔というのは胃や腸などの内臓の隙間にあたる場所です。

胆道がんが進行すると腹腔に面した腹膜に転移することで腹膜播種が起きます。

12. がん性腹膜炎とは?

胆道がんが進行するとがん性腹膜炎を起こすことがあります。がん性腹膜炎はがんが進行してお腹の中にがん細胞が飛び散って(腹膜播種)、がん細胞が炎症を起こしている状態です。がん性腹膜炎により腹腔に水が溜まることがあります。

がん性腹膜炎の症状

がん性腹膜炎では、腹水によってお腹が張る、吐き気、腹痛、食思不振などの症状が現れます。がん性腹膜炎が進行すると、お腹の臓器が尿管(にょうかん)という管を圧迫することがあります。尿管は腎臓から膀胱(ぼうこう)へ尿を送り出す通り道です。尿管が塞がってしまうと尿が出なくなることがあります。

がん性腹膜炎の影響が腸に及ぶと腸の流れが悪くなり、腸閉塞の原因にもなります。腸閉塞では吐き気、嘔吐、腹痛などが症状としてみられます。

がん性腹膜炎の治療

がん性腹膜炎を治療で治すことは難しいです。症状を改善したり緩和する目的で治療をします。

たとえばがん性腹膜炎が原因で尿管が閉塞して腎不全になった場合は、腎臓に直接針を刺して尿を腎臓から抜く治療法があります。これを腎(じんろう)といいます。

腸閉塞が起きてしまった場合には、消化管の流れを改善するように消化管バイパスを作る手術や、人工肛門を作って食べ物や便の流れを良くすることを考えます。

腹水が溜まると体を動かすことも大変になります。腹水は利尿剤を使うことで症状が少し良くなることもありますが、根本的な解決ではありません。腹水を抜くと症状は一時的に改善しますが、またすぐに腹水が溜まります。体に必要な物質も腹水の中に失われていきます。腹水を抜くのは身体の状態と症状のバランスを考えながら行います。

13. 胆道がんの症状は腹水?

胆道がんが進行したときに出る症状に腹水があります。腹水は腹腔に水が溜まることです。腹水によりお腹が張って体を動かしにくくなったり苦しさがでることがあります。

腹水はなぜ現れる?

腹水の原因はいくつかあります。

胆道がんが進行するとがんがお腹の中に飛び散る(播種する)ことがあります。お腹の中にがんが播種するとがんが炎症を起こし腹水を出すようになります。

胆道がんが進行すると食欲もなくなり栄養状態が悪化していきます。栄養状態が悪化すると体の中からアルブミンが減っていきます。アルブミンは血管内に水分を保つ働きがあります。アルブミンが減ってくると血管内から水分が出ていきます。血管内から出ていった水分の行く先は腹腔です。腹腔は大きなスペースなので、ここに水が溜まっていきます。

腹水の治療は?

腹水を治すための有力な治療法はありません。利尿剤を内服することで腹水を減らすことが期待できます。症状が強くなれば腹水を抜くことも考慮されますが、症状が緩和されるのは一時的です。腹水でお腹が張る症状などに対しては麻薬性鎮痛剤などによって症状の緩和が可能な場合があります。

腹水が出たら余命は?

腹水が出るのは初期の症状ではありません。腹水が出ていたら、かなり深刻な状態になっている可能性があります。

余命について正確なことは、全身の健康状態やその他の臓器への進行具合などがひとりひとり異なるために一概には言えません。

確実に言えることとして、その日その日を大事にすることをお勧めします。腹水がたまる状況は体力もかなり落ちている状況です。食欲もかなり落ち込み動くこともままならない人もいます。

少しでも有意義に過ごせるようにご家族、医療者ともに力を合わせて取り組んでみてください。何も特別なことをする必要はありません。少しだけでもよいので今まで話せなかったことやできなかったことなどをしてみることを提案します。

14. モルヒネは使っても大丈夫?

胆道がんは治療中に痛みがでることがあります。

痛みを和らげるためにモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を使用します。モルヒネは肝臓の機能が落ちているときには慎重に使うべきとの意見があります。胆道がんの患者さんは肝臓の機能が落ちていることがあるので肝臓の機能などを考えながら治療をしていきます。

モルヒネに似たオピオイド鎮痛薬(オキシコドン、フェンタニルなど)も選択肢となります。

オピオイド以外の痛み止めとは?

がんの痛みを抑える治療には、NSAIDsやアセトアミノフェンといった鎮痛薬が検討されることもあります。NSAIDsやアセトアミノフェンは一般的な「痛み止め」の薬です。薬局やドラッグストアで処方箋なしで買える薬にも使われています。これらの薬は鎮痛効果に限界があるので、中等度以上の強さの痛みにはオピオイド鎮痛薬の使用が推奨されています。

オピオイドを使う状況は?

胆道がんが全身に転移して強い痛みが出ている場合の多くは、オピオイドを使って痛みをコントロールできます。胆道がんが進行すると骨などに転移をすることがあります。骨に転移をすると痛みで生活が不自由になったりもします。痛みを和らげることで生活がしやすくなります。

オピオイドで注意が必要な点は?

オピオイドは肝臓で代謝されます。肝臓の機能が低下した状態ではオピオイドの血液中での濃度が想定より高くなってしまうことも有り得ます。

またオピオイドに共通した副作用である便秘が起きることもあります。痛みを抑えることと副作用のバランスを見ながら慎重に投与量などを決めます。

15. 症状で余命はわかる?

胆道がんの症状から余命を推定することは難しいです。症状は患者さん個人個人で感じ方に違いがあるので、客観的に評価することが困難です。余命はステージを根拠に推定するほうが、信頼性は高いといえます。症状はステージと必ずしも対応しません。

ステージとは?その目的は?

ステージとはがんの進行度を分類したものです。胆道がんに限らず、がんが発見されるとCTMRIなどの画像検査を用いてステージを定めることが普通です。ステージを定める最大の理由は最適な治療選択をするためですが、ステージから余命をある程度推定することもできます。

ステージはステージIからステージIVに分類されます。さらに細かい分類をすることもあります。同じステージでも患者さんそれぞれの体力、がんの状態などが違うため、余命を正確に言い当てることはできません。

ステージIVでも状態に違いがある

ステージによる余命の推定は正確なのでしょうか。

胆道がんのうち胆のうがんを例にして考えます。胆のうがんの分類ではステージIVbが最も進行した状態です。胆のうがんのステージIVbの定義は遠隔転移があることです。遠隔転移は領域リンパ節以外のリンパ節に転移があるまたは他の臓器に転移がある状態です。

同じステージIVbでも、人によってさまざまな状況があります。例を挙げてみましょう。

  • 例1
    • 胆のうがんは周りに浸潤していない
    • 領域リンパ節に転移がある
    • 肝臓にも転移がある
  • 例2
    • 胆のうがんは大血管の周りまで浸潤している
    • 領域リンパ節以外のリンパ節にも転移がある
    • 肝臓には複数の転移、肺にも転移がある

やや極端な例を提示しました。ステージIVbでも例1と例2では大きく異なります。余命は推定しにくいとはいえ、例1と例2で違いがあることが予想できます。

余命の推定は気にしなくていい?

胆道がんと言われると余命が気になるのは当然のことです。主治医からの説明やインターネットなどでは厳しい数字を目にすることもあると思います。しかし統計上の数字はいろいろな条件をひとまとめにした結果でしかありません。個人個人で体もがんの状態も異なります。余命を正確に言い当てることは誰にもできません。

胆道がんと診断されたら、受け止めることは難しいかもしれません。時間をかけてもいいと思います。余命は目安程度に思って、今の状況でできる一番いいことは何かを考えることが大切です。

16. 胆道がん末期の食事で気をつけることは?

がんが進行すると食欲も低下することが多いです。できるだけ食事から栄養を摂取する方が望ましいのですが難しいこともあります。

食べ物で気をつけたいこと

刺激の強いものはできるだけ避けたほうがよいと思います。口の中などがあれていることも多いので刺激によって食事がかえってすすまないことがあります。味付け以外にも食事の温度は大事です。

  • 極端に熱いものや冷たいものは避ける 
  • 塩分、刺激物は抑えめに

病気になって以前好んでいた味付けが適しているとは限らないと思います。少し薄めに味をつけて様子を見ながら調味料を加える方法がよいと思います。

食事の工夫

食欲がわかないときは、食べられるものがあれば食べ、食欲を出す工夫も試してみると効果が期待できます。

  • 食べ物の工夫
    • 餅、おはぎなど、もち米を利用したものは少しでもエネルギーは大きい 
    • 麺類
    • 香辛料が苦にならないならば香辛料を多めにしてみる
  • 食べ方の工夫
    • 目の前に少しずつ出していくことも良い
    • 定時ではなく食べたいときに食べる

食べたいものがあればそれを食べるのがいいと思います。もし食べたいものが思いつかないときには上にあげたものを試してみてください。好きな香辛料があるならば刺激にならない程度で香辛料を使ってみるのもいいと思います。

吐き気や嘔吐のときの工夫

吐き気・嘔吐があるときは、冷たいものやあっさりしたもので、なるべくさらっとした食感のものが食べやすいです。水分から始めてみたりする順番の工夫で食べられることもあります。

  • 水分の多い野菜や果物
  • プリン、ゼリー
  • シャーベット
  • 麺類

食事は大事ですが無理はしないことです。吐き気が強いのに無理に食事をして嘔吐してしまってはいっそうつらくなります。食欲がないときは水分だけを摂取するなどでもいいでしょう。

便秘が続くときの工夫

がんが進行すると便秘の症状が出る人が多くなります。便秘の原因は色々あります。オピオイド鎮痛薬の副作用が原因になることもあり、便秘を完全に抑えることは難しい場合もあります。便秘が続くときの食事で気を付けるべきなのは、水分や食物繊維を多めにすることです。食事だけで便秘を改善することは難しいので、食事内容に気を付けるのと合わせて、医師に相談して便を柔らかくする薬などを処方してもらうことも有効です。

下痢が続く時の工夫

下痢が続く時もあります。手術で腸の動きを制御する神経をがんとともに切除している場合に起きることがある症状です。下痢のときには水分がかなり失われることがあるので水分の摂取は積極的にしていくことが大事です。

水分が摂れないときには点滴などで水分を補うことも可能です。無理せずに医師に相談してみることが大事です。

食事を補う医薬品もある

食事で不足する栄養などを補う方法として医薬品の栄養剤があります。

がんが進行するとどうしても食事を摂取することが難しくなったり食事の量が減る時期がきます。体を維持するにはバランスがとれた適切なカロリーの摂取が大事ですが、どうしても難しい時には医薬品の栄養剤を使うことは良い方法です。

医薬品の栄養剤はジュースのようなものでカロリーなどを摂取しやすいように作られています。食事の量が少ないなと感じる時にはこのような医薬品の利用も検討してみてください。